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造形創造と不安についての一考察 ─ 中之条ビエンナーレ2019での制作をとおして ─

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造形創造と不安についての一考察

── 中之条ビエンナーレ2019での制作をとおして ──

齋 江 貴 志

A Study of Art Creation and Anxiety

──

Through my work at NAKANOJO BIENNALE 2019 ──

Takashi SAIE

群馬大学共同教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編 第56巻 31―41頁 2021 別刷

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造形創造と不安についての一考察

── 中之条ビエンナーレ2019での制作をとおして ──

齋 江 貴 志

群馬大学共同教育学部美術教育講座 (2020年9月30日受理)

A Study of Art Creation and Anxiety

──

Through my work at NAKANOJO BIENNALE 2019 ──

Takashi SAIE

Department of Art, Cooperative Faculty of Education, Gunma University, Maebashi, Gunma 371-8510, Japan

(Accepted on September 30th, 2020)

1.はじめに

 群馬県吾妻郡中之条町で隔年開催されている中之 条ビエンナーレは、中之条町全体を会場エリアとし て中心となる現代美術の展示のほか、ワークショッ プやパフォーマンスなども行われる北関東でも有数 のアートイベントとして定着している。7回目となっ た2019年の同イベントは、参加作家150組で、8 月24日から9月23日の会期で開催された。1)筆者 は旧六合村地区にある沢渡暮坂エリア「十二みます」 会場の池で、インスタレーション作品の展示を行っ た。2011年から毎回作家として展示を行い、今回 で5回目の作品展示となったが、初参加時から継続 して六合地域を会場としている。旧六合村を会場と しているのは、初参加の展示から築いてきた地域住 民との縁や、この地域の伝統や歴史、現状を作品に 落とし込みたいと考えているからである。筆者はデ ザインを専門としてきた立場から作品を創作し展示 してきたが、いずれも観覧者に作品を媒介として六 合地域を感じたり、知ってもらったりすることで、 人口減が続くこの地域と人々をつなぐことを意図し て制作を行ってきた。今回の展示では、ちょうど会 期の季節に暮坂で目にすることができる蝶「アサギ マダラ」をモチーフとしたオブジェを池の水面上に 配した『渡る』と題した作品を展示した。作品のコ ンセプトは、この地域を去る人と来る人への眼差し であり、命をかけてこの地を行き来する美しい蝶の 姿にメッセージを込めた。  これまで同様に今回の展示作品も、創作物として 納得できるものだったといえる。ただ一方で、制作 を通して感じていたのは不安である。改めて省みる と今回の作品制作のみならず、程度の差こそあれ、 創造や創作の過程で不安を感じていることは常であ り、逆に不安の解消に向けた活動への意識こそが、 筆者の創造活動を押し進める力の一つではないかと さえ感じている。また近年、様々な活動にイノベー ションをもたらすものとして波及してきたデザイン 思考においてプロジェクトには必ずムードの波があ るとして、不安への言及と解釈できる内容が示唆さ れている。一方、造形活動における創造での不安を 分析し、考察することへの取り組みは見あたらない。 そこで本稿では、自身の中之条ビエンナーレ2019 での自身の制作を振り返るとともに、造形的な創造 活動にまつわる不安を考察し、また、図画工作科、 群馬大学共同教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活科学編 第56 巻 31―41 頁 2021 31

