II 型行列パンルヴェ方程式の初期値空間
三重大学大学院
教育学研究科教育科学専攻理数・生活系教育領域
213M022
牛久 祥聡平成
27
年2
月13
日目次
1
序文2
2
序論3
2.1
パンルヴェ方程式の歴史. . . . 3
3 II
型パンルヴェ方程式4
3.1 II
型パンルヴェ方程式の局所解. . . . 4 3.2 II
型パンルヴェ方程式のベックルンド変換. . . . 5 3.3 II
型パンルヴェ方程式の初期値空間. . . . 7
4 II
型行列パンルヴェ方程式8
4.1 II
型行列パンルヴェ方程式の局所解. . . . 9
4.2 II
型行列パンルヴェ方程式の解とベックルンド変換. . . . 16
4.3 II
型行列パンルヴェ方程式の初期値空間. . . . 18
1
序文この論文では,
19
世紀にフランスの数学者P.Painlev´ e
によって発見されたパンルヴェ方程式のうち「II
型 パンルヴェ方程式」を拡張した「II
型行列パンルヴェ方程式」と呼ばれる方程式の初期値空間を構成すること を目的としている.初期値空間を構成することでパンルヴェ方程式の研究が解析学的な視点だけでなく,幾何学的な視点から行 うことができるようになる.
第
1
章では,「パンルヴェ方程式とはどういった方程式か」について簡単に歴史と共に述べる.第
2
章では,II
型行列パンルヴェ方程式の初期値空間の構成にあたり,その拡張前であるII
型パンルヴェ方 程式の初期値空間を「 局所解を求める」,「 ベックルンド変換でどのように貼り合わされるか求める」,「 ベックルンド変換によって貼り合わせた空間が本当に初期値空間になっているか確かめる」という手順で 構成し,その方法やアイデアを述べる.第
3
章では,東京大学の川上拓志氏,坂井秀隆氏,中村あかね氏が発見したII
型行列パンルヴェ方程式につ いて,吉田和史氏が求めたベックルンド変換を用い,2
章と同様の方法でその初期値空間を構成する.最後に,本論文の作成及びこれまでの研究に際し,ときに優しく,ときに厳しく指導して下さった川向先生 並びに数学科の先生方,
2
年間本当にありがとうございました.2
序論2.1
パンルヴェ方程式の歴史物理的な現象を数式で表すと微分方程式が現れることが多い.しかし,たいていの場合はその微分方程式の 一般解は初等的な関数で表すことができない.そこで
19
世紀の解析学の問題意識として「微分方程式で定義 される新しい特殊関数を見つける」というものが生まれた.そのような意識の中で「解の極以外の特異点の位置が初期条件に依存しない」という性質
(
これをパンル ヴェ性という)
をもつ代数的常微分方程式を考えることになった.パンルヴェ性をもつ
1
階の代数的常微分方程式はH.Poincar´ e
とL.Fuchs
によって•
リッカチ型の方程式: y
0= a(t)y
2+ b(t)y + c(t)
•
楕円関数の満たす微分方程式: (y
0)
2− 4y
3+ g
2y + g
3= 0 (g
2, g
3∈ C , g
23− 27g
326 = 0)
•
代数的に求積出来るのいずれかに帰着することが示された.
また
2
階の代数的常微分方程式についてはP.Painlev´ e
とB.Gambier
によって•
線形方程式•
楕円関数の満たす微分方程式: y
00− 6y
2+ g
2/2 = 0 (g
2∈ C )
•
代数的に求積出来る•
以下で与えられる6
つの方程式:P
I, P
II, P
III, P
IV, P
V, P
VI のいずれかに帰着することが示された.
P
I: y
00= 6y
2+ t P
II:y
00= 2y
3+ ty + α
P
III:y
00=
y1(y
0)
2+
1ty
0+
1t(αy
2+β ) + γy
3+
δyP
IV:y
00=
2y1(y
0)
2+
32y
3+ 4ty
2+ 2(t
2− α)y +
βyP
V:y
00=
(
1 2y+
y−11)
(y
0)
2−
1ty
0+
(y−t21)2(αy +
βy) +
γty + δ
y(y+1)y−1P
VI:y
00=
12(
1y
+
y−11+
y1−t)
(y
0)
2− (
1
t
+
t−11+
y−1t)
y
0+
y(yt2−(t1)(y−1)−2t)(
α + β
yt2+ γ
(yt−−1)12+ δ
(yt(t−−t)1)2)
ただし,
y = y(t)
は従属変数,0は独立変数t
の微分,α
,β
,γ
,δ
はパラメータとする.なお,パンルヴェ方程式の発見当初,この方程式が本当に新しい関数を定義しているのかが問題になった が,(後述するように)このことは梅村浩氏らの研究により肯定的に解決された.
