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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 宇 野 裕 之      学位論文題名

Population ecology and management for the sika deer      ●

    lneaSternHOkkaidO ,Japan

     (北海道東部地域のエゾシカの個体群生態学及び管理学的研究)

学位論文内容の要旨

1.北海道のニホンジカ個体群(Cervus nZ叩伽.開鮒ぬs奴以下工ゾシカとする)は 歴史的に爆発的増加と激減を繰り返してきた。遺伝学的研究から、少なくとも阿寒・大 雪・日高地域を中心に分布した3個体群が、1900年代前半のポトルネックを生き残っ たと考えられている。1980年〜1990年代には北海道東部地域において阿寒個体群の個 体数が急激に増加し、農林業被害や森林植生への影響が社会問題化した。1998年には

「道東地域工ゾシカ保護管理計画」に基づく計画的な個体数調整が始められた。この計 画には、モニタリング調査から得られた個体数の動向によって捕獲圧を調節するフイー ドバック管理が採用された。また、個体群動態モデルおよび捕獲数の資料を用いて、個 体数変動の将来予測を行った。しかしエゾシカの個体群特性に関する研究は不十分であ り、これまでの動態モデルには仮定値を多く適用してきた。

  個体群動態を理解し、科学的な個体群管理を行っていくためには、個体数の動向や個 体群特性を把握することが不可欠である。本研究では阿寒個体群を対象として、1)個 体数指数の評価と動向把握、2)メス成獣生存率の推定、3)加入率とその至近要因の 推定、4)個体群特性が自然増加率に及ぼす影響の評価、を行い本個体群の管理手法に ついて論議した。

2.エゾシカの個体群管理を目的として、個体数指数の評価を行った。個体数指数には、

1992年から2002年までに東部地域で行われたスポットライト調査、航空機調査、狩 猟努力量 当りの捕 獲数(CPUEと略す )、同目 撃数(同SPUE)、農林業被害額を用い た。人為的な偏りが小さくデ一夕数が十分だと考えられたスポットライト指数を独立変 数、その他の指数を従属変数として、年次変動について回帰分析を行った。この場合、

独立変数にも誤差が含まれるためモデルu回帰を用いた。被害指数とスポットライト指 数の間に有意な関係がみられ、両指数は個体群の動向を良く反映していると考えられた。

CPUE指数 値 は、1997年 か ら1998年 に かけ て 捕 獲制 限頭 数が1日1頭 から2頭に 緩 和されたことにより倍増した。このことからCPUE指数は、動向把握には適していな いが、捕獲制限の効果を測る手段として有効であると考えられた。指数の標準誤差は、

SPUE指数で最小、スポットライト指数で二番目に小さかった。測定誤差が小さく動向

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を反映していることから、スポットライト指数が 個体群管理に最も有効な指数であるこ とが明らかとなった。個体数指数の年次変動には 、環境変動や人口学的な不確実性が多 く存 在す る。 スポ ット ライ ト指 数に つい て も過小評価された年があり、SPUE指数など を用いてクロスチェックすることが、個体数の動 向を正しく把握する上で重要であると 考えられた。

3.エ ゾ シ カ の 冬 期 死 亡 お よ び 加 入 率 と 気 象 の 関 係 に つ い て 、1995年 から2001年ま で阿寒国立公園において調査を行っ た。ロードカウント法によってエゾシカの群れ構成 を定 期的 に記 録 した 。ま た、 冬期 間中 に死 亡し た340頭の エゾ シカ の性 別と年齢を調 査した。死亡要因は、自一然死亡(88.5%)、交通事故(6.5%)、不明(5.0%)であった。

自然 死亡 した301頭 の84.4% は幼 獣で あっ た 。幼 獣は 冬期 間主 に栄 養失 調により死亡 し 、 毎 年4月 中 旬 に 「100メ ス 当 り の 幼 獣 数」 が最 低値 を 示し た。 一冬 を越 した100 メス当りの幼獣数(加入率)は年によって大きく変動し(範囲6.3‑50.0,〇V= 83.3%)、

その至近要因は積雪深であることが 明らかとなった。加入率と個体数指数との間には有 意な関係はみられなかった。自然死 亡した個体の体重は著しく減少し、骨髄脂肪指標が 貧弱であった。積雪によって餌資源 の利用を制限されることが、エゾシカの冬期死亡の 主要な要因であると考えられた。

