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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」に つ い て

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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る

「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」に つ い て

山 崎 純 一

MaxWebersPolitischeGemelnschaften

YAMAZAKIJunichi

は じめ に

筆 者 の 問 題 意 識 は,ウ ェ ー バ ー社 会 学 に お け る政 治 論 の 位 置 を解 明 す る こ とで あ る。 政 治 論 の研 究 素 材 とな る ウ ェ ーバ ー の 政 治 関係 の 著 作 は,大 き く 二 つ の系 列 に分 け られ る 。

0つ ,ウ ェ ーバ ー が新 聞 紙 上 な ど で,同 時代 の 国 内外 の 政 治 状 況 を経 験 的 に分 析 した,い わ ゆ る 政 治 評 論 で あ る。 当 時 の ドイ ツ は,ビ ス マ ル ク の 退 陣,ヴ ィル ヘ ル ム2世 治 下 で の 帝 国 主 義 的 な対 外 膨 張 政 策 の推 進,そ の 帰 結 と して の 第1次 世 界 大 戦 の 勃 発 と敗 戦,ド イ ツ 第2帝 政 の 崩 壊 と ワ イ マ ー ル 共 和 制 の 誕 生 と,正 に激 動 の 時 代 を迎 え て い た。 彼 は,時 々刻 々 と変 化 す る 政 治 情 勢 につ い て の膨 大 な評 論 を残 した 。 今 に至 る ま で,そ れ ら時 事 評 論 的 政 治 分 析 か ら,国 民,階 級,官 僚,議 会,民 主 主 義,指 導 者 選 抜 な どの 個 別 テ ー マ に つ い て の ウ ェ ーバ ー の 見 解 や そ れ ら を貫 く全 体 的 政 治 論 を読 み 取 ろ う とす る作 業 が 続 け られ て きた 。 代 表 的 な もの と して は デ ヴ ィ ド ・ビー サ ム の 著 作(Beetham,1974)が あ る 。 ビー サ ム は,ウ ェ ー バ ー の 個 々 別 々 の 政 治 評 論 の 中 に,彼 の 政 治 論 の 特 徴 と して,政 治 権 力 の 基 礎 と して の 社 会 的 支 持 基 盤,つ ま り階 級 分 析 の 重 視 を見 出 して い る1)。

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他 方,ウ ェ ー バ ー は,現 在 『経 済 と社 会 』 と題 され て い る著 作 の 中 に収 録 さ れ て い る 「支 配 の 諸 類 型 」 「支 配 の社 会 学 」 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 な ど の 学 問 的 著 作 も残 して い る 。 特 に,「 支 配 の 諸 類 型 」 と 「支 配 の 社 会 学 」 は, 量 的 に も 『経 済 と社 会 』 の ペ ー ジ 数 の 半 分 弱 とい う大 きな 部 分 を 占め て い る。

ま た,こ の 両 著 作 は,「 正 当性 」 を焦 点 に 支 配 と秩 序 の 一 般 的 ・歴 史 的 類 型 を構 成 し よ う と した雄 大 な試 み で あ り,質 的 に も 「宗 教 社 会 学 」 と並 ん で ウ ェ ー バ ー社 会 学 の 双 壁 を な す とい う こ とが で き る。

そ の た め筆 者 の研 究 課 題 は,具 体 的 に は,経 験 的 政 治 評 論 と学 問 的 著 作 と い う,性 格 の 異 な る 二 系 列 の 政 治 研 究 に通 底 す る政 治 論 を確 定 し,そ れ を ウ ェ ー バ ー社 会 学 の 中 に位 置 づ け る とい う作 業 に な る。

本 稿 は,そ の 第 一 段 階 と して,「 支 配 の 諸 類 型 」 「支 配 の 社 会 学 」 と共 に

『経 済 と社 会 』 に 収 録 され て い る 学 問 的 著 作 の 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に 内包 さ れ て い る 政 治 論 の 特 徴 を探 求 し,そ れ と 『経 済 と社 会 』 の 第2部 で展 開 さ れ て い る ウ ェ ーバ ー 社 会 学 との 関 連 を探 ろ う とす る も の で あ る。

1.「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 論 文 の 性 格

「政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ ト」 は,『 経 済 と社 会 』 の ドイ ツ語 原 文 で わず か6ペ ー ジ,現 在 刊 行 中 の 『マ ッ ク ス ・ウ ェ ーバ ー全 集 』 で も11ペ ー ジ の 小 編 で あ

る2)。 なぜ,こ の小 編 を分 析 す る の か 。

そ の た め に は,『 経 済 と社 会 』 の い わ ゆ る 編 集 問 題 に触 れ な け れ ば な ら な い3)。 従 来 の 経 済 と社 会 』 は,ウ ェ ー バ ー が 編 集 を 引 き受 け た 『社 会 経 済 学 綱 要 』へ の彼 自身 の 寄 稿 を基 に編 集 され た も の で あ る。 しか し,そ の 編 集 は ウ ェ ーバ ー 自身 で は な く,ウ ェ ーバ ー死 後,妻 の マ リ ア ン ネ に よっ て 行 わ れ,第2次 大 戦 後 は,彼 女 の 編 集 方 針 を受 け継 い だ ヨハ ンネ ス ・ヴ ィ ンケ ル マ ン に よ っ て な され た 。 そ の 編 集 方 針 は,ウ ェ ー バ ー が 第1次 大 戦 終 了 後 に 刊 行 を 目指 して 一 部 の校 正 まで 済 ませ た原 稿 を第1部 と し,大 戦 以 前 に執 筆

さ れ た 原 稿 を第2部 と し,前 者 を 「抽 象 社 会 学 」,後 者 を 「具 体 社 会 学 」 と 性 格 づ け る も の で あ っ た 。 こ う して ウ ェ ー バ ー の遺 稿 は,2部 構 成 の 『経 済

と社 会 』 とい う書 物 と して流 通 し,社 会 科 学 の 古 典 とみ な され て きた 。

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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て23

この編 集 方 針 に根 本 的 な疑 義 を示 した の は テ ン ブ ル ック の 「『経 済 と社 会 』 と の 訣 別 」(Tenbruck,1977)で あ っ た。 彼 は,ウ ェ ー バ ー と出 版 社 の 問 に 交 わ され た 未刊 行 の 往 復 書 簡 な ど を根 拠 に,マ リ ア ン ネ と ヴ ィ ンケ ル マ ンに よ る2部 構 成 が,ウ ェ ーバ ー 自身 の構 想 で ない と主 張 した 。 テ ンブ ル ッ ク の 指 摘 は 折 原 浩 や シ ュ ル フ タ ー な ど に よ っ て ほ ぼ検 証 さ れ,『 経 済 と社 会 』 の 編 集 を め ぐ る議 論 は更 に広 が りを見 せ て展 開 され て い る 。

現 状 で は,『 経 済 と社 会 』 の 編 集 問 題 は,大 き く分 け て3点 で あ る。 第1は, す で に述 べ た2部 構 成 問 題 で あ る。2部 構 成 が ウ ェ ーバ ー の 方 針 で ない こ と

