長 崎 大 学 工 学 部 研 究 報 告 第
3 1
巻 第5 6
号 平 成1 3
年l月 71地下近接施工による地盤環境的相互影響の模型実験的評価
蒋 宇静*
・
棚 橋 由 彦 * 杉野 秀一料・今長谷秀亮料E x p e r i m e n t a l s t u d y on t h e m e c h a n i c a l b e h a v i o u r o f t h e a d j a c e n t o p e n i n g s
by
Y u j i n g JIANG '¥Yos h i h i k o T ANABASHI*
H i d e k a z u SUGINO
料,H i d e a k i IMAHASE
キ*T h i s s t u d y i s t o
c1a r i f y t h e m u t u a l i n n u e n c e due t o t h e a d j a c e n t e x c a v a t i o n n e a r t o t h e e x i s t e d o p e n i n g by u s i n g t h e b a s e f r i c t i o n model a p p a r a t u s and t h e p i c t u r e a n a l yz i n g system . The v a r i e d f a c t o r s i n c 1 uded t h e m e c h a n i c a l c h a r a c t e r s o f t h e g r o und
,t h e n e a r n e s s and d e p t h o f ope n i n g s . l n o r d e r t o r ed u c e t h e i n f l u e n c
巴t ot h e e x i s t e d o p e n i n g
,t h e s t a b i l i z i n g e f f e c t s o f i n n e r s u p p o r t s o n t h e e x t e n t o f f a i l u r e zone a nd d e f o r m a t i o n a l b e h a v i o r o f s u r r o u n d i n g r o c k ma s s and p i l l a r a r e i n v e s t i g a t e d and d i s c u s s e d
1 .
はじめに今日,大都市圏の地下利用をはじめとして,エネルギ
ー施設,放射線廃棄物の地層処分,埋設施設などの大 規模な地下開発利用が注目されている. しかし,この
ような状況の中で,地下空洞工事の課題のーっとして,既存の地下構造物との近接施工が挙げられる.例えば,
既設空洞の近くに,新規に空洞を掘削した場合には,
相互の空洞周辺の地 1 1 1 応力の変化による各空洞の安定
性への影響が問題となる.一般に双設トンネルの中心問距離は ,掘削幅の約 3
倍以上をとることが推奨され ている同が,用地取得の点からはできるだけ近接させ て設けることが有利である.そこで,本研究は様々な地
1 1 1 条件で近接施工された 地下空洞の相互影響を実験的に評価することを目的と し,現時点で他の二次元地盤模型実験装置に比べ,岩
盤の挙動を表現する上で最も優れた重力効果模型実験 装置であるといわれており,空気圧を用いて摩擦力を制御し,厳密な相似自
IJに基づいた幾何スケール,応力
スケールを導入することによって,実験的に原地盤を忠実にシミュレートできる特徴をもっ底面摩擦試験装
置を用いて実験を行い,考察と影響評価を行う.2 .底面摩練模型実験装置の概要について 2 . 1
実験装置の概要底面摩擦模型実験は,一定速度で移動する摩擦面上に
二次元の縮小地盤模型を水平に設置し,その模型の底 面に摩擦を与えることにより重力場を表現し,空洞お
よびその周辺地盤の挙動をシミュレートする模型実験
である.この実験の特徴は,原地盤との幾何学的およ び力学的相似則をともに満足でき,モデルの変形‑破壊挙動を連続的にかつ視覚的に観察できることにある 図 ー l に実験装置の概略図を示す.
2 . 2
底面摩擁模型実験の原理底面摩擦
j
去の基本的な原理について説明する1:1.'1図 ー 2 のように,模型中の微小要素 d " d
,に働く力をdF
, とし,それは次式で表せる.
dF . = f 1 .
(p,;,+ y " t ) dx . d z
ここに 1 1 .
.模型とプレートの聞の摩擦係数Rir :模型表面に作用する空気圧
y ' :
模型の単位体積重量.
I 模型の厚さ
模型が一定の幅
W
をもつならば,模型の上端から距離 (i菜さ)z ' の位置において作用する摩擦力尺は次式のよ
)
EA(
うになる.
凡=汀(1.
