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中等教育段階のブラジル人日本語学習者向け教科書 の分析

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

中等教育段階のブラジル人日本語学習者向け教科書 の分析

著者 キエジ ジュリオ アルベルト レイテ

雑誌名 奈良教育大学国文 : 研究と教育 

巻 42

ページ 61‑45

発行年 2019‑03‑31

URL http://doi.org/10.20636/00013370

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中等教育段階のブラジル人日本語学習者向け教科書の分析

ジュリオ アルベルト レイテ キエジ

はじめに

2009 年、サンパウロ州立教育省との協力によってサンパウロ州立の語学センターのみ で使用される日本語教科書『ことばな』が開発された。それ以前には『みんなの日本語初 級(以下、みんなの日本語)』(スリーエーネットワーク)や『新文化初級日本語』(文化 外国語専門学校)を使用する学校が多かった。『みんなの日本語』や『新文化初級日本語』

は成人日本語学習者向けに日本国内で開発された教材である。しかし、語学センターが対 象とする13歳から18歳の中等教育段階の学生には適切ではない語彙や表現(「出張」「た ばこを吸う」など)が含まれていたため、彼らのニーズに合った教材として『ことばな』

が作成されることになった。この『ことばな』は、欧州評議会が開発した「外国語の学習・

教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages、以下CEFR)」やCEFRの考え方に基づいて国際交流基金に よって開発された JF 日本語教育スタンダードなどの考え方に基づき、ブラジル国内で日 本語を学習する中等教育段階の学生のための教科書として開発された。

『ことばな』が開発されてから約 10 年間、サンパウロ州の語学センターで使用され続 けているが、それ以前に使用されていた『みんなの日本語』と比べて、何が違うのか、ま たCEFRやJF日本語教育スタンダードの考え方は具体的にどのように影響しているのか という点についての先行研究は非常に少ない。そこで筆者は、『ことばな』以前に使用さ れてきた『みんなの日本語』、『ことばな』と同様に CEFR、JF スタンダードの考え方に 基づいて国際交流基金によって開発された『まるごと 日本のことばと文化(以下、まる ごと)』と比較し、『ことばな』の特徴を考察する。河住(2016)は、「時代が変わり、社 会が変われば、言語教育が担う役割、人が学ぶ内容や媒体、学び方にも変化が生じる」と 指摘する。上記3つの教科書(『みんなの日本語』『まるごと』『ことばな』)は、いずれも ブラジル国内で幅広く使用されてきたが、異なる時期に出版されており、各時代の外国語 教育の潮流の影響を受けていると思われる。また、ブラジル国外においても広く使用され ている『みんなの日本語』『まるごと』の2つの教科書を分析し、『ことばな』との共通点 と相違点を明らかにすることで、『ことばな』の開発意義や意図をより深く理解したいと 考える。

本稿では、まず1.1で『みんなの日本語』を分析し、次に1.2では『まるごと』を分析 し、最後に1.3では『ことばな1,2,3』を分析する。

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1. 外国語教育を取り巻く理論的背景と日本語教材 1.1 『みんなの日本語初級』

1.1.1『『みんなの日本語初級』の基本情報

『みんなの日本語』の基本情報を以下にまとめる。

①出版年、出版社:1998年、スリーエーネットワーク

②学習者像:職場、家庭、学校、地域などで日本語によるコミュニケーションをすぐ必 要とする日本内外の外国人の一般社会人を対象とするが、大学進学の予備課程、ある いは専門学校・大学での短期集中用教科書としても使用できる。

③達成目標:日常生活の基本的な場面において簡単な日本語によるコミュニケーション を可能にする、初級段階での実践的会話力の育成」(『みんなの日本語初級 1 教え方の 手引き』、2p)。

④構成:本冊(2分冊)は各25課、計50課で構成されている。

⑤学習時間の目安:1課あたりの学習時間は4〜6時間、全体で150時間を目安として いる。

⑥補助教材:『みんなの日本語初級 I 本冊』、『みんなの日本語初級II 本冊』、『みんなの 日本語初級翻訳・文法説明』(12 カ国語で出版)、『みんなの日本語初級漢字』、『みん なの日本語初級で読めるトピック25』、『みんなの日本語初級やさしい作文』、『みんな の日本語初級練習イラスト集』、『みんなの日本語初級聴解タスク 25』、『みんなの日本 語初級会話 DVD』、『みんなの日本語初級 CDs』である。ウェブサイトでは、『みんな の日本語初級I 第2版 本冊音声』、『みんなの日本語初級II第2版 本冊音声』のダウ ンロードができる。

⑦技能の捉え方:本冊では話す・聞く・読む・書くの4技能を重視している。ひらがな・

かたかな・漢字の指導は本冊には含まれていない。

⑧学習項目:文型シラバスであり、単純な文型から複雑な文型という順番で配列されて いる

⑨各課の構成:各課は「文型」、「例文」、「会話」、「練習 A」、「練習B」、「練習C」、「問 題」で構成されている。「文型」では文の基本型を示す。「例文」では文型を質問と答 えの形で展開し、文型以外の学習項目も含まれている。「会話」では一般社会人の生活 場面に即し、日常的な話題で自然に近い会話文を紹介する。「練習A」は文法理解と言 語形式の正確さのための練習で、「練習B」は反復練習ドリル、交換ドリル、完成ドリ ルなどの文法の定着のためのパターンプラクティスであり、「練習 C」では基本的な文 型の機能を生かしての談話単位の練習、そして、場面に適切な慣用表現の使い方も提 出されている。「問題」は、学習者個人について訊く質問、聴解、文法、そして読解の 練習のための問題から成る。さらに文法確認のために複数課毎に、「復習」A〜G、「ま