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美術科での学習指導について検討していく。

2.作品について

2-1.着想と構想  本作品の着想に至る要素は複数あり、第一は作品 のモチーフとなった蝶、アサギマダラ(図1)との 出会いから得たものである。2017年の中之条ビエ ンナーレで筆者の展示会場となった、様々な草花、 ガーデンをテーマにした観光庭園施設「山の上庭 園」(2017年当時の名称は「花楽の里」、2018年に 改称)には、この蝶を誘引する目的でフジバカマが 栽培されている。ちょうどビエンナーレ展示期間と なる9月頃にフジバカマが咲き、花に集まるアサギ マダラを見ることができる。浅葱色が美しく印象的 なこの蝶は、毎年遠く海を渡って南方との行き来を し、この地に降り立つという営みを繰り返している ことを知った。2)  第二の視点は六合地区や中山間地域の現状である。 六合地域も他の中山間地域を取り巻く状況と変わり なく、産業構造等の変化により人の流出が続いてい る。文化や伝統、記憶といったものが、人が去って いくことで消えていくことへの焦燥というテーマは、 2011年のビエンナーレ参加時から筆者の作品に通 底するテーマとして組み入れてきた。3)人が去り、 戻ってこない状況とは対照的に、毎年飛来して六合 で美しく舞っている蝶の姿は、この地域を去った 人々の望郷の想いとして重ね合わせられるように感 じ、また、このビエンナーレというイベントを展示 する作家や、展示を見に来る人の姿とも重ね合わせ ることができるのではないかと考えた。そこで、こ の地域の生活や営み、あるいは記憶といったものが 失われないように、蝶の姿を作品化したのである。  そして第三の要素は展示場所である。本作品の展 示場所である「十二みます」の池は、「山の上庭園」 から西に300mほど下ったところに位置しており、 もとは隣接する民宿に付帯したマスの釣り堀として 経営されていた池である。(現在は民宿、釣り堀と もに廃業し、近くに住む所有者が中之条町にビエン ナーレでの使用を許可している。)池は六合村が中 之条町と合併した2011年のビエンナーレ以降、毎 回展示会場として使用されている。池という特殊な 展示環境でもあり、毎回ビエンナーレ開催時は、自 分であればどのような作品を作るか、この会場で六 合を表すものができないかといったことが、いつも 頭の片隅にあった。そして、アサギマダラが海を渡 り長距離移動することを知り、池を海に見立てて、 蝶を浮かべることを着想した。つまり、この3つの 要素が噛み合ったことが、制作に至った大きな要因 といえる。  上記の構想は、本展示の前になる2017年の展示 終了時点で持っていた訳だが、完全に決定していた ものではなかった。理由として主に次の3つの事柄 が挙げられる。  一つは早期に着想、構想した内容を具体化するこ と自体の不安である。これまでの制作経験で、比較 的早い段階での発想や構想の作品化が、必ずしも良 い作品として自身の納得を得られるものではなかっ た。早期の着想や構想をそのまま作品化することよ りむしろ、そのアイデアから試行錯誤し、時に大き く方向転換することで、より納得を得られることも 多かった。今回この不安は徐々に薄れてはいったが、 オブジェの作成に入った段階においても、自分の構 想とおりの結果が得られるか、ある程度の確証が得 られるまで続いた。時間が許す限りより良い内容へ と方向転換する柔軟性を失わないよう制作を進め た。 図1 アサギマダラ(20189月中之条町入山「山の 上庭園」にて筆者撮影)        