ところで
P.Painlev´ e
がフランスでパンルヴェ方程式を発見した後,隣国ドイツでは一見パンルヴェ性とは 関わりがなさそうなところからパンルヴェ方程式は現れることになる.
R.Fuchs
は4
つの確定特異点をもつ2
階のFuchs
型微分方程式を研究する中で,この方程式の含むパラメータを変数として動かしたとき,そのモノドロミーを不変に保つにはパラメータの
1
つがP
VIを満たさな ければならないことを発見した.さらにR.Garnier
は確定特異点だけでなく,不確定特異点ももつ様な単独2
階の線形常微分方程式を考え,その方程式のモノドロミー保存変形を考えるとP
I〜P
Vが導かれることを示した.
その後パンルヴェ方程式の研究は一時影を潜めることとなったが,
1970
年代にWu
,McCoy
,Tracy
らに よるイジング模型の相関関数の研究の中でP
IIIが現れ,再び注目されることになった.そして現代にいたるまで,パンルヴェ方程式に関する多くの研究がなされていくことになる.
岡本和夫氏は
P
I〜P
VIのハミルトン構造を発見し,さらに初期値空間と呼ばれるパンルヴェ方程式の解と1
対1
に対応する空間を構成した.また,梅村氏は古典関数を
有理関数から出発して,既知関数の加減乗除と微分,既知関数を係数とする代数方程式を解く,既知関数を 係数とする線形常微分方程式を解く,アーベル関数に既知関数を代入する―以上の操作を有限解繰り返して得 られるもの
と定義し,古典関数でないものを 新しい関数 とした.さらに梅村氏は「パンルヴェ方程式の解が古典関数 ならば,代数関数か線形方程式の解を使ってかける」ということを証明した.このことにより「パンルヴェ方 程式は新しい関数を定義するか」という問題が「パンルヴェ方程式の古典関数解をすべて決定する」という問 題に変わり,
2008
年にパンルヴェ方程式の一般解は本当に新しい関数になっているということがわかった.3 II
型パンルヴェ方程式この章では
II
型パンルヴェ方程式の局所解と ベックルンド変換 と呼ばれる「解と解を結ぶ変換」の説明 を行い,パンルヴェ方程式の幾何学的側面を与える 初期値空間 について述べる.3.1 II
型パンルヴェ方程式の局所解パンルヴェ方程式の解は,その性質から方程式の特異点以外のところ(
B
とする)で有理関数となってい る.すなわち任意の解をB
の各点でローラン展開することができる.この節では
II
型パンルヴェ方程式のローラン展開を与えよう.定理
3.1. ([Okamoto])[2]
II
型パンルヴェ方程式の解をt = t
0でローラン展開すると次のいずれかになる.(1)
q, p
はt = t
0で正則q
1= a
1−
(
a
12− b
1+ t
02 )
T + (
a
13+ a
1t
02 + c 2 − 1
4 )
T
2+ · · · p
1= b
1+ (2a
1b
1+ c)T + · · ·
(2)
q
はt = t
0で1
位の極,p
はt = t
0で1
位の零.q
2= 1 T − t
0T
6 − (2c + 1)T
28 + a
2T
3+ · · · p
2= − cT +
{ 5a
2+
( t
06
)
2}
T
2+ · · · (3)
q
はt = t
0で1
位の極,p
はt = t
0で2
位の極.q
3= − 1 T + t
0T
6 − (2c − 3)T
28 + a
2T
3+ · · · p
3= 2
T
2+ t
03 − T
2 + {
a
3+ ( t
06 )
2}
T
2+ · · ·
3.2 II
型パンルヴェ方程式のベックルンド変換
II
型パンルヴェ方程式P
II: y
00= 2y
3+ ty + α (3.1)
について考える.高階の非線形微分方程式は,それと等価な
1
階の連立形の方程式に書き直すことができ,そ の方が都合のいいことも多い.そこでq = y (3.2)
p = y
0+ y
2+ t
2 (3.3)
とおこう.そうすると
II
型パンルヴェ方程式はH
II:
q
0= p − q
2− t 2
p
0= 2qp + c (c = α + 1 2 )
(3.4)
と等価である.ここで
3
変数q, p, t
についての多項式H = H (q, p, t)
を以下のように定義する.H = 1 2 p
2−
( q
2+ t
2 )
p − cq (3.5)
すると,
H
IIは
q
0= ∂H
∂p = p − q
2− t 2 p
0= − ∂H
∂q = 2qp + c
(3.6)
と表すことができる.