とめ」IとII、そして「総復習」の練習問題が含まれている。

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1.1.2 背景となる理論と考察

『みんなの日本語』の背景となる理論的背景と教科書の特徴を以下に指摘する。

①背景となる理論:『みんなの日本語』が開発された1980年代の日本語教育はコミュニ カティブ・アプローチの影響を最も強く受けていたが、依然としてオーディオ・リン ガル・アプローチでの教授も行われていた。『みんなの日本語』においても、シラバス は文法積み上げ式シラバスが採用されており、各課の構成で示したように、オーディ オ・リンガル・アプローチ教授法の特徴的な練習方法であるパターン・プラクティス が多く採用されている(練習 A、練習 B)。練習C ではコミュニケーションを意識し た会話練習も含まれていることから、本教科書がコミュニカティブ・アプローチの影 響を強く受けていることがわかるが、「練習 A」、「練習B」だけでなく、「練習 C」に おいても、決まった会話中の表現の代入練習に終始している。つまり、使用にあたっ ては、教師は、言語形式の正確さを重視する練習に終始しないよう配慮が必要だと言 える。さらに各課の終わりに掲載されている「問題」でも穴埋め問題、読解や聴解に よって文法理解の確認をすることが目的とされている。これらの練習や問題を見ても、

コミュニケーションを目的にしていると言うよりも言語形式の正確さが重視されてい ると言える。このように、『みんなの日本語』はオーディオ・リンガル教授法の影響を 強く受けている。では、コミュニカティブ・アプローチの影響はどのような点に見ら れるのであろうか。「問題」には学習者が個人について答える Q&A練習もあるとはい え、その分量は非常に限られており、学習者が自発的に行うコミュニケーションを行 う活動やコミュニケーションを目的とした活動は限定的だと言える。

②言語能力の捉え方:『みんなの日本語』が拠り所とするコミュニカティブ・アプローチ では、言語の文法知識だけでなく、言語運用の適切さに関する知識も含めたコミュニ カティブ・コンピテンス(Communicative competence=「伝達能力」)として4つの 下位能力(文法能力,社会言語能力,方略的能力,談話能力)が重要だとされた(Canale

& Swain、 1980)。ここでは、外国語能力は、各学習者が既に持っている母語等の言 語能力とは切り離されて捉えられているため、外国語学習において既有の言語能力を 新しい言語(ここでは日本語)の学習に活用するという発想はない。しかし、いくつ かの練習には学習者自身が母語の知識や言語使用の経験を使いながら日本語を学ぶ活 動も含まれている。例えば第14課「問題」7.は、メール形式の文章を使った練習で あるが、そのメール文例中の、メール差出人の名前の位置、そしてメール受信者の名 前の位置を母語使用の経験から推測し、対応させながら日本語の表現や習慣も学ぶこ とができるよう工夫されている。

③対象とする学習者像:前述のように本冊の前書きには「初めて日本語を学ぶ人が、だ れでも楽しく学べるよう」、また「対象は、現場、家庭、学校、地域などで日本語によ

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るコミュニケーションを今すぐ必要としている外国人」と述べられている。また「学 習ニーズの多様化とそれらに対する個別の対応が求められている(本冊前書き iiiP)」

とも記載されている。しかし、「会話」に登場する人物の背景は全課を通じて、主に働 くために来日した在日外国人であり、多様化するニーズへの個別の対応は教師の裁量 に委ねられていると言える。

④対象とする言語機能:『みんなの日本語』は話す・読む・聞く・書くの四技能を身につ けることを目指して構成されているが、その点について、野田(2015)は「コミュニ ケーションのための文法を作るには、聞く、話す、読む、書く、それぞれの活動に対 して、それぞれに必要な文法を作らなければならない」と述べ、『みんなの日本語』を 批判している。例えば、普通形は「聞く」、「話す」技能では、親しい人や目下のとき に使うものであり、「ね」や「よ」などの終助詞が付かないと不自然に聞こえる。それ に対して、「読む」、「書く」では、「普通形は聞き手を特に意識しないときに使うもの であり、終助詞は付かないと指摘する(8p)」。『みんなの日本語』ではこのようなそ れぞれの 4 技能のための文型の指導や活動が見られない。つまり技能別の文法は教師 によって区別され指導されなければならない。

⑤言語インプット:『みんなの日本語』の指導は、文字も重要な役割を担っている。『み んなの日本語初級I教え方の手引き』によると、「文型」「例文」をすべて導入し、「練

習 A、B、C」と練習を進める。会話は原則として練習が全部終わってから行う」と記

載されている(9p)」。このように『みんなの日本語』での学習では文字が重要である ものの、ひらがな、カタカナ、漢字などの書き読み指導は『みんなの日本語初級本冊』、

『みんなの日本語初級翻訳・文法説明』に含まれていない。またひらがな表とカタカ ナ表、発音の説明が「はじめに」の部分で紹介されているものの、それを補う指導や 練習は教師がしなければならない。

⑥母語の使用:様々な言語で文法解説本が出版されているため、日本国内を越えて海外 でも広く使用されており、ブラジルでも大学や学校でもよく使用されてきた(MUKAI・

