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公立小学校での英語活動に関する一考察

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公立小学校での英語活動に関する一考察

著者 酒井 藤恵

雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学

巻 46

ページ 197‑203

発行年 2006

出版者 東京家政大学

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009202/

(2)

公立小学校での英語活動に関する一考察

  酒井 藤恵

(平成17年10月6日受理)

Some Problems of English Activities at  Public Elementary Schools in Japan

   SAKAI, Fujie

(Received on October 6,2005)

キーワード:英語活動,総合的な学習の時間,国際理解

Key words:English Activities, Period of Integrated Study, Intercultural Understanding

はじめに

 公立小学校での英語活動の是非を問う時期は今では過 ぎた感すらある.早期英語教育は,「過熱」したという よりも,「習慣化」したというほうが事態をより正確に 表していると思われる]).

 周知の通り,現在,公立小学校で実施されている英語 活動は,2002年度から小・中学校の新学習指導要領によ り創設された「総合的な学習の時間(以下,総合学習)」

における「国際理解教育」の一環としての「外国語会話 等」という枠組で実施可能となったものである.今後,

この「英語活動」が正式な「英語科」になる可能性が色 濃くなりつつある.

 公立小学校での英語活動,ひいては英語教科化の是非 に関しては,将来の小学校「英語科」が現段階で日本全 国の公立小学校で平均的に実施されている英語活動の延 長線上にあるのならば,教科化には慎重であるべきとい う立場を筆者は取りたい.日本全国の公立小学校で平均 的に実施されている英語活動とはどういうものか,その 共通特徴を抽出するのは,現時点では極めて困難である と言わざるを得ない.それは,「総合学習」に外国語会 話(ほとんどの場合,英会話)を取り入れる場合,その 実施方法などは各学校・各地方自治体に全面的に任され ており,したがって,「外国語会話等」の中身は,多種 多様となっているからである.これは,小学校段階にお ける英語教育の目的が設定されていないことによると考

えられる.文部科学省は「全国的には,内容や方法に非 常にばらっきがある.平均化すると実態が見えにくいの で,時間数などで類型化して到達度や満足度を分析する 必要がある.」2)という報告をしている.小学校での英 語教育は,時代の要請,教育界・産業界の要請,子ども を持っ親の期待などの後押しにより,もはや止めること のできない大きなうねりとなっているようである.今後 の小学校での英語教科化が,日本の未来を担う子どもた ちにとって不利益とならないよう,また,日本の望まし い言語教育政策となるよう,今後,十分な議論がなされ るべきであろう.筆者は様々な問題点が少しずっでも改 善の方向に向かうならば,教科化はやぶさかではない.

 本稿ではまず,現在行われている小学校での英語活動 にっいて,その諸特徴を概観する.さらに小学校での英 語活動における問題点を指摘し,英語科になる場合には 現行の活動のどのような点を改めたらよいのか,筆者の 考えを提示したい.

1 公立小学校での「英語活動」の現状

英語英文学科

1.1 「総合学習」について

 新学習指導要領3)の第1章総則第3に「総合学習」の 時間の取り扱いとして次の記述がある.

1 総合的な学習の時間においては,各学校は,地域や  学校,児童の実態等に応じて,横断的・総合的な学習  や児童の興味・関心等に基づく学習など創意工夫を生  かした教育活動を行うものとする.

2 総合的な学習の時間においては,次のようなねらい  をもって指導を行うものとする.

(3)

酒井 藤恵

(1)自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的   に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育   てること.

(2)学び方やものの考え方を身に付け,問題の解決や  探究活動に主体的,創造的に取り組む態度を育て,

  自己の生き方を考えることができるようにすること.

(3)各教科,道徳及び特別活動で身に付けた知識や技  能等を相互に関連付け,学習や生活において生かし,

  それらが総合的に働くようにすること.

3 各学校においては,1及び2に示す趣旨及びねらい を踏まえ,総合的な学習の時間の目標及び内容を定め 例えば国際理解,情報,環境,福祉・健康などの横断

が行われるようにすること.