4.メス ジカ の生 存率 およ び要 因別 死亡 率を 、ラジオテレメトリ法を用い て調査した。

1993年4月 か ら1994年4月 ま で の 間 に18頭 の メ ス ジ カ を 生 体 捕 獲 し 、 電波 発信 機を 装 着 し た 後 放 逐し た。1996年5月 まで の期 間、 一週 間に1回の 割合 で追 跡調 査を 行っ た。個体が死亡した場 合は死亡原因を特定し、捕獲による死亡、交通事故死、自然死亡 に区分した。自然死亡 には栄養失調、病気および捕食を含めた。メス成獣の年平均生存 率 は0.779であ る と推定された。捕獲による成獣の死亡率(0.118)は自然死亡率(0.053) よ り 高 い こ と が明 らか とな っ た。 試験 的に1994年か ら1996年 まで 行わ れた メス ジカ 狩猟は、死亡率を増加 させることに寄与しており、個体群管理の有効な手段であると考 えられた。

5.推 移行 列を 用 いてエゾシカ個体群の齢段階別個体群動態モデルを検討 した。メス成 獣の生存率、出生率、 幼獣の生存率が個体群の自然増加率に及ぼす影響について感度分 析を行って評価した。 同様に、個体群特性が個体数の爆発的増加リスク(explosion risk) に及ばす影響を評価し た。幼獣生存率の年次変動幅が大きく、メス成獣生存率では捕獲 による死亡率を除くと ほとんど年変動がないために、自然増加率に最も大きな影響を及 ぼす特性は、幼獣生存 率であると考えられた。また、ヌス成獣の生存率の小さな変化が 個体数の爆発的増加( あるいは減少)確率の大きな変化を引き起こすことが明らかとな った。

  以上の結果から、エ ゾシカ個体群の管理者は個体数を減少させたい場合は、第一にメ ス成獣の生存率に焦点 を当て、生存率を減少させることが必要であること、第二に幼獣 生存率が増加率に及ぽ す影響が大きいことから、管理者は幼獣生存率を監視し狩猟制限 頭 数の 調整 など を行 って 、個 体群 管理 の微 調整を行うべきであること等 を論議した。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    前川光司 副査    教授    斎藤    裕 副査   助教授    齊藤   隆 副査   研究員    梶   光一

     学、位論文題名

Population ecology and management for the sika deer     in eastern Hokkaido ,Japan

     (北海道東部地域のエゾシカの個体群生態学及び管理学的研究)

本 研 究 は92ベ ー ジ の 英 文 論 文 で 、 引 用 文 献116を 含 み 、5章 で 構 成 さ れ て いる 。他 に参考論文13編が添えられている。

北海 道の ニホ ン ジカ 個体 群(Cervus nなり 伽門 斌棚s淑以 下エ ゾシ カと する )は歴史 的に 爆発 的増 加 と激 減を 繰り 返し てき た。1980年〜1990年代には北海道東 部地域にお いて阿寒個体群の個体数が急激に増 加し、農林業被害や森林植生への影響が社会問題化 した 。1998年 に は「 道東 地域 エゾ シカ 保護 管理 計画」に基づく計画的な個 体数調整が 始められた。この計画には、モ二夕 リング調査から得られた個体数の動向によって捕獲 圧を調節するフイードパック管理が 採用された。しかしェゾシカの個体群特性に関する 研 究 は 不 十 分 で あ り 、 こ れ ま で の 動 態 モ デ ル に は 仮 定 値 を 多 く 適 用 し て き た 。   本 研究 では 阿 寒個 体群を対象としてその個体 群特性を把握するために、1)個体数指 数の 評価 と動 向 把握 、2)メ ス成 獣生 存率 の 推定 、3)加入率とその至近要 因の推定、

4)個体 群特性が自然増加率に及ぼす影響の評価、を行った。

工 ゾシ カの 個 体群 管理 を目 的と して 、個 体数 指数の評価を行った。個体 数指数には、

1992年 か ら2002年 まで に東 部 地域 で行 われ たス ポッ 卜ラ イト 調査 、航 空機 調査 、狩 猟 努 力 量 当 り の 捕 獲 数(CPUEと 略 す ) 、 同 目 撃 数 ( 同SPUE)、 農 林 業 被 害 額を 用い た。デ ー夕数が十分なスポットライト指数を独立変数、その他の指数を従属変数として、

