科目間の連携を考慮したカリキュラムの可視化システム
A Visualization System of University Curriculum Emphasizing Relationship between Subjects
情報工学専攻 益子 英俊
Hidetoshi Mashiko
概要
大学で提供されるシラバスでは,カリキュラムにお ける科目間の関連性を読み取ることは困難である.ま た,科目流れ図ではカリキュラムが一括表示されてい るため,個々の科目間の関係が読み取りにくく,また詳 細情報を同時に得ることはできない.本論文では,個々 の科目のカリキュラムにおける位置づけ,さらに,科 目間の関係とその詳細情報を同時に表示するシステム を提案した.
1 序論
現在,多くの大学でシラバスが導入されている.学 生は,シラバスから講義内容,講義計画,評価方法な どの情報を取得し,事前に履修計画を立てる.しかし,
一般にシラバスでは各科目自身に関しての詳細情報を 把握できるが,全体として特定の科目間に存在する相 互関係の把握は難しいことが多い.参考として,2次 元の科目流れ図もあるが,科目情報とは別の場所
(ペー
ジ)に記載されていることが多く,読み取りにくい.本論文では,大学のカリキュラムにおける各科目の 関連性を明示することによって,学生が効率的に学習 するための履修計画の支援を目的とする.そこで,専門 分野の学習の見通しを立てやすくするために,科目間 の連携を示しつつ,それがカリキュラムの履修の流れ の中でどの位置にあるのかを
3
次元空間中に可視化し,さらにその詳細情報を表示するシステムを提案する.
提案手法では,シラバスから作成した
CSV
データを 元に全ての科目に色と形状を与え,円錐面上に配置す る.このときに,関連のある科目同士を近い位置に再 配置し,その科目同士を直線で繋ぐことで関連性を表 現する.また,履修時期別に表示領域を指定すること によって,関連のある科目の履修の流れをより容易に 把握できる.そして,ユーザの対話操作に基づき,視 点の変更や特定の科目の詳細情報を表示する.2 既存手法
これまでに,カリキュラムを扱った可視化の研究は 幾つか発表されている.まず,シラバスの記述内容か ら専門用語を抽出し,分析することによって,カリキュ ラムの特徴把握を促進するシステムの研究
[1]
がある.これは,カリキュラム設計やカリキュラムの特徴を評 価する際に有用である.また,カリキュラムの科目選 択支援の研究として,オンラインシラバスから重要な 言葉を抽出して,科目間の関係や各科目の属性を可視 化する研究
[2]
や,類似の要素を用いてカリキュラムの 特徴を構造化し,その構造を可視化した東京大学における工学教育プロジェクト
[3]
などがある.このうち,工学教育プロジェクトでは,科目の文章データを解析 することによって,構造化,体系化を行い,構造に基 づく可視化を行っている.また,東京電機大学情報環 境学部では,ダイナミックシラバス
[4]
という時間割 の作成を支援するシステムを開発した.しかし,研究[2][3]
では,科目間の関係を知ることはできるが,同時に,その科目がカリキュラム全体の履修の流れの中で どの位置にあるのかを把握することはできない.また,
[4]
では,履修したい科目を選択することで,時間割の 重複などを確認できるが,科目間の関係を知ることは できない.3 提案手法
3.1
実現すべき機能カリキュラムを見る理由として,全科目の接続関係 またはユーザが指定する科目との接続関係の確認が主 であると想定する.このため,全体表示と局所表示の 容易な切り替え,ならびに,視点移動,特定部分の拡 大縮小機能を必要とする.また,科目の種類や開講期 などの基本情報と科目同士の接続関係は一目で理解で きる必要がある.さらに,必要に応じて指定科目の詳 細を閲覧できなければならない.
これらを実現するために,科目を
3
次元空間内に配 置し,連携する科目を直線で繋ぐ.そして,それぞれ の科目の場所に科目名を表示することにより,科目の 名称を把握できる.さらに,ユーザ入力で全体表示と 局所表示を切り替えて,視点を選ぶことができる.ま た,特定の科目を選択することにより,その科目に連 携している科目のみを表示できる.3.2
科目情報以下の科目情報がシラバスから読み取り可能だと想 定する.
