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一現代の監査の分析視角を求めて一

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(1)

一現代の監査の分析視角を求めて一

(下)

高 井  美 智 明

1.はじめに一現代の監査の指向方向一        そして,アメリカ近代監査の「理論枠組」にお 2.アメリカ近代監査の理論枠組み         けるGAAPの意味は,これまで検討してきたとこ

(以上,前稿)   うから,財務諸表へ「信頼性」を付与するための 3.アメリカ近代監査におけるGAAPの意味     基準という解釈に止まっていたといえる。そこで 4.おわりに一展望一      は,経営・管理問題の具体的発現としての個々の GAAPの意味を問うというよりは,むしろ総体的 3.アメリカ近代監査におけるGAAPの意味   概念としてGAAPの意味が問われていた。それは

前稿〔茨城大学人文学部紀要(社会科学)第22  1929年大恐慌後にぜひとも必要とされた,財務諸 号1989年3月〕で検討したMetcarf(1976)・  表へ「信頼性」を付与する制度を形成するにあた Choen(1978)・Treadway(1987)の各委員会報   り,それを理論的に背後から支えるための基準,

告・勧告の基礎には,企業を巡る経済的・社会的  すなわち監査人が present fairly〜 と言明す 環境変化と,それに応じた会計・監査の変容が生  る際の基準として解釈されていた。

じていることを提示しているという共通した基礎   そのためにG.0.Mayが啓蒙的役割を果たし

、    が存在していた。       たし (たとえば,鋤4ご SO/CO加or碗θ.4C一 この変容は,具体的には,標準監査報告書(Au−  co槻雄AIA,1934), Paton&Littleton,.肋

1 謙課鮭鱗識:麟職;卸鷺繍際儲鑑灘聯》     る未確定事項,early−warning informationと  はまさにアメリカ近代会計の理論構築の礎(そし

いった補足事項(additions)の付加として発現  てそれは,近代監査の理論構成にも少なからず影 していた。換言すれば,補足事項(additions)  響を与えていた)を築くことにその目標があった はAuditの対象となるのか,あるいはReviewでよ  と言えよう。したがってそこではGAAPが,監査 いのかという問題として現れていた。       にとって現実の経済的・社会的状況においていか

.       ・      ■       .

,  、  そしてこの問題は,こうした補足事項(addi一  なる意味を有していたのか,といった分析が不充 tions)がGAAPに取り込まれるのか否かという  分であったことはむしろ当然かもしれない。

GAAPの変容の可能性を焦点として,アメリカ近   本節では,前稿で確認した,アメリカ近代監査 代財務諸表監査制度と企業の会計行為と,(そし  の理論枠組におけるGAAP意味づけの基礎をなし てそれらに対する監査人の)監査行為との三つの  ている,構成諸概念の関連を整理することに重点 関係の変容,すなわち監査の機能(役割期待)の  を置き,それを踏まえて,「アメリカ近代監査に 変容として発現していると考えられたのであった・ お・)て現実にGAAPはいかなる意味を有して続

.     こうした視点に基づき,前稿においては,今日  のか」の検討へと進むことにしよう。

変容を余儀なくされている,GAAPを核としたア   それでは,GAAPの意味づけの基礎をなしてい

メリカ近代財務諸表監査制度・理論の構造を確認・  る近代監査の構成諸概念の関連を詳細に確認する

整序した。      ことからはじめよう。

(2)

1)GAAPを必要とした背後要因として,①経済    (1η θrs観θσo配酩θrcθσom而ss oπ)による 社会的には,1929年大恐慌を契機としたNew   画一的な会計処理・手続策定の失敗の経験から,

Dealの一環としての財務諸表公開制度・財務   企業に対する画一的な会計規制は排された(G.

諸表監査制度による財務諸表の「信頼性」回復   O.MαッのNYSE宛書簡, cf., A召疏80ゾ

(=「投資家保護」理念)が証券市場を安定さ   σo加or砿θ、4cc側麗s, AIA,1934.)。

せ,そのことが公衆の証券投資を促進し,ひい   8)その結果,企業の経営者に会計処理の選択を てはアメリカ産業社会の復興をもたらす,とい   任せ,

う思考が存在していたと考えられる(1)。一方,   9)GAAPの画一的適用を排し,数個の代替方法

②理論的には,こうした①でみた経済的・社   を容認する。

会的状況を「所有と経営(の担い手)分離」と  10)その代わりに,企業が選択・適用した会計処 いう一現象にとりわけて着目することにより,   理のディスクローズと

