特 集 脊椎外科学の進歩
ハイブリッド手術室における脊椎手術の意義
昭和大学医学部整形外科学講座
松 岡 彰
は じ め に
ハイブリッド手術室とは血管撮影室にある高性能 な放射線透視装置を手術室に設置したものであり,
手術台と連動するため,カテーテル治療と外科治療 が同時に行えることから血管外科や脳外科領域で注 目されていた.しかし,近年の血管撮影装置の進歩 により 3D イメージングが可能となり,術中 CT 撮 影も可能であるため脊椎手術での術中画像支援とい う用途に大きく広がりをみせている.当院では 2015 年 4 月,産業用ロボットアームに C-arm を接 続した多軸血管撮影装置の Artis zeego (Siemens 社)を設置したハイブリッド手術室が開設された
(図 1).本稿ではハイブリッド手術室を使用した脊 椎手術の経験から,その有用性について述べる.
X線透視から術中CT撮影へ
脊椎手術分野における,交通事故や転落外傷によ る脊椎骨折に対する脊椎固定術,転移性脊椎腫瘍や 腰部脊柱管狭窄症,腰椎すべり症などに対する除圧 固定術,思春期側弯症や姿勢異常による ADL 障害 を主訴とする脊柱変形に対し行う脊椎矯正固定術で は,椎弓根スクリュー(Pedicle Screw:PS)を椎 弓根から椎体内へ適切に設置することが最大限の固 定力を得るために必要な手術手技であり,大血管,
神経損傷などの合併症を回避するうえでもその安全 性と低侵襲性が求められている.
脊椎固定術における画像支援は C-arm 型 X 線透 視から得られる 2D イメージでの PS 設置が現在で も標準である.そのため,逸脱した PS による術後 神経・血管障害合併症やインプラントの緩みによる 固定力および矯正不足により再手術を要した報告が あるのに対し,安全な PS 設置を目的とした刺入精 度の報告が数多くされている
1‑5).Artis zeego が導
入されたことで,これまでの透視装置と違って技術 的に大きなメリットになったのは 3D イメージング から得られる術中 CT 画像である.Artis zeego の C-arm は術野を中心に 200°回転することが可能な ため,PS 設置後に CT 撮影を施行し,術中 CT 画 像から逸脱の確認ができるため至適位置への PS 設 置が格段に向上することで手術終了時における術者 の安心感にも繫がる
5).
ハイブリッド手術室の有用性について
今回,ハイブリッド手術室における脊椎手術の意 義および有用性について述べるにあたり脊椎固定術 に術中 CT 撮影を用いた症例と X 線透視を用いた 症例の胸腰椎および仙骨(T1 〜 S1)の PS 刺入精 度を比較検討した.
対象と方法
2015 年 4 月〜 2018 年 12 月にハイブリッド手術 室を使用し脊椎固定術を施行した 178 例(ハイブ リッド群)〔男性 73 例,女性 105 例,平均年齢 68.2 歳(18 〜 88),PS:1,463 本 〕 と,2013 年 〜 2015 年に X 線透視下で脊椎固定術を施行した 80 例(透 視群) 〔男性 32 例,女性 48 例,平均年齢 67.4 歳(18
〜 84),PS:427 本〕を対象とした.
ハイブリッド群の疾患は変性疾患 81 例(PS:
426 本),脊柱変形 49 例(PS:730 本),外傷 20 例
(PS:70 本),転移性腫瘍 12 例(PS:93 本),脊椎 炎 12 例(PS:90 本 ), 思 春 期 特 発 性 側 弯 症 4 例
(PS:54 本),透視群は変性疾患 52 例,外傷 12 例,
転移性腫瘍 10 例,脊椎炎 6 例であった(表 1).
検討項目として,PS の逸脱は両群ともに術後
CT 画像にて評価し,Rao らの椎弓根・椎体逸脱分
類を用いた
6)(表 2).また,ハイブリッド群では術
中 CT 撮影後に逸脱を確認し術中に修正した PS の
椎体高位,逸脱方向,疾患について評価した.な お,PS 逸脱の統計学的分析にはカイ 2 乗検定を用 いた.
