関 武 英 生 北 海 道 大 学 大 学 院 注目に値するものであり︑世界で最も進んだ法
律であると評価されている︒
折しも︑百本でも︑企業の不正行為が新聞紙
菌を賑わしていることは関知のとおりである︒
企業の不正行為は︑水俣事件に代表される環境 汚染公害で顕在化し︑大和銀行ニューヨーク支 庖の国債不正取引に代表される一九九
0
年代の
バブル期から崩壊期における数々の不正融資事
件を経て︑近年の
JOC
東海村臨界事故︑雪印 食中毒事件︑三菱自動車工業クレ
i
ム 隠
し 事
件 ︑
日本ハム輸入牛肉混入事件︑東京電力原発検査
虚偽記載事件まで脈々と続いている︒なかには︑
労働者による内部告発をきっかけに︑企業の不
正行為が発覚したケ
iスもある︒このように︑
企業の不正行為が社会問題化したこと︑労働者
による内部告発の章一要性が認識されたことにと
もない︑わが国においても内部告発者の保護に 向けた動きが始まっている︒現在︑内部告発者
の権利を守る﹁公益通報者保護制度﹂に関する
議論が︑内関府主導で行なわれており︑早けれ
ば二
O
O
二一年の通常国会に関連法案が提出され
イ︑ギリスの公益情報開示法
r‑‑ーー一一l
i由 時 │
は じ め に
一九九八年七月二日︑イギリスにおいて︑内
部告発者を保護する法律である公益情報開示法
( ベ 宮 司 C E F n Eお
お ∞
同 盟
由 ︒
目 ︒
Z
お
﹀
23
︒
∞ )
が ︑
一
九 九
六 年
一 雇
用 権
法 (
担 吉
立 ♀
g g
門 担
∞ 伊
丹 ﹀
2
3ま
)
に挿入される形で制定され︑労働者による内部 告発に関する法制は大きな変貌を遂げることと なった︒同法は︑﹁第三の道﹂と称される政策 を展開するブレア政権の白書﹁職場における公
正 (
明 伊
g o 丹
器包当日付)﹄のなかで︑イギリス労働
法改革の一つとして位置づけられており︑政策
的にも重要な立法であるといえる︒
労働者による内部告発は︑世界的にも重要な 問題として取り扱われている︒イギリスの他に も︑アメリカ︑オーストラリア︑ニュージーラ
ンド︑南アフリカ︑韓国等の世界各国において︑
内部告発者を保護する法律が立法化されてい る︒そのなかにあって︑イギリス公益情報開示 法は︑私企業の労働者を対象とした法律として
る見込みである︒加えて︑公務員を対象とした
﹁内部告発者保護法﹂が︑民主党によって二
OO
二年の通常国会に上程され︑現在継続審議さ れている︒また︑労働者による内部告発に関す る裁判例も散見される︒このような状況のもと で︑イギリスの動向は︑日本においても︑内部 告発の法規制のあり方を考えるうえで参考にな る点が多いと思われる︒そこで︑本稿では︑重
要な立法である公益情報開示法に焦点をあてて︑
同法の内容を紹介し︑若干の考察を試みること
に し
た い
︒
NO.1545‑2003.2.10
特築/公益通報者保護制度の霊童謡と課題 r‑叩‑‑‑1
!.幽幽 1
1‑i
公益情報開示法制定の背景
イギリスで公益情報開示法が立法化された理 由としては︑次の点を指摘することができるで
あ ろ
う ︒
第一に︑労働者による内部告発によって︑事 前に事故等を回避できたと考えられる事件が数 多く発生したという事情が挙げられる︒たとえ ば︑一九八八年に発生したクラファム鉄道列車
正面衝突事故では︑一一一五人が死亡︑五
O
O
人近
くが負傷した︒事故の︑主要な原田は︑事故発生
前に線路を点検した労働者が︑事故の危険性を 認識したにもかかわらず︑報告による不利益を
恐れてそれを放置したためであった︒他にも︑
一九九一年の
BCCI銀行事件︑一九九三年の
パ
lミンガム王立病院ガン誤診事件︑一九九四
年のライム湾カヌ!事故などにおいて︑労働者
による内部告発が封じられていたことが判明し
て い
る ︒
第二に︑第一の点と関係するが︑内部告発者
に対する文化的な偏見が強いという事情があげ
られる︒使用者は︑内部告発者に対して︑内部
告発を理由に懲戒もしくは解一躍する傾向にある︒
また︑開僚の労働者は︑内部告発者をトラブル・
