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発達心理学研究 第24巻 第3号

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トゥレット症候群のチックへの自己対処の機能と対処の生じる文脈:

半随意的な症状にいかに対処していくのか

松田 なつみ

(東京大学大学院教育学研究科・日本学術振興会特別研究員) 児童期発症の慢性チック障害であるトゥレット症候群(TS)は,成人に従い軽症化し,症状の変動を 伴う発達障害の一つである。TS のチックは短時間ならおさえられる等,ある程度はコントロールできる が対処しきれない性質を持つ。このようなチックの性質と経過から TS を有する者が普段から自己対処を 行っている可能性が高いが,自己対処の負の影響も示唆されている。本研究では,チックへの自己対処 が有効に働くにはどのような要因が重要なのか探るため,自己対処の機能や自己対処の生じる文脈を明 らかにすることを目的とした。TS を有する本人 16 名(男性 13 名,女性 3 名,平均年齢 25.5 歳)に半構 造化面接を行い,Grounded Theory Approach によって分析した。その結果,チックへの自己対処を行う際, 「対処への圧力」と「対処の限界」が常にせめぎあっており,「部分的な対処」がその間に折り合いをつ ける機能を担っていることが示唆された。その上で,「対処への圧力」と「対処の限界」の両方が高く折 り合いがつけられない状態(「対処の悪循環」)と,その両者の間に「部分的な対処」で折り合いをつけ ながら,「コントロール感」を得ていく状態(「チックと上手くつき合う」)を比較し,自己対処が上手く 機能する文脈や関連する認識について考察した。 【キーワード】 トゥレット症候群,チック,自己対処,半随意性,コントロール感

問題と目的

チックとは,突発的,急速,反復性の運動あるいは発 声である。瞬きなどの軽症なチックの他,中には激しく 首を振る,甲高い声で叫ぶ,猥雑な言葉が口から出る等, 本人にとって苦痛となるチック症状も存在する。トゥ レット症候群(Tourette Syndrome: 以下,TS)は,音声 チックと運動チックの両方を 1 年以上有する慢性チック 障害であり,診断にチックの重症度は含まれないものの, 比較的重症なチック症状を有することが多い。そのため, チック自体の辛さに加え,他者から奇妙に思われるな どの社会的障害を被ることがある(Storch et al., 2007)。 薬物療法はチック症状の軽減に効果的であるが,チッ クが完全になくなることは難しい(Shprecher & Kurlan, 2009)。また,TS の典型的な経過では,4–6 歳で発症 し,10–12 歳でチックが最も重症な時を迎え,成人する と 3 分の 1 以上でチックが消失,半数弱が軽度のチック 症状を有するようになる(Bloch & Leckman, 2009)。こ のように長期的な経過をたどるため,チックに上手に対 応しながら,思春期を乗り切ることが重要になってくる と考えられる(金生, 2008)。さらに,成人後もチック が続く場合,比較的重症なチック症状を伴いやすいこ とが示唆されており(Swain, Scahill, Lombroso, King, & Leckman, 2007),このような慢性的な経過を辿る場合, チックへの普段の対応がさらに重要になってくると考え られる。ここから TS の症状への自己対処の重要性が示 唆される。 チックは常に完全に不随意なものではなく,一定時間 であれば抑制できる場合がある等,ある程度随意的な 性質を持つ場合があることが指摘されている (Leckman, Walker, & Cohen, 1993; Kwak, Vuong, & Jankovic, 2003; Banaschewski, Woerner, & Rothenberger, 2003)。しかし, チックの前には違和感やムズムズするような前駆衝動と 呼ばれる感覚が伴うことがあり,チックを抑制すると前 駆衝動が増加する場合が多い(Kwak et al., 2003)。その ため,チックを抑制しようと思ってもできないことや, 途中で抑制しきれなくなる等,対処には限界がある。こ のようなチックの性質は,半随意性と呼ばれる。チック の半随意性を元に,TS を有する本人がチック症状に対 して,普段から抑制などの何らかの対処を行っている可 能性は高く,チックの経過を考えると自己対処が生活の 質に与える影響は大きいと考えられる。しかし,その TSを有する本人のチックへの自己対処は,実際の内容 やその効果も含めて,十分に研究されてこなかった。 チックへの自己対処の一つであるチックの抑制に関 しては,77%の医師がチックの抑制によってその後の チックが悪化するというリバウンド効果を実感している (Marcks, Woods, Teng, & Twohig, 2004)という調査結果 2013,第 24 巻,第 3 号,250−262

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がある。また O’Connor(2002)は,自身の臨床経験から, 本人がチックや前駆衝動に注目することでチック症状が さらに悪化するという悪循環のメカニズムを指摘してい る。一方で,実験室でチックの抑制を求めてもリバウン ド効果が見られない(Himle & Woods, 2005; Woods et al., 2008)などの反証も存在する。このように自己対処の有 する負の側面については,その存在が示唆されながらも, 実験場面では存在しないという報告もあり,具体的にど のような時に負の側面が存在するのか具体的なことは分 かっていない。 TSのチック症状の経過を考えるとチックの自己対処 は重要であり,チックの半随意性ゆえに本人がチックへ の自己対処を頻繁に行っている可能性は高い。しかし, チックへの自己対処が負の影響をもたらす可能性も示唆 されており,チックへの自己対処が必ずしも良い結果ば かりをもたらすとは限らない。チックへの自己対処が本 人にとって効果的に働いている場合と,そうでない場合 とが存在するとしたら,両者は何が異なるのであろうか。 本研究の第 1 の目的は,自己対処を行う時に何が起き ているのか,という問いに答えるために,自己対処の生 じる文脈と対処の持つ機能を説明する概念とモデルを生 成することである。その上で,生成された概念によって 対処が有効に働く文脈とそうでない文脈の差を説明する ことを第 2 の目的とした。そして目的 1,2 で明らかに なった対処の 2 種類の文脈及び対処の機能を元に,どの ように自己対処をしていくとよいのか,という臨床的な 示唆を得ることを第 3 の目的とした。

方   法

Bogdan & Biklen(1998)は質的研究方法の 5 つの特 徴の中で,プロセスへの着目と対象者の観点すなわち対 象者の意味づけの重要性を指摘している。本研究目的 1 の対処の生じる文脈を明らかにするには対処のプロセス を,対処の機能を明らかにするためには対処の意味づけ を,それぞれ明らかにする必要がある。そのため本研究 では,TS を有する個人を対象とした半構造化面接を行 い,その発話内容を質的研究法の一つである Grounded Theory Approach(Strauss & Corbin, 1998/2004)を援用 して分析した。 協力者 協力者の選択基準は,TS の診断を有し,面接調査が 可能な心理的に安定した状態であり,面接時に 18 歳以 上であり1),かつ明確な知的な遅れがないことである。 分析の参考のため,1 名を除き2),現在のチックの重症

