電磁波工学
柴田幸司
第3回 電磁法則
電磁波の伝搬を支配する法則
~マクスウェルの方程式とその成り立ち~
空間・媒質中を進む電界・磁界を時間変化と共に表した公式
z x y
xz
面
磁界
yz
面
電界
xz
面
磁界
yz
面
電界
ファラデーの法則 → 磁界の時間変化の周(直交)方向に電界(起電力)が発生 アンペアの法則 → 電流の周方向に(静)磁界が発生
空間でも仮定した電流が時間変化すれば(高周波)磁界が発生するのではと考え、
アンペアの法則に変位電流項を追加→アンペア・マクスウェルの法則
ファラデーの法則とアンペア・マクスウェルの法則を組み合わせることにより、
空間で磁界の変化→電界の変化→磁界の変化→電界の変化→・・・となり
(電磁波の存在とその伝搬が起こることを予言)
u
Φ
I H
このままでは空間で時間的に変化する現象に対しての電荷の保存則が成り立たない
アンペア
ファラデー アンペア
マクスウエル ファラデー
変位電流
マクスウェルの方程式に関係する電磁法則
sE ndS q
0
1
ガウスの法則
I
cHdlアンペアの法則
dt u d
ファラデーの法則
電流と磁界との関係
磁束(磁界)の変化と起電力(電界)との関係
電荷と電束密度(電界)との関係
但し、ガウスの法則は補助的な式として利用
sD ndS
q , D 0Eアンペアの法則
I [A]
向きに注意 dl
電線に電流を流すと右ねじの方向に 磁界が発生するが、
その強度を磁界強度[
A/m]と呼ぶ。
これらの関係は
I
cHdlI[A] H[A/m]
c
を満足する必要がある。すなわち
仮想面内の電流の和は仮想面を周回する磁界の線積分に等しい。
(積分形)
ファラデーの法則
ある回路
cと鎖交する磁束と起電力との関係を考えてみる。回路内の磁束φ[
Wb] が変化すると回路には鎖交磁束の減少に等しい起電力
uが発生し、その関係は次 式で表される。
dt u d
これをファラデー(ノイマン)の法則という。なお、この式におけるマイナスは磁束の減 少を意味している。
[V]
u
φ’
dl E
c
そこで、図を用いて電界との関係も含めて考えてみる。鎖交磁束φが左から右に移 動すると、レンツの法則よりそれを妨げる磁束φ’の方向に対応する向きに起電力
uが 発生する。
この時、起電力
uはコイルの周りに発生する電界[
V/m]を微少長さ
dlに対して閉回路c の周方向に線積分すれば良いので
c dl
u E
なる関係があり、起電力を電界に置き換え れば
dt dl d
c
E φの向き
は次式の様に置き換えられる。
dt u d
さらに
LIおよび
c c dl dtL d
dl H
E
c dl
I Η
より
を得る。
ガウスの法則
仮想空間S
空間中に置かれた電荷
qの作用により仮想 された任意の閉局面
Sから出て行く電気力 線というものを仮定すると
と表すことができる。
sE dS q
0
1
n
ここで
dSは閉局面
Sの微小面積であり、
Eは
dSにおける電界ベクトル、
nは 単位法線ベクトル(
dSに直角で外向き、長さ1のベクトル)である。なお、
E
と
nのスカラ積には
E cos n
E
なる関係が成り立つ。
n
E.
θ
.
.
. .
θ
n E
E E E
n E
において
cosより
qE.