企業の社会性・公共性を認識し,その促進・確   11)継続的適用を条件とした。

保の一環として,財務諸表の「信頼性」を確保  12)しかも,企業の経営者が選択した会計処理が するという思考が存在していた。すなわち,【財   GAAPに準拠しているか否かについての判断は,

務諸表の「信頼性」確保】←(そのための)→   監査人たるCPAがおこなうのである〔財務諸

【財務諸表監査制度】←(そのための)→【財   表監査の制度の担い手としてのCPA〕。        「

務諸表監査の基準としてのGAAPの必要性】〔2)  13)そして,取得原価に基づいた,

という相互関連性が思考されていたと言える。   14)費用・収益対応方式による分配可能利益算定 2)アメリカ近代財務諸表監査制度は,もともと,   を通じて,

その会計処理がけっして不健全というわけでは   15)投資家に対して「信頼性」ある財務諸表が表 なく,むしろ「健全である」上場会社を対象と   示される。

して措定していた(3)。      16)監査人たるCPAは,以上の諸要件から財務 3)しかも,上場会社の経営者は誠実であり,     諸表への信頼性付与をおこなえばよい。その際,

4)Public Accountant(典型的にはCPA)の専   ①CPAは自己の専門能力を前面には出さず,

門能力は信頼するに足るものである,という想    「財務諸表の『信頼性』の判断基準」として 定がなされていた(4)。      のGAAPに依拠して意見表明すれば足りる。

5)したがって,GAAPは,誠実な上場会社の経   ②ゆえに, CPAの職能は,企業が選択・適用 営者によっておこなわれてきた会計処理手続・    した会計処理(そしてその結果としての財務 慣習の集積を基礎とするのが好ましい(5)。      諸表)がGAAPに準拠しているか否かについ 6)(GAAPは企業の会計慣習の集積・蓄積を基    て「意見」表明をすること,すなわち適性

礎とする,という規定を受けつつも)GAAPを    「意見」の表明が主たるものである。

成文化・明文化することが「財務諸表の『信頼   ③〔基本的には経営者の意見・判断に基づいて 性』回復」すなわち「投資家保護」ないしは    作成された〕財務諸表に対するCPAの「意

「企業の公共性」の促進にたいする貢献である    見(判断)」表明は「判断についての判断」

とする思考が存在していた。つまり,GAAPが    という性格を有する。

(企業の慣習の集積を基礎とした)慣習法であ   ④「信頼性」付与に関して,GAAPによってC れば,規範力は成文法と同じであるにもかかわ    PAは自己の責任の限定が与えられる。

らず成文化が志向されたのである(6)。       ⑤ここから,監査報告書(Auditor s Report)

7)そして,1910年代の公共事業,鉄道にたいす    は,「GAAPに準拠している」か否かについ

るFTC(Fe(lerαl Trαde Commission), ICC     て表明した,短文様式〔標準監査〕報告書で充

(3)

分であり,当然,標準監査報告書(Auditor s  され,監査人が財務諸表に「信頼性」を与える Standard Report)は「意見表明の意見表明」  〔(present fairly〜)を表明する〕ための基準とし

となる。       て,GAAPは必要とされたということであろう。

以上でみたように,1930年代の経済的・社会的  そして基準そのものが フレキシブル であり得 状況が,会計理論(典型的には, Introduction )  るものとされたのである。事実, GAAP形成の端 を後盾にし,会計基準をGAAPとして体系化しう  緒としてすでに知られているG.0.Mayを委員長 るものと考え,(個々の会計処理・手続の断片的  としたAIAのNYSE協力特別委員会のNYSE株式 集合体としてではなく)GAAPを総体的概念とし  上場委員会宛1932年9月22日付け書簡(9)では,企 て明示し,しかも代替的会計処理・手続をもフレ  業の会計慣行を基礎とする,というGAAPの大枠 キシブルに容認する近代会計・監査制度を求めた  のみが示されたにすぎなかった。どの会計処理手 のである。つまり,会計基準のGAAPとしての  続きをGAAPと認めるかは,言ってみれば経済的・

明文化 と同時に,会計基準の 代替的会計処  社会的状況そして政治的状況(アカウンティング・

理・手続の選択・適用のフレキシビリティー を  パワー)によって規定され,現代に至ってもなお 2大特色とする近代会計・監査制度が求められた  継続して論じられている(1°)と言えよう。

