模型実験による地震時崩壊斜面流動メカニズムのエネルギー的検討
Energy approach for seismically induced slope slide by means of model experiments 土木工学専攻 17 号 木野村有亮
Yusuke KINOMURA
わが国は山地が多く,我々の生活の場が斜面 とかかわり合いを持つことが多い.そのため斜 面 崩 壊 が 斜 面 災 害 に な ら ぬ よ う に い か に 回 避 していくかを考えなくてはならない.それには 斜面崩壊の発生機構を明らかにし,適切な対策 を講ずる必要がある.
1.研究背景
これまで地震による斜面安定は, NEWMARK 法
1)そこで我々は斜面崩壊に対し,エネルギー的 アプローチを行うことで,簡便で適切な地震斜 面安定の評価法の確立を目的とし,そのため振 動台を用いた乾燥砂斜面の模型実験
や安全率などの土塊の力の釣り合いにより 評価されてきた.しかし,一旦大規模な崩壊が 起 こ っ た 後 の 土 塊 の 変 形 量 や 流 動 量 を こ の よ うな方法で評価することは困難である.
2),3)
を行っ てきた.本研究においては斜面材料として更に 流動性の高いガラスビーズを用い,既往の研究 との比較を行った.
実験装置の概略図を図-1 に示す.実験には長 さ 1700[mm]幅 400 [mm],高さ 500 [mm]のアク リル製の矩形土槽を用いた.まずは土槽を指定 の角度に傾け,土槽に空中落下法で地面に対し て水平な地盤を形成し,土槽の傾きを直すこと で一定の勾 配を持 つ模 型斜面にす る.そ の後,
ハ ン ド ル 式 引 っ 張 り 装 置 を 用 い て 初 期 変 位 u 2.実験方法
ip
今 回 の 実 験 条 件 は 斜 面 を 形 成 す る 試 料 に は ガラスビーズD
を与え,切り離し装置によって振動させる.そ の際引っ張り力,振動台の変位,加速度を計測 する.マーカーには試料と異なる粒径を持つビ
ーズ(鉛直マーカー)と色を付けたそば(表面 マーカー)を用いることで斜面表面と斜面内部 での挙動を 把握す る. また,実験 前後で レー ザ ー 変 位 計 を 用 い る こ と で 模 型 斜 面 の 形 状 変 化を計測した.
50
=0.125 ~ 0.18[mm](以後GBA),
ガラスビーズD
50=0.18 ~ 0.25[mm](以後GBB),
GBBと豊浦砂を 3 対 7 の割合で混ぜたもの(以 後GT),を用い自由減衰振動で振動を加えた.
振 動 数 は 振 動 台 の 自 重 を 変 え る こ と で f=2.0, 2.2, 2.7[Hz]と違いをつけており,板ばねを引 っ張る際の初期変位をu
ip=0.5 , 0.75 , 1.0 , 1.25 , 1.5 , 1.75 , 2.0[cm]と 変 化 さ せ た . 法 面 勾 配 は GBAで θ =18°と 23°,GBBで θ =18°と 22°
GTで θ =18°と 26°とする.勾配は安息角との 関 係 に か ら 各 試 料 に よ っ て 若 干 角 度 を 変 化 さ せている.以下は斜面のエネルギー的アプロー チから,斜面勾配の影響,振動数の影響,斜面 材料の影響について検討する.
なお,実験で用いる模型斜面の安息角を知る ために図-2 に示すような実験を行った
2).振動 台実験と 同様 に斜面 角 度 θ≒ 18 度 の模型 斜面 を土槽中に作製し,土槽の片側だけをリフトに より上昇させる.毎秒 0.01 ° 程度の割合でゆっ くりと土槽を傾けていき,斜面に滑り破壊が生 じた時点でリフトの上昇を止め,矩形土槽の傾
図 -2 安息 角実験装置 概略図
図-1 実験 装置概略図
き α を測定する.斜面角度 θ と土槽の傾き α よ り安息角 β(β= 18 °+α )を計算する.安息 角実験の結果を表-1 に示す.
図 -3 は エ ネル ギ ーバ ラ ンス 3.解析方法
4)
k 0 E =
を 示 し てい る.
これより崩壊後は土塊が静止しており,運動エ ネルギー となるため,
p EQ DP
E E E
δ
− + =
… 式 (1) が求まる.
図 -4 は実験により得られた振動台変位の時 刻歴を表している.変位の振動のピークを読み 取ることで対数減衰率 D が式 (2) より求まる.
1
1 ln 2
i i
D u
π u+
=
…(2)
また 1
02IP
2
E = ku
より,損失エネルギーは
2
1
12 2
i i
u u
W= κ + +
と求まることから,最終的に一波 毎の損失エネルギーは
∆ =W4 π
WDなる.また完全 に固定したコンクリートブロックによる
∆WBを 差し引くことで一波毎の振動エネルギーは
EQ A B
E W W
∆ = ∆ − ∆
と求まる. これは板ばねに吸収されたり,音 や熱などに装置によって損失するエネルギー を差し引くためである.また,表面マーカーの 水平方向移動量を平均したものを
δrsとする.
