Title
小学校外国語活動における英語絵本の導入効果に関する実
践研究
Author(s)
松浦, 友里; 伊東, 英
Citation
[岐阜大学カリキュラム開発研究] vol.[29] no.[1] p.[94]-[101]
Issue Date
2012-03
Rights
Version
岐阜大学カリキュラム開発専攻 / 岐阜大学教育学部学校教
育講座
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/44160
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小学校外国語活動における英語絵本の導入効果に関する実践研究
-第二言語習得研究におけるインプット理論の視点から-
松浦
友里*
1・伊東 英
*2 本稿では小学校外国語活動における効果的な学習方法を,実践研究を通して探ることを目的としている. 本研究では,第二言語習得研究の観点からインプット理論を拠所として小学校外国語活動のあり方を見直し, 小学校外国語活動に不足しがちなインプット活動の中に英語絵本の読み聞かせ位置付けた.小学校第5 学年 の児童を対象とし,英語絵本の読み聞かせを実施した.ここでは,英語絵本の読み聞かせが英語力(理解)・ 聞く力・興味関心の維持向上にどのような効果が得られるのか,その効果の検証を報告する. 〈キーワード〉 小学校外国語活動,第二言語習得理論,インプット理論,英語絵本の読み聞かせ 1.問題と目的 小学校外国語活動の活動内容のあり方に関して,これ まで様々な議論がなされてきた.しかし,そのスタイル は児童が英語を口にして話しをすることができるコミ ュニケーション活動が主体となっており,「話す力」に 重きを置いている.総合的な学習の時間の一環としてお こなわれてきた頃から「話すこと」に重点を置いた英語 活動が継続的に行われてきてきた.歌やチャンツ,ゲー ムなどのActivity が一般的な活動内容になっている.も ちろん,これらの活動は英語を習得する上で,必要な指 導ではある.しかし,「話す力」と共に「聞く力」に着 目した指導も必要である.児童にAuthentic な英語を聞 かせ,英語を耳で聞いて英語に慣れ親しませることは小 学校外国語活動のねらいの一つでもある.だからこそ, 英語に触れる最初の段階である小学校において英語を 「聞く」ことに慣れ親しむ必要がある. 具体的に,平成 23 年度より必修化された小学校外国 語活動のねらいは「コミュニケーション能力の素地を育 成する」ことにある.学習指導要領(2008)においてコ ミュニケーション能力の素地とは(1)言語や文化に対す る体験的な理解(2)積極的にコミュニケーションを図ろ うとする態度(3 外国語の音声や基本的な表現への慣れ 親しみ)を示すものと指摘されているが,相手と言葉を通 して,相手が伝えようとしていることを分かりたい,伝 えたいことが相手に伝わるように話したいという思い で,積極的にコミュニケーションを図ろうとすることで ある.つまり,インタラクティブにコミュニケーション を図ることができることが重要である. コミュニケーション能力の一つである「話す力」がた とえ身についても「聞く力」が備わっていなければ,一 方通行のコミュニケーションでしかない.相手の言うこ とを聞いて理解した上で,それに対して自分の思いを言 葉にして伝えてこそインタラクティブなコミュニケー ションが成立する. そこで,本研究ではこれまでのアウトプット中心の小 学校外国語活動を見直し,コミュニケーション能力の一 つでもある「聞く力」の重要性を主張する.また,この 「聞く力」の必要性を裏付けるものに第二言語習得研究 におけるKrashen の「インプット理論」が挙げられる. 第二言語の習得においてインプットの上にアウトプッ トが成り立つと考えられており,英語を聞くことを土台 として話す力も身につくとされている. 本稿では現在の小学校外国語活動において,インプッ ト活動として,実際の授業の中に英語絵本の読み聞かせ を取り入れ,その効果を理解力・聞く力・興味関心の各 項目に関して明らかにしていく. 岐阜大学カリキュラム開発研究 2012.3, Vol.29 No.1, 94-101 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座95 2.研究の背景 2.1. アウトプットからインプット重視へ 平成23 年度より小学校の外国語活動が必修化される. これまでも,小学校では英語活動として,あるいは総合 的な学習の時間の一環として英語を用いた授業が行わ れてきた.