微分積分学
田口 雄一郎
目次
1.
一変数の微分法2.
二変数の微分法(偏微分)3.
一変数の積分法と微分方程式4.
二変数の積分法(重積分)記号:この講義では一貫して次の記号を使ふ:
N :
自然数全体の集合(0 も含める)Z :
整数全体の集合Q :
有理数全体の集合R :
実数全体の集合C :
複素数全体の集合 区間の記号:[a, b] = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } (a, b) = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } [a, b) = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } (a, b] = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b }
1.
一変数の微分法1.1.
実数の連続性. 有理数全体の集合Q
は「連続」でない。例へばx 2 = 2
を満たす有理数x
は存在しない、といふ様に、「穴だらけ」で ある。√
2 ̸∈ Q
をもう少し詳しく言ふと、A= { x ∈ Q| x 2 < 2 } , B = { x ∈ Q| x 2 > 2 } ,
とおくとき、Q
を「上半分」A
と「下半分」B
にきつちり分けられる、即ちQ = A ∪ B, A ∩ B = ∅
と書ける、が、その「境界」のx = √
2
はA
とB
のどちらにも属さ ない、といふ事である。実数全体の集合R
についてはこの様な事が起 こらない、といふ事を以て「R は連続である」と言つてゐる。即ち、R
を「上半分」A
と「下半分」B
に分けてR = A ∪ B, A ∩ B = ∅
書くとき、その「境界」となる一つの実数
x
が存在する、即ち、A= ( −∞ , x]
かつB = (x, + ∞ )
となるかA = ( −∞ , x)
かつB = [x, + ∞ )
となるか、どちらかである。実数論を本格的にやれば、Q から
R
を構成して、上の様なR
の性 質も証明出来るが、ここでは深入りせず、事実として認める事にする。1
1.2.
連続函数.
一般に、函数1 f (function)とは、或る “領域” X
の各
元x ∈ X
に対し(実数や複素数等の)値f(x)
を対応させる規則の事で
ある。(より一般に、X と Y
が集合であるとき、X から Y
への 写像
(map, mapping) f : X → Y
とは、X の各元 x
に対して Y
の元f (x)
を対応させる規則の事である。)
f
がX
上の実数値または複素数値の函数である事を記号でf : X → R
またはf : X → C
と記す。この講義では主に実数値の場合を扱ふ。
上で、函数に付けられた「名前」は
f
であるが、「変数」としてx
といふ文字を使ふ事を明記するために「函数f (x)」と書く事も多い。
例.
f(x)
が実数係数の多項式であるとき、X= R
として、f(x)
はX
上の実数値函数を定める。(X= C
とするとf(x)
はX
上の複素数値 函数を定める—この場合f (x)
は複素数係数の多項式でよい。)例
. f(x) = g(x)/h(x)
が実数係数の有理式(即ちg(x), h(x)
は実数係 数の多項式で、h(x) は零多項式でない)であるとき、X = { x ∈ R| h(x) ̸ = 0 }
とおくと、f(x) はX
上の実数値函数を定める。例.
f(x) = sin x, cos x, e x , log x
等はX = R
上の実数値函数を定める。例.
x ∈ R
に対し[x]
により「xを超えない最小の整数」を表す。また、⟨ x ⟩ = x − [x]
とおく。f(x) = [x], g(x) = ⟨ x ⟩
はそれぞれX = R
上の 実数値函数を定める。以下では主に
X
がR
の区間である場合を扱ふ。区間(interval) I
と は次の形のR
の部分集合である:[a, b] = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } , (a, b) = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } , [a, b) = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } , (a, b] = { x ∈ R| a ≦ x ≦ b } .
