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W.コングリーヴ(1670−1729)の喜劇 NDC 922

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NDC 922

W.コングリーヴ(1670−1729)の喜劇

西 村 好 弘

(昭和59年4月28日受理)

  Forward(はじめに)………・・…一………・…・・63 王 The Old。Batchelour『老独身者』………64 ff The・Double・Dealer「二枚舌』 …・………・……・………85 皿 Love for Love『愛には愛』・一………・………107 1V The Way of the World『世間の習い』…………__12g VConclusion(結論)…・………・・………148

  Notes ・… 一・・・・… 一… ny・・・・・… 一… 一・・・・・・・・・・… 一・・・・・・…  154

(使用テキスト)

The ComPlete Plapts of William Congreve, edited by Herbert Davis, the University of Chicago Press.

(注)本文引用例,第4幕第2場112−115行目を(IVji.

112−5)で表わす。

Forward(はじめに)

 G,Meredithは言う。喜劇のあり得ないところには文化 は無い。喜劇は或る程度まで,男女の社会的平等から生じ る。婦人が社会的な自由を持たない所には:喜劇はない。婦 人が家庭の苦役者である所では,:喜劇の形式は原始的であ る。婦入が幾分か独立してはいるが,然し,教養を持たな い所では,刺戟的なメロドラマが行われ,婦入についての 感傷的な見解が行われる1と。

 王政が復古した1660年から1685年までの,いわゆる王政 復古期はクロムウェル時代の宗教的東博から解放された時 代であり,G. M. Trevelyanによれば,この時代は無神論 の評判をたてられることは社会的には不利であっても,も はや,生命や自由を危くすることはなかった2ようだ。

 これに加えて,1666年のロンドンの大火はある意味で は,封建社会の遺産を焼失し.過去を精算してしまう役割 を果たしたであろう。

 そしてまた,この時代は経験科学がイングランドに急速 に拡がり,著名な学者たちは,その仕事によって,宮廷を 舞台に,流行と愛顧の花形となるに至った2という。

 このような精神的に解放された時代で,従って,不道徳 な時代でもあったであろうが,産業の活発化,海外貿易の 活発化で,ブルジョワ階級が経済的にも力を持ちはじめる 時代であった。

 K.M. Lynchは宮廷の社会への影響力の大きさとプレシ ゥスの流行について述べている。イギリスの宮廷がこれ以 上の強力な影響をこの時代の作法やこの時代の文学に及 ぼしたことは,かってなかった。フランスの女王,ヘン

リエッタ・マリアは頑強に,お付きの者たちに高度に専門 化した正式の作法の形を課した。そして,この作法は永遠の 影響力を彼女の時代の宮廷文学のみならず,息子のチャー ルズニ世の治世の宮廷文学にも及ぼした。プレシウスの流 行は女王に権威づけられて,特に意味ある影響を宮廷演劇 に及ぼし,社交的流儀(social mode)を芝居に与えた。そ して,この社交的流儀は行儀作法の研さんに楽しみを増大 させ,この社交的流儀から王政復古喜劇の社交的流儀が発 達した3と言う。そして,17世紀の終りの20年間にはプレシ ウス喜劇が,コングリーヴの芝居で最高潮に達した。4  コングリーヴの活躍は,この時代の最:後の部分,即ち,

17世紀末になるが,閉鎖されていた劇場が,王政復古とと もに開かれ,舞台はシェークスピアの時代と異なり,現代 と同じ,カーテン・シアター(エプロン・ステージ)とな り,女優が出現し,女優を見ることも芝居の楽しみとなっ た。そして,EtheregeやWycherleyなどの喜劇作家が出現 し,その後,DrydenやShadwellなどが輩出し,いわゆる 王政復古劇というものが花を咲かせていた。

 1588年の名誉革命を経て1「7世紀末にコングリーヴが活躍 する。時代区分はメァリー=ウィリアム共同統治の時代で はあるが,喜劇の傾向は王政復古喜劇の中に含められて,

