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金型用クロム含有鉄鋼材料および超硬合金の電解加 工に関する研究

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(1)

金型用クロム含有鉄鋼材料および超硬合金の電解加 工に関する研究

著者 王 思聰

発行年 2020‑12

出版者 静岡大学

URL http://doi.org/10.14945/00028254

(2)

i

博士学位論文

金型用クロム含有鉄鋼材料および超硬合金の 電解加工に関する研究

2020年12月

静 岡 大 学

大学院自然科学系教育部 環境・エネルギーシステム専攻

王 思聰

(3)

ii

論 文 要 旨

Abstract of Doctoral Thesis

機械部品の大量生産において,金型の重要性は益々高まっている.金型材料としては,

鋼材が最も多く使用されるが,最近では,生産する部品に対する要求が高まっており,

それにこたえるために超硬合金も多く使用されるようになってきている.

工具鋼および超硬合金の金型を製作するため,主に切削加工,研削加工,放電加工が活 用されている.しかし,これらの加工方法は加工速度が遅く,相当の加工時間がかかる.そ こで,本研究では,高速加工の方法として,電解加工に注目している.

電解加工は電気化学の原理を生産加工に応用した技術である.加工速度が速いなど,多く の長所を持っているが,1980 年代以降金型の製造方法としてはあまり用いられていない.

その原因については主に二つ考えられる.一つは加工精度の問題であり,もう一つは電解液 処理の問題である.すなわち,金型材料として,多く使用されている工具鋼は主にクロムを 含む材料であり,電解加工中に六価クロムを生成するという問題があり,電解液を処理する 必要がある.また,電解加工の加工精度が悪く,特に最近使用量が増えている超硬合金材料 の高精度な電解加工はまだ実現していない.

以上のような状況を踏まえ,本研究では,金型の材料として多く使用されているクロムを 含む鉄鋼材料と超硬合金との電解加工方法の問題点を解決するため,以下の 2 点に注目し た.

1. 難加工材である超硬合金の高精度で高効率な電解加工方法について検討する.

2. Crを含む鉄鋼材料の電解加工過程中六価クロムの生成防止について検討する.

第1章「緒論」では,まず,金型の現状,使用材料および加工方法を概説する.本研究で は,金型の高速加工を実現するため,電解加工に注目した.第1章では,電解加工の加工原 理,歴史および問題点について説明し,本研究の目的と本論文の構成について説明した.

第2章「電解液電気分解を利用した単極性パルスによる超硬合金の電解加工」では,中性 電解液と両極性の電源を使用することで,超硬合金の電解加工の際に,電極の消耗という問 題が生まれていることに対して,中性の電解液を用いつつ,単極性の電流により超硬合金を 加工する方法を提案した.電解液のフラッシング流路に電気分解装置を設け,加工するとき の電解液だけをアルカリ性にし,加工槽・加工液タンク中の電解液をほぼ中性に保つ方法を 考案した.実験では,まず,電解反応の生成物であるWO3が加工の進みを妨げるので,WO3

を溶解するため,必要な電解液のpH値を検討した.次に,陽イオン交換膜を利用し,酸性 とアルカリ性液を分離できることを確認した.最後に,加工電源により単極性と両極性とで

(4)

iii

加工する場合の電極消耗状況の違いを調べた.両極性電源で使用した条件では,電極が消耗 するのに対して,単極性電源で加工する場合は電極が無消耗にできることがわかった.

第3章「電解現象による超硬合金のミーリング加工」では,超硬合金の高精度で高効率な 電解加工方法を検討した.超硬合金の加工,特に冷間鍛造金型等を対象にした三次元の高 速・高精度な加工方法をエンドミルのような回転工具による加工で実現するために,電解現 象で超硬合金の結合剤であるCoを除去し,その後, Co が抜けて脆弱化になった超硬合金 をミーリング加工による除去する加工方法を提案した.電解現象を利用したミーリング加 工では,電解作用を用いない場合と比べて切削抵抗が大幅に低減することを確認できた.切 削抵抗が低減できた理由は,Coの溶出による材料強度の低下であることを確認した.また,

印加電圧を上げると,電解の反応が速くなり,切削抵抗が小さくなることがわかった.逆に,

工具送り速度が大きいほど電解の影響が小さくなり切削抵抗が大きくなることがわかった.

第4章「鉄イオン添加電解液による六価クロム生成の防止」では,ステンレス鋼などクロ ムを含む鉄鋼材料の電解加工中,六価クロムを生成防止する方法について検討した.すなわ ち,鉄切粉を詰め込んだ装置(以下「鉄フィルター」と呼ばれる.)を用いて,電解液へ大 量のFe2+イオンを供給し,六価クロム生成の防止を試みた.まず,電解液を鉄フィルターに 通すことで,電解液に鉄イオンを供給できることを確認した.次に,鉄フィルターを循環さ せた電解液を用いてステンレス鋼を電解加工したところ,電解液中の六価クロムを大幅に 低減できた.その後,電解加工過程中に,電解液中の六価クロムの生成速度と六価クロムを 還元できる Fe2+イオンの量の関係を調べた.電解液へ Fe2+イオン供給を継続的に行うため には,電解液を非アルカリとする必要があることがわかった.さらに,鉄フィルターを通し た非アルカリ性電解液を用いて電解加工すると,六価クロムの生成を抑えることができる ことを示した.また,中性の電解液を鉄フィルターに通しただけでは加工するCr量に見合 うだけのFe2+イオンを継続して供給することはできず,Fe2+イオン濃度が低下していくこと もわかった.

第5章「結論と展望」では,第2章から第4章までに得られた新たな知見を要約し,本論 文の結論を述べる.さらに,本研究の成果に基づき,今後の電解加工の展望について述べた.

(5)

I

金型用クロム含有鉄鋼材料および超硬合金の電解加工に関する研究 目次

1

章 緒論

... 1

1.1 金型の現状 ... 1

1.2 金型の材料 ... 1

1.3 金型の加工方法 ... 3

1.4 電解加工の歴史 ... 4

1.4.1 電解加工電源に関する研究 ... 4

1.4.2 電解加工の加工技術・制御技術 ... 5

1.4.3 電解加工機の発展 ... 5

1.4.4 電解複合加工... 6

1.5 電解加工の基礎 ... 7

1.5.1 電解反応とは... 7

1.5.2 電解加工の応用 ... 10

1.6 本研究の背景と目的 ... 12

1.6.1 本研究に関する先行研究 ... 12

1.6.2 背景と目的... 13

1.7 本論文の構成 ... 14

2

章 電解液電気分解を利用した単極性パルスによる超硬合金の電解加工

.. 16

2.1 はじめに ... 16

2.2 中性電解液と単極性電流による加工の理論 ... 19

2.2.1 中性電解液と単極性電流による加工の構想 ... 19

2.2.2 電解液の電気分解試験 ... 20

2.3 WO3の溶解ための電解液のpH値調査 ... 22

2.4 NaCl電解液の電気分解試験 ... 22

2.4.1 電解液のアルカリ化試験1 ... 22

2.4.2 電解液のアルカリ化試験2 ... 25

2.5 陽イオン交換膜による電解液の分離 ... 28

2.5.1 陽イオン交換膜の導入 ... 28

2.5.2 陽イオン交換膜を利用した電気分解試験 ... 30

2.5.3 陽イオン交換膜による電解液の電気分解 ... 32

2.6 両極性電源加工の電極消耗調査 ... 35

2.7 単極性電源加工の電極消耗調査 ... 39

(6)

