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マーケティングにおける社会的交換の位置づけ

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マーケティングにおける社会的交換の位置づけ

─主体間の関係プロセスに注目するための視点の整理─

Positioning of Social Exchange in Marketing - Focus on Relationship Process among Entities -

今 村 一 真

1.はじめに ─研究の背景と目的─

 現代は、顧客 の消費との 接続が企業活動 の重要 なテーマになっている。 急速

IT

(Information Technology)の

普及は、顧客の 消費行動の様々な面を映し出すようになった ことの影響が大きい。國領(1998)は能動 的な消費者像に触れ、消費者が情報発信の力 を持ったことによる、企業 への影響力が存 在することを指摘した。また、Ramaswamy

(2005)も洗練された消費者像に注目し、消

費者が知識や技術レベルによって自由に選り 好みし、消費者自身の問題解決を促進させて いると指摘する。こうした消費者間

(C to C)

のコミュニケーションを無視することはでき ない。なぜなら、 従来のリアル

コミュニティ から地域性の枠を超え、新たな特徴や機能を 備えているからである(森田,2005)。

 一方、マーケティング研究が必ずしも経済 的な交換だけを議論してきた訳ではない。企 業活動の概括的な理解、社会的な影響につい て説明するうえ、これまで幾度となく、社会 的交換の概念を用いた説明が繰り返されてき た。これは、社会学研究における知見を応用 しているのだが、新たに生じるマーケティン グ研究の現代的課題との接続を考えるうえで は、過去の議論を踏襲することが可能である かどうか、新たに議論する必要がある。

 そこで、本研究では、マーケティング研究 における社会的交換の位置づけについて検討 する。社会的交換の議論のどの特徴とマーケ ティング研究とが接続されたのかを明らかに し、その成果を比較した分析を展開する。そ のうえで、主体間の関係 プロセスに注目す るための視点を整理し、従来の日本のマーケ ティング研究に不足する視点を指摘するとと

Positioning of Social Exchange in Marketing

要旨

 近年のマーケティング研究では、 主体間の関係の捉え方をめぐってさまざまな議論が生じている。

これは、インターネット社会の進展に伴い、顧客の能動的な態度、考え、意見が可視化され、影響 を持つようになったことと関係する。近年は、CtoC のコミュニケーションを無視することができ ないほか、主体間の関係によって生じる価値がさまざまであることを考えれば、主体間の関係を捉 える視点の整理が急がれる。

 さて、かつて企業活動を概括的に理解するうえで注目した概念に、社会的交換の概念がある。こ の概念は、これまでのマーケティング研究で幾度となく採りあげられてきた。とりわけ、社会学研 究の知見の応用が意識されてきたが、マーケティング研究が直面している現代的課題への関与を考 えるうえでは、社会科学全体から研究の進展を捉える必要がある。このような問題意識に基づき、

マーケティング研究における社会的交換の位置づけについて検討し、主体間の関係プロセスに注目

するための視点を整理する。

(2)

もに、マーケティング研究が包含すべき多様 性や複雑性を、どのように射程とするのが望 ましいのかについても考察する。

2.社会的交換に関する研究の展開

2.1 研究の起源

 社会的交換の議論は、1920 年代まで遡り 起源をみることができる。Malinowski

(1932)

はトロブリアント諸島の人々の生活に組み込 まれた、行為としての交換に注目し、それが どのような意味を持ちながら機能しているの かについて議論した。彼は、近代人類学の父 と称され、機能主義人類学の創始者ともいわ れているが、考え方の基盤には進化主義的な 捉え方の否定が含まれる。彼は、トロブリア ント諸島の人々への注目を通じて、未開とさ れてきた現地の社会がどのような秩序によっ て成立するのかについて、理解を深めようと したのである。

 Mauss(1925)もまた、近代資本主義を悲 観した視点で交換を捉えている。彼は、人間 の社会生活における贈与の重要性に注目し、

贈与と交換との違いから贈与の特徴を考察し た。 もっとも重要な理論的貢献といえるのが、

全体的社会的事実への言及である。これは、

贈与とともに溶出するあらゆる事実のことで あり、集団の宗教的、法的、倫理的、審美 的、政治的、経済的なものを含みながら、諸 領域に還元できないというものである。こう した議論を通じて贈与の特徴が解明されると ともに、それは交換と明確に区別できるもの ではないとする議論が生じるようになる。む しろ、社会関係を捉えるうえで、人は人とさ まざまな接点を持って生活していることを考 えれば、あらゆる交換によって成立している と考えることができる。