これらのうち[a, b]
を 閉区間、(a, b)
を 開区間、[a, b)
と(a, b]
を 半開区間 と呼ぶ。a, b が−∞
や+ ∞
のときは適宜解釈する。f : I → R
が区間I
上の函数であるとき、xy-平面内の「曲線」Γ = { (x, y) | y = f(x) }
を函数
f (x)
の(またはy = f (x)
の)グラフ(graph)
と言ふ。f
がa ∈ I
で 連続(continuous)
とは、直観的には、y= f (x)
のグラフが点
(a, f (a))
の近傍で「途切れてゐない」事である。「途切れてゐる」といふのは、「x が
a
の近くにあるのにf (x)
はf (a)
の近くに ない」といふ事だから、f がa
で連続であるとは、「x がa
の近くに あるならばf (x)
はf (a)
の近くにある」といふ事である。しかし「近1
関数と書く人もゐる。くにある」といふ言ひ方は曖昧である。ここでは「f
(x)
を いくらでもf (a)
に近付けられる」といふ事が重要である。これを式で表せば「どんなに小さい実数
ε > 0
が与へられても(x がa
に 十分近ければ)|f(x) − f (a) | < ε
が成り立つ」となる。「xが
a
に十分近ければ」も曖昧なので、ここも式で表せば「(ε に応じて)うまく小さい実数
δ > 0
を取れば、| x − a | < δ
を満たす全ての実数x ∈ I
に対して」といふ事である。纏めて言ひ直すと:
定義. 函数
f
がa ∈ I
で連続 であるとは、どんなε > 0
に対しても 或るδ > 0
をうまく取れば| x − a | < δ
を満たす全てのx ∈ I
に対し| f (x) − f(a) | < ε
が成り立つ事である。先程は「小さい」云々の修飾が入るてゐたが、それは「気分」を表すた めに書いただけで、論理的には必要ないので、上の定義では省略して ある。この定義に基いて函数の連続性を証明したりする議論を
ε-δ
論法 と呼ぶ。さらに:定義. 函数
f
がI
上で連続 であるとは、全てのa ∈ I
に対しf
はa
で連続である事である。例. 多項式
f(x)
の定めるI = R
上の函数f
はI
上で連続である。こ こでは例としてf (x) = x 2 が a ∈ I
で連続である事を証明してみよう。
ε > 0
が与へられたとする。ここでδ > 0
を「うまく取る」のだが、その取り方は少し計算してからでないと分からないので保留しておき、
取り敢へず「|
x − a | < δ」といふ仮定の下で次の計算をする:
| f(x) − f (a) | = | x 2 − a 2 | = | x − a || x + a |
= | x − a || x − a + 2a | ≦ | x − a | 2 + 2 | a(x − a) |
< δ 2 + 2 | a | δ.
この最後の
δ 2 + 2 | a | δ
がε
以下になればよいから、例へばδ =
{
min( √
ε/2, ε/4 | a | ) (a ̸ = 0
のとき)√ ε/2 (a = 0
のとき) とおけば2
| x − a | < δ = ⇒ | f (x) − f (a) | < ε
が成り立つ。例.
f (x) = [x]
とする。y= f (x)
のグラフを見れば、f(x)
はa
が整数 でないときx = a
において連続、a が整数であるときx = a
において 不連続、である事が見て取れる。この後半をε-δ
論法で証明してみよ う。a を整数とする。「どんな
ε > 0
に対しても或るδ > 0
をうまく取れば○○が成り立つ」の否定は
2
ここでmin(A, B)
は「A, B のうち小さい方」を表す。「或る
ε > 0
に対してはどんなδ > 0
を取つても○○が成り立たない」である。ここで○○は
「|
x − a | < δ
を満たす全てのx ∈ I
に対し| f (x) − f(a) | < ε
が成り立 つ」であり、これが成り立たないとは
「|
x − a | < δ
を満たすのに| f (x) − f(a) | < ε
が成り立たない(即ち| f (x) − f(a) | ≧ ε
が成り立つ)様なx ∈ I
が存在する」である。今の場合「或る
ε」として 1
を取り、次を示せば十分である:「どんな
δ > 0
を取つても、| x − a | < δ
を満たすのに| [x] − [a] | ≧ 1
と なる様なx ∈ R
が存在する。」実際、どんな
δ > 0
に対してもa − δ < x < a
を満たすx ∈ R
が存在 するが、今a
は整数だから[x] ≦ a − 1 = [a] − 1,
従つて| [x] − [a] | ≧ 1
である。問.
R
上の函数f(x)
を次の様に定義する:f (x) = {
x (x
が有理数のとき)0 (x
が無理数のとき).(1) y = f(x)
のグラフを描け。(2) f(x)
が(各a ∈ R
で)連続かどうかを判定せよ。ε-δ
論法を使ふと次の命題が証明出来る:命題.