トータル Φ本
ds
面に垂直 で長さ1の ベクトル
なぜなら
sE ndS
q0
から
E
D 0
を代入すれば
sDndS
qなる関係に
つまり、電気力線の総数は閉局面内に含まれる電荷
qの総数の1/ε
0となる。
[
c/m2]
数式のベクトル表現 (クーロンの法則の場合)
等電位線
q r 2
4 0r E q
[V/m]
なる関係があり、電界の方向をベクトルで現すと電位の山の勾配(傾き)が電界 強度[
V/m]となるが、これをベクトルで表すことを考える。
1.スカラーでの表現
まず、ガウスの法則の原点から考えてみると、クーロンの法則より空間に
q[
c]なる 電界を配置すると、この作用により周囲にはこれとの電位差が出来る。そこで同じ 電位を線で結べば、これが等電位線となる。これらには
等電位線に垂直
ベクトルポテンシャルの導き方
電位の山の勾配が電界になることは電磁気学で学んだ。すなわち、高さが
Dで表 される山の等高線を
xy平面上に書くと図の様になる。
斜面(電位)の勾配の場合には最も急な勾配を意味する場合が普通なので、勾配は 大きさと方向を持つベクトル量とするのが都合が良い。
電位の勾配の表現“
gradD”
後藤著
,“なっとくする電磁気学
,”講談社
,PP256-261.より
xy
0
D Δn D+ΔD
図. 高さ(電位)がφの山の
等高線と勾配が最も急な方向 P
そこで、
P点に示す様に勾配の最も急な方向の ベクトルを単位法線ベクトル
nとする。
この図では、
P点における
Dなる高さが
n方向に 水平に微少距離Δ
nだけ進むと山がΔ
Dだけ 高くなることを意味し、距離と高さの関係として
P点の勾配を以下の様に定義する。
D D
n grad
D
n
太字(ベクトル) 細字(スカラー)
位置nの微小変化に対する高さDの微小変化との比
n
この式の中および右辺は左辺の傾きの意味を示す単なる記号であり、
gradはグラ ジエントと読み微少区間に分割して和を取ったものを積分と表現するのと同じであ る。
すなわち、高さが
Dの山の斜面の勾配を右辺で表すかわりに
gradDと表しているの であり、
gradが出てきたら図の勾配を表すと考えて差し支えない。
以上のことから、先の電荷と等電位線との関係において
D
D
grad
但し
D E勾配 スカラー
この定義に基づくと、
1
ここで、ρ・・・電荷密度
D
・・・電束密度 である。
すなわち、∇・は電界の勾配の方向を意味し、電束φを球の表面積4πr
2方向
(つまり放射方向)に減衰する電界
Eは
2
4 0r E q
[V/m]
と表現される。
スカラー
と表現することとする。
スカラー
すなわち、これは電束密度の傾きが電荷密度と等価であることを表している。
ガウスの法則の微分形
仮想空間 S
n
E.
θ
.
q
E. D divD D E
ベクトルの発散
[c/m3]
但し
であるが、先の定義に基づくと電荷密度ρの発散 方向に電界
Eが発生することを微小体積に対して
2.ガウスの一般式のベクトル表現
まず、ガウスの法則の一般式は
と表現することと 電荷密度の流れを定義
grad
・・・
Aの勾配
スカラー
A A div
・・・
Aの発散
A A rot
・・・
Aの回転
ベクトル
s dS q
0
1
Ε n
電荷密度 電界
この意味について 2次元の場合を例 として説明する
する。これがガ ウスの法則の ベクトル表現 での微分形で ある。
つまり、この式は発散する電束密度Dを合計するとρなる大きさの 電荷密度となることを意味している。ここで、電磁界の形を表現す るものとして以下の式を定義しておく。
ベクトルの発散“
divA” とガウスの法則との関係
國分
,“ベクトル解析入門
,” 東京電機大学出版局
, pp71-73 xy
ax ay
B C
A D
今、時間に対して一定の割合で水が
xy平面 上を流れているものとする。
そして、その流れる速度をベクトルとして
y y x
xa A a
A
A
と定義する。この様な流れに対して、1辺の長 さがそれぞれΔxおよびΔyである微少な長方 形
ABCDを考える。
単位時間に線分
ABを通って長方形
ABCDに流れ込む水の量は速度
Aのx成分で ある
Axと辺
ABの長さΔyとに比例するから
Ax(
x , y)・Δyと書ける。
一方、
DCを通って長方形から流れ出す水の量は
Ax(
x+Δ
x , y)・Δyと書ける。
よって、
AB , DCを通過する水の増減量は、流れ出す量から入る量を引けば
y y
x A y
y x x
Ax( , ) x( , )
