著者 弓野 憲一
雑誌名 静岡大学教育学部研究報告. 教科教育学篇
巻 32
ページ 239‑249
発行年 2001‑03
出版者 静岡大学教育学部
URL http://doi.org/10.14945/00008351
静岡大学教育学部研究報告 (教科教育学篇)第32号 (2001.3)239〜 249
総合的学習で伸 ばす能力・ 態度・ 知識 は何か
What Kinds of Ability,Attitude and Knowledge should be Fostered in Synthsized LeamingP
弓 野 憲 一 Kenichi YuMINO
(平成12年10月 10日受理)
要 約
数学 と理科の世界の学カコンクールでは、日本の中学生は、世界で3位または4位の学力 を示 した。
しか しなが ら、学科の好 き嫌い、生活で役立つか、将来数学や科学 を使 う仕事 に就 きたいか とかの学 科に対する態度においては低いものが多 く、 日本の中学生 は数学・理科 をあまり楽 しんではいないこ
とが明 らかにされている。他方、 日加の子 どもおよび日米の大学生の創造性 を比較 した研究において も、日本の子 どもと大学生は概 して低い得点に留 まった。今後の日本の教育 は高い学力を維持 しなが ら、いかにして倉J造性 を伸ばすかが焦点 となるであろう。
本論文においては、総合的学習で伸ばす必要のある能力・態度・知識 として、(1治J造力、(2)リ ーダー シップ とフォロワーシップ、(3)表現力、(4)自己 と個性、(5)学習に対する責任感、(6)共感力 と支援力、
(7)好奇心、(8)勇気、(9)自己効力感、00集中力、0自主的態度、l121競争的態度 と共同的態度、031環境教 育で伸ばす知識・能力・態度、00国際理解教育で伸 ばす知識・能力・態度、CD情報教育で伸ばす知識・
能力・ 態度、00地域特性および問題の理解 とそれを解決する能力・ 態度が提唱された。
1.総合 的学習 とは何 か
総合 的学習 とは何 か。一言で言 えばそれ は、教科や教室 の枠 を取 り払 つて、地域環境・ 地域 社会や国際社会 の中 に児童生徒 自 らが身 を置 くことによつて、現代 お よび未来社会が要求 す る 様 々 な能力や態度や知識 を身 につ ける学習 とい える。体験 を重視 して、児童生徒 自 らが中心 に なって学習 を進 めてい くところにその特徴が あ る。現在多 くの学校 で試行 的 に実施 されてい る 実践 は、「 国際理解」、「イ ンターネ ッ ト・ コンピュータ」、「福祉・ ボラ ンテ ィア」、「環境」、「地 域学習」 のテーマの ものが多い。教育課程審議会が1997年11月 に出 した「中間 まとめ」で は、
小学校3年か ら6年で週約3時間、中学校1年か ら2年で2〜 3時間、3年で最高3.7時 間が総 合 的学習 に充 て られ るようになってい る。
2.今、 なぜ総合的学習が必要か
(1)知識の領域固有性 との関連
1970年 代か ら飛躍的に研究が進んだ「認知心理学」や「認知科学」 は、人間の持つ知識や知
についての考察 を深めてきた。そのような中で、「知識の領域固有性 :domain specificity」 と いう発見がある。すなわちわれわれの持 っている知識 は、それを獲得 した文脈 に依存 してお り、
構造的には全 く同 じ問題であって も、異なる文脈では十分にそれが使 えないのである (Cheng
&HolyOk,1985)。
すなわち、現実的で具体的な表現であれば容易に解決できる問題が、形式 的で抽象的な表現 に直 されると、解決で きる者の割合が急激 に減少 したのである。 さらに、机 上の鉛筆 と紙 を使 う限 りでは、慣性の法則 に関連 した問題 を苦 もな く解決するアメ リカのMIT
の学生が、 ビデォゲームをするような場面では慣性の法則 を無視 して失敗 を繰 り返す場面 も目 撃 されている (diSessa,1982)。
日本の教育 は教科書が決められ、その内容 を忠実に習得することに主眼が置かれてきた。 し か し上の例のように、教科書で学んだ内容が現実世界 を理解 し行動するために有効 に機能せず、
さらに、現実世界の各種の問題 を解決するためにあまり役立たない とするならば、何のための 教育か という疑念が沸いて くる。 このような疑念に応 えるためには、経験 を通 した現実世界の 理解か ら始 まり、最後 に抽象的かつ形式的な知識へ と辿 る学習のプロセスが必要になる。総合 的学習 はこのような乖離 を減少するために有効 に機能するであろうという観点か らも、 日本の 義務および高等教育への導入が求められる。