 もうひとつの系譜に、Polanyi の主張があ る。彼は、市場交換という形態が何ら普遍的

でないとし、市場経済の前提(例えば、価 値は貨幣によって計測が可能であるといっ た見解)を批判している。そのうえで、経済 は社会に組み込まれていると捉え、人とそ の環境のあいだの制度化された相互作用の 過程であるとした(Polanyi, 1957)。この制 度化された相互作用の過程 における統合形 態の原理として、互酬(reciprocity)、再配分

(redistribution)、交 換(exchange)

の論 理 展開した。ここでいう互酬とは、市場経済が 確立する以前から存在するものを指し、市場 経済後も続く制度であると捉えることができ る。このことから、互酬性とは、貨幣を媒介 しなくとも循環する仕組みのことであり、人 間集団の関係性を維持するための基本的な制 度として示されたのである。

2.2  互酬性の議論にみる主体間関係の捉え 方の違い

 互酬性をめぐる議論は、その後さまざまな 展開をみせていく。この議論

3

つの異な る性質の相互作用(①相互依存 した交換の パターンとしての相互作用、②民族信仰とし ての相互作用、③道徳的規範としての相互 作用)に大別できる(Gouldner, 1960)。①に ついて、さらに3つの交換の性質が指摘し得 る(a:独立した個の努力による成果、b:何 らかの依存によって交換が生じて成果をもた らすもの、c:相互依存によって交換が生じ、

集団の努力の組み合わせによって成果をもた

らす)。ただし、交換が双方向のトランザク

ションを必要とするため、何かが得られなけ

ればならない。また、何かを与えなければな

らない。こうした考えに基づくと、相互に

補足的な関係にも及ぶ

b

に関心は集中するこ

とになり、相互依存が社会的交換の議論の中

心になると考えられる(Molm, 1994)。②は

Malinowski(1932)が示唆した議論の延長に

あると捉えることができる。トランザクショ

ンにおける参加者は、時間とともに、すべて

(3)

の交換が公正な平衡に達すると考えられ、す べては最後にうまくいく。このことはつま り、信念を維持できる前提としての知覚をバ イアスにして、信念の奥にある世界を作動さ せる。 このことを前提とした組織的な研究が、

民族信仰に多くの示唆を与えている(Lerner,

1980)。他方、こうした解釈を上回る議論は

十分でなく、民族信仰に基づく相互作用の研 究の豊富化が期待される。③は、規範と個々 の志向としての相互作用の議論である。ここ でいう相互作用は文化的な命令ということも できる。規範と民俗信仰との違いは、規範が どのようにふるまうべきかを記述する標準で あり、この規範に基づく行動とは、すなわち 相互にふるまうことが規範によって義務づけ られている。この論理には、相互作用の規範 が一般的な原則となり、その見方が共有され ることが重要になる(Gouldner, 1960)。ただ し、こうした相互作用が一般的であっても、

個々が同じように相互作用を評価するという 訳ではない。人々には交換志向の中で慎重に 義務を追跡する特徴が生じたり、あるいは見 返りを伴わない交換かどうかを気にするなど の違いがある。交換志向が組織的な関係に影 響することが明らかなため、さまざまな研究 が推進されている(Cropanzano and Mitchell,

2005)。

2.3 新たな視点

 近年の議論には、これまでの検討とは異な る視点が示されるものがある。Weiner

(1992)

は、

「贈与の経済とモラル」

をもつ社会ですら、

保持することが重要で贈与できないものが存 在するという。また、社会を構成する個人や 集団間の交換を通じて相互に接続された社会 全体を比較したとき、アイデンティティの差 異を確認できるという。このほか、Godelier

(1996)は、Weiner

の視点を発展させ、譲渡

可能な物品の交換過程から得られるのは、一 時的な占有の問題に過ぎないとする。そのう えで、聖性といった譲渡不可能な要素がある ことを指摘し、この聖性によって保証される 集団的同一性の問題を考察し、譲渡不可能な ものの所有こそ、譲渡可能な占有物の交換を 可能にすると指摘したのである。

 こうした議論から浮かび上がるのは、社会 はさまざまな交換から成り立っている。しか しそれは、交換が、交換できない聖性を帯び た不動点ともいうべき要素と対になっている ことで説明できるということである。 人々は、

交換するものと交換できないものとを使い分 けて社会を成立させている。そのなかで、相 互に依存し関係を創出しながら、人間は社会 性の基盤を獲得しているといえよう。

2.4 小括

 ここまで、 社会的交換の検討の経緯をみた。

本章で採りあげた各々の指摘は、資本主義社 会を説明する概念や変数とは対極的なものと 捉えられてきた。なぜなら、Mauss が市場と 利潤の経済モラルと対極にある、贈与と反対 贈与の互酬モラルを論じようとしたからであ る。こう位置づけることで、利害を超越した 贈与の検討を重視しており、この視点は未だ 現代にも有効性が高いと考えられる。