定義
3.1. 1
個の関数H = H(q, p, t)
を用いて(3.6)
のような形に表される連立形の方程式をハミルトン系といい,
H
をそのハミルトニアンという.ここで,初期値空間を構成する際に用いるベックルンド変換について構成法とともに説明する.
まず,
(3.5)
のq, p
を「(3.6)
を満たすt
の関数」として両辺をt
で微分するとH
0= − 1
2 p (3.7)
H
00= − 1
2 (2qp + c) (3.8)
となる.これから
q
,p
をH
0,H
00で表したものをφ(H
0, H
00, c)
,ψ(H
0, H
00, c)
とするとq = φ(H
0, H
00, c) = 2H
00+ c
4H
0(3.9)
p = ψ(H
0, H
00, c) = − 2H
0(3.10)
となる.これを
(3.5)
に代入すると,ハミルトニアンが満たす微分方程式(H
00)
2+ 4(H
0)
3+ 2H
0(tH
0− H ) − 1
4 c
2= 0 (3.11)
が得られる.逆に
(3.11)
を満たすH
に対してq
,p
を(3.9)
,(3.10)
で定めると,これらは(3.6)
を満たす.ところで
(3.11)
においてc
を− c
と代えても方程式は不変である.そこで(3.9)
,(3.10)
の右辺のc
を− c
に代えた式u = φ(H
0, H
00, − c) = 2H
00− c
4H
0(3.12)
v = ψ(H
0, H
00, − c) = − 2H
0(3.13)
を考えよう.そうするとu, v
の満たす微分方程式は(3.6)
のq
,p
,c
をu
,v
,− c
に置き換えたものだとわか る.つまり,(3.5)
の右辺のq, p, c
をu, v, − c
に代えたものをK
とおくとdu dt = ∂K
∂v dv
dt = − ∂K
∂u
が成り立つ.さらに(3.9)
,(3.10)
,(3.12)
,(3.13)
より{
u = q + c p v = p
(3.14)
だから「ハミルトン系
(q, p, H, t)
に変換(3.14)
を施すと,(H
のq, p, c
を形式的にu, v, − c
に置き換えたもの である)K
をハミルトニアンとするハミルトン系(u, v, K, t)
が得られる」ことがわかる.このようにハミルトン系
(q, p, H, t)
をハミルトン系(u, v, K, t)
に写す変換で,ハミルトニアンK
が,H
の 正準変数q, p
とパラメータc
をu, v
と別のパラメータ− c
に置き換えたものとなっているような変換をベック ルンド変換と呼ぶ.この他にも
u = − q, v = − p + 2q
2+ t, K = H + q
とすると,同様の計算を行うことでパラメータ以外は不 変な変換になることがわかる.
II
型パンルヴェ方程式のベックルンド変換はこの2
種類で与えられ,これらの変換はII
型パンルヴェ方程 式の有理解の構成や初期値空間の構成などに用いられている.このベックルンド変換を定理としてまとめてお こう.定理
3.2. ([Okamoto])[1] II
型パンルヴェ方程式のベックルンド変換は次のように与えられる.T
A:
u = q + c p v = p K = H σ = − c
T
B:
u = − q
v = − p + 2q
2+ t K = H + q σ = 1 − c
ちなみに,このベックルンド変換を用いると定理
3.1
の3
つの解を結びつけることができる.具体的に書く と以下のようになる.T
A(q
1, p
1) ¯¯ ¯
a1=a2,b1=0,c=−σ
= (q
2, p
2) ¯¯ ¯
c=σ
T
B(q
2, p
2) ¯¯ ¯
a2=−a3,c=1−σ
= (q
3, p
3) ¯¯ ¯
c=σ
3.3 II
型パンルヴェ方程式の初期値空間先述したように初期値空間とは解と
1
対1
に対応するような空間のことであり,岡本和夫氏によってP
I〜P
VIに対応するものが構成され,高野恭一氏によってそれらはパンルヴェ方程式を特徴づけるものだというこ とが示されている.つまり初期値空間を構成するということは,幾何学的な視点からパンルヴェ方程式の性質をとらえることが できるということであり,パンルヴェ方程式の研究に新たな側面を与えるものである.