度を Yale Global Tic Severity Scale という半構造化面接に よって測定した(Leckman et al., 1989)。面接者の年齢 は 18∼48 歳(平均年齢 25.5 歳),女性 3 名,男性 13 名 であった。協力者の属性と特徴を Table 1 に載せた。 データ収集の手続き 協力者は病院の面接室で主治医から著者を紹介された 後,別室で著者から具体的な研究目的や方法を説明され, 研究の趣旨に納得した場合に同意書に記入し,面接に参 加した。インタビューに要した時間は 46 分から 109 分 (平均 67 分±16 分)であり3),発話は許可を得て録音 され,逐語化された4)。本研究の研究内容及び方法は調 査実施施設の倫理委員会で認められた。 面接内容 面接は,現在のチックの様子を半構造化面接で聞いた 後に,下記のガイド項目を参考に,協力者の話の流れに 沿って行われた。ガイド項目:①チックに対処したいと 思う場面はありますか,②現在どのようにチックに対処 していますか,(以前は大変だったという語りが出てき た場合は③,④を聞く)③以前どのように対処されてい ましたか,④チックが楽になったことに,どんなことが 影響していそうですか,(最後に全員に対して)⑤他に チックを持っている人に対して,もしくは,一番チック が大変だった時の自分に対して,アドバイスをするとし たら,どのようなことが言えそうですか。 分析の手続きと流れ 本研究では分析を行う際,自己対処に多様性を与える と想定される協力者の特徴に注目し,その特徴によって 3∼4 名ずつのグループを作成した。分析は以下の 3 つ の段階をグループごとに繰り返しながら進んだ。 1 . オープンコード化 録音されたデータを逐語化し, 協力者の発話を意味のまとまりに応じて切片化し,それ ぞれデータの特徴を現すような概念のラベルを記した。 2 . 軸足コード化 次に,類似した概念のラベル同士 をまとめて名前をつけ,カテゴリーを作成した。2 人目 以降の協力者の場合は,それ以前に作成されたカテゴ リーによって概念のラベルの説明を試み,新たなカテゴ リーの生成や編集を必要に応じて行った。 3. 選択コード化 オープンコード化,軸足コード化 の作業が 1 グループ終わるごとに,カテゴリー表及び カテゴリー関連図を作成した。カテゴリ―間の関連図を KJ法(川喜田,1967)を参考に作成し,その図を基に 書いたストーリーラインを個々の事例に当てはめ直し, 関連図の見直しを行った。 1)18 歳以上とした理由は,チックを有する期間が長いほど様々な 自己対処を試している可能性が高く,自己対処の多様な側面に関 する情報が聞けると期待したため,さらに低年齢では自己対処の 言語化が難しいと考えたためである。 2) 1 名は現在のチック症状の話の途中に,チックへの対応や過去の 症状の話に移行し,症状評価よりも自然な流れの中で豊かな語り を得ることを優先したために,正確な症状評価ができなかった。 3) うち 2 名はインタビューを 2 度行い追加の情報を得た。 4) 1 名のみ録音に抵抗を覚えたため(Info O),録音せずに面接直後 にメモを元に発話内容を記録した。

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1.∼3. の手続きを一通り終えるごとに属性の異なるグ ループの協力者のデータを追加し,分析の対象データを 拡大していった(1.∼3. の一通りの手続きを 1 グループ に対して行った後に,次の段階に進むことをステップと 呼び,Table 1 にステップごとの協力者を記した)。個々 のデータ間の継続的な比較に加えて,属性の異なるグ ループごとの比較を行うことで,より効率的な比較を行 い,特に後半のステップでは,コア・カテゴリーを中心 とした分析を行い,より分析力の高いモデルの作成を目 指した。 分析の質の確保 モデルの転用可能性を検討するために 12∼14 歳の TS を有する児童 3 名のインタビューを行い,分析の参考に した(Table 1)。また,研究協力者の一人である Info N に結果をフィードバックし,データの解釈やモデルの妥 当性を検討し,必要な修正を行った5)

分析過程

本研究の 3 つの目的に対応して分析は以下のように進 んだ。まず,自己対処の生じる文脈を説明する概念を明 らかにし(ステップ 1, 2 目的 1),その概念との関連に おける自己対処の機能を明らかにした(ステップ 2, 3 目 的 1)。その後,自己対処の文脈と機能を説明する概念 を用いて,対処が有効に働く文脈とそうでない文脈の差 を説明するモデルを作成した(ステップ 4 目的 2)。さ らに,モデルの作成やモデルの事例への適応,協力者か らのフィードバックを通じて,対処に関連する認識につ いての理解を深め,どのように対処すべきか,という臨 床的な示唆について考察した(ステップ 4, 5 目的 3)。 ステップ 1 対処の文脈:対処への圧力と対処の限界の 強調 ステップ 1 の協力者は,過去に周囲からの[対処への 圧力]を強く感じて,無理矢理抑制しようと努力した経 験があった。しかし,抑制しようとしても前駆衝動の上 昇等の抑制の辛さを感じ,[対処の限界]を強く感じて いたことが報告され,現在はチックをおさえることに対 して抵抗感を覚えていた。 5)Info N は分析過程の最後のステップで話を聞いた協力者であり, かつモデル全体に関わる豊かな語りが得られたため,一事例を 使ってモデル全体の説明を行う際に Info N の事例を用いた。さ らに,「一事例を通じたモデルの理解」に使用した事例の当事者 である Info N に結果の説明に加えて,自身の事例を使ったモデ ルの解説を読んでいただくことで,自分の体験がモデルによって 適切に理解されているのか検討した。 Table 1 協力者の属性と各グループの特徴 グループ 各グループの特徴 番号 性別 年齢 最悪時年齢 YGTSSa) 他診断インタビュー 時間(分) ステップ 1 最悪時のチックが重症 最悪時と比べてチックが軽快 最悪時から 8 年以上が経過 A M 20代前半 10∼12 歳 47 ADHD 57 1 2 3 4 5 B F 20代後半 15∼18 歳 −b) なし 109 C M 20代前半 10∼12 歳 60 OCD 72 2 最悪時のチックが中程度 最悪時と比べてチックが軽快 最悪時から数年以上経過 D M 20代前半 17歳 40 なし 46 E M 20代前半 16∼18 歳 40 なし 79 F F 20代前半 11歳 20 OCD 64 3 現在の年齢が比較的高い 最悪時と比べてチックが軽快 最悪時から 5 年以上経過 G F 20代後半 22 歳と 28 歳 21 OCD 86 H M 40代前半 28歳 42 なし 82 I M 30代後半 33歳 44 OCD 58 4 最悪時と現在がほぼ同時期 最悪時と比較して症状が あまり軽快していない J M 30代後半 39歳 34 OCD 68 K M 10代後半 18歳 61c) なし 53 L M 20代前半 22歳 84 なし 58 5 最悪時から時間が経っている 最悪時及び現在の症状の 重症度は様々 M M 10代後半 18歳 60 なし 63 N M 40代後半 12歳 27 OCD 79 O M 40代前半 14歳 51 OCD 46 P M 10代後半 10歳 31 なし 60 6 小中学生 最悪時からの年数・チック保持 年数が他グループより短い Q M 10代前半 7歳 34 なし 23 R M 10代後半 13歳 35 なし 52 S M 10代前半 12歳 66 なし 26 a)チックの重症度 Yale Global Tic Severity Scale,b)1名症状評価欠損,c)実施 1 ヶ月前の参考値,インタビュー時はやや改善。