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 二つ目としては、屋外の池(水)を設置場所にす るということである。前回までのビエンナーレで本 展示場所は見ていたし、また、いくつか屋外の水場 を利用したインスタレーション作品も見たことは あったが、制作者として作品を水上、水中等に設置 する知識や経験はなく、しかも、一ヶ月間の展示に 耐える作品にできるかどうか不安があった。  三つ目はこれまでの作品の経緯と材料に関するこ とである。中之条ビエンナーレにおいて初参加の 2011年では針金とゴム塗料を材料にしたオブジェ を作成、設置したインスタレーション作品を制作し た。展示後、地域アートイベントとして行われた展 示で、地域と関係のない材料を使用したことが心残 りとなった。4)そして、以降3回のビエンナーレい ずれも地域住民の協力をいただき、主材料として六 合地域のスゲなどを使用してきた。5)今回も当該作 品の構想を終えた後、地域に関連する材料を使用し た作品にした方が良いのではないかと、作品自体を 再考することも何度かあった。しかしながら当該作 品以上の場所とテーマ、具体的なビジョンなどが噛 み合った着想や発想には至らなかった。  展示会場は展示プランとともにビエンナーレ事務 局に提出し、希望とおりの展示会場が認められ決定 した。 2-2.設置場所概要  会場である「十二みます」の池(図2)は中之条 町中心部から草津町に至る群馬県道55号線の暮坂 峠から3kmほど西にいったところにある。近接す る道路からは3mほど下がったところにあり、人は 階段状に作られた法面から上り下りする。池は人が 通れるよう盛り土されて南北2つに分けられていお り、上から見ると1辺が約30m強の三角のおにぎ りを2つ並べたような形状である。水は東側のやや 離れたオートキャンプ場を経て、北側の池に流れ込 んでくる。水が流入してくる箇所以外に強い水流は なく、オーバーフローは近くを流れる駒ヶ沢川に流 れ出している。目視では確認できなかったが、盛り 土の中に水が行き来する管があり、水は北側から南 側に流れているようである。よって、水位は大きく 変わることは無いと考えられた。しかし、作品設置 開始後に約10cm程度の水位変化が見られ、やや問 題となった。水深は浅いところで70cm程度、深い ところで130cmくらいであることが設置前の調査 でわかった。なお、池の中には多くはないが、鯉や マスがおり、所有者が時折餌などを与えて大切にし ている。所有者からは作品設置について特に注文等 はなかったが、飼われている魚には配慮するよう気 をつけた。  記憶と実際が大きく食い違ったのは池の大きさで ある。自身のイメージに対し実際の大きさが1.5倍 ほど大きいものであった。本来なら展示場所申請の 前に確認すべきことだったが、記憶をもとに見積 もっていたことはその後不安へとつながった。 2-3.オブジェの製作と設置  まず、計画を具体化するため、蝶のオブジェをど のように作り、どのように浮かべるかの検討を行っ た。製作前の課題を整理すると次のようになる。 ・蝶(本体):どのような材料や方法で、色や形を 再現するか。 ・構造:水面から本体部を安定して浮かせ、風雨に 対して定位置を保つことができるか。また本体部 分をどのように取り付けるか。 ・設置方法:安全で効率よく意図通りの配置ができ るようにするにはどうすれば良いか。  当然ながら上記の項目に対し、費用や労力、時間、 安全性などの条件や問題が挙げられ、特に時間は大 きな不安の要因といえる。また、3つの課題は独立 図2 十二みます会場 設置前の池北東側からの様子 造形創造と不安についての一考察 33

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しているのではなく相互に関連している。  作品化したオブジェの構造は図3に示すA案の とおりで、魚釣りウキのような形態で作成した。こ の形態の基本構造は作品全体の着想を得た当初から 概ね構想していたものでもあったが、一つひとつを 水深に合わせて調整しつつ設置しなければならない ことを不安に感じ、実験的に作っていく中で他の構 造や方法、材料がないかを探った。A案で決定する 前に有力だった案のもう一つは、図4に示すB案 である。B案は木枠と防鳥ネットで作った架台を水 面下10cm程度の高さに設置し、蝶のオブジェを防 鳥ネットに引っ掛けるという方法である。B案の方 図3 オブジェの製作・設置方法A案(実施案) 図4 オブジェの製作・設置方法B