(2)日本の子 どもの教科の学力 と意識 との関連
次に、学力 と教科 に対する意識 との関連か ら総合的学習の導入の意義 を議論 しよう。
1)日本の中学生の数学の得点 1994‑5年にかけて「第
3回
国際数学理科教育調査」が 世界46カ国約6,000中 学校約290,000人 の中学生が参加 して行われた。最近 になって、国立教育 研究所 (1997)よ りその調査結果が発表 された。調査内容 は、①学校数学 を反映 させた数学の 内容、具体的には、数、測定、幾何、関数・ 関係・ 方程式、資料の表現・ 確率・ 統計、初等幾 何、確証 と構造、②生徒が数学内容 に取 り組んでいるときに示す と期待 される行動、具体的に は、知 ること、決 まりきった手1原を使 うこと、探求することと問題解決、数学的推論、 コミュ ニケーションすること、③生徒の将来への発達 を視野に入れた科学や数学への関心 0意欲・ 態 度、具体的には、科学、算数数学、技術 に対する態度、科学・ 数学0技術 を含む仕事への就業 意欲等、であった。数学の問題151題 の平均正答率では日本 は、中学校
1年
、中学校2年において、シンガポール、韓国に次いで世界第3位である。それゆえ、国際的にみると日本の中学生の数学の学力はい く ぶん落ちた といえども高い水準にある。一方アメ リカは、両学年 ともに国際平均値 を割 り込み、
下か らおよそ3分の
1付
近 に位置 している。2)日本の中学生の数学に対する意識
次 に、数学 に対する意識 について見てみよう。 こ こではアジアに属するシンガポール、韓国、 日本、西欧に属する、イギ リス、フランス、アメ リカのデータのみを載せ る。
2年 :国立教育研究所′1997よ り
2は し い 退屈 だ や さ しい 生活で役立つ 2→仕事
日ラ
46%
35°/。 13% 71°/。 24°/。イギ リス 80 28
フ ラ ンス 65 26
韓 国 40
シ ンガ ポー ル 78 28 95
ア メ リカ 45 48
国際平均 65 38 46
総合的学習で伸 ばす能力・ 態度・ 知識 は何か
3)日本の中学生の理科の得点
調査内容 は、「地球科学」「生命科学」「科学・技術0数学」
「科学技術史」「環境 と資源問題」「科学の本質」「科学 と他の分野」の8つに大 きく分類 されて いる。行動的期待 は、「理解」「理論化・ 分析 0問題解決」「器具の使用・ 科学的方法」「 自然界 の探求」「情報の伝達」の5つに分類 されている。将来への展望 は「科学、数学、技術 に対する 態度」「科学、数学、技術分野の職業」「全ての生徒の科学・数学への参加」「興味、関心 を高め るための科学、数学、技術」「科学的な活動 における安全性」「科学的な心的習慣」の6つに分 類 されている。
理科問題 の平均正答率では日本 は、中学校
1年
はシンガポール、韓国、チェコに次いで世界 第4位である。中学2年ではシンガポール、チェコに続いて3位である。それゆえ、国際的に みると日本の中学生の理科の学力 はい くぶん落 ちた といえども高い水準 にある。一方アメ リカ は、両学年 ともに国際平均値 より幾分上 に位置 している。4)理科 に対する意識
理科 に対す る意識 は表
2の
ようである。数学 と同 じように、 日本 の中学生 は理科 をあまり楽 しんではいない。 またそれを生活 に役立つ と思っている者の割合 も 低 い。 さらに、将来科学 を使 った仕事が したい とい う者 も僅かである。表
2
理科に対する意識 (中学2年 ;国 立教育研究所 ′1997より抜粋)理科 は楽 しい 退屈だ や さ しい 生活で役立つ 科学→仕事
日本 53%
33%
15°/。 48°/。 20°/。イギ リス
韓 国 33
シンガ ポール 15 93 61
アメ リカ 73 39 80
国際平均
5)考察
最近 になって日本の子 どもの学力の低下がマスコミや教育 に関する種々の審議 会で議論 されている。今回の調査 を見 る限 りでは、従来の定義での数学・ 理科の学力 は、高度 経済成長期 に示 した世界ナンバーワンではないにして も、世界で3位または4位であ り、十分 に高い水準 にあるといえる。 ところが、「意欲・態度・関心」 まで含めた「新学力観」 に立つ と、