必修化に先駆け,多くの小学校では英語ノー トを使用して英語の授業が進められている. しかし,その授業スタイルは依然として変わっていな い.挨拶,歌,チャンツ,復習,ゲーム,アクティビテ ィ,評価,の一連の授業スタイルは,小学校で英語活動 が行われるようになった頃から同じである.歌やゲー ム・チャンツなどの活動をしながら,ダイアログを用い, ペアやグループでゲームや簡単な会話活動を行ってい る.小学校外国語活動は英語を話すことを中心とする発 信型のアウトプット活動をメインとした授業展開がな されている.じっくりと人の話を聞いて英語の「ことば」 や「文化」について考えさせたり,気付かせたりするイ ンプット活動が不足しがちである.インプットが十分に 行われないうちにアウトプットをさせることには限界 がある.言語蓄積が少ないなかで,無理にアウトプット を急がせても,定着につながらない(バトラー後藤 2005). 意味もわからないまま,言葉を発し,活動して「楽しか ったから良かった」で終わってしまう外国語活動では意 味がない. また,「楽しかったから良かった」は小学校段階で通用 しても中学校では通用しなくなり,結果的に英語嫌いを 生むことも否めない.アウトプットは第二言語習得上, 大切なプロセスであることには違いないが,小学校段階 では,アウトプットを急がず,インプットによって十分 に英語を聞かせることが大切である. 2.2. インプット理論と絵本の関連性 第二言語習得研究ではアウトプット以上にインプット の重要性が指摘されている.インプット理論はKrashen が提唱した理論であり,第二言語においても母語と同様, 自然に言葉を習得させることがベストであるという考 え方が根本にある.インプット理論では学習者に理解可 能な程度のインプットを学習者に与えることによって 第二言語を自然な形で習得させることを目的としてい る.つまり,言語習得において重要なことはアウトプッ トありきの指導ではなく,インプットが先行しなければ いけない.しかし,理解可能なインプットを単にたくさ ん学習者に与えればよいというものではないと村野井 (2006)は指摘している.村野井(2006)は以下のような言 語習得を促すインプットの条件を示している. (a) 理解可能性 インプット全体の意味はだいたい理解できるが,理解 できない部分も含まれるインプットである.何のヒント もなく全く理解できないようなインプットではなく,あ る程度のヒントや手がかりによって理解できるような インプットが言語習得を促進する. (b) 関連性 自分の生活,将来,興味・関心等に関連するインプッ トであること.インプットの内容に興味関心が抱けるか どうかである.多くのインプットを継続的に取り入れて いくためにはインプットの内容が学習者にとって興 味・関心を持てる内容であることが言語習得を一層促す. (c) 真正性 インプットが現実の言語使用を目的として書かれたり, 話されたりしたものかどうかである.教材英語ではなく, 現実のコミュニケーションにおいて使用されるような Authentic なインプットであることが言語習得を促進さ せる. (d) 音と文字のインプット インプットは音声インプットと文字インプットの両方 のバランスのよいインプットであることがより,言語習 得を促進させる. 英語絵本は,実にインプット量が豊富である.読み聞 かせを通して,児童に言語習得に欠かせない多くのイン プットを与えることができる.絵本の読み聞かせにおけ るインプットは村野井(2006)の示す言語習得を促すイン プット条件をクリアしている. 英語絵本の読み聞かせは児童に適度な質・量のインプ ットを与えることができ,たとえ聞いた英語が理解でき なくても,挿絵によって内容理解を促すことができる. 以上のような観点から,本研究では,小学校外国語活 動において,不足しがちなインプット活動を補完するも のとして,英語絵本の読み聞かせを取り上げた.児童に