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法であれば仮設置した後の修正が比較的容易にでき るのではないかと考えた。そして、本格的にオブジェ 製作に入る前に会場の池にウエットスーツを着て入 り、両案の設置を実験的に行うこととした。すると、 池の底は柔らかな泥状の箇所が多く、足をとられる ため作業が困難で、人が池に立ち入って作業をする ことや、また、水中で枠の高さを固定、維持するこ とを前提と考えていたB案での実施はおぼつかな いと感じた。また、枠が見えて視覚的な雑音になる ことや、費用や製作時間の面もA案よりも不安が 大きいものだった。ただ、A案で設置する場合、高 さや位置の調整方法にかかる労力や長期間状態を保 てるか不安が残った。しかし、A案のオブジェが池 での実験設置から2週間後、同位置に浮いていたこ とを確認できたため、問題点は製作中に改善できる と考え、A案で進めることとした。そして、オブジェ の数は平面上で配置位置と設置密度等の計画を行い、 約300個が必要だと見積もった。 ・本体について  本体は、風雨にさらされる過酷な状況に一ヶ月以 上耐える強度があること、アサギマダラの特徴であ る羽の色や模様が再現できること、水面から5~ 30cmの高さを保てるように軽いことなどを主条件 と考えた。最終的に羽は、前年に取材撮影したアサ ギマダラの画像を参考に筆者がグラフィックソフト でベクターデータ化して修正したものを、耐水性の 高い合成紙(ユポ紙)に両面4色オフセット印刷 (印刷業者に発注)で作成した。そして、紫外線に よる退色を抑制のため、紫外線カットのクリアー コートを施し、その後、蝶の羽の形状にカットした。  胴部は5 mm角のポリスチレンの棒を長さ32mm に切断し、電動のテーブル・ソーを使い三面に幅 1.2mm、深さ3 mmの溝をつけたあと角を丸め、ラッ カー黒で塗装したものである。実際のアサギマダラ の胴部には黒の地に白い斑点があるが、鑑賞者の距 離などから考えると、作品の印象は大部分が羽に集 中すると考え、胴部の斑点は割愛した。また、その ほか脚や触覚といった細部も再現していない。  本体はカットした羽を二つ折りにし、胴部と組み 合わせて支柱先端のかぎ状に曲げた部分にはさみ込 むようにセット、そして、支柱から外れないように UV硬化接着剤等を使い充填接着した(図5)。 ・支柱およびウキ部について  支柱は0.7mmのピアノ線を材料とした。長さは 約330mm、500mmの2種類である。プラスチック 棒や一般的な針金も試したが、強度や細さなどから ピアノ線が最適と判断した。前述のとおり本体を 引っ掛けるようにして組み立てるため、片方の端を 鍵状に曲げる必要があった。試行錯誤の末、精度よ く、また効率よく作るため、トグルクランプなどで 折曲げジグを作成した(図6)。  ウキとして使用にしたのは装飾用に販売されてい た黒いピンポン球(ポリプロピレン製)である。ピ ンポン球に1 mmの穴を空け、片方の端を鍵状に曲 げ終えたピアノ線を通した後、曲げていない端をラ ジオペンチでU字に曲げる。ピンポン球はゲル状 図5 オブジェの本体部分 図6 支柱折曲げジグ 造形創造と不安についての一考察 35

