博 士 ( 生 命 科 学 ) 宇 野 好 宣
学位 論文題 名
Studies on genomlCandChromOSOmaleV01utionin amphibianS
(両 生類におけるゲノム・染色体進化に関する研究)
学位論文内容の要旨
魚類 や 鳥類 、 哺 乳類 な どの 多 く の種 で ゲ ノム 配 列が 解 読 され 、脊椎動物 にお け る 遺伝 連 鎖群 の 保 存性 が 明ら か に なり つ っあ る 。 最近 、 ネ ッタイツメ ガエル
(ヌをnopus (Silurana) tropicロlis) (2n一―20)の全ゲノム配列が両生類で初めて解読 さ れ たが 、 塩基 配 列 情報 と 染色 体 と の対 応 はほ と ん どっ い て おらず、そ れ以外 の 両 生類 で も染 色 体 地図 の 報告 は 皆 無で あ る。 脊 椎 動物 の ゲ ノム進化を 理解す る う えで 、 系統 学 的 に魚 類 と羊 膜 類 (爬 虫 類、 鳥 類 、哺 乳 類 )の間に位 置する 両 生 類の グ ノム 情 報 は重 要 であ る に もか か わら ず 、 これ ま で 我々は、両 生類と 他 の 脊椎 動 物聞 や 両 生類 の 複数 の 種 間に お ける 染 色 体の 相 同 性やゲノム ・染色 体進化を詳細に論じることはできなかった。
1
章 で は 、 ネ ッ タ イツ メ ガ エル の 比較 染 色 体地 図 か ら推 測 され た 、 羊膜 類 の 祖 先 核 型 と ゲ ノ ム ・ 染 色 体 進 化 過 程 に 関 す る 研 究 を 報 告 す る 。FISH
(
Fluorescence In Situ Hybridization)
法を用いてアフリカツメガエノレ由来のEST ク ロ ー ン を ネ ッ タ イツ メ ガ エル の 染色 体 上 にマ ッ ピ ング し 、140
個 の 機能 遺 伝 子 か らな る 高精 度 染 色体 地 図を 作 製 した 。 得ら れ た ネッ タ イ ツメガエル の染色 体 地 図と 、 メダ カ と ニワ ト リ、 ヒ ト のゲ ノ ム・ 染 色 体地 図 や 、先行研究 で得ら れ た3
種 の 爬 虫 類( カ メ目 ス ッ ポン 、 ヘビ 亜 目 シマ ヘ ビ、 ワ ニ 目シ ャ ム ワニ ) の 染 色体 地 図と 比 較 する こ とに よ っ て、 羊 膜類 の 祖 先核 型 と 羊膜類に茄 けるゲ ノ ム ・染 色 体進 化 過 程の 推 測を 試 み た。 そ の結 果 、 羊膜 類 の 祖先核型は 、ニワ ト り の マ ク ロ 染 色 体 と 相 同 な11
の 遺 伝 連 鎖 群と 、 ニ ワト リ マイ ク ロ 染色 体 と 相 同 な多 数 のマ イ ク ロ染 色 体か ら 構 成さ れ てい た こ とが 示 唆 された。し たがっ て 鳥 類や カ メ目 で は 羊膜 類 の祖 先 核 型が そ のま ま 保 持さ れ て いるが、哺 乳類や へ ビ 亜目 、 ワニ 目 に おい て は、 そ れ ぞれ 独 自に マ イ クロ 染 色 体の消失や 減少が 起こった可能性が示唆された。2
章で は、アフ リカツメガ エル(X. Iaevis) (2n
二ニ36)のゲノム倍数化に伴う染 色 体 再配 列 過程 に つ いて 報 告す る 。 動物 の ゲノ ム 重 複( 倍 数 化)では、 脊椎動 物 の 祖 先 で 生 じ た2
回 の ゲ ノ ム 重 複 と そ の 後 硬 骨 魚 類 独 自 で 起 こ っ た ゲ ノ ム 重 複 が有 名 であ り 、 それ に より 脊 椎 動物 特 有の 複 雑 な体 制 が 獲得され、 硬骨魚 類 で は多 様 な種 分 化 が生 じ たと 考 え られ て いる 。 し かし な が ら、これら のゲノ ム 重 複 は5
億 年 前 か ら3
億5000
年 前 の 間 に 起 き た と 考 え ら れ て お り 、 す で に 多 く の重 複 した 遺 伝 子の 一 方の コ ピ ーが 失 われ て い るた め 、 ゲノム重複 にとも な う 染色 体 再配 列 の 過程 を 推定 す る のは 非 常に 困 難 であ る 。 アフリカツ メガエ ル は 、 約4000
