争 議 行 為 ど 暴 力 の 行 使
争議行為 と暴力の行使
目次
はしがき
一︑労組法一条二項但書と刑法三五条
二︑﹁暴力の行使﹂の意義
三︑﹁暴力の行使﹂の違法性判断基準
結語 高橋保
はしがき
一︑憲法二入条は︑労働者の団体交渉︑
法は︑この憲法二八条の保障をうけて︑
731条)を規定している︒ 争議行為などいわゆる﹁団体行動をする権利﹂について保障している︒労組
いわゆる団体行動についての刑事免責(同法}条二項)と民事免責(同法八
本稿は︑﹁争議行為と暴力の行使﹂と題して︑この刑事免責にかかわる問題について考察したものである︒すなわ
ち︑労組法一条二項本文は︑刑法三五条の規定は︑労働組合の団体交渉その他の行為であって正当なものについて適
用あるものとするとしていわゆる刑事免責規定を設けているが︑同法一条二項但書は︑﹁いかなる場合においても︑
暴力の行使は︑労働組合の正当な行為と解釈されてはならない﹂として︑刑法三五条適用の否定︑つまり本文の刑事
免責を否定している︒この但書によると︑争議行為に﹁暴力の行使﹂がともなった場合には︑その争議行為は正当性
を欠くものとして刑事免責が奪われることになる︒したがって︑その場合の﹁暴力の行使﹂は︑争議行為正当性判断
にあたって︑その正否を論ずる重要なモメントにもなっていることになる︒他方︑労働者の争議行為といわれるもの
は︑同盟罷業(ストライキ)にはじまって︑怠業︑ボイコット︑ピケッティング等々︑その具体的な形態はまさにさ
まざまである︒但書の﹁暴力の行使﹂が︑争議行為正当性判断にかかわるとするなら︑右のような労働者の争議行為
全般・団体行動全般の正当性判断にあたって︑重要なモメントにもなりうるわけである︒したがって︑このような重
要なモメントになりうる﹁暴力の行使﹂については︑厳格な解釈が要請されているといわざるをえないであろう︒
一一︑しかし︑この但書の﹁暴力の行使﹂については︑これまでの学説・判例は余り重視してこなかったといえる︒こ
の問題についての貴重な先達者の論文が少ないこと︑判例においては︑争議行為の正当性を判断する過程で﹁暴力の
行使﹂についてかるがるしく推論しているにすぎないこと︑などはそのことの証左である︒そして困ることに︑近時
の判例は︑右のような状況のなかで︑不必要に﹁暴力の行使﹂の概念を拡大し︑ますます争議行為の正当性の範囲を
狭めつつあるのである︒
本稿は︑そのような状況を謙虚に反省し︑﹁暴力の行使﹂を中心として但書全般にわたって考察することを意図し
たものである︒
一︑労組法一条二項但書と刑法三五条 争議行為 と暴力 の行使
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一︑労組法一条二項は︑﹁刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は︑労働組合の団体交渉その他の行
為であって前項で掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする︒但し︑いかなる場合
においても︑暴力の行使は︑労働組合の正当な行為と解釈されてはならない﹂と規定している︒本条は︑労働者の団
体交渉︑争議行為などの団体行動について︑正当なものは国家権力から処罰されない︑といういわゆる刑事免責を規
定したもので︑いわゆる民事免責規定(労組法八条)とともに団結権の重要な法的保障機構であることには異論がな
い︒しかし︑労働者の団体交渉︑争議行為などの団体行動については︑既に憲法二八条で保障していることから︑本
条との関連が若干問題となっている︒それについては︑労組法}条二項は︑刑事免責についての創設規定ではなく︑
(1)憲法二入条の保障をうけた当然の確認規定にすぎないとするのが︑学説の大勢である︒周知のように︑労働運動の創
成期には︑国家権力からきびしい刑事弾圧が続き︑それに対しては労働者階級が不屈の斗争を展開し︑ついに国家権
力に対してその刑事弾圧を排除せしめ︑争議権などの保障を獲得してきたのは歴史的な事実である︒憲法二入条は︑
この過去の歴史的事実を表明したものである︒したがって︑憲法二八条の保障の中には︑当然刑事免責や民事免責が
包含されているとみなければならない︒また︑そのように考えると︑労組法一条二項の刑事免責規定は憲法二入条の
当然の帰結として︑刑法三五条の適用がある旨を注意的に確認したものにすぎないことになる︒
ところで︑労組法一条二項の法文をみると︑本文と但書とからなっている︒そして︑本文では︑刑事免責規定をお
き︑但書では︑暴力の行使について︑これを排除している︒すなわち︑労組法一条二項但書は︑﹁いかなる場合にお