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の瞬間接着剤を使用し、本体(鍵状に曲げた端)か ら150mm~300mmの間で固定した。支柱での底側 となるU字に曲げた部分には魚釣りに使用するサ ルカンを通した後、サルカンが落ちないよう熱収縮 チューブで開口部を止めた。サルカンを使用したの は、オブジェが風見鶏のように風で自由に回転する ことを期待し、また、回転によってオブジェとオモ リを結ぶ線材にヨリがかかることを防ぐ必要があっ たためである。設置後、オブジェが吹いてくる風に よって向きを変えている様子が確認でき、効果は あったものと考えられる。 ・オモリおよびつなぎの線材  オモリは池の底で見えないこともあり、経済性を 重視して、ストッキングタイプの排水カゴ用水切り ネットに砕石を詰めることにした。重さは実験から ウキの浮力から若干重くなる程度(約80g)とし、 あまり重くならないようにした。これは、重みによっ て時間とともに池底の軟弱な泥に沈んでいってしま わないためである。そして、オブジェとオモリをつ なぐのはビニール被覆針金にした。実験的な設置の 段階ではテグスを使用していたが、テグスでは長さ 調整する際に効率が悪かった。針金の場合は大体の 位置で軽く曲げ、軽く1、2度巻きつけるようにす れば留めることができた。長さを修正する際もそれ までの長さを折り曲げていた位置で確認できたため、 効率よく設置することにつながった。 2-4.配置および設置について  オブジェは、全体の約3分の2を北側の池に使い、 残りを南側とし、池の南西側から北東側へと向かう 帯状に配置した。これは実際のアサギマダラを見る ことができる山の上庭園の方向を意識したこと、観 覧者が来場する北側方向から見映えする構成が良い と判断したためである。また、池を囲む樹木や水の 状況も、南側の池はやや陰で静のイメージ、北側が 陽で動のイメージがあることも北側を主とした理由 である。実施案と合わせて検討した中で候補とした 案は、北側の池の中心部にオブジェを集中させる案 である。池の大きさから考えると実物大の蝶は、分 散するよりも集中した方が観覧者の興味を惹くこと につながるのではないかと考えた。しかし、興味を もった観覧者が池のレベルまで降り、池を二つに分 ける盛り土から鑑賞してもらえれば、視点の変化に よるインスタレーションとしての面白さ、蝶の群れ の間に立っている感覚を持ってもらえるのではない かと判断し、帯状配置を実施案に選択した。  設置においては池にビエンナーレ事務局に手配し てもらいゴムボートを借りた。ボートからオブジェ をひとつずつ高さ調整しては配置、そして位置と高 さを修正という作業を繰り返すことで行った。配置 作業ではまず片側の池に、配置予定の場所と並行に 池を横断するロープを張り、ボートをこのロープを たぐったり固定したりすることで移動と停留を繰り 返し行った。ボートには筆者と学生アシスタントが 乗り、筆者が設置、アシスタントはボートの操船と オブジェとオモリを手渡すなどの補助をしてもらっ た。実際にオブジェの設置を始めるまでの準備にや や手間取ったが、準備が整えば、初回の設置作業3 時間ほどでオブジェ全体の4分の1である70個程 度を設置することができた。しかし、初回の設置作 業後の夜に激しい雷雨があり、池の水面が上昇した ようで水面から5cmほどの高さに設置した蝶が水 没するなどしたため、初回設置のほぼ全ての再調整 を行う必要が出た。ほかにも設置期間に浮き草が水 面に繁茂したため、網で除去する作業の必要が出た ことなど、都度の修正やメンテナンスを加えながら の設置作業となった。  屋外設置の作業は天候との絡みがあり、また、池 に工作物を設置するという未経験の制作でもあるこ とから、ある程度想定外のことが起こることを見越 してスケジュールを立てていたため、無事に設置期 限に間に合わせることができた。設置したオブジェ 数は予定通り約300個である。再調整や清掃も含む と池への設置にかかった時間は合計で約20時間ほ どである。  設置後はよほどのことがない限り、作品の修正は しないつもりで臨み、結果的にも期間内は作品の修 正等することなく会期を終えた(図7、図8)。ただ、 直射日光によるオフセット印刷の退色は予想よりも 早く、また、藻の付着などによる汚れもやや気にな

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図7 設置後の会場

図8 会場でのオブジェ

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るものだった。

3.作品制作及び展示を終えて

 先にも述べたが、本作品の着想は、2年前の中之 条ビエンナーレ2017の展示期間にイメージができ ていた。そして開催1年前に作家選考、会場決定後、 オブジェの試作と実験を行い、自身の構想を実現化 する目処がたち、オブジェの製作と設置を終え、会 期も大きな問題なく終えることができた。このよう に述べると発想・構想から製作へと比較的円滑に進 んだといえるが、制作者自身は一直線に進められた とは感じない。そもそものアサギマダラの姿を中山 間地域の人の流れや想いと重ね合わせたいという制 作意図さえ、事務局へのプランの提出からオブジェ の製作に入る前や途中でも、何度も自問自答した。 例えば、アサギマダラを表現の媒介にする上で、比 較的写実的に再現するという方法をとったが、デ フォルメしたり抽象化したりした方がテーマを表現 できるのではないかと考えることも多かった。そし て主題の設定や表現方法ばかりでなく、製作方法、 設置方法など、すべての事柄について内容や程度の 差はあれ、展示を終えてしばらく経った現在でも、 自身への問いとして続いている。これら問いは自身 にとってはある意味で尽きることのない「不安」と 言い換えることができる。一般的に不安は行動や思 考を萎縮させると考えられるが、不安だからこそ考 え、行動するという循環に結びつく。つまり不安は 創作の力にもなりうるものではないかと考えられる。 次に今回の制作から造形の創造と不安について考察 していく。