 他方、こうした研究の潮流を個人主義的伝

統に基づくものと、全体主義的伝統に基づく

ものに分類して考察する必要性が示されてい

る(Ekeh,

1974)。これは、前者が交換に基

づく人間への注目を重視するのに対し、後者

は交換に絞り込んだ検討に留まらない。むし

ろ交換を続けることの方が大切であるという

視点で検討が繰り返される契機にもなる。つ

まり、全体主義的志向の研究によって、交換

は拡張されて検討されることが可能になった

のである(図表1)。

(4)

 このように研究を整理したとき、Weiner

Godelier

の議論は、ふたたび全体論的なア

プローチであることに気づく。フランスを中 心に始まったこの潮流は、貨幣を含めた贈与 の実証的かつ全体論的な関係に注目した研究 が展開されている。贈与の捉え方が再吟味さ れようとしているのである。

3.マーケティング研究との接続

 ところで、こうした研究の成果は、マーケ ティング研究にも影響を与えている。 これは、

マーケティング研究が企業や組織の活動を俯 瞰的に捉えようとする際に、こうした視点が 不可欠だからである。こうして、マーケティ ング研究においても社会的交換の概念は、幅 広く展開されるようになったといえる。

3.1  マーケティング概念論争における社会 的交換との接続

 営利を追求する 企業活動において期待さ れてきたマーケティングは、ビジネスの問 題における貢献が期待されてきた。しかし、

1970

年前後の米国は、非営利組織の数が増 えるとともに、そこでは営利企業のマネジメ ント手法が積極的に導入されるようになって いた。マーケティングがこうした問題に対応 すべく、マーケティング概念の拡張が志向さ れたのである。

 ここで、マーケティングの対象を非営利組 織にも適用し、マーケティング概念そのもの を拡張するために用いられた概念が、社会的 交換である。この議論を主導した

Kotler and Levy(1969a)は、非営利組織のマーケティ

ング・マネジメントに必要な視点として、製 品自体の認識に留まらない、マーケティング が果たす機能や便益の定義 の必要性を示し た。これは、石鹸会社の製品「石鹸」は、製 品自体を定義するのではなく、「クリーニン グ」であろう。非営利組織においては、教会 が提供するのは

「宗教的サービス」

ではなく、

「人類愛」であろう。彼らは、このような説

明を通じて 主張の妥当性を確保しようとし た。そのうえで、これら機能や便益を踏まえ て交換の概念で説明しようとするときに、社 会的交換の概念が必要であり、社会的交換も また、マーケティング研究の対象になること

図表1 個人主義的志向と全体主義的志向の違い

個人主義的志向 全体主義的志向

研究の特徴

観察可能な経験的事実を重視して、交換 に関する個人的な側面に焦点を合わせ、

その動機を人間一般の性向に求める

社会の全体性を重視する立場から研究を 推進する

代表的な研究者 Malinowski「心理学的個人主義」

Flazer, Blau「経済学的個人主義」

Mauss「全体的社会真実」

Durkheim, Lévi-Strauss

分類の根拠

プロテスタンティズム的伝統による「個 人主義」志向

教会を全体的に組織化されたものと捉 え、個人と個人を取り巻く権利と責務の 相互作用体系との間まで介入しようとす るカトリック的視点の遺産である「全体 主義的」志向

注記事項 Parsonsは、ドイツ観念論の一分派も「全

体主義的」志向に位置づけた

出所:Ekeh(1974)および糸林(2014)を基に筆者作成

(5)

を示したのである。

 彼らの主張は、経済的交換に焦点を当てる べ き と す る

Luck(1969)

Bartels(1974)

らから批判を受ける。しかしながら彼らが 強調するのは、市場取引から交換 へと核と なる 概念 の移行 であった(Kotler and Levy,

1969b)。市場取引では

購買が問題 になるの

に対し、交換ではモデルが抽象化され、マー ケティング研究の対象そのものの拡張が可能 になる。 こう考えることで、 非営利組織のマー ケティングを検討することが可能になると示 したのである。

 ところで、Kotler and Levy が示そうとした 社会的交換とは、どのような学際的な議論に よるものだろうか。このことへの具体的な言

及は

Bagozzi(1975)