万 年 前 に 起 こ っ た ゲ ノ ム 重 複 に よ っ て生 じ た四 倍 体 ゲノ ム をも‑ 1444―
っため、ニ倍体で近縁種のネッタイツメガエルと比較することにより、ゲノム 重複に伴うゲノム・染色体進化の過程を解明することができると考えられてい る。しか しながら、この2種間の比較染色体地図はいまだ報告されていなぃ。
そこでネ ッタイツメガエルの染色体マッピングに用いたESTクローンのうち、
ネッ タ イ ツメ ガ エル の 染色 体 領域 全体を カバーでき る59のクロー ンを選択 し、FISH法を 用いてアフ リカツメガ エルの染色 体にマッピングを行い、ネッ タイツメ ガエルとの 比較染色体 地図を作製 した。その結果、59個のうち49個 のESTクロ ー ンは
2
対の 同 祖染 色 体 対にマップ され、ネッ タイツメガ エルの 遺伝連鎖群はアフリカツメガエルでも高度に保存されており、さらにXe nopus2 種のほとんどの染色体間において遺伝子オーダーの一致が見られた。以上の結 果から、アフリカツメガエルでグノム重複が生じた後、ゲノム重複によって生 じた重複 遺伝子の消 失や異なる 染色体間で の相互転座や逆位はほとんど起こ っていないことが示唆された。ほ と んど の 脊椎 動 物で は 遺伝 的 に性が決 定され、
XX/XY
型、ZZ/ZW型の性 染色体を もつ。しかしへビ亜目以外の爬虫類や両生類、魚類では、この2つの 性染色体構成が混在しており、魚類では比較ゲノム学的解析により近縁種間で あっても性決定遺伝子や性染色体の起源が異なる例が報告されている。両生類 の性 染色体 に関しては 、ZZ/ZW型で あることが 知られてい るアフリカ ツメガ エルとネッタイツメガエルの性染色体はいまだ同定されておらず、他の両生類 では詳細な染色体地図の報告はなされていなぃ。系統学的解析から祖先型の両 生類の性 染色体構成 はZW染色体と 推定されて いるが、それらの起源と進化過 程はいまだ不明である。3
章で は、性染色体構成が異なるツチガエル集団における性染色体の起源と 分化 過程に 関する研究 を行った。 日本に分布 するツチガ エル(Rana rugosa) は、脊椎動物の中でも極めて珍しい、性染色体構成の異なる集団をもつ動物種 で、 大 き く4つ の集 団 に分 け られ る。 形態的に未 分化なXX/XY
型性染色体 を もつ、西 日本に分布する西日本集団と関東地方に分布する関東集団の2集団、これらに′加えて、東北・北陸地方に分布し形態的に分化したZZ/ZW型性染色体 をも つZW集団、 .東海地方 に分布し形 態的に分化 したXX/XY型 性染色体を も つXY集団である 。これまで に、性染色 体の分染パ ターンと2っの性 連鎖遺伝 子の塩基 配列の解析 から、ZW集団 とXY集団の性 染色体の起源は同じであり、
こ の
2
つ の 集 団 のZ
染 色 体 とY
染色 体 は、 西 日本 集 団 の7番 染色 体 を起 源 と し、W
染 色体 とX
染 色 体は 関 東集 団 の7
番 染 色体 が 起源 で ある と 考え られて いるが、まだその証明はなされていない。そこで、すでに共同研究者によって 単離 さ れ た10個の 機 能遺 伝 子を 用 いてZW集団 のツチガエ ルにおける 染色体 マッピン グを行った 。その結果 、4つの 性連鎖遺伝子を同定し、4っすべての 遺伝 子はXY集団 においても 性染色体上 にマップさ れ、これら の4つ の遺伝子 の オ ー ダ ー と 位 置 は 、Y
染 色 体 とZ染 色体 、X
染 色 体 とW
染 色体 で それ ぞ れ 一 致 し た 。 こ れ ら の 結 果 から 、ZW
集 団とXY
集団 のZ
染 色 体とY
染色 体 は、W
染色 体 とX染 色体 と は異 な る集 団 の染色体 対を起源と している可 能性が示 唆された。4
章 では 、ZW