•
科目ID
•
単位種別•
履修年次(1〜4
年次)•
単位数•
履修期(1:合同前期,2:合同後期,3:単独前期,4:
単独後期,5:通年)
•
前期後期関連科目ID
•
科目名•
前提項目(複数)
•
修得項目(複数)
なお,同じ科目で履修が前後期に分かれている科目が ある場合,それぞれ合同前期科目,合同後期科目とす る.また,対応する合同科目同士に共通の前期後期関 連科目
ID
を与える.3.3
表示方法ここで描画空間内において,xz平面を水平面,y軸 方向を鉛直方向とする.このとき,上方視点と中心軸 視点という
2
つの初期視点を用意し,視野角を2θ
に設定する
(図 1).上方視点は y
座標が正の場所から水平面に視線を向けて表示する視点,中心軸視点は
y
軸上 に視点を置き,視線を水平面に平行に回転させて周り を表示させる視点とする.また,それぞれの視点のと きに科目同士が重って見えることがないように,科目 を放物面上に配置する.早期に履修する科目ほど半径 の小さい円上に,そして低く配置されるように,基準 となる放物面を頂点が下になるように配置する.この 結果,上方視点の場合には,全体の様子を一覧表示し(図 2),中心軸視点の場合には,特定の科目と関係が深
い科目群を重ねずに表示する
(図 3).
各科目の特徴を識別するため,入力情報を元に色,形 を決定する.1年次履修科目を青色,2年次履修科目を 緑色,3年次履修科目をピンク色,4年次履修科目をオ レンジ色とする.4単位の必修科目を三角錐体,4単位 の選択科目を五角錐体,2単位の必修科目を球体,2単 位の選択科目を立方体とする.また,履修期が半期の 科目と通年の科目の識別は,色の明暗によって表現し,
通年科目は半期科目よりも明るく表示する.また,履修 年次が異なる連携科目を繋ぐ直線を黄色,履修年次が 同一の連携科目を繋ぐ直線を灰色で表示する.さらに,
前提項目,修得項目から,履修順序が逆の場合,当該 科目同士を繋ぐ直線を点滅表示し,注意喚起する.加 えて,上方視点のときに,各年次の科目名を前期と後 期で時間差を与えて表示することで,科目名が重なる ことを回避する.
図
1
視野角と逆円錐 図2
上方視点図
3
中心軸視点 図4
連携科目探索3.4
配置手順CSV
ファイルから科目データを取得し,手順に従っ て科目を配置する.履修年次を
grade,履修期を term
とする.取得した 科目数をn
とし,それぞれの科目をS i
とする(1
≦i
≦n).S k
の修得項目とS l
の前提項目が一致する場合,2 つの科目を連携科目とし,その一致項目数をI (k,l)
とす る.Si
の修得項目と一致する前提項目を持つ科目をS l
,S l
の修得項目と一致する前提項目を持つ科目をS m
と いうように,連携科目を図4
のように辿っていったと き,Si
の連携科目の総数を総連携科目数s i
とする.si
には,図
4
のS k
のようなS i
から見た下位層も含まれ る.科目S i
の配置場所のxz
平面への正射影の座標がx
軸とのなす角を配置角θ i
とする.Step1:
履修年次,履修期により円錐の中心軸からの距離
R (grade,term)
,放物面の頂点を含む水平面からの高さ
H (grade,term)
を決定する.図2,図 3
のように配置するために,
R (1,1)
<R (1,2)
<R (2,1)
<R (2,2)
<
R (3,1)
<R (3,2)
<R (4,1)
<R (4,2) (1) H (1,1)
<H (1,2)
<H (2,1)
<H (2,2)
<
H (3,1)
<H (3,2)
<H (4,1)
<H (4,2) (2)
とする.ただし,同じ履修年次において,合同前 期,単独前期,通年科目の3つと合同後期,単独後 期の2つがそれぞれ同心円上に配置されるように,R (grade,1) = R (grade,3) = R (grade,5) (3)
R (grade,2) = R (grade,4) (4)
H (grade,1) = H (grade,3) = H (grade,5) (5)
H (grade,2) = H (grade,4) (6)
とする.
