数学教育におけるトポロジーの 考えの教育的価値について
数学研究室平 岡
(1968年10月30日受理)
忠
目 次 1.はじめに
II.現代化の観点からみたトポロジーの考えの位置 皿.トポロジーの考えの数学教育における価値 IV.おわりに
1.はじめに
近年来,世界各国で数学教育の現代化の名のもとに,数学教育の目標,指導内容および 指導方法の改革等についての熱心な研究が進められている。そして,それらの研究に伴な い,指導内容として現代数学からいくつかの新しい概念の導入が試みられているが,トポ
ロジー(位相)(topology)の考えの導入もその一つと考えられる。
拙論では,はじめに数学教育現代化の考え方や方向からみたトポロジーの考えの位置に ついて述べ,その後でトポロジーの考えの導入のねらいや指導内容としての教育的価値に 1)2)3)
ついて考察する。具体的な学習指導の立場からの考察はすでに他の機会に述べてあるので ここでは触れないことにする。
皿.現代化の観点からみたトポロジーの考えの位置
現在進行しつつある数学教育の現代化は,国によりまた同じ国の中でも種々の研究グル ープにより,そのカリキュラムやプログラムには差異があるが,次のようなねらいをめざ
しているという点で共通したものがあるといえよう。
数学教育の現代化では,数学的な概念や原理を明らかにし,それらをもとにして指導内 容を再構成し,児童・生徒によりよく内容を理解させ,数学的な見方・考え方を身につけ させようとしており,同時に数学は生々発展している生きた教科であるという意味を理解 させ,数学数育を通して創造的な能力や態度を育成しようとしている。
4)
このようなねらいは,すでにC.E, E. Bの報告書にも見られている。
さて上記のねらいに即して,指導内容の再構成という立場から現代数学からのいくつか の概念の導入について考えるとき,そのような新概念をカリキュラムに導入する理由とし 5)
てR.E. Rourkeは次の5っを提案している:
1. To clarify
教科書や指導においては多くの曖昧な箇所がある。多くの点において,現代的な考え方 は,それらの概念をシャープにしたり,それらをよりよく焦点化することができる。
2. To simplify
使わなかったりまたは漠然とした用語は削除する必要がある。現代的な考えはそのよう な多くの余分なものを整理するのに役に立つ。
3. To unify
統合化や統一概念の必要なことはしばしばいわれている通りで,集合の概念などはその 最適な例であろう。
4. To broaden old ideas
多くのトピックスを,現代的な考えで観ることにより,新しい見透しを得たり与えたり することができる。そうすることによって新しい興味や熱意を発展させることができる。
5. To introduce important new ideas
現代数学で用いている用語や概念の中には,生徒が理解できる範囲にあるものが沢山あ る。しばしば,このような概念は従来の内容よりも容易である。
この提案のように,新概念の導入は,多くの利点をもち数多くの人4の支持を得ている が,性急な形式的な導入には心しなければならないことはもちろんである。この点に関し 6)
て,Cambridge reportでも,現代数学のいくつかの概念をカリキュラムへ導入するのは,
それが現代的であるからという理由からではなく,児童・生徒に与えたいと思う指導内容 を編成するのに有用だからであると述べていることからもいえるように,新概念の導入は 数学教育の目標の達成をめざしたよりよいカリキュラムを作成する上で重要であるとみら
れるからである。
上記の理由と相侯って,多くの現代化の試みは現代数学からのいくつかの概念の導入を 意図しているが,トポロジーの概念もその1つと考えられるので,次にそのことについて 述べる。
数学教育へのトポロジーの考えの導入は,十数年前,当時のN.C.T. M.の会長であっ 7)
たB.E. MeserveがM. T.誌上でttTopologY for Secondary School と題してその必要性 を叫んだのが知る限りでは最初のように思う。其の後,現代化の波と共に漸次その必要性
が強調されて来ている。例えば1962年のStockho1mでの国際数学者会議のJ. G, Kemenyの 8 報告も初等数学教育に導入すべき現代数学からのトピックスとして若干の科目と共にトポ 9)