結 果
PS の刺入精度 Grade 0(完全に椎弓根内に留まっ ている PS)は,ハイブリッド群 1,410 本(96.4%),
透視群 394 本(92.3%)で,両群間に有意差を認め
た(p < 0.001).逸脱を認めた PS は,ハイブリッ ド群 52 本(3.6%),透視群 33 本(7.7%)であった.
Grade 1 の PS は,ハイブリッド群 43 本(2.9%),
透視群 21 本(4.9%)で,両群間に有意差を認めな かった(p = 0.057).Grade 2 の PS は,ハイブリッ ド群 5 本(0.3%),透視群 10 本(2.3%)で,両群 間に有意差を認めた(p < 0.001).Grade 3 の PS は,
ハイブリッド群 4 本(0.3%),透視群 2 本(0.5%)
で,両群間に有意差を認めなかった(p = 0.529).
合併症として有症状の神経・血管損傷を引き起こす 逸脱は Grade 2 以上であると考えられ,Grade 2・
3 の PS は,ハイブリッド群 9 本(0.6%),透視群 12 本(2.8%)で,両群間に有意差を認めた(p < 0.001)(表 3).両群ともに神経・血管損傷による再 設置手術症例は認めなかった.
逸脱方向に関して,外側逸脱はハイブリッド群 19 本(36.5%),透視群 14 本(42.4%),内側逸脱 は ハ イ ブ リ ッ ド 群 18 本(34.6%), 透 視 群 11 本
(33.3%),前方逸脱はハイブリッド群 8 本(15.4%),
図 1 ハイブリッド手術室
表 1 ハイブリッド群と透視群の比較
ハイブリッド群(n = 178) 透視群(n = 80)
年齢 68.2(18 〜 88) 67.4(18 〜 84)
性別 M/F=73/105 M/F = 32/48
疾患 変性疾患 81(45.5%) 52(65.0%)
脊柱変形 49(27.5%) 0
外傷 20(11.2%) 12(15.0%)
転移性腫瘍 12( 6.7%) 10(12.5%)
脊椎炎 12( 6.7%) 6( 7.5%)
思春期特発性側弯症 4( 2.2%) 0
PS(本) 1,463 427
表 2 椎弓根と椎体前方逸脱の分類 椎弓根逸脱 椎体前方逸脱 Grade 0 逸脱なし 逸脱なし Grade 1 < 2 mm < 4 mm Grade 2 2 〜 4 mm 4 〜 6 mm Grade 3 > 4 mm > 6 mm
表 3 各分類における PS 逸脱数
ハイブリッド群 透視群 p-value * PS(本) 1,463 427
Grade 0 1,410(96.4%) 394(92.3%) < 0.001 Grade 1 44(3.0%) 21( 4.9%) 0.057 Grade 2 5(0.3%) 10( 2.3%) < 0.001 Grade 3 4(0.3%) 2( 0.5%) 0.529 Grade 2, 3 9(0.6%) 12( 2.8%) < 0.001
*カイ二乗検定
透視群 5 本(15.2%),尾側逸脱はハイブリッド群 7 本(13.5%),透視群 3 本(9.1%)であった.両群 ともに外側逸脱が最も多く,頭側逸脱は認められな かった(表 4).
また,ハイブリッド群で術中 CT 撮影時に逸脱を 確認し術中に修正し得た PS は 110 本(13.3%)で あった.内訳は,内側逸脱が 77 本(70%),外側逸 脱が 28 本(25.5.%),尾側逸脱が 5 本(4.5%)であっ た(図 2).術中修正した逸脱を疾患別で比較する と,脊柱変形が 69 本(9.4%)と最も多く,変性疾 患では 28 本(6.6%),外傷では 5 本(7.1%),転移 性 脊 椎 腫 瘍 で は 7 本(7.5%), 脊 椎 炎 で は 1 本
(1.1%),思春期特発性側弯症は 0 本であった(図 3).
代表症例を図 4 と図 5 に示す.
