情報玩具を介した教育に関する研究
A Research on the Education Method by information toys
5113E018-5 宮本 諒 指導教員
MIYAMOTO Ryo
長 幾朗 教授 Prof. CHOH Ikuro
概要:本論文は、情報過多社会で人々が情報に関心が無くなっているという課題について、玩具に情報認知の要素を含ませることで、
人間と情報の距離感を縮めることを目的として述べた。今回提案する『情報玩具』に関しては、知育玩具の先行事例の調査や、感覚 を洗練させ理解力を向上させるモンテッソーリ教育の感覚教具の有用性、五感による認知過程を述べた後に定義していく。また、開 発しようとする『情報玩具』が知育玩具の一種である観点から、制作したペーパープロトタイプを幼児教育の専門家である保育士に 操作してもらい、その過程の実験を行うことによって、子供や大人でも扱えるような新しいコンテンツ『情報玩具』を具体的に定義 し、その有用性を探る。最終的に 「情報を『自分ゴト』のように思わせ、楽しく情報取得できるコンテンツ」を目指していく。
1. 本研究の背景
現代の情報過多社会で欲しい情報の取得が困難になり、ま たその情報に対し、自身は関係無いと考える生活者は多く、
情報に意識が行き届かず、質の悪いコミュニケーションを生 み出している。その生活者に情報を『自分ゴト』のように意 識させる事が課題であり、可能性ではないかと考えた。
玩具は、指で触る・絡める・掴む等の自身の身体の動作を 経て遊ぶ事で、視覚情報として遊具に自身の意識・感覚が関 わり、当事者意識のようなもの生まれる。この玩具に、遊ぶ 過程と同時に情報を含ませれば、「情報を自分の事のように 認知させる存在」になり、かつ楽しみながら理解・思考の促 進に繫がるのではないかと考察した。
2. 玩具を用いた情報取得の有用性
一般に『玩具』は、遊び道具の中でも「手に持って遊ぶ」
という意味合いが強く、指で握る離す等の動作を繰り返す 事で、手先の神経が刺激され脳が成長すると言われている。
LEGO の開発に深く関わる MIT 名誉教授シーモア・パパー ト氏は、「本当の理解は実体験から得られる。何かを夢中 で遊ぶ時、その過程で学んだ事は誰かに言われたどんな教 えよりも深くしみ込む。しかも楽しく遊びながら。」と状 況を見極め、情報の整理を行い、評価するという総合的な 力が、玩具の体験性により身に付く事を実践している。つ まり、指 ( 触覚 ) と玩具の体験性は情報認知のおいて重要 な役割を担っている。
また指で遊ぶ知育玩具の事例に、MIT 教授石井裕が提唱 する『タンジブルユーザインタフェース』の玩具 ( 図 1) が 挙がる。形のない情報に直接触れる為に、インタフェース をブロック等といった玩具に当てはめ、人と情報がより直 接的で実態観のあるやり取りを可能にしている。
この人と玩具の関係性を、人間と機械に結びつきを示す最 も基本的なモデルである「マン - マシンシステムモデル ( 図 2)」に当てはめる。すると、玩具は従来の GUI と比べてキーボー ドやディスプレイといった入出力装置において無駄なプロ セスが少ないことがわかる。その為、物理的活動と心理的 活動の処理が少なくなる。このように、玩具に情報取得の 機能を持たせれば、人間と玩具との情報間の距離が小さく なり、結果として使いやすいインタフェース ( 情報玩具 ) が提案できるのではないかと推測した。
3. モンテッソーリ教育における感覚教育
感覚教育は、女性医師モンテッソーリが発案した幼児を 対象とした教育法の一つである。前章で、感覚器官 ( 眼・耳・
指等 ) が刺激を受けると脳を発達する事を述べたが、脳に 集められた感覚情報は整理しなければ、本当の意味で理解 した事にならない。この雑多な感覚を、『感覚教具』とい う玩具を用いて分類・整理するのがモンテッソーリ教育の 他に無い大きな特徴である。
『感覚教具』( 図 3) は、一つ一つの感覚器官を別個に刺
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キーワード:玩具、感覚教具、モンテッソーリ教育、五感、タンジブル Keywords: toy,sensory tool,Montessori education,five senses, Tangible
図 1 . タンジブルユーザインタフェースの玩具の使用例
図 2 . マン - マシンシステムモデル
図 3 . 感覚教具「ピンクタワー」の使用シーン
激し、それまでに吸収した雑多な感覚を整理し、秩序化し ようとする構造になっている。主に《段階、対比、類別》
等の操作で整理していく。その結果、色々な相互間の細か い相違を感じ取れるようになり、整理・分析する力を育み、
理解力が向上する。そして感覚神経が迅速かつ正確に脳の 中枢に情報を伝える事が出来る。
この教具を繰り返し使うことで、感性を豊かにし、注意 力・集中力・判断力を向上させるので、情報理解を助ける 要素になりうる。また、日常生活の練習にもなると考えら れている。これらの要素は、後天的にも身につけられる為、
大人でもこの感覚教具は有効であると考察した。
4.『情報玩具』の定義
これまでに述べた玩具による直接操作と感覚教育の概念 を組み合わせ、他玩具との差別化を図り ( 表 1)、『情報玩具』