定理
3.3.
(q
1, p
1) ∈ W
1= C
2, (q
2, p
2) ∈ W
2= C
2, (q
3, p
3) ∈ W
3= C
2 を{
q
2= q
1+ c p
1p
2= p
1
q
3= − q
1− c p
1p
3= − p
1+ 2
( q
1+ c
p
1)
2+ t
という関係式で貼り合わせたものを
W
とする.またP
のt = t
0の近傍で定義される解全体をV
とする.そのとき写像
Φ
をΦ(q, p) =
(q
1(t
0), p
1(t
0)) ∈ W
1, (q, p) : (1)
タイプの解(q
2(t
0), p
2(t
0)) ∈ W
2, (q, p) : (2)
タイプの解(q
3(t
0), p
3(t
0)) ∈ W
3, (q, p) : (3)
タイプの解 とすると,Φ
はW
とV
の1
対1
写像になる.証明
. (i)
(q, p)
,(˜ q, p) ˜
が同じタイプの解やり方は同じなので代表して「
(q, p)
,(˜ q, p) ˜
が(2)
タイプのとき,(q, p) 6 = (˜ q, p) ˜
ならば(q(t
0), p(t
0)) 6 = (˜ q(t
0), p(t ˜
0))
」を示そう.
q = Q
2− c
P
2,p = P
2とするとQ
2= q + c
p = − 5a
2+ (t
0/6)
2c + · · · P
2= p = 0 − cT + · · ·
同様に
q ˜ = ˜ Q
2− c P ˜
2,
p ˜ = ˜ P
2とするとQ ˜
2= ˜ q + c
˜
p = − 5˜ a
2+ (t
0/6)
2c + · · ·
P ˜
2= ˜ p = 0 − cT + · · ·
となる.ここで
Q
2,P
2がみたす微分方程式はQ
002= 2Q
23+ tQ
2− c − 1 { 2
Q
02= P
2− Q
22− t 2 P
20= 2Q
2P
2− c
であり,さらに
Q
2,P
2は正則だからQ
2(t
0)
,P
2(t
0)
は有界な数.これらをα
0,β
0とおくとコーシーの存在 定理よりQ
2(t
0) = α
0P
2(t
0) = β
0となる解はただ
1
つである.(Q ˜
2,P ˜
2についても同様.)よって
(q, p) 6 = (˜ q, p) ˜
ならば(q(t
0), p(t
0)) 6 = (˜ q(t
0), p(t ˜
0))
である.(ii)
(q, p)
,(˜ q, p) ˜
が違うタイプの解
(q, p)
が(1)
タイプ,(˜ q, p) ˜
が(2)
タイプのとき,W
1の元(λ
1, µ
1)
とW
2の元(λ
2, µ
2)
はλ
1= λ
2− c
µ
2µ
1= µ
2という関係式で貼り合わさっていた.よって
µ
2= 0
なら(λ
1, µ
1)
と(λ
2, µ
2)
は貼り合わない.このことに注 意すると˜
q = ˜ Q
2− c P ˜
2˜ p = ˜ P
2と置いたとき,
P ˜
2(t
0) = 0
であればW
1の元(q(t
0), p(t
0))
とW
2の元(˜ q(t
0), p(t ˜
0))
は貼り合わないことがわ かる.(
つまりΦ(q, p)
とΦ(˜ q, p) ˜
は違う点となる.)
ところで,
(˜ q, p) ˜
が(2)
タイプの解なら定理3.1
より˜
p = − cT + · · ·
と展開できた.従ってP ˜
2(t
0) = 0
となることがわかる.故にΦ(q, p) 6 = Φ(˜ q, p) ˜
である.定理
3.3
よりW
はV
と1
対1
に対応することがわかった.このW
をII
型パンルヴェ方程式の初期値空間 という.4 II
型行列パンルヴェ方程式パンルヴェ方程式の研究が盛んになるにつれ,この方程式を拡張する動きも盛んになってきた.例えば対称 形式と呼ばれる野海正俊氏,山田泰彦氏による以下のようなパンルヴェ方程式の新しい表示法がある.