YOSHIKAWA、2009)。井上(2015)は「学習者の母語を規準にして日本語文法を教 える必要がある」と指摘しているが、これらは日本語版に掲載されている語彙や表現 の説明の対訳であり、学習者の母語の特徴を考慮して説明しているものではない。ま た『みんなの日本語初級翻訳・文法説明』には、語彙や表現だけでなく文法の各国語 での解説も含まれるが、対訳の間違いも見られ、学習者を誤解させてしまう可能性が ある。

⑦文化とアイデンティティ:文化の面では、「会話」の中には「大阪」や「富士山」や「甲 子園」などの地名が現れるが、それを超える文化に関する学習項目は含まれていない。

また、様々な国籍の人物が登場するが、それぞれのアイデンティティや異文化間的な 問題と関わる活動や内容はない。

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以上、本章では、『みんなの日本語』の構成や特徴について分析した。次節では、『まる ごと』を分析する。

1.2『まるごと入門かつどう』と『まるごと入門りかい』

1.2.1 『まるごと入門かつどう』と『まるごと入門りかい』の基本情報

『まるごと』は国際交流基金によって開発されたコースブックで、「りかい」編(以下

「りかい」)と「かつどう」編(以下「かつどう」)があり、目的によって使用する教科書 を選ぶことが可能である。また、現代のインターネット時代という背景から、『まるごと

+』、『まるごとのことば』というオンラインコースが提供されており、時間や場所によら ず学習が可能である。基本情報を以下に指摘する。

①出版年、開発者:2013年、国際交流基金

②学習者像:日本国外に存在する学習者向けである。「かつどう」はすぐに日本語を使用 することを希望している学習者に適し、聞くことと話すことが重視されている。つま り、日常場面での口頭での運用力をつけることが目標である。それに対して、「りかい」

はより深い日本語の知識を希望している学習者に適し、体系的に日本語を学習する。

コミュニケーションのために必要な日本語のしくみについて学習することが目標であ る。

③達成目標:『まるごと』の「かつどう」「りかい」はCEFRに基づき、CEFRのA1レ ベルが達成目標とされている。CEFRのA1 レベルとは、基礎段階前半レベルの言語 使用者を指し、「具体的な要求を満足させるための、よく使われている日常的表現と基 本的な言い回しは理解し、用いることができる。自分や他人を紹介することができ、

どこに住んでいるか、誰と知り合いか、持ち物などの個人的情報について、質問した り、答えたりできる。もし、相手がゆっくり、はっきりと反して、助け船を出してく れるなら簡単なやりとりをすることができる(Council of Europe 2001,p9)」とされ ている。

④構成:「かつどう」と「りかい」はそれぞれ9つのトピックからなっており、各トピッ クは2課の計18課で構成されている。「かつどう」と「りかい」で扱われているトピッ ク(話題)は同じであるが、学習内容は異なっている。

⑤学習時間の目安:1課あたりの学習時間の目安は120分で、全18課(「テストとふり かえり」を含む)を約40時間で終える。

⑥補助教材:学習者用の教材は、紙媒体の教材は「かつどう」と「りかい」であるが、

ウェブサイトから無料でダウンロードできる共通の補助教材として「音声ファイル」、

『ごいちょう(12 ヶ国語版)』、『ごいインデックス(3 ヶ国語版)』、『ひょうげんイン デックス』が提供されている。また「かつどう」用の補助教材として、『Can-Doチェッ ク(13ヶ国語版)』、『書くタスクのシート』、そして『かのまとめ(Can-Do会話)』が

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提供されている。それに対して、「りかい」用には、『かんじのことばリスト』、『にほ んごチェック』、そして『作文シート』が提供されている。さらに教師用の共通教材と して、『教え方のポイント』、『語いインデックス』(4 ヶ国語)、『ひょうげんインデッ クス』、『授業紹介動画』、『増刷修正一覧』、『ローマ字表記の規則』がウェブサイトで 提供されている。なお、「かつどう」と「りかい」のそれぞれに教師用教材があり、「か つどう」には、『BGMつき音声ファイルについて』が提供されている。また、「りかい」

には、『漢字のことばリスト』、『まるごと』文法・文型リスト (入門〜中級 2)が提 供されている。

⑦技能の捉え方:「かつどう」では会話的なコミュニケーションが重視され、その課のタ スク遂行の達成に必要な基本的な技能、項目のみが指導されている。例えば、ひらが な、カタカナ、漢字の字形の違いを学習者に気付かせたり、読み方の定着の練習を重 視し、書く練習は行わないなどである。「りかい」では、書く能力も重視されている。

例えば、ひらがな、カタカナ、漢字の書き方の定着のための練習も見られる。

⑧学習項目:CEFR に強く影響を受けて開発された JF 日本語教育スタンダードに準拠 した教材である。JF スタンダードはCEFRが言語教育の柱の一つとした「相互理解 のための日本語(外国語)」を構成する能力として、他者と協働してコミュニケーショ ンを実行する日本語運用力(課題遂行能力)と、自分とは異なる文化を理解し尊重す る能力(異文化理解能力)をあげている(来嶋他 2014)。『まるごと』のウェブサイト によると、「かつどう」は、コミュニケーションのための言語活動ができるようになる ことを目指しており、日本語のやりとりでの課題遂行と異文化理解に関する50の目標

