〈 翻 訳 〉
韓国憲法学会編 『 憲 法 改 正 研 究(要 約版)』(上)
龍 澤(訳)
目 次 訳 者 まえが き
は じめに
第1章 総論分 科委員 会 第1節 憲法編 制
1.総 綱 を存続 させ るべ きか?
2.現 在 の総綱 内容 を再 配置 す る問題 3.基 本 権 の配列
4。 統 治機 構 の配 列 5。 司法府 と憲法裁 判所 6.経 済及 び財政秩 序 第2節 領 土 ・統 一条 項 第3節 文化 国家
1.憲 法上 の文化 関連条 項 と沿 革 的特 徴 2.現 行 の文 化 国家 条項 の問題 点 と改正方 案 第4節 経済憲 法
1.憲 法上 の経済条 項 に対す る検 討
2.経 済 に対 す る憲法 内容 の改憲 の必要性 第2章 基 本権 分科 委員会
第1節 基 本権 の編制 体系 と一般規 定 の改正 方 向 1.基 本 権 の編 章体 系及 び表題 の改正 方 向 2.基 本 権 の包括 的根拠規 定
3.基 本 権 の総論 的規定 第2節 個 別 基 本 権 の 改 正 方 向
1.平 等 権及 び平等 権 関連 諸規 定 2。 自由権 的基 本権
3。 政治 的基本 権 4.請 求権 的基 本権
5。 社会 的基本 権(以 上 、本号)
第3章 権 力構造 分 科 委員会(以 下、次 号〉
第1節 政 府形 態 1.概 説
2.大 統領 制 の長 ・短点 3.議 院内閣制 の長 ・短点
4.改 憲 時の権 力構造 改正 の可 能性 第2節 執 行部
1.国 務 総理制 度 の問題 点 と副大統領 制 の導 入方 案 2.大 統領 の赦 免権 乱用 に対 す る統制 方案
3.大 統領 の国会 出席 及 び発言権 維持 の是 非 4.国 会財 政領 域 での統制 強化 方案
第3節 国会
1.免 責特権 及 び不 逮捕特 権等 の国会議 員特 権 の制 限の是 非 2.監 査 院の会 計監 査機能 の 国会 移管 問題
3.国 政監 査制 度 の廃 止 問題
4.予 算 と法律 の不 一致解 消等 の財政 憲法 関連
5.国 会議 員 を対象 にす る国民 召還制 度 の導 入 の是 非 6.国 会議 員 の閣僚 兼職制 限問題
7.国 会 の閣僚 解任 建議権 削 除
8.政 府 の法律 案提 案権 の廃止 に関 す る検討 第4節 直接 民主 主義 規定 の改正 に関 す る議論
1.間 接 民主主 義 の補 完策 として の直接 民主 主義 2.直 接 民主主 義導 入方 向
第4章 司法 制度 ・憲 法裁判分 科 委員会
第1節 現行 憲法 上 の 「 司法 府構造 」 の問題点 第2節 憲 法裁判 の本 質
1.問 題 の所在 2.多 数意 見 3.少 数意 見
第3節 第5章(裁 判所)と 第6章(憲 法裁判所 〉 の編 制調 整 の問題 1.問 題 の所在
2.多 数意 見 3.少 数意 見
第4節 大法 院 の組 織 問題 1.多 数 意 見
2.少 数 意見
第5節 裁判 訴願 の導 入問題 1.問 題 の所 在
2.多 数意 見 一 裁判 訴願 を制 限的 に導 入 すべ き とい う見 解
3.少 数意 見(1)一 裁判訴願 を導入 すべ き とい う見 解
4.少 数意見(2)一 裁判 訴願 を導 入す べ きでな い とい う見解 第6節 憲法第107条 第2項 の問題
1.問 題 の所 在 2.多 数意見 3.少 数意見(1) 4.少 数意見(2)
第7節 大法 院長 の大法官提 請権廃 止 問題 第8節 軍事法 院 の廃 止 問題
1.問 題 の所 在 2.多 数意見 3.少 数意 見
第9節 憲法第103条(裁 判官 が良心 に従 い審判 す べ き権 限)の 削 除の是 非 1.多 数意見 一 現行 どお りに置 くべ き との見解
2.少 数意見 一 削除 すべ き とい う見解 第10節 憲 法裁 判所 の構 成 方式
1.憲 法裁判 官 の数 2.憲 法裁判 官 の資格
憲 法学会 憲法 改正研 究委員 会最終報 告書 発刊 経過
〈 研 究分 科委 員会 委員名簿 〉
〔訳 者 ま え が き〕
こ こに訳 出 した もの は、 韓 国 憲 法 学 会 が2006年11月18日 に発 刊 した 、 『2006 年 憲 法 改 正 研 究 委 員 会 最 終 報 告 書 「 憲 法 改 正 研 究 」(要 約 版)』(刈 音 、 韓 国 憲 法 学 会)の 全 訳 で あ る。 憲 法 改 正 研 究 委 員 会 の 設 立 及 び 本 報 告 書 作 成 の 経 緯 につ い て は、 この報 告 書 に収 め られ た 韓 国憲 法 学 会 会 長 の 金 燗 盛 教 授 の 「は じめ に」
及 び 「 憲 法 学 会 憲 法 改 正 研 究 委 員 会 最 終報 告 書 発 刊 経 過 」 に詳 し く述 べ られ て い る の で 、 こ こで は省 略 す る。
訳 者 が 、 この報 告 書 を 目 に した の は、2006年12月1日 に 韓 国 ・ソ ウ ル で 開 催 され た韓 国 ス ポ ー ッ法 学 会 国 際 学 術 大 会 で の 席 上 の こ とで あ っ た 。 韓 国 ス ポ ー ツ法 学 会 の 常 任 理 事 で あ り、 ま た 、 韓 国 憲 法 学 会 の理 事 で も あ られ る金 挾 謙 ・ 東 国 大 学 教 授 か ら、 参 考 まで に と手 渡 され た の で あ る。 学 会 終 了後 に ホ テ ル に 戻 り、 部 屋 で この報 告 書 を手 に とって 見 た が 、 そ の興 味 深 さ に、 夜 の 更 け る の を忘 れ て最 後 まで 読 み終 え て し ま っ た。
韓 国 に お い て は 、 歴 代 の 大 統領 が 自身 の 権 力 を 永 らえ る必 要 に迫 られ る た び
に、 憲 法 の 改 正 が 議 論 され 、 また 、 事 実 、 そ の た び に憲 法 が 改 正 され て き た。
