特 集 最近の耳鼻咽喉科治療
当院における原発性副甲状腺機能亢進症手術症例の検討
昭和大学横浜市北部病院耳鼻咽喉科
志村 智隆
は じ め に
原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)の根本治療 は病的腺の完全摘出である.PHPT の多くは単一腺 腫 が 原 因 で あ り 低 侵 襲 手 術 で あ る 単 腺 摘 出 術
(focused approach) ま た は 一 側 探 索(unilateral exploration)が行われ,その成績も良好である1‑4). 今回,当施設にて経験した PHPT 手術症例を対象 として術後 intact-PTH 値,血清 Ca 値の推移から 治療成績を検討し問題点を考察した.また,PHPT と診断された副甲状腺摘出術(PTx)症例において 二次性(腎性)副甲状腺機能亢進症(以下 SHPT)
による過形成との鑑別が困難であった症例を経験し たので併せて報告する.
対 象
昭和大学横浜市北部病院で 2001 年 4 月〜 2015 年 3 月までに行われた副甲状腺手術症例は 342 例あり,
内訳は PHPT60 例,SHPT282 例である.このうち PHPT 手術症例である 60 例を対象とした.術式は 単 腺 摘 出 術(focused approach)/ 一 側 探 索 手 術
(unilateral exploration)または両側探索手術(bi- lateral exploration)で行った.皮膚切開は前頸部 に 3.0 cm 〜 4.0 cm の横切開とし,皮弁を挙上し白 線上を剥離,前頸筋群を温存しつつ甲状腺峡部を露 出する.次いで患側葉と前頸筋を分離し,患側葉に 吸収糸をかけて翻転,腫大腺を確認し摘出する.術 前の画像検査にて単腺腫大が確実であれば腫大腺摘 出のみで終了(focused approach),術者の判断で 同側の正常腺の確認を行う場合,非腫大腺に明らか な異常がなければ対側の探索は行わず手術終了とし ている(unilateral exploration).術前検査で両側 の病変およびその可能性が指摘されている場合には 4 腺を確認し腫大腺を全て切除する術式(bi lateral
exploration)を施行した.PHPT に対する外科治 療成績は,手術当日または翌日の術後採血における intact-PTH 値,血清 Ca 値を測定し,正常化した場 合には改善と評価した.外科治療による合併症につ いては反回神経麻痺(一過性,持続性),術後出血 の頻度を調査した.
結 果
手術症例の年齢分布は 28 歳〜 89 歳で平均 60.6 歳(中央値 60.5 歳),男女比は 1:1.6 であった.術 前検査では intact-PTH 値 71 〜 1,499 pg/ml,血清 Ca 値 10.3 〜 13.2 mg/dl であった.
術後病理診断は腺腫 52 例,過形成 8 例,実施手 術 内 容 は focused approach ま た は unilateral ex- ploration が 54 件, bilateral exploration が 6 件 で あった.術後 intact-PTH 値,血清 Ca 値の低下を 指標とした評価では改善率は 58/60 症例と 98%で あった.術後 PTH 高値が持続した 2 例の詳細は過 形成に対して 1 腺摘出のみを行ったものが 1 例,腺 腫の頸部遺残 1 例であった.腺腫の最大径は最小 8 mm 〜最大 100 mm で平均は 21.0 mm であった.
最大径 100 mm の症例は,長期経過により腺腫が増 大し縦隔内へ伸展していた.術後合併症としてのテ タニー,反回神経麻痺は認めなかった.術後出血を 1 例(1.7%)に認めた.
考 察
PHPT は無症候性の高 Ca 血症を契機に診断され ることが多い疾患である.性差は 1:2 〜 3 で男性 よりも女性に多く発症のピークは40〜50代であり,
50 歳以上の女性では 500 人に 1 人の発症率とする 報告がある5‑8).
PHPT は持続する高 Ca 血症,高 PTH 血症,頸 部エコーによる副甲状腺腫大の確認により容易に診
断できることが多い.治療方法は,家族性低 Ca 尿 性高 Ca 血症や MEN1 などの特殊な病態を除けば 外科治療が唯一の根本治療となる4).手術方法につ いては,従来 4 腺確認法(bilateral exploration)が 行われてきたが,近年の術前画像診断の精度や術中 intact-PTH 値測定の技術進歩により低侵襲手術と して focused approach または unilateral exploration が行われるようになってきた2,9,10).PHPT の手術 適応とその変遷について表 1 に示した.PHPT の根 本治療は前述の如く外科的切除が基本となるが,無 症候性が多くを占めるこの疾患に対する治療法の選 択のために 1990 年に PHPT の診断,治療に対する NIH ガイドラインが発表された11).その後 2002 年,
2008 年,2013 年に骨密度の評価方法や測定項目に ついての改定がなされ,現在に至る4)(表 1).保存 的に経過観察可能な症例については 2013 年のガイ ドラインでは年に 1 回の血清 Ca 値,Cre 値の測定 および 1 〜 2 年に 1 回の骨密度(3 部位:橈骨,腰 椎,大腿骨)の測定を含めた定期診察を勧めてい る.腰背部痛等の症状を有する場合には X 線や
VFA による椎体の評価も推奨されている4)(表 2).