(1) f (x), g(x)
がI
上の函数であり、ともにa ∈ I
で連続である とき、函数の和f (x) + g(x),
差f (x) − g(x),
積f(x)g(x),
定数倍cf (x) (c ∈ R )
もまたa
で連続である。また、g がI
で0
にならないならば 商f (x)/g(x)
もa
で連続である。(2) f (x), g(x)
が(適当な区間で定義された)函数であり、g(x)
がa
で 連続かつf (x)
がg(a)
で連続ならば、合成函数f (g (x))
はa
で連続で ある。連続函数についての重要な定理として次がある:
中間値の定理. 閉区間
[a, b]
で定義された連続函数f (x)
はf(a)
とf(b)
の間の全ての値を(少なくとも一度は)取る。[より詳しく述べると: f(x)
を閉 区間[a, b]
で定義された連続函数とし、p
をf (a) ≦ p ≦ f (b) (または f (a) ≧ p ≧ f (b))
なる実数とする。このとき、a≦ c ≦ b
なる実数c
であつてf (c) = p
を満たすもの が存在する。]ここでは簡単のため
f(x)
はR
全体で定義された 単調増加 な連続 函数であると仮定して、f(x)
が全ての実数値を取る事を証明してみよ う。実数p
が与へられたとする。これに対しA = { x ∈ R| f(x) ≦ p } , B = { x ∈ R| f(x) > p }
とおく。するとR = A ∪ B
かつA ∩ B = ∅
が成り立つ。「実数の連続性」(
§ 1.1)
により、或る実数c
に対してA = ( −∞ , c]
かつB = (c, + ∞ )
または
A = ( −∞ , c)
かつB = [c, + ∞ )
となる。ここで実は
f (c) = p
が成り立つ(従つて上の二つのうち最初 の方が成り立つ)事を示す。実際、もしf(c) < p
と仮定すると、ε= p − f (c) (> 0)
とおくとき、どんなδ > 0
に対してもc − δ < x < c
となるx
が存在するが、このx
に対し| f (x) − f (c) | = f(c) − f (x) ≦ f (c) − p = ε
となり、これはf (x)
がc
で連続である事に反する。f(c)> p
と仮定 しても同様にして矛盾が生じるから、f(c) =p
でなければならない。1.3.
極限と微分. まづ函数の極限を定義する:定義.
I
を開区間とし、a∈ I
とする。f(x) をI
(のa
以外の点)で定義された函数とする。実数
b
が、x がa
に近づくときのf(x)
の 極限(limit)
であるとは、「x をa
に近づければf (x)
はいくらでもb
に近づく」事、即ち(ε-δ式に書けば)どんなε > 0
に対しても或るδ > 0
をうまく取れば0 < | x − a | < δ
を満たす全てのx ∈ I
に対し| f (x) − b | < ε
が成り立つ事である。この事を記号で
x lim → a f(x) = b または
x → a
のときf(x) → b
等と記す。連続性の定義を思ひ出すと、(f
(x)
がx = a
でも定義されてゐると して)「f(x)
がa
で連続」とはx lim → a f(x) = f (a) と同値である事が分かる。
極限については次の公式が成り立つ事が
ε-δ
論法を用ゐて容易に証 明出来る:命題.
x lim → a (f(x) ± g(x)) = lim
x → a f(x) ± lim
x → a g(x), lim
x → a (f (x)g(x)) = lim
x → a f (x) lim
x → a g(x).
さらに、lim
x → a g(x) ̸ = 0 なら
x→a lim f(x)
g(x) = lim x → a f(x) lim x → a g(x) .
f (x)
は開区間I
で定義された函数とし、a ∈ I
とする。f(x)のa
に 於ける微分係数f ′ (a)
とは、直観的に言へば、y= f (x)
のグラフの点(a, f (a))
に於ける接線の傾きである。それはf(x) − f(a)
x − a
の
x → a
としたときの極限であるから、次の様に定義する:定義. 極限値
x lim → a
f (x) − f(a) x − a
が存在するとき、その値を
f ′ (a)
と記し、函数f(x)
のa
に於ける 微分係数 と言ふ。f(x)
がa
で 微分可能 とはf ′ (a)
が存在する事であ る。函数f(x)
がI
で 微分可能 とは、全てのa ∈ I
に於いてf(x)
が 微分可能である事である。このとき、各a
に対しf ′ (a)
を対応させる 規則はI
上の函数であり、この函数をf ′ (x)
と記し、f(x)の 導函数 と 呼ぶ。例
. f (x) = x n (n
は自然数) のときf ′ (x) = nx n − 1 .
命題.
(1) f, g
が開区間I
で微分可能であるとき(f + g) ′ = f ′ + g ′ , (f g) ′ = f ′ g + f g ′ , (cf ) ′ = cf ′ (c ∈ R ).
また、g(x)̸ = 0
である限り(f /g) ′ = (f ′ g − f g ′ )/g 2 .
(2) f
がI
上微分可能、g がJ
上微分可能で、g の値がI
に属する時、合成函数
f ◦ g
もJ
上微分可能であり、(f◦ g) ′ (x) = f ′ (g(x))g ′ (x).