ロジー入門をあげており,同年Budapestで行われた国際数学者会議のシンポジゥムでも 新教材の中にトポロジー初歩があげられ,年令程度や学校種別によってどの程度早期から またいかなる方法で導入するかについての試みがなされなければならないとしている。さ ユの
らに前述のCambridge reportのカリキュラム案にもトポロジーが折り込まれている。な 11)
お,このトポロジー入門については,特にポーランドで野心的なプログラムがあることが 知られている。
12) 13)
これらのほか,具体的例としては,S.M. S.G.のテキストでは幼稚園からS.T. A.の 14)ユ5)
テキストでも小学校1年からというように極めて早期から,またS.M. P.のテキストで は中学校でTopologyとしてまとまった形で,いずれもトポロジーの考えを扱っている。
その他のテキストでも適当な形で折り込んでいるものが多い。
以上からもみられるように,最近では数学教育の目標に沿った新概念め1つとしてトポ ロジーの考えを取り入れる方向にあるといえる。しかし,単に諸外国で試みているからと いう理由からではなく,数学教育において,指導内容として真に価値あるものとして導入
したいわけで,この点について次に述べることにする。
皿 トポロジーの考えの数学教育における価値
ある内容が指導内容として教育的に価値があるか否かはその時代の教育の目標に照合し て評価されなければならない。
そこで,トポロジーの考えの数学教育への導入の試みは,児童・生徒にトポロジーの考 えの意味をよく理解させると同時にトポロジーの考えのよさを感得させることによって彼 等をしてより積極的に学習に参加させることにより,学習を一層効果的にすることを期待 するものである。このような観点から,ここでは教育的価値として次の5つを挙げて考察 することにする。
(1)数学的な見方・考え方を育成する。
数学的な見方とか数学的な考え方についての意味づけは人により種々なされているが,
ここでは数学を創り発展させていく基礎となる考えという意味に解釈して論を進める。
数学的な考え方の意味を上述のように解釈するとき,トポロジーの考えはこの数学的な 考え方の育成に役立つことがいえる。
数学という学問を特徴づける大きな性質の中に抽象性と論理性があげられるとすれば,
当然のこととして,これらの両性質は数学的な考え方と関係するので,したがってまた,
トポロジー一の考えもこれらの両性質に関係するといえる。
まず,抽象性については,トポロジーの起りともいわれるケーニヒスベルグの橋渡りの 問題も,道路や川や橋の巾,2地点間の道のり,島や陸地の面積,…等の計量的な要素は 無視して,島や陸地を点とみなし橋を線とみなすとによって,点と線の位相的なつながり の問題として捉えることができる。同様に,平面上や曲面上の領域(面),境界線(辺),
点(頂点)等の接続関係を調べるのに,各領域をその内部にとられた点で代表し,互いに 隣接する2つの領域はそれらを代表する2点の間を線で結ぶことにより,点と線の結びつ
きによる位相的な網(network)に変えて考察できる。1っの多面体に対して,それと双 対(dual)な多面体を考えるとか,多面体を平面上に投影したシュレーゲル・ダイヤグラ
ム(Schlegel Diagram)を画いて考えるなどはその例である。
このように,いくつかの要素の接続関係を究明するとき,位相的観点から必要な性質を 抽象し計量的その他の必要でない属性を捨象して考察すると便利なことが多い。このよう な考え方を通して,抽象することの意味やよさを理解させることができ,また,具体的な 対象を点や線とみなして扱うという見方は無定義用語というものの意味を理解させるのに も役に立つ。なお図形に関していえば,位相幾何はユークリッド幾何より一般的で抽象的 であることから,図形を位相的観点から扱うことにより抽象化されたものの意味の多様性 についても理解させることができよう。
上で図形について触れたが,図形を点集合としてみたとき,ユークリッド変換によって 不変な図形のユークリッド的性質と位相変換によって不変な図形の位相的性質との関係 は,位相的性質はユークリッド的性質になるがユークリッド的性質は必ずしも位相的性質 になるとは限らない。このことと関連して,現在の図形教育では,ユークリッド的な図形 の扱いが主であるが,そのような場合においてもユークリッド的図形の中での位相的性 質に注意することが重要である。そのような性質に目を向けないために誤った推論を導く