この様な経過観察が困難な症例に対しては,外科治 療を選択する必要がある.
われわれが当施設にて扱った副甲状腺手術は 2001 年 4 月 〜 2015 年 3 月 ま で に 342 例 あ る が,
PHPT はこのうち 60 症例であった.諸家の報告に よると,PHPT に対する外科治療の改善率はいずれ も 94%以上1‑4)であり術後合併症も反回神経麻痺や 術後出血の報告は低率であり,当科の成績も反回神 経麻痺は認めず,術後出血も約 1.6%と同等であっ た1,12).
術後の経過観察は,腫大腺のみの摘出で術後病理 診断も腺腫であった場合には長期的な診察は不要と 考えられるが,術後病理診断が過形成の場合には,
定期的な intact-PTH 値や血清 Ca 値の測定が必要 である.
症例:原発性か二次性か?
症例は 64 歳男性.数年前より原発性副甲状腺機 能亢進症の診断で紹介元内科が経過観察中,画像所
表 1 NIH ガイドライン 2013 無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応とその変遷
1990 年 2002 年 2008 年 2013 年
血清 Ca 値(mg/dl)
(基準上限値より) 1.0 〜 1.6 1.0 1.0 1.0
骨密度 Z-score <−2.0
(前腕)
T-score <−2.5
(橈骨,腰椎,大腿骨)
骨脆弱性の既往※
T-score <−2.5
(橈骨,腰椎,大腿骨,股関節)
椎体骨折の指摘 eGFR 値 GFR(Cockcroft-Gault)30% 以上の低下 eGFR < 60 ml/min eGFR < 60 ml/min
24hr 尿中 Ca(mg/dl) > 400 > 400
腎結石の指摘
年齢 < 50
※ 50 歳未満の男性と閉経前女性は Z-score を用いる
表 2 NIH ガイドライン 2013 無症候性原発性副甲状腺機能亢進症の経過観察時における推奨検査
1990 年 2002 年 2008 年 2013 年
血清 Ca 値測定 半年毎 半年毎 年 1 回 年 1 回
骨密度測定 年 1 回
(前腕) 年 1 回 1 〜 2 年に 1 回 1 〜 2 年に 1 回
(橈骨,腰椎,大腿骨)
椎体の評価※
(橈骨,腰椎,大腿骨)
血清 Cre 値
eGFR 値 年 1 回 年 1 回 年 1 回 年 1 回
結石の評価※
※腰背部痛等の症状がある場合には X 線または VFA による椎体評価を推奨
※結石の risk が高い場合には US,CT 等での結石評価を推奨
見にて甲状腺両葉背側に嚢胞性腫瘤を指摘され精査 加療目的で 2014 年 Y 月に当院当科紹介受診.既往 歴に腎機能低下(CKD stage 3),高血圧症,高尿酸 血症を認めたが非透析症例である.喫煙歴は 20 本 / day×46 年間(BI:920).常用薬はシナカルセト,
アムロジピン,フェブキソスタット.初診時の頸部 触診上,特に異常は認めず,頸部 CT にて甲状腺右 葉背側に最大径 15 mm 大と 10 mm 大,左葉背側に 50 mm 大の嚢胞性腫瘤を認めた(図 1 a, b, c).血 液検査上,intact-PTH 値は 658 pg/ml,血清 Ca 値 は 10.3 mg/dl と高値であったが PTH-rP 値は 1.1 pg/
dl 未満であった.以上より副甲状腺癌は否定的で あり,副甲状腺機能亢進症,副甲状腺複数腺腫大と 診断.① Adenoma(+非機能性嚢胞),② Double adenoma,③原発性過形成,④ SHPT(腎機能低下 があるため)の可能性を念頭に 200X 年 Y + 1 月初 旬に bilateral exploration による PTx を施行した.
手術は前頸筋群を温存し甲状腺を露出し翻転,高度 腫大かつ嚢胞変性を呈した左右上副甲状腺,軽度腫 大した右下副甲状腺を確認し摘出した(図 2).左 下腺は甲状腺下極周囲の剥離と胸腺舌部の摘出も 行ったが発見には至らなかった.術後 intact-PTH・
血清 Ca 値は速やかに正常化した.病理組織はいず れも atrophic rim を認めず過形成の診断であった.