考 察
椎弓根スクリューは,従来のフックやワイヤーよ りも固定力が得られることから脊椎固定術おける標 準的な手術手技となっている.また,脊柱変形に対 する矯正固定術では,PS の適切な設置による強固 な固定力が求められるうえに,椎体の回旋変形を伴 うため適切な設置が得られないと,神経・血管損傷
や矯正損失による再手術を必要とすることがある.
近年,安全な PS 設置を目的とした刺入精度の報告 は数多くされており,その刺入精度は X 線透視で は 59 〜 85%,ハイブリッド手術室では 88%,CT ナビゲーションシステムでは 88 〜 99%と報告され
ている
3,7‑10).当院の刺入精度が 96.4%であること
から,他のハイブリッド手術室を用いた報告と比較 しても精度は高く,現在もっとも精度が高いとされ る CT ナビゲーションシステムとも同等の精度であ るといえる.
Bydon らは術中 CT を用いて 9%の PS を術中修 正したと報告している
2).当院では 13.3%の逸脱を 術中に修正したことで,Grade 2 以上の逸脱を 0.6%
に低減することができた.また,術中修正した PS の 48.2%が脊柱変形症例であることから,PS の適 切な設置が困難であり,強い矯正固定力を要する脊 柱変形症例におけるハイブリッド手術室の有用性は 高いと考えられる.PS 刺入の難易度は設置する椎 弓根の径や側弯変形に伴う回旋(凹側,凸側)に よって異なる.脊柱変形症例では側弯頂椎に近づく につれ椎体が凸側に回旋するため,椎体高位に応じ た刺入位置と角度を考慮する必要があり,術前 CT
図 2 術中修正した椎弓根スクリュー(高位・逸脱方向) 図 3 術中修正した椎弓根スクリュー(疾患別)
表 4 PS の逸脱方向
外側 内側 前方 尾側
ハイブリッド群(n = 52) 19(36.5%) 18(34.6%) 8(15.4%) 7(13.5%)
透視群(n = 33) 14(42.4%) 11(33.3%) 5(15.2%) 3( 9.1%)
画像を用いたプランニングが必要不可欠である.し かし,脊椎手術は腹臥位での手術が多く,脊椎の可 動性から術前 CT とアライメントが異なる.そのた め,術中体位で CT 画像を得られるハイブリッド手 術室の高度変形症例における有用性は高い
5). 脊椎手術におけるハイブリッド手術室の利点とし ては,透視画像の解像度が従来の透視装置よりも優 れていること,40
×50 cm の大型フラットパネル
により 1 度に広範囲の撮影が可能で,手術台とも連 動しているため操作性も良好である.そして,リア ルタイム CT 画像が得られることである
5,7,11).それ により,術後合併症につながるような PS 逸脱がな いことを術中に確認できることは,患者のみならず 術者にとっても有用であると考える.しかし,問題 点として,C-arm の開口スペースが 80 cm と限られ ているうえに大型フラットパネルが付いているた
図 4 症例提示 82 歳 女性 後側弯変形.
a:初回マーカー設置後.側弯変形により椎体回旋を認める L4 高位における外側逸脱.
b:マーカー再設置後.刺入位置と角度を修正し至適位置に設置.
c:術後 CT.術中修正により椎弓根スクリューの逸脱を回避
図 5 症例提示 81 歳 女性 後側弯変形.
a:初回マーカー設置後.側弯変形により椎体回旋を認める T12 高位における内側逸脱.
b:再設置後.大動脈との位置関係を確認したうえで,刺入角度を修正し至適位置に設置.
め,術中のインストゥメンテーション操作に支障を きたすこと,患者被爆量の増加があるとされる
5,7,11). ハイブリッド手術室ではスムーズな手術進行のため に放射線技師を含めたコメディカルスタッフとの連 携が重要となるが,この点は運営開始当初と比べて 改善したと考えている.脊椎手術において外科的手 術手技向上のために努力し続けなければならない が,高度変形症例の脊椎手術を数多く行う当脊椎外 科センターにおいて,術中 C-arm CT を用いた画像 支援ハイブリッド手術室はより安全で正確な手術を 目指すうえで有用である.
文 献
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