となる。
Δx
Δy
・・・(6)
・・・(7)
同様に
BCを通って流れ込み
ADを通って流れ出すことから、通過する水の増減 量は
x y
x A x
y y
x
Ay( , ) y( , )
となる。
よって、微小な長方形
ABCDの面積ΔxΔyあたりの水の増加率は(7)式と(8)
式の和を単位微小面積であるΔxΔyで割ればよい。すなわち、この増加率を仮 に“
divA”などとおいてみれば、増加率は
・・・(8)
y
) y , x ( A )
y y
, x ( A x
) y , x ( A )
y , x x
(
div Ax x y y
A
となる。ここで、xおよびy方向の微小面積の極限をとればΔx→0、Δy → 0であり、
結局上記の式は
y A x
div Ax y
A
A
となり、単位面積あたりの水の湧き出し量は流れる速度
Aに対して上記の様に対 応出来ることが分かる。
そこで、左辺をあらためて速度ベクトル
Aの発散と呼ぶことにする。
・・・(9)
ベクトル
D D
div
y D x
Dx y
これを
2次元での電荷密度に関するガウスの法則と対応させてみると、微小面積 中における電気力線の密度は
divD D
z D y
D x
Dx y z
であって、これが電荷の密度ρに等しいのだから、結局
3次元の場合も含めて
となるのである。ここで、電束密度
Dは
dS q
S 0
1
E n
(10)式は積分形として
E
D
で与えられるから、電束と電荷 の関係として
・・・(10)
と対比して考える ことが出来る。
0
B
磁束密度に関しても同様な考えから が導き出される。
ガウスの法則との関係
つまり、∇・
D=ρは電荷ρによる仮想空間からの電荷密度(電場)の流れ(数)
を表している。
S dS S dS q 01
E n n
D
となるので
アンペア則との関係
,ベクトルの回転“
rotH”と 電磁波
次に、アンペアの法則から電界と磁界との関係をベクトル表現にて考えてみる。
I
c
ds
H
まず、磁界と電流との関係はアンペアの法則として
で表されるが、左辺は
電流周囲の磁界の周回積分であり、磁界には回転方向が あることが重要である。
さらに、右辺は
C内を通過する全電流である。そこで
まず、この電流が図のように経路
C内において面積密度
J [A/m2]として流れていると仮定する。
dl
ΔS J
C
・・・(1)
面と垂直で長さが 太字
1のベクトル
n・
次に、経路
Cで囲まれた微小面積をΔSと すると、電流
Iと電流密度
Jとの関係は次式 で表される。つまり、
Jとその面積ΔSを掛け たものが電流である。
そして、これを(1)式に代入して両辺をΔS で割れば、(3)式の様な関係となる。
・・・(2)
S I J n
太字
n J
H
c ds
S
1 ・・・(3)
太字
これらの磁界
Hと電流密度
Jとの関係において、左辺は磁界をある回転方向に 沿って積分することを意味しており、アンペアやファラデーの法則で出てくる積分 である。
そこで、この回転に関する積分を先の
gradの様な記号としておくと便利である。そ のために以下のことを考える。
面積ΔSが充分小さい場合について左右を入れ替えて
微小な⊿Sあたりの閉曲線cにおける磁界の周回積分
電流密度[A/m2]
H n
H ds rot S
c
1
太字
・・・(4)
と定義して、この式より(3)式の
H n
n
J rot となり、両辺の単位法線ベクトルも消去できるので
H H rot
・・・(5)
よって、この式はアンペア則の微分系そのものであり、電流から右ねじの方向に 磁界が発生することを示している。
H J rot
ここで とおき、さらに変位電流 を仮定すれば
dt J dD
H
となり、電束密度は
D Eより、
Jが無くても
dt dD
電界の時間変化に対して回転方向に磁界が発生することが分かった。
この式がアンペア・マクスウェルの法則である。この式は電界変化の方向に 磁界が発生することを意味している。
を消去すれば
n J H
1S
c dsJ を置き換えた
dt u d
起電力 磁束
ファラデーの法則のベクトル表現
dt
rot dB
E
E
となり、磁束変化を妨げる方向に電界が 発生することになる。
H B
但し、 であり
電界の回転 磁束密度の変化
結局ファラデーの法則は電界と磁界との 関係を表している
ここで
dt
rot dB
E
E
太字イタリック
太字イタリック
→数式がベクトルであることを示す ベクトルとは
・大きさと方向の組み合わせ
・2つ以上の数字の組み合わせ
