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リアルタイム環境バイオセンシング技術の開発

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Academic year: 2021

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リアルタイム環境バイオセンシング技術の開発

著者 山本 歩

雑誌名 財団ニュース

巻 12

ページ 18‑20

発行年 2011‑01‑10

出版者 浜松科学技術研究振興会

URL http://hdl.handle.net/10297/6152

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18 1.はじめに

産業廃棄物や工場などの廃液には生物にとって有害な物質が含まれることが多く、これらによる環境 破壊が大きな社会問題の一つとなっている。先進国では厳しい規制などによって、近年この問題は軽減 されてきてはいるものの、技術の発展にともなって日々規制に合わない新たな化合物が開発され、その 廃棄による自然環境の破壊が起こっているのが現状である。また、規制の厳しくない後進国では今でも 有害物質によって自然環境破壊が進んでいる。

これら有害物質による自然環境の破壊を防ぐには、これら生物に有害な多様な物質を検出するととも に、これらが生物に及ぼす影響を評価し、迅速に対応する必要がある。従来の化学反応や分析機器を用 いた検出法ではある特定の有害物質しか検出できず、多様な有害物質の検出には様々な方法を適用しな ければならず、コスト面においても、また労力的にも適していない。また、新たな有害物質がでてきた 場合には対応できないだけでなく、生物に対してどのような影響があるかは評価できない。有害物質を 迅速に検出するとともに、新たな有害物質にも対応でき、さらに生物への影響の評価をおこなうことが できるモニターシステムを構築することは非常に有用であると考えられる。

我々は単細胞生物で容易に培養が可能な分裂酵母を研究材料として細胞の増殖機構を研究してきた。

その過程で分裂酵母では様々な有害物質が存在すると、その細胞分裂の制御因子の細胞内の局在が大き く変化することを見いだした。細胞分裂の制御因子の変化を指標とし、この酵母をバイオセンサーとし てもちいれば、非常に安価で多種多様な物質の検出が可能で、生物への影響も評価できる環境モニター システムを構築ができる可能性がある。そこで本研究ではこのような環境モニターシステムの構築をめ ざし、この細胞分裂の制御因子に与える有害物質の影響、および制御因子の変化を解析した。

2.細胞分裂制御因子の細胞内局在変化

細胞分裂はサイクリン依存リン酸化酵素(Cyclin-dependent  kinase:  Cdk)という生体分子によって制 御されている。この酵素はサイクリンという生体分子によって活性化され、様々な生体分子をリン酸基 によって化学修飾することによって、それら生体分子の機能を制御している。このCdkに遺伝子工学的 手法を用いてオワンクラゲの緑色蛍光タンパク質を融合し、蛍光標識し細胞内に導入した。Cdkは通常 の細胞分裂をおこなっている細胞ではDNAが収納されている球状の核内にサイクリンとともに存在し ている(図1、処理前)。細胞の培養液中に生育に有害な物質である重金属である銅、カドミウム、ある いは水銀を添加したところ、Cdkの局在が大きく変化し、核内に一様に存在していた酵素が核の一部に

〔天野工業技術研究所基金研究助成〕

リアルタイム環境バイオセンシング技術の開発

静岡大学理学部化学科 山本 歩 [email protected]

生物に有害な物質を細胞内の生体 分子を利用して簡便・迅速に検出・

評価する。 

課 題 

環境中の有害物質の迅速検出お よび毒性の簡便評価ができる環 境モニターシステムの実現 

応 用 

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19

蓄積した(図1、Cu処理後;図2)。この蓄積した領域はDNAの存在領域と一致していないことから、核 小体と呼ばれるリボゾームRNAが多量に合成されている領域であることが判明した。このときサイクリ ン分子も核小体に蓄積することからCdkはサイクリンと複合体を形成した活性化型のものであると予想 された。また、このような核小体への蓄積は重金属の添加だけでなく、ヒドロキシラジカル活性酸素を 産出し細胞障害を引き起こす過酸化水素水を添加する、培地を水に変えることによって浸透圧変化を引 き起こす、あるいは通常の30度の培養温度を36度に上げることによっても観察された。これらの結果か ら、Cdkの核小体への蓄積は細胞の生育に対して何らかの影響を与える、いわゆる「細胞ストレス」を 与えたときに共通して起こる細胞の反応であると考えられた。

さらに細胞は通常培地に栄養源があると増殖を続けるが、細胞が増加して培地中の栄養源、特にエネ ルギー源であるグルコースなどの炭素源が枯渇すると増殖を停止するが、この細胞増殖が停止するとき にもCdkが核小体に蓄積することが明らかとなった。この蓄積は細胞濃度が増加して細胞増殖停止が起 こる前に見られるようになり、蓄積後、細胞は1〜2回分裂して増殖を停止することが判明した(図3)。

この蓄積が培地中のグルコースの枯渇によるものかを明らかにするためにグルコースを含まない培地中 に細胞を移したところ、30分後には顕著な蓄積が見られた。このことから炭素減枯渇が蓄積を引き起こ すと考えられた。

以上の結果とCdkが細胞増殖の制御因子であることを考えると、Cdkの核小体への蓄積は細胞増殖を 停止するためのなんらかの細胞現象ではないかと考えられた。また、細胞がストレスを受けたときに見 られる蓄積はストレスなどによって生育になんらかの支障がある場合、細胞増殖を抑え、その支障に適 応するためである可能性が考えられる。

3.今後の展望

細胞は環境の変化に対して細胞内の様々な生体制御因子を調節し、その変化に対応する。今回我々が 見いだした細胞分裂の制御因子であるCdkの核小体への蓄積は、様々な有害因子や環境の変化において 観察されることから、環境の変化に対する最も基本的な生物現象であると考えられる。この蓄積現象を 指標とすることによって、細胞の増殖に影響を及ぼす様々な環境変化の評価、および生育を阻害する有 害物質の検出に応用できると考えられる。また、これまで有害物質の検出は細胞死によって評価してい たが、この現象は死滅を引き起こさない場合でも起こることから、これまでより低い濃度で有害物質の 検出が期待できる。ただし、これまでの結果では核小体へのCdkの蓄積は有害物質の検出はできるもの の、その検出できる濃度が高く、その感度は決して高いものとはいえず、その点は今後の課題として残 された。今後はこの点を克服するために、核小体への蓄積機構を分子レベルで明らかにし、より低い濃 度でも蓄積が起こるような変異を導入し、この点を改良していく必要がある。

この生物現象はストレス応答の一つと考えられ、酵母だけでなく、ヒトなどの高等真核生物において も起こる可能性が考えられる。生物は様々な外的な要因によって細胞障害などのストレスを受けており、

このストレスによってガン化や老化などが誘引されると考えられている。実際、細胞増殖や老化、ガン 化、ストレス応答などに関わるTORリン酸化酵素がこの現象の制御に関わるという結果も得ており、今 後、この現象を利用して、生物のストレスを評価し、ガン化や老化などの予防に応用することも可能で あるかもしれない。

参考文献

1.  Yamamoto,  A.,  Kitamura,  K.,  Hihara,  D.,  Hirose,  Y.,  Katsuyama,  S.,  and  Hiraoka,  Y.  (2008)  Spindle checkpoint activation at meiosis I advances anaphase II onset via meiosis-specific APC/C activation. J. Cell

Biol.

182: 277-288.

謝辞

本研究は静岡大学理学部瓜谷眞裕教授との共同研究によっておこなわれました。

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20 図1 細胞の核内構造とCdkの核内局在変化

図2 重金属処理によるCdkの核小体への蓄積

図3 細胞増殖停止にともなうCdkの核小体への蓄積

参照

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