96 インプットを与える活動としては,英語絵本の読み聞か せの他にも,例えば,ビデオ教材で英語を聞く,CD で 英語を聞く,ALT の話を聞くなどが挙げられるが,その なかでも絵本の読み聞かせは,英語を聞く機会を児童に 与えるとともに,話を「聞く力」を育てることができる. 相手が話そうとしていることを聞こうとする態度や姿 勢を示すこと,また,相手の話を聞いて理解しようとす ること,それはコミュニケーション能力の素地である. コミュニケーション能力の素地を養うことを目標とす る小学校外国語活動において,英語絵本の読み聞かせは インプット活動として取り扱うにふさわしい活動であ る. 2.3. 英語絵本の読み聞かせの実際と教育的効果 現行の小学校外国語活動では絵本を活用した授業は数 少ない.一方で,私立の小学校や英語塾・プレスクール などでは絵本を活用した英語活動を取り入れている.そ の活動内容は豊富で,読み聞かせ,生徒が絵本を読むこ とができるように指導するRead Aloud,また,段階別 に 絵本を読 んでいく Graded Reading や Extensive Reading(多読)等がある.特に,英語塾やプレスクー ルなどでは公立の小学校よりも英語絵本にいち早く着 目し,英語絵本を活用した活動展開を図っている.しか し,公立の小学校では英語絵本の読み聞かせはあまり行 われていない.小学校外国語活動において,英語絵本の 読み聞かせはチャンツやゲームに比べ,一般的な活動に なっているとは言い難いが,独自に取り扱っている小学 校もある.それは,英語絵本の読み聞かせが教育的に優 れている部分が多いからである.英語絵本の読み聞かせ の教育的効果として以下のような効果が指摘 されている. ■ 語彙・表現・リズム・音の習得 ■ 異文化理解 ■ 聞く力・想像力・理解力の伸長 ■ 発達の支援 ■ 体験・経験の宝庫 英語絵本は,視覚的な手がかりを基に話を理 解し英語絵本の読み聞かせが数多くの点で教 育的効果があることは明らかである.また,さ まざまな文献等でも英語絵本の読み聞かせは 小学校外国語活動にふさわしい活動の一つであると明 らかにされている.しかし,英語絵本の読み聞かせが児 童に教育的効果をもたらすという確たるデータによっ て証明された研究は数少ない.そこで,英語絵本の教育 的効果を,実際に小学生を対象とし,検証した. 3.研究方法 平成22 年 4 月から 10 月までの半年間,岐阜県の I 小 学校第5 学年 32 人の児童を対象とし,小学校外国語活 動の時間に11 回の英語絵本の読み聞かせを実施した. 英語絵本の読み聞かせによって期待される効果として, 以下の3 つの効果を取り上げ,これらの項目を中心に詳 細なアンケート調査を段階的に行った. 理解力については,読み聞かせ後,その内容を問うテ スト形式による調査を 3 回行った.聞く力については, 読み聞かせ後,聞く態度と意欲に関する児童の自己評価 によって調査を行った.興味・関心の効果については事 前アンケート・中間アンケート・最終アンケートを実施 し,それぞれの項目について,読み聞かせの導入前と導 入後にどのような変化があったのかを調査した.また, これらの項目に限らず多数のアンケート項目・自由記述 欄を設け,小学校外国語活動における英語絵本の読み聞 かせの効果について調査を実施した.表1 は調査内容の 詳細を示している. ①英語に対する理解力の向上 ②興味・関心の向上 ③聞く力(態度・意欲)の向上 実施回 実施日 絵本 出版社 調査内容 興味・関心 第1回目 4月21日(水) The Very Hungry Caterpillar Puffin Books 理解力 第2回目 4月28日(水) My Pet アプリコット 聞く力 第3回目 5月12日(水) Pal the Bob アプリコット
第4回目 5月26日(水) Who Stole the Cookies? アプリコット
第5回目 6月2日(水) What Can You Do? アプリコット 聞く力 第6回目 7月7日(水) Five Little Monkeys Jumping on the Bed SCHOLASTIC 理解力 興味・関心 第7回目 7月14日(水) A Beautiful Butterfly アプリコット
第8回目 9月8日(水) Me Myself アプリコット 第9回目 9月15日(水) Kipper’s Balloon Oxford University Press 第10回目 10月20日(水)A Present for Mum Oxford University Press 聞く力 第11回目 10月27日(水)The Mud Bath Oxford University Press 理解力 興味・関心 事前アンケート調査
中間アンケート調査
最終アンケート調査
