論文審査の結果の要旨
氏名:石 井 拓
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:磁性アタッチメントの磁石構造体が心臓ペースメーカに与える影響 審査委員:(主 査) 教授 本 田 和 也
(副 査) 教授 石 上 友 彦 教授 清 水 典 佳 教授 松 村 英 雄
心臓ペースメーカは,心臓からの微弱な電気刺激を感知するため,外部からの強力な電界,変動磁 界,静磁界に曝されることで動作不良を起こすことが報告されている。そのために装着患者は MRI 検査や電気メス,低周波装置などの使用が禁忌とされ,日常生活においても様々な制限を受けている。
その一方で,磁性アタッチメントは永久磁石を有効利用した維持装置であり,心臓ペースメーカ装 着患者にとって影響を確認することは重要である。そこで本研究は磁性アタッチメントの磁石構造体 が心臓ペースメーカに及ぼす影響について検討を行い,その安全性を評価した。
実験試料体としては現在用いられている磁性アタッチメントの中でも強力な維持力 10 N相当であ るジーシー社製ギガウスD1000磁石構造体を用いた。
心臓ペースメーカに与える影響についてはEN規格50527-2-1:2011,ISO規格14117:2012に従 い,磁石構造体周囲の電磁場環境強度および影響範囲の測定を行う。また,St. Jude Medical社の代 表的な7機種の心臓ペースメーカの電磁場感知部位に対する磁石構造体の近接試験を行い影響距離を 計測した。
本研究において以下の結論を得た。
1.磁石構造体の周囲電磁場環境は電界,変動磁界では影響無いが,静磁界では磁石構造体の8.0 mm 以内で国際規格の規定値を超える測定値となった。
2.磁石構造体周囲の静磁場環境の広がりは一定ではなくISO規格で規定される磁束密度1.0 mTを 越える範囲は吸着面方向に8.0 mm,上面方向では5.0 mm,側面方向に3.0 mm程度となった。
3.心臓ペースメーカに対する磁性アタッチメントの近接試験では現在埋入が行われている従来型機 種では影響を受けやすい機種でさえ0.5 mm本体から離すことで影響を受けなくなった。また、条件 付きMRI対応型心臓ペースメーカではたとえ直上に置いたとして電磁場干渉は認めらなかった。
以上の結果より,磁石構造体は静磁場環境測定において極僅かな範囲で国際規格の規定値を越える 結果となった。しかし近接試験での結果や心臓ペースメーカの人体への埋入深度を考慮すると,現在 では心臓ペースメーカ装着患者に対し磁性アタッチメントが干渉を生じる可能性はないことが示唆さ れた。
以上のように本研究は,患者にとって安全で有用な治療方針決定の根拠の一助となり,欠損補綴学 および補綴臨床に寄与するものと考えられた。
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成29年3月8日