4.創造活動と不安

 造形制作における創造活動が帰する所は、最終的 には個人(もしくは集団)の判断によるものといえ る。それら判断において客観視し、合理性に基づい て判断できるものもあるが、制作者の視点から造形 を介し、観覧者に「感じてもらう」ことが主となる ため、客観的で明確な判断基準を設けることができ ないことも多い。結論が多様であることは迷いに通 じ、結果的に複雑で困難だと感じてしまう。つまり 不安は、なんらかの判断を迫られた時、曖昧だった 自身の判断基準を明確化する必要性と、その困難さ に対することで生じるといえるのではないだろう か。 表1 本制作における不安 制作段階 具体化物等 不安を感じた内容 対処の方法 発想・構想 作品主題やコンセプト 作品主題とアートイベントの趣旨や目的 との関係 制作者の経験や知識などに基づく 思考、洞察による判断 選択したモチーフや作ったストーリーに 対する他者の共感 作品が魅力的で独自性をもっているか 製  作 オブジェ モチーフを最適化して表現できているか 試作結果に基づく洞察による判断 安定し耐久性のある設置物にできるか 経験、知識、試作結果 設置性やメンテナンスへの配慮 質に対する時間、労力、経済的負担 設置・レイアウト コンセプトに対する空間との調和や設置 の密度 シミュレーションおよび試作結果 に基づく洞察と判断 効果的で効率的な材料選択(経済性含む) 経験、情報、試作・施行結果 質に対する時間、労力、経済的負担

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 表1は筆者が制作を通じて感じた不安の内容と、 合わせて判断や解決の手段や方法などを整理したも のである。今回の制作は筆者が初めて経験する池で の展示物だったことから、オブジェの作成や設置に 関わるものは、過去の体験や制作経験から類推や、 何回かの試作やスケッチ、シミュレーションなど、 「手を動かすこと」から見つけ、確認していくこと が主たる解決手段だった。一方、作品の根幹となる 主題や、主題との結びつきが強い造形物に関連する 不安への対処は、自分の制作意図を自身の鑑賞者と しての経験や独自の洞察、メタ的視点などを拠り所 として判断し、決定していくことで確認した。主題 に関連する不安は、オブジェの製作や設置という具 現化によって徐々に薄らぐ。それは主題に関わる不 安が、実体と自分の考えたイメージやビジョンとの 整合性の中で、良いにせよ、悪いにせよ視覚化し、 突き合わされることによって、迷いから覚悟といっ た意識へと変化するからではないだろうか。  それでは創造活動において不安はどのように捉え るべきなのだろうか。「デザイン思考」は有形、無 形を問わず、現在の様々な分野で創造活動に影響を 与えている考え方である。ティム・ブラウンはデザ イン思考の説明において、イノベーションは、三つ の空間に分け考えることができるとし、「着想(イ ンスピレーション)」「発案(アイディエーション)」 「実現(インブレメンテーション)」を挙げ、「チー ムがアイデアを改良したり、新たな方向性を模索し たりするうち、プロジェクトがこの三つの空間を何 度も行き来することもある。」と述べている。6)そし て、「洞察が予定どおりに得られることはないし、 どんなに都合が悪いときでも、機会が訪れたらつか まなければならない。…(中略)…このプロセスに うんざりしたIDEOのデザイナーのひとりが、上の ようなプロジェクト・ムード・チャートを考案した ことがある。このチャートはプロジェクトの各段階 におけるチームの気分をかなり正確に言い当ててい る。」7)とし、図9を挙げている。そして、「(前略) 最適なアイデアがまとまると、プロジェクト・チー ムはあえて楽観的にふるまうが、ときおり極度のパ ニックに襲われる。恐怖が完全に消えることはない が、経験豊富なデザイン思考家ほど心の準備ができ ており、一時的な気分の落ち込みに惑わされない。 (後略)」8)と述べている。つまり創造活動を行う上 で不安は必ず訪れ、また、その不安がブラウンの示 す3つの空間の行き来する原動力となると考えられ る。筆者による本作品では、ブラウンの示す「洞察」 の段階はすでに中之条ビエンナーレに初めて参加し た数年前から始まっていた。次回参加できるなら次 はどのようなものをどのように作るか、という意識 は、作品を展示できたという安堵と制作者としての 覚悟とは裏腹に、自分の想いを表現できたか、観覧 者に伝わったかという不安として常に抱き続けてい た。この不安が経験や観察の中で今回のアイデアと して具現化することにつながったように思える。つ まり、洞察が不安をもたらすといえるが、不安だか らこそ洞察を活性化するともいえるのではないだろ うか。  そしてブラウンは、アイデアを出す上でも絞り込 む上でも、実態や場面に応じたプロトタイプ作成の 重要性を示している。9)本制作では比較的初期の発 想・構想からコンセプトやイメージしていた作品内 容に沿うかたちで作品化に至った。つまり、多くの 実験は、適正な具現化へと収斂することを目的にし たプロトタイプ作成になったが、そうした過程にお いても、より良い新たな作品アイデアにつながるも 図9 プロジェクト・ムード・チャート 造形創造と不安についての一考察 39