II

2.8 まとめ ... 42

3

章 電解現象を利用した超硬合金のミーリング加工の研究

... 44

3.1 はじめに ... 44

3.2 加工方法の概略 ... 45

3.3 電解作用による現象 ... 47

3.4 電解現象を利用したミーリング加工実験 ... 53

3.4.1 加工実験 ... 53

3.4.2 加工面の分析... 58

3.4.3 加工屑の分析... 60

3.4.4 Co溶出の範囲についての考察 ... 60

3.4.5 加工断面の分析 ... 62

3.5 高速加工の検討 ... 64

3.5.1 切削加工条件... 64

3.5.2 電解条件と送り条件による加工量の変化 ... 64

3.5.3 加工面の分析... 66

3.6 まとめ ... 69

4

Cr

を含む鋼材の電解加工における鉄イオン添加電解液による六価クロム生 成防止の研究

... 71

4.1 はじめに ... 71

4.2 電解液へのFe2+イオンの添加実験 ... 72

4.2.1 電解液へのFe2+イオンの添加方法 ... 72

4.2.2 Fe2+イオン添加電解液での加工実験 ... 73

4.2.3 pH値の六価クロムの生成への影響 ... 76

4.3 電解液中のFe2+イオン濃度の測定 ... 78

4.3.1 Fe2+イオンの供給量の測定 ... 78

4.3.2 電解液のpH値調整によるFe2+イオンの供給 ... 80

4.4 六価クロムの溶出速度の調査 ... 81

4.5 Fe2+イオンの量と六価クロム抑制の関係 ... 85

4.6 電解加工時の電解液中イオン濃度変化 ... 86

4.7 まとめ ... 87

5

章 結論と展望

... 90

5.1 本研究により得られた成果 ... 90

5.1.1 単極性パルスによる超硬合金の電解加工 ... 90

(7)

III

5.1.2 電解現象を利用した超硬合金のミーリング加工の研究 ... 91

5.1.3 Cr を含む鋼材の電解加工における鉄イオン添加電解液による六価クロム生成防止の 研究 ... 92

5.1.4 まとめ ... 93

5.2 展望 ... 93

謝辞

... 96

参考文献

... 97

論文目録

... 103

公表論文

... 104

(8)

第 1 章 緒論

1.1 金型の現状

機械部品を大量に生産するため,金型が使われており,ものづくりにとって,金型産 業は不可欠である 1.1.図 1.1 は日本における金型の生産額と数量を示したグラフであ る1.2.2008年のリーマンショックの影響を受けて,金型の生産額が大幅に減少したが,

最近10年はほぼ右肩上がりで回復してきている.

一方,金型の生産数量データの曲線から見ると,11年に減少が続いており,金型一型 当たりの単価は上がっていることがわかる.これは金型が精密になったり,複雑化した りするなど「加工が難しい金型が増えた」からであり,金型の製造が課題となっている

1.3

1.2 金型の材料

金型に使用される材料は多くある.大きく分けて,「鉄鋼材料」と「非鉄鋼材料」の2 つに分類される.図1.2に,金型材料の分類を示している1.4

鉄鋼材料としては,機械構造用鋼,工具鋼,ステンレス鋼など特殊鋼が多く使用して いる.非鉄金属材料としては,超硬合金,アルミニウム合金,銅合金などが使用してい る.これらの中で最も多く利用されているのは,工具鋼である.最近では,高精度な部 品を大量に製造するため,超硬合金を金型材料として使う動きが広がりつつある.

(9)

図1.1 日本の金型の生産額と数量

図1.2 金型材料の分類

(10)

1.3 金型の加工方法

金型の加工方法には切削加工,研削加工と放電加工等の方法が使用されている1.5. 金型の製造で最も活用されることが多いのが「切削加工」と呼ばれる加工方法である.

切削加工とは切削工具を使って材料を除去する加工方法である.金型の製造には,主に マシニングセンターという切削加工機械で入力したデータどおりに金属を自動で切削 し,金型の加工が簡単に行えるようになってきている.

金型加工の方法としては「研削加工」も広く応用されている.研削加工とは回転する 砥石を利用して,表面を削る加工方法である.この加工方法は精度が非常に高く,金型 の仕上げ時によく使用される.

金型加工では「放電加工」という方法が用いられることがある.放電加工とは,放電 現象で生じる熱により,金属材料を加工する方法である.硬さに関係なく導電性材料が 加工でき,複雑な形状も加工できるなどメリットがある.主に超硬合金等材料の加工に 使用している.

しかし,これらの加工方法は相当の加工時間がかかる.金型の製造における重要な課 題の一つは「速く安く」ということである.そこで,加工時間を短縮するため,本研究 では,高速加工の方法として,電解加工に注目している.

電解加工(Electrochemical machining, ECM)は,電気化学(Electrochemistry)の原理を 生産加工に応用した技術である.難加工材の加工が可能であり,複雑な形状と滑らかな 表面を有する部品の製造に適している.さらに,工具電極の消耗がない,加工速度が速 い,複雑な輪郭や空洞を形成することができるなど,多くの長所をもつ1.61.71.8)

(11)

1.4 電解加工の歴史

電解加工の原理,すなわち,電気分解の法則は1833年にMichael Faraday(1791-1867)

が発見した.電解加工は, 1929 年に旧ソビエト連邦の学者 W.Gussef が電解加工試験 を実施したのが始まりといわれている1.9.その後1952 年に米国のSUPER-CUT 社が 超硬バイト加工用の電解研削盤を開発したという話が有名で,その当時日本企業各社が この技術を導入しようと躍起になったそうである1.10.しかし,実際にはそれほど普及 しなかったようである1.10.1958 年には,米国のAnocut Engineering Company がガス タービンの加工を目的として電解加工機をシカゴMetal Show に初出品しており,これ が,最も代表する電解加工の応用例の一つである1.10

その後各国で電解加工に関する研究が行われたが,(1)電解加工電源に関する研究,

(2)電解加工の加工技術・制御技術,(3)電解加工機の発展,(4)電解複合加工,と分けて 説明する.