【4.1 角度の影響】
4.結果・考察
図 -5 は水平変位
δrsと振動エネルギー
Eeqの関 係を表している.
δrsと
Eeqの関係には,右肩上が りの傾向が表れている.これは水平変位
δrsが大 きくなるほど振動に寄与するエネルギー
Eeqが 大きくなることを示している.また,同じ材料 で二つの勾配に着目してみると斜面勾配が小 さくなるほど,同じ水平変位
δrsが生じるために 大きな振動エネルギー
Eeqが必要であることが 示された.また同様の傾向が他の材料において も同様であることが分かった.
【4.2 振動数の影響】
図 -6 は水平変位
δrsと最大加速度ACC
MAX0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 100 200 300 400 500
ACCmax (Gal)
δrs(cm) f=2.0Hz
f=2.2Hz f=2.7Hz
の関係 を表している.振動台切離し時に発生する最大
図 -6 水 平変位と最 大加速度 の関係
0 2 4 6 8 10 12
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
Eeq(J)
δrs(cm) GBA θ=18°
GBB θ=18°
GT θ=18°
GBA θ=23°
GBB θ=22°
GT θ=26°
図 -5 水 平変位と振 動エネル ギーの関係(角 度)
ui ui+1
Displacement u (cm)
Time (s)
図 -4 変 位の時刻歴 図 -3 エネルギ ーバランス
Earthquake energy
EEQ Potential
energy -δEP
Dissipated energy
EDP Kinetic energy EK
+ = +
Earthquake
EEQ:斜面崩壊に寄与する震動エネルギー EP :重力による位置エネルギー
EDP:斜面崩壊による土内部の消費エネルギー EK :崩壊土塊の運動エネルギー
表 -1 安息角実 験結果
細粒分含有率 質量 安息角
Fc(%) (Kg) β(°) tanβ
GBA 0.0 30.0 23.3 0.43
GBB 0.0 30.0 22.7 0.42
GT 0.0 30.0 27.0 0.51
豊浦砂 0.0 30.0 34.2 0.68
豊浦砂+細粒分 25.0 30.0 38.9 0.81
細粒分 100.0 30.0 43.0 0.93
試料
加速度は試験毎の変動が大きいため, 2 波目以 降の減衰曲線より 1 波目を外挿した.この結果,
最大加速度 ACC
MAXと平均変位量
δrsの間には,
振動数及び斜面角度毎に明瞭な相関関係は見 られる.しかし,振動数によりその関係は大幅 に異なる.
図 -7 は異なる入力振動数 f の条件でおこなっ たいくつかの試験結果に基づき平均変位量
δrsに対する振動エネルギー
Eeqの関係を図示して いる.変位量
δrsと振動エネルギー
Eeqの間に明確 な正の相関関係が見られ,しかも,振動数にほ とんどよらず, 図 -7 中の 1 本のカーブでほぼ近 似できる.よって従来の斜面安定解析で用いら れている加速度に代わり,エネルギーを用いる ことにより斜面変形が合理的に評価できると 考えられる.
【 4.3 斜面材料の影響】
図 -8 は水平変位
δrsと振動エネルギー
Eeqの関
係を表している.
δrsと
Eeqの関係には,どの斜面 材料においても右肩上がりの傾向が表れてい る.試料別に着目してみると GBB,GBA,GT の順にグラフ上向きに推移しており,これは同 じ変位でもより多くのエネルギーを必要とし ていることがわかる.
図 -9 は水平変位
δrsと基準化振動エネルギー
eq/
E Mg
の関係を表している.基準化振動エネル ギー
Eeq/Mgはエネルギーバ ラ ンス の 式 (1)よ り,
位置エネルギー変化
−δEpと水平変位
δrsの関係 の式(3)
p rstan
E Mg
δ δ θ
− =
…(3)
から求まる基準化質量 M と重力加速度 g を除 することで求まる.
水平変位
δrsと基準化振動エネルギー
Eeq/Mgの 間には非常に高い正比例の関係があることが わかる.また, θ が高いほど少ない基準化振動 エネルギー
Eeq/Mgで大きな変位
δrsとなること から,勾配 θ が高い方がより滑りやすいことが わかる.
このグラフの近似直線の勾配から等価な摩 擦係数 μ を求める.式(1)と斜面の崩壊が単純な ブロックとして考えることにより
( )
tan( )
EQ DP p
rs
E E E
Mg
δ
δ φ θ
= − −
= − …(4)
となることから,実験によって求まる振動エネ ルギー
Eeq,基準化質量 M ,重力加速度 g ,水平 変位
δrsより µ = tan φ として求まる.