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デルの理解の文章を読んでいただき,協力者の実体験と モデルが一致することを確認した。Info N は,モデルの 中でも[仕方ないという認識]や[大丈夫という感覚] 等の当事者の認知の重要性を指摘し,自己対処の獲得が 自身の価値観に大きな影響を与えたと語った。さらに, 小中学生 3 名の自己対処の語りが本研究のモデルで理解 できるか検討し,モデルの転用可能性を確認した。ここ から,作成した概念及びモデルは本研究の目的を満たし, かつ一定の信用性があると判断し,研究を一度終了した。 Table 3は最終的なカテゴリー・グループ,カテゴリー, サブカテゴリーとその発話例である。サブカテゴリー名 はカテゴリー名と同じ欄の括弧内に記載した。

結果と考察

本研究で設定した 3 つの目的に対する答えを以下の順 に述べた。まず,「1. 対処への圧力と対処の限界」で目 的 1 の対処の生じる文脈について説明し,「2. 自己対処 が機能する 2 種の文脈」において目的 2 の 2 種の文脈に ついて説明した。そして「3. 部分的な対処」において, [部分的な対処]が 藤状況に折り合いをつける機能を 有することを説明した(目的 1)。その上で,「4.[部分 的な対処]を阻害する感情」及び「5. [部分的な対処] を可能にする認識」において,部分的な対処が機能する ために必要な感覚や認識を挙げ,自己対処において重要 な,自己対処の良い循環のプロセスについて論じた(目 的 3)。 1 .対処への圧力と対処の限界 チックへの自己対処が行われる時,その背景には[対 処への圧力]と[対処の限界]の両者が常に何らかの形 で存在し, 藤を引き起こしている。 チックへの自己対処が生じる時,[対処への圧力]が その背景にあり,多くの場合,[対処への圧力]は苦痛 をもたらす。静かな場所や公共機関等の[対処を促す状 況]において,TS を有する本人は「チックを隠したい」, 「おかしいと思われたくない」等の様々な[出したくな い気持ち]を抱き,“対処しなければいけない”と感じる。 Info Hはチック症状が軽快した現在について「世界が広 がった」と述べていた。そして,「世界が広がるって言 うのは,だから,自分の行動範囲が広がるというか,レ ストランに行くことが,なんでこんなに心地いいことな んだろうとか。普通の人は平気で行きますけど,前は人 目を気にしながら,こうやりながら(頭をかがめるそぶ り)飯食ってましたからね。声を本当にもらさないよう に,人目を気にして。」と続けている。 一方で,どのようなチックへの自己対処を行っても, 程度の差はあれ[対処の限界]が伴うため,対処が辛 く,“対処したくない”という気持ちを抱くことも多い。 チックを抑制しようとすると,「身体の奥の方から(略) ステップ 2 対処の機能:対処の限界と対処への圧力の 折り合いをつける部分的抑制 ステップ 2 の協力者は,ステップ 1 の協力者と同様に, [対処への圧力]を感じながらも,実際に抑制しようと しても十分に抑制できないという[対処の限界]を感じ ていた。チックに対処する際は,この[対処への圧力] と[対処の限界]の両者が常に背後に存在し,そのこと が苦痛になり,対処意欲と対処の成功の程度(どの程度 対処できるか)に影響していることが分かった。そして, 両者の影響を受けながらある程度対応する,という[部 分的な対処]が両者の折り合いをつける機能を持ってい ることが示唆された。 ステップ 3 対処の機能:部分的な対処の持つ主体的な 統制感 ステップ 3 では[部分的な対処]の持つ積極的な機能 が示唆され,[部分的な対処]を自分の意思で行ってい ることが,チックをコントロールしているという主体的 な感覚([コントロール感])につながる重要な機能を持 つことが示唆された。ここで,[対処への圧力]と[対 処の限界]ゆえの[部分的な対処]をコア・カテゴリー に位置づけた。 ステップ 4 部分的な対処を中心に対処の文脈を 2 種類 に分ける ステップ 4 では,ステップ 3 までに出てきた対処の文 脈及び機能を説明する概念を,事例ごとに比較すること で,対処が効果的に機能している文脈とそうでない文脈 を差異づけるものは何か,検討した。各自己対処ごとに, 対処の文脈と機能をそれぞれ説明する概念及び関連する 認識の次元を比較したものを Table 2 に載せた。その際, 比較を容易にするため,肯定的に語られた自己対処の事 例を[チックと上手くつき合う],否定的に語られた自 己対処を[対処の悪循環]と便宜的に分類し,両者の比 較を行った。 その結果,[対処の限界]はいずれの文脈においても 高かったものの,[チックと上手く付き合う]状態では, [対処への圧力]及び[対処意欲の程度]が変動するか, もしくは中程度であり,[コントロール感]と[仕方な いという認識]の双方が比較的高いという傾向が見られ た。このような継続的な比較を通じて,2 種の対処の文 脈,及び 2 種の文脈間の移行に関わる要因を含めたカテ ゴリー関連図を作成し,Figure 1 に載せた。 ステップ 5 モデルの適合度のチェック ステップ 5 では,ステップ 4 で作成した概念及びモデ ルによってステップ 5 までの各グループのストーリーが 理解できるか検討し,今回の協力者の自己対処の特徴や 体験過程を十分に説明できていると判断した。さらに, Info Nにモデル図を用いて本研究の 3 つの目的に対応す る結果について説明し,特に Info N の事例を通じたモ

