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数学的創造性を促す授業実践

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

数学的創造性を促す授業実践

- 現実的場面を基にした問題づくりを通して -

教科教育高度化分野(20821016)太 田 亮

本研究の目的は,生徒の数学的創造性を促すために,現実的場面を基にした問題づくり が有効であるかどうかを明らかにすることである。具体的には,中学校 1 年における比例 の授業で,グラフの読み取り活動の中に問題づくりの時間を設けた。実践の分析・考察の 結果から問題づくりの中で,比例から一次関数の概念へと繋がるような発散的思考をする 姿が見られた。以上のことから生徒が現実的場面を基にして問題をつくる活動が,数学的 創造性を促し得ると示唆された。

[キーワード] 創造性,発散的思考,問題づくり,比例,一次関数

1 はじめに

(1)問題の所在と研究背景

文部科学省(2018)は,新学習指導要領の中学校 数学科の目標において「数学的な見方・考え方」

は資質・能力の三つの柱の全てに働かせるもので あると示している。また,数学的な見方・考え方 を「事象を,数量や図形及びそれらの関係などに 着目して捉え,論理的,統合的・発展的に考える こと」として整理した上で,今回の学習指導要領 改訂では統合的・発展的に考えることを重視して いると指摘している。なお,発展的に考えるとい うことについて「数学を既成のものとみなしたり,

固定的で確定的なものとみなしたりせず,新たな 概念,原理・法則などを創造しようとすることで ある。」としている。

また,杉山(2010)は,「学校教育における数学 の指導は,教師主体の教科書解説による知識伝達,

機械的なドリルによる技能習熟という古い指導か ら,数学的な考え方や関心・態度を育てることも そのねらいに加え,子どもの学ぶ意欲や子どもの 発見・創造を大切にする学習指導へと変わってき ている。」と述べている。その背景として「現代に おいては,知識や技能を網羅的に伝達することは 不可能であり,子ども自らが学び続けることがで きる力を身につけることを期待せざるを得なくな っている状況がある。」としている。その上で数学 は能動的に,創造的に学習できる可能性をもった ものであり,創造的・発展的な学習を通して,数 学的な考え方や態度を養う機会を与え得るとの考 えを示している。

以上のように,数学において創造的な学習活動 は現代において重視すべきものであり,生徒の数 学的創造性を促す授業実践が求められている。

一方で中学校数学科の内容は,学年ごとに A 数と式,B 図形,C 関数,D データの活用という 構成に則り,授業が行われている。一般的には各々 の単元で導入,展開,まとめを行っており,その 単元内で閉じた学習しか行っていない。そのため,

学年間での接続が十分に行われていないという現 状がある。筆者はそこに生徒の数学的創造性を促 す授業づくりへの可能性があるのではないかと考 え,本研究を実践するに至った。

(2)研究の目的

本研究の目的は,生徒の数学的創造性を促すた めに,現実的場面を基にした問題づくり活動が有 効であるかどうかを明らかにすることである。

(3)研究の方法

本研究は,次の手順で進める。

・先行研究の検討

・授業実践とその概要

・実践した授業の分析および考察

・本研究のまとめと今後の課題

2 先行研究の検討 (1)数学的創造性について

創造性や創造的思考は研究者によって定義が異 なっている。創造性については,例えば辰野ほか (1986)の定義「新しく,しかも価値あるものをつ くり出す力」や,恩田(1994)の定義「創造性とは,

新しい価値あるもの,またはアイディアを創り出

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す能力すなわち創造力,およびそれを基礎づける 人格特性すなわち創造的人格である」などがある。

本研究においては,恩田(1994)の定義を基に先行 研究の検討を進める。

恩田(1994)はその定義についてさらに,『新し い』という意味には,社会的,文化的に価値ある 質的な変革をもたらす場合と,個人にとって新し い経験という場合とがある。」としている。その上 で,創造性は一般に「発散的思考」と「収束的思 考」の統合であると述べている。この発散的思考,