1987年 に制 定 され た 現 行 の 韓 国 第 六 共 和 国 憲 法 も そ の例 外 で は な く、 改正 そ の もの は実 現 しな か っ た が 、 大 統 領 を支 え る与 党 が 少 数 派 に転 落 した と き、 また は、5年 の任 期 が 近 づ き影 響 力 が 低 下 す る た び に、 議 院 内 閣 制 へ の 憲 法 改 正 論 な どが 必 ず 登 場 して きた 。 つ い 最 近 で は、 今 年(2007年)1月9日 に 、 突 然 、 盧 武 鉱 大 統 領 が 国 民 へ の特 別 談 話 で 今 年 中 に大 統 領 任 期 を2期8年 とす る改 憲
の
を行 う と発 表 し、 韓 国 で激 しい論 争 が 展 開 され る に い た っ て い る。
この よ うな状 況 の 中 で 、 韓 国 の 憲 法 研 究 者 が 、 一 切 の 政 治 的 誘 惑 を は ね つ け て 、 研 究 者 の学 問 的 使 命 感 にの み 立 脚 し、 英 知 を結 集 して作 成 した もの が本 報 告 書 で あ る。 この報 告 書 は憲 法 学 の理 論 と韓 国 の 現 状 を冷 静 に分 析 した 上 で 、 具 体 的 な改 正 の 方 向 を提 示 して い るだ け に、 憲 法 学 の研 究 とい う観 点 か ら も0 級 の資 料 的 価 値 が あ るだ け で な く、 とか く特 定 の 政 治 的 立 場 が 透 け て 見 え る 日 本 の憲 法 改 正 議 論 に も大 きな 一 石 を投 じ る も の で あ ろ う。 ま た、 憲 法 を研 究 す る者 に とっ て は、 国 民 の 関 心 が 決 して高 くは な い と思 わ れ る中で 、護 憲 、 改 憲 、 加 憲 な ど の様 々 な 主 張 が 政 党 を 中 心 に繰 り広 げ られ る現 下 の 日本 の憲 法 改 正 を 巡 る状 況 に あ っ て 、 研 究 者 は如 何 に あ るべ きか とい う こ とを も考 え させ て くれ
る0つ の 契 機 に も な るで あ ろ う。
こ の報 告 書 の提 案 は、 韓 国 の マ ス コ ミで も大 き く報 道 され た が 、 そ の 内 容 を 伝 え る記 事 の 多 くは、 現 行 の大 統 領 の 「 任 期5年 ・再 選 禁 止 」 を 「4年 ・再 選 容 認 」 に変 更 、 大 統 領 選 で の 決 選 投 票 制 の 導 入 、 副 大 統 領 の新 設 、 議 院 内 閣 制 へ の 反 対 な ど、 そ の 関 心 は権 力 構 造 の み に集 中 して い る。 しか し、 報 告 書 を一 読 す れ ば 分 か る よ うに、 基 本 的 人 権 は もち ろ ん 憲 法 構 造 全 体 につ い て 詳 細 に検 討 した もの で あ る。 も っ と も、 報 告 書 の 内 容 につ い て は必 ず し も訳 者 の 見 解 と
̲̲̲.す る もの ば か りで は な い が 、 日本 の隣 国 の 韓 国 で 、 韓 国 の 憲 法 研 究 者 を ほ ぼ網 羅 して い る韓 国 憲 法 学 会 か ら報 告 書 が 出 され た とい う事 実 と、 そ の 内容 に つ い て 、 我 々 は 正 確 に知 る必 要 が あ る こ とだ け は確 か で あ り、 こ こに 、 友 人 の 姜 京 根 ・韓 国 憲 法 学 会 副 会 長 お よび 金 挾 謙 ・韓 国憲 法 学 会 理 事 を通 じて 訳 出 の 許 可 を い た だ き、 拙 訳 を 掲 載 す る こ とに した次 第 で あ る。
た だ 、 報 告 書 の 「 完 全 版 」 は余 りに も大 部 な もの で あ るの で 、 こ こで は韓 国
憲 法 学 会 自 らが 同時 に発 刊 した 「 要 約 版 」 を訳 出 す る こ とに した が 、 それ で も
相 当 な 分 量 に な っ た た め に 、 上 下2回 に分 けて 掲 載 す る と と も に 、 別 途 に訳 注 を付 す の で は な く、 適 宜 本 文 の 中 で訳 者 が 最 小 限 の言 葉 を補 充 す る に と どめ た こ とを ご理 解 い た だ きた い 。 「 要 約 版 」 とい う性 格 上 、 ま た、 分 量 の 関 係 か ら別 途 の 訳 注 を断 念 一 した た め に 、 現 行 憲 法 の条 文 や 解 説 な どを参 照 しな い と理 解 が 少 し困 難 な箇 所 も あ るか と思 わ れ るが 、 そ の 際 に は、 拙 著 『 大 韓 民 国 憲 法 一 概 要 及 び 翻 訳 一(衆 憲 資 第18号)』(衆 議 院憲 法 調 査 会 事 務 局 、2003年)及 び 拙 稿 「 大 韓 民 国 」 阿部 照 哉 ・畑 博 行 編 『 世 界 の憲 法 集(第3版)』(有 信 堂 、2005 年)を 参 照 され た い。
注
1)こ の 盧 武 鉱 大 統 領 の 国 民 談 話 が 韓 国 国 民 に も た ら し た 反 応 は 、 憲 法 改 正 に 向 き 合 う と き の 国 民 の 意 識 を 知 る た め の 大 変 興 味 深 い 資 料 で あ り、 日本 に お い て も 参 考 に な る よ う に 思 わ れ る 。 少 々 長 くな るが 、 『朝 鮮 日報(WEB版 ・日 本 語 版)』(2007年1月12日 入 力)に 掲 載 さ れ た 「『2期8年 』 案 二盧 大 統 領 発 言 後 に 世 論 が 悪 化 」 とい う記 事 の 全 文 を 引 用 し て お き た い 。 