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四つのキーワードで探る「見えないからこそできる こと」

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Academic year: 2021

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四つのキーワードで探る「見えないからこそできる こと」

著者 広瀬 浩二郎

図書名 特別支援教育の基礎 : 確かな支援のできる教師・

保育士になるために. 土橋圭子 [ほか] 編.

開始ページ 324

終了ページ 325 

出版年月日 2009‑09‑05

URL http://hdl.handle.net/10502/00009090

(2)

(2)当 事 者 の思 い

① 視覚障害のある方

四 つ の キ ー ワ ー ドで 探 る「見 え な い か ら こ そ で き る こ と」

全 盲 の私 が 国 立 民 族 学 博 物 館(民 博)に 就 職 し た の は2001年 で あ る。21 世 紀 とな っ た現 在 、 視 覚 障 害 者 が 地 域 の 学 校 に通 う こ と、 一 般 大 学 に 進 学 す る こ とは珍 し くな くな っ た 。 しか し、 今 で も大 学 卒 業 後 の 就 労 、 役 割 とや り が い を感 じつ つ働 く とな る と、 種 々 の ハ ー ドル が 残 存 して い る。 こ こで は私

自身 の就 職 活 動 、 そ して 晴 眼 者 に 囲 まれ て 仕 事 を 続 け る 日々 の実 体 験 を通 し て、 今 後 の特 別 支 援 教 育 に期 待 す る こ とを述 べ てみ よ う。

マ イ ノ リテ ィで あ る視 覚 障 害 者 が健 常 者 中 心 の 社 会 で 自信 を持 っ て 生 きて い くた め に は 、「見 え な くて もで き る こ と」で は な く「見 え な い か ら こそ で き る こ と」を 自分 な りの や り方 で 探 して い か な け れ ば な ら な い。 こ の よ うに 視 覚 障 害 者 の オ リジ ナ リテ ィ を 追 求 す る ヒ ン トとバ イ タ リテ ィ を与 え る こ とが 、 特 別 支 援 教 育 の 眼 目だ ろ う。「見 え ない か ら こ そ で き る こ と」を 開 拓 す る キ ー

ワー ド と して 、私 は以 下 の 四 つ を挙 げ た い 。

① 手 を磨 く:点 字 を読 む こ とに代 表 され る ように、視 覚障害者 は 日常 生 活 におい て晴眼者以 上 に触覚 を活用 してい る。視覚 障害者 の伝統 的職

き ゆう あ ん ま は り

業 で あ る按 摩 ・鍼 ・灸 は 手 技 療 法 と も称 さ れ るが 、 人 間 の「さ わ る」

カ に こ だわ る手 仕 事 だ とい え よ う。私 自身 も近 年 、各 種 の ワ ー ク シ ョ ッ プ に 関 わ る 中 で 、「手 学 問」「触 文 化」な どの 言 葉 を用 い て 、 視 覚 障 害 者 の ライ フ ス タ イ ル を再 評価 す る こ とを提 唱 して い る。

② 足 を磨 く:目 が 見 え な くな る と、 移 動 の 自由 が 奪 わ れ る。 歩 行 訓 練 に よ っ て 、 一 人 歩 きの テ ク ニ ック を身 につ け る こ と は不 可 欠 だ が、 少 々 ぶ っ か っ た り迷 っ た り して も め げ な い 精 神 力 、 周 りの 晴 眼 者 の 目 を う ま く利 用 す る方 法 を実 践 か ら学 ぶ こ とも重 要 だ ろ う。 学 生 の 頃 か ら私 は 、「論 文 は 足 で 書 く」こ と を モ ッ トー と して フ ィー ル ドワ ー ク を繰

り返 し、 ど う にか 今 日 に至 っ て い る。

③ 耳 を磨 く:触 覚 と同様 に、 視 覚 障 害 者 は聴 覚 を使 う こ と も 多 い 。 中 ・ 近 世 の 琵 琶 法 師 、 盲 人 箏 曲 家 は、 『平 家 物 語 』 の よ うな 文 字 を媒 介 と 324