B.ジョンソンの気質喜劇,計略喜劇の流れと,フランスの モリエールを代表とする性格喜劇の流れを汲み,「風習喜 劇」を作りあげ,イギリス特有の伝統的喜劇を作りあげ た。描かれた世界は,ロンドンの社交界であり,見せかけ の才能(false wit)と偽の気取り(affectation)など,いわ ゆる外観虚偽,気取り,偽装の世界を楓二二に描く。

 賭け事や雑談に興じ,恋愛三T未を追う人たちは,ことば に磨きがかかり,警句や当意即妙の応答にもたけた都会人 である。N.W. Sawyerは,対話は当然,普通以上に重要で ある。なぜなら,この世界の暇は鋭敏なことばの教化を促 進し,自然さを犠牲にしても,対話はこの鋭敏さを示さな ければならない:]状況であったと。K. M. Lynchはこの時代 を,特殊な時代の絵のような文学的現象としてだけでな

く,文明社会に絶えず起る喜劇的状態の一典型のコピーで ある6と言う。

 作品のテーマは結婚問題であり,必ずお金がからむ。そ

して密通(cuckoldom)がからむ。コングリーヴは『二枚

(2)

舌』のエピローグで, 「よばい(cuckoldom)は市民平民の 昔からの権利」と言うように,下々の人たちだけでなく,

上流階級でも,間男が普及していたようだ。

 コングリーヴのことばの洗練さは誰でも認めるところ だが,L. Kronenbergerはコングリーヴの特徴をことばと 機知のひらめき,ことばと機知の卓越7とする。そして,

D.L.Hirstは機知に富んだ洗練された対話は現代のもっと 悪ずれした(sophisticated)社会から歓迎され,現代のもっ と冷笑的な戦後の世代に一脈通じるところがある8と言う。

 さて,引用文はすべて対訳にしたがったが,量的にも嵩 張るので割愛した。英文は歯切れのよい楽しい響きがあ り,あげ足とりのところは漫才のかけ合いのようにもな る。頭韻(alliteration)の一例をあげてみると,

 O thou Delicious, Damn d, Dear destructive, Wornan!

(ああ,この甘美な,忌わしい,可愛いい,有害な女よ)

(Old Batch.皿. i.76−7)は心に思う女の家の前で,入ろ うか,引き返そうかと迷っているところ。一つおきに,い い意味と,悪い女の修飾語とが並ぶ。

 駄洒落的な滑稽な響きの一例を示すと,

 Sir JesePh. I do scorn a dirty thing. But agad  Ime a   little out of pocket at present.

 SharPer. Pshaw you can t want a hundred Pound. Your   Word is sufficient any where:  Tis but borrowing so

  much Dirt yeu have large Acres and can soon repay

  it一 Mony 1 s but Dir t Sir JosePh−Mere Dirt.

 Sir JosePh. But 1 profess,  tis a Dirt 1 have wash d my   Hands of at present;Ihave lay d it all out upon my

  Back. (Old Batch, E. i. 105−112)

(「汚いことは好かんのですが,残念ながら,今,少々,

手持ちがなくて」 「まさか。たかが100ポンドがないなん て,そんなはずはありますまい。ことば一つで,すぐ手に 入りましように。ほんのゴミぐらいなもの。土地は沢山 あって,いつでも軽く返せる額。金なんて,ゴミみたいな ものよね,ほんのゴミでさあ」 「しかし,只今のところ,

そのゴミをちょいと洗い流しちまいましてな。全部,用心 棒に預けちまいましてな」)

 ゴミを重ねて来て,洗い流してしまう(金を手放すこ と)という表現も面白い。

I The Old Batchelour r老独身者」(1693)

 ダブリン大学在学中にIncogveita『お忍び婦人』という 小説を発表し,作家の道を目ざしていた。1689年に数通の 紹介状をもち,ダブリン大学の10年ほど先輩で劇作家の T.Southemeを頼ってロンドンへ出て来た。サザーンのこ とばによると,コングリーーヴの『老独身者』はすでに書き 上げられていて,この作品をサザーンが目を通したあと,