す な わ ち 、 「盧 武 鉱(ノ ・ム ヒ ョ ン)大 統 領 が9日 、 『改 憲 で 大 統 領2期8年 』 案 を 突 然 提 案 し た 直 後 に 各 メ デ ィ ァ が 一 斉 に 実 施 した 緊 急 世 論 調 査 で 、 現 政 権 で の 改 憲 に 反 対 と い う 回 答 が 、 盧 大 統 領 の 改 憲 提 案 前 を 上 回 っ た こ とが 分 か っ た 。 《改 憲 提 案 後 に 世 論 悪 化 》 改 憲 の 時 期 に つ い て 『現 政 権 時 よ り も 次 期 政 権 時 に す る べ き 』 と い う 回 答 は 、 朝 鮮 日報 ・韓 国 ギ ャ ラ ッ プ 社 の63.3%を は じ め 、 各 メ デ ィ ア の 世 論 調 査 と もso‑70%と 、 ほ ぼ 同 じ だ っ た 。 改 憲 推 進 時 期 に つ い て 以 前 実 施 さ れ た 世 論 調 査 の 結 果 を 見 る と、 昨 年2月 の 韓 国 社 会 世 論 研 究 所(KSOI)調 査 で は 『次 期 政 権 時 』53.6%、 『現 政 権 時 』37.7%だ っ た 。 同5月 にSBSとTNSが 行 っ た 調 査 で も 『次 期 政 権 時 』52。4%、 『現 政 権 時 』35.1%。
しか し 、 盧 大 統 領 が 改 憲 を 提 案 した 直 後 の 今 月9日 に 実 施 さ れ た 各 メ デ ィ ア の 世 論 調 査 で は 『次 期 政 権 時 に 改 憲 論 議 を せ よ 』 と い う 回 答 の ほ う が 『現 政 権 時 』 を そ れ ぞ れ10‑20ポ イ ン ト上 回 っ た 。KSOIの ハ ン ・グ ィ ヨ ン 研 究 室 長 は 『国 民 の 理 解 と は あ ま り関 係 な い 統 治 形 態 に 関 連 し た 改 憲 な の で 、 国 民 は 切 実 さ を 感 じ て い な い 。 盧 大 統 領 の 突 然 の 改 憲 提 案 に 、 か え っ て 拒 否 感 が 高 ま っ た 』 と説 明 す る 。 《「2期8年 制 」 の 支 持 は 上 昇 》 ギ ャ ラ ッ プ 社 調 査 で は 、2期8年 制 に 対 す る 支 持 が64.2%と 、5年 で 再 任 を 禁 じ る 現 行 制 度 支 持 の 33.5%を 引 き 離 した 。 中 央 日報 の 調 査 で も、 現 行 制 度 を2期8年 制 に 変 更 す る こ と に つ い て56.6%が 賛 成 、MBCコ リ ア リサ ー チ の 調 査 で も賛 成 が51%で 過 半 数 だ っ た 。 し か し 、 2001年4月 の ギ ャ ラ ッ プ社 調 査 で は2期8年 制 支 持(49.9%)と 、 現 行 制 度 支 持(46%)、
2005年7月 の リサ ー チ ・ア ン ド ・リサ ー チ 社 調 査 で も、2期8年 制(47.9%)とi現 行 制 度 (47%)の 支 持 は ほ ぼ 同 じ だ っ た 。 韓 国 ギ ャ ロ ッ プ 社 の ホ ・ジ ン ジ ェ 部 長 は 『こ こ 数 年 で 2期8年 制 へ の 支 持 が 増 え て い る の は 、cc現行 の5年 で 再 任 を 禁 じ る 制 度 よ り も効 率 的"と い う考 え よ り も、"現 行 制 度 を 変 え て み た い"と い う漠 然 と した 変 化 へ の 欲 求 が 反 映 さ れ た も の だ と見 て い る 』 と話 し て い る 」 と伝 え て い る。
2006年 憲法 改正研 究委 員 会最 終 報 告書
『 憲 法 改 正 研 究(要 約版)』
は じめ に
社 団 法 人 韓 国 憲 法 学 会 は、 創 立 以 来 、 憲 法 学 の研 究 を通 じて 、 韓 国 憲 法 の発 展 と民 主 的 法 治 国家 の実 現 に 貢 献 す べ く、 弛 む こ とな く努 力 して きた 。 この よ
うな設 立 趣 旨 に従 い 、 韓 国 憲 法 学 会 は、 これ まで 多 くの 学 術 発 表 会 を 開催 し、
ま た 、 学 術 誌 も発 刊 して きて い る。 理 論 的 か つ 学 問 的 な主 題 は もち ろ ん 、 現 実 的 で 当 面 す る課 題 に対 して も、 学 術 的 活 動 を 中 心 に 会 員 個 人 の 単 位 か ら会 全 体 の 単 位 に 至 る ま で 、 多 様 な役 割 を展 開 して い る。
1948年 に制 定 され 、 与 野 党 の合 意 に よっ て1987年 に9度 目の 改 正 が な され た 憲 法 は、 個 人 の 自 由 と権 利 が 尊 重 され る民 主 化 過 程 に お い て 、 韓 国社 会 の 規 範 的 礎 石 の 位 置 を 占 め て きた 。 現 行 憲 法 は 、 国 民 の 民 主 化 に対 す る熱 望 と期 待 に 応 え て、 大 統 領 直 接 選 挙 制 と憲 法 裁 判所 の 復 活 を は じめ 、 多 くの 肯 定 的 な 内 容 を含 ん で い るが 、 この 間 の 政 治 現 実 や 憲 法 現 実 で 見 られ る よ う に、 現 実 と調 和 し得 な い 面 も少 な くな い。 特 に 憲 法 裁 判 所 が 憲 法 紛 争 に 対 して 本 格 的 な 判 断 を しは じめ た こ とで 、 規 範 と現 実 の 乖 離 を は じめ 政 治 的 で あ っ て 体 系 的 で は な い 憲 法 規 定 に起 因 す る多様 な 問 題 が 突 出 す る よ うに な っ た 。 これ と共 に 、 憲 法 改 正 の 必 要 性 を提 起 す る改 憲 議 論 も、 政 治 的 な 立 場 か らな さ れ る もの か ら純 粋 に 学 究 的 な立 場 か らな され る もの まで 多 様 に展 開 され て い る。 過 去 を記 憶 して い る国 民 の 視 線 に は、 疑 惑 に満 ち た冷 た い視 線 もな くは な い 。 しか し政 治 的 野 心 で 汚 され た 改 憲 史 に よ って 形 成 され た 国 民 た ち の 改 憲 に対 す る否 定 的 イ メ ー ジ や 単 な る改 正 とい う狭 い 意 味 を越 え て、 大 韓 民 国 を も う一 段 階 さ らに上 昇 させ る こ との で き る、 満 足 の い く憲 法 を一 度 作 っ て み よ う とい う各 界 の 多 様 な 動 き も活 発 に進 行 して い る。