は,ほ ぼ定 説 とな っ て い る。 執 筆 時 期 で い え ば,現 在 の 第2部 は1910‑14年 に書 か れ,ウ ェ ー バ ー 自身 が 書 簡 で 原 稿 の 仕 上 が り を述 べ て い るが,大 戦 の 勃 発 に よ っ て 出 版 が 中 止 さ れ た 。 第1部 は,そ の 第2部 を も と に1919‑20年

に改 定 され た もの で あ る。 つ ま り,マ リ ア ン ネ と ヴ ィ ンケ ル マ ンの 編 集 は2 つ の 原 稿 の執 筆 時 期 を逆 転 し,第2部 を第1部 の応 用 と した が,そ れ は先 の 執 筆 の 経 緯 か ら して 適 切 で は な い 。 執 筆 順 で は 第2部,第1部 の 順 で あ り, 両 者 の 関 係 は第2部 が オ リ ジ ナ ル,第1部 が そ の 改 定 版 とす るの が 妥 当 で あ る。 第2部 に限 っ て 言 え ば,そ れ は 第1部 に続 く もの と して で は な く,ま ず は独 立 した論 稿 と して 読 まれ るべ きで あ る。

第2は,タ イ トル 問 題 で あ る。 ウ ェ ー バ ー の 『社 会 経 済 学 綱 要 』 へ の 寄 稿 は,『 社 会 経 済 学 綱 要 』 の 第1巻 『経 済 の 基 礎 』 の 第3部 門 『経 済 と社 会 』 の た め の もの で あ る。 た だ し,正 確 に 言 え ば,『 経 済 と社 会 』 は2部 か ら な

り,ウ ェ ーバ ー の 担 当 は,そ の 第1部 『経 済 と社 会 的秩 序 な らび に社 会 的 勢 力 』 で あ り,第2部 は フ ラ イ ブ ル ク大 学 の ウ ェ ー バ ー の 前 任 者 フ ィ リ ポ ヴ ィ

ッチ の担 当 で あ っ た 。 した が っ て,少 な く と も,1910‑14年 に 書 か れ た 第2 部 の タ イ トル は 『経 済 と社 会 』 で は な く,『 経 済 と社 会 的 秩 序 な らび に社 会

的勢 力 』 とす べ きで あ る。 そ の た め か 第2部 に該 当 す る 『マ ッ クス ・ウ ェー バ ー一全 集 』1/22‑1は 『経 済 と社 会,経 済 と社 会 的秩 序 な らび に社 会 的勢 力 』

との タ イ トル で 出 版 され て い る(MWG,2001)。

第3は,第1部 の 冒頭 に あ る 「社 会 学 の根 本 概 念 」(WG,S.1‑30)で な さ れ た概 念 規 定 が,第2部 に も適 用 され るか 否 か で あ る 。 む しろ 第2部 が 執 筆 され た こ ろ に別 途 発 表 さ れ た 「理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リー」(VYL,S.427‑474)

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の 概 念 規 定 を 第2部 に適 用 す べ き,と の 意 見 が あ る。 例 え ば,両 方 に ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 用 語 が あ る が,「 社 会 学 の根 本 概 念 」 で の ゲ マ イ ン シ ャ フ トは テ ン ニ ー ス 的 な用 法 に近 く,ゲ ゼ ル シ ャ フ トの対 概 念 で あ る 。 他 方,「 理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リー 」 で の そ れ は テ ンニ ー ス 的 な用 法 で 言 う ゲ マ イ ン シ ャ フ トとゲ ゼ ル シ ャ フ トの 両 方 を包 含 した概 念 で あ る 。 『マ ッ クス ・ウ ェ ー バ ー 全 集 』 は 「社 会 学 の根 本 概 念 」 で の概 念 規 定 が 第2部 に適 用 で きな い こ とは 認 め る が,第2部 に ふ さわ しい概 念 規 定 を行 っ た論 文 は存 在 しな い と の立 場

で あ る。 他 方,折 原 浩 は,第2部 は 「理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リー」 の概 念 規 定 に よっ て こそ 理 解 で きる と主 張 して い る。 第2部 に含 ま れ る論 稿 の一 つ 一 つ を対 象 とす る折 原 の 綿 密 な 内容 分 析 は,彼 の 主 張 に説 得 力 を与 え て い る4)。

「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 は 『経 済 と社 会 』 の 第2部 に属 す る 小 編 で あ る。

先 に触 れ た よ う に,こ の 第2部 は1910‑14年 に執 筆 され,全9章 で 構 成 され て い る 。最 後 の 第9章 が 全 体 の ペ ー ジ数 の4割 近 くを 占 め る 「支 配 の 社 会 学 」 で あ り,「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」は 第8章 と して そ の 直 前 に あ る。 こ の章 立 て や 章 の名 称 もウ ェ ーバ ー 自 身 の もの で あ る との保 証 は な い 。 た だ し,1914 年,『 社 会 経 済 学 綱 要 』 の 第1巻 『経 済 の 基 礎 』 の 第1・2部 門 が 出 版 さ れ た

時 に,ウ ェー バ ー は そ れ に続 く第3部 門 『経 済 と社 会 』 以 下 の プ ラ ン を発 表 して い る 。 そ の プ ラ ンに よ れ ば,現 在 の 第2部 に該 当 す る部 分 は,「1.社 的秩 序 の カ テ ゴ リー,経 済 と法 の 原 理 的 関 係,団 体 の 経 済 的 関 係 一般,2.家 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト,オ イ コス お よ び 経 営,3.近 隣i団体,氏 族,ゲ マ イ ンデ, 4.種 族 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト関 係,5.宗 教 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト,宗 教 の 階 級 的 被 制 約 性,文 化 宗 教 と経 済 工 一 トス,6.市 場 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト形 成,7.政 団 体,法 の 発 展 条 件,身 分,階 級,党 派,国 民,8.支 配 」 と な っ て い る (W(㍉SXXVL)5)。7.の 「法 の発 展 条 件 」 が 第2部 で は 「第7章 法 社 会 学 」 とな っ て 繰 り上 が る な ど,若 干 の 異 動 は あ る が,14年 の プ ラ ン と現 在 の 第2 部 とは 大 筋 で は 違 い は な い 。

ま た,「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 の執 筆 時 期 で あ る が,『 マ ック ス ・ウ ェー バ ー 全 集 』 の 「編 集 報 告 」 に よれ ば,時 期 の正 確 な特 定 は不 可 能 で あ る が,

1910年 ご ろ執 筆 の 「勢 力 威 信 と 国民 感 情 」 と 「内容 的 に密 接 な 関連 にあ る こ とか ら,成 立 が 時 間 的 に近 い もの で あ る こ とが 分 か る」(MWG,S.200),ま

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た,ウ ェ ーバ ー は,1912年 か13年 に こ の テ キ ス トを改 定 し始 め た が,成 功 し な か っ た こ と,「 こ の テ キ ス トは,ゲ マ イ ン シ ャ フ トに 関 す る他 の す べ て の テ キ ス トよ り も支 配 の社 会 学 に近 い と ころ に あ る」(MWG,S.201)と あ る。