によってなされている。

この

Bagozzi

が採りあげた社会的交換の議論

は、Ekeh にある。彼は、社会的交換行為の 背後にある動機には、社会的交換行為者を結 節する社会的ネットワークの確立があるとす る。このネットワークの前提として心理的な ものと社会的なものを挙げる。前者に向けて は、個人の心理的欲求を充足させることが重 要であり、後者に向けては、社会的関係の結 合ネットワークを確立することを重視した。

さらに、このことを説明するうえで、互酬性 に向けた独自の主張を展開する。

 Ekeh は、従来の相互互酬性モデルが説明 しようとしていた親族間の社会的交換行動の ごく一部しか説明できないとし、Lévi-Strauss の功績を支持している

1。その理由に、相互

互酬性と単一的互酬性の分類に注目し、二 者間のモデル(相互互酬性)に留まらない議

論の展開が可能になった点を指摘する。ただ し、 単一的互酬性の概念は

Malinowski

によっ てすでに暗示されており、二者間のモデル に留まらない議論を展開するうえで、この視 点が有効でないと批判する。そのうえで、相 互互酬性に向けた新たな検討を進める。この 取り組みから発見されたのが、限定的な交換

(Restricted Exchange)に留まらない概括的な

交換

(Generalized Exchange)2

である。さらに、

限定的な交換で示すことのできる二者間関係 がまったく孤立しているとすれば、それは排 他的な限定的交換だが、ほかの二者間関係と 接続されており、ネットワークのなかで包含 されていると捉えたとき、それは包括的な限 定的交換となる

3。こう捉えることで、さま

ざまな互酬性を持つ交換が捉えられると考え たのである。

 こうした

Ekeh

の主張

Bagozzi

は支持し て非営利組織のマーケティングを説明しよう としたのである。彼は、社会(システム)の 視点で高齢者や低所得者の位置づけを考える とき、政府やソーシャル・ワーカーが相互依 存の関係であることを前提に、これらとの関 係を社会的交換で捉え、マーケティング研究 の対象として妥当であると示したのである。

3.2  サービス・ドミナント・ロジックに引 き継がれる社会的交換の視点

 2004 年、

Evolving to a New Dominant Logic for Marketing,

というタイトルで発表 されたサービス

ドミナント

ロジック(S-D ロジック)は、その後のマーケティング研 究に大きな影響を与えている。それは、顧客

1 Ekehによると、それまでのParsonsHomansの社会分析モデルを支配していた古典的相互互酬性モ

デルに対し、Lévi-Straussは、多人数間の相互作用モデルを導入することで、社会的交換を検討する新 たな展望を切り開いたと解釈している(邦訳248頁)。

2 小川訳(1980)では「一般化された交換」と示されているが、本研究は今村(2015)との表現の統一 を図るため、これを「概括的な交換」と記した。

3 Bagozzi(1975)は、これを「複雑な交換(Complex Exchange)」と示している。

(6)

にとっての価値に向けた企業活動のあり方を 転換させる視点を多く含んでいるからに他 ならない。「価値は受益者によって常に独自 に現象学的に判断される」(Vargo and Lusch,

2008, FP10)の指摘に象徴されるように、製

品の消費・使用段階へのアプローチが、従来 の企業活動においては疎かだったといえる。

S-D

ロジックは、製品の販売を重視する従来 のマーケティングと対比することで、従来の マーケティング研究の限界を指摘した。同時 に、個別の使用経験への関与といった新たな 挑戦が期待されていることを意味しており、

アカデミアの関心は、顧客へのより一層の注 目へと移行し、検討が進められている。

 さて、この

S-D

ロジックは企業と顧客を 区別しない。全ての主体を

Actor

と捉え、そ こで生じる関係は、A to A であるという。こ れは、全ての関係をサービス交換 と捉える からにほかならない。S-D ロジックにおいて サービス受益者は、価値を共創し、ほかの資 源との統合を念頭にサービスを交換する。こ こでいうサービスの交換とは、サービス・オ ファリングを提供するために適用したナレッ ジとスキルを用いることで成立する。 つまり、

主体間の交換が成立する背景には、こうした ナレッジとスキルの適用がある。このことに おいて、 主体を

B(Business)

C(Consumer)

など区別することがない。S-D ロジックは 交換の対象を全てアクター(Actor)と捉え、

主体間の関係を

A to A

で捉えて、サービス による交換を論じている。

 この、サービスの交換の理論的背景には、

Bagozzi(1975)で示した社会的交換がある。

すなわち

S-D

ロジックのいうサービスの交 換は、Ekeh の示した社会的交換のモデルを 起源とするものである。ただし、彼らはサー ビスの交換と社会的交換の議論との接続に

おいて、独自の見解を加えている。Bagozzi の主張を支持し、単純にその延長にサービ スの交換を位置づけようしているのではな い。彼らは、Polanyi の主張を採りあげ、「人 間は少なくとも