1.4.1 電解加工電源に関する研究

1929 年に電解加工が発明された以来,しばらくの間は,電解加工に使用された電源 は直流電源であった.1960年代後半から,半導体整流器の進歩により,直流の大電流が 実現できるようになった.加工用電源として,変圧器と整流器を組み合わせたものが多 く,短絡に対する保護装置を内蔵しているのが普通であった.電圧は 5~20V,電流は

1000~10000Aのものが多かった1.11).1970年代にサイリスタ整流方式直流電源技術が発

展し,出力電圧精度を1%までに高め,短絡保護時間を10msに短縮した.直流電源の進 歩だけではなく,電解加工の加工精度と表面品質を向上させるため,加工用電源は直流 電源からパルス電源に発展した.1960年代には,伊東ら1.12)は電解加工のために従来の 直流電流の代わりに,単相半波電流を用いれば加工精度は向上することを報告した.ま

(12)

た,単相半波電流だけではなく,矩形波電流によっても精度の高い加工を行うことがで きた1.13.1970~1980年代には,周波数が高い,パルス幅が狭いパルス電流による電解 加工は加工精度がさらに高くなることが報告された1.14).1990年代には,パルス周波数 を上げて,短絡時の電流遮断時間を短くできる電源が開発された1.15).また,2000 年頃 から欧州を中心に電解加工の高精度加工,微細加工の研究が進められた.例えばSchuster

1.16)Kock1.17)は,極微小な電流パルスを用いて,電解加工により数µm 程度の三

次元形状の微細加工ができることを示した.

1.4.2 電解加工の加工技術・制御技術

電源の開発だけではなく,加工技術・制御技術も発展した.例えば,電解液中にコン プレッサーで高圧ガスを混入する方法(Maxed gas electrochemical machining )例えば1.18) や硝酸ソーダ(NaNO3)などの電解液を使用する方法例えば1.19などの研究があり,加工精度 が向上できることを示した.また,他に,例えば,電解加工に関するシミュレーション の研究例えば1.20),1.21,電流および電圧信号によるECMギャップモニタリングの制御技 術例えば1.22)~1.25,などの研究もあった.

1.4.3 電解加工機の発展

実際の市販電解加工機としては,1958年に米国のAnocut Engineering Company がHCS-

59電解形彫機をシカゴMetal Showに発表したのに始まると言われる1.10.その後,1960

年代から,米国,日本,その他の国々は,さまざまな電解加工機の研究を展開し,航空 における部品加工および金型の製造などの分野で応用を実現した1.26).例えば,Battelle 研究所とSifco社との協同研究による電解加工機が1960年に発表され1.27),主としてター

(13)

ビンブレードの加工に用いられた.日本においては,1962年 にJAPAXと三菱電機がそ れぞれ形彫電解加工機を発表したが,それに引き続き日立製作所も実用機を発表した

1.28).1970~1980年代には,制御技術の発展にとともに,NC-電解加工機の開発が盛り上

がた1.29).1990年代に,アメリカのGE社は,高い技術を備えた5軸CNC電解加工機を開発

した1.30).2000年代から,電解加工機の加工範囲は汎用加工分野から精密加工やマイク

ロ加工の分野までの幅広い分野で使用されるようになった1.31).欧州のフィリップス社 がパルス電流を用いて,電解加工でも高精度加工が可能なことを示し,シェーバーの部 品製造に使用した1.32).ヨーロッパのPEMTec社はパルス電流と電極の上下振動を同期さ せること(すなわち,パルス電流が流れるときに,電極を下に移動して加工を行い,パ ルス電流が流れないときに,電極を上に移動してフラッシングのみを行うこと.)で高 精度加工を実現し1.33),2002 年から形彫電解加工機を販売している.

1.4.4 電解複合加工

通常の電解加工とは異なる電解加工の応用技術の研究について概観する.主に電解-

機械複合加工方法,電解-放電複合加工,電解-超音波複合加工,と分けて概観する.

(1)電解-機械複合加工

電解-機械複合加工では,電気化学的な溶解と機械的な作用を複合させた加工方法で ある.一般的に金属材料を電解するときに陽極生成物,特に陽極酸化膜が電解の進行を 妨げるため,機械的な作用で陽極の酸化膜を除去する.これを機械的に削り落すので,

常に新しい面が露出し,効率よく電解されるという加工方法である.例えば,電解研削 は典型的な電解-機械複合加工法である.

(14)

(2)電解-放電複合加工

電解-放電複合加工では,使用される電源がパルス高電圧と直流低電圧で構成されて おり(放電加工する際にパルス高電圧を利用し,電解加工する際に直流低電圧を利用す る.),加工過程中に直流定電圧で電解により陽極酸化膜が生成し,次に,パルス高電 圧電源で放電し,陽極の酸化膜を除去して,新しい表面が得られ,その後電解を行い,

この過程を繰り返して,材料を除去し,高速加工を実現する.

(3)電解-超音波複合加工

電解-超音波複合加工では,電解反応による生成する酸化膜が超音波の高周波振動・

超音波キャビテーションにより除去されるという方法である.超音波振動・キャビテー ションにより電解液の流速が速くなり,電解による生成物を速く除去でき,加工効率が 向上し,加工が可能になる. 精度と表面品質も向上する.

本研究では,電解加工だけでなく,電解複合加工方法も注目している.

1.5 電解加工の基礎

1.5.1 電解反応とは

電解加工は,電気化学反応,すなわち電気分解反応(電解反応)を利用する方法であ る.電解反応とは,陰極と陽極の間に一定の電圧を印加し,直流電流を流すことで,陽 極で酸化反応,陰極で還元反応を起こす電気化学反応である 1.7).電解反応を発生させ るために,電解液と電解液中に挿入された二つの金属導体が必要である.例えば,図1.3 に示すように,鉄の材料と銅の材料の二つ電極を接触しない状態でNaCl電解液中に挿

(15)

図1.3 電解加工原理の概略

(16)

入し,電圧を印加し,電流を流すと,陽極側のFeがFe2+イオンになり, 陰極側に水素 ガスが発生する.通過する電気量と反応によって変化する化学物質の質量との間にはフ ァラデーの法則がある.それは次のような内容である.

(1) 電流を通過するとき,電極の上において析出または溶解する化学物質の質量は 通過する電気量に比例する.

(2) 同じ電気量により析出または溶解する異なった物質の質量は,その物質の化学 当量に比例する.1.8)

1 個の鉄原子を原子価 2 のイオンとなり,溶液に溶出するのに必要な電気量と溶出さ れる質量を考えると,Fe → Fe2++2e- となるので,必要な電気量は 2×e (電気素量) であ る.また,イオンの質量と比べて電子の質量は無視できるので,溶出質量は Fe 原子の 質量, つまりM/NAとなる.ただし,MはFe の原子量,NAはアボガドロ定数である.

したがって,原子量 Mの元素に,時間 t(s)に,電流 I (A)を流すと,原子価nで溶出さ れる元素の質量は式(1.1)で表すことができる.

𝜔 = =

(1.1)

ただし,F(=eNA)はファラデー定数である.この法則では,電解槽に流れる電流がす べて陽極元素の原子の溶出に使われると仮定している.しかし,加工の際,陽極には溶 出以外に,気体の発生等の反応も考えられる.

(17)

10

また,材料が塊となって脱落することもあるので,実際の加工量は,式(1.1)に電流 効率 𝜂 を乗じた値である.なお,実用上では,式(1.2)で表す体積加工速度 𝑉 がよ く使用される.

