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薬物の皮膚透過に及ぼす吸収促進剤と温度の影響

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Academic year: 2021

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薬物の皮膚透過に及ぼす吸収促進剤と温度の影響

著者 大原 長夫喜

学位名 博士(薬学)

学位授与機関 星薬科大学

学位授与年度 1995年度

学位授与番号 32676甲第61号

URL http://id.nii.ac.jp/1240/00000309/

(2)

氏   名(本籍)  大 原 長夫喜   (滋賀県)

学位の種類 

博士(薬学)

学位記番号 

甲第61号

学位授与年月日    平成8年3月16日

学位授与の要件    学位規則第4条第1項該当者

学位論文の題名    薬物の皮膚透過に及ぼす吸収促進剤と温度の影響

論文審査員  主査 教授 永井恒司

       副査 教授 高橋 

       副査 教授 高橋朋子

論文内容の要旨

 経皮治療システムは、皮膚を経由して直接体循環系に薬物を送達することを目的 とした薬物投与法であり、経口や注射などの他の投与法に比較して多くの利点が認 められている。しかし、皮膚は本来、外界からの異物の侵入や、体内からの水分の 蒸発を防ぐバリヤーとしての機能を有し、生体粘膜に比べると物質の透過性が低い ため、必要かつ十分な治療を行なうためには透過性の改善が必要となる。経皮吸収 において、一般的に律速となるのは角質層であり、この障壁能を一時的に低下させ、

薬物の透過を促進する方法は種々考えられているが、そのひとつとして吸収促進剤 を用いる方法がある。これは皮膚に直接的に作用させることにより、その障壁能を 低下させるもので、化学的手段としては簡便かつ容易で応用性にも優れている。

 近年、単環モノテルペン類の経皮吸収促進作用について多くの研究が行なわれ、

4一リモネンを始めとする炭化水素系モノテルペンが薬物の経皮吸収に対して、 強い 促進活性を示すことが見い出されている。しかしながら、一種類の吸収促進剤で事 実上十分な活性を得ることは難しい。そこで著者は吸収促進剤を併用のもと、外部 から温熱を適用することによる経皮吸収の改善を試みた。また、経皮吸収促進剤と 温熱の適用における併用効果の機構について検討し、皮膚刺激性や製剤化する上で の最適条件の探索も行ない、以下に示す所見を得た。

 肋v⑪o吸収実験において、4一リモネンと温熱を併用した時のケトプロフェンの透

1一

(3)

  1」       過速度(1〜p)は、ある温度に変曲点  急(L9      を持つシグモイド型の関係が認めら  ε 喜       れた(Flg. D。透過速度が上昇し始

 8(,5

 §       める温度は、各処方( ムリモネンを

 §(13

 £IL1       0.5%、1.O%および1.5%含有するゲ

         メ     ハ    ぴ     

       TCmpc「atu「e(°C)       激に上昇し始める温度とほぼ一致し

 Figコ  Rctationship berwccn ra1e ofpenetration and

 temPe「atu「c on the Pe「cutancous abso「Ptiomn mL    た。したがって、∂一リモネンの経皮吸

 (O)col rol,(▲)0.5% 1−hlnonene.(ロ)LO%4−limollene,

 (●)L5%ぱlimonene       収促進作用は、外部から温熱を適用

することによって飛躍的に増大し、両者間に相乗作用のあることが確認された。

 輌ηv〃rσ透過実験においても、温度の上昇に伴いケトプロフェンの透過量が顕著 に増大した。定常状態より求めた透過係数(P)値も温度の上昇とともに増大し、4一 リモネンと温熱の併用による皮膚透過の促進が確認された。∂一リモネンを含まない 系においては、P値のアレニウスプロットは良好な    」

直線性を示し、透過の活性化エネルギーは

      ・¶

113.7kJ!molであった(Fig.2)。これに対し、拓   窒ふ リモネン1.5%を含む系では、P値のアレニウスプロ    ・・

ットが上に凸の曲線となり、高温側での傾きが低下

する結果となった・これは副モネンで盲∬処理した   ㌦:1。・  5

皮膚では、薬物の透過ルートが温度の上昇とともに Fi9 2 Aπhenius Plots ofthe steady s(ate

       permeability c㏄mcient of ketoprofen. Each

何らかの構鮫化を起こしているためと酬され需蒜閲蒜隅留晋蒜。,

た。また、これに対応した皮膚表面の形態学的な変化も確認された。さらに前処理 に伴うドナー側への脂質の遊離を測定した結果、セラミド、コレステロール、およ びリン脂質等の遊離が認められたが、遊離量はごくわずかであり、皮膚の構造を著

しく破壊することはないと考えられた。

 透過機構の解明を目的とした加v加・o透過実験では、皮膚透過経路を疎水性物質 が透過するnon−polar pathwayと親水性物質が透過するpolar pathwayに大別するこ とにより、透過挙動を比較検討した。その結果、疎水性物質(プレドニゾロンおよ