3

つの主要な制度を開発し て き た。 そ れ は、互 恵 主 義(Reciprocity)、

再 配 分(Redistribution)、 市 場 交 換(Market

exchange)

で あ る

」(Lusch and Vargo, 2014,

p.109, 邦訳128

頁)とし、互酬が交換を説明

するもっとも有力な視点であると示してい る。そのうえで、彼らはこれらを基本システ ムとし、このうち

2

つあるいは

3

つすべて を様々な割合で組み合わせた交換制度が存在 するという。これを「ハイブリッド交換シス テム(Hybrid exchange system)」といい、こ

の概念は

Simon(1996)が市場経済でなく、

市場・組織経済を捉えるとともに示された概 念であるという。こうして

S-D

ロジックの いうサービスの交換は、市場における交換に 留まらない、アクター組織

4

の中に存在する ものとして示されている。

 このように、Vargo and Lusch

Bagozzi

主張に立脚した議論を展開した。 それは、 サー ビスの交換を説明するうえで、社会的交換の 含意の有効性を継承するに留めるのではな く、A to A のネットワーク・パースペクティ ブを構築する試みが展開されている。この検 討の中に、社会的交換の知見を活かそうとし ているのである。

3.3  リレーションシップ・マーケティング 研究における社会的交換の位置づけ

 社会的交換の含意を踏まえたマーケティン グ研究として見逃 せないのが、リレーショ ンシップ・マーケティング領域である。産 業財マーケティングの分野においては、IMP

(Industrial Marketing and Purchasing)

グ ル ー

4 ここでいうアクター組織とは、サービス・エコシステムによって形成されるものである。このサービス・

エコシステムとは、S-Dロジックを説明するうえで欠かせない概念である。今村(2015)に詳しい。

(7)

プが実証研究を繰り返し、産業財市場にお ける主体間の関係を検討した。同グループ は、相互作用を経済的交換の上位概念と位置 づけて検討した点に特徴がある。こう解釈 することによって、研究の対象を経済的交 換からリレーションシップへと転換している のである。そのうえで、相互作用には製品と サービスの交換、 情報の交換、 経済的な交換、

そして社会的交換の

4

つが 含まれるとした

(Håkansson and Östberg, 1975)。こ こ で い う

社会的交換の引用は幅広く、Blau(1964)の ほか

Homans(1958)、Cook and Emerson(1978)

などさまざまなものが引用されている。ただ し、図表

1

にある全体主義的志向を好まな い。これは、Blau(1964)が定義する社会的 交換「他者が返すと期待されるところの、典 型的にいえば実際に返すところの返礼によっ て動機づけられる、諸個人の自発的行為のこ と」(邦訳

82

頁)に即した検討が意識された からであろう。IMP グループは当初、ダイア ド関係の中で生じているさまざまな発見を研 究に反映させようとした。そのため、相互作 用が繰り返される根拠として、社会的交換が 示す指摘を拠りどころにしたと考えられる

5 IMP

グループはその後、リレーションシップ の射程をネットワークに拡張して検討を続け るが、ここでも社会的交換の議論との接続は 意識されている。ただし、相互作用を経済的 交換の上位概念として位置づける彼らの研究 は、社会的交換概念の援用や補完といった関 心を持たない

6。この点は、前項の研究の潮

流と異なる側面を持つといえる。

  他 方、 ア メリカン学 派 のリレ ー ション

シップ・マーケティング 研究にも、Blau

Cook and Emerson

の主張の支持が見られる。

Morgan and Hunt(1994)は、Blau(1964)の

主張からコミットメントの含意を見出したほ か、

Cook and Emerson(1978)主張のうち「経

済的交換と社会的交換を区別するうえで中心 的な変数となる視点にコミットメントがあり、

コミットメントが交換のリレーションシップ のタイプを特徴づける」

(p.23)

を採りあげて、

その意義を指摘している。この、Morgan and

Hunt

が展開するリレーションシップ・マーケ ティング研究は、企業間取引において対立し つつ協調せざるを得ない取引による関係を脱 し、関係性の視点からとらえ直そうという試 みだったといえる。これは、IMP グループが 描こうとしたリレーションシップ

マーケティ ングとねらいが異なるものの、経済的交換だ けで説明できない領域を解明するうえで、社 会的交換の知見を得ようとする考え方として は、大きな違いが見られないといえる。