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のはないかという意識を常に持ち続けていた。実現 に向けた可能性は、経験をもとにした机上での想定 だけでは確認できない。実際に手を動かすことで想 定の甘さを実感することも、また、偶然から新たな アイデアへとつながることも多い。今回の場合は設 置においてオモリとオブジェをつなぐものとしてテ グスではなく針金を使うことを思いつき、高さ調整 等を大幅に改善できた。この材料選択も設置におけ る時間の浪費に対する不安であった。この修正は作 品全体に対しては小さなことだが、思いつきを試し、 目的や目標に近づく経験は、改めてプロトタイプに よる検証の重要性とともに実験意欲を掻き立てるこ とへとつながったと感じている。  創作活動において不安は必ず訪れるものであり、 また、不安が創造を活性化させるものとしたが、不 安は萎縮したり意欲を減衰させたりといった作用も あるといえよう。創造活動における不安に対してブ ラウンは楽観主義を養うことを挙げている。10)つま り最終的には良いもの(作品)にできるという確固 たる信念を持つということである。当然のことなが ら楽観主義を構築していくのは知識や経験といえよ う。例えばプロトタイプによる思考がもたらすもの も無駄も多いが、飛躍をもたらす瞬間を経験するこ とで、手を動かせば何かの発見や糸口を見いだせる という思考へとつながるのである。楽観主義のもと では不安は不安でなくなり、飛躍へのヒントになる ということであろう。

5.考察から見る図画工作・美術科教育

 これまで筆者の制作をもとに不安と創造について 見てきたが、それらをもとに図画工作科や美術科に おける創造に向けた指導について考えてみたい。  子どもにとっての造形の創造活動は、題材、素材、 色、形など様々な造形要素との出会いや能動的な関 わりから生まれる効力感による楽しさや感動といっ たものが基盤になることに疑う余地はない。しかし、 子どもが「先生、どうすればいいですか?」「これ でいいですか?」という指示を仰ぐ声が聞かれると いうことを現場教員から耳にすることがある。この 問いが製作における技能な手順などの問いであれば、 正しい手順のヒントを示せば良いことだが、発想や 構想の場面において、何を考えて良いのかわからな い、あるいは教員や友人などの評価を気にするあま り、自分の中で到達点を設定できないなどの不安か ら出てくる問いであることが考えられる。これらの 不安を教員の具体的な指示に従わせ、解消させてし まっては、創造に向けた成長は望めないであろう。 また、子どもによっては不安を吐露することなく、 作例に倣ったり、既知のキャラクターを利用したり することで、挑むことなく安心感を得ようとする姿 も見られる。教師は子どもが感じている不安に安易 な解決を提示するのではなく、不安に寄り添い、子 どもに不安を感じるのは好機であることを実感して もらうことが重要であろう。子ども自身で不安の原 因を明確にするよう誘導し、可能な限り手を動かし て考え、自ら何かを発見させることが望まれるので ある。造形活動でおこなわれている創造は手を動か すことで絶えず変化し、かたちとなってフィード バックされる。時に偶然や良い意味での誤読から新 たな創造へと道が拓けることも多い。図工や美術以 外の教科は正しい考え方を効率よく導くための型を 学ぶことが主であるように考えられる。しかし、造 形における創造での学びは、効率的な思考の中だけ では見落としがあることを知らせるべきである。そ して、最終的には単純な「手を動かせばなんとかな る」という行動と楽観が一体となって身につくよう、 徐々に題材等の難易度を上げ、経験していくことが 望まれる。そして、不安だからこそ創造に向きあえ るという思考を身につけることが造形創造の教科に おいて最も重要な意味だと考えられる。