(4)

びケトプロフェン)のP値のアレニウスプロットは、 ムリモネンを含まない系では 直線となった(Fig.3)。これに対し、4一リモネンを分散させた系では、いずれの薬

 一3  −4 ご5

吉㊨

 ・7

 ・8

 ・9

5.0

5、5

6.5

      ・7.0

  3.1   3.2   3.3   3.4   3.5        3コ   3.2   3.3   3。4   3.5

      〃TxlO3       11T×103

Fig.3 A1Thenius plots of steady state permeabiUty coefficients(P)of lipophilic penetra1

物においてもアレニウスプロットは上に凸となり、4一リモネンによりnon−polar pathwayの構造変化が惹起されたことが確認された。また適用温度が高くなるほど この変化も大きくなり、より抵抗性が減少する方向へと角質層の形態が変化し、拡 散性が増大していることが示唆された。また、オレイン酸を吸収促進剤として用い た場合は、P値のアレニウスプロットは直線となり、オレイン酸によるnon−polar pathwayの構造変化は起こらないと考えられた。一方、親水性物質(D一グルコース およびイソニアジド)のP値のアレニウスプロットは、4一リモネンもしくはオレイ ン酸に限らず、いずれにおいても良好な直線性を示したことから、これら促進剤に おけるpolarpathwayの構造変化は惹起されないものと考察された。以上の結果より、

促進剤として 1一リモネンを用い温熱を併用した場合、疎水性薬物の皮膚透過におい て特に相乗効果が認められ、その有用性が認められたが、オレイン酸においては温 熱併用時でもさほど透過の改善は期待できないことが示唆された。

 ゲル軟膏を用いた皮膚刺激性は、皮膚切片を組織学的に分類することにより評価 した。その結果、 ムリモネンが低濃度の場合、ほとんど刺激はないが、濃度の増大 および適用温度の上昇により刺激性が増大した(Fig.4a)。一方、オレイン酸にお いても同様の傾向が認められたが、4一リモネンと比べて比較的低濃度でも刺激が現 れ、全体的にオレイン酸のほうが皮膚刺激が強かった(Fig.4b)。また二元配置の

3一

(5)

分散分析を行なった結果、4一リモネンと温

       20度もしくはオレイン酸と温度の交互作用   1,ω       15

は・轍の増大に対して・いずれも危険率 計  _繍的 1%以下で酬に礁な値を示した.さら  ・…蓼i墾  {。

に、剃モネンでは礁されなかった噛  ・英◇⇔ 〉

付属器官の変性がオレイン酸にのみ観察

       ooされたことから、オレイン酸は皮膚付属器   、,伽 官に強く作用することにより、親水性薬物   21°

の透過を促進する可能性が示唆された。    ・◇ζ》

 最後に最適化法を利用するこ臼・より   で ◇⇔

吸収促進作用と皮膚への安全性をともに      ち ゜

      Fi3・4  1 ot:、l irritatioo scorc(TIS)of∫at skin at 6 h altピr appllcation退

満足する両システム(剃モネンを含む系懸ぽ㌫寵蒜ぱ=瓢ぽ㌫b・嵩1

とオレイン酸を含む系)の至適条件を推定し、相互に比較した。得られた同時最適 解(Table l)より、 f一リモネン、工タノールおよび温度の併用系はケトプロフェン の経皮吸収に対し、優れた促進作用を示すが、比較的刺激性の強い条件であること がわかった。一方オレイン酸の系では、皮膚刺激性はさほど強くないものの、吸収 促進作用はかなり弱いことが確認された。

       Table l

またどちらの促進剤においても、特性値の   RcsPonse vahables ofthe oPtimd condition

      Response       Predicted Expedmental泊

予測値と実測値は高精度に一致した。さら

      φLimonene  尺p   O.954  0.999±0.16

に、各特性値の同時最適解を制約条件とし      TIS lO・4  16・8±0・80 て設定し・各促進剤における特性値の最適゜leic acid 撫1:li°°蒜1:;;

化を再度実施した。その結果、オレイン酸   a)Reprcsentedぷthe mean±S.D. fo所ve        detern、inations.

で4一リモネンと同等の促進活性を得よう

とすると、皮膚刺激は著しく増大することが予測された。また4一リモネンでオレイ ン酸と同等の刺激性に抑えると、強力な促進作用はほとんど得られなくなるものと 考察された。

(6)

参考資料

D−107 大原長夫喜

参考資料1

      40  05914Limonene    40  10%4Limon㎝e    40

5

8

1.5%メL㎞on㎝e

    0      0      0

      02468 02468 02468

      Time(houO     Time(h。uO     T㎞e(hour)

Comblned effect of dLlimonene and temperature on the percutaneous

absorption of ketoprofen ln rats (▼)24℃,(ロ)26℃,(▲)28℃,(O)30℃,(◆)

32℃,(▽)34℃,(■)36℃,(△)38℃,(●)40℃.