まず,上方視点の視野角
2θ
を用いて,描画領域内 に1
年次前期科目から4
年次後期科目までが入る ように,R(4,2)
を視野内に表示されるように設定 する(図 1).次に,R (4,2)
を用いて,R (1,2) = R (4,2) × 1
4 (7)
R (2,2) = R (4,2) × 2
4 (8)
R (3,2) = R (4,2) × 3
4 (9)
R (1,1) = R (1,2) − R (1,2) × 1
3 (10)
R (2,1) = R (2,2) − R (1,2) × 1
3 (11)
R (3,1) = R (3,2) − R (1,2) × 1
3 (12)
R (4,1) = R (4,2) − R (1,2) × 1
3 (13)
とそれぞれ設定する.次に,中心軸視点の視野角
2θ
を用いて,描画領域内に1
年次前期科目から4
年次 後期科目までが入るように高さを設定する(図 1).
その他の履修期の科目に関しては,放物面上に配 置されるように,R
(grade,term)
から式(14)
を用い て高さを決定する(α
の値はH (1,term)
,H(4,term)
により決定).
H (grade,term) = 1
α × R 2 (grade,term) (14)
Step2 :
全ての科目について,I(k,l)
を計算する(1
≦k
≦n,1
≦l
≦n).
Step3:
総連携科目数の多い科目同士は共通の連携科 目を持つ可能性が高いと想定して,まず1
年次の 科目でterm
≧2
である科目を,総連携科目数の 多い順に等角度で円周上に配置する.term= 1
の 科目は,対応する合同後期科目と同じ角度を取る.例えば,対象科目が
8
科目のときは,k番目の科 目の配置角は(k − 1) 2π 8
とする(図 5).
Step4 : 2
年次履修科目に関して,連携する1
年次履修 科目の配置角の平均値を取得し,自身の配置角とす る.例えば,S i
がS a
,S b
,S c
と連携しているとき,それぞれの配置角から
S i
の配置角をθ i = θ
a+θ 3
b+θ
cとする
(図 6).後期科目は,同年次の前期履修科
目も対象にする.
同様に
3
年次,4年次履修科目に関して,前年履 修科目の配置角の平均値を取得し,自身の配置角 とする.図
5 1
年次科目配置 図6 2
年次以降配置角決定Step5 : 2
年次,3年次履修科目に関して,連携科目全 ての配置角の平均値を取得し,自身の配置角とす る.これにより,全ての連携科目を考慮したとき に,より連携しやすい位置に配置される.Step6: 2
年次,3年次,4年次履修科目に関して,履 修年次,履修期ごとに科目同士が一定の角度を保 つように配置角を修正する.すなわち科目名が重 ならないように,2年次,3年次,4年次履修科目 の間隔角度をそれぞれ6 × 360 2π
,7× 360 2π
,8× 360 2π
とする.これにより,配置角が接近し,科目と科 目名が重なって見えることを回避できる.Step7:
単位種別,履修年次,単位数により科目に形 と色を設定し,空間内に描画する.Step8 :
連携科目同士を直線で繋ぐ(3.3
参照).Sk
とS l
を繋ぐ直線の太さをI (k,l) × 1 2
とすることによ り,連携項目数の多い科目同士ほど直線が太くな り,強い関係を表す.3.5
操作機能図
7
のようなボタン操作画面を作成し,描画領域内 の視点移動と合わせてユーザが自由に操作できる.視 点切替はキー操作により行い,その後の視点移動,拡 大/縮小はマウス操作で行う.また,選択した科目はわ かりやすいように点滅表示する.選択した科目の連携 科目以外は色を暗くして注目部をわかりやすくする.図
7
ボタン操作画面3.6
特徴放物面上に配置し,履修年次,履修期ごとに配置半 径,頂点からの高さを変えることで,各科目の履修時 期がわかり,履修の流れを理解しやすい.これにより,
特定の科目を履修するとどのような分野へ繋がるのか,
特定の科目を履修し十分に理解をするためにはどのよ うな科目を履修することが望ましいのか,など履修計 画を補助できる.また,選択した科目の詳細情報を表 示することで,どのような分野の学習をするのかを知 ることができる.さらに,選択した科目を点滅させる ことにより画面上で自分がどの科目を選択中か確認で きる.選択科目の連携科目以外の色を暗くすることで,
連携科目群が明確になる.