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Table 2 カテゴリー間の比較と発話例 対処への 圧力 対処の 限界 対処意欲の 程度 対処の成功の 程度 コントロール感 不完全な対処 への不安 仕方ないという 認識 自然な軽快 リハビリ 便宜的な 分類 Info A おさえる (過去) 高 高 高 低 低 対処の 悪循環 「テストでみん なシーンとして る」「出ちゃっ たら本当に辛い んで」 衝 動 がこみ 上 げてくる 最 終 的に爆 発 する 「 た だ ひ た す ら,ぐっとこら えて」「おさえ ようおさえよう としてた」 「長くもって 数分単位」 「おさえように も おさえられなく て」 Info A マスク (過去) 高 高 中 低∼中 中 中 自然な軽快 チックと 上手く つき合う 「 本 当 に もう, す ご い プ レッ シャーで」「言っ ちゃいけないん だ,言っちゃい けないんだとい うのが余計に」 「 具 体 的 に ど うす れ ば い い か,っていうの は 自 分 で もあ んまり分からな かった」 「ちょっとは声 がマスクで聞 こえなくなる んじゃないか なって」 あんまり意味 ないような気 がするんです けど 「 周 り の 人 に 聞 こえ な い ん だーって言い聞 かせちゃうと」 「大丈夫だなっ て,自分に言い 聞かせて」 「声が出ちゃっ ても,周りの 人(学校)が 全く気にしな いでいてくれ て」「僕もそれ が一番楽」 「ただ単に時間 が解決してく れた」 Info B おさえる (過去) 高 高 高 低 低 低 対処の 悪循環 「自分のせいで 周りにいる友達 がみられた,嫌 だ」 「止めることは 無理だし,止め ようとするほど 苦しいし」 「止めるしかな い」「止める努 力をしたけど 無理で」 「止めることが できなくて」 「止める努力を し たけど 無 理 で」 「自 分 が 悪 い んだ,じゃあ, 止めるしかな い」 Info B 切替・ 環境 調整 (現在) 変動 中 中 高 低 高 リハビリ チックと 上手く つき合う 「空いている店 より混んでる店 がいい」「賑や か だ と おし ゃ べりとかに夢中 で,別にそこま でなんだろうと 考えないから」 (対処の後に) 「チックが出て も出なくても, 自分は責めな いのね」 (対処後に「多 少はあ,あ,っ て出るけど」 「今はね,コン トロールは多少 できるけど」 「チックが楽に なるような環境 づくりを,自分 でしていった」 (対処後に多少 出ても)「それ に捉われるこ とはない,今 は」 「出ちゃうもの は出ちゃうか ら」「これから も続くと思い ますし」 「 時 間 を 決 め て,意識的に 一つのリハビ リとして,外 に出るという ことをしまし た」 Info D おさえる (現在) 変動 高 変動 中 低 高 中 リハビリ チックと 上手く つき合う 「新しいコミュ ニティに入る」 ⇒おさえたい 「コミュニティ に入って自然な 感じ」⇒出す 「おさえようと し ても,まあ, なんか,身体が むずむずするん ですよね。」 「できるだけ無 しで行こうと いうような感 じ」「チックを 気楽に出す」 「短時間押さえ ようと思うと 押さえられる ん で すよ。10 分とか 15 分と か」 「自分ではどう することもでき ないので」 「これでいいの かなって考え が,頭の片隅 にはちょっと 有りますね」 「もう出ちゃう のは仕方ない なって」「頭の どこかで,やっ ぱ り 完 治 が, やっぱり理想」 「薬を飲み始め てよくなった」 「いろんな人と 関わるうちに, よくなってき た(リハビリ)」 Info H おさえる (現在) 変動 高 変動 中∼高 中∼高 高 自然な軽快 チックと 上手く つき合う 「人が結構静か で大勢いる」⇒ 我慢する, 「がやがやうる さ い とこ 」 ⇒ ちょっと出す 「あんまり我慢 す ると自 分 で も疲れちゃうの で」 「その時は我慢 して,うん,けっ こう,きつかっ たですね」 「我慢したりす る時もあるし, そのまま,そ れでいいやっ て出しちゃう 時もあるし」 「午前中いっぱ い我慢して(た まに出しちゃ うことも)」 「それぞれ,そ の 状 況 に 応じ て,自分でコン トロールしてま すけど」 「治るものじゃ ないっていう のは自分で分 かってるんで, このままの程 度で普通に生 活できたらい いかなって」 「自然に時間が 良くしてくれ たって,今は 感じなんで」 Info I おさえる (過去) 高 高 高 低 低 対処の 悪循環 「チックが辛い というか,(チッ クが出ると仕事 に)支障が出る ことが辛い」 「 抑 え て 疲 れ て,チックひど くなって,抑え て疲れてひどく なって,の繰り 返し」 「やっぱ抑える じゃないです か。( 仕 事 中 は)すっげー 頑張って,集 中して」 「おさまりきん な く な っ て, も っ と 辛 く なって」 「 ひ ど い 時 は, おさまらないか ら,だめなんで す」

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むずむずとか衝動 (Info F)」が出てくる。そのため抑制 を続けることは難しく,集中力が必要であったり,疲労 感を伴う。さらに「出したい気分が少し収まったけど, あ,これは,出さないといつもおさまらないな,って。 (Info K)」のように[未解消感]が残る。そのため,自 己対処は「その場しのぎ(Info K)」であり,チック症 状に完全に対処することは不可能と多くの場合感じられ ていた。また,自己対処が[チックの否定的な意味づけ] につながり,自己対処の辛さに結びついている例や,対 処の成功の程度が変動することも語られた。ここから, チックへの自己対処は,対処に伴う短期的・長期的な辛 さ,対処の不完全性,対処の変動性という 3 点において 限界を伴うものと考えられる。このような[対処の限界] の存在によって自己対処への抵抗感が引き起こされてい た。 2 .自己対処が機能する 2 種の文脈 [対処への圧力]が対処意欲を高じさせる一方,[対処 の限界]が対処への抵抗感を生じさせ,「対処したくな いのにしなければいけない」という 藤が引き起こされ る時,チックを有する本人はどのようにチックに対処し ているのだろうか。 Figure 1の上部は,[対処への圧力]と[対処の限界] の両者の影響を強く受け,[対処意欲の程度]を下げる ことができない[対処の悪循環]という状態を表してい る。Info I は,仕事で「支障が出ることが辛い」と思い, 「すっげー頑張って,集中して」チックをおさえて仕事 をしていた。しかし,「やっぱ抑えると辛い」ので,「休 憩とかの間にタバコ吸ってなんとか,気を落ち着かせて, で,また,がって集中してやってるのを繰り返したら, もう,つぶれちゃってましたよね。」と語る。このこと を Info I は,「抑えて疲れて,チックひどくなって,抑 えて疲れてひどくなって,の繰り返しで,どんどんどん どん落ちてく感じ。」とまとめている(Info I 過去)。ま た,Info B も過去にチックをおさえようとしたことにつ いて,「自分が悪いんだ,じゃあ,止めるしかない,で も,それができない。できなくて,止めることができな くて,人に会えなくなる自分の方が嫌だと思って,でも, 出ちゃって。」と,過去に自己対処が悪循環を起こして いた時期について語っている(Info B 過去)。この状態 では[対処意欲の程度]を意図的に変化させるという観 点がなく,“対処しなければならない”という重圧が中 心的な認知となっている。 Figure 1 チックへの自己対処を生じさせる 2 種の文脈のモデル図 葛藤 チックと上手くつき合う