ヴ ィ ンケ ル マ ン編 集 経 済 と社 会 』 の 第2部 は,そ の 章 立 て か ら明 らか な よ うに,ウ ェ ーバ ー が 最 初 に 手 が け た 体 系 的 な社 会 学 構 築 の 試 み とい え る 。 家 ゲ マ イ ン シ ャ フ トに始 ま り,近 氏 族,種 族 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト}宗 教 ゲ マ イ ンシ ャ フ ト,市 場 ゲ マ イ ン シ ャ フ トか ら政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トを経 て 支 配 に い た る流 れ は,家 か ら市 場 ま で の ど ち らか と言 え ば 実 在 的 集 団 と,「 支 配 」 とい う普 遍 的 な構 造 形 式 との か な り性 格 の 異 な っ た もの か ら構 成 され て い る と言 え よ う。 そ の 際 に,そ の 「支 配 」 の 直 前 に あ る 「政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ ト」 は,支 配 とい う構 造 形 式 を そ の存 在 の 根 拠 にす る もの で あ る 。 こ の

「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 とい う小 編 は,そ れ 以 前 に 言 及 さ れ て い る家 な ど の 様 々 な ゲ マ イ ン シ ャ フ トを 「支 配 」 に つ な ぐ結 節 点 とい う こ とが で き る。

い か な る意 味 で の 結 節 点 で あ る の か,そ れ を以 下 の 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」

の 検 討 で 明 らか に して い きた い 。

2.「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 の定 義

「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 論 文 は,次 の よ う な 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 定 義 で 始 ま っ て い る 。 「我 々 が 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト とい う こ と で理 解 す る の は,通 常 は 武 力 で あ る物 理 的 暴 力 を行 使 す る態 勢 を整 え る こ とで,『 あ る領 域 』 と持 続 的 か 一・時 的 か を 問 わず そ こ に在 住 す る人 間 の行 為 を,秩 序 あ る 支 配 下 に お くよ う に,関 係 者 の ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 が 行 わ れ る よ う な ゲ マ イ

ン シ ャ フ トで あ る 」(MWG,S.204)。 こ こ で い う ゲ マ イ ン シ ャ フ トとは,前 述 の 『経 済 と社 会 』 の 編 集 問 題 の 第3で 言 及 した よ う に,ゲ ゼ ル シ ャ フ トの 対 概 念 で は な く,『 理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リー 』 執 筆 段 階 で の ウ ェ ー バ ー に特 有 な概 念 で あ り,テ ンニ ー ス の 用 法 とは 異 な り,ゲ マ イ ン シ ャ フ トとゲ ゼ ル シ ャ フ トの 両 方 を含 意 して い る。 い わ ば 共 同 体 と社 会 の 両 方 を意 味 す る独 特 な概 念 で あ る た め,本 論 文 で は,あ え て 和 訳 せ ず,ゲ マ イ ン シ ャ フ トとい う 原 語 をそ の ま ま用 い て い る 。 な お,こ の箇 所 は社 会 と理 解 で き よ う6)。

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こ の 定 義 か ら は,方 法 論 的個 人 主 義 とい わ れ る ウ ェ ー バ ー の基 本 的 発 想 を 読 み 取 る こ とが で き る。 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トと は 「関 係 者 の ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 が 行 わ れ る よ う な ゲ マ イ ン シ ャ フ トで あ る」 とい う よ う な 一 見 迂 遠 な 記 述 に も,制 度,社 会,集 団 な ど を実 体 化,固 定 化 せ ず,あ くま で 行 為 の プ ロ セ ス か ら構 成 され る動 態 的 な もの と して捉 え よ う とい う視 点 が 貫 か れ て い る。

折 原 の 的 確 な要 約 に よっ て,あ らた め て 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 定 義 を示 せ ば,① 領 域 と住 民 を,② 物 理 的 暴 力 行 使 の態 勢 を と との え る こ とで,③ 序 あ る 支 配 下 に お こ う とす る,ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 が構成 す る ゲ マ イ ン シ

ャ フ トとい う こ と に な る(折 原,1996b,161頁)。 ウ ェ ー バ ー に よれ ば,政 ゲ マ イ ンシ ャ フ トの 「概 念 の ミニ マ ム は,あ る領 域 とそ の 住 民 に対 す る秩 序 あ る 支 配 を暴 力 に よ っ て 確 保 す る こ と」(MWG,S.204)で あ る 。 つ ま り, そ の 定 義 の 中核 に は,暴 力 を背 景 に した支 配 が あ る と言 え よ う。

しか し,ウ ェ ー バ ー に よれ ば,こ う した 意 味 で の 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは

「昔 か ら ど こ に で もあ っ た もの で は な い」(ibid.)。 例 え ば,家 ゲ マ イ ン シ ャ フ トや 近 隣 ゲ マ イ ン シ ャ フ トや 経 済 的 利 害 に よ る 団 体 が 暴 力 で 外 敵 を防 ぐ と い う任 務 を果 た して い る場 合,そ こ に は先 ほ どの 「概 念 の ミニ マ ム」 を専 門 に担 うゲ マ イ ンシ ャ フ トとい う意 味 で の政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは存 在 しな い 。 む しろ,外 部 に対 す る暴 力 行 使 や 防 衛 は氏 族 や 近 隣i団体 や 戦 士 集 団 に委 ね ら れ,内 部 の 領 域 支 配 や 人 間 関 係 の 規 制 は宗 教 勢 力 な どに任 され て い た 。 つ ま り,暴 力 を背 景 に した 支 配 を主 な機 能 とす る政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは,太 の 昔 か ら存 在 す る 普 遍 的 な もの で は な い と言 う こ とが で き る。

そ の 一 方 で,政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トの あ り方 は さ ま ざ ま で あ る 。 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 成 立 して い る場 合 に,そ れ を構 成 す る人 々 の行 為 が,暴 力 に よる 領 域 と住 民 へ の 支 配 の他 に,ど の よ う な 内 容 に 向 か うか は多 岐 に分 か れ る。 どの 内 容 を主 とす るか で,政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トは,「 略 奪 国 家 」 か ら

「福 祉 国家 」 「法 治 国 家 」 「文 化 国 家 」 と多 様 な形 を とる 。 確 か に,政 治 団 体 に お い て は7),そ れ を構 成 す る 「ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 の 対 象 で な か っ た も の は,お よ そ こ の 世 に は 何 一・つ な い 」(MWG,S.205)が,実 際 の と こ ろ, 行 為 は領 域 支 配 に制 限 され る こ とが しば しば で あ っ た。

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マ ッ ク ス ・ ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て27