97 3.1. 英語絵本の選定について 実際に絵本の読み聞かせを実施するにあたりどのよう な絵本を選定するかは非常に重要である.本来なら,児 童の実態や興味・関心に応じた絵本の選定を行うのが妥 当であると考えられるが,英語ノートやカリキュラムの 関係上,意図的に絵本を選定する必要性も出てくる.本 研究では,語彙数や文法レベルだけでなく,絵本の中身 や質あるいは児童の実態,指導計画(英語ノート)の内 容やTopic などを総合的に考慮し,表1に示す絵本を選 定した.なお,理解力調査における絵本は,ネイティブ スピーカーによって描かれた絵本を採用し,第1 回目は 知名度が高いThe Very Hungry Caterpillarを,第6 回 目 は 英 語 の 歌 を も と に し た Five Little Monkeys
Jumping on the Bedを,第11 回目はイギリスの小学校 の教科書にもなっているOxford Reading Treeシリーズ の中でもレベルStage3 のThe Mad Bathを採用した. その他の絵本に関しては,絵本の選択の基準として以下 の点を考慮し,絵本を選定した. 3.2. 「聞く力」を育む読み聞かせの工夫 「話す力」の土台となる「聞く力の育成」は第二言語 習得理論においても重要視されている.また,「聞く力 の育成」がコミュニケーション能力の根幹をなすもので もある.そこで,本研究では,小学校外国語活動におい て英語を聞く機会として英語絵本の読み聞かせを取り 入れた.子どもたちにも知名度の高いThe Very Hungry
Caterpillarから読み聞かせを実施したが,子どもたちの 反応は少なく,反応を求めてもほとんど返ってこなかっ た.耳からの情報と目からの情報だけでは,内容を理解 するには難しい部分もあったようだ.そこで,読み方や 声の調子,はやさ等を考えながら読んだり,登場人物が 2人以上の場合など,TT による読み聞かせを実施した りした.また,子どもたちと対話をしながら読んだり, 具体物を使用したりするなどの工夫を取り入れた.その ため,アンケート結果を順に見てみると,回を重ねるご とに子どもたちの読み聞かせに対する興味・関心(図3, 図4, 図 5),聞く姿勢・態度,つぶやきや笑いが豊かに ・繰り返しが多いもの ・リズムが美しいもの ・ストーリーが簡潔であるもの ・絵と言葉がマッチしているもの 図1 絵本の読み聞かせの様子 図2 TT 形式による絵本の読み聞かせ 7 6 7 10 25 26 25 22 0% 20% 40% 60% 80% 100% (興味・関心) (好嫌) (興味関心) (リスニングの自信) 【 英語】 【 絵本】 【 聞く 】 -評価 +評価 図3 事前アンケート興味・関心に関する調査結果
98 なり,絵本のストーリーを確実に聞きとることができる ようになっていった. 以下,英語絵本の読み聞かせの効果を具体的項目にお ける数値によって結果を示す. 4. 研究結果 4.1. 理解力 理解力に関する調査は,読み聞かせ終了後すぐにテス ト形式による調査を実施した.内容理解を中心に,主人 公が何をどうしたかというストーリー理解を問うもの で,選択問題と記述問題の構成で統一化を図った.3回 とも10 点満点で評価し,その結果が図 6 である. また,表 2 は理解力の平均値及び検定結果を表してい る.平均値をみると全体的に右肩上がりの結果になった. 特に,第6 回目から 第11 回目にかけて 平 均値 の伸び が良 いことが分かる.回 数 をこ なすう ちに 平 均値 が次第 に向 上 して いるこ とか ら,英語多読学習の よ うに 読み聞 かせ 回 数が 増える と理 解 力も 向上し てい くことが分かる.さ らに,平均値の検定 においても,第1 回 目から第6 回目,第 6 回目から第 11 回 目,ともに平均値の 値 に統 計的な 有意 差 がみ られる こと から,明確に児童の理解力が向上したと分かる.一方, 表3 は個別の得点結果を示しているが,個別で見ると全 ての児童が右肩上がりに得点が向上しているとは言え ないが,多くの児童は第1 回目よりも第 6 回目,第 6 回 ID 第1回目 第6回目 第11回目 1 4 6 8 2 6 6 9 3 4 5 10 4 6 8 8 5 5 6 10 6 4 2 6 7 6 6 8 8 6 7 9 9 6 9 10 10 4 7 9 11 6 6 9 12 5 7 8 13 5 5 8 15 8 6 10 16 5 6 9 17 4 6 8 18 6 6 9 19 6 6 8 20 5 7 9 21 8 6 8 22 6 7 9 23 6 6 9 24 6 4 8 25 