ドライデンに見せた。ドライデンはこんなにすばらしい処 女作を見たことがないといい,コングリーヴが舞台のこと

も,ロンドンについても,よく知らないための不備があ り,このままにして誤らせておくのは気の毒だと言って,

当世風のカットも入れてドライデン自身が手を加えた1と 述べている。ドライデンはこの作品をドルアリー・レーン の王立劇場の支配人であったダビナントに推選し,この若 いコングリーヴは,自作の上演までの6カ月間,この劇場 に無料で出入りする特別の恩典まで与えられた。1692年も 押しつまって,彼の作品がリハーサルにまで来ていたと

き,有能な俳優が殺害され,次いで,ほんの数週間もたた ぬうちに,中心的:喜劇役者二人が亡くなった。1月上演の 予定が結局3月下旬まで延びたようだ。

 さて,劇場の平土間席には,テンプル法学院の学生や,

めかし屋や,長いかつらをかぶったいなせな連中が陣取.つ た。舞台に近い平土間には,骨を刺すような声をあげ,抜 け目のない物見高い眼差しの批評家たちが陣取った。そし てこの批評家のまわりにはビロードの上衣を着て,.ネクタ

イを垂らしているコーヒーハウスの才入たちが目につい た。バイオリン,リュート,テオルポなどのオーケストラ が劇中の音楽の第一曲,第二曲を演奏し,第三曲又は幕明

け音楽が始まると,観衆は,いよいよ舞台に注目した。

1. あ ら 筋 第一幕(往来にて)

 恋には気まぐれな若者ペインラブとペインラブが捨てた 女たちを精力的に下取りする友人のベルムァが出会う。ペ インラブは二通の手紙を持って急いでいる。(解説場面① 参照)一通は今でもペインラブに思いを寄せ,今ではベル ムァの数多い恋人の一人となっているシルビァからであ る。も.う一通は中年すぎの銀行の頭取フォンドルワイフの 若い女房ラティティアからだ。ラティティアの手紙による と,今晩,船荷の保険のことで船主のところへ行って留守 になるという。やきもち焼きの夫は,女房を一人制しない ため,ピューリタンの牧師スピンテキストに来させると 言っているが,うまくはからい,来させないようにして,召 使いたちの目をくらますためにも,ペインラブが牧師の服 装をして来たら,二人の情事に一段と興味を添えるだろう という誘いの手紙である。情事には貧欲なべルムァは,ペ インラブに代って,牧師の変装をして,美しいラティティ ァにも,ペインラブだと思わせる計略である。シルビァの 方は,年のいった独身者ハートウエルが思いを寄せてい

一64一

(3)

W.コングリーヴ(1670・一一・1729)の喜:劇  西 村

て,彼女が貞節な女だと思い込んでいる。ハートウエルに この恋を追求させて,結婚してから,実はこの女が淫婦で あることが明かされて悩むのを見るのが楽しみだというこ とになる。ペインラブが立ち去ったあと,もう一人の友人 のシャーパーがやって来る。そこでベルムァは頭取の女房 ラティティァを寝取る計画を打ち明けると老独身者のハー トウエルがやって来る。(解説場面②参照)ハートウエルが 立ち去ったあと,船主のサー・ジョセブと隊長ブラッフが 通りすぎる。実は,昨夜,その勲爵士サー.・ジョセブは,

めずらしく一人で歩いていて,数人の強盗におそわれた。

たまたまベルムァが通りかかって,助けてやったが,溢れ に助けられたか確かめもしないで,一目散に逃げたとい う。彼の護衛は軍人の風を装って,強そうに隊長なんて自 称している男だ。ベルムァは,これから情事に向かい,シ

ャーパーは勲爵士のサー・ジョセブに近づいて金めのもの を目ざそうと互いに成功を祈り合う。

第二幕 第一場(昨夜強盗にあった現場にて)

 サー・ジョセブと隊長ブラッフの場。サー・ジョセブは 昨夜,賊におそわれたところと思える現場に来て,このあ たりがとても似ているので気味が悪く,早く隊長ブラッフ が来てくれないかと不安がっている。ベルムァが助けたの は,この男だということを確認して,シャーパーは自分 が助けた本人になりすます。(名場面,その①参照)と(名場 面,その②参照)ついに,シャーパーは救った恩人になり すまし,賊ともみ合ううちに100ポンドの手形をなくした

と言い,その100ポンドを弁償してもらうことになる。

第二場(アラミンタとベリンダの下宿にて)