日本の子 ども理数科の学力 はかな り低い水準 にあることがわかる。すなわち、理数科の学力が 世界ナンバーワンであ り、表1、 表2に示 された理数科 に対す るほぼ トップの位置 にあるシン ガポール と比べ るとこの ことがハ ッキ リする。表
1で
は、数学 は楽 しいが (日本46%,シンガ ポール78%)、 や さしいが (同13%、 34%)、 数学 を使 う仕事が したいが (同24%、 62%)であ る。 さらに表2でも、理科 は楽 しいが (日本53%,シンガポール90%)、 や さしいが (同15%、42%)、 科学 に関連す る仕事が したいが (同20%、 61%)であ り、意欲0態度・関心 に関 しては、
日本 は低い水準 にある。特 に理科への好 きの程度 を男女別 に見 ると、わが国の女子 はその値が この調査の参加国中で最 も低い。韓国の子 どもの理数科 に対す る態度 も驚 くほど、日本のパター ンと似ている。
理数科 に対す るこのような態度の差異 には諸々の要因が関与すると思われるが、 日本や韓国 の教育 に特徴的な教師の「教 え中心」の一斉授業がそれに関与 していることは否定で きないで あろう。一方、 シンガポール、英国、アメ リカは一斉授業 を基本 としなが らも、個人の能力や 興味・ 関心 に基づいた個別授業やプロジェク ト等 をふんだんに用意 している。 この ことが、学
力 においては必ず しも高い成績 をとっていない「アメリカ」においてでさえ、教科への態度 を プラスの方向 に向けているのではないだろうか。 このような観点か らも、子 どもの興味・ 関心 に配慮 しつつ、探索・ 経験の中での「学び」 を重要視する総合的学習の導入意義がでて くる。
(3)創造性 との関連
日本人の創造性 は本当に低いのか
?
戦後の僅か40年 の間に先進諸国の経済水準 に到達 した 日本 をみる限 り、 日本人の倉J造性が低い とはとて もいうことはで きないであろう。 しか しなが ら、先進国の仲間入 りを果 した現在の経済や学術水準か ら判断する限 り、科学の分野でノーベ ル賞 を受 けた人が これ までにわずか5人
という数字 は、 日本人 は十分に高い倉J造性 を持 ってい ると結論することを躊躇 させて しまう。そのようなわけで日本人の創造性が高いか低いかを結 論することは困難が ともなう。なぜなら、倉J造を重要視す る文化価値 は、西欧 とりわけアメ リ カ社会で中心的なものであ り、 日本 にはまだ根付いていない文化価値だか らである。創造性の国際比較 をした研究 は数少ない。 ここでは、他の研究者の研究成果 とともに、筆者 の行 った研究 を紹介する。
1)日加の小学生の創造性の比較
Yumino ete al(1996)は 、 日本 とカナダの小学生 の倉J造性 を比較 した。課題 は「キャンディのつつ み紙の応用」であった。子 どもが産出したアイデ アの数が図1に示 されている。3年生では両国の
図
1
日加小学生の創造性の発達(Yumino,子 どもの間 にほぼ差 が ないが、他 の学年で はカナ
8
ダの子 どもの産 出数が勝 ってい る。 3年生 で はほ ぼ差がないのに4年以降の成績 にこのように差が でて くる理由はなぜだろうか。 この調査のみでは 結論 は くだせないが、他の人 と同一の行動や思考 を強 く求める日本の教室 0社会文化が突飛なアイ
6
デアや思考 を制限 していることは確かであろう。
第
3者
か らみた自分が認識できるようになる4年次以降には、高い創造性の可能性 を秘めている「常 識 はずれのアイデア」や「思考」 を人前 にさらす には、勇気が必要になる。 この ことが 日本の子 ど
4
もの創造性 を押 さえるのではないだろうか。
学 年 3456 2)日米の大学生の創造性の比較
a)創造性テス トによる比較
小林 (1980)は 日米の大学生の創造性の発達 を4年間にわ
たって追跡 し比較 している。それ らの一部が表3に示 されている。被験者 は日本では
6大
学の 学生426名 、アメ リカでは7大
学の学生436名 である。創造性 テス トは トーランスの ミネソタ創 造性テス トが用い られた。et.al,1997)
日
カナダ
総合的学習で伸ばす能力・態度・知識は何か
表3 日米の大学生の創造性の比較 (小林 ′1980)
言語的/ 流暢 性 柔軟性 独創性