この よ うな現 実 状 況 に対 す る認 識 の下 に 、 韓 国 憲 法 学 会 は 内 部 的 意 見 収 敏 過
程 を 経 て 、 我 々 の憲 法 の 問 題 点 を把 握 し、 今 後 展 開 され 得 るか も しれ な い憲 法
改 正 に備 えて 、 い か な る部 分 を どの よ うに修 正 す る こ とが 現 実 的 で あ り、 規 範
的側 面 か ら合 理 的代 案 に な り得 るか を 、 去 る1年 の 間 、 学 会 の 力 量 を集 め て研 究 した 。 憲 法 改 正 に対 す る研 究 の た め に、 わが 学 会 は40人 余 りの 会 員 で 構 成 さ れ る 「 憲 法 改 正 研 究 委 員 会 」 を大 規 模 に構 成 して 、 個 人 委 員 た ち の 苦 悩 に満 ち た研 究 を基 と した数 十 回 に わ た る分 科 委 員 会 中 心 の 発 表 会 と討 論 、 そ して 幾 度 もの 外 部 学 会 との共 同発 表 会 や 全 体 学 会 次 元 で の 学 術 発 表 会 を通 じて 研 究 を深 め、 会 員 た ち の 意 見 を収 敏 して きた 。 委 員 会 は研 究 の純 粋 性 を担 保 す る た め に 、 憲 法 改 正 研 究 の た め の委 員 会 及 び学 会 次 元 で の い か な る外 部 支 援 も受 け な か っ た し、 研 究 の進 行 に関 して も政 界 の 改 憲 議 論 と は関 係 な く研 究 を 進 行 した。
こ の報 告 書 は、 去 る1年 間 の わ が 学 会 の 「 憲 法 改 正 研 究 委 員 会 」 が 心 血 を注 ぎ研 究 して きた 結 果 で あ る。 課 題 の 重 量 感 に 比 べ て 、 比 較 的 短 い 時 間 に研 究 が な され た こ と もあ り、 深 み の あ る研 究 が 充 分 で な か っ た 点 で 大 き な心 残 りも あ る。 しか し、 わ が 憲 法 の 問 題 点 に 対 す る総 体 的 診 断 と評 価 が な され た こ とは、
さ ほ ど遠 くな い 将 来 に展 開 す るで あ ろ う改 憲 議 論 に お い て も、 この 報 告 書 が 問 題 の解 決 の た め の 議 論 の 素 材 とな り、 礎 石 に な るで あ ろ う との 展 望 と期 待 を抱
いて い る。
国 民 の こ とを考 え 、 国 の た め とい う一 念 で 、 この 研 究 に何 らの 反 対 給 付 も な しに熱 と誠 を傾 け て下 さ っ た委 員 会 の 委 員 と委 員 長 及 び 副 委 員 長 、 そ して 委 員 会 の活 動 を積 極 的 に支 援 して 、 惜 しみ な く励 ま して くれ た 会 員 の 皆 様 に 心 か ら
の 感 謝 を 申 し上 げ る。
2006年ll月
社 団法 人韓 国憲 法学会 会 長 金hl"J
第1章 総論 分科 委 員会
第1節 憲 法 編 制
1.総 綱 を存 続 させ るべ きか?
総 綱 の 必 要 性 が依 然 と して あ る と見 る こ とは で き な い 。 例 え ば 、 国 家 形 態 に 関 す る規 定 が 総 綱 の0部 に規 定 され な けれ ば な らな い 必 然 性 は な い。 国 際 法 秩 序 、 政 党 と公 務 員 制 度 、 そ して文 化 に 関 す る条 項 な どは 、 一 つ の 章 に規 律 され
るほ どの 一 定 の 同 質 性 は な い 。
2.現 在 の 総 綱 内 容 を再 配 置 す る問 題
現 在 の 憲 法 認 識 に お い て は、 憲 法 第1条 の 国 家 形 態 と国 民 主 権 、 国 民 と領 土 及 び統 一 条 項 を 、 憲 法 の 冒 頭 に 独 立 した 章 を 置 い て 配 置 す るの が 適 切 で あ る と 思 わ れ る。 例 え ば 国 家(形 態)・ 国 民 ・領 土 の 表 題 を 立 て る こ と もで き る。
既 存 の 総 綱 の そ の他 の諸 規 定 は 、 独 立 した 章 を設 け るか 、 あ るい は 既 存 の 他 の章 に配 置 す る こ と もで き る。 国 際 法 秩 序 は 、 今 日、 国 際 関 係 そ れ 自体 、 そ し て 国 際 関 係 の 国 内 法 的 重 要 性 に照 ら して別 途 の 章 を置 くの が 良 い 。 公 務 員 制 度
に 関 す る第7条 は、 規 律 対 象 が 異 質 で あ る。 第1項 は全 体 の 公 務 員 を 、 第2項 は職 業 公 務 員 を 対 象 に して い る。 憲 法 第7条 は、 職 業 公 務 員 制 度 に 関 す る規 律 に して 、 行 政 府 に位 置 させ る こ とで 充 分 で あ る。 現 在 、 政 党 を総 綱 にお い て 規 律 して い るが 、 そ の趣 旨 に忠 実 で あ るた め に は、 や は り第1章 に編 入 す る のが 良 い 。 文 化 に対 す る憲 法 的 課 題 は 、 文 化 享 有 及 び文 化 的 創 作 活 動 に対 す る国 家
の積 極 的 な保 護 の 形 態 で 条 文 が 構 成 され るべ きで あ ろ う。
3.基 本 権 の 配 列