 いとこ同志のアラミンタとベリンダ,アラミンタはペイ ンラブと,ベリンダはベルムァと,相思相愛の仲である。

ベリンダは,アラミンタが,ペインラブにのぼせて,女の 身だしなみを忘れ,分別をなくしていると非難し,恋の七 つ道具を備えた恋人を冷静に見抜けないといけないと言う と,、アラミンタが,ベリンダは,昨夜,ベルムァの夢を見 て,彼の名を呼び,私をあなたの胸に押しつけ,はげしい キスで窒息しそうだったとやり返して,どっちの方が男に 夢中かわからないと言い合いをしているところへ,ペイン ラブとベルムァの訪問が告げられる。ベルムァはベリンダ に・いつもはぐらかされていることに不満を示す。女たち は,借金取りの方があっさりしているけれど,恋の取り立 て人ほど,しっこく,うるさい者はいないというと,敵た ちは,愛は神であって,男は祈りを神にささげなければな らない。女性は寺院みたいなもので,その寺院を介して男 の献身は神である愛にとどけられる.という。ベルムァがな お,しっこく気持を聞いてほしいとべリンダに迫れば,ベ

リンダはいらだち, 「恋の炎とたわごとで悩まさないで。

慕ってくれるなら,黙って慕って」といって,ベルムァを

つき離す。ベルムァは口説きが言葉から解放されれば行動 へ移せる。恋には,沈黙こそ雄弁だという。アラミンタは 話が深刻になると退屈になるから歌を進ぜようといって唄 う。恋人を手許において女王として君臨したかったら,す べてを与えてはだめ。男はひざまついている聞は拝み,慕 い,死ぬほど思いつめるが,抱擁させたら夢からさめて興 ざめとなる。だって,顔以外は女ってみんな同じものだか

ら,と。

第三幕 第一場(シルビァの下宿の前の通りにて)

 シルビアはペインラブが忘れられない。下女のルーシー は,シルビァを求めて来るハートウエルをしっかりひっか けなさいと進言する。シルビァは,アラミンタがペインラ ブをたぶらかして盗ったと腹を立て,二人を呪い,復讐を 決意する。ルーシーの知恵で,アラミンタからペインラブ 宛てに,偽の手紙を作ることにする。このとき,ハートウ エルの姿が見えるので,シルビァは家に入って,彼をとり こにするため,気持よく彼をむかえるようにと,ルーシー はシルビァに指示する。一方,ペインラブの下男セッター は,ベルムァのために牧師の衣裳を調達し終えて,一人ご とを云っている。ペインラブ側の状況を偵察するために,

ルーシーは近づき,ペインラブとアラミンタの仲がどの程 度の進み具合いかたずねる。すると,もどれないほどの進 み具合いで,無理強いして接吻して,アラミンタを怒らせ,

ペインラブは面目をなくしているところだという。そこで 手紙の中味はあまり怒りすぎたので,アラミンタからやさ しく和解を求める手紙をペインラブに出し,トラブルが生 まれるように仕組むことを思いつく。サー・ジョセブと隊 長ブラッフが登場する。(名場面その③参照)シャーパーに 100ポンドの約束手形を与えたのは,ゆすりだから,取り

もどせと隊長は怒る。ビルボー剣で決着をつけると伝えて 来いと言い,サー・ジョセブも腹が立って来て,隊長がそ ばに居てくれたら,シャーパーに痛い思いをさせられるの にと言っているところへ,シャーパーとベルムァがやって 来る。シャーパーは手形を見せたら,すぐ現金になりまし たと礼を述べると,サー・ジョセブは,強く出て,ペテン だと言う。シャーパーは怒って,サー・ジョセブの顔を平 手でなぐる。おじけづいている隊長に闘えとせまり,隊長 のすねを何回もけとばす。ベルムァは闘う気のない若造を 痛めつけても恥だと言い,そのへんで許してやれとシャー パーを説得して二人は退出する。サー・ジョセブは頼みに していた護衛の隊長が腰抜けなのを知ってがっかりする。

第二場(シルビァの下宿にて)

 歌と仮面舞踏。 (解説場面③参照)

