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(1)

   技術進歩と人口収容力

      高 本 尚 文

     一 序

 人口の急激な増加が齋らしている経済後進国の経済停滞の現状は︑まさに古典的なマルサス人口理論が今日な

お有効に生き続けている唯一の場として注目されているところである︒この問題は人口理論︑経済理論の分野に

おいて等しく採り上げられている重要な人口学的︑経済学的問題の一つであって︑経済後進国のテーク・オフの

問題として数多くの学者の研究があることは周知の事柄である︒その数ある研究の中にあってS・C・ツァンの

論文は︑他の新古典学派の経済成長モデルとは全く趣きを異にするとともに︑そのアプローチの仕方においても

注目すべき論文であろう︒

 凡そ従来の新古典学派の多くが経済成長を取り扱う場合︑人口成長率を外生的に所与としていること︑成長の

阻害要因として土地︑天然資源をモデルに組み入れていないことは経済成長問題のもつ人口収容力という側面を

   技術進歩と人口収容力

−17−

(2)

捨象しているといえよう︒この点が従来の経済成長論におけるモデルが人口学者の注目するところとならなかっ

た大きな理由であろう︒そこで経済成長モデルを人口収容力という観点から組みたて直すとき︑人口と経済との

間の相互関係のメカュズムがモデルを通して解明されるものと期待され︑それこそが経済成長論の今後志向すべ

き︑方向であると思考する︒そのときこそ経済成長論が人口学の基本的問題の一つを経済理論のなかに包摂する

ことになろう︒経済学の側において人口を経済の内生変数とする試みがなされるとき︑経済学は新らしい分野を

もつことになる︒それはさて措き︑これまで経済成長論が成長を論ずる場合︑経済の初期段階の問題としてたと

えば経済後進国のテーク・オフのモデルを︑また先進経済国の成熟段階における成長モデルについては︑別個に

それに相応しい前提を設定して論ずる等︑各々個別にモデルを作成してきたように思われる︒これに対して彼の

成長モデルでは︑経済が初期段階からテーク・オフに成功して成熟期に入り︑ロビンソンの所謂黄金時代を自己

持続的に達成してゆくまでの過程を一つのモデルのなかで取り扱っている︒詳述すれば︑経済がその成長過程に

おいてつぎの段階へ進む条件を自ら醸成しながら最終段階に黄金時代を築き上げてゆく過程を︑内生化された労

働の成長︑特異な貯蓄関数︑テーク・オラにおける技術進歩の役割を貯蓄行動の原理によって明らかにする等幾

多の注目すべき特徴をもっている︒しかしそれだけにまた難解であることをまぬかれない︒さらに彼のモデルに

は生産関数が二次同次であるため経済成長に関係の深い産業構造の変化が組込まれていないこと︑土地︑自然資

源の成長率をゼロと仮定していること︑そのためにそれらが経済成長にどんな影響を及ぼすかが彼のモデルでは

明らかにされていない︒しかし以上の観点からのモデルの修正は数学的には極めて簡単で全く彼のモデルとパラ

レルに論旨を進めてゆくことができる︒しかしこの数学的には簡単な修正が経済的には新しい意味をもってくる

― 18 ―

(3)

という意味において必ずしもメリットがないわけではない︒そこで難解な彼のモデルを経済の成長段階とそれに

相応しい技術進歩を組み合わせることにょって再編成してトレースしながら︑修正されたモデルの展開を試みょ

う︒これがこの小論の意図するところである︒

     ニ モデルの基本構造

 まずモデルは一部門モデルである︒生産関数はコブ・ダグラス型

 この事柄についてツァンの原論文では︑終始規模による収益一定を仮定しているのであるが︑前述したように

論文の趣旨が一国の経済の初期段階からテーク・オフの時期を経て成熟期にいたる間のプロセスを分析すること       ㈲にあるから︑当然の帰結として︑コーリン・クラークの﹁経済進歩の諸条件﹂をモデルのなかに組み込むべきで

−19−

(4)