メーカーとみなして排除する傾向にある︒この
ような組織文化のもとでは︑労働者が企業の不
正行為を情報開示することは困難であるといわ ざるをえない︒
第三に︑公議情報開示法制定以前の法律が不
十分であるという事情があげられる︒たとえば︑
雇 用 保 護 法 ( 関 自 立
♀ 自
g
門 司
8 8 a s
( 8 5 0
‑ 広三吉凶)﹀
3
3
吋∞)は︑職場における健
康・安全に関する情報開示を理由とした解雇を
不公正解雇とし︑労働者を不利益に取り扱うこ
とは許されないと規定している︒しかし︑その
保護対象は︑労働環境における健康・安全に関
する情報開示のみに限定されており︑また︑労
働者が企業の外部へ情報を開示した場合には適
用されない︒また︑国家秘密法
( C 由
巳 即 日
ω0 23
﹀2
33 )
は︑公務員が犯罪および不正につい
て情報開示できると定めているが︑犯罪および
不正以外の情報開示は保護されない︒このよう
に︑公益情報開示法制定以前の法律は︑内部告
発者に対して十分な保護を与えていなかった︒
第四に︑コモン・ロ!の法理が不明確である
という事情があげられる︒同法制定以前におい ては︑労働者による情報開示は︑コモン・ロ
i上の処理に委ねられており︑主に︑労働者が守
抑制義務(旨々え
0 4 8 E
‑ S の
O)
に違反しているか
どうかが争われた︒そこでは︑複数の事情を考
慮して判断されるために︑いかなる場合に情報
開示が許されるかという点は︑必ずしも明らか
で は
な か
っ た
︒
公益情報開示法は︑以上のような状況のなか
で制定されたものである︒問法は︑次の三つの
目的から立法化された︒
その一は︑情報開示者を勇気づけ︑保護する
ことにより︑企業の不正行為の是正を促進し︑
公共の利益を図ることである︒
そのこは︑労働者の意見を取り入れて適切な
対処をとる企業内部の問題解決機構の創設を奨
励することである︒企業内部の問題解決機構に
対する労働者の自発的報告は︑使用者にとって
は︑社会的評価を下げることなく問題の端緒を
発見できる行為であり︑また︑労働者にとって
は︑守秘義務に違反するかどうかを考慮する必
要のない行為であることから︑労使双方にとっ
てメリットのある最も現実的な解決方法といえ
る︒なお︑使用者からの報復を恐れて︑労働者
が企業内部の問題解決機構に対して報告しない
という事態も当然予想される︒そこで︑同法は︑
企業内部の開題解決機構に対する報告を推進す
るとともに︑企業外部に対して清報開示した場
合の救済手段も強化している︒
その三は︑企業文化の変革を推進することで ある︒企業内部において︑情報開示者に対する 偏見が蔓延している状況は前述の通りである︒ 同法は︑このような企業文化を改善するために 制定された︒
以上のような自的で立法化された公益情報開
示法は︑適用対象者を広範に規定しただけでは
なく︑情報開示ル
iルを明確にし︑崎間報開示者
に対する救済手段を強化している︒
r‑和白血勺 I ̲ 聞 置m・j
i四 四 i
i 田 園 田 田 園I
L̲̲̲̲̲I
公益情報開示法の内容
適用対象者
同法は︑不正行為に遭遇すると考えられる
様々な労働者を適用対象者としている(四五
K条 )
︒ 同
法 が
適 用
さ れ
る ﹁
労 働
者 (
君 ︒
片 付
号 )
﹂ と
は ︑
雇用権法第二三
O条 ω 項に定義される﹁労働者﹂
だけでなく︑派遣労働者
( E m g
♀ 芸
) 円
宮 芝
︑ 請
負 労 働 者 ( 百 号
苦
Eg
門
825
の 吉 岡 )
︑
NHS
( Z
住 ︒
口 弘
司 g s
∞
038
リ 一
回 民
保 険
サ ー
ビ ス
) の
も と で 従 事 す る 底 療 関 係 者
︑ 職 業 訓 練 者
( g z g
∞)を含む包括的概念である︒さらに︑
公 務
( の
5 5
凶 作
自 立
♀ g
g 円)に従事する者も︑同
法の適用対象者である(一九一条)︒ただし︑軍
事 関
係 ( m g
丘町︒
5∞)︑国家安全保障関係者
( E E S
包
g 括
ュ ミ