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Table 3 最終的なカテゴリ―及び発話例 カテゴ リー・ グループ カテゴリー (サブカテゴリー) 発話例 対処への 圧力 (文脈) 対処を促す状況 (チックが目立つ環境・ チックの種類) 映画観行くと,結構ひびいたりしてたんで。(略)けっこう,それは気にしてたんで,極力出さないよ うに出さないようにってやってて。Info D で,声の方は神経(の病気という説明)じゃどうにもならなかったんで,それは本当にすごく抑えて, 学校では抑えて,家帰って出しまくってって感じだったんで。 Info D 出したくない気持ち (チックを隠したい・ おかしいと 思われたくない・ 周囲の視線への 意識・ 相手に迷惑を かけたくない) 新しいコミュニティに入って,周りが新しくなると,自分を一新したいというか,チックがない自分と して見られたいっていうのも,思いが最初はありますね,どうしても。そうやって,抑えたいって状況 になりますね。Info E 動いてるのって見れば,あ,癖なのかなって分かる範囲があると思うんですけど,でも,声を出すって 言うと,本当になんか,言い方悪いですけど,あの子おかしいんじゃないのって思われてしまうってずっ と思ってる。Info F 誤解を受けるのもいやですしね。だから,人ごみの中だと,やっぱり何この人ってなっちゃうし,僕も, その,不信がられるのがいやだしっていうのですね。それはやっぱり,少し抑えた方がいいかなって いう感じになります。 Info I 他人の視線が,まあ,全然,見知らぬ人で,視線を感じるので,それがやっぱ,抑えようという,動 機にはなります。Info E 周りの方にね,音声チックだったらうるさくなってしまうし,運動チックだったら,もしねえ,ぶつけちゃっ たら悪いなっていうのは,多分あったと思うんですよね。 Info N 対処の 限界 (文脈) 対処自体の辛さ (衝動のこみ上げ・ 未解消感・ 集中力の必要性・ 対処から生じる疲労) なんかもう,こみ上げてきちゃうって言うか。こうなんか,言いたい,言いたいって言う,もうなんか 衝動みたいな感じになっちゃって,それをこらえようにも,こう,やっぱこらえられなくて,こう,ずーっ とこう,うーん,中からうーっとこみ上げてくるようなイメージがあって。 Info A やりたくなった時とかに,目だとまずいんで,ちょっと,こう,手とか腕とか肩とか動く人いるんで,やっ てみようと思ってやってみるんですけど,そこだとなんか,全然抜けない。感じが変わらないんですね。 Info J 授業には集中できない,全部の力がそこ(抑制)だけに集中して。Info K (止める方に集中して)図書館行っても勉強できなかったり,あんまり集中できなかったりとか。Info D あと映画館でも内容集中できないで,そっちの止めようという方に行ってて,すごく疲れちゃったりし てたんで。Info D 対処の副産物 (リバウンド効果・ チックの否定的な 意味づけ・ おさえられなかった 経験) そういう時っていうのは,今までやりたかった分,止め溜めしてた,みたいな感じで,で,そういう時 は連続して起こることが多いです。その時には,今言ったみたいに一気に連続して起こることが多い です。Info J なんか悪いことしてる気がするから。だって病気だから仕方ないのに,なんか抑えてるってチックが 悪いことみたいだから。Info B 小学校の頃とか,けっこう,抑えよう抑えようと思ったんですけど,やっぱり途中で限界が来てしまう。 Info A あんまり出したくないっていうんで,抑えようとした時期もあったんですけど ,だいたい,我慢できて, 1,2 分ですね。Info C 一方で,Figure 1 の下部に該当する,[チックと上手 くつき合う]という状態の語りでは,[対処への圧力] と[対処の限界]の両方が存在していることが語られな がらも,[対処の悪循環]に陥ることは少ないようだった。 分析を進める中で,チックと上手くつき合っている状態 では,[部分的な対処]という自己対処のあり方が [対 処への圧力]と[対処の限界]に折り合いをつける機能 を有していることが分かった。 3 .部分的な対処 チックへの自己対処は,チック症状の波・周囲の状況 など自分以外の要因によって変動する[対処への圧力] と[対処の限界]に影響されるため,[対処の成功の程度] と[対処意欲の程度]が変動したり,不完全になったり する部分的な対処とならざるを得ない。 本研究で見出 された概念としての[部分的な対処]とは,[対処への 圧力]と[対処の限界]によって[対処意欲の程度]や

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部分的な 対処 (機能) 対処意欲の程度 (状況に合わせた 意欲の変化・ 対処意欲:低・ 対処意欲:高) まあ,我慢したりする時もあるし,そのまま,それでいいやって出しちゃう時もあるし,うん,それは, まあ,あのー,それぞれ,その状況に応じて,自分でコントロールしてますけど。 Info H バスの中だと多少出してもいいから,うるせーから出しても大丈夫だって感じで,出してますけど。 Info H こういう場所だとちょっと出すと目立っちゃうから,出しちゃいけないっていうので,けっこう我慢して。 Info H 対処の成功の程度 (続けられる時間・ 大きさの変化・ 頻度の変化・ 成功の程度の変動) そうですね,声のを抑えて。ただ,30 分がいいとこで。Info L 短時間抑えようと思うと抑えられるんですよ。短時間,まあ,10 分とか 15 分とかの場合は,あと,も うちょっと長くてもいいんですけど。Info D 風邪ですか,って思われるぐらいには,おさえてますけど。Info L 動きも , 頻度が抑えようとすることで下がるので,目立たなくなってるのかな,って感じがします。 Info E 2,3年前はほとんどがコントロールできるものだったけど,最近,強くなってきたら,ほとんどはコン トロールできないものになりました。Info K 対処の 悪循環 対処の悪循環 駄目だ駄目だ,しちゃいけないって思えば,思うほど,衝動が強くなって,だから,悪循環?そうですね。 Info B 抑えて疲れて,チックひどくなって,抑えて疲れてひどくなって,の繰り返しで,どんどんどんどん落 ちてく感じ。Info I チックと 上手く つきあう (機能)a) コントロール感 緊張感を多少自分の中で,整理できる,取り除いていけるようになると,街だったり,ある程度の時間 帯にコントロールできるようになる。(略)コントロールというか,自分で積み上げていった部分はある よね。チックが楽になる環境づくりを心がけていったっていう部分もあるし。 Info B 大丈夫という感覚 結果的になんかその,自分それ(想像チック)でも OK なんだなってことで,気づいたことは大きかっ たですね。(略)周りに迷惑をかけないだけじゃなくて,自分の中でも想像の中でチックをするだけで もすごくもう楽になるんだなってことですよ。 Info N マスクしてれば,こうちょっとは周りの人に声が届かないかな,だから,大丈夫だな,っていうのを, こう自分に言い聞かせて,こう,一日中マスクしたりとか。 Info A 段階的なリハビリ 例えば電車とか最初から人が多いところっていうのは無理だったので,少しずつ,本当に少しずつ, 決めて,今日はここに 30 分行ってみよう,20 分行ってみよう,っていう風に少しずつ取り入れてった のと。Info B ちょっとずつ,動くようにしてたんで。少しずつ,外に出ようと。今日は,このぐらい出たから,次は もうちょっと長く出ようとか。友達誘って,ちょっと遠くの方行ってみようとかして,ちょっとずつ馴ら してって。Info G 自然な軽快 本当に,自然に時間が良くしてくれたって,今は感じなんで。Info H 二つの 状態を 移行させ る要因 不完全な対処への 不安 開き直って出してる時は,これでいいのかなって意識も働いて,そこの部分が苦しいときもあるんです けど。Info E (チックをごまかした後は)あ,今気づかれたかなっていう不安があるんで。Info D 仕方ないという 認識 (出るのは仕方ない・ 完治はしない) 多少は出てしまうとかですねえ。でも,今はもう,周りも全然気になりませんし,仮に出たとしてもね, それはそれでしょうがないかな,みたいな。 Info N 増えてるもんは増えてるんだし,そんなの気にしたってしょうがないよ,出るもんは出しゃいいんだか ら,とか。そこまで気にしなくなりましたね。焦ったりとかはしなくなった。チックに対して,ドンと構 えるというか。Info C このまま,まあ,治るものじゃないっていうのは自分で分かってるんで,このままの程度で普通に生活 できたらいいかなって,っていう感じですね。Info J 治るかも,治るかもって,治そうとすることにこだわると,家族みんなが苦しいかも,それと一緒に生 きていくこと,を考えると,色々見えてくるものがあるかな。Info B やっぱり,全快はしない,っていう,何ですかね。そういう諦観っていいますかね。諦めのところもあ るような気がしますね。やっぱり,それはもう,なんか,一生どうやってお付き合いしていこうかなっ ていう。Info N a)[コントロール感]と[大丈夫という感覚]のみが対処の機能。[段階的なリハビリ]と[自然な軽快]は対処の機能を促進する,もしくは対処 の機能によって促進されたり,可能になったりする要因。

