精神看護実習における学生の主体的な動きへのインストラクターの介入
一 インストラクターの視点から一 伊藤幹佳D、長谷川博亮D、伊藤ひろ子D
キーワード:精神看護、臨地実習、インストラクター(助手)、対人関係論 要 旨:
本研究は、精神看護実習において学生の主体的な動きのきっかけになっているインストラクターの介入を、
インストラクターの視点から明らかにすることを目的とした。精神看護実習指導を行ったインストラクター 歴の均しい助手2名が担当した学生46名とのかかわりを自ら振り返ったものをデータとし分析を行い、以下 の結果を得た。インストラクターの判断・介入は220ケであり、それらは 「学生の自己理解の促進」、「学生一 患者の信頼関係の構築」、「患者理解の促進」、「内発的動機付けへの刺激」、「実習のレディネスを整える」の 5っに分類された。対象とした大学の実習は、学生の患者との対人関係を重視し、学生が患者とのかかわり
で気になったところから患者を理解していった。その中で学生が実習で主体的に動き出すきっかけとなるの は、学生の臨床での新鮮な感性や素朴な思いを表現できるようにインストラクターが介入していくこと、さ らに学生自身の実習に対する自己効力を刺激することであると示唆された。
Astudy of instructor s intervention to an active motion of a student in psychiatric and mental health nursing practica
一
From instructor s viewpoint一 Mikika Ito 1), Hiroaki Hasegawa D, Hiroko Ito 1)
Key Words:psychiatric and mental health nursing, nursing practica, instructor, interpersonal relation theory
Abstract l
The purpose of this study was to determine the effects of intervention by an instructor during psy−
chiatric and mental health nursing practica in a university nursing program. Data from 46 stu−
dents in a psychiatric and mental health nursing practicum who were taught by two different instructors with equal teaching histories were analyzed and the following results were obtained.
Judgments or intervention by the instructor occurred 220 times, and they were classified into five typesゴ Promotion of self−understanding by a student ,℃onstruction of the student/patient confi−
dential relationship , Promotion of patient understanding , Stimulating spontaneous motiva−
tion and The increasing readiness for training . The curriculum design of the nursing practicum of this university assumes that personal relations between student and patient are important and that the students use this relationship to understand the patient s problems. The results suggest that an instructor s intervention during a practica can act as a prompt for developing student con−
fidence by increasing independent activity and for the development of new and more sensitive ways of expressing clinical activities.
1)宮城大学看護学部 School of Nursing, Miyagi University
1 はじめに
精神看護の先駆者であるE.ペプロウは、ナー スが患者に援助的にかかわる時に生じる事柄をはっ きりとみきわめ、明確化し、知識としてまとめる ことが精神力動的看護の重要なステップであり、
ナースと患者が看護場面でお互いに学んでゆく結 果としてお互いが成長する時に、看護は援助的に なるのであるD、と述べているように精神看護で は、看護師が患者にどのように関心を寄せるかが 鍵となり、自分が見聞きしていることや感じてい ることに基づき患者を理解することが求められる。
すなわち、患者理解のために自分自身を道具とし て活用し、患者の思いや状態をとりあえず判断し てかかわることが重要である。
そのため当大学の精神看護実習においては、患 者とのかかわりで学生がその時その場での自分の 気持ちを大切にした主体的な動きが出来ることを 重視している。しかし、精神科で患者と接するこ とにっいて不安を抱いている学生は少なくな い2)鋤5)と言われているように、多くの学生は自 分自身の緊張や不安から、あるいは精神疾患を持 っ患者の思わぬ反応に接し動けなくなることが多
い。
そのような実習において学生が潜在的能力を発 揮するためには実習を指導する者の能力が問われ ると考える。看護教育において精神看護学は平成 8年のカリキュラム改正前までは、成人看護の一 部の精神科看護として組み込まれていた。そのた め精神(科)看護の講義、実習は任意とされてい たこともあり、精神看護の担当教員は全国的に不 足している6)と言われている。このことは看護師 養成においてほとんどの看護学校の講義は臨床に 任せきりで、専任教員が授業を行っていたのは皆 無に近い了)という結果からも推測できる。その上 学生の精神看護実習指導は専ら病棟の臨床指導者 にゆだねられてきた8)。