参考資料2

1.1

    ウ

!・・

1:

・ξ。1

      4).1

       20    25    30    35    40       Temperanlre(°(O

Relatlonshlp between penetration rete and temperarute on the percutaneous absorpUon

ln rats  (O)Contml,(▲)0.5%41imonenC(口)1.0%φ 1imonene,(●)1.5%41imonene.

一  5 一

(7)

参考資料 3

3

  ・5

』 ,6

 ・7  ・8

5.o

5.5

3.1   3.2   3.3   3.4   3.5        3.1   3、2   3.3   3.4   3.5

    11Tx10⊃      VTx1《P

      Arrhenius plots of steady state permeability coeHicients

      (P)of l|poph川c penetrants

参考資料4

      4       δ

5

島.7

 ・8

9 10

10      ・11

 3.1   32   3.3   3.4   3.5      3」   32   3.3   3.4   3.5

      11rx1{戸      1/Tx103

Arrhenius plots of steady state permeabHity coefficlents

(P)of hydrophlllc penetrants

参考資料5

Total lrr|tatlon scores(TIS)of rat skin at 6 hour anerapplication as a

function of penetration enhancer concentration and temperature

(8)

参考資料6

Optimal oondition of d』1imon㎝e and oleic acid systems for血r㏄factors

ぱLimonene  Oleic ack1

X1(Ethano1)      40.9%     23.0%

X2(Enhancer)      2.86%     2.19%

X3(Temr頗【u促)  37.8℃    39.7℃

参考資料7

Response vadables of the optimal condidon

Response      Prcdic止d Experimenta1め

φ1」monene Rp   O.954  0.999±0.164

       TIS   10.4     16.8± 0.80

Oleic acid   1〜p    O.620   0.623 ±0.168        TIS   6.83    7.20± 1.30

゜)Rep即csented as the mcan±S.D fbr five determinaUons.

参考資料8

ω      10       10

ひLlm㎝舗6   ◎ldc ac囮      d・Llπゆnene   Old6 acld

     φUmon㎝e    Ole{c●cld       《刈」mon紺e    olde 8dd

Trade・・off analysls of月p and TIS ln d・llmonene and

olelc acld systems

一  7 一

(9)

論文審査の結果の要旨

 本論文は、薬物の皮膚透過に及ぼす吸収促進剤と温度の影響について検討を 行なったものであり、以下の内容からなる。d一リモネンを促進剤として用いた 場合、疎水性薬物が透過するnon−polar pathwayでは、角質層の脂質遊離等に よる構造的な変化に起こし、また適用温度を変えると異なった変化を起こすこ とが考えられた。このことはSEMによる皮膚表面構造の変化からも確認された。

すなわち、温度上昇により、抵抗性が減少する方向へと角質層が変化を起こし ていると考えられる。しかし、このような変化は薬物の皮膚透過速度に対して 必ずしも有効ではなく、特に高温においては皮膚の構造変化が律速となり、温 度の影響が小さくなるものと推測される。したがって疎水性薬物の皮膚透過の 機構は、角質層の構造変化および温度上昇に伴う皮膚内拡散の増大が主な透過 促進の機構であると考察された。一方、親水性薬物が透過するpolar pathway では、d一リモネンと温熱の併用による異なる温度間での構造変化の相違はなく、

温度上昇に起因する拡散性の改善が重要な透過促進の機構であると考えられた。

これに対し、オレイン酸を促進剤として用いた場合、norpolarもしくはpo−

lar pathwayを問わず、温度に対して比例的に透過が増加する結果となり、構 造の変化は認められなかった。したがって、オレイン酸による皮膚透過は、透 過ルートに関わらず、温度上昇による拡散性の増大のみが透過促進の機構であ

ると考察された。

 d一リモネンおよびオレイン酸の皮膚刺激性は、温度の上昇もしくは促進剤濃 度の増加とともに増悪した。またオレイン酸適用では、皮膚付属器官に変性を

きたすことが確認された。両促進剤により惹起される刺激性と促進活性を考慮 した場合、温熱とd一リモネンの併用は刺激が少なくかっ十分な活性を得ること ができると考察された。

 さらにヒドロゲルの処方最適化を試みたところ、工タノール、d一リモネンお よび温熱適用の組み合わせは高い吸収性があり、かっ皮膚刺激性もある程度回 避できると考えられた。また温熱併用に適した促進剤が存在することが示され たことから、異なる吸収促進剤に対して同様の実験を行なうことにより、対象 となる薬物に最も適した促進技術の開発が可能であると考えられる。

 以上の内容は新規性が高く、正確に記述され、表現上問題もない。よって博 士(薬学)の学位論文として合格と判定した。

参照

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