ような例はしばしばある。例えば,交わらないものを交わるとしてしまったり,平面上で 直線の両側にくる筈の点をその直線の同じ側にくるものとしてしまったり,直線上の2点 の問にくる筈のものをその2点の延長上にくるとして進めてしまうという類の誤まりであ る。よく知られた「すべての三角形は二等辺三角形である」という命題なども上の誤まり の例といえる。このような場合において,もっと位相的性質に意を注げばそのような謬論 を少なくすることができると思えるので,このような点からも,トポロジーの考えは論理 的な推論を進める上でも役に立つといえる。
あるいは,ものの分類や整理をするとき,ある観点からみて同じ仲間とみられるものは まとめて扱うという数学的な考え方も,対象を位相的観点からみて同値なものは同一視す
るということから育まれる。例えば,平面上の三角形,円,正方形はユークリッド的には 異った図形であるがこれらの図形はいずれも平面を内側と外側の2つの部分に分けるとい う位相的性質は同じであり,このような図形を単純閉曲線と呼ぶことにより統一して扱う ことができる。また,円とか三角形といったとき,それはまわりの周だけをいうのか内部
の領域まで含めていっているのかということも位相的には異なるわけであるから,そのよ うな差異に注目することによ嘱念や用語の意味をいっそう明瞭にすることができる。
つぎに,位相的な教材の中には数学的な考え方が端的に表われているものが沢山ある。
前述のケーニヒスベルグの橋渡りの問題も,それが位相幾何学(トポロジー)の起りのき っかけとなったことを思えば,数学的な考え方を養う素材となるであろう。幸いにトポロ ジーに関した教材の中には数学の発展に直接結びついている問題でしかも指導内容として 扱える程度のものがある・S・M・S・G・の教科書の・・What i・M・th・matics旦%中で
「ケーニヒスベルグの橋渡りの問題」を扱っているのや, ?What nobody knows about 17)
mathematics で「地図の色分け問題」,「旅行の問題」とか,・他のところで「ハミルトンの 18)
問題」のような未解決の問題を扱っているのも上述のようなねらいからであろう。
19)
S・M・P・のテキストでもt puzzie Corner として数学的思考を練るような興味ある問 題を示している中に「メービゥスの帯」の問題があるが,これも単に児童・生徒に興味を
もたせるというばかりでなく,身近かにある多くの曲面が表と裏の区別がつけられるのに 対して,簡単に作れるモデルで表と裏の区別がつかない曲面があることを理解させ,曲面 の性質を究明したり分類したりするのに役立てようとのねらいからであろう。
この メービゥスの帯 や クラインのびん のように,一見奇妙とも思えるものを取 扱うことは,ある事柄Aの指導においてAの本質をさらによく理解させるにはAとは異っ ているnon Aも意識させることが大切であるということとあわせて意味があるばかりで なく,奇異とも思える(病理的な)モデルがしばしば数学の発展を促進させていることの 理解にも役立つわけである。
以上のいくつかの例で述べたように,トポロジーの観点に立った見方や扱いは数学的な 考え方を育成するのに役立つといえる。
(2)数学的構造を理解させる
数学教育の現代化では・数学的構造(mathematical struCture)を生徒に理解させるこ とを主要な繍としているが,教育においてもエS.B・un・ノ゜廠科の離の鞭性を儲 していることとあわせて興味深いものがある。さて,N. Bourbakiの主張を侯つまでもな く,トポロジーの考えは数学の構造として重要であるばかりでなく,また数学教育におい ても重視されなければならないものの1つである。
数学的離の指導に対しては,群環・体やベクトル空間などのように代数白勺構造の中 に比較的適した例が見られるが, 近さ の概念をもとにした位相的構造や,また順序構 造とか同値関係等にも適当な教材を見ることができるわけで・これらの基本的な構造(G・