( p . "
+y ' . t ) dx . d z
= .r 11.(P'~ +y'
・t)W. d z
=μ/
,(p.~ + y ' ・ t )W . z '
( 2 )
平成
1 2
年10
月27
日受理*社会開発工学科
( D e p a r t m e n t o f C i v i l E n g i n e e r i n g )
特 大 学院博士前期課程環境システム工学専攻
(G r a d u a t e S t u d e n t
,D e partmen t o f E n v i r o n m e n t a l Sy s tems Engin e e r i n g )
72
蒋字静・棚橋由彦・杉野秀一・今長谷秀亮よって,深さ方向に生じる垂直応力
σ J
は次式で表さ れるI T ;
尺/
(w. t
)= f1
h
( p . ; , + y ' ・ t ) w. z '
パw.t)
=μゐ(
p
,,,+y ' . t
)z ' / t
( 3 )
ただし,模型の自重による応力は,模型表面に作用 する空気圧による応力に比べて
,無視できるほとと小さ
い したがって( 3 )
式は,次のようになる.
I T ;
=f 1
h . p
, U ' Z ' / t =(
μ h 'P , ) t )
Z'( 4 )
このように,原地盤と同様に,模型内に深さに比例し た応力分布を得ることができ
,
その大きさは,空気圧 を制御してやることによって任意に設定することがで きる.図‑
1
底面摩擦模型実験装置 (j~1j面)P a i r
t品品ぷ品協 β
ndxdz λ(z ,園 l . ‑ R ( が
+dJibd
吋清 志 i t y 図 2
底面摩擦模型実験の原理2 . 3 画像解析システムの概要
模型の変形や破壊挙動は,図
‑ 3 に示される画像解析シ
ステムによって処理される.この画像解析システムは,
大別して2
つのプロックに分かれる. 1 つは,画像を撮
影し
3 mm
ビデオに記録する収録ブロック(図 ‑ 3 ( a ) ) で,精
度を高めるためアクチユエー
ターを用いてズームレン ズを取り付けたCC D
カメラを自動的
に移動させて模型 を分割して振影する.
もう1 つ
は再生画面を解析処理す る解析プロック(図ー3 ( b ) )
で,3mm
ビデオに収録された函 像をパソコンに取り込み,画像処理ソフトを用いて解 析作業を行う.実験前後の各標点の座標変化から変位 ベクトルを求めることができる.アクチュエーター
ω 画像収録プロック
ノ司令ノコンテレビ VBOX ピ芦オ パソコン
(b)画像解析プロック 図 3 画像解析システム
3 . 実験材料と実験条件
連続性地盤のモデル材料として, Kar l s r u h e
大学で、開発 された混合試料(硫酸バリウム:酸化亜鉛:ワセリンを 重量比で7 0
・2 1 : 9
で配合)を用いた剖.模型は,こ
の配 合試料をある一定圧力で密度p
が2 . 0
g/c m
Jになるまで押 し固め ,46 cm X30 c 0 1
の地盤モデルを作製した(図4
参 照) こ こ に , 幾 何 ス ケ ー ル は ^= 1 5 0 ,模型の厚さは t = 2 . 0 c 0 1 ,模型とプレートの聞の摩擦係数は/" = 0 . 6 3 5 で
あるため,応力スケールがヱ=5 . 4 7
と求まった4) 原地 盤 お よ び モ デ ル の 力 学 的 特 性 は そ れ ぞ れ 表I
に示す.本模型に直径
0 = 9 0 1
の既設空洞を地表面下4 0m
に掘削 した場合を想定した.また,本研究では深度4 0 0 1
を想 定するため,模型の上部からジャッキにより上載圧を,側部から側圧を与えた.実験は,既設トンネルと新設
空洞の中心開距離B
を1. 5D , 2 . 0 D , 2 . 5 D ( D は空洞直径)
と変化させ,その中で地 l L I
が破壊を生じたパターンに対して新設トンネルの深度を変化させるパターンと補
強を考慮したパターンを併せ行った(表ー2
参照).なお,本研究では空洞内に支保(弾性パネ)を設置することによ り空洞の変形挙動に対する補強効果を定性的に
把握す
7 3
多数の亀裂が生じ,ピラ一部にも両空洞をつなぎあわ せる亀裂が生じピラ一部は完全に破捜した これに対 し,
( b ) H 2 0 D , ( c ) H 2 5 D
では相互の影響はほとんど見ら れず,ピラ一部や両空洞周辺に亀裂はあまり見られず安定であ
った.沈下量も H20 D
,H25D
の場合は安定し ているため沈下は小さいが, H 1 5 D
の場合はピラ一部の地下近接施工による地盤環境的相互影響の模型実験的評価
る.図ー
5 にモ
テ'ル化した補強を示す.補強のモデル化では,伸縮が可能にするため上下に 二分割したアクリル管に弾性パネを装填した
. :
h
4 6 c m
連続性地盤モデル模型と
地盤の力学的特性
B
。 叫 . .