 ついにハートウエルは結婚を決意し,結婚を申し込み,

今晩にも挙式だと言って,牧師を探しに出て行く。シルビ

ァの計略にハートウエルはまんまとかかった。

(4)

第四幕第一場(往来にて)

 頭取のフォンドルワイフは若く美しい女房ラティティァ を残して商用のため家をあけるのが心配なのだ。自分の焼 きもち焼きぶりにも腹を立てながら,ラティティアに姦通 罪はいかに罪深いか,その罪は夫にも及び,社会的責任も 問われることを説く。そんなことを言うなんてひどいと いって彼女は泣く。冗談だといって女房を慰めると,ラテ ィティァは自分の間男が発覚したと恐れていたが,そうで ないのでほっとする。彼は仕事を犠牲にしても,ラティ ティァー人を置き去りに出来ないと言うと,それは信じて

くれない証拠だと言い,結局,予定通り,夫は出かけて行

く。

 一方,ペインラブはアラミンタからの手紙で,アラミン タがペインラブに夢中だと知る。 「あのとき気まずい関係 になりましたが,今になって考えますと,とても力強い情 熱の結果にすぎないように思うのです。恥かしながら,あ の時,私はあまりに自分の本当の気持を示したんではない かと思っています。ここに書きました通り,今,心が乱れ ております。でも,どうしてかわかりませんが,書かない ではいられませんでした。気持を汲んで下ざるお言葉をお 待ちしています。アラミンタより」とある。ペルメル戯場 へ行けばアラミンタが居るはずだ。ペインラブはアラミン

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打ち明けられたら面白くない。それなら,こちらから彼女 を失望させてやるといって立ち去る。

第二場(頭取のフォンドルワイフの家の一室にて)

 ベルムァとラティティァの姦通の場(名場面姦通の場そ の①参照)

第三場(セントジェムズ公園にて)

 アラミンタとベリンダの場。 (解説場面⑤参照)

 二人が話に夢中になっているところへ,サー・ジョセブ と隊長ブラッフが現われたので,彼女たちは知られないよ うに面をつける。彼等はシャーパーにさんざんに面目まる つぶれにあって意気消沈して,気分直しに,頭取から50ポ ンドほど借りて,一夜を酒と女に耽けようと慰め合う。そ のとき,面をつけた二人を売春婦と思い近づいてくる。と ころが,ベィンラブとシャーパーも向うに見えて来る。ア ラミンタはペインラブの方から,失礼な行為の謝罪をさせ たいと思っているから,実に不都合である。仕方なく,面 をとり,追い払おうとする。サー・ジョセブはこのアラ

ミンタを一度フリーラブ夫人のところで会食したときに見 知って,一目惚れした女性であるのにおどろく。しかし,

隊長ブラッフはシャーパーの姿を見て,サー・ジョセブを 引っぱるようにして退場する。シャーパーとペインラブが 加わって四人になるが,ベリンダが気をきかせてシャー パーを連れ出す。ベィンラブは偽の手紙をすっかり信じ込

み,アラミンタの怒りはおさまり,むしろ,心の底から 彼を愛しているものと思い込んでいる。それに対して,ア

ラミンタンは,.

ョ慨したままで,両者の気分は食い違う。

アラミンタンは彼の図々しさにますます腹を立て,二度と 目の前に現われないでほしいと怒る。ベィンラブは首をか しげながら,ポケットから手紙をとり出し,彼女に手渡し て立ち去る。

第四場(フォンドルワイフの家にて)

 ベルムアはラティティアとの色恋のお遊びの第ニラウン ドに入ろうとすると,亭主のフォンドルワイフが予定より 早い帰還。 (名場面,姦通の場その②参照)

第五幕 第一場(往来にて)