例
P
IVの対称形式
f
00= f
0(f
1− f
2) + α
0f
10= f
1(f
2− f
0) + α
1f
20= f
2(f
0− f
1) + α
2α
0+ α
1+ α
2= 1, f
0+ f
1+ f
2= t
その中で,東京大学大学院理科学研究科の川上拓志氏は同大准教授の坂井秀隆氏,同大大学院の中村あか ね氏らと共に
II
型パンルヴェ方程式の拡張型であるII
型行列パンルヴェ方程式を発見した.定義
4.1. II
型行列パンルヴェ方程式とはH = 1
2 p
12− 2p
2(q
2p
2− θ
1− θ
2) − p
1(q
12− q
2+ t) − 2q
1(q
2p
2− θ
1− θ
2) − 2θ
1q
1− 2q
1q
2p
2 をハミルトニアンとする次のハミルトン系のことである.q
10= ∂H
∂p
1= p
1− q
12+ q
2− t (4.1)
q
20= ∂H
∂p
2= − 4q
1q
2− 4q
2p
2+ 2θ
1+ 2θ
2(4.2) p
01= − ∂H
∂q
1= 2q
1p
1+ 4q
2p
2− 2θ
2(4.3)
p
02= − ∂H
∂q
2= 2p
22− p
1+ 4q
1p
2(4.4)
ただし,0は独立変数
t
の微分,θ
1,θ
2はパラメータとする.4.1 II
型行列パンルヴェ方程式の局所解
II
型パンルヴェ方程式の解のときと同様に,II
型行列パンルヴェ方程式の解においても方程式の特異点以外 のところ(B
とする)で有理関数となっている.すなわち,任意の解をB
の各点でローラン展開することが できる.この節では
II
型行列パンルヴェ方程式のローラン展開を与えよう.定理
4.1. t = t
0をC
の元とする.(1)
(q
1, q
2, p
1, p
2)
がII
型行列パンルヴェ方程式の解であるとき,t = t
0での極の位数は,それぞれ,高々1
位,
高々2
位,高々2
位,高々1
位である.(2)
q
1, q
2, p
1, p
2
を
q
1= (t − t
0)
−1∑
∞ k=0α
1,k(t − t
0)
k,q
2= (t − t
0)
−2∑
∞ k=0α
2,k(t − t
0)
k,p
1= (t − t
0)
−2∑
∞ k=0β
1,k(t − t
0)
k,p
2= (t − t
0)
−1∑
∞ k=0β
2,k(t − t
0)
k(4.5)
と置く.これらが
(4.1)
,(4.2)
,(4.3)
,(4.4)
を満たすならば,(α
1,0, α
2,0, β
1,0, β
2,0)
は(0, 0, 0, 0)
,(0, 0, 0, − 1/2)
,(1, 0, 0, 0)
,(1, 0, 0, − 5/2)
,(1/2, − 1/4, 0, 0)
,( − 1, 0, 2, − 1/2)
,( − 1, 0, 2, 2)
,(0, − 1, 1, 1/2), ( − 1/2, − 1/4, 1, 1) (4.6)
のいずれかである.また未定係数法でα
1,k, α
2,k, β
1,k, β
2,k(k = 1, 2, 3, · · · )
を決めるとき,何個かのパラメー タが一意的に決まらないが,この個数N
は次の表のようになる.