Can-do(能力記述文)が示されている。Can-do に示された課題を遂行するための会

話は、日本国外で学ぶ学習者にとって自然な場面設定で、複雑な文を使わなくてもで きるものばかりであると記載されている。一方「りかい」は、コミュニケーションを 支える言語項目(文字、語彙、文法、文型など)の学習を中心に進める。入門では、

最も基本的な文構造(名詞文、形容詞文、動詞文の現在と過去など)を練習する。つ まり言語項目を重視しているが、構造シラバスの教科書との大きな違いは、文型など の学習項目がコミュニケーション言語活動をもとに選定されていることである。

⑨各課の構成:「かつどう」の各課の構成は、「目標Can-Do確認」→「聞いて言いましょ う」→「聞きましょう」→「ペアで話しましょう」→「Can-Do チェック」となって いる。授業では、まず、「目標Can-Do確認」で写真を見てその授業のトピックを確認 する。次に、「聞いて言いましょう」では、キーワードやキーフレーズを習得する。そ して、「聞きましょう」では、場面や文脈のある会話を聞いて、その内容を理解すると 同時に、頻繁な表現に気付くことが重要である。「ペアで話しましょう」では、実際に 発話する。最後に、「Can-doチェック」では、目標 Can-Doの達成度を評価する。各 トピックの最後では、「生活と文化」という部分で学習者に学習者の自国や自文化に関

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わって日本の習慣、祝日、地名などを比較させる。

一方、「りかい」の各課の構成は、「べんきょうするまえに」→「もじとことば」→

「かいわとぶんぽう」→「どっかい」→「さくぶん」→「にほんごチェック」→「テ ストとふりかえり」となっている。授業では、まず「べんきょうするまえに」で、そ の課のトピックを確認する。次に、「もじとことば」で、そのトピックの文字とことば を習得する。そして、「かいわとぶんぽう」で、会話で文法を習得してから、様々な練 習によって理解を深める。「どっかい」と「さくぶん」で、会話と異なる文体の中で、

同じ語彙、文法に触れる。最後に、「にほんごチェック」で、その日で学んだ内容をふ りかえり、自己評価を行う。「テストとふりかえり」で、そこまで勉強したことをふり かえりながら評価を行う。

1.2.2『まるごと入門かつどう』と『まるごと入門りかい』についての考察

『まるごと』「かつどう」と「りかい」の考察を以下に述べる。

①背景となる理論:どんな場面でどんなことができるかという課題遂行能力と異文化理 解能力の育成を目的としている点は、CEFR の影響を受けている。それは各学習の評 価が課題の達成度によって図られるということにも見られる。またCEFRの影響の一 つとして特筆すべき点は、言語を超えて、目標言語の文化についても習得する点であ る(「⑦文化とアイデンティティ」で詳しく述べる)。例えば「かつどう」には、ペア 会話、発表、議論、カードやブログやメールなどの作成、紹介などの言語能力を超え る様なタスクが含まれており、練習方法が『みんなの日本語』より多様であると言え る。また、各課にコラムとして含まれている「生活と文化」は、日本と自国の相違点 や共通点についてふりかえるタスクとなっている。これは『みんなの日本語』には見 られない視点である。一方、「りかい」はより言語形式を重視しながら日本語を学習し ているという点で、学習目的としては『みんなの日本語』と大きな違いがないと言え る。しかし、例えば、学習者に名刺を見せて氏名がどこに書いてあるのかということ に気付かせるタスクやレストランの注文をするというロールプレイはコミュニカティ ブ・アプローチの特徴を持つ練習が多く取り入れられている。

②言語能力の捉え方:複言語主義を背景とする CEFR に基づいた教科書であることか ら、日本語以外の言語も日本語理解のために扱われる。例えば、「かつどう」の第 1 課では、ひらがな、カタカナ、漢字の日本語の文字を紹介する導入で、様々な国の文 字が紹介されており、どの文字が日本語の文字か学習者に気付かせる(「かつどう」p24)。

また、学習者が自分の家を紹介する活動では、自分の家を絵に描き、視覚情報を利用 しながら日本語で説明する活動、そして自分のブログを作成する活動では、言語能力 のほかに情報リテラシーなどの他の一般能力が利用されている。

③対象とする学習者像:『まるごと』では観光客、留学生、日本国外の学習者が登場人物

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となっている。つまり『みんなの日本語』で見られた、主に働くために来日した在日 外国人より多様な学習者像がイメージされている。特に「かつどう」中のコラム「生 活と文化」では、日本国外で学習している学習者像が強調されている(「⑦文化とアイ デンティティ」で詳しく述べる)。一方、「りかい」では、『みんなの日本語』同様、登 場人物の国籍やルーツについてはあまり言及されておらず、日本文化や日本社会のみ に焦点があてられている。

④対象とする言語技能:「かつどう」では、4 技能(書く、読む、話す、聞く)によって それぞれコミュニケーションのあり方が異なることに配慮が見られる。例えば、友だ ちや家族という親しい人との会話では終助詞が頻繁に使用されることに言及している。