非言語的
/流
暢性柔軟性 独創性 精緻性
日本 アメ リカ
20̲4 24.7*
14.0 16.3*
20.0 28.5*
5。8
5。3
4.9 4.8
3.2 3.4
14.2*
11.9
「空 きカンの通常でない利用法」等の言語的創造性テス トにおいては、アメ リカの大学生が 流暢性、柔軟性、独創性の3つの因子 において全て勝 つている。特 に、その人独 自の稀 にしか 出現 しないアイデアをプラスに評価する「独倉J性」 において大 きな差がある。他方、与 えられ た形 を一部 に組 み込んで意味のある図形 を完成す るような非言語的な創造性 テス トにおいて は、3つの因子間には差が無 く、アイデアが丁寧 に考 えられているか どうかを示す「精緻 性」
においては、日本の学生の方が有意 にす ぐれている。この結果 は、「 日本人 はあまり独創的では ないが、アイデアを改良する力 は優れている」 とい う、巷 にあふれている日本人観 と軌 を一 に
していて興味深い。
b)創造的活動 による比較
現在の日本の教育 は子 どもの「自己学習能力」 を育てること を重視 している。 このような力 は育 つているのであろうか。国内の子 どもを見ている限 りにお いては、そのような力が育 っているか どうかはわか らない。国際比較 をすることによつて真相 が見 えて くる。
繁桝 ら (1993)は日米の工科系大学生 に次のような3つの質問をした。①最近お もしろい と 思った問題 を説明 して下 さい。② それぞれについて、問題 を解 くためにどのような努力 をした かを記述 して下 さい。③ その問題 の解答 を説明 して下 さい。 まだ解 けていない場合 は予想 され る回答 を示 して下 さい。 日米双方の回答 は、 どの程度独創的か、解決の努力の程度 はどうか、
解決の見通 しはどうかな どの観点か ら5段階に評定 された。 その結果が表4に示 されている。
表
4
工科系学生の創造的活動の日米比較 (重桝 ら′1993) 評価点日本 アメ リカ
・ 3 4 33
6
.
18.0 10.4
30.5 62.4
15.5 18.8
2.7 2.0
評価点
4は
最 も優れた回答の比率(%)を
示 し、評価点0は
、全 く創造的活動 をしなかった学 生のそれを示 している。3、4点
では日米間にそれほど差がないのに対 し、2点
で約半分、1、0では日本の方がかな り高い比率 を示 している。驚いた ことに、 日本の学生の3人に
1人
は、全 く創造的活動 を行 っていないのである。 日米双方の学生が将来エンジニアを目指 して大学 に 入学 していることを考 えると、3人に
1人
とい う率 は看過出来ない大 きな数字である。以上の結果か ら、 日本の子 どもや大学生 には、現実の問題 を解 く能力や 自分で課題見つけ、
自ら考 える資質能力が欠 けていることが うかが える。 これ らの資質能力の育成 も総合的学習で は重要な目標 となろう。
3.総合的学習の 目標
情報化、国際化、少子化・ 高齢化、環境汚染、いじめや不登校などが折 り重なって様々な問 題が発生 している今 日の社会では、従来 と同 じような知識習得 を中心 とした学習のみでは、不 十分である。変動する新たな社会へ対応出来 るさまざまな資質能力 と態度の養成が望 まれる。
総合的学習 は、子 どもが このような社会に適応できる力 を育てることを目標 とする。1997年 の 9月に出された教育職員養成審議会の第一次答申では、今 日求められる教師の資質能力 として、
地球的視野 に立 って行動するための能力 を挙 げ、「人間尊重。人権尊重」、「地球環境」、「異文化 理解」、「民族対立 0地域紛争 と難民」、「人 口 と食料」、「社会への男女の共同参加」 といった人 類共通のテーマや「少子化・ 高齢化 と福祉」、「家庭の在 り方」 といった現代 日本の抱えている 問題 を、ディスカ ッション等 を通 じて、教師を目指す学生 に学ばせることを求めている。 これ らの学生が将来教職 に就 くことを考慮すると、上記の分野 に関連 した知識や資質能力の育成は、
間違いな く、小中学校 における総合的学習の1つの目標 となるであろう。
総合的学習 にはおよそ週3時間が割 り振 られ、従来の教科学習 と同 じ意味での評価 は行われ ないようであるので、児童生徒一人ひ とりの興味・ 関心 に基づいて、自ら課題 を見つけ、自ら 学び、 自ら考 える等の「生 きる力」の育成 も第2の目標 になるであろう。教科の学習では、バ ライティに富んだ教科書の内容の習得が中心にな りがちである。したがって、児童生徒が興味・