4 シミュレーション
中央大学理工学部情報工学科の
2007
年度履修要項 を元にCSV
データを作成し実装した.可視化にはOpenGL
を利用し,動作環境を表1
に,処理時間を表2
に示す.表
1
動作環境OS WindowsXP
CPU Intel Core2Duo 2.00GHz
Memory 2GB
GPU NVIDIA GeForce Go 7600
解像度1680 × 1050
表
2
処理時間 初期配置時間[ms] 1796
科目選択処理時間[ms] 8
既存手法
[3]
とは異なり,ユーザ入力では科目の配置 場所を変更できないが,連携科目と履修年次,履修期 の同時表現により,履修の流れの中での科目の位置づ けをより明確に理解することができた.実際にシラバスを読み,履修計画を立てたことのあ る大学生
23
人から評価を得た.アンケート項目と結果 を表3
に示す.ここでアンケート評価の最高点は「5」である.良好な評価として,「選択した科目からの繋が りが瞬時にわかるのが良い」,「詳細表示と合わせると 科目の特徴がわかりやすい」などのコメントがあった.
ただし,「上方視点で全体表示のときに科目名が密集し ていて少し見にくかった」という指摘もあった.全体 表示の場合にも科目名を重ねずに表示するために,文 字の密集する角度
π 2
,3π 2
付近の科目名表示に工夫が必 要である.表
3
アンケート評価アンケート項目 評価点
5 4 3 2 1
総合的な見やすさ
8 14 1 0 0
前期・後期を把握しやすいか19 4 0 0 0
学年を把握しやすいか19 4 0 0 0
科目名の表示は見やすいか7 14 2 0 0
連携科目群がわかりやすいか19 4 0 0 0
科目情報はわかりやすいか17 6 0 0 0
操作のしやすさ11 11 1 0 0
処理時間23 0 0 0 0
5 結論
本論文では,大学の教育課程における科目同士の連 携に重点を置き,その関係をわかりやすく表示する手 法を提案した.指定した科目の詳細情報を表示し,その 科目からの連携科目をリアルタイムに表示できる.そ れにより,ユーザがどのように履修決定をすれば,専 門知識のより効率的な修得が望めるかをユーザが理解 する一助となる.
今後,評価の中で指摘のあった,全体表示のときの 科目名の重なりをさらに緩和するための改良が必要で ある.また,画面上で科目の配置場所をユーザが移動 できるようにし,ユーザの見やすい配置への再配置を 可能にすることが必要である.
参考文献
[1]
野沢,井田,芳鐘,宮崎,喜多, シラバスの文書 クラスタリングに基づくカリキュラム分析システ ムの構築 ,情報処理学会論文誌,Vol.46,No.1,pp.289-300,2005.
[2]
森,由谷,喜多, 大学教養教育における科目選択支 援 ,第6
回AI
若手の集い(MYCOM2006), pp.86- 89, 2006.
[3]
大場,「工学知の構造化と可視化」の試み−工学教 育に向けて− ,東京大学大学院工学系研究科,大 学評価・学位研究第1
号,pp.99-109,2005.[4]
土肥,中村,島田,川勝, ダイナミックシラバス の開発−情報環境学部におけるダイナミックシラバ スの開発− ,東京電機大学情報環境学部情報環境 工学科,日本工学教育協会工学工業教育研究講演会 講演論文集,pp.21-24,2001.関連発表
益子英俊,牧野光則, 科目間の連携を考慮したカリ キュラムの可視化 ,電子情報通信学会 第
19
回データ 工学ワークショップ,第6
回日本データベース学会年次 大会,2008年3
月10
日予定.図
8
詳細情報表示図
9
上方視点全体表示 図10
上方視点全体表示 ズーム図
11
上方視点選択表示 図12
上方視点選択表示 ズーム図
13
中心軸視点全体表示 図14
中心軸視点全体表示図