また、書き言葉についても、メール文では情報が詳しく文章の形にして書かれている という構造をとるのに対して、メモでは文章が短く、キーワードしか書かれないとい う構造上の特徴などが説明されている。つまり、4技能それぞれについて特徴的な学 習項目が明示的に示されている。ひらがな、カタカナ、漢字の指導ではこれらの三つ の文字の違いを学習者に理解させるが、ひらがな、カタカナの読みの習得のみが期待 されている。一方、「りかい」はより『みんなの日本語』に近く、4 技能それぞれに特 徴的な文法、あるいは文体によるコミュニケーションのあり方の違いが区別されてい ない。例えば、会話の際頻繁に出てくる「ね」という終助詞の使い方に関しての説明 はされていない。しかし『みんなの日本語』との相違点もある。それは、ひらがな、

カタカナ、漢字の書き読みを学習者に定着させる練習が教科書の中に学習項目として 含まれていることである。

⑤言語インプット:「かつどう」の大きな特徴は、各課が音声によるインプットによって 導入され、口頭でアウトプットを行うという流れで構成されている点である。これは

『まるごと』の学習プロセスが第二言語習得研究の知見に基づいているためである。

それに対して、「りかい」は学習者に文型を読ませると同時にその文型を聞かせており、

『みんなの日本語』と同様の学習プロセスであると言える。

⑥母語の使い方:「かつどう」と「りかい」は様々な言語の補助教材が出版されていると はいえ、『みんなの日本語』と同じくほとんどが日本語版の対訳であり、母語が日本語 理解のための媒介語としてのみ扱われている。

⑦文化とアイデンティティ:日本と自国の文化の対比が『まるごと』の特徴であるもの の、それは「かつどう」にしか反映されていない。また、日本文化と自文化の対比の レベルを超えず、その文化、あるいは異文化背景を持つ他者に対しての学習者自身の 感想や気持ちといった、態度に関するより深い振り返りの活動は含まれていない。ま た、多様な学習者を代表するために様々な民族や人類の人物が登場するが、『みんなの 日本語』と同じく、それぞれのアイデンティティや背景の違いは各課の学習内容とは 関わっていない。

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本章では、『まるごと』の構成や特徴について分析し、CEFR の影響を受けた課題遂行

を表すCan-doに基づいた内容になっていることが明らかになった。ただし、「かつどう」

はより簡単に課題遂行ができる内容であるが、「りかい」は『みんなの日本語』と類似し、

文法の説明やドリル学習を中心にした教科書であることがわかった。

1.3では、『ことばな』の構成や考察について明らかにする。

1.3『ことばな』

1.3.1 『ことばな1,2,3』の基本情報

『ことばな』は前述のとおり主に中等教育段階の学習者を対象とするサンパウロ州立語 学センターのコースブックとして開発された教材である。

①出版年、開発者:2009 年、国際交流基金サンパウロ事務所とサンパウロ教育省との協 力によって開発された

②学習者像:11歳から18歳までのサンパウロ州立学校の生徒である。

③達成目標:日本語を「身につける」のではなく、日本語を使って「何かができる」こ とを目指す。『ことばな』の目標は、『ことばな3』を終えるとCEFRのA-1レベル、

『ことばな6』を終えるとA-2レベルに到達するとされている。

④構成:『ことばな1』、『ことばな2』、『ことばな3』、『ことばな4』、『ことばな5』、『こ とばな 6』の 6 冊から成るが、最終版が出版されているのは『ことばな 1』、『ことば

な2』、『ことばな3』のみである。それぞれには約10ユニットが含まれ、全60課の

教材である。各ユニットは4課前後が含まれている。

⑤学習時間の目安:各冊約75時間(1時間は50分)で学習できるように設定されてい る。これは、サンパウロ州立語学センターの1学期分の授業に当たる。

⑥補助教材:『教師用マニュアルと回答』、そして、CD がある。『教師用マニュアルと解 答』には、授業で使用するカード、音声のスクリプト、練習の解答などが含まれてい る。

⑦技能の捉え方:各課には、会話練習、読解練習、そして聴解練習が含まれる。ひらが な、カタカナ、漢字の読み方や書き方を定着させるための練習の部分も含まれている。

つまり4技能すべてが学習活動に扱われている。

⑧シラバス:機能主義・Can-doシラバスである。ユニット 1 からユニット 5 まではひ らがな、カタカナの学習が中心である。ユニット 6 以降のシラバスではスーパーでの 買い物、友だちと趣味について話すといった日常的な場面での課題の遂行が配列され ている。生徒同士が日本語で交流することによって、日本語での基本的なコミュニケー ション場面がイメージできるよう工夫されている。

⑨各課の構成:各課は、「導入部」→「会話練習」→「聴解練習」→「作文練習」→「読 解練習」→「社会文化アドバイス」、「漢字練習」、「情報コラム」の構成になっている。

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この構成はガニエの教授9事象の影響も受けている。ガニエの教授9事象は以下のと おりである。

1.学習者をひきつける 2.目標をおしえる

3.知っていることを思い出させる 導入 4.新しいことを教える

5.やりかたを教える 授業

6.練習させる 7.確かめる・ほめる 8.評価する

9.次につなげる

次に、「導入部」、「会話練習」、「聴解練習」、「作文練習」、「読解練習」、「社会文化ア ドバイス」、「漢字練習」、「情報コラム」の内容を紹介する。

●「会話練習」

Ⅰ.今日の目標を知らせる。

Ⅱ.ポルトガル語だったらどう話すか考えさせる。

Ⅲ.日本語でどんな表現を使うか教える。

Ⅳ.形を作る練習(基本練習)をする。

Ⅴ.使う練習(応用練習)をする。

Ⅵ.結果をチェック、または報告させる。

●「作文練習」

Ⅰ.今日の目標を知らせる。

Ⅱ.ポルトガル語だったらどう話すか考えさせる。

Ⅲ.生徒が必要とする日本語を教える。

Ⅳ.グループ、または個人で作文させる。

Ⅴ.掲示、または発表させてお互いに評価する。

●「聴解練習」

Ⅰ.これから聞く話題について話し合う。

Ⅱ.課題のポイント(聞くポイント)を指示する。

Ⅲ.録音を聞かせる。(一回)