(3)

第11章 当事者 の思 い しな い 語 り物 、 す な わ ち聴 覚 に訴 え る 芸 能 を創 造 ・伝 播 した。 私 は文 献 だ け で な く聞 き取 り調 査 を積 み 重 ね て 、 琵 琶 法 師 の歴 史 を 明 らか に して きた 。 視 覚 情 報 に惑 わ さ れ ず 、 じっ く り他 人 の 話 を聴 くとい うの は「見 え な い か ら こ そで き る こ と」に 通 じる か も しれ な い 。

④ ロ を磨 く:喋 る こ と に関 して は、 視 覚 障 害 者 に ハ ン デ ィ は存 在 し ない 。 弁 護 士 や 教 師 な ど、 口 を駆 使 す る職 業 を め ざ す 若 い視 覚 障 害 者 も増 え て い る。 大 学 で の講 義 、 一 般 向 け の 講 演 は 私 に と っ て 口 で 勝 負 で きる

ひん

自 己表 現 の 場 で あ る。 周 囲 の 様 子 にお 構 い な く大 き な声 で 話 を して顰

しゅ く

盛 を買 うの は避 け るべ きだ が、 自己 主 張 は生 き る基 本 だ か ら大 切 に し た い。

考 え て み る と、私 が 手 ・足 ・耳 ・口 の 可能 性 を実 感 した の は盲 学 校 時 代 で あ る。

中 学 ・高 校 の6年 間 に 盲 学 校 で 培 っ た世 界 観 と人 間 観 が 、 今 の 私 の 民 博 で の 仕 事 、「見 え ない か ら こ そ で き る こ と」の 模 索 につ な が っ た の だ と思 う。 ク ラ ス メ イ トと競 争 し な が ら楽 しん だ 点 字 の 五 十 音 書 き の レ ー ス 、 白杖 歩 行 の 訓 練 で 東 京 の 街 中 を ふ らふ ら歩 い た 冒 険、さ ま ざ ま な音 を頼 りに校 庭 を走 り回 っ た 体 育 の授 業 、 生 徒 会 役 員 と して大 真 面 目 に 行 っ た 稚 拙 な演 説 な どな ど。 こ れ ら は私 の 青 春 時 代 の よ き思 い 出 で あ り、 生 徒 の数 が少 な い 盲 学 校 な らで は の 貴 重 な経 験 とい え よ う。

も ち ろ ん、 晴 眼者(普 通)と 視 覚 障 害 者(特 殊)を 機 械 的 に分 け る20世 紀 の 教 育 シ ス テ ム が 多 くの 問 題 を含 ん で い る こ とは 否 定 で きな い。 一 方 、 私 は い わ ゆ る統 合 教 育 の失 敗 例 も た くさ ん知 っ て い る。 点 字 教 科 書 が確 保 で き な い 不 十 分 な学 習 環 境 、 教 師 や 同級 生 の 無 理 解 に よ り、 手 ・足 ・耳 ・口 を磨 く こ とが で きず 、 目が 使 え な い コ ン プ レ ック ス の み を味 わ っ て 卒 業 す る不 幸 な ケ ー ス も よ く見 受 け られ る。

隔 離 教 育 の形 で な く、 地 域 の 学 校 に お い て 視 覚 障 害 児 が「見 え な い か ら こ そで き る こ と」を 自然 に習 得 す る の が 、 特 別 支 援 教 育 の 目標 で あ る。 手 ・足 ・ 耳 ・口 を磨 い た若 い 視 覚 障 害 者 が21世 紀 の社 会 で 生 き生 き と活 躍 す る た め に は 、 特別 支 援 教 育 の 更 な る充 実 が 必 須 だ ろ う。(廣 瀬 浩二郎)

参 考 文 献

廣 瀬浩 二郎(2009)「さ わ る文 化 へ の招待 一触 覚 で み る手 学 問 のす す め」世 界思 想 社

325

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