図
4
表
l
i
実験パターン 実験名称
中心間距離深さ比
補強の有無
BhIH
H15D 1 . 5D 1 . 0 無 H2 0D 2.0D 1 . 0 無 H2 5D 2.5D 1 . 0 無 A15D 1 . 5D 。 . 6 無
B15D 1 . 5D 1 . 4 無 PH15D 1 . 5D 1 . 0
有PB15D 1 . 5D 1 . 4
有表
‑ 2
写真ー
1 空 洞 周 辺 の 亀 裂 進 展 状 況
< h I H = l . 0
,B/D.変化)ー企
‑8=2 . 5 0 空洞直上方の沈下量 ( h 畑=1.
0) ピラー中心からの距離/ピラー幅2
‑‑E子
‑8=2 . 0 0
ー+ー8 = 1 . 5 0
図 ‑ 6 ( E )
圃m
uF MM
補強のモデル化
4 .
実験結果と考察写真
‑ 1
に,空洞の深さ比を h 庁長1. 0
一定とし,中心問距 離のみを変化させた場合の亀裂の進展状況を示し,図‑
6 1 こ空洞直上方レベルでの沈下量を示す.図 6 を見て分
かるように,空洞の中心開距離による相互の影響度合 いが相当に違うことがわかる.( a ) H I 5D では,両空洞に
図 ‑ 5
蒋字静・棚橋由彦・杉野秀一‑今長谷秀亮
況から判
│
析してh
/H=0.6の場合は既設,新設ともに空洞 周辺の地山が安定しているといえる.また,亀裂進展 状況においても ,h/H=1 .
4の場合は,ピラ一部を除く場 所での沈下量はh
/H=0.6
の場合とあまり変わらないが,両空洞の深度が等しい場合と同様にピラ一部や既設空 洞周辺に多数の亀裂が生じ,ピラ一部は完全に破壊し た.以上より,既設空洞よりも新設空洞を上部に掘削 した場合は
,相互の影響を受けにくく空洞周辺地1 1 1
は 安定しているが,下部に掘削した場合は相互の影響を 受けやすく,周辺地 1 1 1 は不安定であ
ることがわかる写真ー
3
はH15D,B15D'こおいて,補強を考慮した空洞 の亀裂進展状況を示し,図 ‑ 8
に空洞直上方の沈下量を7 4
破壊により大きな沈下が見られる
.特に,ピラ一部(
0.5く(ピラー中心からの距離/ピラー幅)く0.5)での沈下量 が大きく, H20D
, H
25Dの約2倍沈下している.以上よ り,空洞の中心問距離が2 . 0 D よ
り小さけれ
ば,空洞が 相互に影響し,空洞周辺地11 1
は不安定になることがわ かる.
写真一
2
に,空洞の中心問距離B=1 . 5 D と一定にし,新設
空洞の深度を変えた場合の亀裂進展状況を示す.また,図ー
7
にその場合における空洞直上方の沈下量を示す. 沈下量では ,h/ H = 1 .
4の場合は ,h/H =0
6の場合よりも小 さく沈下している時もあるが,ピラ一部周辺において,h/H=0.6の場合の約
3
倍と太きく沈下した.亀裂進展状ρPH15D
写真
ー 3補強を行った場合の亀裂進展状況
(長1.5 . 0
写真.