Ⅳ.問題に答えさせる。

Ⅴ.答え合わせをする。

Ⅵ.必要があれば,もう一度聞かせる。(スクリプトを用意してもいい)

●「読解練習」

Ⅰ.テーマに関することを思い出させる。

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Ⅱ.内容の予測をする。

Ⅲ.大意をつかむ。(ペアで話し合わせてもいい)

Ⅳ.詳しく読む。

Ⅴ.筆者の意図や態度を読む。

「漢字の教え方」の基本を次に述べる:

Ⅰ.今日勉強する漢字がどんな意味か教える。

Ⅱ.字を見せて、書き順を教える。

Ⅲ.ノートにたくさん練習させる。

Ⅳ.使い方を教える

Ⅴ.練習問題をやらせる

●「社会文化アドバイス」

倰ポルトガル語での言語習慣との違いについて、どう違うのかだけでなく、なぜ違う のかも考えさせながら教える。

倰日本人の話し方がそうだから真似をするのではなく、そうでない話し方をした場合 にどのようなリスクがあるのかを教える。

●「情報コラム」

各ユニットの最後に掲載されている。

倰生徒にうちで読ませて、関連する事柄をインターネットなどで調べさせる。

倰教室で、調べたこと、疑問に思ったことなど話し合う。

倰相違点だけでなく共通点にも目を向ける。

倰相違点については「どうして違うのか」「それぞれの良さは何か」を考えさせ、話し 合う。

1.2.2『ことばな1,2,3』についての考察

本節では『ことばな』の特徴を前述の『みんなの日本語』『まるごと』と比較しながら 考察する。以下にその特徴を以下の7点にまとめる。

① 複言語主義の考え方

『ことばな』は複言語主義の考え方を基盤としているため、学習者の既有知識も活用 して日本語学習が進められる。例えば、ひらがな、カタカナの導入の際には、様々な国 の文字も併せて示し、それらと対比させることでどの文字が日本語の文字かを意識させ ながら、日本語の文字学習への関心を促すという活動が挙げられる(『ことばな1』p1)。

② 自律的な学習の奨励

『ことばな』はCEFRやJFスタンダードを基盤としているため、日本語での課題遂 行を目的とした Can-doシラバスを採用しているが、学習者は授業以外でも日本語が使 用できるようになるために、ひらがな、カタカナの入力のし方のマニュアルが含まれて

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いる(『ことばな 1』p84)。これによりインターネットを使用し、自律的に学習を行う ことが可能となる。実際「情報コラム」では、ある話題について日本語のサイトを調べ ることを勧めていることが多い。例えば、ユニット 13 では「あきはばら」について紹 介されているが、学習者自身にもインターネットを使って「Akihabara」、「秋葉原」、「あ きはばら」、「アキハバラ」というキーワードを入力して調べることが勧められている(『こ

とばな 1』p173)(1)。また、学習評価についても自己評価を取り入れている。例えば、

ユニット6第2課では、「ごめん」、「すみません」、「ありがとう」、「ありがとうござい ます」という挨拶の適した使い方の練習を行うが、いくつかの場面での適切な使い方を 意識させる(『ことばな1』p90)だけでなく、自身の日本語使用について振り返る自己 評価活動も提供されている。

③ 言語能力以外の一般能力の活用の奨励

『ことばな』で目的とされている日本語での課題遂行のための能力には、日本語の言 語形式的な知識だけでなく、日本語以外の一般知識も含まれている。例えば、ユニット7 第 1 課では日本語の名刺を見ながら、名刺に書いてある情報を推測する活動が行われ る(『ことばな 1』p 97)。この活動では、学習者の既に持っている「名刺に書かれる べき情報」についての知識を活用していると思われる(2) 。また、ユニット23の第4課 では、スポーツの話題で学習するが、友だちの好きなスポーツについてインタビューし、

その内容を発表するという課題を行う(『ことばな 2』p103)。その際、友だちの似顔 絵や好きなスポーツをしている姿を描いて発表することも認めている。ことばの知識や スキルだけでなく、絵を書くことなど他のスキルを使用し、課題が行われる。また、24 ユニットの第 4 課でもカラオケ店の課題でも、2時間の使用料金を算数の知識を使用 したりすることによって達成する(『ことばな2』p115)。つまり、言語能力だけではな く、言語以外の知識やスキルを複合的に使用し、勉強を進めていくという形の課題も見 られる。

④ 文化と言語の総合学習

ユニット7第1課で名刺を使用し、自己紹介が導入されている(『ことばな1』、p97)。

日本語はポルトガル語と違って縦書きでも書けるので、言語だけでなく、学習者にその ような異なる表記に関する文化も同時に教えることも目的である。そのほかにも例えば、

もらった名刺は後ろのポケットに入れてはいけない、両手で相手の名刺を持つという文 化的な項目も同時に学習する。このように『ことばな』では文化と言語の統合学習が非 常に重視されていると言える(3)