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[対処の成功の程度]が変動したり,不完全なものになっ てしまうことを自ら踏まえた上で,[対処の成功の程度] と[対処意欲の程度]を主体的に部分的なものとする対 処である。 Info Hは場所によって[対処意欲の程度]を自分で使 い分けていると述べていた。そして,「まあ,我慢した りする時もあるし,そのまま,それでいいやって出しちゃ う時もあるし,うん,それは,まあ,あのー,それぞれ, その状況に応じて,自分でコントロールしてますけど。」 というように,[部分的な対処]によって[対処意欲の 程度]を変動させていることを“コントロール”と呼ん でいた。また,「抑えることが小さくなることだと思い ますね。まあ,肩も,ちょっと抑えようとしたら,小さ くなったりもしますし。(Info E)」と言うように,[大き さの変化]を抑制と呼ぶ場合や,「(抑えても)まあ,肩 すくめを入れてしまえばやっぱり,うーん,10 分か 20 分に 1 回ぐらいは出てるかもしれないですね。苦痛に感 じないので。(Info I)」のように[頻度の変化]を抑制 と呼ぶ場合があった。どちらの場合も[対処の成功の程 度]が不完全であったとしてもその事実によって「対処 しきれない」と[対処の限界]を強く感じるのではなく, ある程度はコントロールできており,多少出るのは「苦 痛に感じないので(Info I)」大丈夫だという感覚が共通 していた。このように[部分的な対処]を自分の意思で 行っているのだという感覚と,[部分的な対処]によっ て対処できているという感覚がチックをコントロールし ているという主体的な感覚につながり,そのことが[対 処への圧力]と[対処の限界]に折り合いをつける機能 を有すると考えられる。 4 .[部分的な対処]を阻害する感情――2 つの状態を 移行させる認識と感覚 1 [チックと上手くつき合う]という状態は必ずしも常 に静的なものではなく,[対処への圧力]と[対処の限界] のどちらかが強くなり,[不完全な対処への不安]が生 じると,そのバランスが崩れたり,[対処の悪循環]に 近い状態になることもあると考えられる。 例えば Info E は,「コミュニティに入って自然な感じ になると,じゃんじゃん出すのは出すんですけど,やっ ぱり,これでいいのかなって考えが,頭の片隅にはちょっ と有りますね。」と述べ,[対処への圧力]が下がり[部 分的な対処]で折り合いがつけられていても,[不完全 な対処への不安]が生じてくることがあると語る。また Info Dは,音声チックを咳払いでごまかす対処を行って いたが,「あ,気づかれたかなっていうのは不安に思っ てたんで,それは,結局ストレスになってたんで,出し てない時と同じぐらいストレスはあったと思いますね。」 と語っていた。そのため,最終的に抑制を行い,「本当 にすごく抑えて,学校では抑えて,家帰って出しまくっ てって感じだったんで」疲れたと語っている。ここか ら,[部分的な対処]が[対処への圧力]と[対処の限 界]の作る 藤状況に折り合いをつける機能を有するに は,[部分的な対処]でも大丈夫なのだ,という[部分 的な対処]を正当化させ,納得させる何か,が必要であ ると考えられる。 5 .[部分的な対処]を可能にする認識――2 つの状態 を移行させる認識と感覚 2 [部分的な対処]の実施を正当化し,本人に納得させ る認識が[仕方ないという認識]である。この認識は [出 るのは仕方ない],[完治はしない]というサブカテゴリー からなり,「諦観っていいますかね。諦めのところもあ るような気がしますね。」と Info N が述べているように, 一種の妥協や諦めの感覚である。 ただしこの感覚は,Info B が「チックは決して,楽観 的にすぐ考えられるものではないと思います。受け止め る。病気だから,仕方ないじゃない,って受け止めるに はすごく時間がかかるので。」と述べているように,そ の獲得は容易ではない。強い[対処への圧力]と[対処 の限界]ゆえに“対処できない”状態に直面化し続けた としても,不完全な対処への諦念にはつながらず,むし ろ[対処の悪循環]を引き起こす。そうではなく, 藤 状況に圧倒されずに,主体的に 藤状況に対処できてい るという[コントロール感]を獲得することによって, 不完全な対処でも[大丈夫だという感覚]を持つことが でき,[仕方ないという認識]の獲得に至るのである。 このことについて Info F は「まあ,気持ちも,症状もコ ントロールできるようになったから,まあ,病気と仲良 くしていこうとは,多分思えないんですけど,まあ,仕 方ないかというところまでは。」と述べている。 つまり,[部分的な対処]によって[コントロール感] を獲得する主体性の獲得プロセスと,[仕方ないという 認識]を獲得して[部分的な対処]が可能になる諦念の 獲得プロセスは相補的かつ循環的に進むと考えられる。 この主体性と諦念を獲得していく循環の中で,少しずつ 対処できる場面を広げて自信をつけていく[段階的なリ ハビリ]を行ったり,[自然な軽快]を経験していくこ とで,[コントロール感]が増し,より 藤状況への折 り合いがつけやすくなる。さらに,[仕方ないという認識] の獲得により[不完全な対処への不安]も減るため,[対 処の悪循環]に移行しにくくなる。このように主体性と 諦念の循環的な獲得のプロセスを経験していくことで, 徐々に[チックと上手くつきあう]状態にいる時間が増 えていくと考えられる。 6 .一事例を通じたモデルの理解 Info Nは「想像の中でチックをする」自己対処法を用 いていたが,その対処は「症状が悪い時は,それ(自己 対処)だけでは十分にフォローできない面はありました