Ch・qugl)はこれらの騨勺構造を母離(m・ther st・u・tu・e)とよんで他のより灘な 構造と区別している)は数学教育において,或る観点から観て同型なものは同一視すると いう立場に立って統合したり体系づけたりする方法を指導するときに大切なものとなる。
22)
数学においては,一般化や拡張という手法をよく用いるが・G・Polya のいう 濃縮する
(condensing)ことによる一般化 こそこの構造による統合化であろう。またこのような 構造による統合化や一般化の方法による洗練されたまとめ方や双対の考え方などの中には 芸術にも似た整合,リズム,調和,対称等による数学の美しさも感じられよう。
教育の現代化においてモットーとされている「教材の精選」ということは・さきのR・E・
Rourkeがいっているto simplify, to unifyということに当るわけで時代の進展に伴ない 知識が爆発的に増大するので,重要でない教材は整理し,まとめられるものは統合すると いう態度で臨むことといえる。数学の発展の歴史もこのことを如実に提示しているといえ る.つまり,前世紀末にD.・Hilb。・t23)によって進められた鯉的方法は現代欝発脚有 力な武器となり,構造が一段と脚光を浴びるようになったわけである。
構造の指導では,ものごとやそれらの間の関係について,それらがいかなることがらを 根拠として成り立っているか,また根拠にすることがらを変えればどのようになるかとい
う真理の相対性や,あることがらを根拠としてどこまで論理的に演繹でき体系づけができ るかということや,また種々の領域に無関係に散在していると思われていたものがある観 点からみて同じ仕組みになっていることに気づくことにより統一的にまとめられるという ことなどを理解させることができる。さればといって,児童・生徒に現代数学や構造をた だ薄めて初歩的に解説する形で指導するわけでないことはいうまでもない。
要は,生徒に指導内容やそれらの相互関係の本質をよりよく理解させるために根拠とす ることがらや統合する観点として 近さ。Nに根ざしたトポロジーの考えも用いていくとい
うことであり,そのような立場からの指導を通して生きた教科としての数学を発展させて いくプロセスを生徒なりに味あわせたいということである。トポロジーの概念は極めて一 般的なので,数学においても種々の広汎な分野にわたって横たわっているように,指導内 容においても,数や量の領域にも,図形の領域にもというように広い領域にまたがってみ られるものである。このように,極めて一般的なトポロジーの考えに根ざした構造の理解 は,数学的構造の中の重要な一つである位相的構造を理解させるのに役立つといえる。
(8)位相的概念を発達させる。
トポロジーの考えの指導が位相的概念を発達させるのに役立つといっては余りにも当然 すぎるように聞えると思うので,その意味を述べてみよう。
トポロジーの考えは,図形の領域に限らず数学教育の種々の領域にわたって存在する考 えであることはすでに述べた。しかし,図形を例にしても,空間概念を位相的に認識する 24)萌芽はすでに幼児期からあることが知られている。J. Piaget らの幼児についての研究に
よれば空間概念の認識の発達は
位相的一→射影的一→ユークリッド的 25)
26)27)
の順序で進むといっている。しかし,このことに対する滝沢氏や佐藤氏の研究は,子供の 再生法による空間表象には描写能力も関係しているということや,位相的からユークリッ ド的への発達は独立して進むものでなく早くから両者が並存の形で認識されているという ことなどから,必ずしもPiagetらの結果と一致しない面も指摘されている。したがってこ の方面のさらに深い研究が今後に期待される。とはいえ,トポロジーの概念の発達は幼児 期の比較的早期から芽生えているという事実から,この発達をまったく自然のままに委ね ておくのでなくより意識的な取扱いを加味することによって,その発達をいっそう促進す ることができるであろう。
具体的な例としては,幼児期でも指導できるということから,例えばS.M. S.2C .のテ 29)
キストでは幼稚園から,またS.T. A.のテキストでは小学校1年の幾何として,閉曲線 と開曲線,単純閉曲線の内部と外部,曲線の間などを指導している。このように図形教材 には低学年から幼児・児童の経験と関連させて指導できる教材が比較的多くある。