しかし昨今の看護系大学の増加に伴い、臨床の スタッフによる指導が主体であった看護学生の実 習指導は、教員が臨床で学生と実習時間をともに 過ごし、直接指導する体制へと変化している。よ うやく、学生への指導責任がある教員によって実 習指導が行われるようになってきたのである。し
かし看護教育の大学化が急速に進んだのは90年代 に入ってからである。そのため看護教育全般や臨 床実習に関する研究は増加の一途にあるが、大学 教員としての臨床指導者を論じたものはまだ少な
い9)1°)。
当大学での精神看護実習は、学生5人以内に対 して精神看護を専門とする助手(=インストラク ター、以下インストラクターとする)1名という 体制で、全実習期間を通し指導にあたっている。
そこで、当大学での精神看護実習におけるイン ストラクターの介入の実際を明らかにし、実習で の学習効果を高めるインストラクターの介入にっ いて考察する必要があると考えた。
人間関係における1つの行為に対する評価には、
①行為を実施したものが自己感覚によって行う分 析、②行為を受けた当事者からのフィードバック によって行う分析、③行為の諸側面および行為の 全体を1っの規準についてアセスメントすること によって行う分析の3つの形式に分けられる1 )。
本研究では、精神看護実習での学習効果を高める インストラクターの介入について考察するための 導入として、実習指導を行ったインストラクター 自身が1の立場で自らの行為を振り返った。これ は、学生が実習において主体的な動きが出来るよ うになるためのインストラクターの介入の概要を 把握する材料のひとつとなり得ると考える。
ll研究目的
本研究の目的は、精神看護実習でのインストラ クターのどのような介入が学生の主体的な動きの きっかけになっているかをインストラクターの視 点から明らかにすることである。
川 用語の操作的定義
主体的な動き:学生自身が見聞きし、感じたこ とをもとに患者とかかわること
lV 対象大学の実習展開方法とその概要 対象とした大学は公立大学の看護学部である。
次の目的、目標を掲げ、精神看護実習を行ってい
る。
1.実習目的
心を病む人とのかかわりを通して、その人な りの生き方や生活様式を把握し、心の病みが対 人関係や日常生活にどのように影響しているの かにっいて理解を深める。また、対人関係論を 基盤に自己理解を深めるとともに、心を病む人 が自立・成長への課題を克服していくために必 要な援助にっいて学ぶ。さらに、医療チームの 一 員として看護職の役割を自覚しっっ、心を病 む人を取り巻く様々な人々と協働できる能力を
養う。
2.実習目標
1)心を病む人との関わりの中で、自尊の気持ち の回復と人権擁護を目指す看護師一患者関係を
考察できる。
2)様々な立場の人との関わりにおいて生じる自 分の気持ちを吟味しっっ、自己活用についての 理解を深める。
3)心を病む人が抱えている自立・成長への課題 をともに明らかにしていくことの重要性を考察 できる。
表1に詳細な目標を記した。
3.実習方法
1)実習期間及び学生数
3年次に3単位(3週間=135時間)、10月〜
2月の間に約90人の学生を6グループに分け、
1グループ15人が3病棟に分かれて実習を行う。
各病棟の実習生は5名である。
2)実習施設
私立単科精神病院(病床数300床)の男女混 合開放病棟もしくは男女混合閉鎖病棟、国有民
営総合病院精神科病棟(病床数42床)の男女混 合閉鎖病棟を使用し、精神科での実習を精神看
護実習としている。
3)実習内容
学生は自分が関心のある患者とかかわり受け 持ちを自ら決定する。その患者とかかわりなが ら信頼関係を築き、その患者の困りごと、どの ようにかかわっていけばよいかを考え、実践す る。多くの看護教育でされていると思われる看
護過程を展開することよりも対人関係を重視し ており、かかわりの中で患者の全体像をとらえ られるようになることを主眼としている。
実習スケジュールを図1に示した。1日6時
表1.対象大学の実習目標
(1)心を病む人との関わりの中で、自尊の気持ちの回復と人権擁護を目指す看護師一患者関係を考察できる。
①心を病む人と時間をともに過ごしながら、その人なりの日々の過ごし方に関心を寄せることができる。
②心を病む人との直接的な接触を通して、相手に対する自分の反応や心を病む人の反応を自覚し、ありのままの患 者を受け入れる感性を高ある。
③心を病む人が自尊の気持ちを回復するために必要なまなざしや態度について学ぶ。
(2)様々な立場の人との関わりにおいて生じる自分の気持ちを吟味しっっ、自己活用にっいての理解を深ある。
①自分に生じる気持ちや感情にっいての記録を通して、自分自身の対人関係上の特徴や物事への取り組み方など を自己洞察する。
②相手の状況を判断しながら、その時その場の判断や自らの気持ちを相手に伝える手がかりを見出す。
③心を病む人に安心感や信頼感を届ける自分の対応について考察できる。
④実習中における困りごとを看護師や教員、他の学生と共有し助言を得ることで気づいた視点を患者理解に活用 できる。
(3)心を病む人が抱えている自立・成長への課題をともに明らかにしていくことの重要性を考察できる。
①心を病む人が自分の病気をどのように受けとめているか理解する。
②心を病む人の発症の契機と今回の入院に至った経緯を理解するとともに、症状や病態、治療にっいて理解できる。
③心を病む人の人格形成に影響を及ぼしたと思われる人との関係にっいて考えることができる。
④心を病む人のありのままを受けとめ、言動にはその人にとっての理由があることを理解する。
⑤心を病む人の困りごとを手がかりにして、取り組めそうな課題を確かめ合う。
⑥デイケア・共同作業所・共同住居等の社会資源が果たしている機能や、それらの社会資源と病院との連携にっ
いて考察し、心を病む人の社会参加を支援する看護師の役割にっいて考えることができる。
間の実習を3週間で行っており、病棟実習日数 は約10日となっている。実習初日に学内で精神 看護実習の責任者から実習の概要等が説明され、
その後、実習施設ごとに担当のインストラクター から実習施設の特徴などの説明がある。
実習記録の主なものは、行動計画用紙、プロ セスレコードについては毎日提出、受け持ち患 者に関する情報や、全体像をまとめるものにっ
いては適時提出となっている。
月 火 水 木 金
1週目 学内オリエン
病棟実習 社会復帰関連 病棟実習
・
受け持ち
テーション 施設の見学
患者の決定
引き続き病棟実習 学内演習 病棟実習
2週目
・主に受け持ち患者とかか
・グループ演
・受け持ち患者を通した
わる 習
個別ケアの展開
病棟実習 学内演習・まとめ
・