 (下線は筆者による)

 表1は旧学習指導要領と新学習指導要領の授業時間数 の比較である.

表1

旧・新学習指導要領における,小学校教育課程の各教科,及び,

道徳,特別活動,並びに総合的な学習の時間の授業時数の比較

的・総合的な課題,児童の興味・関心に基づく課題,

地域や学校の特色に応じた課題などにっいて,学校の 実態に応じた学習活動を行うものとする.

4 各学校においては,学校における全教育活動との関 連の下に,目標及び内容,育てようとする資質や能力 及び態度,学習活動,指導方法や指導体制,学習の評 価の計画などを示す総合的な学習の時間の全体計画を 作成するものとする.

5 各学校における総合的な学習の時間の名称にっいて は,各学校において適切に定めるものとする.

6 総合的な学習の時間の学習活動を行うに当たっては,

次の事項に配慮するものとする.

(1)目標及び内容に基づき,児童の学習状況に応じて  教師が適切な指導を行うこと.

② 自然体験やボランティア活動などの社会体験,観  察・実験,見学や調査,発表や討論,ものづくりや  生産活動など体験的な学習,問題解決的な学習を積  極的に取り入れること.

(3)グループ学習や異年齢集団による学習などの多様   な学習形態,地域の人々の協力も得っっ全教師が一  体となって指導に当たるなどの指導体制について工  夫すること.

(4)学校図書館の活用,他の学校との連携,公民館,

  図書館,博物館等の社会教育施設や社会教育関係団  体等の各種団体との連携,地域の教材や学習環境の  積極的な活用などにっいて工夫すること.

⑤ 国際理解に関する学習の一環としての外国語会話 等を行うときは,学校の実態等に応じ,児童が外国 語に触れたり,外国の生活や文化などに慣れ親しん だりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習

学年

@  教科 1年 2年 3年 4年 5年 6年 合計

306 315 280 280 210 210 1601 国語 旧

@    新 272 280 235 235 180 175 1377 105 105 105 105 420 社会 旧

@    新

70 85 90 100 345

136 175 175 175 175 175 1011 算数 旧

@    新 114 155 150 150 150 150 869 理科 旧

@    新

105 105 105 105 420

70 90 95 95 350

102 105 207

生活 旧

@    新 102 105 207

68 70 70 70 70 70 418

音楽 旧

@    新 68 70 60 60 50 50 358

68 70 70 70 70 70 418

図工 旧

@    新 68 70 60 60 50 50 358

70 70 140

家庭 旧

@    新

60 55 115

102 105 105 105 105 105 627 体育 旧

@    新 90 90 90 90 90 90 540

34 35 35 35 35 35 209

道徳 旧

@    新 34 35 35 35 35 35 209

34 35 35 70 70 70 314

特活 旧

@    新 34 35 35 35 35 35 209

総学 旧

@    新

105 105 110 110 430 850 910 980 1015 1015 1015 5785 総時数旧

@    新 782 840 910 945 945 945 5367

(標準の授業時数の1単位時間は,45分とする.)

 新学習指導要領では,ほとんどの科目の授業時間数が 旧学習指導要領に比べ10数パーセント減となっている.

その分,「総合学習」の総時間は430時間が確保されてい る.この「総合学習」の中の「国際理解教育」の一環と して「外国語会話等」を行う可能性が示され,多くの小 学校で英語活動・英語学習への取り組みが始まったので

ある.

 「小学校英語活動実施状況調査」によると,「総合学習」

で英語活動を実施している学校の割合は72.6%(3年生 から6年生までの平均)で,前年度の69.275%を上回っ ている.「総合学習」以外,特別活動などの時間を利用 して英語活動を行っている小学校は92.1%で前年度の 88.3%を上回っている4).この調査によると,9割以上

(4)

の学校が英語活動を行っていることになるが,その実施 形態,実施回数,指導者,教材などは,各学校・各地方 自治体によってかなり異なっている.例えば,文化祭で 一年に一度英語に触れる場合も,外国人教師が学期に一 回あるいは数回教えに来る場合も5),毎週1,2時間定 期的に時間割に組み込んで教えている場合もあり,英語 活動の実態は多種多様である.