今 日の 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは ア ン シ ュ タル ト,つ ま りそ こに 誕 生 した者 が 強 制 的 に メ ンバ ー と され る集 団 で あ る 。 そ の た め,メ ンバ ー は 政 治 権 力 の 行 使 対 象 で あ り,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 求 め る義 務 の履 行 を迫 られ る。 メ ンバ ー は義 務 履 行 要 求 の 背 後 に物 理 的 強 制 力 が 控 え て い る の を認 識 して い る た め に,そ の要 求 に 従 わ ざ る を え な い 。 また,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは 内外 の 関 係 者 の 生 命 と行 動 の 自由 を危 機 に 陥 れ た り,無 に帰 した りす る ほ どの 強 制 力 を有 して い る。 そ の た め個 々 人 は 究 極 的 に は ゲ マ イ ン シ ャ フ トの た め に 命 を賭 す る こ とま で 求 め られ る。 「そ の こ とは 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トに独 特 の パ トス を も た ら し,永 続 的 な 感 情 の 基 礎 を う ち た て る」(MWG,S.206)。

生 死 を賭 した 政 治 的 闘 争 な どの 共 同 の 政 治 的 運 命 は 「追 憶 の 共 同体 」 と結 び つ い て,文 化 ・言 語 ・血 統 の ゲ マ イ ン シ ャ フ ト以 上 の 影 響 力 を持 ち,「 国 民 感 情 」 に決 定 的 な特 徴 を与 え る。

以 上 の よ う に,ウ ェ ーバ ー は政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トを定 義 して い る。 彼 の 定 義 は暴 力 を背 景 に した支 配 を 中核 と して い るが,そ の 支 配 を主 とす る 政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トを普 遍 的 存 在 と して捉 え て い な い 。 む しろ,家 や 近 隣iや氏 族 な どの ゲ マ イ ン シ ャ フ トが そ の 機 能 を果 た して きた こ と を指 摘 す る こ とで, 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トとい う存 在 の歴 史 性 あ るい は 人 為 性 を予 想 させ て い る。

一 方,政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トは,お よそ 人 間行 為 が対 象 とす るす べ て の 内 容 を包 含 す る た め に,多 様 な形 態 を と る。 こ の点 は,後 年 の 「社 会 学 の根 本 概 念 」 で,国 家 をそ の 内 容 で は 定 義 で き な い と して,暴 力 に よ る支 配 とい う 形 式 で 定 義 して い る 点 に 通 じて い る(WG,S.30,89頁)。 また,ア ン シ ュ タ ル トと して の 政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トは,物 理 的 強 制 力 を背 景 に そ の メ ンバ ー に生 命 の 犠 牲 を要 求 し,政 治 的 運 命 の 共 同 性 に よ っ て 「追 憶 の 共 同体 」 を創 出 し,「 国民 感 情 」 の 形 成 に決 定 的 な 影 響 を及 ぼ す 。 こ う し た,議 論 の 運 び 方 に は,一 見 自然 必 然 的 で 普 遍 的 な 存 在 と して 現 象 す る政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ

トや 国 民 感 情 を,強 制 力 に よ る 人為 的 な形 成 物 と捉 え る視 点 が 貫 通 して い る。

3.「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャフ ト」 の 特 異 性

前 述 の よ う に,暴 力 を背 景 に した 支 配 を構 造 形 式 と し,そ の メ ンバ ー に 生

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命 を賭 す こ と を求 め る ゲ マ イ ン シ ャ フ トは,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トだ け で は な い。 氏 族 や 宗 教 ゲ マ イ ン シ ャ フ トも メ ンバ ー に血 讐 義 務 や 殉 教 義 務 を求 め る。 ウ ェ ー バ ー は,こ れ らゲ マ イ ン シ ャ フ トと政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 相 違 を ど こ に見 出 して い た の で あ ろ うか 。

ウ ェー バ ー に よれ ば,両 者 の 相 違 は,ま ず は量 的 な もの に過 ぎな い 。 社 会 学 的考 察 に と っ て,両 者 を分 か つ もの は,「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 広 範 な 国 土 と海 域 に対 す る堅 固 な支 配 勢 力 と して,と くに持 続 的 に か つ 公 然 と存 在 す る とい う事 実 に す ぎ な い 」(MWG,S.207)。 こ こ で 指 摘 さ れ て い る の は, 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの ほ うが,他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トに 比 べ て,よ り広 範 で 堅 固 で 持 続 的 な支 配 勢 力 で あ る にす ぎな い とい う事 実 で あ る。 そ の 意 味 で は,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トと同質 の 支 配 勢 力 で あ り, そ こ に は量 的優 位 しか な い 。 特 に,過 去 に お い て は,他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ ト が 強 力 な支 配 力 を発 揮 して い た た め,政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トは他 の ゲ マ イ ン

シ ャ フ トに対 して 特 権 的 地 位 を 占 め て い な い 。 「こ の こ と は過 去 に さか の ぼ る ほ ど,ま す ます そ うで あ る」(ibid.)。

こ こで,ウ ェ ー バ ー は歴 史 的 視 点 を導 入 す る こ とで,両 者 の 質 的 相 違 を探 求 し よ う とす る 。 ウ ェ ーバ ー に よれ ば,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの メ ンバ ー が,

自分 が 所 属 す る 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トと他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 量 的 に で は な く,質 的 に違 う と感 じる の は,次 の よ うな場 合 で あ る。 つ ま り,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トを構 成 す る 「ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 が,直 接 的 脅 威 に 遭 遇 した 場 合 にだ け燃 え 上 が る単 な る 一 時 的 行 為 か ら,継 続 的 で ア ン シ ュ タル ト的 な ゲ ゼ ル シ ャ フ ト結 成 態 へ と発 展 す る時 で あ り,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 強 制 手 段 が,そ の 適 用 が 合 理 的 で決 疑 論 に秩 序 づ け られ る と と もに,=激 烈 で 実 効 性 を持 つ よ う に な る時 で あ る」(ibid.)。 ア ンシ ュ タル トとは,国 家 や 教 会 の よ う に,一 定 の 人 々 を本 人 の意 思 と は 関係 な く強 制 的 に メ ンバ ー と し,合 理 的 に制 定 され た秩 序 に従 わ せ る 団 体 を い う。

政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの メ ンバ ー が 質 的 相 違 を 感 じるの は,そ こで展 開 さ れ る社 会 行 為 が ア ン シ ュ タ ル ト的 な 性 格 を帯 び,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 強 制 手 段 の 適 用 が 合 理 的 に組 織 化 さ れ,そ の 実 効 性 が 高 ま る時 で あ る とい う。

言 い 換 え れ ば,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの メ ンバ ー に他 の ゲ マ イ ンシ ャ フ トと

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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て29

は 質 的 に異 な る独 自性 を 感 得 させ る の は,合 理 的組 織 化 に よ る ア ン シ ュ タ ル ト的性 格 の 強 化 で あ る。 ア ン シ ュ タ ル ト的 性 格 の 強 化 は多 くは 近 代 社 会 で 起 こ る。 い わ ば,ウ ェ ー バ ー は近 代 化 が 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの メ ンバ ー に質 的独 自性 の認 識 を もた らす とい っ て い る の で あ る 。 実 際,こ の 直 後 に ウ ェー バ ー は 近代 的 政 治 団 体 に言 及 す る。