のである。それではこの2大特色は何を意味する   こうして,GAAPのごく基本的な現実的意味す のであろうか。この意味の解明こそが,今まで必  なわち,GAAPが財務諸表に「信頼性」を付与す ずしも充分であったとはいえなかった「アメリカ  るための基準= 容器 である点を確認したなら 近代監査において現実にGAAPはいかなる意味を  ば,つぎには,その基準二 容器 に盛られる中 有していたのか」の分析の中核をなすであろう。  身の属性を規定しているものは何であるか,の分 では,会計基準がGAAPとして 明文化 され,  析が必要である。この基準の中身を規定する概念 かつ フレキシブル であることの意味は何であ  がじつは, 測定 にかかわる概念であると理解 ろうか。それを考える際に,今福愛志教授の分析  するためにはそう困難な思考を要しないであろう。

(7)に着目する必要がある。なぜならば今福教授は,  ところが,この点の分析は,1930年代のアメリカ 1930年代の近代会計から現代まで貫徹している会  近代監査が,投資家へ公表される財務諸表への 計に固有の性格を,会計原則(GAAP)を通じ企   「信頼性」付与という会計情報の 伝達 の側面 業の会計行為に対して(社会的)統制を果たすご  を重視していたωところから,やや希薄であった ととされ,そこから近代会計における会計原則   ことをまず指摘しておかなければならない。すな

(GAAP)の意味づけを経済的・社会的観点を踏   わち, 【「所有と経営(の担い手)の分離」現象 まえて問おうとしておられるからである。今福教  →企業の社会性・公共性増加→(会計の機能のう 授は,GAAPは,会計の社会統制の顕在化として  ちの)伝達の重視→GAAPは 伝達・報告 の基 発現し,その統制のための制度的に明示された  準】という一連の展開にみられるとおりである。

容器 であり,i)最善であることを意味せず,  しかし,すでにみておいたGAAP基礎をなす構成

ii)〔会計処理の〕詳細な規定を避け, iii)ゆえ  諸概念の1)〜16)までの体系的認識から, GA        ◎

に,会計士の判断を通じてはじめて運用され機能  APは 伝達・報告 の基準という一連の展開の するのである,という指摘をされている(8)。    基礎には,所得原価(original cost)による測

今福教授の指摘された 容器 としてのGAAP  定という問題が存在している。したがって, GA という概念を,わたくしなりに解釈するならば,  APは財務諸表へ「信頼幽与える 伝達・報告 それは,近代監査制度の形成にあたって,財務諸  の基準であると同時に, 測定 の基準でもある。

表に「信頼性」を付与すること(標準監査報告書   それでは取得原価(original cost)による測

で「適性意見」を表明すること)が社会的に要請  定の意味は何かといえば,それは会計情報の基礎

(4)

には,事実・資料が挙証可能なかたちで存在して  ②GAAPに選択・適用にフレキシビリティーが認 いるべきことが仮定されている,ということであ  められている。このことは企業が,GAAPの範囲 るω。そして,アメリカ近代監査制度はその取得  内ではあるものの,会計数値を操作する可能性を 原価(original cost)により測定された会計数  容認し,換言すれば企業の会計政策を合理化する 値が集計・分類された財務諸表を監査する,とい  可能性を認めることを意味する。そして,③1929

う構造になっている。      年の株価(式)大暴落により信頼性を失った証 要約すればアメリカ近代監査制度は,〔取得原   券市場を再建し,資金調達を円滑にするために 価(original cost)による会計測定という思考  は,企業側にとっても財務諸表が「信頼性」を付

をその基礎に有した〕GAAPに基づいて作成され  与される,すなわち, GAAPに基づいて「適性」

た財務諸表(会計数値)を,GAAPにより監査す  意見が付与される必要があった。

る,という構造になっている。そこにおけるGA   つぎに,連邦政府においても,④証券市場の活 APという基準の中身を規定する概念,すなわち  性化がもたらす企業活動の活性化が,アメリカ産 測定を規定する概念は,会計的事実・会計的資料   業の復興につながるという思考が存在していた。