) ︑
磐 田
察 関
係 (
宮 口
g ∞ q
i g )
に
従事する者は適用を除外されている(一九二条︑
一九三条︑二
O
O
条)︒このように︑同法の適用
対象者は︑通常の労働者の概念より広く定義さ
労働法律旬報
特集/公益通報者保護制度の意義と課題
れ て
い る
︒
2保 護
さ れ
る 嶋
田 報
開 示
( ち
﹃ o
g o
g a
a z
o 一
02 3)
公益情報開示法を成立させるうえで最大の開
題は︑情報開示による公益と使用者の利益との
調和をいかに行なうか︑ということである︒こ
の両者の利益の調和を求めた結果︑公益情報開
示法は︑独自の構造と概念をもっ新しい保護法
理を形成した︒すなわち︑同法は︑﹁保護され
る晴報開示
q g B 2 a e
R 吉
田 口
お と
と い
う 概
念
とその要件を規定し︑靖報開示者に﹁保護され
る情報開示﹂をしたことを理由に不利益を受け
ないという権利を創設した︒
保護される情報開示の要件は︑ ω 開示内容が
﹁適格性のある情報開示(宮急宝認舎の
ZE B)
﹂
で あ
る こ
と ︑
ω 情
報 開
示 者
が 四
一 ニ
C
条から四三
H条の規定(情報開示の相手方に関する規定)
にしたがって情報を開示することである(四一二
A条 ) ︒
)
‑( 要件①│適格性のある構報開示
( D C
皇 室
コ
GC50
一
o ω
C
話)
労働者の情報開示が保護されるための第一の
要件は︑開示内容が﹁適格性のある情報開示
( 告 白 zq Em仏 政 己 ︒
∞
C B )﹂に該当することである︒
適格性のある情報開示とは︑労働者が合理的に
信じて︑次の項自の一つ以上に該当する情報を
開示することである(四三
B条川)︒適格性のあ
る情報開示に該当する開示内容は︑次のように 広範に規定されている︒いつの出来事であるか は問われず︑過去に行なわれた行為︑現在進行 中の行為︑未来に起こりうる行為のいずれも︑ 本条の対象行為となる︒ 例
犯 罪 行 為 あらゆる犯罪に関する情報がこの項目に該当
する︒重大な犯罪であるかどうかは関係なく︑
また︑犯罪の発生地がどこであるかも問われな
︑
v例 法 律 義 務 違 反 行 為 法令違反︑契約上の義務違反︑不法行為・名
誉一致損などのコモン・ロ
l上の義務違反等に関
する情報がこの項目に該当する︒
川誤審を発生させる可能性のある行為
偽証︑証拠の不提出といった誤審を発生させ
る可能性のある行為に関する情報がこの項目に
該 当
す る
︒
ω
個人の健康と安全に対する侵害行為 労働者の健康
b
安全を侵害する労働環境に関
する情報に限らず︑公共スペースを利用する者
やレストランの顧客といった個人の健康と安全
を侵害する行為に関する情報もこの項目に該当
す る
︒ 付 環 境 を 破 壊 す る 行 為 廃棄物投棄︑森林伐採といった環境を破壊す
る行為に関する情報がこの項目に該当する︒
判前記の項目に該当する情報の隠蔽行為 前記境目に該当する情報を故意に隠蔽した事
実に関する情報がこの項目に該当する︒
No.1545‑2003.2.1O
特集/公益通報者保護制度の軍主義と課題
労働者は︑項目に該当する不正行為が発生し
ていると合理的に信じていなければならない
(5︒ s σ
2げゲ忌色︒もっとも︑労働者は︑項目
に該当する不正行為が発生していると合理的に
信じていればよく︑その情報が真実であること
を証明する必要はない︒
﹁適格性のある情報開示﹂の要件においては︑
情報の機密性︑守秘義務を免れる正当な事由の
有無︑開示行為の合理性︑労働者の行為態様は
問われない︒また︑労働者は︑情報開示の相手
方がすでに知っている情報を開示してもかまわ
ない(四三
L条
ω )
︒
)
内〆﹄(
要 件
②
l情報開示の相手方
労働者の情報開示が保護されるための第二の
要 件
は ︑
情 報
開 示
者 が
四 一
一 一
C
条から由三日条の
規定(開示の相手方に関する規定)にしたがっ
て情報を開示することである︒本稿では︑記述
の便宜上︑使用者および指定機関等に対する情