染 色体 を も つ4種 の無尾 目に属する 両生類、ア フリカツメ ガ エル、ネッタイツメガエル、ツチガエル、カジカガエル(Buergeria buergeri)、 に着目し 、無尾両生 類における 性染色体の 起源と進化に関する研究を報告し た。アフ リカツメガエルの性決定候補遺伝子であるDM‑彫と、ネッタイツメガ エル の性連 鎖AFLPマーカーと 同じ連鎖群 に位置する 遺伝子のESTクローン を―1445ー
用いた
FISH
マッピングを行い、アフリカツメガエルとネッタイツメガエルの 性染色体の同定を行った。さらに、アフリカツメガエルとネッタイツメガエル、ツチガエルの性連鎖遺伝子をカジカガエルにマッピングし、4種問の染色体上 の位置を比較した。その結果、アフリカツメガエルとネッタイツメガエル、ツ チガエルの
3
種の性染色体の起源はそれぞれ異なり、DM‑
形はアフリカツメガ エル独自に獲得されたことが示唆された。学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査 准教授 瀧谷重治 副査 教授 高橋孝行 副査 教授 山下正兼
副査 教授 松田洋一(名古屋大学大学院 生命農学研究科)
学 位 論 文題 名
Studies on genomic and chromosomal evolution in amphibiar
匸 LS
(両生類におけるゲノム・染色体進化に関する研究)
近 年,魚 類、鳥 類、哺 乳類 でゲノ ム研究 が盛ん に行 われ、 これら の結果 に基づいて脊椎動物のゲノム・
染色 体の 進化過 程が論 じられ てい る。しかし、両生類のゲノム解析はまだ不十分であり、羊膜類(爬虫類、
鳥類 、哺 乳類) の共通 祖先の 核型 や両生類から羊膜類に至るゲノム・染色体の進化過程に関する知見はほと んど 得ら れてい ない。 また、 両生 類は遺伝的性決定様式をもっにもかかわらず、ほとんどの種で性染色体が 同定 され ていな いため 、両生 類に おける性染色体の起源と分化過程も未解明のままである。さらに、脊椎動 物で は脊 索動物 から進 化する 過程 で2回 のゲ ノム重 複が生 じたが、ゲノム重複後のゲノム構造変化過程の詳 細は 知ら れてい ない。 そこで 、本 論文は 、4種の無 尾両生 類を対象として、分子細胞遺伝学的手法を用いた 比較 ゲノ ム解析 によっ て、両 生類 と羊膜類の進化過程に生じたゲノム・染色体再配列と両生類における性染 色 体 の 進 化 過 程 を 解 明 す る こ と を 目 的 と し た も の で 、 以 下 の よ う な 研 究 成 果 が 得 ら れ た 。
1
章で は、FISH法を用いて140遺伝子からなるネッタイツメガエル(Xenopus tropicalis) (2n ̄20)の高精度 染 色体地 図を 世界に 先駆け て作製 した。得られたネッタイツメガエルの染色体地図を、メダカとニワトリ、ヒ トのゲ ノム ・染色 体地図 や3種の爬 虫類( カメ目 スッ ポン、ヘビ亜目シマヘビ、ワニ目シャムワニ)の染 色 体地図 と比 較する ことに よって 、羊膜類の祖先核型と羊膜類におけるゲノム・染色体再配列過程を推測し た 。その 結果 、羊膜 類の祖 先核型 は、ニ ワト りのマ クロ染 色体と 相同 な11の遺 伝連鎖群と、ニワトリマイ ク ロ染色 体と 相同な 多数の マイク ロ染色体から構成されていたことが示唆された。したがって鳥類やカメ目 で は羊膜 類の 祖先核 型がほ ばその まま保持されているが、哺乳類やヘビ亜目、ワニ目ではそれぞれ独自にマ イ クロ染 色体 の消失 や減少 が起こ った可 能性 が示唆 された 。
2
章 では、 アフリ カツ メガエ ルばlaevis) (2n 36)で約4000万年前に生じたゲノム倍数化に伴う染色体再 配列過 程を明 らかに する 目的で 、59遺伝 子か らなる 染色体 地図を作製した。その結果、9つの同祖染色体組 をすべ て同定 するこ とに 成功し た。59遺 伝子 のうち49
遺伝子 は2対の同 祖染 色体対 にマッ プされ 、さ らに 二倍体 の近縁 種であ るネ ッタイ ツメガ エルの 染色 体地図 と比較した結果、ほとんどの染色体において2種間 で遺伝 子オー ダーの 一致 が見ら れた。 以上の結果から、アフリカツメガエルでは、ゲノム重複が生じた後、重複し た遺伝 子の消 失や 異なる 染色体 間での相互転座、染色体内での逆位がほとんど起こっていないことが