の挙証可能性に求められる。そしてこうした基準   したがって,「財務諸表へ信頼性を付与」するた の内容,すなわち測定を規定する挙証可能性の重   めの監査制度(いわゆる強制監査)の必要性は規 視は,さらには,アメリカ近代監査制度の理念的  制主体である連邦政府の一方的な圧力によっての 目標に一貫して流れている「財務諸表への『信頼  み実現したわけでは決してなく,企業側にとって 性』付与という基本的思考にも一致しているとい  もGAAPの必要性は認識されていたと見なければ

う,強力な理論的根拠を提供することになる(13)(ユ4)。  ならないであろう( 6)。

これまで見てきたところから,(基本的には193   そして,財務諸表に信頼性を付与する主体であ 0年代の経済的・社会的理念に規定されている)   る監査人としてのCPAに着目すれば⑤財務諸表 アメリカ近代監査制度において,GAAPの有して  に対する不信感の 揺り返し として財務諸表に いた現実的意味は,「財務諸表へ『信頼性』を付   「信頼性」を付与するという思考が強調されてい 与」するための基準であるということを起点とし,  たところからみて,監査人としてのCPAへの役 そしてその基準に盛られるべき個別のGAAPの基  割期待・責任が過重視されやすいことは容易に想 本的属性を規定するものが「取得原価による測定」  像しうるでろう。その場合には,GAAPは, CP 概念であり,したがって伝達された会計情報が基  Aにとって財務諸表に「信頼性」を付与する際の 本的にはその背後に「挙証可能性」を有している  基準であると同時に,CPAの責任限定を可能に という思考に支えられていたことが判明した。そ  するものでなければならず,実際にもGAAPは,

して,さらに,GAAPが現実的に求められた1930  CPAにとっては自己の責任を限定しうる『堤防』

年代の経済的・社会的状況を考慮すると,より  の機能を果たすものとなっていたω。

立体的に GAAPが有していた現実的意味を示   このように,「挙証可能性」という概念を基礎 すことが可能である。すなわち,連邦政府,企業,  に有するGAAPは,連邦政府・企業・監査人とし 監査人としてのCPAといった近代監査制度の担  てのCPAといった近代監査制度の担い手から,

い手の相互関連性が以下のように示しえるのであ  それぞれの現実的意味を付与されて機能していた る。       と言える。

まず企業にとって,①GAAPの大枠はNYSE株   つまりGAAPは投資家・連邦政府・企業・監査

式上場委員会宛のAIAのNYSE協力特別委員会書  人としてのCPAの利害調整のための基準である

簡(1932.9.22)(15)に示されたように,産業界にお  必要があり,経済的・社会的状況の変化に対応し

いて用いられていた会計処理手続が基礎にされ,  た各主体間の構造変化に応じて,利害調整機能を

(5)

維持するためには,GAAPの内容が厳格に決定さ  13)したがって,アメリカ近代監査制度・理論におけ れないことがぜひとも必要であり,かつGAAPに    る監査行為に対しても「挙証可能性の重視」思考は 選択・適用のフレキシビリティーを許容すること    反映し,規定的な役割を果たすことになる。すなわ は不可欠となるのである。       ち,監査行為は『内部統制(牽制)制度チェック』

(註)       を通じて,内部証拠の保全状況(財務諸表の「信頼 1)鈴木 稔稿「いわゆる債権者保護監査説の再吟味」    性」の基礎)のチェックならびに,会計数値の処理

『武蔵大学論集』第24巻第2号(1976)。拙稿「アメ    の恣意性のチェックをしていることになる。さらに,

リカにおける短文様式監査報告書についての一考察」    財務諸表の「信頼性」という観点からは精査が好ま

『武蔵大学論集』第34巻第2・3・4号(1986)を    しいはずであるが,「経営者誠実」仮定に則りサン 参照。      プリング調査である『試査』がおこなわれつつも,

2)とりわけ、Paton&L読Zθ如島。4π1碗ro磁c一    やはりとりわけ,棚卸資産・有価証券などに対して 6 oπめOoπρor碗θ.4ccoω鹿加g S臨πdαr4s,    は,『実査』・『立会』,証葱書類については『突 AAA,1940.       合』という挙証可能性を念頭に置いた手続きが採用

3)Cf., G.0. May,77舵JoμrηαZ o∫ノlcco撚孟απcッ,    されている。

Jan.1959, p.24      14)しかし今日では,不確実性・将来事項へ対応しえ 4)Cf., R. K.Storey,7んθSθαrcん∫or。Accoμ麗 ηg    ないという点から見た具合に,「挙証可能性の重視」