報開示を﹁第一段階の情報開示﹂︑企業外部の者
に対する情報開示を﹁第二段階の情報開示﹂と
して記述する︒
(A)
第 一
段 階
の 情
報 開
示
i 使
用 者
お よ
び 指
定 機
関 等
に 対
す る
情 報
開 示
第一段階の情報開示とは︑使用者︑法律助言
者 (
目 ︒
m 己
主 ︿
仲 間
色 ︑
大 臣
( S H P E o ‑ ‑
えの
5 4
司
ロ )
︑ 指
定機関(円高己記︒円)に対する情報の開示である︒
同 使 用 者 等 に 対 す る 情 報 開 示 当該労働者の使用者︑もしくは︑情報開示者 が開示内容に関係すると労働者が合理的に信じ る使用者以外の第三者︑もしくは︑開示内容に
ついて法的責任を負うと労働者が合理的に信じ
る使用者以外の第三者に対して情報を開示する 場合︑情報開示者は︑誠実(宮
a E
忌)に適
格性のある情報開示を行なえば保護される(国
一 二
C
条
ω )
︒この場合︑たとえ情報開示者が不注意に情報 を開示したとしても︑誠実に情報を開示してい れば保護される︒もっとも︑同僚への報復や使 用者への恨みなど︑不当な目的で行なわれた情
報開示は︑誠実とはみなされず︑保護されない︒
使用者が︑使用者以外の第三者に対する開示 手続を定めている場合︑その手続にしたがって 情報を開示した労働者は︑使用者に対して適格 性のある開示をしたものとみなされる(四三
C
条 ω )
︒
川 法
律 助
一 一
一 一
口 者
に 対
す る
情 報
開 示
弁 護
士 等
の 法
律 助
一 一
一 一
口 者
に ア
ド バ
イ ス
を 求
め る
ために行なわれた情報開示は︑適格性のある情 報開示を行なえば保護される(四三
D
条
) ︒
こ の
場合︑使用者に対する情報開示の場合と異なり︑
誠実に情報を開示したか杏かは考慮されない︒ ω
大臣に対する情報開示 使用者が法律にもとづいて大臣から任命され ている団体である場合︑および︑使用者の構成
問団(が同様の形で大臣から任命されている団体で
ある場合︑その団体に所属する労働者の情報開 示は︑大臣に対して誠実に適格性のある情報開 示を行なえば保護される(四三
E
条
) ︒
前 者
の 団
体の例として︑電気・ガス・水道等の公共企業
があり︑後者の団体の例として︑
NHSのもと
で従事する医療関係者︑裁判所︑省庁以外の公
的組織等がある︒ ω
指定機関に対する情報開示
国 務
大 臣
( 円
宮 山
2
山
Bg qa
書記︒)の命令によ
って指定されている者に対して情報を開示する
場合︑労働者は︑誠実に情報を開示することに 加えて︑①不正行為が指定されている者の管轄 する事項であると合理的に信じていること︑②
開示した情報およびそこに含まれる︑王張が実質
的に真実であると合理的に信じていることを立 証しなければならない(四三
F
条 )
︒ 本
条 の
対 象
となる機関は︑一九九九年公益情報開示規則
( 斗
宮 市
Z F
ロ
の 回
口 件
︒ 円
2HUU
己 ︒
∞ ロ
自 (
間 半
22 5E
F 判 的 ︒
ロ ∞
)CE 23 3)
によって指定されている︒
(s)
第二段階の情報開示!企業外部の者に対する
情報開示
第二段階の情報開示とは︑報道機関︑警察︑
指定外の機関等の外部への開示である︒第二段 階の情報開示が保護されるためには︑同情報開 示者の内心︑似情報開示の状況︑料情報開示の
合理性という二一つの項自にしたがって適格性の
ある清報開示を行なわなければならない(四三
G
条
) 0
a. (a)
情報開示者の内心 労働者が誠実
( m o a
しているか
労働者が︑開示した情報およびそのなかに
含まれる︑王張が実質的に真実であると合理
的に信じているか
労働者が私的な利益を図る目的で情報を開
示していないか
川 情 報 開 示 の 状 況 ここでは︑使用者または指定機関に対して情 報開示を前もって行なったか︑もしくは︑使用 者または指定機関に対して情報開示を行なえな
い合理的な理由があるかという点が判断される︒
ただし︑不正行為が特に重大な場合には︑例外