図形指導において,たとえ,ユークリッド幾何を主にして指導したとしても,それらの 図形を位相的観点からも扱うことが必要といえる。従来の図形教育においては,この面か らの配慮が欠けているように思う。そうすることにより,図形の本質的な異同や性質がよ り深く理解できるものと期待する。このことは,図形をアフィン的や射影的などのユーク リッド的より広い観点からみる場合にもあてはまることで,従来のユークリッド的観点に さらにそれ以外の見方も加えて図形指導を進めたい。
上では図形の例に過ぎた感もあつたが,このような図形におけるトポロジー的な扱いは どちらかといえば,組み合わせ的トポロジー(combinatorial topology)とか代数的トポ ロジー(algebraic topology)などとよばれるものである。図形直接でない領域でのトポ ロジーの考えの活かされる教材には数の集合や点集合などに関係した集合論的トポロジー
(set−theoretic topology)に関するものがある。トポロジーの考えの数学教育への導入と いうと,とかく前者が引き合いに出される傾向にあるが,後者もまた軽視してはならない ので,むしろ後者の方が重要であるともいえるほどである。しかし後者の考えは学年段階
からみて高学年においてより多く指導内容として関連するものが見出されるといえよう。
そこで,後者の集合論的トポロジーの考えを数学教育で扱うのは(それを幾何学的に表 現して扱うか否かは別にしても),主として自然数・整数の集合の離散性,有理数の集合 の稠密性や実数の集合の連続性に関したものや,さらにはこの実数の集合の連続性に関係 した点集合としての直線や平面,空間概念に関したもの,換言すれば位相空間としての距 離空間さらにその中でのユークリッド空間の位相的性質の初歩的なものが主であるといえ 30)
る。詳しくいえば,ユークリッド空間 の完備性,コンパクト性,連結性などに関する極 めて基本的な概念が主であるといえる。
この集合論的トポロジーの考えに関係した教材も,従来はとかくに,小・中学校段階で はトポロジーの観点からは扱われてなかった憾みがある。例えば,ある量の測定値を小数
(有理数一実は実数であるが一)で表現できるのは有理数の集合の稠密性や実数の集 合の連続性に基因しているわけであり,概数や近似値も実数の同様の性質による近傍に関 したものである。また高校段階における微積分(解析学)でも収束・極限,近傍,連続等 を扱っているが,根本の実数の連続性にもう少し詳しく迫って行ってよいと思われる。つ まり,これまでは結果を求める手段としてトポロジーの考えを暗に用いているが,それが トポロジーの考えによるという意識がなかったように思える。斯様な結果が導ける根底と してトポロジーの考えがあるということに対して,学年段階相応にもっと目を向ける必要 31)
があるといえる。L,. F61ixが現代数学からの教師に対する基本的なものとして示した中に 近傍のアイデアを述べているのも,上のような指導に対する配慮からと思える。
数学教育における学習では,結果を求めることと同時に否それ以上にともいえるほど結 果を導くまでのメカニズムや推論過程が重視されるべきで,事を処するにおよその見当を つけ見透しを立てて合理的に進めることは一これは概算,近似や近傍の考えにもつなが る一一般にも用いられる重要な態度であるといえる。
以上,種々の角度から述べてきたように,トポロジー概念は極めて早期から発達してお り,それに関係する教材も多く見られるので,トポロジーの考えの導入によるより意図的 な取扱いによって,その概念の発達をさらに促進させることができるものと信ずる。
(4)学習を動機づける。
学習は,適当な動機づけによって児童・生徒の学習に対する意欲や興味・関心が高まる ことによって,一層その効果を期待できることは申すまでもないことである。
幸いにして,トポロジーに関した内容には児童・生徒に興味や関心のあると思われるも 32)
のが沢山ある。 ゴムによる幾何学 とか 飴細工の幾何学 などとよばれるトポロジ
ー一フ幾何学におけるケーニヒスベルグの橋渡りの問題,一筆書きの問題,迷路・迷宮の問
題,ハミルトンの問題,地図の色分けの問題,メービゥスの帯,オイラーの多面体定理,
網や多面体・曲面に関する問題などはその一例であろう。