 「総合学習」は本来,横断教科的な性格を有し,他教 科と並列には扱えないもの,とその特異性を売り物にし てきた.しかし,新指導要領施行から数年経た今,指導 内容を選定する判断力や秀逸な指導力を持っ教師でなけ れば学習効果は高められないことが明らかになりっっあ る.学校や教員集団により,教授内容が左右される科目 は公教育に相応しい科目とは言えないであろう.現に極 めて多様な「国際理解教育」や「英語活動」を経験した 子どもたちが中学校へ進学する状況が生まれているので

ある.

1.2 「国際理解教育」という視点

 文部科学省の調査(2003年)によると「総合学習」の 時間を用いて「国際理解教育」を実施している小学校は 全体の68.9%に至るという.しかしそこで扱われている 内容にはかなりのばらっきが認められる.例を挙げると,

数ヶ国語で挨拶の練習をしたり,幾っかの国の代表的な 料理を試食し食文化の違いを教えたり,生活習慣の違い を紹介するなど様々な試みが見受けられる.いずれも異 文化を知る手がかりとなる題材ではあるが,急激な「グ ローバル化」及び「多言語多文化化」する現代社会にお いて,上述したような授業内容が果たして真の国際理解 を促すかどうかは疑問が残る。また各学校現場における 実際問題としては,国際理解教育に精通した人材確保と 題材探しの困難さ,そして事前準備の負担などから,

「国際理解教育」を唱いながらも「英語活動」に傾倒し ていく学校が多いのが実情である.

 冨田(2004)6)は,文部科学省が2001年に発行した

『小学校英語活動実践の手引』(以下,『実践の手引』)7)

に関して,編纂にあたったメンバーのほとんどが英語教 育関係者で占められており国際理解教育の関係者や専門 家が皆無だったことを指摘し,そのために内容や指導案 には国際理解教育の視点がほとんど欠落している,と述 べている.

 また,鳥飼(2004)はユネスコの『文化的多様性に関 する世界宣言』(2001)を取り上げ,昨今の文化的アイ

デンティティを尊重した教育を重んじる風潮と日本の現 状とを比較すると,日本では文化多様性への流れが全く 視野に入っておらず,国際理解の必須条件は英語であり,

異文化とはすなわち英米文化であると短絡していると批 判している8).また,「小学生が成長期にあることを考 えると何よりも優先されるべきは心と体を育てること.

その上で多文化が共存する世界で生きていく上で不可欠 な自己と他者の認識を培う」ことが必要だと述べている

(鳥飼2004:p.208)9).

 アメリカで塾を経営し,自らも講師として1000人に及 ぶ生徒と出会った市川は,駐在員の子どもたちを観察し,

異国に滞在した経験自体がすぐに国際感覚に結びっくわ けではないこと,「国際感覚」は外国人に立ち向かわね ばならない局面に追い込まれ,自分たちの歴史や置かれ ている立場を説明するたあに必死になって考えることで 育まれる.自らのアイデンティティがはっきりせず,歴 史についての認識を持っ以前の段階でアメリカに来てい る駐在員の子どもたちは,基準となる自己の文化がはっ きりしておらず,それ故に相手の文化を相対的に分析し,

理解することはできない(2004:pp.167−182)1G)と述べ ている.

 多言語多文化主義の現在,英語と英語圏の文化のみを 公教育に取り入れることは英語優越主義,英米文化至上 主義を誘発するとして,警鐘が鳴らされている.しかし,

昨今の学力低下の問題や,脱ゆとりの方向性,また真の

「国際理解教育」を施せる人材確保の問題などを勘案す ると,将来の英語科は現在の中学校での英語教育の前段 階の役割を担う科目として新設される可能性を強く感じ ている.