ウ ェ ーバ ー に よれ ば,政 治 団体 が 近 代 的 で あ る こ との 証 は,そ の政 治 団体 が あ る 威 信 を備 え て い る こ と で あ る 。 そ の 威 信 を政 治 団 体 に 与 え る の は, 人 々の 間 に広 が っ て い る特 有 の信 仰 で あ る。 そ の信 仰 とは,政 治 団体 が そ の 団体 や 人 々 の 行 為 を秩 序 づ け規 制 す る こ と を,適 法 と信 じる 「適 法 性 へ の 特 別 な信 仰 」(MWG,S.207)で あ る 。 こ の 信 仰 は,政 治 団 体 が 振 る う生 殺 与 奪 を含 む 物 理 的 強 制 に も及 ぶ 。 さ ら に,こ の信 仰 は,特 定 の 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トつ ま り国家 だ け が 適 法 的 な物 理 的 強 制 を執 行 で きる とみ な され る まで に 高 ま る こ とが あ る。

この よ う な信 仰 が 高 ま る の は,成 熟 した 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ で あ る 国 家 が, 物 理 的 強 制 力 を執 行 し,威 嚇 す る た め に,決 疑 論 的 法 規 の シ ス テ ム つ ま り

「法 秩 序 」 を発 展 させ る か ら で あ る 。 こ の 決 疑 論 的 法 規 の シ ス テ ム が,政 ゲ マ イ ンシ ャ フ トに 「正 当性 」 を与 え る 。 また,今 日で は,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トだ けが 「法 秩 序 」 の正 規 の 創 造 者 で あ る。 なぜ な ら,今 日で は,政 ゲ マ イ ンシ ャ フ トが,物 理 的 強 制 に よ っ て秩 序 を遵 守 させ る機 能 を独 占 して い るか らで あ る。

以 上 の 議 論 に よれ ば,ウ ェ ーバ ーが 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ と他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トを質 的 に分 か つ と考 え た もの は,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ に対 して 「正 当 性 」 を付 与 す る 「適 法 性 へ の 信 仰 」 の存 在 で あ る。 こ の信 仰 は,近 代 化 の 中 で,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フが 合 理 的 組 織 化 に よ る ア ン シ ュ タ ル ト的性 格 を強 化 させ る こ とに根 拠 を持 つ 。 具 体 的 に は,成 熟 した政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ と して の 国家 が,そ の 物 理 的 強 制 力 を執 行 す る た め に,決 疑 論 的 法 規 の シス テ ム つ ま り合 理 的 「法 秩 序 」 を発 展 させ た こ とが,「 適 法 性 へ の信 仰 」 を生 ん だ と い え よ う。

この 議 論 は,明 らか に,支 配 の 要 因 を被 支 配 者 の 側 か らの 正 当性 の付 与 に 求 め,そ の 正 当性 の種 類 に応 じて 支 配 を類 型 化 した 「支 配 の 社 会 学 」 「支 配

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の 諸 類 型 」 を想 起 させ る 。 この 箇 所 で 展 開 され て い る,合 理 的 「法 秩 序 」 の 発 展 に と も な う 「適 法 性 へ の信 仰 」 とは,合 法 的 支 配 に対 応 す る もの で あ る。

そ の 意 味 で,こ の 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 とい う論 稿 は,こ れ に続 く 「支 配 の 社 会 学 」 な どの ウ ェ ー バ ー の 理 論 的 学 問 的 政 治 論 の 前 触 れ と い う こ とが で きる。

4.「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 の 歴 史性

「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 の 定 義 の箇 所 で確 認 し た よ う に,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは暴 力 を背 景 に した 支 配 を 中核 と して い る。 そ の 上 で,今 検 討 した よ う に,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トと質 的 に 異 な る独 自 性 を確 保 す る た め に は,合 理 的 組 織 化 に よ っ て ア ン シ ュ タ ル ト的 性 格 を強 め,

そ の暴 力 的 支 配 が 「正 当 性 」 を得 な け れ ば な らな い 。 しか し,暴 力 的支 配 が

「正 当 性 」 を得 る とい うの は,容 易 な こ とで は な い 。 特 に,組 織 と し て発 動 され る暴 力 を正 当化 す る の は困 難 で あ る。

も ち ろ ん,「 暴 力 的 な ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 は,そ れ 自体 と し て い か に も 原 初 的 な もの で あ る。 家 ゲ マ イ ン シ ャ フ トか ら党 派 ま で,ゲ マ イ ンシ ャ フ ト は メ ンバ ー の利 益 を守 る た め に物 理 的暴 力 に訴 え て きた 。 しか し,政 治 的 地 域 団体 が 正 当 的 な暴 力 行 使 を独 占 し,自 ら を ア ンシ ュ タル トの よ う な体 制 に 合 理 的 に 組 織 す る こ と こ そ は,あ る 種 の 発 展 の 所 産 に ほ か な ら な い 」

(MWG,S.209)。 そ れ で は,い か な る歴 史 的 発 展 が 暴 力 的 支 配 を正 当 化 し, 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トを誕 生 させ た の か 。 そ れ が こ こで の探 求 課 題 で あ る。

ウ ェ ーバ.̲̲̲によれ ば,人 類 初 期 の こ ろ,今 日,国 家 の 主 要 機 能 と考 え られ て い る 立 法,警 察,司 法,各 種 行 政,軍 事 な ど は存 在 しな い か,家,氏 族, 近 隣 市 場 ゲ マ イ ン シ ャ フ トな どの 多 様 な ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 未 分 化 な形 で 担 っ て い た 。 そ の た め,政 治 的 な ゲ マ イ ン シ ャ フ ト行 為 の 一 般 的 内容 と して,

国 内 平 和 の確 保 を あ げ る こ とは で き な か っ た。

暴 力 的 な行 為 に特 有 の 正 当性 が あ る とい う観 念 は,氏 族 で 血 讐 義 務 を果 た す な どの 場 合 に は 当 て は ま る が,外 部 に向 け られ る純 軍 事 行 為 や 内 部 に対 す る 警 察 行 為 に結 びつ くこ と は め っ た に な い 。 こ の観 念 が 最 も当 て は ま りや す

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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て31

い の は,あ る地 域 団体 の伝 統 的 支 配 領 域 が 外 部 か ら攻 撃 を受 け,メ ンバ ー 全 員 が 戦 時 総 動 員 方 式 で武 器 を取 っ て 防衛 に 立 ち上 が る時 で あ る。 特 に,そ よ う な不 慮 の事 態 へ の合 理 的備 えが,特 定 の 正 当 性 を持 つ とみ な され る政 治 団 体 を生 む こ とが あ る。