収束的思考も創造性,創造的思考と同様に研究者 によって定義が異なっている。

上で引用した恩田(1994)による創造性の定義を 数学教育の視点からみると,植村(1999)は「新し い価値あるものやアイデアを創り出す能力と,そ れを可能にする数学的な考え方や数学的表現力,

創造的思考に対する積極的な態度である。と置き 換えて考えられると述べている。

数学における発散的思考,収束的思考について 新里(1996)は「発散的思考とは与えられた,ある いは限られた少数の情報から,新しいさまざまな 着想や情報を生み出す時に中心となる思考であ る。」また,「収束的思考とは与えられた情報から あらかじめ定められた妥当な情報を導き出す時に 中心となる思考である。」としている。その上で具 体的な例を提示しており,答えがいくとおりもあ るオープンエンドな問題を解いているときは発散 的思考が中心となっており,答えが一つに限定さ れたクローズドな問題を解いているときは収束的 思考が中心になっていると述べている。

以上の先行研究を踏まえて,本研究における数 学的創造性を「個人にとって新しい数学概念を創 り出す力,およびそれを積極的に働かせる態度」

と捉える。また,数学的創造性は発散的思考と収 束的思考の統合であるとする。発散的思考は「与 えられた少数の情報から,新しい様々な着想や考 えを生み出していく思考」,収束的思考は「複数の 情報から一定の結論を導き出す思考」と捉える。

(2)問題づくり活動について

竹内・沢田(1984)は,「問題の存在は認識活動を 引き起こす。認識は知識を生み出す。認識・知識 の進歩(増大)はまさに『問題の自己増殖』により,

いいかえれば問題から問題への連鎖によってもた らされる。」と述べている。ここで,「問題から問 題へ」の経過または飛躍を「問題の発展」と表現

している。そして,数学の原問題から児童,生徒 が問題づくりを行う授業の実践的研究を行い,期 待できる利点として次のように挙げている。

・すべての児童,生徒が積極的に授業に参加する

・自分の力に応じて誰もが精いっぱい学習に励む

・算数,数学に興味を感ずる

・発見の喜びが味わえる

・いつでも「問題を発展させる」態度がつくれる

・個別及び集団学習の調和した授業が展開できる

・多様な観点からの評価を可能にしてくれる この中の「いつでも問題を発展させる態度がつく れる」は,「問題づくり活動には生徒が発散的思考 を働かせる可能性がある」と言い換えることがで きる。

生徒が問題づくりをする授業実践はこれまでに も多数見られる。しかしながら実践研究では数学 の世界での問題づくりに留まっている。現実的場 面を基にした問題づくりはあまり行われていない。

また,現実的場面を基にした問題づくりでも,そ の単元内の学習をより深く理解させるために行っ ていることが多く,新たな数学概念へと繋がるこ とを狙っている事例は少ない。

以上より,本研究では創造性の中の「発散的思 考」に焦点を当て,これまであまり扱われていな い現実的場面を基に問題づくり活動を実践する。

3 授業実践とその概要 (1)授業日時,対象等

授業日時:2020 年 11 月 13 日(金)10:45~11:35 対象 :山形県内 Y 中学校第 1 学年 Z 組 30 名 授業者 :太田亮

単元名 :比例と反比例

授業目標:動く歩道に乗る人と歩く人の関係を通 して,グラフから情報を読み取る (2)授業の流れ

動く歩道に乗る A さんと歩く B さんが同時に出 発するという場面を扱う。動く歩道とは,踏む面 が水平になっているエスカレーターの通称である。

駅や空港などに設置されていることが多い。授業 では 2 人が移動する様子を表したグラフのみを提 示する。そこからある時間での両者の位置関係や,

ある座標を通っているということは現実場面では どのようなことを表しているか,などの情報を読 み取る問題に取り組む。その後,この場面を使っ て自ら問題を作成するという活動を行う。

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山形大学大学院教育実践研究科年報第 12 号(2021)