あろう︒この意味においてδ項の導入は単なる数学上の拡張ではなく経済的意味を内包するところのモデルの完

備化への一道程である︒

 さらに彼の原論文では土地︑自然資源を表わすNを一定と仮定しているが︑経済発展の段階を詳細に観察する

と︑山一の生産関数に組み込まれているNは︑その時点において生産に稼動されているNを意味していると解すべ

きであろう︒もしそうだとすれば︑Ⅳが経済の拡大に伴ない開拓その他の方法である率で増加してゆくと仮定す

る方が合理的でむしろNを一定とみなす方が不自然な場合に属する︒さらに資源賦存量希少国が対外貿易により

希少資源を輸入により調達してゆくことの可能性が︑経済発展につれて増大してゆくことを考慮に入れるとき︑

もとよりこれは技術進歩が齋らした果実として︑この効果を技術進歩の項に含ませることも一理があるであろ

う︒しかし彼の論文では︑技術進歩をいくつかの範ちゅうに分類して︑それらが経済成長に寄与する役割をみよ

うとすることに大きな意義があるわけであるから︑技術進歩が聳らす効果をできる限りふり分けて表現すべきで

あろう︒この意味においてyに増加を認めることとし︑このモデルではその成長率を心の関数としよう︒したが

ってと仮定し︑Nの成長率nを外生的に与えることによって成長の阻害要因としての役割をもたせることとする︒

 つぎに簡単のために︑労働は総人口の一定割合と仮定すれば︑労働成長率は人口成長率である︒ここで人口成長

率心は実質賃金率の関数で人口はネオ・マルサス的とする︒すなおち1はある生活水準に達するまで逓増し︑最

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(5)

大値Eに達し︑以降ある所得水準に達するまで逓減し︑再び増加に転ずることも考えられる︒  / われわれのモデルでは︑利潤極大の原理と資本︑労働の各市場における完全競争を仮定することにすれば︑実

質賃金率は労働の限界生産力に等しいから

−21−

は︑一人当り所得T︑総所得のうちに占める労働階級への所得の分配率βおよび資本の限界生産カハの関数と

仮定すれば つぎに貯蓄行動を規定するものとして労働一人当りの貯蓄量

(6)

    三 モデルの基本性質

     うまず生産量yの成長率タは     ぐ

−22−

(7)

 一Sの性質︵貯蓄行動の原理︶

 純貯蓄の供給は︑無限の将来に亘たる期間の所得の流れを購入する総費用と見なされる︒この場合一期間当り

例えば二︑〇〇〇円の所得を生ずる貯蓄額を単位とし︑これをPで表わせば︑単位P・は資本の限界生産力n︵理

論的には市場利子率に等しいはずである︶に対して

      P=1。000/Yk

で表わされる︒

      f      l さて期間︵t。  t+At︶において社会が需要するところの︵純︶貯蓄総額心︵円︶を単位?で測った量を﹈一一とす

れば

      S=PZ

である︒

 いま社会の構成単位︵企業︑家計︶の一つを・犬1 < i >m︶で表わすとき

      Z=2i十ぶ十⁝⁝十M∃aMか

である︒

 さ9:社会の構成単位・−−︵ i =1。 2。 ・・・。w︶の各々にとって︑その消費行動の場において種種の財E︑y︑゛゛゜︑ 匹

  1      I      I⁝︑ぶにZを加えて刄個の財と考えれば︑それらの効用は互に競合する︒いま一い﹈の単位価格を戸とし︑zの価格

  X      ・︱は?であるから︑構成単位・zの所得を茜とし︑匹財を八︑Zを恥購入するとすれば

−23−

(8)

−24 一一

(9)

によりaQは一般に負と考えてよい︒したがって社会の総貯蓄額がOまたは負値のとき︑利子率の上昇に伴な

うJSの変化率は

 またISが相対的に小さく︑個々の瓦の分散が大きいI多くの経済後進国のようにI場合にも不等式㈲は成立

するとみてよいであろう︒

 関係武闘を貯蓄に関する利子率の弾力性心で表わせば

−25−

 前沢における右辺の第2項は韮が常に負債であるからS︑したがってI︵ヽ︶が正のとき負である︒また第二唄所      ぐ得効果の部分はJSが正でしかも心︑心に比べてきわめて小さいときは心び9△cであるから正と考えてよいで

あろう︵後進国の場合︶︒特に

(10)