𝑉 = 𝜂 = 𝜂

(1.2)

ただし,𝜌は元素の密度である1.34)

1.5.2 電解加工の応用

一般的な電解加工装置は,電極の形状を工作物に転写するために使用されることが多 い,装置の概略図を図1.4に示す.電解加工するときには,加工液タンクの電解液をポ ンプで極間に供給し,電圧を印加し,電流を流すことで加工を行い,加工に使用した電 解液を加工液タンクに戻す.鉄鋼材料などの一般的な金属材料の電解加工の場合,工作 物を陽極,電極を陰極として,加工を行う.電解加工では,電流密度が高いほど加工速 度,加工精度,表面粗さが同時に向上するという,他の加工法とは異なる特徴をもつ.

そこで,よい加工結果を得るには,一般的に次のような加工条件を用いる.電流密度が

30-200A/cm2になるように印加電圧を5~20 Vに設定し,加工間隙0.02~0.7 mmとし,間

隙に発生する大量の電解生成物や熱,および気体を速やかに排出するため,流速 6-60 m/s の電解液を加工間隙に供給する.

電解加工の最も顕著な特徴を表1.1にまとめる1.8). 電解加工は硬さ関係なく導電性材 料を加工できる,加工速度が速い,などの長所を持っている.一方,加工精度が悪い,

(18)

11

図1.4 電解加工システムの概略図

表1.1 電解加工の長所と短所

長所 短所

金属材料の機械特性に関係なく加工できる

ので,難加工材の加工に適切である. 加工の間隙が大きく,精度が悪くなる.

工具電極が原理的に消耗しない. 加工状態,極間の検出と制御が難しい.

加工速度が速い. 電解生成物に毒性をもつ場合がある.

加工変質層が生じない. 周囲機械の耐食性対策が必要である.

電解液 タンク ポンプ

電極 電解液

工作物 電源・制御部分

加工槽

(19)

12

廃液の処理に費用がかかる,などの欠点があり,一般的な加工方法として普及するには 至っていない.

1.6 本研究の背景と目的

1.6.1 本研究に関する先行研究

電解加工における金型の加工に関する研究について概説する.

電解加工が金型の製造技術に利用されたのは古く,1967年頃に川船ら1.35)は鍛造用の 金型を電解加工で製造した.この研究はNaCl電解液で加工し,従来の切削加工などの 方法より加工時間が大幅に短縮された.しかし,NaCl 電解液は腐食性が強いため,加 工したくない部分も加工されることがあり,加工精度が悪いという問題があった.加工 精度の問題を解決するため,1970 年代のはじめには,圧縮空気また炭酸ガスをコンプ レッサーで電解液中に混合する方法が多くの電解加工機に使用されている1.36.この方 法で金型の精度は 0.05〜0.15mm になった 1.36.さらに,硝酸ナトリウム(NaNO3)水溶 液,あるいは, それを主体とした他の塩との混合溶液を用いることによって, 加工精度 の大きな向上が得られた1.36).硝酸ナトリウム電解液 + 混合ガス + 適切な加工間隙 の制御による加工方法で,3次元形状の加工精度では0.15 mmになる報告があった1.36. また,低濃度のNaNO3電解液 + パルス電源を使用すると,金型の加工精度を0.15mm

から0.03mm まで向上できること1.36)が報告された.あるいは,電極の振動と同期した

電流(すなわち,電極を下に移動する時に,電源がONにし,加工を行い,その以外の 時間に電源が OFF にし,電極を上に移動してフラッシングのみを行うことである.)

を用い,精度を高める方法も発表されている1.37)

(20)

13

しかし,1980年代には,電解加工と競争する放電加工が発達を続け,加工速度が向上 し電極消耗も少なくなったので,金型の製造には,放電加工方法や放電加工とNCフラ イス加工を組み合せる方法は使用される場合が多くなっていた1.37).それで電解加工が 使用することが少なくなり,電解加工機の生産が少なくなる1.37)

1.6.2 背景と目的

金型の材料として,一般的には工具鋼が多い,最近では,高精度な部品を大量に製造 するために金型材料の超硬合金化が進んできている.

従来,金型の製作ために放電加工が使用される場合には,その後に磨きの工程を行い 放電加工面を除去するのが通例であったが,今では高精度金型の製造では,油の中で安 定した放電加工を行い,加工面粗さ0.4㎛Rz(超硬合金厚さ80mm)を達成できる報告 されている1.38).また,近年切削加工の技術が進み,切削速度が向上するとともに,従 来難削材といわれていた材料でも切削できるようになった.電解加工には切削加工ある いは放電加工より加工速度が速いが,金型の加工方法としては使用されない.その原因 は主に二つ考えられる.一つは加工精度の問題であり,もう一つは電解液処理の問題である.

金型の材料としては工具鋼や超硬合金が多く使用している.超硬合金の電解加工は NaNO3やNaCl水溶液などの中性電解液を用いて加工した場合,工作物面上に絶縁性の 酸化被膜である酸化タングステンが形成され,加工が困難になる 1.7)(電解加工する際 に,工作物は導電性がないと,加工がいけない.).NaOHを混入すれば酸化タングス テン被膜が除去され加工が進む1.7)が,NaOHの使用は望ましくない.一方,両極性電源 と中性電解液を利用することで超硬合金の電解加工ができること1.39を報告した.しか し,電極の消耗があり,高精度な加工ができないと考えられる.

(21)

14

また,多くの工具鋼やステンレス鋼の中にはクロムを含んでいるため,電解加工する ときに電解液中に六価クロムが生成し,電解加工の問題として取り上げられることが多 い.六価クロムは人体や環境に影響があり,法律の規制が厳しく,処理する必要がある.

以上のような状況を踏まえ,本論文では,金型の材料として多用されているクロムを 含む鉄鋼材料と超硬合金との電解加工方法を生産現場に応用できるため,以下の2点に 注目している.

1. 難加工材である超硬合金の高精度で高効率な電解加工方法について検討する.

2. Crを含む材料を電解加工過程中に六価クロムの生成防止について検討する.

1.7 本論文の構成

本論文は5章から構成されている.

第1章「緒論」では,まず,金型の現状,使用材料および加工方法を概説する.本研 究では,金型の高速加工を実現するため,電解加工に注目した.第1章では,電解加工 の加工原理,歴史および問題点について説明し,本研究の目的と本論文の構成について 説明した.

第2 章「電解液電気分解を利用した単極性パルスによる超硬合金の電解加工」では,

超硬合金の高精度な電解加工を実現するため,中性電解液を用いつつ,電極の無消耗加 工方法を提案する.すなわち,中性電解液を用いつつ,単極性電流で電解加工する方法 を検討する.陽イオン交換膜を利用して,酸性とアルカリ性液を分離することより単極 性電流で加工する方法について検討する.

第3章「電解現象による超硬合金のミーリング加工」では,超硬合金の高精度で高効 率な電解加工方法を検討する.超硬合金の加工,特に冷間鍛造金型等を対象にした三次 元の高速・高精度な加工方法をエンドミルのような回転工具による加工で実現すること

(22)

15

を目指す.すなわち,Coを溶出した超硬合金の強度が低下してしまう弱点を利用して,

電解作用で,CoをCo2+にして溶解し,そのあと,切れ刃で,Co が抜けて脆くなった超 硬合金を効率的に削り取ることができると考えられる.加工実験を行い,提案する加工 方法の有効性を検討する.