これより,勾配が大きいほどより崩壊しやす いことが試料は異なっていても同様の傾向を 示している.また,それぞれの試料が勾配によ
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
Eeq/Mg(cm)
δrs(cm) GBA 18°
GBB 18°
GT 18°
GBA 23°
GBB 22°
GT 26°
図 -9 水 平変位と基 準化振動 エネルギー
0 2 4 6 8 10
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
Eeq(J)
δrs(cm) GBA θ=18°
GBB θ=18°
GT θ=18°
図 -8 水 平変位と振 動エネル ギーの関係
(異種材料)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5
Eeq(J)
δrs(cm) f=2.0Hz
f=2.2Hz f=2.7Hz
図 -7 水 平変位と振 動エネル ギーの関係(振動数)
μ= 0.63
μ= 0.71
μ= 0.62
らず,式 (4) から算出された μ が一定であること がわかった.
図 -10 は過去の研究においての豊浦砂や,豊 浦砂に細粒分を混ぜたもの( 以後 FC=25%),
細粒分のみ(FC=100%)を用いた実験結果であ る.これについても同様に μ の算出を行った結 果と,今回行った結果で算出した μ の値につい ては FC=100%, FC=25%,豊浦砂,GT,GBB,
GBA の順に大きい値を示しており, μ の値が大 きいほど滑りにくいことが分かる.
図 -11 は安息角実験によって求まる安息角 tanβ と等価摩擦係数 μ の関係を示したグラフ である.今回の実験結果の他に既往の豊浦砂や,
豊浦砂に細粒分を混ぜたもの,細粒分のみを用
いた結果を加えたものである. これによると,
両者の間には線形関係が見られる.これは安息 角 tanβ が大きい材料であるほど等価摩擦係数 μ が大きくなる傾向がある こ と を示 し てい る.
これより,本実験の様な一定の斜面勾配,一 様な斜面材料においては,等価摩擦係数 μ が簡 単な安息角実験によって算定できる可能性が あることが分かった.
○斜面勾配が小さくなるほど,同じ水平変位 5.まとめ
δrs
が 生 じ る た め に 大 き な 振 動 エ ネ ル ギ ー
Eeq
が必要であることが示された.
○ 振 動 数 に よ る 影 響 に つ い て 最 大 加 速 度 ACC
MAXと 水 平 変 位
δrsの 関 係 は 振 動 数 に よっ て 異な る .従 来 の 斜面 安 定解 析 では , 加速度を用いて評価してきたが,加速度の 値 は 必 ず し も 破 壊 に 対 し て 直 結 し て い な い. ACC
MAX○ 斜 面 の 変 形 に 寄 与 す る 振 動 エ ネ ル ギ ー E
を用いても斜面変位量を一意 的に決定するのは困難である.
EQ
と 水 平 方 向 の 斜 面 平 均 変 位 量
δrsの 間 には,振動数f によらない一意的関係が成立 することが示された.
○等価摩擦係数 μ は勾配には依存せずに,材 料 に よ っ て 一 定 値 を 持 つ こ と が 実 験 に よ り示された.
○ 以 上 よ り 流 動 性 の 高 い ガ ラ ス ビ ー ズ 斜 面 に お い て も 過 去 の 研 究 と 同 様 の 結 果 が 確 認できた.
○ 安 息 角 と 等 価 摩 擦 係 数 に は 線 形 関 係 が あ ることから,等価摩擦係数 μ が簡単な安息 角 実 験 に よ っ て 算 定 で き る 可 能 性 が あ る こ と が 単 純 な 斜 面 に よ る 実 験 結 果 か ら 明 らかとなった.
【 参 考 文 献 】
1) Newmark , N.W.:Effects of earthquakes on dams and embank-ments,
Fifth Rankine Lecture, GeotechniqueVol.15, 139-159, 1965.
2) 西 田 京 助:「 地 震 時 斜 面 変 形 量 の エ ネ ル ギ ー 的 評 価 法 の 開 発 」,平 成 19 年 度 修 士 論 文
3) 石 澤 友 浩:「 斜 面 の 地 震 時 流 動 量 の エ ネ ル ギ ー 的 評 価 法 の 検 討 」 , 平 成 18 年 度 博 士 論 文
4) 石 澤 友 浩 , 國 生 剛 治:エ ネ ル ギ ー 法 に よ る 地 震 時 斜 面 変 形 量 評 価 方 法 の 開 発 , 土 木 学 会 論 文 集 C,vol.62,
論 文 No.4,pp.736-746,2006
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2
μ=tanβ(45°)
μ
tanβ
GBA GBB GT 豊浦砂 FC=25%
FC=100%
図 -11 安息角と 等価摩擦係 数の関係
試料 GBA GBB GT 豊浦砂 FC=25% FC=100%
β(°) 23.3 22.7 27.0 34.2 38.9 43.0 tanβ 0.43 0.42 0.51 0.68 0.81 0.93 μ 0.63 0.62 0.71 0.86 0.94 1.07
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0
μ≒1.065
μ≒0.936
μ≒0.857 EEQ / Mg (cm)
δrs (cm) Fc=100%
Fc=25%
豊浦砂