第13条 第2項 の 一 般 的 な遡 及 立 法 禁 止 の原 則 は、 一 般 的 な基 本 権 制 限 の 要 件 に関 す る規 律 で あ り、 第3項 の 連 座 制 禁 止 は 身 体 の 自 由 に 限 定 され る 内容 で は な い 。 あ えて この 規 定 が 必 要 で あ るな らぼ、 法 律 に よ っ て も 自 由及 び 権 利 の本 質 的 な 内 容 は侵 害 で きな い こ とを定 め た憲 法 第37条 第2項 に編 入 す る方 法 が検 討 され な け れ ぼ な らな い 。 憲 法 第15条 の職 業 選 択 の 自 由 は 、 財 産 権 に先 立 っ て 規 律 す るの が よ り適 切 で あ る。
4.統 治 機 構 の 配 列
統 治機 構 は 、 基 本 的 に構成 と組織 、 そ して 地 位 及 び 機 能 の 順 序 で規 律 しな け れ ば な らな い とい う前 題 の下 に 、 改 正 の 方 向 を提 示 す る。 国 会 、 政 府 、 裁 判 所 及 び 憲 法 裁 判 所 に 関 す る諸 規 定 は、 この よ うな基 準 に従 って 再 配 列 しな けれ ば
な ら な い 。
5.司 法府 と憲法 裁判所
第5章 法院 と第6章 憲法裁 判所 の関係 を どの よ うに設 定 す るか は単 な る編 制
の 問題 で な く、根 本 的 な検 討 が 必 要 な 問題 で あ る。 次 の よ うな提 案 が あ り得 る。
第0に 、 第5章 と第6章 を 司 法 府 に統 合 し、 憲 法 裁 判 所 を最 高 法 院 と して 、 そ の下 に大 法 院 を お く方 法 で あ る。 この場 合 、 法 律 の 最 終 的 違 憲 可 否 管 轄 を憲 法 裁 判 所 に与 え た憲 法 第107条 第1項 と命 令 等 の最 終 的 違 憲 可 否 管轄 を大 法 院 に与 えた 第2項 の 管 轄 の 差 異 は 、 自然 に憲 法 裁 判 所 に統 合 され る こ とに な る。 第 二 は、 現 在 の編 制 を そ の ま ま置 く方 法 で あ る。 この場 合 に も、 第107条 第1項 と第 2項 の管 轄 の差 異 を統 合 す る こ とはで き る。 た だ し、 組 織 の差 異 を そ の ま ま に して この 問 題 を解 決 す るた め に は、 根 本 的 な検 討 が 必 要 で あ る。 比 較 憲 法 的 に 見 れ ぼ、 どち らが 一 般 的 で あ る とい う こ とは で き な い 。
6.経 済及 び財 政秩 序
財 政秩序 は、国家機 能 にお いて中心 的 な役 割 を 占めて い るに もかか わ らず 、 現行 憲法 は これ に関す る規 律 を欠 いて い る。財 政秩 序 を独 自の章 として置 か な けれ ばな らな い。
この場合、現在 国会 の章 に置かれて い る第54条 か ら第59条 までの規定 の他 に、
財政 憲法 的規律 の可 能性 と必 要性 に対 す る根本 的 な検 討 を経 て財政秩 序 が構成 され な けれ ばな らな いで あ ろ う。
第2節 領 土 ・統一 条項
憲 法の領 土条 項 と統0条 項 は相互 に矛盾 す る よ うに見 られ、 これ に対 して多 様 な学説 が提起 され て きた。憲 法 改正議論 と一 緒 に この条項 の改正 論 も提 起 さ
れて い る。
両条項 の関係 に対 して は、大 韓 民国憲法 の効 力 が北 朝鮮地 域 に も及 び、 北朝 鮮 は不法 な反 国 家団体 で あ る とい う見解 と、北 朝鮮 は独 立 国家 で あ って領 土条 項 の効 力 は南 の韓 国地 域 にだ け及ぶ とい う見解 、 そ して両条 項 は矛盾 す るの で 領 土条項 を削除 すべ きで あ る とい う見解 な ど、現 在 、8つ ほ どの学説 の対 立が あ る。 この よ うな学説 の対 立 を基 に憲 法改正 議論 はおお よそ4つ に分 か れ て い る。
領 土条 項 の削 除論、 南北韓 の現在 の分 断状 況 を反 映 して統0さ れ る とき まで
暫定 的関 係 を認 め る全面 改 正論 、統一 され る とき まで大韓 民 国憲法 の効 力 を南
の 韓 国 地 域 に 限 定 す る但 書 き条 項 を追 加 す る改 正 論 、 そ して 改 正 不 必 要 論 が そ れ で あ る。
我 々 は、 改 正 不 必 要 論 を支 持 す る。 そ の理 由 は、 まず 第 一 に、領 土 条 項 と統 一 条 項 は相 互 調 和 的 に解 釈 す る こ とが で き 、 最 近 この説 に対 す る支 持 が 増 え て い る。
第 二 に 、 領 土 条 項 は建 国 以 来 存 在 す るわ が 憲 法 の独 特 の条 項 で あ り、統 一 へ の 積 極 的 意 志 と念 願 が 込 め られ た 非 常 に意 味 の あ る条 項 で あ る。
第 三 に 、 領 土 条 項 が あ る こ とに よ って 、統 一 以 前 に どち らか0方 の体 制 の危 機 が発 生 した とき に は、 領 土 条 項 を根 拠 と して他 の 一 方 の 介 入 の 正 当性 が 認 め
られ得 る。
第 四 に 、 北 朝 鮮 が 問 題 視 した か ら とい っ て 、 必 ず しも従 わ な け れ ば な らな い 必 要 もな く、 仮 に これ を考 慮 す るに して も、 北 朝 鮮 が 問題 視 した の は 、 主 に国 家 保 安 法 で あ るか ら、 憲 法 を改 正 す る必 要 は な い。
第 五 に 、 統 一 条 項 の 「自 由 民 主 的基 本 秩 序 」 の 部 分 は 、 この 条 項 を 削 除 して も しな くて も、 わ が 憲 法 上 、 統 一 政 策 は我 々 の 憲 法 の 自 由 民 主 的基 本 秩 序 に反 す る こ とが で き な い の で あ るか ら、 改 正 す る実 益 が な い 。