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よね。多少は出てしまうとかですねえ。」と“部分的” なものであった。しかし,Info N はチックへの自己対処 の効果について,単にチック症状を和らげただけでなく, その対処が自分に合っており,[大丈夫という感覚]や[コ ントロール感]に結びついたことが大きかったと述べて いた。「結果的になんかその,自分それでも OK なんだ なってことで,気づいたことは大きかったですね。(略) 自分の中でも想像の中でチックをするだけでも,すごく もう楽になるんだなってことですよ。」という Info N の 語りに対し「自分の中で,想像内ですれば OK なんだっ て気づいたことが大きかった?」と筆者が聞き返すと, 「大きかったですね。実際それは,チックを出すと楽に なりましたからね,想像内で。それは,やっぱり,結構 自分としては大きかったですね。チックの対処法として は,自分にとっては価値があるものだったかなっていう か,思いますね。」と返し,想像チックをすれば[大丈 夫という感覚]が大きかったと語る。Info N は現在,「出 たら出たでしょうがないみたいな,別にいいじゃないか, みたいな。」「今のままでいいんだ,と自分を許しちゃお うみたいな。」という[仕方ないという認識]を有し,「良 い意味での諦めって言うか,それは大きいですよね。執 着が取れた,こういったらあれなんですけど,執着が少 なくなった,物事に対する。」と[仕方ないという認識] の獲得も大きかったと指摘する。その背景として,服薬 治療による症状の軽減や主治医の心理教育や主治医との 信頼関係,周囲の理解が大きかったと語る。しかし,そ れだけでなく「多分ですね,想像チックをすることによっ て,周りの目が気にならなくなって,それがその,周り を気にしなくなったきっかけになったかもしれないです ね。つながっているような気がするんですよ,全てなん か。連動してるような気がするんですよ。」と述べてい る。これは,[部分的な対処]による[コントロール感] の獲得と[仕方ないという認識]の獲得の良い循環のプ ロセスを示唆し,さらにそのプロセスに周囲の理解を含 めた他の様々な要因も影響していることを示唆している と考えられる。 7 .モデルの転用可能性の検討:小中学生の事例へのモ デルの適用 小中学生 3 名のインタビュ―内容を録音,逐語化し, 本研究のモデルによって 3 名の自己対処のストーリーが 理解できるか検討した。その結果,モデルの有用性が一 定程度示唆された。 第一に[対処への圧力]と[対処の限界]が存在して いること及びその両者による 藤状況で対処の文脈が理 解できることが明らかとなった。第二に「通学路では対 処しないが授業中は対処する(Info Q)」,「チックにつ いて説明済みの友達の前では我慢しない(Info R)」等, 対処意欲を状況に合わせて折り合いをつける[部分的な 対処]を行っていたこと等が共通していた。第三に,「学 年が上がるごとに,自分で止める,止めたり,普通にし てたり,年が上がるごとにだんだん治っていって,最終 的にはなくなるんだろうなって思った(Info Q)」「何回 もコントロールしてきて,やっぱ,慣れてきます(Info S)」 という語りは,[大丈夫という感覚]や[コントロール感] の獲得という自己対処の正の側面を示唆していた。 しかし,この 3 名の語りには[仕方ないという認識] への言及が見られなかったという点でモデルの生成に用 いた協力者の語りとは異なっていた。[仕方ないという 認識]の獲得自体がより長期的なプロセスの中で生じる ものなのか,もしくは[仕方ないという認識]の獲得が 肯定的な変化の一つと語れるようになることに年数の経 過が必要なのかは分からない。いずれにしても主体性と 諦念の相補的な獲得のプロセスの語りは,最悪時からあ る程度の年数が経った青年期以降の当事者の特徴なので はないかと考えられる。

総 合 考 察

1 .自己対処における主体性と諦念の相補性と循環性 本研究では,自己対処が対処への圧力と対処の限界の 藤情況という文脈の中で生じ,自己対処が効果的に働 く時,症状に部分的に対処することでその 藤に折り合 いをつける機能を有することを明らかにした。部分的な 対処は最初から 藤状況に折り合いをつける機能を安定 して有しているわけではなく,部分的な対処でよいのか という不安から,対処の悪循環に戻る危険性を孕んでい ること,部分的な対処が可能になるには, 藤状況に対 する諦念と受容,すなわち仕方ないという認識が必要で あることが分かった。一方で,仕方ないという認識の獲 得のためには,部分的な対処によって 藤に少しでも折 り合いをつけ, 藤状況に対する主体性,コントロール 感を獲得し,この対処で大丈夫という感覚を手に入れる ことが重要であることが分かった。ここから,今回のよ うな 藤状況における自己対処場面では,主体性と諦念 は相反するものではなく,相補的な性質を持ち,互いに 重なり合いながら発展していくのではないか,と考えら れる。 2 .コントロール感と主体性 片岡・佐藤(2009)は,悪性リンパ腫患者を対象とし た研究において,統制力を獲得するには困難を乗り越え た成功経験とその実績に基づく肯定的な自己評価が重要 であると指摘している。本研究におけるチックへの自己 対処は , 主観的な苦痛を伴う等限界を有し,必ずしも“成 功体験”と認識されるものばかりではなかった。自己対 処が“成功体験”として本人に捉えられ,統制感につな がるには,自己対処が 藤状況に折り合いをつける機能 を有することや,本人が仕方ないという認識の獲得等,