関心 を持つ一つの現実的な課題 について、教師や保護者や地域の人たちの助力 を得なが ら、長 い時間をかけて一つの問題解決 をする学習は望めない。新設 される総合的学習では、その科目 の特徴 を生か して、児童生徒の問題設定および問題解決の力 をさらに伸ばす ことが期待 される。
さらに、地域社会 に密着 した自然、歴史、地理、伝統工芸、昔話等の教科書に載っていない 事柄 について体験 を中心 に学習 し、小 グループの特性 を生か して表現する力の育成 も、第
3の
目標 としてあげられ るであろう。続いて、創造性、 リーダーシップ、表現力や個性等の各種の 心理的能力や態度 を育てることも、第
4の
目標 として欠かす ことはできない。4.総合的学習 と生 きる力
平成8年 7月 の中央教育審議会の答申では、生 き力は次のように述べ られている。「生 きる力 は、いかに社会が変化 しようとも、自分で課題 を見つけ、 自ら学び、自ら考え、主体的に判断 し、行動 し、 よりよ く問題 を解決する資質や能力であ り、 また、自らを律 しつつ、他人 ととも に協調 し、他人 を思いや る心や、感動する心など、豊かな人間性であると考えた。た くましく 生 きるための健康や体力が不可欠であることは言 うまで もない。我々は、 こうした資質や能力
を、変化の激 しい これか らの社会 を [生きる力]と称することとし、 これをバ ランスよ く育ん でい くことが重要 と考 える。」総合的学習は、子 どもの「生 きる力」を育てるために作 られた と 言って も過言ではない。それゆえ、生 きる力の何であるかを理念的・ 実践的に明 らかにして、
展開することが期待 される。
5。 総合的学習で伸ばす知識 と心理的能力及び態度
総合的学習の時間には、多種多様 な活動 と学習を含 ませ ることができる。 このような活動 と
総合的学習で伸 ばす能力・ 態度・ 知識 は何か
学習 を通 じて、児童生徒 はいかなる知識 を得、 どのような心理的能力や態度 を伸 ばせばいいの であろうか。創造力、 リーダーシップ とフォロワーシップ、表現力等々、上記の要約 にあげた 16の知識・ 能力・ 態度 を考 えることがで きる。 ここではそれ らの一部 を説明す る。
①創造力
総合的学習においては、教科書がな く、授業内容があらか じめ決定 されてはい ない。 それゆえ、一人ひ とりの子 どもに合 うように適切 な授業内容・方法・計画 を工夫すれば、
創造的問題解決力のみではな く、 自己実現の創造力 をも伸 ばす ことが可能 になる。家庭や学校 において好奇心 と創造性 を伸 ばす現実的な方法が弓野 (1998)に よって、提唱 されている。
②好奇心
創造力の根元には、好奇心がある。さまざまなものや ことに興味を示す子 ども は、そうでない子 どもに比べて、創造力が高いことが予想される。筆者の下で卒業研究を続け ている太田 (1999)は 、ガヽ学5年生のさまざまな体験 と倉J造′性が どのように関連 しているかを 調べた。そして、①詩や物語 りを書いたことがある、②替 え歌を作つた り、作詞や作曲をした ことがある、③新 しいゲニムを考えたことがある、④模型を組み立てたことがある、⑤秘密の 基地をつ くったことがある、⑥行ったことのない所を探検 したことがある、⑦楽器をつ くった ことがある、③ゲームのルールを変えて遊んだことがある、等の項目と、「空きカンの利用法」
に関する思考の流暢性、柔軟性、独創性の間に。3〜.64の有意な相関を見出している。総合的 学習においては、子 どもの好奇心を伸ばすような配慮が望 まれる。
③勇気
ますます情報化され国際化される社会の中で生 きることを余儀な くさせ られるこ れからの子 どもにとっては、未知なる世界へ踏み込む勇気は欠かせない。加 えて創造への勇気
も欠かせない。野外活動や地域探索や国際理解活動、さらには創造活動を多 く含む総合的学習 では、勇気を育てる機会がた くさんある。 このような勇気を育てるためには、無謀にならない 範囲で、子 どもたちがさまざまな困難に挑戦できる場を設定することが望 まれる。失敗するこ とは恥ずべきことではな く、困難な目標に立ち向かう場合には、必然的起 こる現象であること を理解させ、ねばり強 く解決へ向かって努力する習慣 をつけることが必要であろう。