6 7 9 26 5 6 9 27 5 8 9 29 6 9 10 30 6 6 8 31 5 6 10 32 5 4 9 表3 個別得点表 ※ ID 不順 平均点の推移 6.25 5.58 8.77 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 第1回目 第6回目 第11回目 得点 図6 平均点の推移 M SD M SD M SD t(1から6) t(6から11) 5.58 1.09 6.25 1.39 8.77 0.88 0.016** 0.002** 第11回目 検定結果 *p<.0.5**p<.0.1 理解力 第1回目 第6回目 表2 理解力の結果 3 3 3 5 2 29 29 29 32 32 32 27 30 0% 20% 40% 60% 80% 100% (興味・関心) (好嫌) (興味・関心) (好嫌) (頻度) (継続性) (リィーディングの興味・関心) (リスニングの自信) 【英語】 【絵本】 【読む 】 【聞く 】 -評価 +評価 図4 中間アンケート興味・関心に関する調査結果 5 32 32 32 32 32 32 27 32 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% (興味・関心) (好嫌) (興味・関心) (好嫌) (頻度) (継続性) (リィーディングの興味・関心) (リスニングの自信) 【 英語】 【 絵本】 【 読む 】 【 聞く 】 -評価 +評価 図5 最終アンケート興味・関心に関する調査結果
99 目よりも第11 回目の方が得点は高くなっている.中に は第6 回目に行った理解力調査の得点が第 1 回目に比べ 一度,下がってしまった児童がいるが,第6 回目で得点 が第1 回目よりも下がった児童ほど,最後の第 11 回目 の得点が大きく伸びていることが分かる. 多くの児童は挿絵を手がかりに語られるストーリーを 予測しながら聞き,次第にストーリーの展開を理解する 力をつけることができるようになってきたのではない かと推測される.初めは,知っている単語の意味と挿絵 から分かるヒントによって理解を進めてきたが,既習の 単語と挿絵のヒントだけでは理解ができない場面に出 会った時,自ら想像したり予測をつけたりして理解しよ うとしたのではないかと推測できる.結果として,全体 の平均値は向上し,個別の得点も最終的に第1回目と第 11 回目の得点を比較すると,どの児童も得点が伸びてい ることから,英語絵本の読み聞かせによって児童の英語 への理解は深まったと考えることができる. 4.2. 聞く力 聞く力の調査は第2 回目,第 5 回目,第 10 回目の英 語絵本の読み聞かせ終了後,態度と意欲の2 項目による アンケート調査を実施した.なお,アンケートは児童の 自己評価である.表4 は聞く力の態度と意欲に関する質 問項目によって得た4 段階評価の平均値と検定結果を示 している.また表5 は個別の評価結果を示している. ●質問項目 1 【 聞く態度】 第2 回目から第 10 回目まで徐々に平均値は向上して いった.また,平均値の検定においても第2 回目から第 5 回目では優位傾向にある差が認められ,第 5 回目から 第10 回目の平均値では有意差が見られた.さらに,個 別で見ると,第5 回目,第 10 回目につれて評価を高く している児童が多く見られた.全体の傾向からすると児 童の聞く態度は向上したと言える. ●質問項目 2 【聞く意欲】 第2 回目から第 10 回目まで徐々に平均値は向上して いった.また,平均値の検定においても第2 回目から第 5 回目では優位差が見られ,第 5 回目から第 10 回目の平 均値では有意傾向にある差が認められた.全体の傾向と して「聞く態度」と同様に「聞く意欲」も第5 回目,第 10 回目につれて高い評価をつけている児童が多い.児童 個人でみても,「聞く態度」と「聞く意欲」は同様の評 価傾向にある. 以上のことから,英語絵本の読み聞かせは児童のコミ ュニケーション能力の一つでもある「聞く力」にプラス の影響を及ぼすことができたと考える.英語絵本の読み 聞かせを通して,インプット量を増やすことで児童は英 語を聞くことに抵抗をなくすことができ,英語を聞くこ とに意欲的になることができた. 聞こうとする意欲が湧くと,自ずと聞く態度もよくな っていく.最初はただ読み聞かされるものを聞くだけの 受身姿勢であったのが,次第に絵本に興味を抱くように なり,要領を掴んでストーリーを理解していくようにな った.