第4章「鉄イオン添加電解液による六価クロム生成の防止」では,電解液の処理問題 に注目した.特にステンレス鋼などクロムを含む材料の電解加工ときに電解液中に六価 クロムが生成するという問題に対し,六価クロムが生成した後の処理方法ではなく,加 工中に六価クロムの生成自体を防止する方法を検討する.鉄切粉を詰め込んだ装置(以 下「鉄フィルター」と呼ばれる.)を用いて,電解液へ大量のFe2+イオンを供給し,六 価クロムの生成の防止を試みた.

第5章「結論と展望」では,第2章から第4章までに得られた新たな知見を要約し,

本論文の結論を述べる.さらに,本研究の成果に基づき,金型の電解加工への展望につ いて述べる.

(23)

16

第 2 章 電解液電気分解を利用した単極性パルスによる 超硬合金の電解加工

本章では,最近に使用量が増えている金型材料である超硬合金の高精度な電解加工が 実現していない問題に注目している.超硬合金はアルカリ性電解液の電解液を用いるこ とで単極性の電源で加工できるが,劇薬を使用することで安全面の問題がある.一方,

中性電解液と両極性電源を使用することで,安全面の問題が改善することができる.し かし,両極性電源を使用することで,電解加工の利点の一つである電極の無消耗加工が できなくなる問題が生まれる.高精度加工ができないと考えられる.その問題に対して,

中性電解液を用いつつ,電極の無消耗加工するため新たな方法を提案した.すなわち,

中性電解液を用いつつ,単極性電流で電解加工する方法を検討した.

2.1 はじめに

超硬合金を電解加工により加工しようという試みは古く,1950 年代にはアメリカ

の SUPER-CUT 社が超硬合金バイト加工用の電解研削盤を開始し発表したそうである

2.1).形彫加工としての超硬合金の電解加工技術としては,前田ら 2.2)による研究が最初 である.これまで超硬合金の電解加工については研究例があるが2.3)~2.14),まだ一般的な 技術とはなっていない.

一般的な電解加工は,電解液とよばれる加工液中に電極と工作物を浸し,電極を陰極 として,電流を流すことで工作物を高速に除去加工する方法であるが,超硬合金の場合 には,金属ではないタングステンカーバイド(WC,超硬合金の組成成分である)も加 工する必要がある.このため,一般的な電解加工で使用される NaCl,NaNO3等の中性

(24)

17

電解液と直流電源では加工を行うことができない (工作物を陽極として,WC を酸化し, 工作物表面に酸化被膜である酸化タングステン(WO3)が形成する.WO3 は絶縁膜である ので,加工を進めることが妨げる.) .NaOHを混入すれば,電解液がアルカリ性になり,

WO3被膜が除去され加工が進む2.2) が,同時に,NaOHを添加した電解液での加工では 衛生上の問題あること,また,加工面積が増加するに従い,酸化タングステンの生成量 が増加し,電解液中のNaOHの割合を調整しなければ,酸化タングステンが十分に溶か せず,加工が困難になるという問題があること2.15) も報告されている.

その問題を解決する方法として,中性の電解液と両極性の電源を用い,文献2.2)にあ るように以下の反応を使用する (NaCl電解液の場合) (図2.1).すなわち,電極を陰極に 用いて,マイナスの極性の場合,

陽極になる工作物では

Co+2Cl--2e- → CoCl2 (2.1)

2OH--2e- → H2O+[O] (2.2)

WC+4½[O] → WO3+½CO+½CO2 (2.3)

陰極側では

2H++2e- → H2 (2.4)

電極プラスの極性になると,

WO3+2NaOH → Na2WO4+H2O (2.5)

2Cl--2e- → Cl2 (2.6)

(25)

18

図2.1 両極性電源で超硬合金の電解加工の概略図

SW1 SW2

E2 E1

工作物 電極

ポンプ ポンプ フィルター

加工液タンク

(26)

19

となる.すなわち,超硬合金の成分であるCoは純粋な電解加工現象で,WCは酸化されて WO3になった後,アルカリに溶解されるという原理である.中性の電解液を使用できるこ とで,衛生上の問題は改善されたが,一方で,両極性の電源を使用することで,電解加 工の利点の1つである電極の無消耗加工ができなくなるという問題が生まれている.そ の問題によって,電解加工する際に加工精度が低下してしまい,高精度の加工には適さ ない.過去の研究2.15)では,電極がプラス極性になる時の電流が,マイナス極性になる 時の電流より小さくなるようにする方法や電解液に添加剤を入れる方法(例えば,NaCl 電解液に塩化コバルト(CoCl2)を添加する.)が電極の消耗が抑えられるが,電極の無 消耗が言えない.また,電極消耗の問題を解決するため,Hanら2.16)は走行ワイヤを利

用したWire Electrochemical Grinding(WECG)法を開発したが,この方法には切断する

ことができ,形彫加工ができない.そこで,本研究では,形彫加工としての超硬合金の 電解加工において,電極の無消耗加工を目指す.中性の電解液を用いつつ,単極性の電 流により超硬合金を加工する方法について検討する.

2.2 中性電解液と単極性電流による加工の理論

2.2.1 中性電解液と単極性電流による加工の構想

前節の説明ように,両極性の電源で超硬合金を加工する場合,工作物マイナスの極性

の時に工作物近くに NaOHが誘導されて,

WO3+2NaOH → Na2WO4+H2O (2.5)

(27)

20

の反応で酸化したWが溶解される.この反応を利用して,中性の電解液と単極性の電源 で,超硬合金を加工することを検討した.

加工方法の構想は図2.2に示すように,電解液タンクの電解液を電極を通してフラッ シングする流路においてNaOHを生成させることを考えた.電極の直前,すなわち,電 解液が極間に供給される直前に電極(Gr)を置いて電圧を印加する.マイナス極性側に NaOHが誘導され,アルカリ性になった電解液を極間に供給し,プラス側の液を,加工 槽を通して,加工液タンクへと戻すという案である.アルカリ性の強さは,電解液の流 量と電気分解の際に流す電荷により決まる.加工する部分の電解液をアルカリ性にし,

加工槽・加工液タンクへと戻った電解液はほぼ中性に戻すことができると考えられる.

2.2.2 電解液の電気分解試験

加工方法の構想を検証するため,13%NaCl水溶液を使って,まず電気分解実験を行っ た.

実験の様子を図2.3に示す.50×50×100mmの二つグラファイト電極を使用し,一つ はプラス極性にし,もう一つはマイナス極性にした.二つ電極の間隙は約200mmであ る.マイナス極近辺の pH 値を測定するため,pH 計をマイナス極性の電極近辺に置き た.約5Aの定電流で実験を行った.電源を入る後,マイナス極側の pH値が徐々に上 げて,約 10秒間電気分解を行ったところ,マイナス極側の近辺で pH11ぐらいになっ た.以上の結果によって,中性電解液を電気分解することで,マイナス極側にNaOHを 誘導でき,アルカリ性の液を生成できることが確認できた.