上の例と命題により、多項式や有理式が微分可能であり、さらに導 函数も容易に計算出来る事が分かる。
問. 次の函数の導函数を求めよ。
f (x) = x 3 + 3x 2 + 6x + 1, g(x) = x 3 + 3x x 2 + 1 .
次の命題も(定義に基いて)容易に証明出来る。命題
.
微分可能な函数は連続である。函数
f
は連続でも微分可能とは限らない。一回微分出来ても、その 導函数f ′ が連続とは限らない。それが連続でも微分可能とは限らな
い。微分可能な場合、これを微分したもの、即ち f
を二回微分したも
のを、f′
と記す。一般に f
が n
回微分出来るとき、n回微分したもの
を f (n) と記し、f の n
次導函数と呼ぶ。
n
次導函数と呼ぶ。1.4.
導函数と不等式.
この節でも函数f (x)
は開区間I
で定義された ものとする。定義.
f (x)
が区間I
に於いて 単調増加 であるとは、任意のs, t ∈ I
に 対しs < t = ⇒ f (s) < f (t)
が成り立つ事である。上の「f
(s) < f (t)」の代りに「f (s) ≦ f (t)」と
したものを 単調弱増加 とか 広義単調増加 等と呼ぶ。「単調減少」等も 同様に定義する。定理.
f(x)
がI
で微分可能であり、常にf ′ (x) > 0
ならば、f(x)
はI
で単調増加である。[この定理で、仮定を「f
′(x) ≧ 0
ならば」と変へれば結論を「f(x)
は単調弱増加」として同様の定理が成り立つ。]
証明:s < t かつ
f(s) ≧ f (t)
となるs, t
があつたとする。p(x) =
{ f (x) − f(s)
x − s (x ̸ = s) f ′ (s) (x = s)
とおくと、これは
I
上の連続函数で、p(s) =f ′ (s) > 0
かつp(t) < 0
だから、中間値の定理 により或るc ∈ (s, t)
に対しp(c) = 0
となる。この様な
c
の中で実は最小のものがある(cf. [斎藤],
定理1.2.5.2)。c
をその最小のものとすると、x∈ [s, c)
のときp(x) > 0,
従つてf (x) = f (s) + p(x)(x − s) ≧ f(s) = f(c),
故にf(x) − f (c)
x − c ≦ 0,
x
を下からc
に近付けるとf ′ (c) ≦ 0
を得る。ところがf ′ (c) > 0
といふ仮定だつたから、矛盾。
□
次の命題は上の定理から容易に導かれるが、函数の値を「評価」す るときに便利である:
命題
.
函数f (x), g(x)
は閉区間[a, b]
で定義され開区間(a, b)
で微分 可能とする。さらに(a, b)
でf ′ (x) ≦ g ′ (x)
と仮定する。このとき、s, t ∈ [a, b]
に対しs ≦ t = ⇒ f (t) − f(s) ≦ g(t) − g(s)
が成り立つ。次に述べる幾つかの定理は重要であるが、ここでは証明は略する。
Rolle
の定理. 函数f (x)
は閉区間[a, b]
で連続かつ開区間(a, b)
で 微分可能とする。このとき、f(a) = f (b)
ならばf ′ (c) = 0
を満たすc ∈ (a, b)
が存在する。平均値の定理. 函数
f (x)
は閉区間[a, b]
で連続かつ開区間(a, b)
で微 分可能とする。このとき、f ′ (c) = f(b) − f (a) b − a
を満たすc ∈ (a, b)
が存在する。[これの f (a) = f (b)
の場合がRolle
の定理。]Cauchy
の平均値の定理.
函数f(x), g(x)
は閉区間[a, b]
で連続かつ 開区間(a, b)
で微分可能とする。このとき、g(a)̸ = g(b)
かつg ′ (x) ̸ = 0 (x ∈ (a, b))
ならばf ′ (c)
g ′ (c) = f (b) − f (a) g(b) − g(a)
を満たすc ∈ (a, b)
が存在する。[これの g(x) = x
の場合が平均値の定理。]de l’Hˆ opital
の定理. 函数f(x), g(x)
はa
を含む開区間I
で定義され てゐて微分可能であるとする。(1) lim x → a f(x) = lim x → a g(x) = 0
かつ極限値lim x → a f g′′(x) (x)
が存在する
ならば
x lim → a
f (x)
g(x) = lim
x → a
f ′ (x) g ′ (x) .