今 日の 合 理 的 国 家 が 形 成 され る まで の 経 済 発 展 段 階 で,幾 多 の 侵 略 戦 争 が 行 わ れ て きた 。 侵 略 戦 争 の 多 くは,ゲ マ イ ンシ ャ フ ト内 の好 戦 的 な メ ンバ ー が 民 兵 と して あ くまで 私 的 な つ な が りで 略 奪 行 を組 織 して,行 わ れ る の が 常 で あ っ た。 そ の よ う な暴 力 行 使 に は正 当 性 が ほ とん ど認 め られ な か っ た 。 暴 力 行 使 が 正 当 性 を得 る の は,裏 切 りや 不 服 従 や 臆 病 で 結 盟 に反 抗 す る 同 輩 に 対 す る暴 力 行 使 の 場 合 だ け で あ っ た 。

しか し,そ の よ う な 同輩 へ の暴 力 行 使 は一 時 的 に結 成 され る組 織 で 行 わ れ て い た にす ぎな い 。 恒 常 的 な構 造 を備 え た組 織 が 暴 力 を行 使 し,そ れ が 正 当 性 を獲 得 す る に は,い くつ か の 発 展 段 階 を経 な け れ ば な ら な い 。 因 み に,こ

こ で言 う恒 常 的 な構 造 を備 え た 組 織 と は,軍 事 力 の 養 成 と戦 争 を職 業 と して 推 進 し,広 範 な 人 々 に服 従 を 要 求 で き る強 制 装 置 に まで 発 展 した もの で あ る。

一 時 的 な 軍 事 集 団 か ら恒 常 的 持 続 的 な 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トへ の発 展 を,

ウ ェ ー バ ー は3つ の段 階 を経 る もの と して,次 の よ う に描 く。

第1段 階 で は,0時 的 臨 時 的 な 軍 事 集 団が 結 成 され る。 そ の 結 成 の 契 機 と して は,具 体 的 に は,氏 族 内 で 血 讐 義 務 を果 たす た め に結 成 され る もの,カ リ ス マ 的 な リー ダ ー の 下 に装 備 自弁 の 民 兵 が 馳 せ 参 じる略 奪 行 な どが 考 え ら れ て い る。

第2段 階 で は,そ の よ う な 一 時 的 臨 時 的 な軍 事 集 団 が 持 続 的 な戦 士 集 団 に 移 行 す る。 持 続 的 な戦 士 集 団 の 例 と して,世 界 中 に多 様 な 形 で 存 在 す る男 子 集 会 所 「メ ンナ ーハ ウ ス 」 が 挙 げ られ る。 そ の メ ンバ ー で あ る 「男 子 は 一・ の 年 齢 に達 して 始 め て 家 庭 生 活 に 入 る が,(中 略)そ の 時 ま で,彼 は全 身 全 霊 を も っ て 戦 士 同 盟 に所 属 す る。 彼 ら は妻 や 家 ゲ マ イ ン シ ャ フ トか ら隔 離 さ れ,共 産 主 義 的 団体 の 中 で 戦 利 品 や 軍 税 で 生 活 す る」(MWG,S.211)。 「戦 争 遂 行 の ほか に,彼 らに ふ さ わ しい 仕 事 は,ご く しば しば彼 ら だ け に保 有 が 認 め られ て い る武 器 の 手 入 れ と製 造 で あ る に 過 ぎ な い 」(ibid.)。 ま た,「 そ の よ う に組 織 され た 戦 士 た ち は,部 外 者,特 に婦 女 子 の継 続 的 略 奪 に よ る経

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済 的地 位 を確 保 す る た め に,宗 教 的 な色 彩 を帯 び た威 嚇 手 段 を弄 す る こ と も あ る」(MWG,S.212)。 家 ゲ マ イ ン シ ャ フ トか らの 隔 離 宗 教 的 な色 彩 を帯

び る とい う意 味 で,こ の持 続 的 な戦 士 集 団 は非 日常 的 な 性 格 を持 つ 。

第3段 階 で は,そ の よ うな非 日常 的 な 「戦 士 集 団が,地 域 ゲ マ イ ンシ ャ フ トとい う秩 序 だ っ た 持 続 的 団体 に い わ ば 再 編 入 され,そ の こ とで 政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トが 創 出 され て 始 め て,こ の 持 続 的 団 体 と戦 士 集 団 の特 権 的 地 位 が 暴 力 行 使 の 正 当 性 を獲 得 す る」(MWG,S.213)。 つ ま り,持 続 的 な地 域 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが,先 の 非 日常 的 な戦 士 集 団 を再 編 入 して,自 らの 「強 制 装 置 」 と して 再 編 成 す る こ とで 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トとな る段 階 で あ り,そ の 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 正 当 な暴 力 行 使 を独 占す る段 階 で もあ る 。

こ の 第3段 階 の 過 程 は徐 々 に進 む 。 持 続 的 な地 域 ゲ マ イ ンシ ャ フ トは,私 的 な略 奪 に参 加 して い た戦 士 を 自身 の う ち に取 り込 み,そ の 暴 力 行 為 を抑 制

し,自 らの 「強 制 装 置 」 と して 再 組 織 しな け れ ば な ら な い。 地 域 ゲ マ イ ン シ ャ フ トに よ る私 的 な暴 力 行 為 の 抑 制 は,次 の よ う な過 程 を 経 て完 成 され て い く。

最 初 に,そ の暴 力 行 為 が ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 軍 事 的利 害 に直 接 に 反 す る場 合 に 限 っ て,ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 私 的 暴 力 行 為 を抑 制 す る段 階 が あ る。 具 体 的 に は,13世 紀,フ ラ ンス 王 が 外 戦 中 に臣 下 間 の 「私 闘 」 を抑 圧 した 例 が あ げ られ て い る。 や が て,そ の よ うな,一 時 的 な抑 制 は,「 永 続 的 な 国 内 公 安 令 や あ ら ゆ る係 争 を 裁 判 官 の 強 制 仲 裁 に 強 制 的 に 委 ね る とい う形 」(MWG, S.214)に 取 っ て代 わ られ,「 こ の裁 判 官 が,血 塗 られ た 復 讐 を合 理 的 に整 備

され た刑 罰 へ と変 化 させ,反 目や 賠 償 行 為 を合 理 的 に 整 備 さ れ た 訴 訟 に変 化 させ る」(ibid.)の で あ る。 「こ う して,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは そ の 強 制 装 置 の た め に正 当 的 な暴 力 行 使 を独 占 し,徐 々 に権 利 保 護 の た め の ア ンシ ュ タ ル トに 変 わ っ て い く」(ibid.)。

ウ ェ ー バ ー は,こ の プ ロ セ ス を支 持 す る もの と して,宗 教 勢 力 と市 場 関係 者 を あ げ て い る 。 い ず れ も,政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トが 私 的 な暴 力 行 為 を抑 制 し,正 当 な暴 力 行 使 を独 占す る こ とで 実 現 す る平 和 の増 大 か ら,利 益 を得 る 集 団 で あ る 。 宗 教 勢 力 に と っ て,平 和 の拡 大 は,大 衆 を コ ン トロ ー ル す る の に 好 都 合 な環 境 で あ る 。 しか し,「 経 済 的 観 点 か ら見 て,平 和 の 浸 透 に 利 害

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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て33