Prごηc pZθs, AICPA,1964       が財務諸表の「信頼性」にとっての足枷にもなって 5)Cf., G.0. May, AIAのNYSE協力特別委員会の    いる。すなわち,現代監査において拾頭しつつある

NYSE宛書簡(cf., Audits of Corperate Ac一    将来情報重視の思考は,「挙証可能性の重視」思考 counts, AIA,1934.),およびcf., Paton&Lit一    よりも会計情報の有用性の追求として発言,拾頭し tleton, op.碗.      てきているものと言えよう。ところがここで注意し 6)Cf,, Paton&Littleton, op. c詫.,RK. Storey,    なければならないことは,会計情報の有用性を追求

op.c訪。, M.Moonitz,0玩αご恵πg。Agrθθπ乙θ漉    する際,その「受け皿」を提供するコンピュータ・

0πS6απ4αrds η7▼んθ月CCOμπ伽g ProんθSSぬπ,    システムにより,会計処理・手続がトレースしえな AAA,1974.       くなりつつある点である。ここから逆に,挙証可能 7)今福愛志『現代の企業会計』森山書店1980年,第     性の必要性の再認識(一例としてシステム監査)と

8章を参照。       いう混乱が発現してくるのである。

8)今福愛志『前掲書』159ページ参照。        15)Cf.,.A認 孟s oゾσorρor碗θAccoμ醜8, AIA,

9)Cf.,ノ勉(痂s o∫σorρorα孟θ.4cco槻オs, AIA,     1934.

1934.      16)鈴木 稔,前掲稿(1976)を参照。

10)かつては「公準論アプローチ」,最近では「経済的   17)前掲拙稿(1986),227ページ参照。そこでは,上 効果」を考慮したGAAP設定の議論などがあるこ    記の諸要件が各主体の利害を調整しえたために,短

とは周知のとおりである。      文様式監査報告書よる監査の標準化・制度化がおこ 11)前掲拙稿(1986),230・232ページを参照。       ないえた,と主張した。       

12)もちろん,取得原価(original cost)のもつ意

味はこれに尽きるものではない。会計の計算構造に  4.おわりに 一展望一

おける意味としては,資本維持との関係でみなけれ   アメリカ近代財務諸表監査への批判とし見倣し

ばならない。この点については,拙稿,「我が国に  うる,前稿で検討した経理不正発見機能を強く意

おけるr期間利益平準化』の研究」r武蔵大学論集』  識したいくつかの委員会報告(勧告),そしてそ

第32巻第4号(1985)を参照。         れへのひとつの対応として,標準監査報告書

(6)

(Auditor s Standard Report)へinternal ac一  いると思考されていたのか,そしてさらに思考レ counting controlの評価・未確定事項・early一  ベル(理論的枠組)を越えて現実に, GAAPの経 warnig informationを内容とする補足事項(ad一  済的・社会的意味とはどのようなものであった ditions)を付与する,といった現代の監査の特  のかの検討を通じて,そこからむしろアメリカ近 色の基礎にある意味は何であるかの検討をアメリ  代監査制度・理論構造が解明できるであろうし,

力近代監査制度の形成諸概念の検討を通じて問う   そこに,さらに現代の監査の理論的検討の手掛か てきた。そこから,現代の監査においては企業の  りを求めてきたのである。

総体的・将来的評価,換言すればgoing concern   こうした考えに立つこれまでの作業から,アメ の評価が問われていると意味づけてきた。     リカ近代監査制度・理論構造のもとでGAAPが現 このような補足事項(additions)の情報提供  実に果たした機能を整理してみれば少なくとも,

という現象が,基礎的には,アメリカ近代監査制  以下の4点にあったといえよう。すなわち,GA 度におけるGAAPの意味の再検討というより基本  APは,

的なレベルにおいて問題となっていたはずである  ①投資家,企業,連邦政府(規制主体),監査人 にもかかわらず,監査論においては,GAAPの意   としてのCPAという監査制度の担い手による 味はややもすれば平板的に「財務諸表に『信頼1生』   会計規制(コントロール)の利害調整の手段を を付与するための基準」という認識のレベルに止   示し,

まり,それが現代の監査においていかなる意味を  ②利害調整の手段(規範形態)の内容を規定する 有していたのかについてまでは,充分に指摘され   概念は,「財務諸表への『信頼性』付与という ていなかったのではないだろうか。         思考のもとで,すなわちディスクロージャー・