以上の結果を一括しておこう︒

 以上︑㈲を誘導する過程を詳細に述べたのは︑式㈲が彼のモデル分析において重要な武器となっているので特

に誘導の過程を明らかにしておきたかったからにほかならない︒そこで㈲において後進国の場合としてISがき

わめて小さいというとき︑その誘導の過程からみてISの限界が明らかでない︒しかも後でおかるように︑実際

にはテーク・オフ以前の時期に適用しているのである︒したがって︑経済のテーク・オフ以前の段階における貯

蓄行動を㈲を前提とすることの妥当性を吟味したのだと解すべきであろう︒したがってわれわれは貯蓄関数が㈲

の性質をもつものと仮定する︒

     四 モデル分析に用いる戦略関数

 われわれのモデルでは貯蓄は純貯蓄とし︑それはそのときの投資量に等しいと仮定しているから

―26ー

(11)

 これら︷Sとμをモデル分析における戦略関数として用いる︒

 さてIS︑μはL︑一Sの関数形の㈲および㈲による定義によって︑労働量D︑土地︑自然資源量幻および技術

       ぐ      ぐ水準を所与とするとき︑換言すれば︑ある経済が時点0から経過して時点Tに達したとき︑その経済がもつ時点

7におけるそれぞれの値

を固定すると︑式Iからyはrのみの関数となる︒この式において時点Tにおけるそれぞれの値勁の下でrを

種々に変化させて対応するyの値が求められる︒したがって㈲︑㈲から7時点の水準を仮定したときのIs︑μ

     −      −曲線︵以下哨︵r;T‑︶。rKr;T‑︶または単に妬︵9yこ︵ごとかく︶を︑横軸にrをと

って描くことができる︒

 μとrの間の関係は第一図に示されたような形状を示すであろう︒すなわち︑

一Yがきわめて低い水準︑したがってrのきわめて小さい値に対して1は負である

からμは負で︑Tが増大するときしたがってrが増大するとき次第に増大して

ある極大値をとる︒〜の極大値はバ曲線が原点からひかれた︑半直線に接する点

において達せられ︑その直線の傾きはvmaxである︒その点を経過すると︑バ曲線

は逓減に転じ︑最小値をとったあと︑再び逓増傾向をもつことも考えられる︵戦

後のU・S・Aの経験︶︒

―27ー

(12)

     j つぎにげ曲線は第一図に示されているょうIに縦軸上原点より下の点からスタートし︑rの増加にともなって

単調に増加する曲線を示すが︑一人当り資本量の増大につれて︑一人当り貯蓄額の増加率は減少する︵資本の限

界生産性の逓減法則にょり︶と考えられ︑このょうに仮定される︒

 以上両曲線の性質を考え合せて第一図に図示されている︒第一図に描かれているように︑両曲線は一般的に交

点1︑2︑3︑4をもつ︒これらのうち点2および4は安定的均衡点であり︑点1︑3は不安定均衡点である︒

しかし両曲線とも前述したごとく︑T時点における状態を固定化した曲線であるから︑あくまでフィクショナル

であることに注意すれば︑偶然経済が7時点において点2に位置しても︑時の経過にしたがって経済はなお流動

するわけである︒いま経済が偶然点2にある場合を想定し︑この場合点2を含めて両曲線がいかにシフトするか

を吟味しよう︒この場合時点7の状態のまま固定化した状態から︑時間的経過があるときは︑すべての要素が変

化することになるが︑点2の状態のみが現実を表わした変位を示している︒そこでシフトした曲線ともとの曲線

上で同じ高さ︵縦座標︶をもつ点のr座標の相対的変化にょってシフトの状態をみょう︒

― 28 ―

(13)

−29−

(14)

     五 経済発展の初期段階

 この段階では最初技術進歩はなく︑単に成長の阻害要因の拡大につとめている未発展の経済社会であるとし︑

いま2のような一時安定均衡点に経済が位置しているとしよう︒この段階では技術進歩はないと仮定されている

がNの成長は認められているとする︒すなわち

―30―

(15)

の原点からの半直線上に位置することになる︒

 うえの安定均衡点への移行の分析は︑最初の点2が横軸の下方に位置している場合にも︑曲線の左方向へのシ

フトが起こり︑交点を左上方へ押し上げてゆくことを除けば前と同様である︒

 この均衡点においては︑対応するrが以後一定となるから資本・人口比率は二定すなわち資本は人口と同一の

成長率をもち︑一人当り生産量も式Iにより一定となる︒この事柄は︑v﹈の成長があっても︑その成長率に見合

う増加が︑人口の増加によって消尽されることを意味し︑ここでの均衡は︑何等生活水準の上昇を齎らさない︒

―31―

すなわち第2図に描いているように均衡点は原点からの傾きが が大であるから第2図に示しているように交点は下向しのとき︑両曲線の右方へのシフトは停止する︒そして両曲線の交点における人口の成長率は