6.おわりに

 不安はネガティブな感情と捉えられがちで、とも すれば個人の中に押し込めて対処してしまう。もち ろん感情的に表出させ周囲を巻き込んだり、思考す ることを抑制したりすることなど、負につながる要 因でもある。しかしながら、創造活動は言い換えれ ば自分にとっての新たな領域に身を置くことであり、

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常に何らかの不安に身を晒すことでもある。不安の 克服や対処の方法を見出した時の喜びや安堵は、次 の創造活動へ力となり、好奇心を強く大きくさせて くれる。つまり自分なりに創造の方法や思考を見つ けるということは、不安に対処する術を身につける ということことにもつながると考えられる。創造活 動における不安を明らかにするということは、実は とてもポジティブで、特に自分なりの答えを導く方 法を学ぶという造形教育において、重要な役割を担 うかもしれない。本稿では自身の制作から省察して いたが、今後は図工・美術教育を中心に研究を進め ていきたい。 謝辞  本研究の制作にあたり、ご協力賜りました中之条ビエン ナーレ2019 実行委員会の皆様、また、作品製作および設置 にアシスタントとして参加してくれた群馬大学教育学部美術 専攻および大学院修士課程教科教育実践専攻美術領域学生の 皆さんに深く感謝申し上げます。 参考文献および引用 1)中之条ビエンナーレ実行委員会『中之条ビエンナーレ 2019 公式ガイドブック』2019 年 2)栗田昌裕『謎の蝶 アサギマダラはなぜ海を渡るのか?』 ベスト新書,589,KK ベストセラーズ,2018 年 3)齋江貴志「造形創作要素についての一考察―中之条ビエ ンナーレ2013 における自作品を通して―」群馬大学教育 学 部 紀 要  芸 術・ 技 術・ 体 育・ 生 活 化 学 編, 第50 巻, 2013 年,pp.71-80 4)齋江貴志「線による立体造形の考察―中之条ビエンナー レ2011 における自作品を通して―」群馬大学教育学部紀 要 芸術・技術・体育・生活化学編,第48 巻,2013 年, pp.81-90 5)齋江貴志「線伝統的手工芸の造形制作への活用に関する 一考察 ―中之条ビエンナーレ2015 での制作を通して―」 群馬大学教育学部紀要 芸術・技術・体育・生活化学編, 第52 巻,2017 年,pp.11-20 6)ティム・ブラウン(著),千葉敏生(訳)『デザイン思考 が世界を変える イノベーションが導く新しい考え方』, 早川書房,2010 年,p.26 7)同上書,pp.85-86 8)同上書,p.87 9)同上書,pp.115-142 10)同上書,pp.100-102 その他参考文献 ・日本教育大学協会全国美術部門 特別課題検討委員会編 (小澤基弘他11 人)著 『うみだす教科の内容学 図工・ 美術の授業でおきること』2015 年 ・文部科学省『小学校学習指導要領解説 図画工作編』2017 年 図版出展  図9 ティム・ブラウン(著),千葉敏生(訳)『デザイン 思考が世界を変える イノベーションが導く新しい考え 方』,早川書房,2010 年,p.86 造形創造と不安についての一考察 41

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参照

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