1.3 早期英語教育の母語への影響

 早期英語教育反対論者はその理由の一つに日本語の習 得過程にある年齢の子どもに英語を教え込むことによる

「母語への悪影響」を挙げている.しかし,多くのバイ リンガル研究からも明らかなように,第二言語習得によっ て母語の運用能力が低下したり,母語使用の際に混乱が 生じるようなことはない11).バイリンガルと呼ばれる人 たちは二言語を適宜切り替えて話したり (code switching),時に優勢な方の言語が他方の言語の文法 に影響を与えることはある.移民の場合,最初は母語を 話しているが,第二言語使用が圧倒的に多くなると母語 を失うことも多いが,そうなった場合はもはやバイリン ガルとは呼ばない12).通常は家庭での母語使用により,

(5)

酒井 藤恵

母語の運用能力は守られるのが普通であり,ましてや日 本の小学校での週当たり数時間の英会話活動が母語に与 える影響は皆無と言ってよく,日本語能力の低下をもっ て早期英語教育への反論とすることはできない13).

 徹底的な英語教育をしてバイリンガルに育てようとす る英語教育に「イマージョン・プログラム」がある.

「英語教育特区」として2005年4月に群馬県太田市に開 校した,ぐんま国際アカデミーは,英語以外の教科をも 英語で教える小中高一貫のイマージョン・スクールとし てその成果が期待されているが,最近の新聞記事に次の ようなものがあった.「英語特区校」を特集したその記 事は「しつけ 学校任せを反省」という題名で「騒ぎ出 すとなかなか静かにならない.授業中に子どもが動き回 る.群馬国際アカデミーでも,そんな光景をしばしば見 かけた.同校の最初の3ヵ月半でもっとも課題が残った のは,1年生のしっけの問題だ.」(朝日新聞2005年7月 28日)のくだりで始まっており,英語教育以前にしつけ の問題が問われている.昨今頻発する小学校での生活指 導問題は同校に限ったことではなく,日本の学校教育の 根幹とその元となる家庭教育の質を問う深刻な問題であ り,国をあげての早急な対応が望まれる.同時に「総合 学習」を含む義務教育にっいてその意義を根底から見直 すべき時期に来ていると考えられる14).

 今後も増加するであろう「イマージョン・プログラム」

に対して斎藤(2003)は「そんな授業のために犠牲にな ることがどれだけ多いか.そもそも,母語たる日本語の 豊かな言語世界に親しむべき年齢の子供たちを英語漬け にするなど,専門学校的な発想以外のなにものでもなく,

初等・中等教育の本末を転倒していると言わざるを得な い.」15)と反論しているが,筆者もその点に関しては同 様の意見を持っている.

2.「英語科」への移行 2.1 文部科学省の取り組み

 文部科学省初等中等教育局国際教育課は平成14年に

「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想一英語 力・国語力増進プラン」を発表し,その達成目標の1っ

として「『小学校英会話活動』の充実」を挙げている.

また,平成15年3月に「英語が使える日本人」の育成の ための行動計画を発表し,小学校の英会話活動の支援を 掲げている.その他に文部科学省が行ってきた支援には 以下のようなものがある.

1)小学校英語活動に関する実践的な手引きの作成・配   布(平成13年度)

2)小学校の指導的立場となる教員の研修(平成13年度   〜)

3)特別非常勤講師制度等を通じたALTや地域人材の   活用(平成13年度〜)

4)小学校高学年の外国語長期体験活動推進事業の実施   (平成15年度〜)

 教科化に関する動向としては,文部科学省 教育課程 部会 外国語専門部会 第7回議事録の記述が参考にな

る.

○「小学校では関心と動機を高める英語活動と英語学習  をし,高等教育では「専門別・目的別の英語」を目標  とすべきである.これにより,日本の英語教育のナショ  ナル・シラバスに一貫性を持たせるべきである.」

○「小学校では,感性教育を十分に生かした音声教育を  軸にした英語教育,中学校では,「働き」を軸にした  文の理解と発信を,高等学校では,多読と文法の理解  を勧めるような学習形態と指導形態をとる必要がある.」

 さらに,「小学校の外国語教育の在り方」という項目  からいくつかの記録を抜粋する.