α
1,0α
2,0β
1,0β
2,0N
(φ) 0 0 0 0 4
(a) 0 0 0 − 1/2 3
(b) 1 0 0 0 2
(c) 1 0 0 − 5/2 2
(d) 1/2 − 1/4 0 0 3
(e) − 1 0 2 − 1/2 2
(f ) − 1 0 2 2 2
(g) 0 − 1 1 1/2 2
(h) − 1/2 − 1/4 1 1 3
定理
4.1
の(1)
の証明
II
型行列パンルヴェ方程式(4.1)
,(4.2)
,(4.3)
,(4.4)
に対し,次の形の解を与える.q
1= 1 T
l∑
∞ k=0λ
1,kT
k, q
2= 1 T
n∑
∞ k=0λ
2,kT
k,
p
1= 1 T
m∑
∞ k=0µ
1,kT
k, p
2= 1 T
r∑
∞ k=0µ
2,kT
k ただし,T = t − t
0,l, m, n, r ∈ Z
,λ
1,0, λ
2,0, µ
1,0, µ
2,06 = 0
とする.定理
4.1
の(1)
を3
つの命題にわけて示す.命題
4.1. q
1はt = t
0で高々1
位の極.すなわちl ≤ 1
. 証明. l ≥ 2
として矛盾を導く.l ≥ 2
とするとき,(4.1)
の各単項式の極の位数をその下に書くとq
01l+1
= p
1 m− q
122l
+ q
2n
− t (4.7)
となる.よって以下の
4
つのケースが考えられる.(i) m = 2l > n, (ii) n = 2l > m, (iii) m = n > 2l, (iv) m = 2l = n (4.8)
また(i)
〜(iv)
の場合について(4.2)
と(4.3)
の和の両辺の各単項式の極の位数はp
01+ q
20= 2q
1p
1− 4q
1q
2+ θ
1(4.9)
m+1 n+1 l+m l+n 0 (m6=0,n6=0)
0 n+1 l l+n 0 (m6=0,n6=0)
m+1 0 l+m l 0 (m6=0,n6=0)
0 0 l l 0 (m6=0,n6=0)
となる.これらのことに注意して,
(i),(ii),(iii),(iv)
を考える.
(i) m = 2l > n
のときm > 0
ということに注意するとl + m > l + n, l + m > m + 1 > n + 1, l + m > 0 (n 6 = 0
のとき)
l + m > l, l + m > m + 1 > 0, l + m > 0 (n = 0
のとき)
よって,
(4.9)
よりλ
1,0µ
1,0= 0
となる.しかしこれはλ
1,06 = 0, µ
1,06 = 0
に矛盾.
(ii) n = 2l > m
のときn > 0
ということに注意するとl + n > l + m, l + n > n + 1 > m + 1, l + n > 0 (m 6 = 0
のとき) l + n > l, l + n > n + 1 > 0, l + n > 0 (m = 0
のとき)
よって,
(4.9)
よりλ
1,0λ
2,0= 0
となる.しかしこれはλ
1,06 = 0, λ
2,06 = 0
に矛盾.
(iii) m = n > 2l
のとき(4.7)
より,p
1+ q
1はt = t
0で高々2l
位の極となる.よって,µ
1,0= − λ
2,0, µ
1,1= − λ
2,1, · · · µ
1,m−2l−1= − λ
2,m−2l−1となり,
p
1− 2q
2= µ
1,0− 2λ
2,0T
m+ · · ·
の初項の係数
µ
1,0− 2λ
2,0は3µ
1,0に等しい.従ってp
1− 2q
2はt = t
0で正確にm
位の極となる.このことと,
m + l > 2l + 1 > 0
に注意して(4.9) → (p
1+ q
2)
0= 2q
1(p
1− 2q
2) + 2θ
1(4.10)
2l+1 m+l 0
を考えると,
λ
1,0µ
1,0= 0
となる.しかしこれはλ
1,06 = 0, µ
1,06 = 0
に矛盾.
(iv) m = 2l = n
のときl ≥ 2
よりl + n > n + 1, l + n > 0 (4.11)
となる.これと
(4.2)
q
20= − 4q
1q
2− 4q
2p
2+ 2θ
1+ 2θ
2n+1 l+n n+r 0
より
l = r
がわかる.このとき,(4.1), (4.2), (4.3), (4.4)
よりµ
1,0− λ
1,02+ λ
2,0= 0, 2λ
1,0µ
1,0+ 4λ
2,0µ
2,0= 0,
− 4λ
1,0λ
2,0− 4λ
2,0µ
2,0= 0, 2µ
2,02− µ
1,0+ 4λ
1,0µ
2,0= 0
が成り立つが,この方程式を解くと(λ
1,0, µ
1,0, λ
2,0, µ
