博 士 ( 獣 医 学 ) 松田 一 哉
学 位 論 文 題 名
Demonstration of Neural Transmission of Highly PathogenlCAVianIn丑uenZaAViruS
( 高 病 原 性A型 ト リ イ ン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス の 経 神 経 伝 播 の 証 明 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
A型 イン フル エン ザウ イル スはオルソミクソウイルス科に属し、表面 糖タンパクであるへマグ ルチニンとノイ ラミニダーゼ、ならびにそれらをコ―ドするゲノムから 、血清学的および遺伝学 的 に亜 型に 分類 され る。 これ まで に15亜型 のへ マグ ルチ ニ ンな らび に9亜型 のノ イラミニダー ゼ が 同 定 さ れ て お り 、 い ず れ の 亜 型 も 自 然 宿 主 で あ る 水 禽 か ら 分 離 さ れ て い る 。 ヒト でのA型 イン フル エン ザ ウイ ルス 感染 症は 通常 、上 部気 道を 侵す 疾患 であ るが、脳を含 む 全 身 諸 臓 器 へ の 感 染 も 報 告 さ れ て い る 。 中 枢 神 経 感 染 は 幼 児 や 小 児 ある いは 妊娠 女性 で 特 に重 篤な 病態 を招 き、A型 イ ンフ ルエ ンザ ウイ ルス やウ イル スゲ ノム が脳 脊髄 液から、ウイ ル ス 蛋 白 が 脳 組 織か ら分 離さ れて いる 。ま た、 小児 の急 性壊 死性 脳症 ( 小児 のイ ンフ ルエ ン ザ 脳 症 ) 、hemorrhagic shock and encephalopathy、ラ イ症 候群 、嗜 眠性 脳炎 (Economo脳 炎 )お よび 脳炎 後パ ーキ ンソ ン病 とイ ンフ ルエ ンザ ウイルス感染との 関連も示唆されている。
20世 紀 に 人 類 が 体 験 し て き たA型 イ ン フ ルエ ンザ によ る多 くの 地方 病 性お よび 世界 的流 行 はHIN1、H2N1お よ びH3N2亜 型 の ウ イ ル ス を 原 因 と し た が 、1997年 以 降 、 ア ジ ァ 諸 国 に お い て H5N1亜 型 の ウ イ ル ス に よ る 感 染 が 発 生 し 、 高 い 致 死 率 を 示 し て い る 。 マ ウ ス にH5亜 型 の 高 病 原 性 イ ン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス を 経 鼻 接 種 す る と呼 吸器 感染 の後 に 脳 幹 部 迷 走 神 経 中枢 に主 座し た脳 炎が 発生 し、 病巣 内に ウイ ルス 蛋白 と ウイ ルス ゲノ ムが 検 出されること、ならびに、マ ウスに静脈内接種しても病変を形成しないことから、末梢神経、とく に 迷走 神経 を介 した 中枢 神経 系へ のウ イル ス伝 播が 示唆されてきた。 しかしながら、インフル エ ン ザ ウ イ ル ス の経 神経 伝播 の直 接的 証明 はな され てお らず 、そ の伝 達 メカ ニズ ムも 不明 で ある。
第 一 部 で は 、H5高 病原 性ト リイ ンフ ルエ ンザ ウイ ルス が迷 走神 経を 介 して 中枢 神経 系ヘ 侵 入 す る の で あ れ ぱ. 迷走 神経 を切 除す るこ とに よっ て中 枢神 経感 染を 抑 えら れる ので はな い か とい う仮 説に 基づ き、 あら かじ め― 側の 迷走 神経 を頚部で切除した マウスを作製し、ウイル ス を 経 鼻 接 種 し た後 のウ イル ス抗 原、 ウイ ルス ゲノ ムお よび 病変 の広 が りを 経時 的に 検索 し た 。 迷 走 神 経 切 除 マ ウ ス の 切 除 側 の 迷 走 神 経 節 で は 非 切 除 側 に 比 べ て2日 遅 れ て ウ イ ル ス 抗 原 が 検 出 さ れ た。 この 結果 は、 迷走 神経 が切 断さ れて いる こと によ ル ウイ ルス が神 経節 ヘ 到 達 で き な か っ たた めで あり 、ウ イル スが 呼吸 器か ら迷 走神 経節 へ迷 走 神経 を介 して 伝播 さ
れることを示していた。
第 二 部 で は 、 マ ウ ス の 脊 髄 背 根 神 経 節 か ら 得 た 末 梢 神 経 細 胞 の 初 代 培 養 系 を 用 い てH5 高 病 原 性 ト リイ ンフ ルエ ンザ ウイ ルス の経 神経 伝播 につ いて の 検索 を行 った 。第 ー章 では 区 画 培 養 し た 神経 細胞 、す なわ ち細 胞体 と軸 索を 区画 化し た培 養 系を 利用 して 高病 原性 イン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス の 軸 索 輸 送 を 検 索 し た。 陽性 対照 とし て加vivoおよ び加vitr0で軸 索輸 送 する こと が示 され てい る オー エス キー 病ウ イル スを 、陰 性対 照と して 加W旧 では神経向性を示 さな い低 病原 性イ ンフ ル エン ザウ イル スを 使用 した。いずれのウ イルスも、軸索区画に接種し た12時間 後か ら神 経細 胞 体で ウイ ルス 抗原 が検 出された。このこ とから、インフルエンザウイ ル ス が 軸 索 輸送 され るこ とが 加俯r0で 初め て証 明さ れた 。高 病 原性 イン フル エン ザウ イル ス と オ ー エ ス キ一 病ウ イル スで は神 経細 胞に おけ る感 染の 拡が り 方に 違い が認 めら れ、 両ウ イ ル ス の 伝 播 機 構 が 異 な る 可 能 性 が 示 唆 され た。 また 、加 俯r〇 で軸 索に 直接 的に 接種 した 場 合に は、 低病 原性 イン フ ルエ ンザ ウイ ルス も軸 索輸送されること が示されたが、神経細胞培養 系 で の 伝 達 性 お よ び 感 染 性 は 低 く 、 効 率 的 な 神 経 細 胞 聞 伝 播 に は へマ グル チニ ン開 裂部 位 における連続的塩基性アミノ酸配列が関 与することが示唆された。