いても︑暴力の行使は︑労働組合の正当な行為と解釈されてはならない﹂と規定しているのである︒もとよりこの但
書は︑一条二項の本文をうけて規定されているわけであるから︑その意味は︑労働組合の団体交渉その他の行為に関
してなされた暴力の行使は︑いかなる場合でも︑刑法三五条の﹁法令又ハ正当ノ業務二因リ為シタル行為﹂と解釈さ
れない︑不正な行為であるということになる︒周知のように︑この但書は︑昭和二四年の改正法によって付加された
ものであり︑改正前の旧労組法には︑このような規定はなかった︒そのため︑この但書が付加された立法趣旨や解釈
をめぐって問題が惹起することになった︒
まず︑この但書が付加されたことの立法趣旨であるが︑これについては︑﹁立法者のいい分は円旧法と実質的にはた
いして変らないというのである︒ただ従来労働組合の一部もしくは弁護士などのあいだで労働組合の正当な行為の意
味を非常にひろく解釈して組合の行為であればなにをしても罰せられぬという主張をしたものがあったので︑その意
(2)見をおさえるために︑注意規定として但書を付したというのである﹂とされている︒したがって︑もし但書の付加の
立法趣旨がそうであるとすると︑この但書は︑旧労組法において︑労働組合の団体交渉などに際して行われた暴力の
行使について︑刑法三五条の適用があったが︑改正後はこれをいかなる場合でも適用しないという国家意思を明白に
したものである︑ということではないことになる︒それのみか︑次の昭和二四年四月=二目法務庁検務局長の通牒か
らもわかるように︑むしろ旧労組法においても︑暴力の行使については一般に刑法三五条の適用をうけない不正な行
為であるとする見解に立っていたと解されるのである︒ところで︑この通牒は︑但書が設けられる前に出されたもの
であるが︑旧労組法︼条二項の労働組合の正当な行為について次のような行政解釈をしているのである︒
二︑労働組合法第一条第二項は︑いかなる暴力犯罪((U夙一bPOO剛く一〇一〇︺POΦ)(例えば︑殺人︑傷害︑暴行︑略取︑強盗
等)をも処罰から免れしめるように解釈することはできない︒
二︑暴力犯罪に限らず︑すべて他入又はその家族の身体︑自由又は財産に対して︑直接に有形の侵害(勺ξ︑陣︒山=〒
鼠護︒)を加える行為(例えば︑放火︑逮捕︑監禁︑誘拐︑交通に危険を及ぼすような鉄道施設又は標識の損壊︑建
争議行為 と暴力の行使
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造物損壊︑器物損壊等)又は行為の性質上︑当然の結果としてかかる侵害を生ぜしめるような行為(例えば盗水︑交
通に危険を及ぼすような鉄道施設又は標識の損壊等)は︑現行刑罰法規に該当する限り︑これを処罰から免れしめる
ように解釈することはできない﹂︒
かように︑少なくとも暴力の行使については︑旧労組法のもとでも︑いかなる場合でも刑法三五条の適用を排除し
ていたと思われる︒そこで︑右のことを念頭において︑現行労組法の但書に対しては︑どのように解釈されているで
あろうか︒学説の大勢は︑暴力の行使については旧労組法でも刑法三五条が適用されない不正な行為であるとされて
いた︑ということを前提にして︑この但書は︑何ら法律的に真新しい意味をもつものではなく︑ましてや労働組合の
(3)正当な行為に対して制限する規定でもなく︑単に注意的な規定にすぎないとしている︒例えば︑東大労働法研究会の
﹁労働組合法﹂は︑次のように解釈している︒
﹁本条二項但書は︑﹃いかなる場合においても︑暴力の行使は︑労働組合の正当な行為と解釈されてはならない﹄と
している︒この点については︑検察庁の通牒もでており︑この但書の追加に対して反対する見解もある︒しかし︑こ
れは不法な実力の行使を禁止するという当然のことを注意的に規定したに過ぎない︒というのは︑ここに︑﹃いかな
る揚合においても﹄というのは︑この但書が本条第二項をうけて規定していることから︑暴力の行使は︑いかなる場
合でも刑法三五条に︑いわゆる﹃法令又ハ正当ノ業務二因リ為シタル行為﹄と解されないという意味のものと解さね
(4)ばならぬからである﹂
右のように︑学説の大勢は︑但書を当然の注意規定として︑暴力の行使について刑法三五条の適用を排除している
のである︒しかし︑この学説の大勢の見解に反対する有力な見解がないわけではない︑すなわち︑暴力の行使に対し
て︑刑法三五条の適用を禁止することは︑理論的にも実際的にも無理であるとする立揚から︑﹁刑法三五条は︑要す
るに︑ある行為はたとえそれが犯罪構成要件に該当する場合でも違法性がないと認められる限り︑即ちそれが正当行