④ リーダーシップとフォロワーシップ
三隅・吉崎・篠原 (1978)は 、 リーダーシップを
「集団目標達成機能:P機能」と「集団維持機能:M機能」に分けた。
教師はPMリ ーダー シップ等を参考にして、児童生徒のリーダーシップを育てることが重要である。 ここでいう児 童生徒のリーダーシップとは、「司会をする」、「班を代表 して発表する」、「意見を調整する」、
「健全な人間関係 を保つ」等々を指 している。
リーダーシップと対になるのがフォロワーシッ プである。 リーダーの意向を重視 して、それに従 う態度である。盲従するのではな く、集団が よりよい方向に活動できるように、ある場合は裏方に徹する態度 とも言える。 日本の教室では ほとんど意図されていない態度 と言えるか も知れない。能力差のある全ての子 どもにリーダー シップ能力を養成 しようとする時には、勢力の強い子 どもの意見のみで全ての会議等の方向が 決 まらないように、 このフォロワーシップについても慎重に配慮する必要がある。
⑤表現力
単一民族から構成 され、全ての人が日本語を話 し、さらに同一の学習指導要領 に沿って教育が行われる日本においては、人々はほぼ同じ教育、同じ経験を積んで成長する。
同じ経験は、人 と人 との間に以心伝心を可能する。 また日本文化の中では、自己を主張 しない ことが美徳 とされてきた。このようなこともあってか、表現力の育成は日本の教育においては、
さして重要な問題ではなかった。
ところが、国際化・情報化社会の到来である。多 くの日本人がある時には仕事や研究等で諸 外国の人 と交流 し、別の時には、遊びや観光で世界各地を訪れることが生活の一部 となって来
た。言語や諸々の価値の違 いを越 えて、ある場面では表現 したい内容 を正確 に、他の場面では、
ジョークやューモアを含んだ表現が必要 となったのである。未来の社会 を生 きる子 どもにとっ ては、教育の中において国家や文化 を超 えて通用する一般的な表現力、および私の何であるか を第
3者
に正確 に伝 える自己表現力の育成 を欠かす ことがで きない。⑥学習に対する責任感
「馬 を水場 までは連れて行 くことがはで きるが、水 を飲 ませ るこ とは出来ない。」 よ く知 られた諺である。馬が水 を飲むか どうかは、馬の喉が渇いているか ど うかによるのである。馬主 は馬 を水場 まで連れてい くことしかできないのである。「学習」も同 じである。教師や親 は子 どもが学習 し易い環境 を整 えることが出来 るのみである。子 どもが学 習計画 を立てた り、わか らない ところを自分で調べた り、教師に質問 した り、クラスメイ トと 議論 した り、各種の教材や活動 を要点 を押 さえて文や表や図に表わす ことによって、各種の知 識の枠組みや過去の体験 に積極的に結びつけることがなければ、真の意味での学習 とはならな いのである。教師か ら求められたか ら学ぶのではな く、子 ども自らが自分の学習に責任 を持っ て学ぶのである。幸いなことに、総合的学習では、 このような「学習に対する責任感」を育て るチャンスが十分 にある。
②共感力 と支援カ
ボランティアや福祉の時間に養護施設や高齢者施設 を訪問 して、子 ど もは何 を学ぶのであろうか。1つは障害者や高齢者の置かれている実状 を知 ることであろう。
施設等での活動 を通 して、障害者がハ ンディキャップを背負いなが らも、自己の人生に真正直 に立 ち向かっている様子や、高齢者がその人の生 を最後 まで生 きている様子 を直 に学ぶであろ う。そのような経験 は、障害者や高齢者 に対 して親近感 を抱かせ、ともすれば差別や偏見 を持 っ て見がちな社会的弱者の心 を「共感的に理解する」 ことを可能にするか もしれない。 また現在 の子 どもに欠 けているといわれる「命の大切 さ」、「命の有限さ」を実感 させることが出来るか もしれない。さらに、車いすを押 した り、洗濯 を手伝 った り、障害者や高齢者の話 し相手になっ た りすることで、 自分の行為や活動が人の喜びにつながることを経験することもあろう。その ような経験 を通 して、社会のため、人間のため、弱者のため等の大げさな理由でな く、自分の 出来 る範囲で何気な く弱者や困っている人 を「支援する心 と行動」が起 きるようになるのでは なかろうか。
③ 自己効力感