しかし,たとえそれらの内容が児童・生徒に興味があるとしても,それを単にパズルや クイズ的に扱ってしまってはその教育的価値は半減してしまうことに注意しなければなら ない。この興味ある指導内容をして,数学の学習に対する彼等の内的関心を増大させるよ うにすると同時に,彼らの経験との関連においてトポロジーの考えに慣れさせるように指
導することを忘れてはならない。 一
また,上述のような内容にはさきの(1)で述べた数学発展の精神の片鱗に触れるような数 学的な考え方を内蔵しているものもあるので,その面からの指導上の配慮も望まれるし,
同時に興味ある内容による伸び伸びした雰囲気の中での発散的思考を通した学習により創 造性を培うこともできるであろう。
以上のように,トポロジーの考えは,児童・生徒の興味や関心を刺激し,学習に対する 動機づけとしても活用することができるであろう。
㈲ 種々の応用がある。
ぱ・ジーの考えは・位相数学(T・P・1・gy)としての本来の数学での発轟さること ながら,最近は実社会でも種々の方面でその応用が拡大されつつある。
古くは前世紀から,電気回路の理論や化学の分子構造図の研究などで網(network)に よるトポロジーのアイデアが用いられていたが,この網は最近では数学における種々の ノ関係!(relation)の理論において関係の表現やいくつかの要素の結合の仕方を究明する のに有用になってきているばかりでなく,高度の実際的な問題の解決にも有力な武器とし て役立ってきている・とくに澱近の行動科学の急速醗達に伴ない,その方面での応用 が著るしくなってきた・つまり・種々のC・mminu・ati・n netw・・kの問題, Sal。,man の問題・M・t・hi・gの問題・T・an・p・・tati・nの問題, Pipe line n・tw・・kの問題などの,
いわゆる一般に Programming とよばれる面に関する応用が広くなってきつつあり,
トポ・ジーの中でもとくに・n・tw・・kや9・aphに関する応用が鰍しつつあ馨)ls)
36)
例えば・電気回路や情報検索 (lnformation Retrieval)等の問題では, networkが 行列(matrix)と関係づけられ,さらにプール代数や記号論理学とも関係して,一層具 体的な応用砿くなりつつある。このようなことからS.M. pl7房キストで1よ中学2年
で網と行列を関連させた教材を扱っている。
なお,位相心理学の名の通り心理学との関連もあるように,最近では心理学,社会学,
経済学,生物学,工学等へと多方面にその応用が拡大されてきている。
以上の応用は組み合わせ的トポロジーの考えに関するものであるが,集合論的トポロジ
一の考えも,従来は関連がないように見られていた確率や統計学などとも関連するように なってきている。
1V.おわりに
上で述べてきたように,数学教育の現代化においては,そのねらいに即したよりよいカ リキュラムを編成する一方法として,現代数学からのいくつかの概念の導入を試みており すでに多くの国の教科書にはそのような新概念が折り込まれて実際に指導が進められてい る。しかし,反面,このような新概念の数学教育への導入に対しては躊躇の声もないでは な31歯鵬噂入はその導入の仕方ウ・欄係すると思われるが,それにしてもこのめ な声があるということには傾聴せねばならぬものがあろう。それほどに,教育の指導内容 の決定は重要であると思えるからである。
そとで,新概念をカリキュラムに導入するに当っては,それらの概念の指導内容として の教育的価値が相当期待されるものでなければならない。
拙論では,新概念の一つとしてのトポロジーの考えについてその教育的価値を考察した。
上述のように,このトポジローの考えは多様な教育的価値をもっているといえるので指導 内容としての意義を十分所持しているものと信ずる。この意味から,児童・生徒にトポロ
ジー一の考えを理解させ,それによって数学的な考え方の体得と創造性の啓培に寄与したい と願うものである。
繰返すまでもなく,性急な形式的な導入の仕方は慎まなければならないし,どの学年水 準でどの程度の内容をというような点についてはさらに今後の実際的な研究の積み上げに
またれるものが多い。
39 〔附 記〕拙論は1968年5月18日京都大学においての数学教育学会で発表したものである。
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