○総合的な学習の時間で英会話活動を導入する際には,

 話すチャンス,使うチャンスを作ることが重要であり,

 それが中学,高校の英語教育にも良い影響を及ぼすの  ではないかとの考えがあった.小学校のノウハウを中  学,高校において活かすために制度的な面で整備する  ことは重要なことと考える.

○アジア諸国でも小学校から英語教育に取り組む国が多  く,日本もアジアとのコミュニケーションを深めるた  めにも,小学校から英語教育を導入すべきである.さ  らに,日本は経済的にみれば,英語教育にっいての様々  な研究開発を行い,アジア諸国を支援すべき立場にあ

 る.

02010年に教科として導入するというような目標を立て  た上で,研究開発学校等を通じて課題を解決していく  べきである.

○現在「総合的な学習の時間」の中で行われている英語  活動は,効果をあげていると考えるが,教科となって  これまで以上の内容になった時に子どもたちがっいて  いけるかどうか,他教科との関係で時数はどうするか,

 総合的な学習の時間の重要性をどう考えるかなど十二  分に検討することが必要である.また,小・中連携に

(6)

 ついて具体的に考え,小学校における成果を中学校で  生かす必要があるが,小中の連携は言葉で言うほど簡  単ではない,

○客観的に見て,すべての小学校に導入し,すべての児  童に履修を義務付けることは時期尚早である.意欲の  あるところ,条件の整ったところではやれるよう,手  厚い公的支援が求められる.もっと広い意味で小学校  教育をとらえると,「英会話」よりも「総合的な学習  の時間」を押し進めることが本来の趣旨ではないか.

○小学校における英語教育にっいて検討を行う際には,

 子ども時代に2っ目の言語を学習するということの意  味を認知や言語習得の特質の観点から研究し,カリキュ  ラムの在り方を考える必要がある.

○小学校における英語教育の検討にあたっては,いつの  時期にどのような内容の学習をすべきかということに  っいて,神経科学的な見地からの研究が必要であり,

 現時点で確証的なデータはないが,できる限り客観的  なデータを示していきたい.

 以上,教科化を進めるに当たって,賛成論と慎重論の 両方が存在していることが読み取れる.今後は小学生へ 英語教育を行う理念の追求はもちろん,各方面のコンセ ンサスを図りながら,より具体的な問題(指導者の質と 確保の問題 シラバスの確立など)を解決し,あらゆる 点で教科としての成立条件を整えていかねばならない.

2.2 「英語嫌い」の低年齢化への懸念

 2.1で述べたように,小学校での英語科は,中学校 英語・高等学校英語・大学英語へと一貫した英語教育を 視野に入れているものと考えてよい.小学校と中学校で の一貫性英語教育の研究開発校も指定されている.

 英語科移行反対論者は英語嫌いが低年齢化するだけで あると指摘する.しかし小学校のいずれの教科において も,その教科が嫌いな児童が存在するように,どの段階 で開始しても英語嫌いが出ることは避けられない.しか し,特に導入期の語学の授業においては,教員の教育力 や教授法の善し悪しが,学習者の動機付けやその後の伸 びを左右することが知られている.そのような点に配慮 しながら,「英語活動」が「英語科」に移行する際,ど のような点を改善すべきか私案を述べることにする.

2.3 改善されるべき点

2.3.1 ゲーム・ごっこ遊びの軽減

 そもそも,ごっこ遊びとは何であろう.広辞苑による

と「ごっこ」とは「ある物事のまねをする遊戯」のこと で,「遊戯」とは①「遊びたわむれること」②「幼稚園,

小学校などで運動や娯楽,また社会性を身にっけること などを目的として一定の方法で行う遊び」とあるが,あ えて学童期の小学生に対して「ごっこ遊び」が望ましい,

とは適切と言えるだろうか.小学校英語教育学会会長の 伊藤嘉一氏も「(現状の小学校英語活動では)ほとんど の学校が単語,会話,ゲーム, Head and Shoulder どのジェスチャー付き歌が定番で,その内容は幼稚園な みである」と講演などで感想を述べている.かくも幼稚 な活動ばかりになってしまうのは前述した『実践の手引』