(16)

特にn^§=0のときは古典的定常状態を呈することになる︒

 なおここで注意すべきことは︑われわれのモデルでは︑基底の生産関数をコブ・ダグラス型生産関数にとって

いるため︑土地︑自然資源に成長率gを認めることは︑中立的技術進歩μかあるのと同等の効果をもつわけであ

る︒そしてこのことはコブ・ダグラス型生産関数の形から直に直観されることである︒しかるに敢えて中立的技

術進歩と併用して︑土地・自然資源の成長を認めた︵導入した︶のは︑逆にわれわれのモデルにおける中立的技

術進歩の役割を明らかにして︑経済発展の初期段階において技術進歩が起こるとすれば︑そしてこの事柄をロス

トウも認めているのであるが︑その技術進歩は中立的技術進歩であると仮定することの妥当性を示したいと考え

たからである︒

 さてわれわれはこれまでμを便宜上一定と仮定して︑この値に対する生活水準一定の成長均衡点の存在をみ

      ーた︒しかしNの成長率nが時間?とともに変化すると考えるのがより一般的であろう︒そこで帥を段階的に変化

させることによってその間の均衡点の移動の様相を明らかにしよう︒

 いまnにコンスタントの量の変化︵たとえば増加00︶が起こったとしよう︒そのときぽ︑ぱの右辺の分子がOで

あったのが︑ともに

     res‑)。 riri) ︵D^^=︱rm

となる︒したがってμ︑一S曲線はともに左方へ水平シフトすることになるが︑らの分母がりのそれよりも大であ

るから︑前と同様にして

     s9△こ︶△0

―32―

(17)

が成立する︒したがって両曲線の交点は左上方ヘシフトする︒そして経済

は新たな成長均衡点に位置することになる︒このような中立的技術進歩卒

は余り大きいとは考えられないが︑もしかりにnが

忿   Jぶいー∇max

ならば︑経済は第3図に示すように︑交点2︑3が1点に収束し︑その収

束点においてμ︑一S曲線が接点をもち︑このようなメカニズムによって経

済はテーク・オラに成功することになる︒しかしこのようなことが起こる

とは容易に考えられない︒

     六 テーク・オフと偏向的技術進歩

 第一図をみればわかるように︑テーク・オフをなし遂げるには︑経済が低い水準の安定均衡からμ曲線の隆起

を登りつめてつぎの不安定均衡点3へ移行することである︒しかし前節において少しくふれたように︑その条件

の貫徹は︑技術進歩が人口増加による生産性への圧迫を克服するに充分なほど強力で︑その力によってIS︑μ

曲線が互に接するまで両曲線を漸次上昇的にシフトさせることであった︒しかるに経済発展の初期段階に自然発

生的に最初に生起する中立的技術進歩だけでは︑テーク・オフの条件を満たすには相対的に非力であった︒そこ

でっぎに採り上げられるのが偏向的技術進歩である︒この偏向的技術進歩にも周知のように二種類がある︒資本

偏向的と労働他向的のそれである︒これらのうち労働偏向的なものをあとにし︑まず資本偏向的技術進歩をとり

―33―

(18)

あげよう︒

 資本偏向的技術進歩

― 34 ―

さて同じく資本偏向的技術進歩といっても詳しくは

前述のように︑われわれの資本偏向的技術進歩は

であるから︑しかもこの技術進歩が適用される経済の状態においては

と仮定して差支えない︒しかるに

により︑式ぱの右辺の分子の丸括弧内の値は正である︒しかもこの資本的技術が適用される経済が成長均衡点に

(19)