第 六 に、 領 土 条 項 の 削 除 ま た は改 正 に よ っ て 、 北 朝 鮮 が 完 全 に 外 国 と して取 り扱 わ れ る よ うに な れ ば 、 北 朝 鮮 か ら離 脱 した 住 民 に 対 す るわ が 政 府 の 関 心 と 努 力 の 法 的 根 拠 が 喪 失 され 得 る こ と もあ る。
最 後 に、 公 法 学 者 の 大 多 数 は、 領 土 条 項 の 改 正 に反 対 して い る。 万 一 、領 土 条 項 改 正 論 が 国 民 多 数 の支 持 を得 て 改 正 す る ほか な い な らぼ 、 次 善 の 策 と して 、 但 書 き を追 加 す る改 正 論 を支 持 す る。
第3節 文 化 国 家
1.憲 法 上 の文 化 関連 条 項 と沿 革 的 特 徴
現 行 憲 法 は 文 化 とい う表 現 を、 前 文 や 本 文 で 明 示 的 に使 用 して い る。 憲 法 前 文 に は 「 悠 久 な 歴 史 と伝 統 に輝 くわ が大 韓 国 民 は、 … …」 と明 記 して い る。 こ
れ は 国 民 の 主 体 性 と同質 性 を確 認 す る意 味 を持 っ もの で 、 文 化 国 家 の 理 念 を 明
らか に し よ う と した もの と見 る こ とが で き る。 また 、 「 政 治 ・経 済 ・社 会 ・文 化
の す べ て の領 域 に お い て各 人 の機 会 を均 等 に して 、能 力 を最 高 度 に発 揮 させ … …」
とい う こ とで もっ て 、 文 化 的 生 活領 域 まで を含 む す べ て の 生 活 領 域 に お いて 個 人 の 平 等 を重 視 し、 人 間 の 自我 の 実 現 を可 能 にす る国 家 的条 件 を強 調 して い る。
本 文 で は、 文 化 国 家 に関 す る基 本 条 項 と して 、 第9条 で 別 途 の条 項 を置 き、
「 国 家 は 、 伝 統 文 化 の 継承 発 展 と民 族 文 化 の 暢 達 に努 力 しな けれ ば な らな い」 と 規 定 して い る。 そ れ だ けで な く、 文 化 に関 連 した 個 別 的 な領 域 に お いて 基 本 権
を保 障 して い る。 憲 法 上 、 文 化 国 家 とい う直 接 的 な 表 現 は使 っ て い な い が 、 そ の他 の文 化 関連 規 定 との 関 係 か ら、 文 化 国 家 性 を意 味 す る一 般 条 項 で あ る と認 め る こ とが で き る。
第69条 で は 、 大 統 領 就 任 時 に 「 … …憲 法 を遵 守 し、 … … 民族 文 化 の暢 達 に 努 め … …」 の 内 容 を宣 誓 す る よ う に明 記 して い る。
文 化 国 家 に関 す る基 本 的 か っ 本 質 的 な 大 部 分 の 内 容 は、 主 に基 本 権 の 章 に お い て 分 野 別 の基 本 権 の 規 定 で 保 障 して い る。 文 化 国 家 の基 本 的 前 提 とな る第10 条 で の 人 間 の 尊 厳 と価 値 、 幸 福 追 及 権 に関 す る規 定 を始 め と して 、 第19条 の 良 心 の 自由 、 第20条 の 宗 教 の 自由 、 第21条 の言 論 の 自 由 と集 会 ・結 社 の 自 由 を保 障 す る こ とで 、 意 思 疎 通 の 自 由 と文 化 的 媒 介 体 に よ る表 現 と文 化 伝 達 の 自 由 を 規 定 して い る。 これ は特 に 民 主 主 義 的制 度 を形 成 す る基 盤 の 役 割 と して 、 そ の 重 要 性 が 強 調 され て い る。 また 、 人 間 の 精 神 的 な領 域 の核 心 的 な 部 分 とい え る 第22条 の学 問 と芸 術 の 自 由 に関 す る規 定 を置 い て い る。 さ ら に、 個 人 の教 育 の 権 利 と教 育 に関 す る国家 の義 務 を規 定 した第31条 の諸 条 項 は、 文 化 国 家 を具 現
す るた め の 実 質 的 な要 素 で あ る。 人 間 の 最 低 限 の 物 質 的 生 活 を保 障 す るた め の 条 項 と して 、 第34条 に6項 に及 ぶ 諸 条 項 が規 定 さ れ て い る。 これ らは物 質 的 側 面 にお い て 最 小 限 の 文 化 生 活 を保 障 す るた め の 一 般 的 社 会 保 障 制 度 と社 会 的 弱 者 階 層 の 物 質 的 な最 低 限 の 生 活 条 件 の充 足 を保 障 し よ う とす る規 定 で あ る。
この よ う に文 化 国 家 の基 本 的 前 提 と して の 憲 法 第10条 と精 神 的 物 質 的 な 部 分 の 基 本 権 分 野 にお け る文 化 国 家 と関 連 した 基 本 権 保 障 規 定 が 、 総 体 的 な 文 化 憲 法 に 関 す る規 定 で あ る とい う こ とが で き る。 第36条 の 民 主 的 な個 人 主 義 的 な婚 姻 と家 族 制 度 の た め の 保 障 、 第35条 の環 境 権 な ど も文 化 と関 連 す る。
制 憲 憲 法 か ら1972年 の維 新 憲 法 まで 、憲 法 上 文 化 に関 す る表 現 は、前 文 で 「 … …
文 化 の す べ て の領 域 に お い て 各 人 の機 会 を均 等 に して … … 」 の 表 現 と文 化 に関
連 した基 本 権 の諸 規 定 を 除 い て は、 文 化 国 家 に 関 す る一 般 条 項 の 規 定 は置 い て