という概念を提案する。その定義は以下の通りである。
1)遊ぶ過程を通して、新しい知識・情報の形成を促すこ とができる
2)指先を使って直接操作し、繰り返し使用できる 3)感覚情報を整理し、感覚を洗練できる
5.『情報玩具』のプロトタイプの制作と検証
『情報玩具』のペーパープロトタイプを制作する為に、
情報認知に関する課題テーマを挙げ、実装することで課題 点と評価点を抽出し、より実用的な『情報玩具』の提案を 目指す。評価方法として、モンテッソーリ教育を実際に行っ ている保育士のエキスパートレビューを行った。
情報認知の課題テーマとして「識字率と社会インフラが 共に低い国の子供達の教育」をテーマに据えた。これは情 報認知において一番重要な視覚表現は「字が読めない人で もわかる事」が神髄であり、またインターネット等に頼れ ないインフラが低い環境でなら、より情報玩具の開発に ニーズがあると考えたからである。今回提案したシール玩 具の「シールエデュケーション」( 図 5) は、「識字率の向上」
と「健康状態の維持」をコンセプトにした情報玩具 ( 表 1) である。
また、タンジブルの要素がある知育玩具「Osmo」を専門 家である保育士に操作してもらい、従来の幼児教育と感覚 教育との比較検証も行った。
その結果、以下の課題点が挙げられた。
1) 今回はシールを用いて、新しい知識・情報を遊ぶ過程 で身につける検証を実践できた。しかし「情報玩具」の物 理的外部表現によって、得られる知識・情報の質によって 変わってくる。
2) 玩具における情報認知において、的確な内容とタイミ ングのフィードバック・コミュニケーションが必要である。
3) 情報を含ませながら、感覚の整理を行えたが、どれほ どの効果が得られたかは不透明になってしまった。
4) 情報表現の配慮と統一
5)1)、2) の解決の為、アナログ部分 ( タンジブル ) とデ ジタル部分 ( インタンジブル ) の的確な分配が必要である。
6. 結論
本論文を通して、玩具による情報取得の可能性、モンテッ ソーリ教育の感覚教具の実用性を問い、それらの要素を兼 ね備えた『情報玩具』の提案と検証を行ってきた。その結 果、『情報玩具』の定義に可能性と課題が抽出され、今後 の情報玩具の展望は以下のように挙げた。
・玩具に新たな価値をもたらすことができる。
( 今回はシールに新しい付加価値を付けることが出来た )
・従来ある道具を新しい道具へと作り出すことができる。
( 例:積み木にシールを貼って組み合わせることで、「積む」
とは違う機能を持たせる )
・情報の新しい解釈ができる ( 情報の二次性 )
今回のプロトタイプ「シールエデュケーション」の制作 を通して、幼児教育目線の視覚表現の分析と、遊びながら 五感から得る情報の整理を行うことで二次的な情報解釈の 会得を実践した。従来貼る機能に特化したシールを、多方 向による知識・情報の展開へと導くことが出来た。また現 在、「MESH」と呼ばれるモジュールと日常用品を組み合わ せることで、新しい体験を与える商品の開発等も進んでい る。これらの応用により今後、コンピューター等のメディ アと情報玩具との組み合わせで、新たな情報や知識の形成 を促せる応用が出来るかもしれない。将来的に、情報玩具 で遊ぶことによって、人間と情報との距離が縮むきっかけ になることを期待したい。
参考文献:
[1]佐藤雅彦 , 齋藤達也 :「指を置く」( 美術出版社 .2014)
[2]K・ルーメル 他「モンテッソーリ教育」( 中央出版社 .1980)
[3]藤原元一・桂子・江理子 『やさしい解説モンテッソーリ教育』 学苑社 2007 年 図版出典:
図 1. 「Tangiblock」 こどもちゃれんじ公式サイト http://kodomo.benesse.ne.jp/cp/25/tangiblock/
図 2. 「マンマシンシステム」 人間工学ハンドブック 朝倉書店 2003 年 p378 図 3.「感覚教具ピンクタワー」 American Montessori Society http://amshq.org 図 4. 「シールエデュケーション」 宮本諒 2014 年
表 1. 「シールエデュケーションの機能表」 宮本諒 2015 年
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図 4 . シールエデュケーション
名前シール 症状インフォグラフィックスシール 健康記録シール
玩具概要 識字率の向上の為の玩具。 健康状態の維持の為に知識情 報を得る為の玩具。
自身の健康状態を把握する為 の玩具。
情報の種類 ・文字情報 ・症状や治療法の情報 ・自身の健康の視覚情報 感覚洗練
( モンテッソーリ
教育 ) ・所有物の類別 ・シールの形の類別、対比
・症状の分析
・健康状態の段階づけ
・表情の分類
・数の視覚化 日常性
( 繰り返し使用 )
日常で使用するものに貼って いく。お手伝いに繋がる。
置かれている生活環境での必 要最低限の知識の会得。
日々の記録を毎日更新してい く。
操作性 ・触って貼る(触 覚)
・読んで理解する (視 覚)
・触って貼る(触 覚)
・見て判断する (視 覚)
・触って貼る(触 覚)
・見て評価する (視 覚)
教育性 ・言語教育 ・学習教育 ・健康教育、自己管理
表 1 シールエデュケーションの機能表 宮本諒 2015