(2) lim x → a f (x) = lim x → a g(x) = ∞
かつ極限値lim x → a f′(x)
g
′(x)
が存在す るならばx lim → a
f (x)
g(x) = lim
x → a
f ′ (x) g ′ (x) .
問
.
ロピタルの定理を用ゐて極限値lim x → 0 e2x− x cos x
を求めよ。
f (x)
は開区間I
で定義された函数とする。f のI
に於ける 最大値(maximum)、最小値 (minimum)
については周知であらう。3
ここでは極大値と極小値を定義する。大雑把に言へば、極大値とは「局所的な 最大値」、極小値とは「局所的な最小値」の事である:
定義.
f
がc ∈ I
に於いて 極大値(local maximum)
を取るとは、c を 含む或る十分小さい開区間(c − δ, c + δ)
があつて、f
をここに制限して 考へると、f はc
で最大値を取る事である。さらに、x∈ (c − δ, c + δ)
に対し、x= c
を除きf(c) > f (x)
であるとき、f はc
で 強極大値(strict local maximum)
を取ると言ふ。極小値(local minimum)、強極小値 (strict local minimum)
についても同様。極大値と極小値の両方を合せ て 極値(local extremum)
と呼ぶ。命題
. f
はI
で微分可能とし、c∈ I
とする。(1) f
がc
で極値を取るならばf ′ (c) = 0.
(2) f
はI
で2
回連続微分可能4
であり、かつf ′ (c) = 0
と仮定する。このとき、
f ′′ (c) > 0
ならばf
はc
で強極小値を取り、f ′′ (c) < 0
ならばf
はc
で強極大値を取る。f (x)
は区間I
で定義された微分可能な函数とする。y= f (x)
のグ ラフは平面内の曲線C
となる。C 上の点P(c, f (c))
に於けるC
の接 線をL
とする:L : y − f(c) = f ′ (c)(x − c).
C
が(またはf (x)
が)P に於いて(またはc
に於いて)下に凸 であ るとは、P の十分近くで、P 以外の点に於いてはC
がL
よりも上に ある事である。C が(またはf(x)
が)区間I
で 下に凸 であるとは、全ての
c ∈ O
に於いてC
が下に凸である事である。「上に凸」も同様 に定義する。また、点P
の前後で曲線C
と接線L
の上下が逆転する とき、P は曲線C
の(または函数f (x)
の)変曲点 であると言ふ。問. 上で、「上・下に凸」「変曲点」等の定義を直観的に述べたが、これ らを不等式を使つて厳密に定義せよ。
3
ここでは弱い意味で解釈する。即ち、f がc ∈ I
に於いて最大値を取るとは、全 てのx ∈ I
に対しf (c) ≧ f (x)
である事。4 2
階導函数f
′′ が存在してそれが連続である事。問
.
次の曲線の極値、凹凸、変曲点を調べ、その概形を描け。(1) y = 2x 2 √
x − 5x 2 , (2) y = log x
x .
1.5.
逆函数.f
を区間I
で定義された函数とし、J = { f(x) | x ∈ I }
とおく。もし 各
y ∈ J
に対しf(x) = y
となるx ∈ I
が 唯一つ 存在す るならば、yにこのx
を対応させる事によりJ
で定義された函数が得 られる。これをf
の逆函数と言ひ、f− 1
で表す(従つてy = f(x)
なら ばx = f − 1 (y)
である)。f の逆函数は常に存在するとは限らない。然 し次が成り立つ:命題.
f
が区間I
で定義された単調増加(または単調減少)な連続函 数ならば、その逆函数f − 1 が存在する。
実際、I は閉区間
[a, b]
としてよく、このとき単調増加性と連続性と中間値の定理により
f
の値域はJ = [f (a), f (b)]
になる。各y ∈ J
に対し
f (x) = y
となるx ∈ I
が唯一つである事も単調増加性より明らかである。
□
また、命題の条件の下、f が単調増加(単調減少)なら
f − 1 も単調 増加(単調減少)である事も(少し議論すると)分かる。
逆函数の意味を考へると、y
= f − 1 (x)
のグラフはy = f(x)
のグラ フを直線y = x
に関して折り返したものになつてゐる事が分かる。問.