… … 」 の 文 言 を加 え て 、 第8条 で 一 般 的 文 化 国家 条 項 と して 「国 家 は、 伝 統 文 化 の継 承 ・発 展 と民 族 文 化 の 暢 達 に努 め な けれ ば な らな い 」 とい う規 定 を新 設 した。 また 、 第44条 の大 統領 の就 任 宣 誓 で 「 … … 憲 法 を遵 守 し、 国 家 を保 衛 し て 、 民 族 文 化 の発 展 及 び … … 」 と定 めて 、"民 族 文化 の発 展"の 文 句 を新 た に追 加 した 。 第20条 の 言 論 ・出 版 ・集 会 ・結 社 の 自 由 の保 障 にお い て 法 律 の 留 保 を 削 除 した 。 第29条 第5項 に お い て 「 国 家 は 、 生 涯 教 育 を振 興 しな けれ ば な らな い」 とい う条 項 を新 設 して 、 教 育 の機 会 を拡 大 す る根 拠 条 項 を置 い た 。 この よ うな 内容 は 、1987年 の 改 憲 に も そ の ま ま受 容 され た 。
その ほ か に も、1987年 の 憲 法 で は言 論 の 自由 を規 定 した第21条 で 第2項 と第 3項 を新 設 して 、 言 論 出版 の 許 可 と検 閲 を禁 止 、 集 会 ・結 社 の許 可 制 を許 さず 、 通 信 と放 送 の施 設 基 準 と新 聞 の機 能 を保 障 す る規 定 を置 くこ とで 、報 道 機 関 の 機 能 保 障 を強 化 した 。 また 、 教 育 に 関 す る第31条 第4項 で"大 学 の 自律 性"保 障 を新 設 して、 学 問 の 自由 を補 強 した 。 この よ う に文 化 関 連 条 項 は、 現 行 の 憲 法 に 引 き継 が れ て きた の で あ る。
この よ う な 内容 の大 綱 を要 約 す れ ぼ 、1980年 憲 法 は、 事 実 上 、 軍 事 政権 の 延 長 線 上 に あ っ た に もか か わ らず 、 文化 条 項 と文 化 関 連 の 基 本 権 を 多 数 新 設 して 強 化 した こ とが 特 徴 的 で あ る。 何 よ りも̀文 化 国 家 条 項'を 新 設 した こ とが 際 立 って い るが 、 そ の 内容 は"伝 統 文 化 と民 族 文 化"に 限 定 して お り、 そ れ が そ
の ま ま現 行 憲 法 まで続 い て きて い るの で あ る。
2.現 行 文 化 国 家 条 項 の 問 題 点 と改 正 方 案
1980年 当 時 に 文 化 国 家 条 項 を新 設 しな が ら も、 な ぜ この よ うな 内容 の もの が
形 成 され た の か を 明 らか に す る こ との で き る資 料 は存 在 しな い 。 た だ 、 新 た な
時 代 を開 始 す る とい う局 面 転 換 の 名 分 と して 伝 統 文 化 の 継 受 と民 族 文 化 の確 立
とい う文 化 的 内容 を採 択 した の で あ ろ う と勘 酌 され る。 解 放 以 後 、 無 分 別 な外
来 文 化 の 受 容 と産 業 化 に伴 う文 化 的 同質 性 の 回 復 の た め の精 神 的 基 礎 と して 、
憲 法 上 に文 化 国 家 条 項 の 新 設 が 必 要 で あ っ た とい う こ とが で き る。 ま た 、 当 時
の 意 図 は分 か らな いが 、 これ と と もに 、 国 家 の理 念 的 分 断 状 態 に お い て 、 未 来
の 統 一 に備 え た 民族 の文 化 的 同質 性 回復 まで 考 え た とす れ ば、 文 化 国 家 条 項 の
新 設 は今 更 な が ら重 要 な こ とで あ っ た と見 る こ とが で き る。
しか し、 解 釈 上 、 憲 法 前 文 と諸 基 本 権 条 項 を根 拠 と して す べ て の 文 化 形 態 を 尊 重 す る と して も、 憲 法 第9条 で 伝 統 文 化 と民 族 文 化 の 保 護 育 成 を強 調 して い る とい う点 か ら、 例 え ぼ そ の 他 の0般 文 化 よ りも伝 統 文 化 や 民 族 文 化 の 育 成 及 び 奨 励 を優 先 的 に配 慮 す る こ との で き る根 拠 に もな る。 この よ うな 点 で 、 特 定 の 文 化 に 限 定 して 定 めた 現 行 の規 定 が 、 果 た して 肯 定 的 に の み 評 価 され 得 るか
とい う問 題 が 提 起 され る。
憲 法 改 正 が 議 論 され て い る時 点 に お い て 、 我 々 に与 え られ た 文 化 の 多 元 主 義 的 課 題 を考 慮 して み る必 要 が あ る と思 わ れ る。 文 化 条 項 を̀伝 統 文 化 と民 族 文 化'に 限 定 して 新 設 した80年 の 改 憲 当 時 とは 、 今 の 社 会 的与 件 はす で に大 幅 な 変 化 を経 た し、 それ に伴 う多 くの こ とを 国 家 は 社 会 的 ・文 化 的 課 題 と して 要 求 され て い る。 す な わ ち 、 現 在 の 時 点 は、 我 々 が 追 求 しな けれ ば な ら な い 文 化 的 内 容 を̀伝 統 文 化 と民 族 文 化'に の み 縛 って お く こ とが 困 難 な ほ ど に、 多 様 性 の 要 求 が 高 い 。 今 や 、 生 活 環 境 それ 自体 が 、 我 々 以 外 の 異 質 的 な 文 化 と も調 和
しな が ら生 きて い くこ との で き る能 力 を要 求 して い るの で あ る。
我 々 は、 単 一 民 族 と して 生 活 して き た こ とで 、 排 他 的 な人 間 的 価 値 観 が 文 化 的 同質 感 と して 形 成 され て い る側 面 が 強 い 。 この よ うな こ とを 、 民族 文 化 と し て 強 調 して きた 点 もあ る。