第 二章 では 、高 病原 性 卜リ イン フル エン ザウ イルスの経神経伝 播メカニズムを解明すること を目的に、細胞骨格(微小管、アクチン および中間径フィラメント)を選択的に阻害することによ る 経 神 経 伝 播へ の影 響を 調べ た。 陽性 対照 とし て、 微小 管依 存 性に 輸送 され るこ とが 示さ れ ているオ―エスキ一病ウイルスを用いた 。微小管、アクチンおよび中聞径フィラメン卜の阻害薬 として、それぞれ、ノコダゾ―ル、サイトカラシンDおよびァクリルアミドを使用した。オ―エスキ 一 病 ウ イ ル スの 神経 細胞 感染 が微 小管 と中 間径 フィ ラメ ント の 阻害 によ って 有意 に抑 制さ れ た の に 対 し て 、 高 病 原 性 イ ン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス の 感 染 は 微 小 管 阻害 には 影響 され なか っ た。 この こと から 、高 病 原性 イン フル エン ザウ イルスがこれまで の経神経伝播ウイルスで知ら れ て い る 微 小 管 依 存 性 軸 索 輸 送 機 構 と は 異 な る メ カ ニ ズ ム で 輸 送 され るこ とが 示さ れた 。
学位論 文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
梅村 喜田 高島 落合
孝司 宏 郁夫 謙爾
学 位 論 文 題 名
Demonstration of Neural Transmission of Highly PathogenlCAVianInnuenZaAViruS
( 高 病 原 性A型 ト リ イ ン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス の 経 神 経 伝 播 の 証 明 )
マウスにH5亜型の高病原性インフルエンザウイルス(HPAIV)を経鼻接種すると呼吸器感染の後に脳 幹部迷走神経中枢に主座した脳炎が発生し、病巣内にウイルス蛋白とゲノムが検出され、静脈内接種で は病変を形成しないことから、末梢神経、特に迷走神経を介した中枢神経系へのウイルス伝播が示唆さ れてきた。しかしながら、インフルエンザウイルスの経神経伝播の直接的証明はなされておらず、その伝 達メカニズムも不明である。
第―部 では、予 めー側の迷走神経を頚部で切除したマウスにHPAIVを経鼻接種した後のウイルス抗 原、ウイルスゲノム及び病変の広がりを経時的に検索した。切除側の迷走神経節では非切除側に比べて 2日遅れてウイルス抗原が検出された。この結果は、迷走神経の切断によルウイルスが神経節へ到達で きなかったためであり、ウイルスが呼吸器から迷走神経節へ迷走神経を介して伝播されることを示してい た。
第二部 では、初 代培養神経細胞を用いてHPAIVの経神経伝播について検索した。第ー章では神経細 胞の細 胞体と軸 索を区 画化した培養系を利用してHPAIVの軸索輸送を検索した。陽性対照に微小管依 存性に軸索輸送されるオーエスキ一病ウイルス(PRV)を、陰性対照にマウスで神経向性を示さない低病 原性インフルエンザウイルス(LPAIV)を使用した。いずれのウイルスも軸索区画に接種した後に神経細 胞体でウイルス抗原が検出され、HPAIVの軸索輸送が加vitroで初めて証明された。神経細胞での感染 拡大様 式の違い から、HPAIVとPRVでは 伝播機構 が異なる可能性が示唆された。また、軸索に直接的 に 接 種 す る とLPAIVも 軸索 輸 送 され た が 、 その 伝 達 性及 び 感 染性 はHPAIVに比 べ て 低か っ た 。 第二章 では、細 胞骨格の選択的阻害による経神経伝播への影響を調べた。陽性対照としてPRVを用 いた。PRVの神経細胞感染が微小管と中間径フィラメントの阻害によって有意に抑制されたのに対して、
HPAIV感染は微小管阻害には影響されなかった。このことから、HPAIVがこれまでの経神経伝播ウイル ―1299―
ス で 知ら れ て いる 微 小 管依 存 性 軸 索輸 送 機 構と は 異 なる 機 構 で輸 送 さ れる こ と が示 さ れ た 。 高病原性インフルエンザウイルスの経神経伝播が加wv0及びin vitroで証明され、従来の微小管依存 性輸送と異なる機構で軸索輸送されることが明らかにされた。よって審査員一同は、松田―哉氏が博士
(獣医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。
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