(1) n
を自然数≧ 1
とする。区間[0, ∞ )
に於いて連続函数f(x) = x n は単調増加であるから逆函数を持つ。これをg(x) = √
n
x
と書く。y = g(x)
のグラフを描け。(2)
連続函数f (x) = sin x
は区間[ − π/2, π/2]
に於いて単調増加である から、逆函数g (x)
を持つ。y= g(x)
のグラフを描け。cosx, tan x
に ついても同様に逆函数のグラフを描け(単調増加となる区間が異なる ので注意せよ)。方程式の近似解を求める方法として次の
Newton
法 がある:命題.
f (x)
閉区間[a, b]
で定義された2
回微分可能な函数で、次の条件を満たすと仮定する:
(1) f(a) < 0, f (b) > 0,
(2) f ′ (x) > 0, f ′′ (x) > 0 (x ∈ [a, b]).
このとき方程式
f(x) = 0
は(連続性、単調増加性と中間値の定理によ り)区間[a, b]
に唯一つの解α
を持つ。数列(c n ) n ∈N を
c 0 = b, c n+1 = c n − f (c n ) f ′ (c n )
により定義すると、(c
n ) n ∈N
は単調減少であり、α に収束する。これは曲線
y = f(x)
の点(c n , f (c n ))
に於ける接線を考へると分か る。この命題は他の(区間[a, b]
でf ′ , f ′′ の符号が一定である様な)状 況でも成り立つ。
問
. f (x) = x 2 − 3, a = 1, b = 2
の場合にNewton
法を適用して(上の 記号で)c3
まで計算し√
3
の近似値を求めよ。1.6. Taylor
の定理. a
を含む閉区間I
で定義されたn
回微分可能な函数
f (x)
を(n − 1)
次多項式で近似するものとして、次のTaylor
の 定理がある:Taylor
の定理.
上の仮定の下、各x ∈ I
に対し、次を満たすc ∈ I
がa
とx
の間に存在する:f (x) = f (a)+f ′ (a)(x − a)+ f ′′ (a)
2! (x − a) 2 + · · · + f (n − 1) (a)
(n − 1)! (x − a) n − 1 + f (n) (c)
n! (x − a) n .
この右辺の最後の項は、もしf (n) (x)
が連続ならば、次の様な表示も出来る:
∫ x
a
f (n) (t) (x − t) n − 1 (n − 1)! dt.
もし
f
が無限回微分可能で、f(n)
がa
を中心とする半径r
の開区 間(即ち | x − a | < r
の範囲) で、n に依らず或る連続函数g
により| f (n) (x) | ≦ g(x)
と押さへられてゐるならば、Taylor 展開f (x) = f (a) + f ′ (a)(x − 1) + f ′′ (a)
2! (x − a) 2 + · · · + f (n) (a)
n! (x − a) n + · · ·
が成り立つ。
□
1.7.
初等函数.
有名な初等函数として三角函数、指数函数およびそれ らの逆函数を説明すべき所だが、時間の都合で指数函数と(その逆函 数である)対数函数についてのみごく簡単に解説するに止める。先づ、正の実数
a >
と任意の実数x
に対しa x (a
のx
乗) を定義 する。x が整数のときはa x の定義はよく知られてゐる通りである(x
が正の整数のときはa x =「a を x
回かけたもの」 、x = 0
のときは
a 0 = 1, a
が負の整数のときは a x = 1/a −x ). x
が有理数 p/q (p, q
は整
数で q > 0)
のときはa x = √
q
x
回かけたもの」 、x= 0
のときはa 0 = 1, a
が負の整数のときはa x = 1/a −x ). x
が有理数p/q (p, q
は整 数でq > 0)
のときはa x = √
qa p と定義する。問題はx
が無理数のとき
である。このとき、x に収束する有理数列 x 0 , x 1 , x 2 , . . .
を選び、
a x = lim
n →∞ a x
nと定義する(勿論この極限がちやんと存在する事やその値が有理数列
(x n )
の選び方に依らない事等確認する必要あり)。この函数
a x を(a を 底 とする)指数函数 と呼ぶ。指数函数は次の 性質を持つ:
命題.
(1)
指数函数a x は R
上連続である。
(2) a x は、a >1
のとき単調増加、a <1
のとき単調減少、a= 1
のと
き恒等的に 1 x = 1
である。
(3) a x+y = a x a y .
(4) a xy = (a x ) y .
(5) (ab) x = a x b x .