 またもし資本偏向的技術進歩が適用される時期に産業構造がすでに農業から工業にウェートが移っていると仮

定できれば︑すなわちδが負値をとっていれば︑1の増加による1の逆効果を軽減することになる︒

 労働偏向的技術進歩

 筆者は第二節㈲によって貯蓄関数一Sを規定したが︑その箇所においてS・C・ツァン︑特に大方の見解と同

― 35 ―

 したがってIS曲線はμ曲線より左方向へ大きくシフトする︒この場合バ曲線については右方にシフトするこ

とも当然考えられる︒したがって両曲線の交点は︑前と同じ論法でおし上げられることは明らかである︒しかも

ぱの右辺の分子をみればわかるように左ヘシフトする率が中立的技術進歩ょりも大きいこと︑しかもその内容を

吟味するとき︑︿βがぱではJS曲線には左方へのシフト効果を与えるが︑一方バ曲線には右方へのシフト効果を

与えているから効果が共鳴作用にょって強化されていることを知る︒さらにばをみると︿aがさらに︿βに協力

してIS曲線を左方ヘシフトさせている︒ であるから︑一S曲線は明らかに左方向ヘシフトする︒一方ぱの分子は︿βが負であるから符号は明らかでない︒そして不等式I︑Iによって図式の分母はともに正でしかも

(20)

と仮定されている︒

 しかしロストウの経済成長段階論における伝統社会につづくテーブ・オフに先行するその条件整備期において

は︑生産力の上昇を担う主導的産業が労働集約的な生産体制の下での農業であり︑それに最初併存的存在であっ

た軽工業部門︵蚕糸業︑紡績業等︶が漸次ウェートを増してくるのではないか︑もしこの事柄を考慮するとき︑こ

のような時期に仮定㈲が確実に成立しているという保証はないのではないか︵そしてそのことは資本主義の初期の段

階において農業からの収奪によつて資本が蓄積される過程を参照せよ︶︒

 そこでかりにこの時期では

     舜>こ

と仮定し︑労働偏向的技術進歩でも︑相対的に小であるが資本にも有利である︵心▽FQ▽o︵冷改cこ心7︶︶

場合を考えよう︒このような労働偏向的技術進歩にとって有利な条件を設定しても︑それが中立的技術進歩にも

及ばないことを示そう︒この場合はがによりIS曲線は前と同じく左方ヘシフトするが︑一方バ曲線のシフトも

ぱにより同じく左方向であり︑︿βの係数︑︿aの係数の如何によって何れが左方へ大きく移動するかは全く明ら

かでない︒この事柄は労働偏向的技術進歩は経済のテーク・オフの条件を完成するには中立的技術進歩に比べて

もいかに非力であり︑場合によっては経済にマイナスの効果しか与えないことが明らかとなる︒

 以上の所論にょってテーク・オフ前の条作整備期にとられる技術進歩は中立的技術進歩であるが︑そのときの

―36―

(21)

労働集約化による生産性の上昇は︑制約生産要素の拡大にょって麦示されていると解釈されよう︒かくてテー・

ク・オフの成功は労働集約的な産業から資本集約的な産業へ蓄積された資本を投入することによって︑換言すれ

ば資本偏向的技術進歩による以外にないことが証明されるとともに︑資本偏向的な技術進歩がテーク・オフに寄

与するメカニズムがモデルによって明らかにされたことと思う︒そして中立的技術進歩がテーク・オフを成功さ

せる条件叫に対して︑資本偏向的技術進歩の場合に︑テーク・オフが成功する条件は

     七 ゴールデン・エージ

 経済がテーク・オフの時期を経過するや否や貯蓄供給が労働人口の増加を収容するための資本設備の拡張のた

めの需要を上廻わるから技術進歩のいかんに拘わらず︑総生産量や一人当り産出量は拡大をつづけ︑ますます資

本集約的方法が導入される結果となる︒

 さて第一図をみると︑一度経済が点3の如き不安定均衡点を右に経過すると︑常に

     r==S‑rl▽0

にょり︑経済は拡大をつづけるが︑もう一つの安定均衡点4をもつとは必ずしも断定できない︒しかしIS関数

を決定する要素としてT︑yバが組み込まれているが︑資本主義の成熟期においてyが高水準となり︑貯蓄供給

―37―

であり︑中立的技術進歩の場合の条件にくらべていかに資本偏向的技術進歩が強力であるかが窺知されよう︒

(22)