⑤ 現実場面の言語使用

ユニット24第4課では、現実場面にある看板を利用し、学習者が現実場面で体験し そうなことを取り上げて学習する(『ことばな2』p115)。この課題では、カラオケ店の 前にある看板を見て「今の時間から 2 時間歌ったらいくらになるか」など、実際に起

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こりそうな場面を想定して必要な言葉やスキルを学習する。

⑥ 学習者の興味から学習内容をデザインする

『ことばな』が対象とするのは11歳から18歳ぐらいのブラジル人の若者であるため、

登場人物はほぼ若者である。そこで、学習者の興味をひきつけるために、J-pop、アニ メ、漫画というポップカルチャーの話題が頻繁に取り上げられている。例えば、ユニッ ト13第4課では、読解練習としてブログの文体で、主人公が『ロリータムーン』とい う架空のアニメの映画を見に行ったという話が取り上げられている(『ことばな 1』

p169)。また、ユニット 22 では、音楽のジャンルが話題とされ、学習者によって親し

みがもてる J-pop、アニメソング、ビジュアル系というポップカルチャーの項目が見ら れる(『ことばな 2』p85)。一方、日本語の教科書では「日本について」日本語で話す という内容が多く見られるが、語学センターでは学習者が自分の言いたいことを伝える 道具としての日本語の役割も重視しているため、扱う話題は日本の文化に限らない。

⑦ 協同的な学習・アクティブラーニング

語学センターではコースを途中でやめる学生が多いという問題を解決するために、協 同的な学習を促進するようにしている。その一つの活動としては、料理の話題を取り上 げたユニットの授業では、料理のレシピを日本語で配り、学習者がそれぞれの役割を決 めて、料理を作る。この課題は 1 回の授業で終わるが、一ヶ月以上続く劇や発表とい う課題もある。マルチクラス(日本語レベルの異なる2クラス以上が1つに統合したク ラスのこと)においても、学習者の日本語レベル差に対応するために、このような協同 的な課題がよく用いられている。協同学習での学生同士のつながりによって学びが促進 されることが重視され、学習を奨励する役割も果たしている。

⑧ 母語の知識やスキルの活用

ユニット 7 第3 課では、名刺交換の活動を行う。学習者が友達にもらった名刺を読 み、カタカナで書いてある名前をポルトガル語で書く活動がある。(『ことばな1』、p101)。

そこでは、カタカナが全部読めなくても、ポルトガル語での発音からカタカナの読み方 を推測するという課題である。また、日本語とポルトガル語にある発音の違いを意識さ せることも可能である。一方で、『ことばな』はブラジル国内に住むポルトガル語話者 を対象としているため、母語を使用して文法を開設する部分が数多く見られる。例えば、

ユニット 3「情報コラム」では、「パン」「ボタン」などのポルトガル語から日本語の外

来語になったことが挙げられる(『ことばな 1』p63)。また、ポルトガル語には存在し ない「さん」、「ちゃん」、「くん」などの敬称(『ことばな1』p113)、ポルトガル語「あ なた(você)」とはニュアンスが違う「あなた」(『ことばな1』、p123)についての説明な ど、母語との差異を明示することで理解を促進する工夫も見られる(4)

⑨ 母語にない新しい概念に意識させる

ユニット20では、料理について学習する(『ことばな 2』、p59)。味について学習す

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るが、「しぶい」という味を表す言葉はポルトガル語に存在しない。そこで、でポルト ガル語ではしぶいという味覚として表すのではなく、口が閉まるという身体の変化とし て表す。つまり、日本語のしぶいという言葉を知ることによって、母語にない新しい味 覚、概念を意識させることができる。

上記9点は『ことばな』の肯定的な特徴であるが、今後さらに検討が必要な点も指摘で きる。以下の3点にまとめる。

⑩ 各技能に配慮した文法

『ことばな』では 4 技能それぞれに特徴的な文法がはっきり示されていない。「会話 練習」の応用練習では、短い文で会話が行われるのに対して、その会話の報告を書くと きはより長い文で書かせるが、話すことと書くことの違いを理解させるためではなく、

文法理解の確認として機能している。また、終助詞の使い方に関してはユニット13第3 課で「(いいです)ねえ」(『ことばな1』p167)、ユニット 18第2課で「(あります)

よ」(『ことばな 2』p36)が新出であるが、それぞれの使い方のための説明や練習は見 られない。また、ユニット 8 第 4 課での聴解練習では、電話番号を確認する会話が取 り上げられており、「〜ですね」などの終助詞が多用されているが「(『ことばな1』p114)

特に具体的な説明は見られない。ブラジルポルトガル語では、日本語の「ね」と類似す るものが存在するが、そのニュアンスが異なるために、学習者を誤解させる可能性があ る。この各技能への配慮点では、『みんなの日本語』と似ていると言える。

⑪ 文化とアイデンティティ

「情報コラム」や『かつどう』中の「社会と文化」では、日本の習慣、地名、食文化 などの様々な日本に関わる内容が紹介されているが、文化やアイデンティティの多様性 に関わる活動やディスカッションは見られない。

⑫ 文字による言語インプットの重視

『ことばな』は日本語での課題遂行を目的としているため、各課で学ぶ学習項目(言 語インプット)は、ポルトガル語によって課の学習活動の冒頭で示される。しかし学習 活動に入ると、学習者は文字にる言語インプットによって学習が始められる。つまり『み んなの日本語』と同様に文字重視のインプットであると言える。