これらはいづれも指数
x, y
が有理数のときは容易に確かめられ、一 般の場合は「連続性により」それに帰着出来る。指数函数
f (x) = a x の微分を考へる。定義に依り、極限
lim
h → 0
a x+h − a x h
の値が存在するとき
a x は x
で微分可能と言ふのだつた。少し考へる
と、0< h < 1
に対しa h < 1 + h(a − 1)
が示せ、これを使つて(さら
に少し考へると)y= a x のグラフは下に凸である事もわかる。従つて
a > 1, 0 < h < 1
のとき
a > 1, 0 < h < 1
のときa x+h − a x
h = a x a h − 1 h
は
h
に関して単調増加で、上の極限値が存在する事もわかる。特にlim h → 0 (a h − 1)/h = f ′ (0)
だから、一般のx
に対して(1.1) f ′ (x) = a x f ′ (0)
である。f
′ (0) の値はa
によつて定まるので、これをlog a
と書く:
定義
.
実数a > 0
に対し、指数函数a x のx = 0
での微分係数を a
の
自然対数 と呼び、loga
と記す。
この定義と上の等式
(1.1)
より(1.2) (a x ) ′ = a x log a
が成り立つ。
問
. a > 0, b > 0
とする。R
で定義された函数a bx2 を x
で 2
回微分
せよ。
a
を動かしてlog a
をa
の函数と思つたもの(変数をx
に置き換へ てlog x
とも書く) を 対数函数 と呼ぶ。対数函数の性質を以下に纏め ておく(証明については[斎藤], § 2.2
を参照)。命題.
(1)
対数函数log x
はx > 0
で定義された単調増加な連続函数で あり、limx → +0 log x = −∞ , lim x →∞ = ∞ .
(2) log 1 = 0.
(3) log(xy) = log x + log y.
(4) log a b = (log a)b.
(5) log x
は微分可能であり、その導函数は1/x
である。問.
a > 0
とする。開区間(0, ∞ )
で定義された函数xlog(1 + a/x)
をx
で2
回微分せよ。定義
. log e = 1
を満たす実数e
が唯一つ存在するが、これを 自然対数の底 と呼ぶ。Napier の数 とも呼ばれる。e = 2.71828182845904523536028747135...
である。[斎藤] ではe
はe = 2 1/ log 2 と 定義 してゐる(勿論上の定義と同じ値になる)。
等式
(1.2)
より(1.3) (e x ) ′ = e x
が成り立つ。
命題.
(1) log x
はe x の逆函数である。
(2) e x = lim n →∞ (1 + x n ) n .
複利計算について:お金を借りて、一定期間後に
100x%
の利子を付け て返済する事にすると、返す額は元の額の(1 + x)
倍である。もしこ の期間の半分に分け、前半期に(100x/2)%
の利子を付け、後半期にも(100x/2)%
の利子を付けるとすると、返す額は元の額の(1 + x/2) 2 倍
である。期間をn
等分して同様にすると、返す額は元の額の(1 + x/n) n
倍である。この値は n
に関して単調増加5
なので、この方式で利子を
取るならばなるべく細かく分割した方が得であるが、いくら細かく分
割しても上限は e x 倍である。
n
に関して単調増加5
なので、この方式で利子を 取るならばなるべく細かく分割した方が得であるが、いくら細かく分 割しても上限はe x 倍である。
5
記号を変へてf (x) = (1 + a/x)
x(a, x > 0)
とおき、F(x) = log f(x) = x log(1 +
a/x)
の増減を調べる。F′(x) = log(1 + a/x) − (a/x)/(1 + (a/x)). G(y) = log(1 +
y) − y/(1 + y)
とおくとG(0) = 0, G
′(y) = y/(1 + y)
2> 0 if y > 0,
だから、a, x >0
ならばF
′(x) > 0
である。2.
二変数の微分法この章では
X
を“xy-平面” R 2 = { (x, y) | x, y ∈ R}
内の領域6
とし、f (x, y)
はX
で定義された二変数函数とする。2.1.
二変数函数と連続性.
二変数函数f (x, y)
が点(a, b) ∈ X
である といふ事を定義したい。一変数函数f (x)
の場合は「f(x)
がa
で連 続」とは「x をa
に十分近づければf (x)
がf (a)
にいくらでも近く 出来る」即ち「| x − a |
を十分小さくすれば| f (x) − f (a) |
をいくらで も小さく出来る」事であつた。二変数函数でも値は一つの実数だから| f (x, y) − f (a, b) |
は意味を持つ。一方「点(x, y)
を(a, b)
に十分近づ ければ」は平面上の距離| (x, y) − (a, b) | = √
(x − a) 2 + (y − b) 2 を使つて定義すればよい。
定義.