術後合併症はなく,術後 3 日目に退院し現在外来に て経過観察中である.
本症例が原発性過形成か二次性(腎性)過形成な のかについての考察を行う.一般的に PHPT の約 90%は腺腫が原因とされ,過形成は 2 〜 15%と報 告されている2,13).病理診断による本症例の副甲状 腺機能亢進症の原因として腺腫と癌は否定され,原 発性過形成あるいは二次性副甲状腺機能亢進症(過 形成)のいずれかの診断となった.過去 13 年間に 当科で行った副甲状腺手術は 342 例であり,その内 訳は PHPT60 例(18%),SHPT282 例(82%)であっ た.SHPT282 例の腎機能に関して非透析例(中等 度以下の腎機能障害例)は認めなかった.一方で PHPT60 例の中で複数腺腫大例は本症例を除いて認 めなかった.SHPT においての副甲状腺過形成を生 じるメカニズムの一つとして,長期間に及ぶ高 P 血症が挙げられているが,本症例では前医採血デー タ,当院採血データともに高 P 血症は認めなかっ た.以上より,本症例における複数腺の副甲状腺腫 大は腎機能障害に由来した二次性副甲状腺機能亢進
図 1 甲状腺右葉背側に 10 mm 大,15 mm 大,左葉 背側に 50 mm 大の嚢胞性腫瘤を認めた.
a:甲状腺右葉背側の 15 mm 大腫瘤(図中丸印+矢印)
b:甲状腺右葉背側の 10 mm 大腫瘤(図中丸印+矢印)
c:甲状腺左葉背側の 50 mm 大腫瘤(図中丸印+矢印)
症によると確定することはできないものと考えてい る.しかしながら,腎機能低下を認める副甲状腺機 能亢進症においては単腺腫大の PHPT と安易に診 断せず,画像診断(頸部エコー,頸部 CT,MIBI シンチ)を行い副甲状腺が複数腺腫大していないか 慎重に評価する必要がある.副甲状腺の画像診断に ついては中駄ら,Guerin らが種々の報告を行って お り, 頸 部 エ コ ー,CT,MIBI シ ン チ,SPECT,
PET/CT のそれぞれの利点を検討している14,15). Hindié らは PHPT において病的腺の確実な局在診 断と適切な focused approach,および複数腺病変 の発見のための MIBI を含めた核医学検査の重要性 を強調している10).手術方法に関しては,腎機能低 下症例では常に bilateral exploration を行うことを 検討すべきである.
本症例は術中所見で 3 腺腫大に加え 3 腺それぞれ が嚢胞化していた.過形成に嚢胞性変化を伴った報 告はわれわれが渉猟した限り国内で 3 例のみ16‑18), このうち複数の副甲状腺に嚢胞性変化を来たした報
告は 2 例のみであった17,18).われわれは,本症例の 嚢胞変化の理由の一つにシナカルセトの作用を考え ている.シナカルセトは副甲状腺細胞表面の Ca 受 容体を介して作用を発現する.Ca 受容体は PTH 分泌に加え,PTH 生合成および副甲状腺細胞増殖 を制御している.シナカルセトは Ca 受容体に作動 し主として PTH 分泌を抑制することで血清 PTH 値を低下させる.また,反復投与による副甲状腺細 胞増殖抑制作用も血清 PTH 濃度低下に寄与すると 考えられている.しかし,シナカルセト投与による 有害事象として副甲状腺の①出血壊死,②嚢胞化,
③線維化が報告されている19).これらにより副甲状 腺組織の周囲との癒着が強まり,PTx における副 甲状腺の周囲組織からの剥離,反回神経の同定温存 を困難にする場合があり注意が必要である19).今 後,PHPT 症例におけるシナカルセト使用症例が増 加するものと考えられ,シナカルセトの副甲状腺へ の作用を認識しておく必要がある.
ま と め
原発性副甲状腺機能亢進症は,多くは単腺摘出に より良好な予後を得られる疾患である.しかしなが ら,術前検査にて副甲状腺の複数腺腫大を認めた場 合には腎機能障害等を考慮し,腎臓内科医師も含め た症例検討を行った上で手術加療を検討すべきであ り,両側に病的腺の存在を疑う場合には bilateral exploration が必要である.
文 献
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図 2 2014 年 X + 1 月,PTx 施行.前頸筋群を 温存し甲状腺を翻転,高度に腫大し,且つ 嚢胞変性を呈した左右上腺,軽度腫大した 右下腺の計 3 腺を摘出した.入念な探索を 行ったが左下腺は不明であった.尚,右上 腺の高度嚢胞性変化は術前の CT,頸部エ コーでは検出することができなかった.
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