自己効力感 (自己効力)と は、 自己の行為・ 行動・ 思考等が環境 に効果的 に働 き、環境や 自己を望 ましい方向に変 えているとする実感や予測 をいう。スポーツで技能上 達 に最近 しばしば用い られ る「イメージ トレーニング」は、技能のみならず自己効力感 も育て るす ぐれた トレーニ ング方法である。総合的学習において も、子 どもが自分で学習 目標や調査 計画 を立て、教師や地域の人々の協力 を得てそれ らの目標や計画を達成する中で、自己に対す
る信頼感・ 有能感 を高め、自己効力感 を獲得することができるであろう。
⑨集中力
同 じ
1時
間の授業であって も、子 どもたちが どれほど集中 してそれに取 り組ん だかによって、成果 は大 きく異なって くる。総合的学習の時間のみならず、通常の授業におい て も、瞑想訓練 を取 り入れた り、一定時間算数の計算問題 を解いた り、漢字の書 き取 りをしたりすることで、集中力 を高めることが可能である。
⑩ 自主的態度
今求め られている「自己学習能力」の根底 には、 自主的態度がある。 もの ごとに自らすすんで取 り組む態度である。研究課題 を自由に決めることので きる総合的学習は、
この自主的態度の涵養 に適 している。
①競争的態度 と協同的態度
最近の学校 においては競争場面が少な くなっている。しか し、
総合的学習で伸ばす能力・ 態度・ 知識 は何か 247
子 どもたちが将来働 く社会が激 しい競争社会であることを考 えると、協同的態度 を大切 にしつ つ も、競争的態度 も育てる必要がある。過度の競争 は「負の側面」 をもつが、配慮 された競争
は、子 どもの台旨力 を高める効果がある。
⑫境環教育で伸 ばす知識・ 能力・ 態度
現在、地球的規模で、環境問題がクローズアップ され始めた。PCBやダイオキシン、水銀等の化学物質による陸、河川、海洋の汚染、地球温暖 化、南北両極上 にしばしば現れるオ ゾンホール、われわれの子孫の盛衰 に直接つなが ると見 ら れる各種の環境 ホルモ ン等々である。総合的学習 において子 どもたちは、 これ らの事実 につい て学ぶであろう。そして、 これ らの環境問題 を解決するために何がで きるかについて も、真剣 に議論するであろう。そして地球 レベルや国レベルや県0市の地域 レベルでの解決法 を提出す るに違いない。さらに、個人 レベルで何がで きるかについての議論 も活発 になされ るであろう。
そしてそれ らの解決策 を個人 レベルで実行 に移す ことになる。すなわち人が環境 といかに調和 するかについての知識 とそれを実践す る態度 を総合的学習の中で、育てることが重要なのであ
る。
⑬国際理解教育で伸ばす知識・ 能力・ 態度
国際理解教育は何を目指すのであろうか。高 階 (1996)は 次の
3点
をあげている。①異文化への認識 を育てる、②共生の認識 を育てる、③ コミュニケーションの能力を育てる。① は、異なる文化の固有性 と独自性を認め尊重する態度 である。 日本の現在の生活水準に比べて、進んでいる一遅れている、 と一元的に判断するので はな く、それ自身固有の価値をもったアジア0アフリカも含めた諸外国の文化の多様性を認め る公平的な態度である。② は、情報化や国際化が進展して、経済、科学、文化等の交流が盛ん になり、一国の利害のみで生きてい くことが難 しくなってきた という事実に関する認識である。他の国や民族 との共生の視点がなければ、世界規模で生 きてい くことが困難になったのである。
③ は、世界共通語になった英語を使って、意図するものを相手に伝える能力の育成である。さ らに外国語が話せな くても、自分の確かな考えをもって違和感な く外国人 と接することができ る態度 も含 まれる。最後に、国際理解教育のベースとして、④ 日本文化や地域の文化・ 特性 を 認識 し、 これを尊重する態度 もあげられる。
⑭情報教育で伸ばす知識・能力
0態
度「情報教育」の重要性が叫ばれて久 しいが、一部 の先進的な学校 を除 くと、それが十分になされている学校は僅かである。子 どもの生きる未来 社会が、現在以上の情報化社会であることを考えると、総合的学習の情報教育がさらに充実さ れることが望 まれる。情報教育には、①情報収集・ 活用・ 発信能力の育成、②情報機器活用能 力の訓練、③プログラミング能力の開発等がある。①には、新聞、本、雑誌、インターネット 等から学習に必要な情報 を収集 し、それを授業や議論やレポー ト等で活用 し、さらに新聞や雑 誌を発行 した り、ホームページ等を作成 して学校内外に発信する能力や技術である。② は、コ