そしてしかも,すでに前稿の「はじめに」で指   伝達重視思考として表面的には発現するが,そ 摘しておいたように,現代の監査において企業の   の基礎に取得原価による測定という思考〔挙証 going concernの評価に直結する重要なこうした   可能性〕を有し(19),さらには,経済環境の変化 補足事項(additions)の情報提供が, GAAPと   に対応しえるように, GAAPの選択・適用のフ

して要請されるべきであるという公衆からの強い   レキシビリティーを容認する。

期待(18)がありながらも,現時点では,i)企業の  ③投資家にi)会計数値の比較可能性とii)財務 経済活動にかかわる過去的な会計数値の集計・分   諸表の「信頼性」が 保証 されているかの 類をした財務諸表には取り込まれ得ず,したがっ    外観 を装うことにより,「投資家保護」機 てGAAPとしては承知されず, やむをえず 標   能を果たしている(すなわち企業にとっては社 準肇奪報告書(典φtor s Standard Report)に   会的責任を果たしている,そして連邦政府当 補足事項(additions)として付与されていたの   局にとっては,当局の政治課題の着実な遂行・

である。しかもその監査報告書も,GAAPへの準   成功を果たしている)のだという社会的承認を 拠性を「適性」意見表明の一つの要件としている   得る基礎を得ていた(2°)。

ために,ii)補足事項(additions)は,監査報  ④そして,監査人としてのCPAにとっては,文 告書の範囲区分・意見区分いずれにも取り入れら   字どおりGAAPが「財務諸表へ「信頼性」を付 れず,やはり補足事項(additions)として扱わ   与するための基準」であるところから,自らの れざるを得なかったのである。       「意見」表明に際して,その責任限定を許容す

その原因こそは,アメリカ近代監査制度・理論   る機能をも果たしていたといえる⑳。

構造がそうせしめていたのであると考えることが   つまり,フレキシブルな基準としてのGAAPが,

可能であろう。そうであるならば,その制度・理  「適性」(fairness)概念のフレキシビリティーを

論構造のもとでGAAPがいかなる意味を有して  もたらし,このことが企業側・監査人としてのC

(7)

PA・連邦政府当局・そして大衆投資家という近   監査人は,自らが「意見」を表明するに際して,

代監査制度の担い手が持つ利害の調整を果たし,  その責任限定を許容する機能を果たしていたGA

したがって,アメリカ近代監査制度が機能する  APにのみ依拠することは許されなくなりつつあ       .

アとができたと言える。さらには,この「適性」  る。さらに,②誠実な経営者によって整備された

(fairness)概念のフレキシビリティーが,現代  内部統制(牽制)制度を,監査実施の基本的前提 の監査をめぐる状況に対しても,近代監査制度の  とするということからより展開して,経営者のみ 枠内での対応をある程度可能ならしめていたとい  ならず監査人も内部統制(牽制)制度の整備,な えよう。       らびに財務諸表の作成に関与していかざるをえな しかしながら,その一方で,すでに見たとおり,  い方向へ変化が生じるであろう。言い換えれば,

監査への役割期待が,「財務諸表への『信頼性』   いわゆる「二重責任の原則」が経営者との共同責 付与」から「企業の実態評価,going concernの  任へと展開していく可能性があるといえよう。

評価」へと変化しつつあることも現状であった。   さらには,言うまでもなく,going concernの こうした状況の狭間にある現象こそが,未確定事   評価は,将来の事象とも密接な関係を有し,そこ 項,early−warning nformationなどを内容とす  から,③近代監査において財務諸表の「信頼性」

る補足事項(additions)の監査報告書への付加   という観点から重視されていた会計測定の「挙証 であったのである。「投資家保護」を目的とし㈱,  可能性」(したがって「挙証可能性」に基づいた そのために財務諸表の「信頼性」が必要とされた  監査)という思考も,その重要度が変化していく 近代監査制度が現代においても継承されていると  可能性があるのではないだろうか。

ころから,GAAPに基づく監査が依然として存続   こうして,現代の監査を検討していく際には,

している現在は,「企業の実態評価,giong con一  会計・監査の伝達の側面・機i能がその制度に対し cernの評価」という監査への役割期待の考えが,  ても第一義的(したがってGAAPも第一義的に伝 GAAPに取り込まれていく,言ってみれば 鎮静  達の基準)であったものが,むしろ測定を重視 化 のプロセスと見て取れるであろう。換言すれ  したものへと変容する,すなわち企業のGoing ば,補足事項はReviewではなく, Auditの対象と  Concern評価へと変容していく可能性を認識し,