2,0) = (0, 0, 0, 0)
で矛盾.以上より
(i),(ii),(iii),(iv)
のいずれの場合も矛盾するのでl ≥ 2
ではない.命題
4.2. p
1, q
2はt = t
0で高々2
位の極.すなわちm ≤ 2
かつn ≤ 2
. 証明. m ≥ 3
またはn ≥ 3
なら矛盾することを示す.m ≥ 3
のとき,l ≤ 1
および(4.7)
よりm = n
がわかる.従って命題4.1
の証明の(iii)
と同じ理由でp
1+ q
2は
t = t
0で高々2l
の極,p
1− 2q
2はt = t
0で正確にm(= n)
位の極になる.この結果とm + l > 2l + 1
お よび(4.9) → (p
1+ q
2)
0= 2q
1(p
1− 2q
2) + 2θ
1(4.12)
2l+1 m+l 0 (l6=0)
0 m 0 (l=0)
より
l 6 = 0, m + l = 0
がわかる.また(4.4)
p
02= 2p
22− p
1+ 4q
1p
2(4.13)
r+1 2r m l+r (r6=0)
0 0 m l (r=0)
より
m = 2r
がわかる.(∵ r ≤ 1
ならばm > r + 1 ≥ 2r, m > l + r
となるのでµ
1,0= 0
が成り立つがこれ は矛盾.r ≥ 2
ならば2r > r + 1 ≥ l + r
となるのでm = 2r
が成り立つ.)ここで
m + l = 0, m = 2r
と(4.3)
p
01= 2q
1p
1+ 4q
2p
2− 2θ
2m+1 m+l n+r 0
より
r = 1
が得られるが,これはm = 2r = 2 < 3
ということになるので矛盾.従って
m ≥ 3
ではない.同様にしてn ≤ 2
も示せる.命題
4.3. p
2はt = t
0で高々1
位の極.すなわちr ≤ 1
である.証明
. r ≥ 2
なら矛盾することを示す.l ≤ 1, m ≤ 2
より2r > r + 1 ≥ l + r, 2r > m
となる.これと(4.13)
からµ
2.02= 0
が得られるが,これはµ
2.06 = 0
に矛盾.以上の
3
つの命題をあわせると定理4.1
の(1)
が得られる.定理
4.1
の(2)
の証明定理
4.1
の(2)
もいくつかの命題にわけて示す.命題
4.1, 4.2, 4.3
より,(4.1), (4.2), (4.3), (4.4)
の解は(4.5)
の形をしているとしてよい.(このときのα
1,0, α
2,0, β
1,0, β
2,0は0
でもよい).これらを(4.1), (4.2), (4.3), (4.4)
に代入してT
k(k ∈ Z )
の係数を比較す ると,
(n − 1)α
1,n= β
1,n−
∑
n k=0α
1,kα
1,n−k+ α
2,n− t
0δ
n,2− δ
n,3(n − 2)α
2,n= − 4
∑
n k=0α
1,kα
2,n−k+
∑
n k=0α
2,kβ
2,n−k+ 2(θ
1+ θ
2)δ
n,3(n − 2)β
1,n= 2
∑
n k=0α
1,kβ
1,n−k+ 4
∑
n k=0α
2,kβ
2,n−k− 2θ
2δ
n,3(n − 1)β
2,n= 2
∑
n k=0β
2,kβ
2,n−k− β
1,n+ 4
∑
n k=0α
1,kβ
2,n−k(4.14)
が得られる.ただし
n ≥ 0, n ∈ Z
で,δ
i,jはクロネッカーデルタである.ここから次の命題が得られる.命題
4.4. (α
1,0, α
2,0, β
1,0, β
2,0)
は(4.6)
のいずれかである.また
V
n=
t[α
1,n, α
2,n, β
1,n, β
2,n](n = 0, 1, 2, · · · )
と置いたとき,V
nは漸化式A
nV
n= B
n(n = 1, 2, 3, · · · ) (4.15)
A
n=
n − 1 + 2α
1,0− 1 − 1 0
4α
2,0n − 2 + 4α
1,0+ 4β
2,00 4α
2.0− 2β
1,0− 4β
2,0n − 2 − 2α
1,0− 4α
2.0− 4β
2,00 1 n − 1 − 4α
1,0− 4β
2,0
B
n=
−
n
∑
−1 k=1(α
1,kα
1,n−k) − δ
2,nt
0− δ
3,n− 4
n
∑
−1 k=1(α
1,kα
2,n−k) − 4
n
∑
−1 k=1(α
2,kβ
2,n−k) + 2δ
3,n(θ
1+ θ
2)
2
n−1
∑
k=1
(α
1,kβ
1,n−k) + 4
n−1
∑
k=1
(α
2,kβ
2,n−k) − 2δ
3,nθ
22
n
∑
−1 k=1(β
2,kβ
2,n−k) + 4
n
∑
−1 k=1(α
1,kβ
2,n−k)
を満たす.