関心 を持 つ 者 は,何 とい っ て も市 場 の 利 害 関 係 者,特 に都 市 市 民 層 で あ る 」 (ibid.)。市 場 の 拡 大 は,村 落 な どの伝 統 的 な ゲ マ イ ン シ ャ フ トを解 体 し,メ ンバ ー を利 害 関 係 者 と し,そ れ らの ゲ マ イ ン シ ャ フ トが もっ て い た暴 力 行 使 の 正 当 性 を解 体 す る。

そ れ ゆ え に,増 大 す る平 和 の 浸 透 と市 場 の 拡 大 に 平 行 して,「1.政 治 団 体 に よ る 正 当 的暴 力 行 使 の独 占 と,同 時 に2.そ れ を行 使 す る た め の 規 則 の 合 理 化 が 行 わ れ る 。1.は あ らゆ る物 理 的暴 力 の 正 当 性 の 最 終 的源 泉 で あ る 国 家 の 近 代 的概 念 が そ の 究 極 の 形 態 で あ り,2.は 正 当 的 法 秩 序 の概 念 が そ の 究 極 の 形 態 で あ る」(MWG,S215)。

これ ま で の ウ ェ ー バ ー の 記 述 か ら判 る こ とは,暴 力 的 支 配 を正 当化 し,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トを誕 生 させ た歴 史 的発 展 とは,現 象 的 に は,ゲ マ イ ン シ ャ フ トが,一 時 的 な 軍 事 集 団 か ら発 展 した持 続 的 で 非 日常 的 な 軍 事 集 団 を 自 身 の 内 に編 入 し,強 制 装 置 と して再 編 成 す る プ ロセ ス で あ っ た 。 そ の 内 実 は, ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 私 的 な暴 力 行 使 を抑 制 し,正 当 な暴 力 行 使 を独 占す る こ

とで もた ら した 平 和 の 増 大 が,宗 教 勢 力 や 市 場 関 係 者 の 利 害 と一 致 し,そ れ らの 支 持 の も と に 政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トと して の 実 質 を獲 得 して い くプ ロ セ ス と言 う こ とが い え よ う。

先 に確 認 した よ う に,政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トの独 自性 は 「適 法 性 へ の信 仰 」 にあ り,そ の 「適 法 性 へ の 信 仰 」 の根 拠 とな っ た の は合 理 的 「法 秩 序 」 の 整 備 で あ る。 こ こ で の 記 述 は,こ の議 論 を 一 歩 進 め て,そ の 合 理 的 「法 秩 序 」

の 整 備 が 可 能 に な っ た 要 因 は,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トに よ る平 和 の拡 大,そ の 平 和 か ら利 益 を得 る宗 教 勢 力 や 市 場 関 係 者 との 利 害 の 一 致,特 に市 場 拡 大

とい う経済 的要 因 で あ る,と して い る。 い わ ば,こ こで の ウ ェー バ ー は 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 誕 生 に あ た っ て の 経 済 的 要 因 の 存 在 を確 認 す る こ とで, 政 治 と経 済 の 関連 性 とい う近 代 社 会 の誕 生 に あ た っ て の 大 テ ー マ に触 れ て い る と言 え よ う。

お わ り に

ウ ェ ーバ ー社 会 学 の 基 本 的 方 法 論 は,先 述 の よ う に,方 法 論 的 個 人 主 義 と

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い わ れ て い る。 そ れ は制 度 や 集 団 の 実 体 化 を 回避 し,そ れ らを行 為 の プ ロセ ス と して把 握 し よ う とす る動 態 的方 法 論 とい え よ う。 本 稿 で 検 討 した 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に も,そ れ は貫 か れ て い る。

「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 が 収 録 され て い る 『経 済 と社 会 』 第2部 は,家 マ イ ンシ ャ フ ト,近 隣 氏 族,種 族 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト,宗 教 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト,市 場 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト,,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トY支 配 の社 会 学 の順 で構 成 さ れ て い る。 そ れ は ウ ェ ーバ ー が 描 い た社 会 学 体 系 の 最 初 の ス ケ ッチ と言 え る。

政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トは,そ れ以 前 の 家 か ら市 場 ゲ マ イ ンシ ャ フ まで と 同 じ く実 体 的 集 団 で あ り,国 家 を究 極 の形 態 と して い る 。 しか し,先 に見 た ウ ェー バ ー の 記 述 に よれ ば,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが独 立 の ゲ マ イ ン シ ャ フ ト と して現 れ る の は近 代 の こ とで あ る。 近 代 以 前 は,暴 力 を背 景 に した 支 配 と い う政 治 ゲ マ イ ンシ ャ フ トの機 能,あ る い は そ の機 能 を軸 とす る構 造 形 式 は, 家 を は じめ とす る そ の 他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トが 担 っ て い た 。 つ ま り,支 配 は

あ らゆ る ゲ マ イ ン シ ャ フ トに貫 徹 して お り,そ の 意 味 で,す べ て の ゲ マ イ ン シ ャ フ トは 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トで もあ っ た 。 この よ うに 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 論 文 は,そ れ 以 前 の章 で 実 体 的 集 団 と して 把 握 され た家 ゲ マ イ ン シ ャ フ トか ら市 場 ゲ マ イ ン シ ャ フ トま で を,支 配 とい う機 能 及 び形 式 で捉 え 直

した もの とい え よ う。

『経 済 と社 会 』 第2部 に 占 め る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 とい う章 の 意 味 は,そ れ以 前 の 章 で展 開 さ れ て い る家 や 近 隣iなどの ゲ マ イ ン シ ャ フ トの 実在 性 と,そ れ 以 降 の 「支 配 の 社 会 学 」 に あ る支 配 とい う機 能 及 び形 式 が 持 つ 抽 象 性 を媒 介 す る結 節 点 と言 え る。 こ の媒 介 は,家 や 近 隣…な どの ゲ マ イ ン シ ャ フ トを支 配 とい う機 能 や 形 式 で捉 え な お す こ とで,そ れ らの 可 塑 性 や 権 力 性 を明 らか に,支 配 とい う機 能 や 形 式 に各 種 ゲ マ イ ン シ ャ フ トの具 体 性 を与 え る こ とで,そ の 内 容 を豊 か に して い る。

そ の よ う な媒 介 が 可 能 に な っ た の は,ウ ェ.一バ ー に お い て,政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが,他 の ゲ マ イ ン シ ャ フ トも多 か れ少 な か れ 分 有 す る支 配 とい う機 能 及 び形 式 を,存 在 の 中核 に据 え た歴 史 的 存 在 と して,構 想 さ れ て い る か ら で あ る。

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マ ッ ク ス ・ ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て35

『経 済 と社 会 』 に収 録 さ れ て い る 「支 配 の 社 会 学 」 「支 配 の 諸 類 型 」 「宗 教 社 会 学 」 な ど に見 られ る よ うに,ウ ェ ーバ ー の社 会 学 の特 徴 は,具 体 的記 述 と抽 象 的 法 則 を媒 介 す る類 型 化 に あ る とい え る。 この 類 型 化 と,「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 で展 開 さ れ て い る歴 史性 の 強 調 と方 法 論 的個 人 主 義 が どの よ