なるプロセスと看取しうるであろう(お)。      起点とすることが一つの有効な手段であることが と同時に,こうした「企業の実態評価,going  窺えるであろう。

concernの評価」という監査への役割期待が重視

されるのにともなって,「財務諸表への『信頼性」  (註)

付与」のためのGAAPは,財務諸表の「信頼性」   18)Cf., R. K. Elliott&P. D Jacobson and D. L.

を判断する際の単なる一構成要素でしかなくなり,   Landsittel, The Auditor s tandard report:

その役割が相対的に後退していく途上のプロセス    the last word。r in need of change?,丁舵 にあるのではないだろうか。      JoμrπαZ oゾ孟cco泓鷹αηcッ, Fθうrμαrッ1987.,

もちろんこうしたプロセスは,ドラスティック    p.83.

な動きは見せず,会計基準(必ずしもGAAPの形  19)「財務諸表のr信頼性』」〔さらにその基礎にある 態をとることを意味しない)に基づく監査は依然    「挙証可能性の重視」思考〕を文字どおりに解釈す

として存続してゆくであろうことには注意が必要    ることが許されないことは,前掲拙稿(1986)で検 である(別)。      討を試みた。すなわち,

このように,監査の実態的内容(役割期待)に    i)会計的測定の基礎としての取得原価(original 変化が生じているとするならば,監査人の機能も    cost)には,確かに「挙証可能性の重視」思考が それに対応して変化せざるをえないであろう。①    存在するが,同時に費用の操作可育旨性は存在する

1

(8)

ことも否定しえない〔拙稿「わが国における『期    件で,被告の監査人側は,GAAPを免責の砦 間利益平準化』の研究」『武蔵大学論集』1 謔R2巻    として争ったことは周知のとおりである。

第4号(1985)を参照〕。「財務諸表への『信顧性』  22)「投資家保護」の実質的意味については前掲拙稿 付与」→公衆の証券市場への参加の促進,という    (1986)ならびに,註19)もあわせて参照のこと。

理念に規定されている,その限りでの「信頼性」   23)もちろん,未確定事項,early−warning infor一 にすぎない,と見るべきである。      mationが,充分に,企業の全体評価・going con一 さらにここで指摘しておけば,      cernの評価をしていると楽観的には断言できない。

ii)具体的な監査行為も「経営者誠実」仮定に基づ     この 鎮静状態 も,やがては,新たな形態を装っ き,『試査』という限定的なものとなっている。     た問題の再登場によって破られることになろう。

iii)したがって,「GAAPに準拠して…財政状態,   24)たとえば,①プロフェッションとしてのcPAの専 経営成績を適正に表示している(present fairly    門能力・判断を基礎にした監査意見の表明という理

〜)」という文言も,〔近代監査制度が「財務諸表    想状態〔塩原一郎稿「監査意見の特性」新井清光編 への『信頼性』付与」する,または「適正」意見     『財務会計の基礎』中央経済社,1983所収,ならび を表明する(present fairly〜)ことが主たる目    に「財務諸表監査の特質と監査人の責任」『会計ジャ 的(投資家の証券市場への参画を促進)であった    一ナル』vol.16, No.16(1984.6)〕を追求しよう ため,〕文字どおりに解釈することは許されない。    としても,また,②効率市場仮説(GAAPの変更 やや乱暴な言い方をすれば,GAAPに準拠して    がおこなわれても企業の経済実体を見通すことがで いれば「適正に表示している(present fairly〜)    きる)の主張があったとしても,現代において,

と取り決めたにすぎない,と考えるべきかもしれ    「投資家保護」を目的とし,財務諸表の「信頼性」

ない。       が必要とされた近代監査制度が継承されている限り 20)前稿で見たCohen委員会が, GAAPに準拠してい    では,もはや, GAAPの形態をとるとは限らない

る事実のみを記載するように勧告したのもこうした    としても,会計基準・原則に基づく監査は依然とし 外観 が財務諸表の利用者をmisleadしていると    て継続していくであろう。

認識したからに他ならないといえよう。       (1988年9月24日 脱稿)

21)かのContinental Vending Machine Corp.事

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