(28)

21

図2.2 中性電解液と単極性電流による加工の構想

図2.3 電気分解検証試験 50mm

(29)

22

2.3 WO

3

の溶解ための電解液の pH 値調査

WO3を溶解するために必要な電解液のpH条件について調べた.

まず,実験用サンプルを準備するため,加工実験を行った.実験装置を図2.4に示す.

超硬合金の表面に全部加工するため,□15 mm×15mm のGr電極を使用した.工作物で ある□11mm ×11mmの超硬合金(WC 87%,Co 13%)を13%NaCl電解液中に浸入した.

電極と超硬合金の距離はシクネスゲージによる約0.1 mmを設定した.超硬合金をプラ スの極性にし,電極送りなくて,約12Aの直流電流で2分間加工した.直流の電流で加 工したため,加工面は一面 WO3が主成分と考えられる青黒い物質で覆われた状態とな った.加工直後の様子を図2.5の「加工直後1」と「加工直後2」に示す.この状態の超 硬合金を,pH 値を調整したNaCl+NaOH 水溶液に軽く攪拌しながら5 分間浸漬した.

pH 値は,NaCl 溶液に添加される NaOH の量に決める.電解加工直後の超硬合金と,

NaCl+NaOH水溶液に浸漬後の超硬合金の写真を図2.4に示す. pH 10.2程度までの場合

は,加工後の様子とあまり変わらないが,pH 10.3程度以上の場合は,青黒い色が除去 できており,さらに,pH10.5程度以上の場合には,青黒い色付着物の全体がほぼなくな ったことがわかる. 以上の結論から,超硬合金を単極性電解加工する際には電解液のpH の狙いを10.3以上とすることが必要と考えられる.

2.4 NaCl 電解液の電気分解試験

2.4.1 電解液のアルカリ化試験1

電解液を電気分解することによって,アルカリ性電解液を取るかどうかを確認するた め,試験を行った.酸性液とアルカリ性液を分離するため,図2.6に示すような装置を

(30)

23

図2.4 超硬合金の直流電解加工試験

図2.5 アルカリ性液に処理した超硬合金

加工直後1 pH10.05 pH10.14 pH10.23 pH10.33

加工直後2 pH10.45 pH10.57 pH10.72 pH10.93

15mm

(31)

24

図2.6 電気分解装置1 陽極側

入り口

出口 陰極側

10mm

(32)

25

設計製作した.NaCl 電解液を作った装置の入り口から流入し,装置の中で電気分解反 応を発生し,電気分解した電解液を陽極近辺の出口と陰極近辺の出口から分かれて取り出 す.陰極側の液,すなわち,アルカリ性電解液を加工の極間へ供給する.陽極側の液,すな わち,酸性電解液をそのままにタンクへ戻す.電気分解による生成するCl2などガスは液の 出口で放出する.電解液を約 5L/minの流速で流し,電気分解ための電流はほぼ 20Aに 保たれる.陰極近辺の出口から液を取り,pH 値を測定した.予想の結果は取った液が アルカリ性になるが,陰極近辺に出てきた電解液は予想に反して pH 約6.8 の弱酸性を示 していた.これは,図2.7に示すように,液が分離されず,電気分解して発生したCl2ガス が電極までの間に電解液に溶解し,

H2O + Cl2 → HCl + HClO (2.7)

の反応により,弱酸性になったと考えている.

2.4.2 電解液のアルカリ化試験2

電解液のアルカリ化試験1の結果から,図2.8に示すように,電解液の流路の途中で電 解液の電気分解を行った際に発生したガス(Cl2ガス等)を放出できるように流路に開口 部を設けたら,陰極側近辺にアルカリ性電解液を取ることができそうと考えられる.こ の考え方を確認するため,図2.9に示すように電気分解用の装置を作った.NaCl電解液 を入口から電気分解装置を入れ,その装置で電解液を電気分解し,陰極側の液をポンプ で汲み上げて極間に供給する.今回の装置には密閉状態ではなく,ガスを排出するため,

開口部分を設けた.電解液を約5L/minで流し,電気分解の電流を約20Aとした

(33)

26

図2.7電解液のアルカリ化1

図2.8 電解液のアルカリ化2

Cl2ガス

Gr電極

電極液 流路 電気分解装置

E

Cl2ガス

Cl2ガス

電極液流路

E

Gr電極

アルカリ性液 電解液フラッシング

P

NaCl電解液

(34)

27

図2.9 電気分解装置2

ポンプ

陰極側出口

陰極側 陽極側出口

陽極側

電解液入り口 50mm

(35)

28

ところ,極間に供給した電解液のpHは約10になった.極間に供給する電解液のpHは電 解液の流量と電気分解のために流す電流値により決まると考えることができる.

しかし,今回陰極側の電解液のpH値は前節の実験より改善されたが,どうしても狙い 通りのpH10.3以上にならなかった. この原因は酸性液とアルカリ液がうまく分離でき ないと考えられる.

2.5 陽イオン交換膜による電解液の分離

2.5.1 陽イオン交換膜の導入

イオン交換膜は,高分子の電解質であるイオン交換樹脂を膜状にしたもので,水中 では,多数の膜中に固定された高分子イオンとそのまわりをとりかこんでいる同数の 反対符号の電荷をもつイオンとからなっている.しかしイオン交換膜では,同じよう に陽イオンと陰イオンとに解離していても,どちらか一方のイオンは,高分子イオン として膜に固定されているので,膜の両側に電圧をかけても高分子イオンは動くこと ができないで,そのまわりをとりかこんでいる一方のイオン(通常これを対イオンとい う)だけが動ける点が根本的にことなっている 2.17).使われるイオン交換膜の種類は大 別して,陽イオン交換膜と陰イオン交換膜に分けられます.すなわち陽イオン交換膜 では陽イオン,陰イオン交換膜では陰イオンだけとなる.そのためにイオン交換膜 で は,どちらか一方のイオンに対して高い選択透過性をもつようになり,陽イオン交換 膜は陽イオンを,陰イオン交換膜は陰イオンを選択的に透過する性質をもっている2.17).

食塩(NaCl)電解の場合は,図2.10のような構成で,陽極室に食塩水を,陰極室に 水を供給し,陽極室から塩素ガスを陰極室から水酸化ナトリウム(NaOH)と水素ガスを

(36)

29

図2.10 食塩電解の原理

(37)

30

得る.両極間に配置された陽イオン交換膜は,Na+を選択的に陰極側へ透過させ陰極か らのOH-の陽極への移動を阻止する働きをする2.18)

以上の食塩電解の原理に基づいて,電気分解された電解液が混ざらないように,陽 イオン交換膜を使用することを検討した. 陽イオン交換膜を設け,Na+イオン等陽イオ ンだけを膜に通し,Cl-など陰イオンを通さないので, 陰極側の電解液には塩素ガスの 影響がなく,pH 値が狙い通り 10.3 以上になることを期待する.なお,今回の実験で は,陰極側にNaOHを生成するためではなく,陰極側のアルカリ性液になり,極間に 導いで加工を行うことが目的とする.そこで,陽イオン交換膜の両側の室に全てNaCl 水溶液を使用する.