的に︑この事由は判断されない(四一一一
H条 ) ︒
&情報を開示する時点において︑労働者が︑
使用者または指定機関に情報を開示するな らば︑使用者から不利益を受けるであろう と合理的に信じているか 不正行為に関して︑いかなる者も指定機関 として指定されていない場合において︑労
働者が︑使用者に情報を開示するならば︑
不正行為に関する証拠が穏滅されるおそれ があると合理的に信じているか 労働者が︑使用者もしくは指定機関に対し
て︑すでに実質的に同一の情報を開示して
いるか
EP )
に情報を開示
LU
C. ' D
労働法律旬朝日
特集/公益週明日者保護制度の窓重量と課題 C.
判他国報開示の合理性 すべての事情から鑑みて︑労働者が情報開示 を行なったことが合理的であったかどうかが判
断される︒特に次の項目が判断事由となる︒
&情報を開示した相手方がいかなる者か
不正行為が重大であるか
不正行為が継続しているか︑もしくは︑将 来発生する可能性があるか 使用者が第三者に対して負う守秘義務に違 反する形で︑情報開示が行なわれているか 労働者が︑すでに使用者もしくは指定機関
に対して実質的に同一の清報を開示してい
る場合︑使用者もしくは指定機関が︑当該 情報開示を受けて何らかの対処を行なった か︑または︑何らかの対処をとることが合
理的に期待されるか
使用者に情報開示している場合︑労働者が︑
使用者の定める手続に従ったか
hu
c.
d. e.
f
.
同法の特徴は︑使用者もしくは指定機関に対 して前もって情報の開示を行なうこと︑もしく は︑使用者もしくは指定機関に対して情報の開 示を行なえない合理的な理由があることを︑企 業外部者に対して情報開示が保護される条件と している点である︒すなわち︑同法は︑企業外 部者に対して情報を開示する前に︑使用者また は指定機関に対して情報を開示することを求め ている︒このように使用者等に対する情報開示
が重視された理由は︑企業外部者に対して情報 を開示したことによる信用低下等の使用者の不 利益を抑制すべきであるとともに︑企業で内部 的に開題を解決することが望ましいという価値
判断にある︒
3
事 交
済 同法の制定により︑保護される清報開示を理 由に不利益を受けない権利があること︑保護さ れる情報開示を理由とした解雇が当然に不公正 解雇とみなされること︑仮救済制度が利用でき ること︑情報開示をしない旨の合意は無効であ
ることが明確に規定された︒
)
?( 保護される憶報開示を理由に不利益を
受けない権利
労働者は︑保護される情報開示をしたことを 理由に使用者からいかなる不利益も受けない権 利を有する(四七
B
条
ω )
︒不利益の例としては︑
保護される情報開示を理由とした昇格差別や賃 金差別︑懲戒処分︑配転差別︑また︑請負労働
者等に対する契約解除等があげられる︒さらに︑
使用者の不作為による不利益も含まれる︒ただ し︑保護される情報開示を理由とした採用差別 は不利益に該当しない︒そのため︑情報を開示 しようとする労働者は︑将来の雇用に不利益が 生じるかもしれないというリスクを覚悟しなけ
ればならない︒
保護される情報開示を理由に不利益処分を受
けた労働者は︑雇用審判所(開
E1♀B0 25 σ
午
ロ弘)に提訴することができる(四八条
ω )
︒ こ の提訴は︑不利益処分を受けた日または継続す
る不利益行為の最後の日から一一一ヵ月以内になさ
れなければならない(四八条
ω )
︒ただし︑三カ
月以内の提訴が国難な場合は︑雇用審判所が合
理的と考える期間内の提訴が許される︒
一雇用裁判所は︑不利益取扱いの申立てに正当
な理由が認められるときには︑救済命令(白
骨 己
貸 さ
g
吉 野
田 仲
丘 町
宮 内
) ま
た は
補 償
金 の
支 払
い を命じることができる(西九条
ω )
︒ 審
判 所
は ︑
その侵害およびその作為・不作為に婦すること のできる損失に照らし︑事案のすべての事情に 鑑みて︑公正平等と思料する補積金の裁定を行 なうことができる(四九条
ω )
︒考慮できる損失