3.4  ノルディック学派における社会的交換 の位置づけ

 ところで、相互作用を経済的交換の上位概 念と位置づけ、研究の対象を交換からリレー ションシップへと転換してマーケティング研 究を推進したのは、IMP グループのほかノル ディック学派がある(金・今村

, 2016)。ノル

ディック学派がマーケティング研究を展開す る前提にも、社会的交換の議論がある。彼ら もまた、Polanyi(1957)が示した互酬の概念 に関心を寄せる。

 ただし、ノルディック学派 のサービス・

5 Blau(1964)は、社会的交換と経済的交換との違いを次のように説明している。「社会的な交換が経済的

な交換ともっとも異なるのは、社会的交換が特定化されない義務を伴っているということである」(邦訳 83頁)

6 これは、社会的交換を、心理的、空間的または文化的な距離、あるいは限定的な経験によって生じる溝 を減少させる重要な機能として捉えたうえで、ITによるネットワークの活用が、社会的交換の意義と同 様の効果を獲得できる工夫が必要だからである(Leek et al., 2000)。こうした指摘からも確認できる。

(8)

マーケティング研究は、社会的交換の議論 との接続が厳密に検討されているとはいえな

7。Polanyi

のいう互酬についても、サービ スによって関係が生じる主体間の暗黙知とし て存在するものであろうという程度に留まっ ている

8。これは、現実を受け入れることが

まず優先されなければならないからである。

Gummesson(2015)によると、概念やそれ

らのカテゴリーの持つ意味が徐々に曖昧にな り、概念と分析のカテゴリーの重複が核心を 持つことになる。このとき、研究者が注目す る現実はファジイな集合であるが、明確な境 界の中に収まり一致したときに、現実の実質 的な部分を取り出すことができる。彼は、ノ ルディック学派の研究をこのように特徴づけ て説明する。また、実証研究との接続を重視 するうえで、互酬の仕組みをビジネスで縛ろ うとするような考え方を持たない。むしろ、

顧客の世界全体をフォーカスすることに重き を置き、マネジメントにだけ関心が払われる べきでないことを示唆している。

 彼が示そうとするノルディック学派の性格

は、

Merton(1949)のいう中範囲理論(Middle Range Theory)

アプローチとの親和性が高い

9

この中範囲理論は、理論 と調査 との相互作 用を重視する。なぜなら、Merton は全体包 括的な一般理論を急ぐことを嫌ったからであ り、彼は限られた範囲に適応する特殊理論の 開発を優先することの意義を示した。 これは、

理論の開発を通じて、中範囲の理論がやがて 一般理論へと統合されていくとの考えに基づ くものである。つまり、中範囲理論とは、一 般理論構築のための基礎的な取り組みを重視 する考え方に大きな特徴があるといえる。ノ ルディック学派の研究スタイルは、この考え に沿ったものだと考えてよい。

 この研究スタイルをより鮮明にしたものが

Theory in Use (以下「TIU」)だといえる。

これは、絶えず新しい理論の開発が期待され るマーケティング研究において、その射程を 新たに捉えようとしている「使用中の」考え 方に目を向けようとするものである。今や、

マーケティング研究の射程は、単体の製品や サービスに留まることはない。サービスのエ

7 ノルディック学派が重視する概念のひとつに「Promise」がある。これは、Grönroosの示すマーケティ ングの定義にもみられる。

「マーケティングは、当事者の目的が達成されるように、顧客やほかのパートナーとの関係を強化する ことが重要である。また、それは主体間の相互の交流やPromiseの実践によって達成される」(Grönroos, 1990) Grönroos(1994)によると、PromiseCalonius(1988)によって示された概念で、Promiseによっ て新規顧客を惹きつけ、最初に関係を構築がする、また、継続顧客に対しては、Promiseの達成が顧客 基盤の維持や長期的な収益の達成にもつながるというものだという。ここでいうPromiseは、企業が これを掲げることで、さまざまな関係性を構築、維持して前述を達成すると考えられている。この関 係性の解釈がアメリカン学派と異なっており(金・今村,2016に詳しい)、Promiseの達成に向けた実 践は、必ずしも収益への接続だけが意識されている訳ではないと考えられている。

8 Gummesson(2015)は、Nonaka and Takeuchi(1995)の暗黙知の発見を好意的に捉えつつ、「日本企業

がそれを使用して、明示的にするために体系的にどう機能するかを示そうとすることによって、(暗黙 知を)ビジネスによって縛られる結果をもたらした」(p.456)とも指摘する。