うに 関 連 す る の か,そ れ が 「支 配 の社 会 学 」 に始 ま る本 格 的 な 政 治 論 の学 問 的 著 作 を 読 み解 くた め の 今 後 の課 題 で あ る。

〈注>

1)ビ ー サ ム の 他 に,ウ ェ ー バ ー の 政 治 評 論 を 駆 使 し た 研 究 者 に ヴ ォ ル フ ガ ン グ ・J・ モ ム ゼ ン が い る(Mommsen,1974)。 モ ム ゼ ン は,そ れ・

ら の 政 治 評 論 を 詳 細 に 分 析 す る こ とで,ウ ェ ー バ ー の ナ シ ョナ リ ス ト, 権 力 主 義 的 帝 国 主 義 者 と し て の 側 面 を 指 摘 し,そ れ ま で の ワ イ マ ー ル 民 主 主 義 の 父,リ ベ ラ ル な 民 主 主 義 者 と い う ウ ェ ー バ ー 像 に 果 敢 に 挑 戦 し た 。 彼 の 研 究 は い わ ゆ る モ ム ゼ ン ・シ ョ ッ ク と も い う べ き 反 響 を 呼 び,激 し い 論 争 が 繰 り広 げ ら れ た 。 そ れ に つ い て は,牧 野 雅 彦 の 綿 密 な研 究(牧 野1993)が 参 考 に な る 。

2)「 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」PolitischeGemeinschftenは 『経 済 と社 会 』 の ドイ ツ 語 原 文 で6ペ ー ジ(WG,S.514‑519),『 マ ッ ク ス ・ウ ェ ー一バ ー一全 集 』 で11ペ ー ジ(MWG

,S.204‑215)で あ る 。 な お,『 経 済 と社 会 』 収 録 の 従 来 の 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 は27ペ ー ジ,6節 か ら な っ て い る が,『 マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー 全 集 』 で は,そ れ が 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」,「 勢 力 威 信 と 国 民 感 情 」,「 『階 級 』,『 身 分 』,『 党 派 』」

に3分 割 さ れ て い る 。 こ の3つ の 文 章 は そ れ ぞ れ 独 立 し て 論 ず べ き 内 容 を 含 む も の と 考 え,本 稿 で は 『マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー 全 集 』 の 立 場 を と る 。

3)『 経 済 と社 会 』の 編 集 問 題 に つ い て は,テ ン ブ ル ッ ク(Tenbruck,1977), 向 井 守(向 井 他,1979),シ ュ ル フ タ ー(Schluchter,1991),折 原 浩

(折 原,198&1996a,1996b),シ ュ ル フ タ ー と 折 原 浩(シ ュ ル フ タ ー, 折 原,2000)を 参 照 。

4)折 原 浩 は 『経 済 と社 会 』 第2部 の 再 構 成 を 目 的 と した0連 の 論 文 を 著

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し て い る 。 折 原 に よ れ ば,現 在 の 第2部(第1次 大 戦 以 前 に 書 か れ た 旧 稿)は,短 い 概 念 的 導 入 部 と 浩 潮 な 具 体 的 叙 述 部 か ら な っ て い る 。 彼 は,(折 原,1996a)で,概 念 的 導 入 部 を 「理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リー 」 論 文 を 編 入 し て 再 構 成 し,そ れ 以 降 の 研 究(折 原,1997a以 降 の0連 の 論 文)で 具 体 的 叙 述 部 を 再 構 成 す る と い う 大 き な 作 業 に 取 り組 ん で い る 。

5)ウ ェ ー バ ー の 社 会 経 済 学 綱 要 』 へ の 寄 稿 の プ ラ ン と し て は,こ こ に 示 した1914年 プ ラ ン の 他,1910年 に 出 版 社 か ら共 同 執 筆 者 へ 郵 送 さ れ 「題 材 分 担 」(MWG,Abt.II,Bd.6,S,766‑774)とs1913年12月30日

付 の 出 版 者 パ ウ ル ・ジ ー ベ ッ ク 宛 書 簡(Schluchter,1991,S.601‑603,

8‑9頁)が あ る 。 そ の3つ の プ ラ ン の 異 同 に つ い て は(シ ュ ル フ タ ー, 折 原,2000)が 詳 細 に 検 討 し て い る 。

6)』ゲ マ イ ン シ ャ フ ト と ゲ ゼ ル シ ャ フ トの 用 法,「 理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リ ー 」 と 「社 会 学 の 根 本 概 念 」 と の 異 同 に つ い て は

,『 理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リ ー 』(未 来 社,1990)の 中 野 敏 男 の 解 説,折 原 浩 の 著 作(折 原, 1996a)が 詳 し い 。

7)『 マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー 全 集 』 の 「編 集 報 告 」 に よ れ ば,こ こ で 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トで な く政 治 団 体PolitischeVerbandの 用 語 が 使 わ れ て い る の は,後 年 の 書 き換 え と さ れ て い る 。 団 体Verbandと は,「 規 則 に よ っ て 対 外 的 に 制 限 さ れ 閉 鎖 さ れ た 社 会 的 関 係 は,そ の 秩 序 の 維 持 が,そ の 実 施 を 特 に 目的 とす る特 定 の 人 間 に よ っ て 保 証 さ れ て い る 場 合,こ れ を 『団 体 』 と 呼 ぶ 」(WG,S.26,78頁)と あ る様 に,政 治 団 体 と は 政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ トが よ り堅 固 に 組 織 化 さ れ た も の と言 え る 。

(引 用 文 献 ・ 参 考 文 献)

ッ ク ス ・ ウ ェ ー バ ー の 原 著 WGWirtscha}landGesellschafi,5.Au}1.,Tubingen,1972.

WLGesammelteAufsdtzezurWissenscaftslehre,4.Aufl.,Tubingen,1973.

MWGMaxWeberGesamtausgabe,Abt.1,Bd.22‑1,Tubingen,2001.

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マ ッ ク ス ・ウ ェ ー バ ー に お け る 「政 治 ゲ マ イ ン シ ャ フ ト」 に つ い て37

マ ッ ク ス ・ ウ ェ ー バ ー の 翻 訳

PoliticalCommunities,EconomyandSociety,vol.2,NewYork,1968{MwG, S.204‑215).

濱 島 朗 訳 「政 治 共 同 燈 」 『権 力 と 支 配 』 み す ず 書 房,1954年(MWG,S.204‑

215)o

清 水 幾 太 郎 訳 『社 会 学 の 根 本 概 念 』 岩 波 文 庫,1972年(WG,S.1‑30)。

海 老 原 明 夫,中 野 敏 男 訳 『理 解 社 会 学 の カ テ ゴ リ ー 』 未 来 社,1990年(WL, S.427‑474)o

そ の 他

Beefiham,D.,1974,MaxWeberandtheTheoryofModernPolitics,Cambridge

(住 谷0彦 他 訳 『マ ッ ク ス ・ ヴ ェ ー バ ー と 近 代 政 治 理 論 』 未 来 社,1988 年).

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参照

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