‑ 1447
―明ら かと なった 。
3章 で は 、 同 一 種 で あ り な が らXY型 とZW型 の 性 染 色 体 を も つ 集 団 が 混 在 す る ツ チ ガ エ ル(Rana rugosa) の 性 染 色 体 の 起 源 と そ の 分 化 過 程 を 比 較 染 色 体マ ッ ピ ン グ に よ っ て明 ら か に し た 。 日本 に 生 息 す る ツ チガ エ ル は 、 形 態 的 に 未 分 化 なXY型 性 染 色 体 を も つ 西 日 本 と 関 東 の2集 団 、 形 態 的 に 分 化 し たzw型 性 染 色 体 を も つ 東 北 ・ 北 陸 集 団 、 形 態 的 に 分 化 し たXY型 性 染 色 体 を も つ 東 海 集 団 に 大 別 さ れ る 。 こ れ ら の 集団 に っ い て 、 性 染 色 体 連 鎖 遺 伝 子 と 反 復 配 列DNAマ ー カ ー の 比 較 染 色 体 マ ッ ピ ン グ を 行 っ た 結 果 、ZW集 団 とXY 集 団 の 性 染 色 体 の 起 源 は 同 じ で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 そ し て 、 こ れ ら2っ の 集 団 のZ染 色 体 とY染 色 体 は 西 日 本 集 団 の7番 染 色 体 を 起 源 と し 、W染 色 体 とX染 色 体 の 起 源 は 関 東 集 団 の7番 染 色 体 で あ る こ と を 証 明 し た 。
4章 で は 、zw型 性 染 色 体 を も っ ア フ リ カ ツ メ ガ エ ル 、 ネ ッ タ イ ツ メ ガ エ ル 、 ツ チ ガ エ ル 、 カ ジ カ ガ エ ル (Buergeria buergeri)に 着 目 し、 無 尾 両 生 類 に お ける 性 染 色 体 の 起 源と 進 化 に つ い て 調ぺ た : ア フ リ カ ツ メガ エ ル の 卵 巣 決 定 候 補 遺 伝 子 で あ るDM‑げ と 、 ネ ッ タ イ ツ メ ガ エ ル で 単 離 さ れ た 雌 特 異 的 な 性 連 鎖AFLPマ ー カ ー と 同 じ 連 鎖 群 に 位 置 す る ア フ リ カ ツ メ ガ エ ル 遺 伝 子 のESTク ロ ー ン を 用 い て 染 色 体 マッ ピ ン グ を 行 い 、 形 態 的 な 性 染 色 体 の 分 化 が 見 ら れ な い ア フ リ カ ツ メ ガ エ ル と ネ ッ タ イ ツ メ ガ エ ル のzw染 色 体 を 同 定 し た 。 さ ら に 、Xenopus2種 と ツ チ ガ エ ル の 性 染 色 体 連 鎖 遺 伝 子 を カ ジ カ ガ エ ル の 染 色 体 上 にマ ッ ピ ン グ し 、4種 問 の 染 色 体 上 の 位 置 を 比 較 し た 結 果 、 ア フ リ カ ツ メ ガ エ ル と ネ ッ タ イ ツ メ ガ エ ル 、 ツ チガ エ ル の3種 の 性 染 色 体 の 起 源 は そ れ ぞ れ 異 な り 、DM‑ワ は ア フ リ カ ツ メ ガ エ ル 独 自 に 獲 得 さ れ た 性 決 定 遺 伝 子で あ る こ と を 明 ら か に し た 。
こ れ を 要 す る に , 著 者 は , 両 生 類 の ゲ ノ ム ・ 染 色 体 進 化 に関 し て 数 多 く の 新知 見 を 得 た も の で あり , 脊 椎 動 物 の ゲ ノ ム ・ 染 色 体 進 化 研 究 の 進 展 に 対 し て 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。 よ っ て 著 者 は , 北 海 道 大 学 博 士 ( 生 命 科 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
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