9 中範囲理論とは、調査を通じて得られた経験的事実(経験的一般化命題)から抽象的な理論仮説を導き、

その理論仮説を他の調査で得られた経験的事実を通じて実証しようとするものである。

ちなみに、Mertonの方法論は、社会を社会システムとして捉えて一挙にその全体を理論化しようとす

Parsonsのグランド・セオリーとは対照的な性格を持つ。

(9)

ピソード、顧客との関係性、そして関係性の ネットワークへと適用範囲を拡張している。

こうした局面において、マーケティング研究 が新旧の思考の違いを対比しようとすると き、いつも適用範囲の拡張を引き合いに出す が、それは拡張しようとする適用範囲の中に 存在する人々のメンタルモデルを反映するこ とに他ならない(Strandvik et al., 2014)。企 業がメンタルモデルを採用するのは自然なこ とだが、それは迅速、簡単に発生するもので はない。しかし、市場に影響を与え、組織自 体や関係者に影響を与える。また、この局面 において、マーケティングの新たなパラダイ ムの実践が求められる。これが、ノルディッ ク学派が

TIU

を重視する理由だといえる。

 以上から明らかなのは、ノルディック学派 のサービス・マーケティング研究は、社会的 交換の議論を踏まえた研究が意識されている ものの、接続が強く意識されているとはいえ ないということである。それは、マーケティ ング研究を社会科学として広く捉えることと 同義であり、固有の概念だけの接続を意識し ていないということである。むしろ、ビジネ スが直面する世界から研究を生成させること が重視され、理論の開発を連続させ蓄積する ことによって、研究全体を進展させようとす ることへの関心が強いといえる。TIU に象徴 されるノルディック学派の研究スタイルは、

実践的示唆からマーケティング独自のパラダ イムを捉えようとするがゆえのアプローチだ といえる。

4.考察

 ここまでの検討から明らかなのは、マーケ ティング研究における社会的交換の議論との 接続は多様であり、研究の領域によって異な る社会的交換の含意を用いているということ である。マーケティング概念の拡張や幅広い

主体間の関係を捉えようとする研究において は、全体主義的志向の研究が重宝され、主体 間関係の解明にリジッドな結論を希求する場 合には、個人主義的志向の研究が用いられて いる。同じマーケティング研究においても、

社会的交換の含意は異なっているのである。

さらに、社会的交換の議論との接続がマーケ ティング研究に与える影響は大きく、接続の 特徴がそのまま、それぞれのマーケティング 研究に反映されている。つまり、社会的交換 が示唆する本質は、マーケティング研究の展 開を考えるうえで、無視することができない 大きな存在感を持つものだといえる。

 ここで注意が必要なのは、社会的交換の議 論との接続の根拠である。Ekeh(1974)が 全体主義的志向と個人主義的志向とに分類し た根拠は、宗教的価値観に基づくものであっ た。また、三者以上の主体に及ぶ交換が本格 的に検討されたのも

Ekeh(1974)以降であ

るといえる。こうした事情を十分に考慮した 援用が、マーケティング研究で為されたとい えるだろうか。先にマーケティング研究にお いて結論が用意されていて、そのために都合 の良い社会的交換の議論を接続に用いたとい うことはないだろうか。

 このことを正確に検証することは難しい が、特に日本においては、研究成果を一般化 可能なものと解釈し、鵜呑みにしてきた可能 性がある。宗教的価値観の違いに基づく分 類は、日本で行えるものではない。当然、日 本の実情とも大きく異なる。社会的交換の 検討も、日本に固有の議論があって良いはず であり、この議論との接続から検討しなけれ ばならない。しかしながら、例えば、日本に 由来した互酬の特徴との接続を意識したマー ケティング研究などは見当たらない。結果 として、日本社会の特徴に沿った、社会的交 換の議論とマーケティング研究との接続は、

十分に吟味されて解釈されたとはいい難い。

Gummesson(2015)がいうように、組織内

(10)

に日本的な互酬の特徴を見出した検討は行わ れてきたが、マーケティング研究にこうした 展開はなかったといえる。 これは、 日本のマー ケティング研究が、長らく交換を研究の中心 に据えたことによって、企業と顧客の立場の 違いを対峙的に捉えてきたためであろう。あ るいは、差別化による収益の増加という成果 との接続が、絶えず意識されてきたからであ ろう。しかし、これまでの研究が日本社会の 特性を捉えた接続を丹念に熟考したとはいえ ない。日本のマーケティング研究を発展させ るうえでは、こうした不足を補う必要がある といえる。