は︑合理的にみて当該作為・不作為の結果被っ
た経費および合理的にみて得べかりし利益の損 失を含む(四九条
ω ) 0
不利益処分に関する立証責任は使用者にある
( 四
八 条
ω )
︒使用者は︑当該処分が保護される
情報開示と無関係な理由で行なわれたことを立 証しなければならない︒通常︑原告に立証責征 があるが︑同法では︑使用者に立証責任が転換 されている︒その理由は︑使用者だけが処分理
由を知りうる立場にあるからである︒これは︑
保護される情報開示を行なったことが不利益処 分の理由であるという推定が働くことを意味す る ︒
No. 1545.2003.2. 10 特集/公益通報者保議制度の慾務と課題
)
内 J' u( 保護される情報開示を理由とする解雇
一労働者が保護される情報開示を理由に解雇さ
れた場合︑当該解一層は当然に不公正解雇とみな
さ れ る こ
O
一 ニ
A
条)︒当然に不公正解雇になる
という意味は︑審判所が解雇の合理性について 判断しないということである︒解雇理由が複数 考えられる場合は︑保護される情報開示が解雇
の真の理由(官広三宮ご
o g g 向
︒ 叫
仏 百
忌 ∞
器 乙
で あ
れば︑当然に不公正解雇になる︒また︑剰員整 理の際に︑保護される情報開示をしたかどうか
を基準に労働者を選択して解一躍することは︑不
公 正
解 一
履 に
な る
︒
( 3 )
仮 救
済 (
一 互
理 一
ヨ 豆
互 )
保護される情報開示をしたことを理由に解雇 された労働者は︑雇用審判所に仮救済の申立を
行なうことができる(一二八条)︒申立人は︑雇
用の終了日から七日間以内に審判所に対して仮 救済の申立てを行なわなければならない︒雇用 審判所は︑仮救済の審問において︑申立人が保 護される情報開示をしたことを理由に解雇され たと判断される見込みが強いと思料した場合に
は︑再一雇用︑復職もしくは雇用継続命令を出す
ことができる(一二九条)︒その結果︑申立人は︑
賃金およびその他の利益
( 5 5
即 日
0 ぴ
5
宮)を受
けることができる︒このように︑再雇用︑復職
もしくは雇用継続命令を出すことができる点で︑
公益情報開示法上︑仮救済は重要な制度になる
といわれている︒
4
保護される情報開示をしないことを約する
合意の効力
労働者が保護される情報開示をしないことを 約する労使間の合意は︑その目的の限りにおい
て ︑
無 効
と な
る (
四 一
一 一
J
条 )
︒
i問i
ま と め に か え て
最後に︑イギリスの公話情報開示法の特徴を 総括することで︑日本に示唆的な点を抽出する こととしたい︒同法の特徴は︑次の五点に要約
で き
る ︒
第一に︑私企業の労働者が適用対象者とされ た点である︒他国において︑公務員を対象とし た法律は数多く存在するものの︑私企業の労働
者を適用対象者とした法律は少ない︒この点が︑
世界で最も進んだ法律と‑評価されている所以で
あ る
第二に︑使用者に対する情報開示を重視しつ ︒
つ︑企業外部に対する清報開示を保護対象とす
るこ段階の法的枠組みが採用された点である︒
企業内部の問題解決機構の創設を奨励するとい う同法の目的は︑第二段階の情報開示の保護条
件として︑企業外部者に情報を開示する前に︑
まず使用者または指定機関に対して情報開示す ることを求めている点に反映されている︒労働 者による内部告発は︑企業内部の問題解決機構
を機能させるための手段として位置づけられる︒
第三に︑保護される情報開示を理由とした不 利益処分に関する立証責任が使用者側に転換さ れた点である︒労使関において情報の不均鯖が あることを理由に立証責任を使用者側に転換し ているイギリス法の法的枠組みは︑日本の内部 告発の立証責任論を考える際にも参考となると
思 わ
れ る
︒ 第四に︑労働者の救済手段が強化された点で ある︒保護される情報開示を理由として使用者
からいかなる不利益も受けない権利があること︑
保護される情報開示を理由とした解雇が当然に 不公正解雇になることが明確に規定された︒さ らに︑仮救済の導入により︑保護される情報開 示を理由に不利益を受けた労働者は︑早急に救