年次変 動について回帰分析を行った。被害指数とスポットライ ト指数の間に有意な関係 が みら れ、 両 指数 は個 体群 の動 向を 良く 反映 していると考えられた。CPUE指数値は、

1997年 か ら1998年 に か け て 捕 獲 制 限 頭 数 が1日1頭 か ら2頭 に 緩 和 さ れ た こ と に よ り 倍増 した 。 この こと からCPUE指数 は、 動向 把握には適していなしゝが 、捕獲制限の 効果を 測る手段として有効であると考えられた。スポットライ ト指数は測定誤差が小さ く動向 を反映していることから、個体群管理に最も有効な指数 であることが明らかとな

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った。しかし過小評価された年もあり、SPUE指数などを用いてク口スチェックするこ と が 、 個 体 数 の 動 向 を 正 し く 把 握 す る 上 で 重 要 で あ る と 考 え ら れ た 。

エゾシカの冬期死亡および加入率と気象の関係について、1995年から2001年まで阿 寒国立公園において調査を行った。冬期間中に死亡した340頭のエゾシカの性別と年 齢を調査した。死亡要因は、自然死亡(88.5%)、交通事故(6.5%)、不明(5.0%)で あった。自然死亡した301頭の84.4%は幼獣であった。幼獣は冬期間主に栄養失調に より死亡し、毎年4月中旬に「100メス当りの幼獣数」が最低値を示した。一冬を越し た100メス当りの幼獣数(加入率)は年によって大きく変動し、その至近要因は積雪 深であることが明らかとなった。加入率と個体数指数との間には有意な関係はみられな かった。自然死亡した個体の体重は著しく減少し、骨髄脂肪指標が貧弱であった。積雪 によって餌資源の利用を制限されることが、エゾシカの冬期死亡の主要な要因であると 考えられた。

メスジカの生存率および要因別死亡率を、ラジオテレメトリ法を用いて調査した。1993 年4月から1994年、4月までの問に18頭のメスジカを生体捕獲し、電波発信機を装着 した後放逐した。死亡原因は、捕獲による死亡、交通事故死、自然死亡に区分した。メ ス成獣の年平均生存率は0.779であると推定された。捕獲による成獣の死亡率(0.118) は自然死亡率(0.053)より高いことが明らかとなった。1994年から1996年まで行わ れたメスジカ狩猟は、死亡率を増加させることに寄与しており、個体群管理の有効な手 段であると考えられた。

推移行列を用いてエゾシカ個体群の齢段階別個体群動態モデルを検討した。メス成獣の 生存率、出生率、幼獣の生存率が個体群の自然増加率に及ぽす影響について感度分析を 行って評価した。同様に、個体群特性が個体数の爆発的増加リスクに及ぽす影響を評価 した。幼獣生存率の年次変動幅が大きく、メス成獣生存率では捕獲による死亡率を除く とほとんど年変動がないために、自然増加率に最も大きな影響を及ばす特性は、幼獣生 存率であると考えられた。また、メス成獣の生存率の小さな変化が個体数の爆発的増加

( あ る い は 減 少 ) 確 率 の 大 き な 変 化 を 引 き 起 こ す こ とが 明 らか と な った 。   以上の結果から、工ゾシカ個体数を減少させたい場合は、第一にメス成獣の生存率に 焦点を当て、生存率を減少させることが必要であること、第二に幼獣生存率が増加率に 及ぼす影響が大きいことから、管理者は幼獣生存率を監視し狩猟制限頭数の調整などを 行 っ て 、 個 体 群 管 理 の 微 調 整 を 行 う べ き で あ る こ と 等 を 論 議 し た 。   以上のように本研究は、エゾシカの個体群特性を明らかにし、その管理手法を論議し ようとしたものであり、得られた成果は学術的に貴重なものであり、その応用のための 基礎資料としても高く評価される。よって審査員一同は、宇野裕之が博士(農学)の 学位を受けるに充分な資格を有するものと認めた。

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参照

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