図2.11に示すように,陽極のGr電極と陰極のGr電極の間に陽イオン交換膜を設置 した.装置の電解液入口から2つに分けてNaCl電解液を導き,装置内で電気分解を行 い,陽極側,陰極側から分けて,電解液を出す方式である.陽極側の液はそのまま加工 液タンクに戻し,陰極側の液を電解加工の際に電極を通して極間に噴出し,その後,

加工液タンクに戻す.中性の電解液を使用して,加工する際だけアルカリ性にし,タン クに戻した時には,ほぼ中性に戻すことを狙っている.

2.5.2 陽イオン交換膜を利用した電気分解試験

以上の考えに踏まえて,陽イオン交換膜を使用して,電解液を流さない状態で酸性液 とアルカリ性液とをうまく分離できるかを確認するため,調査を行った.図2.12に示す ように,陽イオン交換膜を真中に置き,左室と右室を分かれる.左室と右室はそれぞれ に一つ50×50×100mmのグラファイト電極を設けた.二つ電極の間の距離は約110mmと した.左室と右室に約4Lの13%NaCl溶液を入れ,電極は全て浸漬させた.次に電流を5A として,電気分解時間が1分,3分,5分,7分,9分それぞれのプラス側とマイナス側の

(38)

31

図2.11電気分解装置の概略

図2.12 陽イオン交換膜を利用した電気分解試験

電解液入り口

(NaCl電解液)

Gr電極

(陰極)

Gr電極

(陽極)

電解液出口

(アルカリ性液)

電解液出口

(酸性液)

陽イオン交換膜

Na+

Cl-

OH-

陽イオン交換膜

陽極側 陰極側

50mm

(39)

32

pH値を測定した.右室(陽極側)また左室(陰極側)の液のpH値をそれぞれに記録し た.試験結果を図2.13に示す.横軸は時間で,縦軸はpH値を表示する.この青い線が陽 極側のpHの変化,この赤い線は陰極側のpHの変化である.このグラフを見ると,陰極 側のpH値が9分の時に10.39になったことがわかる.

今回は電流5Aで電気分解することで,9分後にpH値が10.39になった.電気分解の電流 が大きくなると,pH値10.3以上になる時間がより短いと考えられる.以上の結果から、

陽イオン交換膜を用いて,pH値が10.3以上にできる可能性を示した.

2.5.3 陽イオン交換膜による電解液の電気分解

以上の結果を踏まえて,陽イオン交換膜を利用して,新しい電気分解装置を製作した.

組み立てた電気分解装置を図2.14に示す.製作した電気分解装置により,得られる電解 液のアルカリ性の程度を調べるための実験を行った. 装置に約4L/minの電解液(13%

NaCl水溶液)を通し,電気分解の電流値を変化させたときのプラス側,マイナス側から 排出される電解液のpH値を測定した.電気分解を開始(電解液を流し始めて)1分後の 液のpH値を測定した.実験では,電気分解の電流値を 5A,10A,15A,20A と変化さ せた. 測定した結果を図2.15に示す.横軸は電気分解の電流値であり,縦軸はpH値であ る.電流値を上げると,陰極側のpH値は早めにpH10.3になる傾向が見つかった.図2.15 では,30Aまで近似線が引かれているが,30Aの際のpH値は,後述する電解加工実験を 行った際の電解液のpH値を用いた.陽イオン交換膜を用いることで,電気分解により,

アルカリ性の液と酸性の液に分離でき,混ざることなく, 極間にアルカリ性の液を導 くことができることがわかる.

(40)

33

図2.13 陽イオン交換膜で電気分解した液のpH値調査

図2.14 電気分解装置実際の様子

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

pH値

時間(min)

陽極側pH値 陰極側pH値

電解液入り口

Gr電極

陽イオン交換膜 電解液出口

30mm

(41)

34

図2.15 電気分解した液のpH値測定

陽極pH 陰極pH

電気分解電流値(A)

0 5 10 15 20 25 30 35 14

12 10 8 6 4 2 0

pH値

(42)

35

2.6 両極性電源加工の電極消耗調査

両極性の電源による加工と単極性の電源による加工とで,電極消耗の比較をするため,

まず,両極性の電極消耗について調査した.消耗の部分と未消耗の部分をわかり易くす るため,図2.16に示すように,電極と工作物とを未加工部分が残るように,位置をずら して置いた.図 2.17 に印加した電圧波形の概略を示す.全体の時間に対する工作物プ ラスの時間の割合をここではDutyと呼ぶことにする.今回の試験では,過去の研究3.2) で加工速度が最大になったDuty70%に設定した.電極は□10mm×10mmのGrを用い,中 央にφ3mm の液穴を明けた.工作物として加工面が□11mm×11mm の超硬合金を用い た.電解液としては,13%のNaCl溶液を使用した.フラッシング流量は約1L/minとし た.工作物と電極の間を約 0.1mm あけて加工を開始し,電流値が低下した時点で電極 を手動で送り込むという動作を繰り返した.電極の送り量を1mmとし,加工電流値は 正負とも約30Aとした.加工時間は約3分だった.

加工後の電極と工作物の写真を図2.18に示す.電極の加工に使用した部分が消耗して いることがわかる.電極消耗部分をさらによく観察するため,加工に使用した部分を横 からSEMで観察した.図2.19に示すように加工に使用した部分と加工未使用部分とが明 らかに段になっており,消耗したことがわかる.電極消耗の評価手法は図2.20に示すよ うに,5点を選んで,加工前と加工後の長さの変化を測定し,平均値を長さ消耗とした.

測定の結果,電極は約0.22mm消耗したことがわかる.送り量は1mmによると,20%程 度の消耗率で電極が消耗することがわかった.また,電極の送り量は1mmとしたが,実 際の加工深さは約0.9mmであった.

(43)

36

図2.16 加工の方式

図2.17 両極性電源で加工の電圧波形概略

電極

超硬合金

工作物(+)

電圧(V)

時間(ms)

工作物(-)

14ms

6ms 20V

20V

0V

(44)

37

図2.18 両極性電源で加工後の電極と超硬合金

図2.19 加工した電極のSEM像

加工使用した部分 加工未使用部分

約0.2mm

(45)

38

図2.20 電極消耗の評価手法

加工使用した部分 加工未使用部分

2 液 穴 5 3

1

4

(46)

39

2.7 単極性電源加工の電極消耗調査

単極性電源で加工する際の電極消耗の状況を調べるため,電気分解装置を利用して,

単極性加工試験を行う.

試験を行う前に電気分解装置を更新した.以前の電気分解装置では部品を交換するこ とに注目していなかった.密閉するため,板と板の連接するところに接着剤を入れ,接 着したため,部品を交換することができなかった.今回は部品を交換しやすくするよう に,新しい電気分解装置を設計製作した.図2.21に示すように電解液の電気分解の方式 は変えておらず,密閉するためにOリングを利用し,容易に組み立てることができ,分 解・保守も容易にできるようになっている.