や,研究開発校等での実践で「小学校英語活動は楽しい もの」という点が強調されすぎていることと無関係では ない.フルーッ・バスケットは学期に一度,行うから楽

しいのであって,毎週やっていたら楽しみが半減するど ころか食傷気味になる.実際に高学年の児童はゲーム中 心の英語活動に物足りなくなり,意欲を失っていく場合

も少なくない.安井(2004:p.146)はこのような状況 について次のように述べている.「結局のところ,公立 小学校での英語教育というのは,目下のところ,あまり 実体のないものであるということになるのかもしれませ ん.もしそうなら,以下,祈るような気持ちで述べます が,初めて外国語を正式に学ぼうとするとき,多くの人々 が経験すると思われる「心のときめき」を公立小学校で の英語教育が,ごちそうを食べ散らかすような形で壊し てしまわないことを,願わずにはいられません」16).

 いずれ教科になる際には,単純なゲームばかりではな く,児童の思考力,言語に対する興味・関心,学ぼうと する動機付けを高あるような言語活動・教材を与える必 要があるだろう.ゲームの連続のような授業構成は次第 に少なくならざるを得ないことを期待するものである.

2.3.2 教室内の環境整備

 現在,英語活動はEnglish roomと呼ばれる英語活動 のための特別教室か,各ホームルーム教室で行われてい るが,それらの教室では,しばしば机や椅子が取り払わ れていることがある.これは,『実践の手引』に「活動 主体の授業」が望ましく「じっと座ったままではなく,

子どもが実際に体を動かしながら英語を聞いたり話した りするような活動を作ることが大切である」という文言 の影響もあろう.しかし,騒々しい環境の中で立ったま まの姿勢で行うアクティヴィティは,読んだり書き取っ たりした後に深く考えていく営みとはおよそ正反対の学

(7)

酒井 藤恵

習環境になるのである.

 もっと静かな環境で,未知なる言語のおもしろさ,不 思議さを体験させる指導法が模索されなければならない.

ここで言う「おもしろい」というのは興味を喚起すると いうことであって,単純なゲームをやって「面白おかし い」ということではないが,しばしば現場では取り違え

られることが多い.

2.3.3 文字の導入

 現在実施されている英語活動では,『実践の手引』に

「小学校段階では音声と文字を切り離して音声を中心と した指導を心がけることが大切である」という方向性が 打ち出されていることから,ほとんどの学校では文字指 導を行っていない.高木(2004)によると,調査した国・

公立校130校のうち,「文字指導を行っている」学校は 15%,「行っていないが,いずれは行いたい,実施計画 中」が5%,「行っていないが,環境の中に文字を置い ている」が43%であった.ちなみに私立小学校で英語を 導入しているところでは53校中82%にあたる43校の学校 で文字指導を行っている.「文字指導を行わない理由」

として国・公立小は「文科省が音声重視の方針だから」

を一番の理由に挙げている.ちなみに文字指導を行って いない私立校で,その理由を挙げているところはなかっ

た17).

 文字の導入が児童に大きな負担を与え,そのことが英 語嫌いを増加させると言われるが,果たしてそうであろ うか.子どもがどんなに模写をすることが好きか誰もが 思い当たるのではないか.書くことがどのくらい子ども の学習の動機付けを高めるか,習ったことを書き留めて おくことがどれだけ次回の学習に役立っか過去の実践研 究結果を見るまでもなく明白ではないか.小学校英語活 動の現場では学年が進んでも同じ活動を反復して教えて いる場合が多い.それはシラバス・デザインに問題もあ ろうが,過去の学習内容を書き留めていないことに起因 すると考えられる.

 初期の文字導入は,沈黙期8)をどう扱うか,などの 問題も含あて,第二言語習得に習熟した指導者が,慎重 かっ徹底的に行うべきであろう.徹底的と書いたのは,

反復練習以外に文字習得の王道はないからである.アル ファベットが書けない中・高校生が増えているのは,反 復練習をさせない指導者の教授方法が反映されているか

らに他ならない.