ヒントをもとにストーリーの展開を読む力をつけ, 自分が予測したストーリー展開が合っているのかを確 かめたいという思いからどんなに分からない英語であ っても「それで,その先はどうなるのか」聞きたいとい M SD M SD M SD t(2から5) t(5から10) 聞く態度 3.13 0.6 3.4 0.59 3.7 0.28 0.132** 0.095** 聞く意欲 2.96 0.72 3.56 0.39 3.73 0.27 0.001** 0.282** 検定結果 *p<.0.5,**p<.0.1 第2回目 第5回目 第10回目 表4 聞く力の結果 ID 第2回目 第5回目 第10回目 第2回目 第5回目 第10回目 1 3 3 4 4 4 4 2 4 2 4 3 3 4 3 3 4 4 3 4 4 4 3 3 4 4 4 4 5 4 3 4 4 3 4 6 1 1 4 1 2 4 7 3 2 3 2 2 3 8 3 3 4 4 3 4 10 2 3 4 3 4 4 11 3 4 4 3 4 4 12 4 4 4 3 3 4 13 4 3 4 4 4 4 14 3 4 4 4 3 4 15 2 4 4 3 4 4 16 3 4 3 3 4 2 17 3 4 3 3 4 4 18 4 3 4 3 4 4 19 4 4 4 3 4 3 20 3 4 4 3 4 4 22 3 3 3 3 3 3 23 4 4 4 4 4 4 24 2 4 3 1 4 3 25 4 4 4 3 3 4 26 3 3 3 3 4 3 27 4 4 4 3 4 4 28 3 3 4 3 4 3 29 4 4 2 3 3 4 30 2 4 4 1 3 4 31 3 4 4 2 4 4 32 3 3 3 3 4 4 聞く態度 聞く意欲 表5 聞く力の評価結果 ※ ID 順不同 ※ N=30
100 う気持ちが強くなっていったことで「聞く力」も向 上したのではないかと考える.現に,読み聞かせの 回数が増すごとに児童の発言数が増えていった. 4.3. 興味・関心 事前・中間・最終に実施した児童による4段階評 価アンケートの結果(表6)から絵本の読み聞かせは児 童の英語自体への興味・関心を促すと共に絵本への興味 関心にもプラスの影響を与えたことが分かる.絵本の読 み聞かせの回数が増えるにつれ,それぞれの項目におい て平均値は徐々に向上し,その平均値の検定結果におい ても有意差が見られた.表7 は中間アンケートと最終ア ンケートにおいて行った英語や絵本に関する自由記述 の回答結果であるが,中間アンケートの時点では「面白 い」「楽しい」「読んでくれて嬉しい」といった表面的な 感想の記述が多く見られた.また,回答なしや「分から ないところは日本語を言ってほしい」と要求する記述さ えも見られた.しかし,最終アンケートの時点では,「も っと長い絵本を読んでほしい」「もっとたくさんの絵本 を読んでほしい」といったプラス回答,「絵本の読み聞 かせによって英語が好きになった」「4 年生の時は英語が 嫌いだったけど,読み聞かせで英語が好きになった」「読 み聞かせがあるから授業が楽しみだった」といった記述 が見られるようになった. さらに,表8 は各アンケート調査で外国語活動の好き な活動を尋ねた結果である.事前アンケートではほとん どの児童がActivity を選んでいたが,読み聞かせ導入後 はALT time や読み聞かせなどのインプット活動を選ぶ 児童の割合が多くなったことが分かる.また,リスニン グへの自信の項目においても,徐々に平均値が伸び,検 定結果にも有意差が見られたことから,絵本の読み聞か せによって英語を聞くことに対して自信をつけること ができるようになった児童が増えたことが分かる.また, リーディングに関しても,絵本の読み聞かせを通して, 児童は文字に触れる経験をし,文字を読むことに興味を 持つことができた.小学校段階では文字は取り扱われな いが,英語絵本の読み聞かせは小学校外国語活動と中学 校の英語教育とを円滑に接続する観点からも,有効な活 動であると言える. 4.4. 英語絵本の評価結果 最終アンケートでは児童にこれまでの絵本の読み聞か せで良かったものの順位をつけてもらった.その結果は 表9 に示す通りである.児童が選んだうち上位にランク 活動名 事前アンケート 中間アンケート 最終アンケート Greeting(あいさつ) 1 0 0 Song(歌) 2 2 1 ALT time(ALTの話) 5 7 10