証明
. (4.14)
でn = 0
とすると− α
1,0= β
1,0− α
1,02+ α
2,0, − 2α
2,0= − 4(α
1,0+ β
2,0)α
2,0,
− 2β
1,0= 2(α
1,0β
1,0+ 2α
2,0β
2,0), − β
2,0= 2β
2,02− β
1,0+ 4α
1,0β
2,0これを解けば
(4.6)
が得られる.また(4.14)
で添え字がn
のものを右辺,そうでないものを左辺に持ってい けば(4.15)
が得られる.命題
4.5. N
は定理4.1
の(2)
の表で与えられるものである.証明
.
やりかたはどれも同じなので代表して(α
1,0, α
2,0, β
1,0, β
2,0) = (1, 0, 0, 0)
のときを示す.(α
1,0, α
2,0, β
1,0, β
2,0)
が(1, 0, 0, 0)
のときdet(A
n)
はdet(A
n) =
¯¯ ¯¯
¯¯ ¯¯
n + 1 − 1 − 1 0
0 n + 2 0 0
0 0 n − 4 0
0 0 1 n − 5
¯¯ ¯¯
¯¯ ¯¯ = (n + 2)(n + 1)(n − 4)(n − 5)
となるので,n = 4, 5
のときパラメータをもつことがわかる.これを踏まえて計算を行う.
n = 1, 2, 3
のときdet(A
n) 6 = 0
と(4.15)
よりV
1, V
2, V
3はV
1=
0 0 0 0
V
2=
− t
0/3 0 0 0
V
3=
(2θ
1+ 12θ
2− 5)/20 2(θ
1+ θ
2)/5
2θ
2θ
2
ということがわかる.また
A
4とB
4はA
4=
5 − 1 − 1 0
0 6 0 0
0 0 0 0
0 0 1 − 1
, B
4=
− t
02/9 0 0 0
だから
rankA
4= rank[A
4B
4] = 3
となるので,A
4V
4= B
4は4 − rankA
4(= 1)
個のパラメータを含む解V
4=
(9a − t
02)/45 0 a a
(a
は任意パラメータ)
を持つことがわかる.同様にすると
A
5とB
5はA
5=
6 − 1 − 1 0
0 7 0 0
0 0 1 0
0 0 1 0
, B
5=
(2θ
1+ 12θ
2− 5)/30 8(θ
1+ θ
2)t
0/15
− 4θ
2t
0/3
− 4θ
2t
0/3
だから
rankA
5= rank[A
5B
5] = 3
となるので,A
5V
5= B
5は4 − rankA
5(= 1)
個のパラメータを含む解V
5=
(6θ
1− 36θ
2− 7)/252 8(θ
1+ θ
2)t
0/105
− 4θ
2t
0/3 b
(b
は任意パラメータ)
持つことがわかる.
n ≥ 6
のとき,det(A
n) 6 = 0
より,V
nにパラメータが入らないことがわかる.これらより
N
は2
となり,定理4.1
の(2)
の表と一致する.以降
(φ)
パターンの解は(q
1φ, q
2φ, p
φ1, p
φ2)
というように表す.命題
4.6. q
1, q
2, p
1, p
2のt = t
0で極を持つ解のローラン展開は次のようになる.(φ)
パターン
α
1,1= a
0, α
2,2= b
0, β
1,2= c
0, β
2,1= d
0と置くと,その他のα
1,k,α
2,k,β
1,k,β
2,kは一意的に定まる.
q
1φ= a
0+ ( − a
02+ c
0+ b
0− t
0)T + (
a
03− 3a
0b
0+ a
0t
0+ θ
1− 1 2
)
T
2+ · · · q
2φ= b
0+ ( − 4a
0b
0+ 4b
0d
0+ 2θ
1+ 2θ
2)T
+2 { 5a
02b
0+ 4a
0c
0b
0+ 2d
02b
0− b
02− 2(θ
1+ θ
2)a
0+ b
0t
0− 2(θ
1+ θ
2)d
0} T
2+ · · · p
φ1= c
0+ (2a
0c
0+ 4b
0d
0− 2θ
2)T
+ { a
02c
0+ 4a
0b
0d
0− 4d
02b
0− c
0b
0+ c
02− 2θ
2a
0− c
0t
0+ 4(θ
1+ θ
2)d
0} T
2+ · · · p
φ2= d
0+ (2d
02+ 4a
0d
0− c
0)T + (6a
02d
0+ 12a
0d
02+ 4d
03− 3a
0c
0− 2d
0t
0+ θ
2)T
2+ · · · (a)
パターン