3.おわりに

 現行の「総合学習」は,正しい航路であるかもわから ずに碇をあげ大海へ漕ぎ出した船のようであった.その 船に積み荷された「英語活動」は,きちんとした形の

「英語科」に姿を変えるべきであり,今後,多少の荒波 や嵐を経験しようとも,座礁しないよう慎重に舵を取っ て進み,子どもたちの言語力,思考力の源をどのように 開花させていくのかを問い続けていくことが必要である.

今後はより具体的な指導方法の提示を通して,効果的な 小学校英語教育のたあの提言を行っていきたい.

*本稿は,狭山市教育センター主催の「小・中学校英語 教育合同研修会(平成17年7月)」において筆者が講 師を務めた際の講演内容,および,アイリス英語教育 学会 月例研究会(平成17年9月)で発表した内容の 一部に加筆・修正を施したものである.

1)市川 力.『英語を子どもに教えるな』中公新書ラ   クレ.2004

2)中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会外  国語専門部会第7回記事録http://www.mext.go.

 jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/015/

 05071201.htm

3)平成10年12月告示,14年4月施行,15年12月一部改

 正

4)2)に同じ

5)一般に,one shot visitと呼ばれる.

6)冨田祐一・.「国際理解教育の一環としての外国語会   話肯定論一競争原理から共生原理へ」『小学校での   英語教育は必要か』慶鷹義塾大学出版会.pp.149−

  186. 2004

7)文部科学省『小学校英語活動実践の手引』開隆堂.

  2001

8)鳥飼玖美子.「小学校英語教育一異文化コミュニケー   ションの視点から」『小学校での英語教育は必要か』

  慶鷹義塾大学出版会.Pp.187−217.2004 9)8)に同じ

10)1)に同じ

11)東 照二.『バイリンガリズムー二言語併用はい   かに可能か』講談社現代新書.2000

(8)

  唐須教光.『バイリンガルの子供たち』丸善ライブ    ラリー.1992

  唐須教光.『なぜ子どもに英語なのか バイリンガ    ルのすすあ』NHKブックス.2002

12)但し,バイリンガルの解釈にはかなり幅があり,単    に「2ヶ国語を知っている人」という定義もある.

  バトラー後藤裕子.『多言語社会の言語文化教育一   英語を第二言語とする子どもへのアメリカ人教師た    ちの取り組み』くろしお出版.2003を参照.

13)但し,国語の授業時間数削減によって生じる国語力   低下の問題は,早期英語教育とは独立の問題として   今後検討を要する.

14)藤田英典.『義務教育を問いなおす』ちくま新書.

  2005

15)斎藤兆史.『日本人に一番合った英語学習法』祥伝   社.2003

16)安井 稔.「早期英語教育をどうする」『小学校での

   英語教育は必要か』慶鷹義塾大学出版会.pp.129−

   146. 2004

17)高木亜希子.「小学校英語活動における文字指導の    実態調査」『日本児童英語教育学会研究紀要』第23    号.pp.109−130.2004

18)沈黙期silent period Ellis, R. The Study of Second   Lαnguαge Ac(7uisition. Oxford.1994

      参考文献

松川禮子(2004).『明日の小学校英語教育を拓く』アプ    リコット.

Sabrina Peck. Developing Children s Listening and    Speaking in ESL. In Teαching English α8 α    Second or Foreign Lαnguαge. Third Edition.

   Heinle&Heinle.2001

Wendy A. Scott and Lisbeth H. Ytreberg. Teαching   English to Children. Longman.1990

Abstract

 Ministry of Education, culture, sports, science, and technology(MEXT)created a Period of Integrated Studゾat public elementary schools in Japan in 2002. English activities are part of this integrated study and are designed as a pre−stage for English studies. The availability of them varies depending on the school or the district. Some schools have a curriculum that includes English activities, while others lack this curriculum completely. In spite of several problems with English activities, MEXT would like to initiate the next phase,

English studies. In order to ensure a smooth transition from English activities to official English studies,

many adjustments must be made. Above all, we need to consider carefully the qualifications of teachers, the content of the syllabus, and teaching methodology. This essay deals with problems associated with English activities and proposes a possible solution to them.

参照

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