済を受けることが可能になった︒
第五に︑労働者の使用者に対する守秘義務が 同法の保護を否定する要素とならないことが明
確にされた点である︒同法には︑従来コモン・
ロi
上争点となった﹁労働者が使用者に対して 負う﹂守秘義務に関する規定がなく︑第二段階 の情報開示の要件に︑﹁使用者が第三者に対し て負う﹂守秘義務に違反するか杏かという判断 基準があるのみである︒したがって︑保護され る情報開示に該当する限り︑労働者は︑使用者
から守秘義務違反を関われることはない︒
以上見てきたようなイギリスの公益情報開示
法が︑イギリスと文化の異なる日本において︑
どの程度のインプリケ
lシヨンをもつかは定か
労働法律旬報
特集/公益還報者保護制度の慈畿と課題
ではない︒しかし︑日本の内部告発に関する論 調と詑較すれば︑開法が企業内部の問題解決機 構の創設を奨励している点︑企業外部者に対し て情報開示する前に︑まず使用者または指定機 関に情報開示することを求めている点が示唆的 である︒同法がこのような法的枠組みを採用し た理由は︑情報開示による公援のみを重視した のではなく︑使用者の利益にも配慮したことに もとづく︒日本の内部告発に関する議論は︑も
つばら企業外部者に対する内部告発者の保護の
あり方に集中しがちである︒しかし︑労使関係 が信頼関係にもとづいた継続的契約関係である こと︑企業外部に対する内部告発は長期的視点 からその影響を考慮すべきことからすれば︑使 用者または指定機関に対する情報開示を重視す るイギリスの法的枠組みは︑日本の内部告発法 理を検討するうえでも︑有意義な検討材料を提
供するものと思われる︒
( l
)
明 回 目 門 出 日 間 的 問 円 君 ︒円 F
D口
出∞︒・ブレア政権の労働法
改革の詳細については︑デヴイツド・アンテイル︑
パスカル・ロベール︑小宮文人訳﹁イギリス労働
党政権下における労働者の集間的・偲別的権利の
改革﹂日本労働研究雑誌四九六号(一一
O O 一年 )
六三貰以下参照︒
( 2
)
イギリス以外の諸外国の内部告発に関する邦語
文献としては︑森下忠﹁口笛を吹く人の保護﹂判
例時報一四九九号(一九九四年)二六頁︑同﹁口
笛を 吹く 権利
﹂判 例時 報一 五一 一一 一一
(一 九九 五年 )
一一 一一 員︑ 同﹁ 米国 の内 部告 発者 保護 法﹂
号(一九九五年)二五頁︑同﹁オーストラリアの
内部告発者保護法﹂判例時報一五三九号(一九九
一 一
一
O貰︑藤本土口範・山本順一 一五三六
五年)﹁アメリカ合
衆国における行政機関によるえ正門}岳写当日円保護制
度の現状と問題点出回書館情報大学研究報告﹄
九九七年)五五頁︒六巻
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わが聞においても︑内部告発に関連する法律は
すでに存在する︒原子炉等規制法六六条の
2
は ︑
原子力関係の従業者に主務大患に対する告発権を
認め︑告発を理由とする解雇その他の不利話取扱
いを禁止している︒また︑国家公務員倫理規定(平
成一二年政令第百一口きは︑第一三条四項におい
て︑法または法令に違反する行為があった場合に
その旨を行政機関等に係る主任の大臣等に報告す
るように規定している︒
( 5
)
内部告発に関する最近の裁判例として︑首都高
速道路公団事件・東京地判平九・五・二二労判七
一人口万一七頁︑問控訴事件・東京高判平一一・一
0・二八判時一七一一一号一五五頁︑三和銀行事
件・大阪地判平二一・四・一七労判七九O
ロマ 四四
頁︑群英学園(解雇)事件・前橋地判・平二一・
四・二八労判七九四号六回頁︑日本経済新聞社(記
者
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)
事件・東京地判平一四・三・二五労判八二七号九一頁等がある︒
( 6 )
イギリスの公益情報開示法について警かれた邦
語文献に以下のものがある︒粛藤憲司﹁内部告発
者の保護
ii一九九八年公益利益開示法の制定﹂