の増大が︑八の低下に伴なって︑それに見合う投資先の発見を困難にする事情を反映させている場合にはIS曲

線の形状は第1図のょうにノビが頭打ちとなる︒一方μ曲線は人口成長率が低減するがoでない最低限を仮定す

れば当無二曲線は交点をもつことになる︒しかるに点4のごとき安定的成長均衡点においては︑生活水準︵一人

当り生産量︶が点2の最低生活水準に近い水準に比較してかなり高いとはいえ︑産出・資本比率一定︑一人当り産

出量も一定となる︒これに反してゴールデン・エージでは産出・資本比率一定︑人口成長率と産出量︵また資本量︶

成長率yの差が一人当り産出量︵生活水準︶の増大を齎らすのである︒上述したことでわかるように︑技術水準

一定とすれば︑人口の成長率をOと仮定しない限り生活水準の不断の上昇は期待できない︒一方人口成長率に下

限を認めれば︑生活水準の上昇にセイリングが存在することになる︒もし二者択一を迫られた場合︑経済学者は

人口の成長をとめても生活水準の不断の上昇を招来する前者の場合を選択するであろう︒しかし人口学者や社会

学者がいずれを選択するかは価値観の問題である︒察するところ後者を選択する公算が強いと推測される︒

 ツァンはわれわれのモデルにおいて本来的な仮定﹁貯蓄=投資﹂が実現することについての条件として現実的

には流動性トラップの問題があることを指摘した後︑︑にも拘らず﹁貯蓄=投資﹂の条件が貫徹されることを前提

として経済が最終的にゴールデン・エージを迎えるか否かを論じている︒

 いま式㈲においてy = kとして

彗    珈=こ¨¨迦十︱十gバ       1‑a

 この率が究極的な均衡成長率になるのであるが︑産出量や資本量の現在の成長率が漸近的にこの均衡成長率に

収束するか否かの安定性の問題に関する必要かつ十分条件は

― 38 ―

(23)

−39−

(24)

 ゆえにこのモデルにおける定義式㈲による一般形の貯蓄関数の場合には︑ゴールデン・エージが不可避的な経

済発展の最終のフェースではないことになる︒

 そこで彼は資本の限界生産力がいかに低水準になっても︑貯蓄が常に投資されるという仮定の下に︑貯蓄の供

給条件によって経済が主導されるところの経済を考えるとき︑所得の均衡成長率の存在することを示している︒

 いま㈲によって定義された貯蓄関数を用いると︑式面

―40―

(25)

― 41 ―

    \/のときk△こである︒

 このようなタイプの貯蓄関数をもち︑投資率は常に貯蓄供給によって決定されると仮定するならば︑叫の左辺

をOとおいてえられる恥について したがってもし£y=lで技術進歩が厳密に中立的である︵a=/3= 0︶ならば︑安定条件Iは明らかに満足される︒ もし局八︷で︵aSYK十?︑︶▽oならば

のとき

で4▽cである︒

 同様にもし局∇︷で︵asYK十P︶Λoならば

のとき︑そしてそのときに限り

である︒

(26)

 叫が資本の限界生産力がいかに低くくても貯蓄が常に投資率を決定することを前提として投資率が貯蓄の供給

条件によって決定される場合の所得の均衡成長率である︒

 いま£y==lとすると︑所得の均衡成長率λは簡単になって

― 42 ―

この恥を㈲に代入して

と比較するとき となる︒ この率は資本の収益率を一定に保つところの資本最大持続ら

から

(27)

 この事柄は︑技術進歩が資本偏向型であって強く労働に不利な場合に所得の均衡成長率が資本持統率をこえる

可能性のあることを示している︒

 以上の所論から経済の成長過程において資本の限界生産力が低くなっても︑貯蓄に見合う投資を行なってゆけ

ば︑経済は最終的には浮上して再び正常な成長経済になる道のあることを示している︒ここに政府の役割の重要

性が経済の長い繁栄には不可欠であることを示唆していると考えられる︒

―43―

吉岡守行︑資源賦存量希少国に於ける経済発展の条件と速度︑成城大学﹁経済研究﹂第三〇号︑一九七〇︑一一七︱

一三六頁︒

(28)

−44−

ならば負となる︒したがってこの条件が長い成長過程の後に起こると︑流動性トラップにおちこむおそれがある︒し

たがってks=︵a十Bl十︱十gv/a‑a︶とおいて対応する泗をもとめると︑y=︵卜十耽十︱十≒︶`︵︷IQ︸を

うる︒これを資本最大持統率とよんでいる︒

︵本研究は三島財団の資金援助によるものである︶

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