おおまかな流れについては以下の通りである。

1.導入 動く歩道の動画を見せ,動く歩道に乗 るのと歩くのとではどちらが速いのか疑問を もたせる。

2.課題 1 動く歩道に乗っている A さんと歩いて いるB さんではどちらがどのくらい早く60m 地 点に着くだろうか。(図 1 のグラフを提示し,

そこから読み取る活動を行った。)

図 1 A さんと B さんが動く様子を表したグラフ 3.課題 2 図 1 を見て,次の問いに答えなさい。

(1)B さんのグラフが点(10,10)を通っている ことは,上の場面ではどんなことを表していま すか。

(2)A さんが動く歩道に乗ってから 40 秒後には A さんと B さんは何 m 離れていますか。

(3)B さんが動く歩道の終点に着いたとき,A さんは終点の何m手前にいますか。

4.課題 3 C さんは急いでいたため,動く歩道の 上を歩いたところ 30 秒で 60m 地点に着きまし た。C さんの進む様子を表すグラフをかき加え なさい。

5.課題 4 この場面を使って,自分で問題をつく りなさい。(問題を作成した後,隣の人同士で 問題を出し合う活動を行い,教師が選んだ問題 を全体で紹介させた。)

6.まとめ・振り返り (3)本授業における工夫

生徒の発散的思考を促すために,次の二つの工 夫をする。

①教師の指示内容の工夫

生徒の発散的思考を促すために,教師の指示を

「この場面を使って問題をつくりましょう」とす る。グラフの読み取りの授業における問題づくり 活動では,一般的に「グラフから読み取れること を使って問題をつくりましょう」という指示をす る。今回の実践では生徒が作成する問題に,より 幅を持たせるため上記のような指示をする。

②生徒に現実の世界を想像し易くさせる工夫 生徒に現実の世界を想像し易くさせるため,二 つの工夫を行う。具体的には授業の冒頭で動く歩 道の動画を見せること,および学習プリントにイ ラストを入れることである。これらの工夫により 問題づくりの際,生徒が現実の世界を想像するこ とで,発散的思考が促されることを期待している。

(4)分析・考察方法

授業中の生徒の観察,生徒の学習プリントへの 記述を中心に授業実践の分析・考察を行う。

4 実践した授業の分析および考察

学習プリントへの記述から,生徒の作成した問 題を以下の 4 種類に分類することができた。

(1)一次関数の概念に繋がると考えられる問題

図 2 生徒 A が作成した問題

生徒 2 名が図 2 のような一次関数の概念に繋が る問題を作成していた。図 2 のような問題では歩 く B さんのグラフが原点を通らず,負の切片を持 つ。授業の際,生徒から「グラフが原点を通らな くてもいいですか?」という質問があり,教師が それを認めたという場面があった。作成する問題 の種類,解決に用いる数学概念を特に指定せず,

場面のみを指定したからこのような発想が出たの だと考えられる。与えられた比例のグラフという 限られた情報から,現実的場面を基にすることで 一次関数へと繋がる発想を行っており,その際発 散的思考が働いていると推察される。

(2)変域によって関数が変化する問題

図 3 生徒 B が作成した問題

生徒 B が作成した問題は途中で減速し,再び加 速する場面を扱っている。これは変域によって関 数が変化するグラフである。関数としては非常に 複雑になるため,他の分類の問題よりも生徒 B が 現実の世界を想像しながら問題を作成したと考え られる。教師が現実場面を想像し易くするために 行った,学習プリントへのイラストの挿入や,動

A さんと B さんが同時に終点に着くには,B さん は A さんが歩き始めてから何秒後に歩き始めれ ばよいですか。

D さんは急いでいたため動く歩道の上を歩いた ところ,30 秒で 60m 地点につくはずでしたがち ょうど 40m の地点でつかれてとまってしまいま した。とまって動く時間を 10m10 秒として 60m 地点につくまでの時間を求めなさい。

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く歩道を動画で見せるなどの手立てが有効に働い たのだと推察される。現実的場面を扱った原問題 から,現実の世界で他に考えられる人の動きを想 像しており,その際発散的思考が働いていると推 察される。