2深さ比を変化した場合の亀裂進展状況
(正予= 1 . 5 . 0
‑ F ラー雪'心から p 距厳/ t '7‑itl4
‑ 6
︿
E )
酬
υ﹁
鍵 ピラー中心からの距離/ ピラー緬
‑4 ‑2 0 2 4
‑ 6
( E )
圃 聞 い 然
一・‑h
/H = 1 . 0,補強有り
‑
ー ‑h
/H= 1 .4,補強有り
ー+ー h/H= 1 .0,補強無し
‑
ー ‑h/H= 1 .4 ,補強無し
空洞直上方の沈下量(補強効果) 図
‑ 8
ー企ー h
/H = l . 4
空洞直上方の沈下量(B = 1 . 5D)
一 昏
‑h
/H = 1
.0
‑‑&‑ h / H = O . 6
図‑ 7
地 下 近 接 施 工 に よ る 地 盤 環 境 的 相 互 影 響 の 模 型 実 験 的 評 価
7 5
示 す . い ず れ も 沈 下 量 は 相 当 に 抑 制 さ れ 補 強 効 果 は 十 分に表れている しかし,
PH150
は,ピラ一部に亀裂 が 見 ら れ ず 安 定 し て い る こ と が わ か る が,それに対しPB1 5 0
では,PH1 5 0 l i
とーの沈下の抑制も見られず, ま た,依 然 と し て 両 空 洞 周 辺 や ピ ラ 一 部 に 亀 裂 が 生 じ て いるため安定しているとは言い難い.以上より,補 強 に よ る 変 形 に 対 す る 抑 制 効 果 が 顕 著 に 現 れ る の は 雨 空 洞が同深度の場合であることがわかる.5 .
結 論本 研 究 で は , 両 空 洞 の 中 心 間 距 離 , 深 度 , 補 強 の 有 無 に よ る 近 接 空 洞 の 相 互 影 響 の 評 価 を 目 的 と し て 実 験 的検討を実施した その結果,下記の知見が得られた.
①亀 裂 進 展 領 域 が ピ ラ 一 部 に 分 布 し て い る 場 合 , 相 互 の 影 響 が 大 き く , 空 洞 周 辺 地 山 は 不 安 定 と な る
なお本実験において,両空洞が同深度ならば中心問 距維を
2 . 00
まで近接させることが可能であった.②既設空洞よ りも新設空洞を上部に掘削した場 合 は ピラ一部の亀裂進展領域領域の分布は小さく相互の 影響はあまり見られないが,下部に掘削した場合は ピラ一部に広範囲で分布し,空洞周辺地山は不安定 となる.
@補 強 効 果 に お い て は , 並 列 し て 近 接 施 工 し た 場 合 は変形に対する抑制
l
効果が見られたが,既設空洞よ りも新設空洞を下部に掘削した場合はあまり効果が 見られなかった.補 強 を 考 慮 し た 場 合 の 実 験 は , 定 性 的 な 実 験 に 止 ま り,空洞に 作 用 す る 荷 重 お よ び 補 強 に よ る 空 洞 の 変 形 量 な ど 定 量 的 に 把 握 す る 必 要 が あ る た め,今 後 は 補 強 による変形に対する抑 制効果を様々な地iJ
l
条 件 で 調 べ る 必 要 が あ り , そ れ に 基 づ い て , 近 接 施 工 の 合 理的支 保設計についてさらに検討を続けていく謝 辞
本研究の実施にあたり,平成
1 1
年度長崎大学教育改善 推進費(学長裁量経費)の補助を得た.ここに記して,感 謝を申し上げます.参考文献
1 )
土木学会編:トンネル標準示方書(l
lJ岳編),1 9 8 6 2 )
蒋 字 静 , 江 崎 哲 郎 他 : 近 接 ト ン ネ ル の 相 互 影 響 の評価について, トンネル工学研究論文 報 告 集 , 土 木学会,
Vo
l.6
,p p . 1 ‑ 8
,1 9 9 6
3 )
西国・江崎・亀田・ 中)11
:九大生産科学研究報告,第
7 4 号 , p p . l 7 ‑ 2 4 , 1 9 9 3 .
4)
蒋
字 静 , 江 崎 哲 郎 , 三 谷 泰 浩 : 底 面 摩 擦 模 型 実 験に よ る 地 下 空 洞 の 安 定 評 価 , 地 盤 工 学 会 誌 [ 土 と 基 礎