Picture book time(読み聞かせ) 10 11 Activity(ゲーム・交流活動等) 24 13 10 表8 児童の好きな活動の推移 記述タイプ タイプ1 (面白い・ 楽しい・嬉 しい) タイプ2 (絵本の 好き・興 味) タイプ3 (継続的 要求) タイプ4 (1度の量 の要求) タイプ5 (内容の 要求) タイプ6 (理解) タイプ7 (日本語 要求) タイプ8 (読み手へ の要求) タイプ9 (英語好き・ 楽しい) タイプ10 (回答なし) 中間アンケート 11 1 4 2 1 3 1 3 1 5 最終アンケート 7 4 9 3 2 2 0 1 4 0 表7 自由記述回答結果 M SD M SD M SD t(前から中) t(中から終) 英語(興関) 3.12 0.83 3.5 0.67 3.87 0.33 0.001** 0.002** 英語(好嫌) 3.12 0.87 3.43 0.75 3.68 0.47 0.016** 0.03** 絵本(興関) 3.06 0.87 3.56 0.5 3.78 0.42 0.001** 0.032** 絵本(好嫌) 3.53 0.5 3.75 0.44 0.07** リーィディング(興関) 3.37 0.75 3.28 0.81 0.521* リスニング(自信) 2.84 0.92 3.47 0.62 3.68 0.47 0.001** 0.05** *p<.0.5**p<.0.1 事前 中間 最終 検定結果 表6 アンケート結果
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しているほとんどのものは,英語圏の出版社から刊行さ れている authentic な絵本であることが分かる.Who stole the cookies? は日本の出版社のものであるが,も ともとは英語の歌をもとに作成したものであるため,文 章構成やリズムは上質な英語そのものである.この結果 を見る限り,児童が良いと感じる絵本は心地よいリズム があり,何度も何度も繰り返される場面設定がなされて いるものである.また,ストーリーが簡潔で,ストーリ ー展開が予測されやすい絵本が上位を占めている.これ は,これまで多数の文献等で示されている絵本の読み聞 かせの選定基準にマッチする結果となった. 5.考察 英語絵本の読み聞かせがもたらす効果は英語への理解, 英語や絵本の読み聞かせに対する興味・関心の向上,聞 く力の育成に限らず,児童の他のアンケート結果等から 明らかなように,児童にリスニングやリーディングへの 興味関心をももたらした.英語絵本の読み聞かせが小学 校と中学校の英語教育の円滑な接続を図る点でも有効 である. 平成 23 年度より小学校外国語活動が必修化されるに あたって,本研究において絵本の読み聞かせが新たな手 法として大きな価値を有していることを示唆すること ができた.小学校外国語活動では十分なインプット活動 を通して,聞く力を養い,その上でアウトプットするこ とで話す力を育成するとともにコミュニケーション能 力の素地作りを行うことが理想である. 6. 今後の課題 英語絵本はまだまだ,教材としての地位は低く読み聞 かせとして取り扱われる頻度も少ない.英語絵本の読み 聞かせを小学校外国語活動で実施していくには十分な 英語絵本の確保,指導する側である教員の絵本の読み聞 かせに対する意識改革,カリキュラムの整備等が具体的 に必要になってくる.今後も絵本の読み聞かせを取り入 れ,英語絵本の読み聞かせの確たる教育的効果を検証す るとともに,授業実践を行いつつ,効果的な授業展開を 探っていきたい. 参考文献 バドラー後藤裕子(2005).『日本の小学校英語を考え る』三省堂 村野井仁(2006).『第二言語習得研究から見た効果的な 英語学習法・指導法』大修館書店 直山木綿子(2007).『「読み聞かせ」の指導テキスト』 明治図書 文部科学省(2008).『小学校学習指導要領解説 外国語 活動編』 表9 児童による絵本の評価 順位
第1位 Five Little Monkeys Jumping on the Bed
第2位 The Mud Bath 第3位 Kipper's Balloon 第4位 Who Stole the Cookies? 第5位 Pal the Bob
第6位 My Pet
第7位 A Present for Mum 第8位 The Very Hungry Caterpillar 第9位 Me Myself
第10位 A Beautiful Butterfly 第11位 What Can You Do?