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原子間力顕微鏡の新しいナノスケールサーボ技術

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Academic year: 2021

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原子間力顕微鏡の新しいナノスケールサーボ技術

1. はじめに

 1981 年,IBM チューリッヒ研究所 の G. Binnig らによって最初の走査プ ロ ー ブ 顕 微 鏡(Scanning Probe Mi- croscope:SPM)である,走査型ト ン ネ ル 顕 微 鏡(Scanning Tunneling Microscope:STM)が開発された.

この SPM は,プローブと呼ばれる金 属製の針を用いて試料の表面形状を計 測する.STM の出現による飛躍的な 分解能向上が評価され,Binnig らは ノーベル物理学賞を受賞している.

STM は,トンネル電流検出が不可欠 なため,絶縁物質の計測ができないと いう問題があった.これを解決したの が,STM の 2 年後に開発された原子

間 力 顕 微 鏡(Atomic Force Micro- scope:AFM )である.二つの原子 の間には,短距離では斥力,長距離で は引力が働く.これらは総称して原子 間力と呼ばれている.この原子間力は いかなる物質にも必ず存在することか ら,AFM は計測試料に対する制約が ない.また,真空中はもちろん,大気 圧や液中でも計測可能である.これら の特徴を生かして,DNA や細胞など 生体試料の観察に多用されている.ほ かにも,超高密度次世代メモリへの適 用が試みられるなど,今後のナノテク ノロジーを支える装置として注目を集 めている.

 一方,AFM は計測時間が長いこと も知られ,高速 AFM(1)の要望が高まっ ている.計測条件による違いはあるが,

通常,AFM の計測時間は数分のオー ダである.従来の高速 AFM は,ハー ドウェアの改良に関する議論が盛んで あった.これに対し,藤本博志研究室 ではハードウェアの改造を最小限に抑 え,制御工学の視点から高速 AFM へ アプローチしている.

2. AFM のナノスケールサーボ 制御

 一般的な AFM の計測方法を,図 1 を用いて簡単に説明する.ここで述べ る方法は,コンタクトモードと呼ばれ ている.試料を XYZ 方向に駆動でき るピエゾスキャナ上に固定し,プロー ブの先端を計測試料と接触させ,プ ローブを少しだけ撓たわませる.その状態 から,チューブピエゾを XY 方向に駆 動すると,プローブの先端位置が試料 の表面形状により変位する.このまま では,試料の表面に大きな力が加わっ てしまう.そこで,プローブの撓みが 常に一定になるように Z 軸のピエゾ 素子をフィードバック制御する.この ようにすると,ピエゾアンプへの印加 電圧が表面形状を追従する.よって,

一般的な AFM では,この印加電圧か ら表面形状を得ている.フィードバッ ク制御は PID 制御が主流であり,ま た,アナログ実装されたものも少なく ない.この方法で高速 AFM を実現さ せるには,フィードバック帯域の高帯 域化が必須となる.しかしながら,制 御対象の AFM は共振特性を持つた め,高帯域化は制限されていた.

 そこで,われわれは “表面形状オブ

ザ ー バ ”(Surface Topography Ob- server : STO) (2)による高速な表面形 状推定を提案している.同手法は,オ ブザーバ理論に基づいた手法であり,

フィードバック特性とは独立して設計 できるため,制御対象の特性によらず 高速な表面形状の推定が可能である.

この手法により,コンタクトモードに おいて従来手法の 20 倍以上の高速イ メージングを達成している(図 2).

 さらに,高速走査中において増大す る接触力を抑圧するために,学習制御 を用いた“表面形状学習オブザーバ”

(Surface Topography Learning Ob- server:STLO)(3)を提案している.同 手法は,X スキャンが繰り返し動作を 行うことに着目した制御法である.ま ず,STO で高速に得られる精度の高 い表面形状を学習し,次の繰り返しに フィードフォワード制御として用い る.以上の二つの提案手法によって,

従 来 の フ ィ ー ド バ ッ ク 制 御 の み の AFM と比較して格段の高速画像化と 接触力の低減を達成した.そのほかに も,完全追従制御法を用いた制御手法 なども提案している.これら提案手法 はすべて DSP で実装されたデジタル 制御である.ここでは,コンタクトモー ドを例にとり説明したが,提案手法は ダイナミックモードと呼ばれる計測方 式にも適用可能であることを付記する.

3. おわりに

 高速 AFM の要望が高まるなか,ア ドバンスト制御を用いたわれわれの提 案手法も徐々に市販の AFM へ採用さ れつつある(JEOL:JSPM5200-MKII, JSPM-5410).今後,制御技術によっ て AFM のますますの高速化・高分解 能化が加速的に推進され,ピコスケー ルの技術革新への足掛かりとなること が期待される.

(原稿受付 2009 年 9 月 1 日)

〔藤本博志 横浜国立大学〕

●文 献

( 1 )Ando, T. ほか,A high-speed atomic force microscope for studying biological macro- molecules, PNAS , 98(2001),12468- 12472.

( 2 )藤本博志・青木建吾,原子間力顕微鏡にお けるナノスケールサーボ技術の新展開,平 成 18 年電気学会産業応用部門全国大会,2

(2006-8),127-132.

( 3 )大島隆史・藤本博志,コンタクトモード AFM における表面形状学習型オブザーバの 提案, 平成 19 年電気学会産業計測制御研究 会 , IIC-07-117,(2007),7-12.

(a)低速スキャン(約 240 秒/画像)

0 524

(nm)

0 (um)

8 0

8

(um)

(b)従来法による 20 倍高速スキャン 0

156

0 (um) 8 0

8

(um)

(nm)

図 2 標準試料計測による比較

(c)提案法による 20 倍高速スキャン

(um) (um)

8 0

0 3.1 8

−0.1

(V)

図 1 AFM のナノスケールサーボ制御系

フォトダイオード

表面形状 オブザーバ

e y

u フィードバック r

制御器 ユニット学習

X スキャン

Y スキャン レーザ

X

X Y

Z A B C D

カンチレバ

計測試料

XYZ スキャナ

3D−image

3D−image X

Z

Y 提案法による

イメージング

従来法による イメージング

126 日本機械学会誌 2010. 2 Vol. 113 No.1095

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