ンピューターに代表される情報機器 を使いこなす能力である。 これには、ワープロや表計算 ソ フ トを使いこなした り、必要 とするソフ トをコンピューターに導入する知識や技能 も含 まれる。
③ は、少し高度な能力であつて、コンピューター言語を理解 し、それを駆使 して目的 とするプ ログラムを完成させる能力である。 これらの三つの能力の育成に合わせて、情報機器に積極的 に近づ く態度 も育てる必要があろう。
①地域特性および問題の理解 とそれを解決する能力・ 態度
日本の田舎は過疎に悩 まされ ている。若者が少ないのである。少数の若者 も、学校を卒業すると、職を求めて都会に出て行
く。 これでは田合は滅びるしかしかたないのである。
ここで、過疎地の子 どもが社会科等で何を学んでいるかが問題になる。中央で作 られた教科 書 を学ぶ ことを強制 される現在の日本では、過疎地の子 どもも都会の子 どもとほぼ同じ内容の 教科書 を学 ばなければならない。その ことは、自分たちの地域の問題 を掘 り下げ、それをどの ようにして克服するかについての「切実な学習」の機会を奪 うことにつながる。総合的学習に おいて「地域学習」が必要 とされる所以である。
6.生きる力 と創造力
(1)創造力 とは何か
ここ40年以上 にわた り、倉J造力の理論および教育の世界的な リーダー であったTOrrance(1994)は最近の著書で、創造力 を次のように定義 している。「創造力 は通常、
過程 あるいは産物、時 としてある種のパーソナ リティとか環境的な条件 として定義 されてきた。
私 は、創造力 を問題 を嗅 ぎ付 け、情報のギャップを見つけ出 し、アイデア とか仮説を形成 しそ れ らの仮説 を検証 した り修正 した りして、最終的に結果 をコミュニケー トする諸過程を指す も の として定義 したい。創造力は斉一性(conf∝mity)の対局 にあるものであ り、オ リジナルなア イデア、異なった視点、問題への新たな見方が強 く関与する。 このことから、斉一性が他者を 混乱 させた り困難 に陥 らせた りすることはないのに対 し、倉J造力ではそれが起 きる。創造力 は 未踏の領域へのアクセスであ り、主なる潮流か らの逸脱であ り、古い鋳型 を壊 し、経験 に対 し てオープンにな り、次か ら次へ とつながることであ り、アイデアを再構成 し、諸アイデアの間 に関係 を見出す ことによって、成功が約束 される。好奇心 とか、イマジネーションとか、発見、
革新、発明 とかいう概念 は、創造力の議論の中心であ り、時 としてそれ らの語は創造力 と同義 に用い られる。ある人 は、適応の全ての行為は創造的な行動 と見なされると主張するほどであ る。」
(2)生きる力 と創造力
生 きる力 について述べた文の中の「いかに社会が変化 しようとも、
自分で課題 を見つけ、 自ら学び、 自ら考 え、主体的に判断し、行動 し、 よりよく問題 を解決す る資質や能力」の部分 を
TOrranceの
創造性の定義「創造性 とは、問題 を嗅 ぎ付 け、情報のギャッ プを見つけ出 し、アイデア とか仮説 を作 り出し、それ らの仮説を検証 した り修正 した りして、最終的に結果 をコミュニケー トする諸過程である」 と比較 してみよう。2つのカッコのなかの 意味 はほぼ同 じであると言ってもいいほど似通 っている。 しか し生 きる力の後半の「他人 と協 調する」や「感動する心 を持つ」は、先 に定義 した創造力の範囲を超 えているようにみえる。
しか し、生 きる力の後半の「他人 と協調する」や「感動する心を持つ」は、繁桝 ら (1993)が 日米の学生 について調べた創造的態度の中の「協調性」と「先取性」に対応 している。 したがっ て、生 きる力の育成の中心には、創造力の育成があると言っても過言ではないであろう。「生 き る力 を育てる」は、「創造力 を育てる」 と多 くの点において重なっているのである。
学校 において創造力 をどのように伸 ばすかについては長い議論が必要なので、今回は割愛 し、
他稿 に譲 ることにする。
総合的学習で伸 ばす能力・ 態度・ 知識 は何か
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