ジュリスト一一四八号(一九九九年)三二六頁︑
NO.1545‑2003.2.10
特集/公益還報者保護制度の意義と課題
森下忠﹁イギリスの公益開示法﹂判例時報一六九
六号(二
0 0
0年)呂田頁︑同﹁内部告発者の権
利と保護﹂法令ニュース一二五巻六二五号(二
0 0
三五頁︑井田敦彦﹁イギリスにおける内部O
年 )
告発の保諮問﹂外閣の立法二O九号(二
O O 一年 )
二九頁︑宮本一子﹁内部告発の時代史一一
O
O二
年︑
花倍社)︑白石賢﹁公益通報制度の体系的立法化に
むけての一考察﹂ジュリスト一二三四号(二
0 0
二年)九六頁︑長谷川聡﹁公益間一不法における﹁保
護される開示﹄﹂労働法律旬報一五三九号(二
0 0
二年)四六頁︒
( 7
)
以下の記述では次の文献を参照しているが︑特
に必要とするもの以外は紙帽の都合上︑個々の引
用は省略する︒
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(叩)黙示的義務条項の詳細については︑唐津博﹁イ
ギリス雇用契約における労働者の義務﹂向志社法
学三三巻由号(一九八一年)六
O
入頁以下︑小宮文人﹁イギリス労働法﹄(法学の泉︑二
O O
一年 )六六頁以下参照︒
(日)誌面の関係上本稿では検討しないが︑労働者に
よる情報開示に関するコモン・ロ
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上の法理の詳細については︑拙稿﹁イギリスにおける公益情報
開示法の形成と展開111労働者による内部告発と
企業活動のあり方に関する一考察
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﹂ジュニ
ア・リサーチ・ジャ!ナル九号北海道大学大学院
法学科(二
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二年)六頁以下参照︒(ロ )雇 用権 法第 二一 一一
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条ω項は︑労働者(さOH宮 門 的 )
を次のような契約を締結した個人と定義している︒
すなわち︑労働者とは︑同労働契約︑または︑川
当該個人が︑職業上または仕事上の顧客ではない
相手方当事者に対して︑個人的に労働またはサ
i
ピスを行なう︑(口頭または文書による)明示も
しくは黙示の契約を締結した個人である︒ここに
定義される﹁労働者﹂は︑契約の相手方と顧客関
係にある事業を営む者を除く︑労働またはサービ
ス提供者をすべて包含しうる広い概念である︒
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自由
民仏
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口 開 凶
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沼 運
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(日)前掲・小宮注(叩)一六一頁以下参照︒
(日 )宮 町出 切
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(日)アメリカの一九七八年公務改革法
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︑
公務員のみを対象としている︒もっとも︑州法レ
ベルでは︑三三の州法があり︑そのうち一五州は
民間分野に保護範囲を拡大しているという︒前
掲・森下忠﹁口笛を吹く権利﹂注
( 2
)
二二頁参
照︒また︑オーストラリアの四つの州法は︑誰で
も(
a g 陪
g ε )
告発することを許されているとい
う︒前掲・森下忠﹁オーストラリアの内部告発者
保護法﹂注
( 2
)
一 一
一
O頁
参照
︒
労働法律旬報
特築/公益通報者保護制度の窓義と課題