使う理由
3次元の自然現象を一度に表現(計算)
であるが、この式は磁束の変化を妨げる回 転方向に起電力が発生することを意味して いるので、ベクトルで表せば
同様にファラデーの法則についてもベクトル表現すると、方向を記述していないス
カラー方程式は
を表す記号である。
さらに∇は
a z a y
ax x y z
単位ベクトル
ベクトル解析の基礎
z z y
y x
xa A a A a
A
A
太字は
x,y,z方向の成分が含まれることを示している 単位ベクトルはその方向の成分で大きさが1となる値であり
偏微分(その成分だけ微分)
結局、電磁波の伝搬に対して
として利用され
xz面
磁界
yz
面
電界
xz
面
磁界
yz
面
電界
アンペア
ファラデー アンペア
マクスウエル ファラデー
と対応することが分かる。この様に
rotはベクトルの向きを良く表現していることが 分かった。しかし、実際のコンピュータなどによる計算では、
3次元の成分に分解 して演算する必要が生じる。
磁界変化を妨げる方向に電界
t E
変位電流
x x y y z z
z y
x a A a A a A
a z a y
a x
div
A
A
y a A
y a a A
x a a A
x a a A
x a a A
ax x x x y y x z z y x x z z y
z a A
z a a A
z a a A
y a a A
ay z z z x x z x y z z z
となる。さらに、
ax ax ay ay az az 1 0
y x z y x y z z x z y
x a a a a a a a a a a a
a
より、
与式は
zA y
A x
Ax y z
となる。
について
スカラー積の計算
① ②
③
0
x y y z z
x a a a a a
a
z y
x a a
a ay az ax az ax ay
z x
y a a
a az ay ax ax az ay
ベクトル積の計算
x x y y z z
z y
x A a A a A a
a z a y
a x
rot
A
Α
x a A
x a a A
x a a A
ax x x x y y x z z
y a A
y a a A
y a a A
ay x x y y y y z z
z a A
z a a A
z a a A
az x x z y y z z z
となる。
ここで、
より
について
は
y A x
a A x
A z
a A z
A y
ax Az y y x z z y x x
a A x a
a A x a
a A
ax x x x y y x z z
y a A
y a a A
y a a A
ay x x y y y y z z
z a A
z a a A
z a a A
az x x z y y z z z
az ay
az
ax
ay ax
となるので、以上を整理すれば、与式は
となる。
ここまでのまとめ
1.光(電磁波)は電磁法則と関係する
3.空間(媒質)中を伝搬する電磁波(電界・磁界) は マクスウェルの方程式の解から求まる
2.高周波(光領域)における電界と磁界との関係を変位
電流により結び付けたのがマクスウェルの方程式
静電界と電磁波との関係について
プリント基板
断面 直流電圧をかけると
電界が発生
交流電圧をかけると
直交して磁界が発生
電界 → 磁界 → 電界 → 磁界 ・・・ (波(信号)の伝搬)
電磁法則の微分および積分表現
法則 積分形 微分形
D
0
B
J H
dt E dB
電束密度に関するガウスの法則 磁束密度に関するガウスの法則
アンペアの法則 ファラデーの法則
Q dS
in
sD 0
sBindS I dl
cH dt dl d
cEどちらも同じ意味
*電磁波の計算の仕方によって、積分形と微分形とを使い分ける
ベクトルの回転の定義
ベクトル
Aの回転は、図に示すような微小曲面ΔSに関して
S dl
rot c
S
n A
A) lim0
(
n
dl
A
ΔS Δc
図 微小曲面ΔSとその周Δc
と定義される。ここにΔ
cはΔ
Sの周囲で、
閉曲線となる。また、上記左辺は
rotA
の面ΔSに関する法線成分であり、
rotAそのものはベクトルであり、
その大きさは
Aが作る渦の強さを表す。
また、渦には回転軸があり、渦に関して右ネジの関係にある方向を
rotAの 向きとする。
この
rotAは直交座標において、
z y
x a a
a A
A
y
A x
A x
A z
A z
A y
rot Az y x z y x