電極と工作物との設置方法と前述の両極性電源に同じように,電極と工作物とを未加 工部分が残るようにセットした.電解加工の条件は,図2.22に示すように,電圧10V幅 6msのパルス電圧を印加し,約1.3から1.5Aのパルス状の電流を流した.パルス間に休止 時間は14msとした.電解液は20%NaCl溶液である.電極は□10mm×10mmのGrを用い,

中央にφ3mmの液穴を明けた.工作物として加工面が□11mm×11mmの超硬合金を用い た.フラッシング流量は,2 L/min程度以上を目指したが,装置の都合で,極間距離が狭 くなると十分な流量を確保できなかった.実際は1L/min以下の流量であった.工作物 と電極の間を0.1mm強あけて,電流値が低下した時点で電極を2μmに送り込むという動 作を繰り返した.電極の送り量は0.3mmである.今回の電気分解のための電流は50Aと した.極間に流したアルカリ性の電解液のpH値は,10.8から11.1程度の値である.

図2.23は加工後の工作物と電極の写真である.左側が加工した超硬合金である.電気 分解を行った電解液で加工した工作物は青色の物質が付着していないことが見える.す なわち,電気分解を行った液を用いることで,WO3を溶解できたと考えることができる.

右側が使用した電極である.加工した部分は変色したが,電極消耗は目視ではわからな

(47)

40

図2.21 電気分解装置2

図2.22 単極性電源で加工の電圧波形概略

工作物(+)

6ms

14ms 電圧(V)

時間(ms)

10V

Gr電極 電解液入り口 Gr電極

電解液出口 陽イオン交換膜

0V

50mm

(48)

41

図2.23 単極性電源で加工した結果

加工した超硬合金 使用した電極 5mm

(49)

42

い程度であった.電極消耗詳しく観察するため,加工に使用した面を横から観察した.

図2.24に示した赤い部分をSEMで60倍率に拡大して撮影した.その結果は下の5枚 の写真に示す.それらの写真を見ると,電極の消耗が観察されなかった.したがって,

中性の電解液を用いつつ電極無消耗加工することができることがわかる.

2.8 まとめ

超硬合金の電解加工において,中性の電解液を用いつつ,電極消耗の無い加工を目 指して,電解液のフラッシング流路に電気分解装置を設けて,加工環境だけをアルカ リ性にする方法を提案した. その結果,以下のことが明らかになった.

 電解液のpH値の調査および各加工試験結果から,超硬合金の電解加工する際に,

WO3を溶解するため,電解液のpH値を10.3以上にする必要があることがわかっ た.

 電気分解された電解液が混ざらないように,陽イオン交換膜を利用する方法を提 案した.陽イオン交換膜に隔てられたGr電極間で電解液の電気分解を行うことで,

電解液を酸性とアルカリ性の電解液に分離することができ,生成したアルカリ性 の電解液を用いて,超硬合金の成分であるWCを除去できることがわかった.

 両極性電源で使用した条件では,電極が消耗することがわかった. 単極性電源で 加工する場合は電極が消耗しないことを確認した.

今回の研究では,提案する加工方法の有効性を確認した.超硬合金の電解加工にお いて,単極性電流と中性電解液とを電極無消耗で加工できる可能性を示した.電解加 工による超硬合金の高精度加工が可能になる.

(50)

43

図2.24 単極性電源で使用した電極の拡大写真 500㎛

(51)

44

第 3 章 電解現象を利用した超硬合金のミーリング加工の 研究

本章では,電解現象を利用した超硬合金のミーリング加工について検討する.電解加 工の欠点の一つに加工精度の悪さがある.最近の研究により,電解加工でも高精度が加 工であることが示されているが,まだ一般的ではない.そこで,超硬合金の高精度で高 効率な加工方法を実現するため,特に冷間鍛造金型等を対象にした三次元の高精度・高 効率な加工方法を実現するため,エンドミルのような回転工具による電解現象を利用し た超硬合金のミーリング加工について注目している.新しい加工方法を提案し,その加 工方法の原理を確認した.さらに,提案した加工方法の有効性を示した.

3.1 はじめに

高精度な部品を大量に製造するために金型材料の超硬合金化が進んできている.しか し,超硬合金はその高い硬さのため,加工が難しいという問題がある.一般的には超硬 合金は放電加工により加工されることが多いが,加工速度が遅く,表面にマイクロクラ ックが入るという問題がある3.1),3.2),金型の寿命に悪影響を及ぼす3.3),3.4).一方,近年,切 削工具の分野で大きな技術進歩があり,超硬合金でも加工することができるようになっ てきている例えば3.5),3.6).しかし,加工速度が遅い上,工具費用が非常に高いという問題が ある.

本研究では,超硬合金の高速な加工方法として,電解現象を利用したミーリング加工 方法を提案する.電解現象を利用した超硬合金の複合加工で過去に多く研究された方法 に電解研削法がある例えば3.7)~3.11).電解研削法とは,メタルボンドの導電性砥石をマイナ

(52)

45

ス極性とし,工作物をプラス極性として,砥石と工作物との間に導電性の電解液を介し て電流を流すことで工作物の表面に電解の反応を起こしつつ研削加工を行う方法であ る.一般的には,電解の反応により工作物表面を酸化させ,その後砥粒で酸化膜を除去 する方法や,電解加工と研削加工の作用を併用するという考えが多かったようである

3.10),3.11).電解研削法については超硬合金の加工も研究されており,コバルトCoを溶出さ

せ,炭化タングステンWCを酸化させて酸化タングステンWO3とし,脆いWO3を研削で 除去するということを目指した加工であった3.10)

電解研削法は研削加工がベースであるので,切削加工のように自在な三次元形状を加 工することはなされていない.回転工具による電解加工と切削加工の複合加工について は,小径のダイヤモンド電着砥石を用いた研究例3.8があるが,加工量が少ない微細加 工であった.また,絶縁性の切れ刃をつけた回転工具により電解加工と切削加工の複合 加工を目指した研究もあるが,工作物表面に生成した酸化膜を除去するのが主な目的で

ある3.12)

本研究では,冷間鍛造金型等を対象にした超硬合金の3次元形状の高速加工を,エン ドミルのような回転工具により実現することを目指している.特に高速加工が求められ ている超硬合金の荒加工を主な対象としている.本章では,新しい加工方法を提案し,

その加工方法の原理を確認し,有効性を示すことを目的とする.

3.2 加工方法の概略

提案する加工方法の構想図を図3.1に示す.この加工方法は電解現象による超硬合金 の結合剤であるCoの除去とミーリング加工による脆弱化超硬合金の除去とを組み合わ せる方法である.回転工具は,電解作用を起こすための導電性の本体と,脆弱化した超 硬合金を除去するための絶縁性の切れ刃から構成されている.回転工具と工作物の接触

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図3.1 加工原理の概略

給電用ブラシ

Coの溶出

Co WC

参照

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