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様々な文脈や認識が重要であることが示唆された。さら に,“部分的な対処”という対処の有り方の発見から, 藤状況における自己対処では , 周囲からの対処への圧 力や対処の限界等自分では変化させられない状況や要因 に立ち向かうのではなく,その状況や要因を理解した上 で,主体的にその状況に沿った対処を行っていくことが, 結果的に主体性の獲得につながると示唆された。 3 .仕方がないという認識と障害受容 本研究において“仕方ないという認識”が部分的な対 処の実施を可能にする,重要な概念であることが示唆さ れた。“仕方がないという認識”と類似した概念として 障碍受容が挙げられる。太田・南雲(1998)は,日本の 障碍受容論は障碍を持つ本人の価値転換を重視し,社会 からの影響や障碍が本人に与える影響を過小評価してい ると批判した。そのために,本人の障碍受容が本人の責 任にされてしまう危険性を論じた。岩井(2009)もまた, リハビリテーションの現場で“障碍受容が進んでいない” という批判が誤用されることを批判している。チックへ の自己対処において社会からの影響は“対処への圧力” であり,過小評価できない障碍の影響が“対処の限界” である。この 2 種の要因が存在するために“仕方ないと いう認識”の獲得は容易ではない。本研究では,部分的 な対処によるコントロール感の獲得や,周囲の理解や自 己対処による“大丈夫という感覚”や安心感の獲得によっ て,はじめて“仕方ないという認識”を持つことが可能 になるのではないか,と考察された。特に周囲の理解の 重要性については多くの協力者が言及しており,周囲の 理解が大丈夫という感覚や仕方ないという認識に与える 影響については更なる研究が必要と考えられる。いずれ しても,障碍受容において重要なことは,本人の価値転 換を求める姿勢ではなく,“完全に対処することを諦め ても大丈夫だ”と本人が思える前提,すなわちコントロー ル感や安心感を育む姿勢なのではないかと考えられる。 4 .発達に伴う自然な症状の軽快と自己対処の関連 TSは他の多くの発達障碍とは異なり,発達の経過の 中での症状の変動が大きく,年齢と共に症状が軽快する という特徴がある。症状が最も重症な時は部分的な対処 も難しいこと,また,症状の自然な軽快によって対処へ の圧力及び対処の限界が軽減することを考えると,症状 の自然な軽快によって対処が可能になり,コントロール 感が獲得されたという側面もあるかもしれない。しかし, TSにおけるチック症状は必ずしも短期間で軽快するも のではなく,徐々に症状が軽快していくその期間に生じ る 藤状況に自己対処で折り合いをつけていくことが必 要となる。すなわち自然な症状の軽快は,部分的な対処 による主体性と諦念の獲得の良い循環プロセスを加速さ せる重要な要因であり,中程度の症状から軽度へと緩や かに症状が改善していく中で,部分的な対処による良い 循環プロセスが同時に進むことが自己対処において最も 望ましい形と考えられる。 また,思春期・青年期はチック症状が最も重症になる ことが多いため,対処の悪循環に陥る可能性も高い。元 来不安定になりやすい思春期・青年期の慢性疾患への罹 患はアイデンティティ確立に影響を及ぼすことが指摘さ れている(今尾 2009)。本研究における主体性と諦念の 獲得の良い循環のプロセスは,症状や 藤状況に圧倒さ れている自己から症状に対処していく自己へのアイデン ティティの変化と捉えることができる。この変化はアイ デンティティ確立が求められる思春期・青年期において より重要となると考えられる。 5 .本研究によって導き出される臨床的な示唆 本研究で導き出された臨床的な示唆は 2 つある。一 つは TS を有する個人が,日常的に対処への圧力と対処 の限界の間で苦しんでいる可能性についてである。周囲 の人間がこのような状態を理解してチックを気にせずに 接することは,自己対処への圧力を下げることにつなが る。もう一つは,部分的な対処の機能についてである。 自己対処への圧力と対処の限界の間に折り合いをつけて いくために,“部分的な対処”を行っていくことは,両 者が悪循環を引き起こすことを防ぐ大事な機能がある。 そのため,有効性が実証されているチックへの行動療法 (Piacentini et al., 2010)も含め,自分にあったチックへ の自己対処の発見を援助することは重要であると考えら れる。 6 .限界と今後の展望 本研究の協力者は 18 歳以上である点,チック症状が 比較的長期化した点,症状が最も重症な時にチック症状 が比較的強く現れる傾向があった点が特徴的である。今 後,症状がより軽症な例やより症状が早期に軽快した例 等に範囲を広げ,モデルを更に精緻化していくことが求 められると考えられる。 また,TS には強迫性障害や強迫症状が合併すること が多く,有病率は女性より男性に多く見られるという特 徴があるが(Swain et al., 2007),本研究の対象者も強迫 性障害を合併する者が多く(43%),男性の割合が多かっ た(81%)。今回の分析で抽出された概念や文脈は,併 発症の有無や性差にかかわらず,どの対象者に対しても 一定の説明力を持っていた。ただし,強迫性障害に関し ては,本研究の協力者は診断に至らずともその症状を有 している者の割合が多かったため,本研究は強迫症状を 有する者に特徴的な結果となっているかもしれない。今 後は併発症や男女差が自己対処や関連する文脈や認識に どのような影響を及ぼすのか,更なる分析が必要と考え られる。

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文   献

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Matsuda, Natsumi (Department of Clinical Psychology, Graduate School of Education, University of Tokyo, Research Fellow of the Japan Society for the Promotion of Science). Management of Tics by Patients with Tourette Syndrome. The Japanese Journalof Developmental Psychology 2013, Vol.24, No.3, 250−262.

Tourette Syndrome (TS) is a chronic tic disorder characterized by motor and vocal tics. Typically, tics start in childhood and their severity declines during adolescence. Tics are partly suppressible but cannot be fully controlled. People with TS often try to control tics, but this may cause negative side effects. The purpose of the current study was to explore the process of self-coping and the contexts in which it occurs, in order to identify factors that make self-coping effective. Sixteen participants with TS were interviewed and transcripts of their interviews were analyzed using a grounded theory approach. The results suggest that patients feel simultaneously compelled to control tics and reluctant to do so because of the costs involved, and that achieving partial control is a way of striking a balance between the benefits and costs. Situations in which patients keep trying and failing to control tics were compared with situations in which they gained a sense of control by partially controlling them. Finally, the discussion explored the contexts in which self-coping was successful, along with patients’ thoughts and feelings when trying to control tics.

【Keywords】 Tourette syndrome, Tics, Self-Coping, Semi-Voluntary symptoms, Sense of control

Table 2   カテゴリー間の比較と発話例 対処への 圧力 対処の限界 対処意欲の程度 対処の成功の程度 コントロール感 不完全な対処への不安 仕方ないという認識 自然な軽快リハビリ 便宜的な分類 Info A おさえる (過去) 高 高 高 低 低 対処の悪循環「テストでみんなシーンとしてる」「出ちゃっ たら本当に辛い んで」 衝 動 がこみ 上げてくる最 終 的に爆 発する 「 た だ ひ た す ら,ぐっとこらえて」「おさえようおさえようとしてた」 「長くもって数分単位」 「おさえようにも おさえ
Table 3   最終的なカテゴリ―及び発話例 カテゴ リー・ グループ カテゴリー (サブカテゴリー) 発話例 対処への 圧力 (文脈) 対処を促す状況 (チックが目立つ環境・チックの種類) 映画観行くと,結構ひびいたりしてたんで。(略)けっこう,それは気にしてたんで,極力出さないように出さないようにってやってて。Info D で,声の方は神経(の病気という説明)じゃどうにもならなかったんで,それは本当にすごく抑えて,学校では抑えて,家帰って出しまくってって感じだったんで。 Info D出したくない気持

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Should Buyer purchase or use ON Semiconductor products for any such unintended or unauthorized application, Buyer shall indemnify and hold ON Semiconductor and its officers,

  憔業者意識 ・経営の低迷 ・経営改善対策.

 

竣工予定 2020 年度 処理方法 焼却処理 炉型 キルンストーカ式 処理容量 95t/日(24 時間運転).

今後の取組みに向けての関係者の意欲、体制等

第3回特別部会 平成13年  1月29日 産業廃棄物処理を取り巻く状況 産業廃棄物の不適正処理の防止 第4回特別部会