上記の特徴をもつ『ことばな』を『みんなの日本語』『まるごと』と比較するとその類 似点と相違点が明らかである。まず、前述したようにブラジル人日本語学習者像の変化に 伴うニーズの変化に応じるために開発された『ことばな』は、日本語のインプット、教え 方に関しては、『みんなの日本語』とはあまり変わらない。また「応用練習」の部分でも、

ペア会話、発表、議論、カードやブログやメールなどの作成、紹介などの活動は、『みん なの日本語』より練習方法が多様だとはいえ、インプット、そして文型を定着させる「基 本練習」は『みんなの日本語』の「練習 A、B、C」とあまり変わらないパターンプラク

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ティスと言える。そして、『みんなの日本語』と同様に、『まるごと』に見られた「話す」、

「聞く」、「読む」、「書く」の4技能それぞれの文法についてのより深い説明や活動は見ら れなかった。

しかし、上記『ことばな』の特徴を見ると、『ことばな』がブラジル国内の日本語学習 者という特定の学習者に合わせて、学習者の母語の知識を積極的に使用して学習するとい う点で、『みんなの日本語』『まるごと』と比べて、より母語が日本語学習の中で重要な役 割を果たしていると言える。またポップカルチャーや学習者の国と文化に関わる内容を扱 うことによって、学習者の興味をひきつけ、学習者のモティベーションを上げさせること も可能性である。さらに、語学センターのマルチクラスの問題(同一クラス内の日本語の レベル差)を解決するために工夫された活動も見られる。

どの教育現場、どの学習者にも完璧な教材が存在しないことは当然であり、本稿で述べ たような『ことばな』で扱われない項目は別の教材で補う必要があるが、『ことばな』は ブラジル人日本語学習者に限定した配慮がされているため、『みんなの日本語』と『まる ごと』よりも効果的、効率的に学習できると期待される。

おわりに

以上、本稿ではブラジルにおける日本語教育を取り巻く背景や学習者の変化に応じるた めに開発された中等教育段階のブラジル人日本語学習者向け教科書『ことばな』を既存の 日本語教科書『みんなの日本語』『まるごと』と比較しながら考察した。

現在、ブラジルへの日本人移民が非常に少なくなり、日系4世5世の時代となっている。

そのため、ブラジル国内の日本語学習者像は大きく変化し、アニメや漫画といった日本の ポップカルチャーの影響で日本語学習を始める学習者が増えている。また日本語学習者層 の変化に伴って、日本語や日本文化の知識が少ない、あるいは全くない学習者はこれから も増えていくだろう。したがって『ことばな』のように、ブラジル人日本語学習者向けの 日本語教材や教授法の開発、検討がさらに必要になると考えられる。例えば、『ことばな』

を補助する教材の開発やテクノロジーを活用した教育実践の検討などが必要である。これ らはすべて今後の課題である。

参考文献

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国際交流基金(2013)『まるごと入門りかい』三修社.

スリーエーネットワーク(1998)『みんなの日本語初級I本冊』スリーエーネットワーク スリーエーネットワーク(2000)『みんなの日本語初級I教え方の手引き』スリーエーネットワーク

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野田尚史(2005)『コミュニケーションのための日本語教育文法』くろしお出版

細川英雄・西山教行(2010)『複言語・複文化主義とは何か−ヨーロッパの理念・状況から日本 における受容・文脈へ』くろしお出版.

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Canale, Michel & Swain, Marril (1980)Theoretical bases of communicative approach to second language teaching and testing. Applied Linguistics 1, 1/1: 1-47

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Mukai, Yuki & Yoshikawa, Edna Mayumi Iko (2009), Análise e Crítica de Dois Materiais Didáticos em Língua Japonesa, Estudos Japoneses, Vol.29, São Paulo, Oficina Editorial da Universidade de São Paulo.

Silva, Otávio de Oliveira(2017), O Centro de Lìnguas(CEL) na história do ensino de língua japonesa nas escolas públicas paulistas, São Paulo, Oficina Editorial da Universidade de São Paulo.

(1)この他にも、町の中で学習者にカタカナの文字を探させるという活動もある(『ことばな1』

p74)。日系人が多く、街中に日本語の情報が少なくないサンパウロという地域の特徴を生かし た活動である。

(2)この他の例として、ユニット13第4課のブログ作成のタスク(『ことばな1』p170)、ユニッ ト23 第4 課の友だちの好きなスポーツについて紹介する活動での友だちの似顔絵を描くタス ク(『ことばな2』p103)、ユニット24第4課のカラオケ店の看板を見て、利用金額を計算す るタスク(『ことばな2』p115)などが挙げられる。

(3)「社会文化アドバイス」という部分でも、ユニット23第2課では、自分については、「上手」

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よりも「得意」という語を選択するほうがふさわしい(『ことばな2』p98)、ユニット33第4 課では、メールの冒頭に天気を述べる慣用がある(『ことばな3』p103)ことが挙げられている。

(4)文法的な面においても、ユニット12第3課では、ブラジル人日本語学習者にとって理解し がたい「は」と「が」の区別が説明されている(『ことばな1』p156)。また、ユニット20第4 課では、日本語とポルトガル語混合の文章を読んで、文章の意味や漢字の読み方を考えさせる 活動も見られる(『ことばな2』p71)。

(2017年度本学国費外国人留学生(教員研修留学生))

参照

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