しか し、 今 や 我 々 も、 外 国 人 、 外 国 人 との間 に生 ま れ た 児 童 、 障 害 者 、 老 人 な ど、 あ るい は そ の 他 の い か な る少 数 者 や 異 質 的 構 成 員 に も̀入 間 の 普 遍 的 尊 厳 性'が 保 障 され る社 会 で 生 きて い くよ うに備 え な け れ ば な らな い 。 今 後 は、
国家 共 同体 基 盤形 成 の た め の 文 化 政 策 の核 心 的 内 容 と して 、̀人 間 の普 遍 的 尊 厳 性'の 価 値 観 の 確 立 が 必 要 で あ る。 未 来 社 会 の た め の 文 化 的 土 台 形 成 が 、 いつ の と き よ りも強 調 され る時 期 に 我 々 は 生 きて い る。 そ れ に伴 う普 遍 主 義 的 で 開 放 的 な価 値 観 を重 要 な もの と して 考 慮 す る文 化 政 策 が 、 切 に 必 要 で あ る と思 わ れ る。
この よ う に社 会 的 に 多様 な価 値 観 が 共 存 す る現 時 点 に お い て 、 我 々 は 文 化 的
に未 来 に備 え な け れ ぼ な らな い。 した が っ て 、 改 憲 が 論 議 され る な らば 、 この
よ うな変 化 した 内容 を憲 法 第9条 の 内 容 と して 受 け 入 れ る必 要 が あ る と思 わ れ
る。 社 会 的 な諸 般 の 条 件 の変 化 に従 い 、 国 民 の文 化 的 需 要 も多 様 に な っ た 。 さ
らに、 経 済 的 ・文 化 的 に も過 去 よ り も外 国 との 交 流 と開放 の 幅 が 大 き くな っ て 、 海 外 との往 来 が 頻 繁 に な っ た 。 そ の結 果 、 結 婚 や 労 働 者 と して 外 国 人 の 流 入 が 次 第 に増 大 して 多 民 族 国 家 へ と移 行 して い る時 点 で 、 単 一 民族 の 文 化 や 私 た ち の伝 統 文 化 だ け を強 調 す る こ とは難 しい 状 況 に な っ た。 もち ろ ん この よ うな側 面 を重 要 な価 値 と見 な す こ とが 別 段 問 題 に な るわ けで は な い が 、 別 途 、 国 際 化 した 時 代 に相 応 しい 文 化 的 多 様 性 と開 放 性 を も同 時 に 生 か して い か ね ば な らな い こ とは 国 家 的 責 務 で あ る。 した が っ て 、 既 存 の 文 化 国 家 条 項 を伝 統 文 化 の 継 承 発 展 と民 族 文 化 暢 達 の範 疇 か ら脱 皮 させ て 、 一・ 般 的 な 文 化 条 項 に拡 大 転 換 す
る こ とが 望 ま しい と思 わ れ る。
した が って 、例 え ば 最 小 限 、 「 国家 は、 国 民 の 生 活 と精 神 的領 域 に必 要 な 文 化 を保 護 し、 育 成 す る」 程 度 の規 定 に拡 張 す る必 要 が あ る と考 え る。
第4節 経 済 憲 法
1.憲 法 上 の経 済 条 項 に対 す る検 討
財 政 運 用 に 関 す る政 治 的 政 策 的 決 定 を法 的 に把 握 す る とい う課 題 の 側 面 か ら 見 れ ば 、 わ が 憲 法 は̀財 政 盲(finanzblind)'の 状 態 で あ る。 技 術 的 な性 格 の 編 制 の 変 化 は あ っ た が 、 わ が 憲 法 は制 憲 憲 法 以 来 、 変 わ る こ とな く実 体 的 な財 政 憲 法 規 定 は全 く置 い て い な い 。 これ に対 す る憲 法 政 策 的 評 価 は 、 この 法 状 態 が 源 泉 的 な ま た は後 天 的 な̀財 政 盲'の 財 政 憲 法 の暇 疵 ・欠 鉄 で あ るの か 、 ま た は 、 財 政 を憲 法 的 規 律 と統 制 か ら 自 由 に置 こ う と した 憲 法 的 決 断 と見 るべ き な の か に関 す る診 断 が先 決 事 項 で あ る。
少 な く とも法 理 論 の観 点 、 特 に(財 政)政 策 と法 の 観 点 とい う側 面 か ら見 れ ば 、 わ が 憲 法 の̀財 政 盲'状 態 は、 源 泉 的 な̀憲 法 の鍛 疵 ・欠 鉄'で は な か っ た 。 真 摯 な 法 政 策 的戦 略 に 沿 っ た積 極 的 な 憲 法 的決 断 で あ っ た とは い う こ とは で きな い が 、憲 法 理 論 及 び憲 法 政 策 的認 識 の 限界 に伴 う自然 な̀無 決 定 の決 定'で あ っ た とい う こ とが で き る。
しか し、 我 々 の 憲 法 規 範 と憲 法 現 実 の変 化 を顧 み る ま で もな く、 も はや 真 摯
な検 討 と熟 考 の結 論 とは見 る こ との で きな い現 時 点 で は、わ が 憲 法 の̀財 政 盲'の
状 態 は そ の 適 正 性 が再 検 討 され な けれ ば な らな い 。 特 に政 治!d案 と して 憲 法 改
正 が 議 論 され る状 況 に お い て 我 々 に要 求 され る こ とは 、 財 政 憲 法 の̀無 決 定 の
決定'に 込 め られ た期 待 と処方 の効 用 を憲法 政策 的戦 略構 図 と連結 して説 明 し て みて、万 一 それ が不可能 であ った り不 十分 であ る とすれ ぼ、憲 法理論 また は 憲法 ドグマ を通 じた補 完 の可能 性 と限界 を究 明 して、改 憲 の代 案 を前 向 きに検 討 す る こ とで あ る。
憲法 次元 で財政 に関 す る実体 法 的規律 と司法統 制 を全面 的 に排 除 す る戦略 は もはや説 得力が な い。少 な くとも結 論 に対す る性 急 な予 断 のない前提 の下 で は、
財政 改革 また は予 算制 度 改革 の懸案 も財 政憲 法改 正 の問題 と連係 して検 討 され る憲法 政策 的な次元 の もの として、 その議論 の地 平 が拡張 され な けれ ばな らな
い 。