 このほか、ふたたび社会的交換に視点を戻 すと、Weiner

Godelier

によって、 新たに 全体論的なアプローチが登場している。しか しながら、S-D ロジック研究やアメリカン学 派の主要なリレーションシップ・マーケティ ング研究には、こうした視点をキャッチアッ プしたものが見られない。しかし、この対応 は果たして妥当なのだろうか。日本のマーケ ティング研究もまた、これに追従するかたち でよいのだろうか。特に

Godelier

が指摘した 譲渡不可能な要素の発見は重大である。マー ケティング研究においては、現象の捉え方の 転換とともに、何を資源と捉えて議論すべき かの議論が必要であり、どのような接続が可 能なのか検討が必要である

10

 他方、社会的交換との接続を強く意識しな いのが、ノルディック学派のサービス・マー ケティング研究であった。こちらは、特徴的 な研究アプローチを確立し、実態を捉えた研 究の豊富化によって理論を生成させようとす る姿勢が鮮明である。そもそも、IMP グルー プやノルディック学派が、相互作用を経済的 交換の上位概念と位置づけて検討しているこ とを考慮すれば、経済的交換の議論との接続

に躍起になる必要がない。むしろ、交換の概 念を用いない検討を蓄積することに意味があ り、それはすなわち、企業にとって顧客を対 峙的に捉えないという研究の特徴と密接に結 びついている。

 これまで日本のマーケティング研究が、主 として米国の研究潮流をキャッチアップし、

そこから日本の実態に即した研究の推進に及 んだことを考えれば、日本において研究の方 法論が十分に考慮されたとは言い難い。とり わけ日本社会を捉えたマーケティング研究を 展開するうえでは、こうした違いを理解した うえで、分析視角を整理して用意する必要が あるといえる。

5.研究のまとめ

 本研究では、マーケティング研究における 社会的交換の位置づけについて検討し、主体 間の関係プロセスに注目するための視点を整 理した。社会的交換の検討が進展し、さまざ まな議論が示される一方で、マーケティング 研究との接続にもさまざまなものがあった。

ただし、社会的交換の研究を十分に咀嚼しな いまま接続が志向されてきた可能性を払拭す ることはできなかった。これは、米国のマー ケティング研究のキャッチアップが重視され てきた、日本のマーケティング研究の課題だ といえる。しかしそれだけではない。マーケ ティング研究の対象を、サービスのエピソー ド、顧客との関係性、そして関係性のネット ワークへと適用範囲を拡張 する局面におい て、社会や文化をどう捉えるべきかという大 きな問題を投げかけている。マーケティング が実践的な社会科学の領域である以上、マー ケティングの機能や構造を説明する手段を持

10 Price and Belk(2016)やArnold and Rose(2016)といった消費文化論の研究者たちが、こうした議論

を展開している。

(11)

たなくてはならない。取り扱う要素が増え、

多様性や複雑性が高まるなか、これらをどの ように捉え解釈することが可能なのか、整理 して分析が行われなければならない。さら に、社会の変化とともに人の関心も変わって いく。求める成果も違っていく。それととも に、示されるマーケティングの機能や構造も 変化する。このことを念頭にした研究の示し 方が必要である。

 製品中心のマーケティングであれば、製品 が消費の文脈に与える影響を与えることが念 頭にあって不思議ではない。他方、主体間の 連続した関係性に基づくマーケティングを明 らかにするためには、消費の文脈の中に関係 性が機能しなければならない。当然、サービ スも関係性を詳述するうえで必要になる。こ れを捉えようとするのが現代のマーケティン グの課題であり、それはすなわち、消費の文 脈と共に記述しなくてはならない。複雑性や 多様性を切り離した議論は難しく、理論の生 成や開発も、こうした特徴を無視して進める ことはできない。社会的交換の検討との接続 は、マーケティング研究を社会科学の中でど のように位置づけるかという 議論をもたら している。ここで、マーケティング研究の成 果を経済的交換や収益に求めようとしたので は、研究の範囲を限定することになり、マー ケティングの機能や構造を説明するうえで、

幾つもの制約を設けることになる。他方、消 費の文脈を解釈するという行為において、社 会的背景や諸側面と切り離して説明すること はできない。このように考えたとき、人々の メンタルモデルに存在するのは社会的交換で あろうか、あるいはマーケティングであろう か。両者は隔たりのあるものではなく、重複 するものであっても構わないのである。むし ろ、現象を説明し得る理論生成が求められて いるのであり、ここにアカデミアの役割を見 出すことができるといえる。

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(いまむら・かずま 本学部准教授)

(謝辞 本研究はJSPS科研費 JP16K03926の助成を受けた研究の一部である。)

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