(3)本授業で扱っていない「速さ」に着目した問題

図 4 生徒 C が作成した問題

複数名の生徒が速さを扱った問題を作成してい た。本時では速さについては言及していない。し かし,これまでに数学の学習で扱っているため着 目した生徒がいたのだと考えられる。この場面で は速さはグラフの傾きや,比例定数などに表れて おり,それらの関連を整理することが必要である。

その際,既習の数学との統合が行われるが,そこ で収束的思考が働くと推察される。

(4)本授業で扱った問題に類似させた問題

図 5 生徒 D が作成した問題

生徒の大部分が図 5 のような授業中に扱った問 題に類似させた問題を作成していた。この問題づ くりをすることで,本時の目標であるグラフの読 み取り活動を定着,復習する効果があると考えら れる。生徒が今まで以上に発散的思考を働かせ,

比例の概念からはみ出るような問題を作成しても らうためには,教師のさらなる手立てが必要であ る。教師の指示内容をより工夫する,作成した問 題を全体で共有する時間をとるなどが考えられる。

5 本研究のまとめと今後の課題 (1)本研究のまとめ

本研究の目的は,生徒の数学的創造性を促すた めに,現実的場面を基にした問題づくりが有効で あるかどうかを明らかにすることであった。本授 業実践の分析および考察から,問題づくりの中で 発散的思考を働かせる姿が見られ,生徒の数学的 創造性を促し得ることが示唆された。現実的場面 を基にすることで,既習の数学では解釈,解決で きない場合を考えられることがその一因であると 思われる。

また,生徒が発散的思考を働かせるために,現

実の世界を想像しやすくする,教師の指示内容を 工夫する等の手立てが必要であると推察された。

授業の改善点として,問題づくりの指示の仕方 がある。今回の授業では「この場面で問題をつく りましょう」という指示の仕方をした。より多く の生徒が前述 4(1)~(3)のような問題を作成する ためには,問題づくりの仕方をより具体的に指示 する必要があると考えられる。

また,生徒が作成した問題を,クラス内で交流 する時間も必要であると考えられる。互いの作成 した問題を見合うことで,より発散的思考が促さ れると推察される。

(2)今後の課題

今回の実践では生徒は発散的思考を働かせた。

一次関数の概念へと繋げるためには作成した問題 から共通事項を見いだし,比例の概念と統合,形 式的統一をする必要がある。その際,収束的思考 が働くと考えられる。作成した問題を活かして,

どのような授業が可能か構想していく予定である。

引用文献

文部科学省(2018)「中学校学習指導要領解説数学 編」,日本文教出版.

恩田彰(1994)『創造性教育の展開』,株式会社恒星 社厚生閣,pp.3-9.

新里孝雄(1996)「証明能力と創造性の関係につい ての考察-問題設定の調査を通して-」『全国 数学教育学会誌 数学教育学研究』,第 2 巻,

109-114.

杉山𠮷𠮷𠮷(2010)『公理的方法に基づく算数・数学 の学習指導』,東洋館出版社,pp.83-84.

竹内芳男・沢田利夫(1984)『問題から問題へ-問 題の発展的な扱いによる算数・数学科の授業改 善-』,東洋館出版社,pp.15-23.

辰野千寿・高野清純・加藤隆勝・福沢周亮(1986)

『多項目 教育心理学辞典』,教育出版株式会 社,p.255.

植村哲郎(1999)「数学教育における創造性研究の 課題」,『全国数学教育学会誌 数学教育学研 究』,第 5 巻,27-33.

Class Practice to Accelerate Mathematical Creativity: Through Making Questions Based on Realistic Situations

Ryo OTA

A,B,C さんそれぞれ秒速は何m?

C さんが 30m の地点にいるとき,動く歩道を歩 き始めてから何秒経っていますか。

C さんのグラフが点(10,20)を通っていることは どんなことを表していますか。

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参照

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