X
で定義された函数f (x, y)
が点(a, b) ∈ X
で 連続 であると は、どんな実数ε > 0
に対しても或る実数δ > 0
を上手く取れば全て の(x, y) ∈ X
に対し| (x, y) − (a, b) | < δ = ⇒ | f (x, y) − f (a, b) | < ε
が成り立つ事である。
f (x, y)
がX
で連続 であるとは、全ての(a, b) ∈ X
に対しf (x, y )
は(a, b)
で連続である事である。例
.
二変数の多項式はxy-平面全体で連続な函数を定義する。
例
. c
を実数として、xy-平面上の函数f(x, y)
をf (x, y) =
{ 2xy
x
2+y
2((x, y) ̸ = (0, 0)
のとき)c ((x, y) = (0, 0)
のとき)と定義すると、
f (x, y)
は原点(0, 0)
以外では連続であるが、原点では不 連続である。原点で不連続である事は次の様にして分かる:原点を通る 直線y = tx (t
は定数)上を点(x, y) ̸ = (0, 0)
が原点に近づいて行く状況 を考へる。y = tx
をf(x, y)
の定義式に代入するとf(x, y) = 2t/(1 + t 2 )
となり、これは(x, y)
には依らず、直線の傾きt
のみ依存する一定値 である(因みにt = tan(θ/2)
とおくと2t/(1 + t 2 ) = sin θ
であるから、これは
− 1
から1
までの任意の値を取る)。従つて、2t/(1 +t 2 ) ̸ = c
な るt
の方向から(x, y)
が原点に近づく時、f(x, y)
の極限は̸ = c
なので、f
(x, y)
は原点で不連続である。f (x, y)
が二変数函数のとき、z= f (x, y)
のグラフはxyz-空間内の
曲面 となる。問. 上の例の
f (x, y)
に対し、z= f(x, y)
のグラフがどんな曲面にな るか考察せよ。6
ここでは開部分集合の事としておく。2.2.
二変数函数の微分.
二変数函数f(x, y)
の微分を考へる。まづはf
を「x方向」「y方向」にそれぞれ微分する事が考へられる。二つの変数の うち一方、例へばy
をy = b
と固定する。x
の函数f (x, b)
がx = a
で微 分可能であるとき、f(x, y)は(a, b)
でx
に関して偏微分可能 であると 言ひ、その微分係数をf (x, y)
の(a, b)
に於けるx
に関する偏微分係数 と呼び、∂f ∂x (a, b)またはf x (a, b)
で表す。x
を固定した場合も同様に、「y
に関して偏微分可能」「yに関する偏微分係数」「∂f ∂y (a, b)」「fy (a, b)」が定
義される。x, y
の両方に関して偏微分可能であるとき、単に 偏微分可能
と言ふ。また、a, b
を動かして、偏導函数 ∂f ∂x (x, y ) = f x (x, y), ∂f ∂y (x, y) = f y (x, y) を考へる。
y (a, b)」が定
義される。x, y
の両方に関して偏微分可能であるとき、単に 偏微分可能
と言ふ。また、a, b
を動かして、偏導函数 ∂f ∂x (x, y ) = f x (x, y), ∂f ∂y (x, y) = f y (x, y) を考へる。
例.
f (x, y) = sin x + cos y
のとき∂f
∂x (x, y) = cos x, ∂f
∂y (x, y) = − sin y.
例.
f (x, y) =
{ 2xy
x
2+y
2((x, y) ̸ = (0, 0)
のとき)c ((x, y) = (0, 0)
のとき) のとき∂f
∂x (x, y) =
{ − 2y (x x22+y − y
22)
2 ((x, y) ̸ = (0, 0)
のとき)
0 ((x, y) = (0, 0)
のとき),
∂f
∂y (x, y) = {
2x (x x22+y − y
22)
2 ((x, y ) ̸ = (0, 0)
のとき)
0 ((x, y ) = (0, 0)
のとき).
二変数函数の微分としては
x, y
両方に関して偏微分可能といふだけ では十分ではない。7
一変数函数f (x)
の場合、x= a
に於ける微分係 数f ′ (a)
とは幾何的にはy = f (x)
のグラフの点(a, f(a))
に於ける接 線の傾きであつた。二変数函数y = f(x, y)
の場合、z= f (x, y)
のグ ラフは3
次元空間内の曲面になるから、接線ではなく、点(a, b, f (a, b))
に於ける 接平面 を考へる事になる。与へられた点を通る平面は法線ベ クトルで決まるから、微分係数f ′ (a, b)
は(一つの数ではなく)ベクト ルになる。点(a, b, f (a, b))
を通る平面(で「垂直」でないもの)の方 程式は一般にz = f(a, b) + p(x − a) + q(y − b) (p, q
は実数)の形である。これが