 牧師の身なりのべルムァがフォンドルワイフの家から追 出されて出て来て,待ちうけていたセッターに衣裳をとり かえたいと言いつけたところへ,シルビァの家から,ハー トウェルとルーシーが出て来る。セッターは見つかるとい けないので隠れる。ハートウエルはシルビァとの結婚の約 束をとりつけ,早く式を挙げたい。向うに忍び足で歩く司 祭のような人が見える。ルーシーは司祭として法的に認め られている執行官だと思い,仔細を打ち明けて,お金をは ずんでお願いしょうということで,交渉に近づく。ハート ウェルはすぐ挙式だと花嫁(シルビァ)に知らせて,用意 させるためにシルビァの家に走り込む。ルーシーは.木物 の司祭でなく,ベルムァなので驚く。立ち去ろうとする ルーシーを引きとめて,シルビァはハートウェルと結婚し てはいけないという。シルビァにはもっとふさわしい夫を 世話するし,ルーシーにも十分な心づけをすると言って売 下する。ハートウェルは友人で,世間知らずで,みすみす 罠にはまって売春婦みたいな女と結婚させるわけにはいか ない。そこでベルムアを牧師だと誤解し続けてほしい。そ して,ハートウェルとシルビァを結婚させよう。法的には 成立しない結婚である。ちょっとした計画があるので,家

の中で話すといって,また金をにぎらせながらシルビァの 家に入って行く。隠れて立ち聞きしていたセッターは真に うけて,ペインラブとシャーパーが.来ると,ベルムァが,

ハートウェルとシルビァを結婚させてやると約束していた と伝える。シャーパーは愉快なペテンだと笑いハートウェ ルをいじめてやろうと言う。ペインラブは元気がない。手 紙の文面とアラミンタの態度が喰い違っている。シャー パーは,手紙が偽せ物,.シルビァの復讐心からの罠だとい

う。セッターも気づいて,そう云えば,ルーシーは旦那と アラミンタ様との間柄のこと,最も最近では二人はいっ 会ったかと,次はいつ,どこで会うのかきかれた。ピァザ だって言ったが,たしかにペインラブはそこで手紙を受け 取っている。ペインラブは告白と臓悔でアラミンタの心を 射とめることが出来るだろうかと首をうなだれる。そこへ

一66一

(5)

W.コングリーヴ(1670−1729)の喜劇  西 村

ベルムァが出て来る。セッターから一部始終をきいたと言 うと,ベルムァは打ち明けて,二人を結婚させてから,実 はこれはペテンだとシルビァには打ち明けた。彼女は世間 の女と同様がっかりしたが,その代り,他の男を夫に紹 介すると言って納得させたという。そこで,その夫だが,

候補が居ないので,シャーパーとセッターに候補探しを 頼む。とにかく牧師の衣裳を取り替えるといって立ち去 る。そこヘサー・ジョセブと隊長がやってくる。シャー パーは,いいカモが来たと:喜ぶ。シャーパーとセッターが 通りすぎるサー・ジョセブに聞こえるようにしゃべる。(名 場面その⑤参照)セッターはサー・ジョセブにアラミンタ と結婚させてやると誘っておいて,実はシルビァと結婚さ せようと言うのだ。すっかりその気になったサー・ジョセ ブは隊長ブラッフにお前は女には縁がなかろうというと,

どうして,どうして,色々沢山の貴記入からの誘いの手紙 を持っている。サー・ジョセブがこれらの手紙を読んでい る問に,隊長ブラップはセッターと取引きをする。即ち,

セッターを買収して,アラミンタとブラッフが結婚をす る条件約款を署名入りでとりむすぶことにする。そして,

サー・ジョセブには,あんたのためにしておきましたよと 言って,ブラッフはサー・ジョセブを裏切る。シャーパが ハートウェルをむりやりっれて来て,ペインラブが放蕩し て捨てた女のところへ遊びに行こうと言って,その家を指 さす。ハートウェルが結婚して,今は彼の妻となっている シルビァのζとだ。2時間前に結婚したばかり。あの家に は近づくなと怒って,その家に入っていく。そこへ大仕事 をかかえ込んだといってセッターがやって来る。計画は順 調に進んでいるが,隊長ブラッフが裏切りに出て,セッ ターを買収して,花嫁(実はアラミンタ)をこっそりブ ラッフの方へまわし,サー・ジョセブには別の女で一杯く わせてくれと頼まれたという。そこで,こっそりサー・

ジョセブにはこの裏切りを知らせ,裏切られているふうを 装って,実際には,ブラッフの方が騙されているようにし ょうということに意見がまとまったと知らせる。一方,ペ インラブは頭を下げ,アラミンタもその偽の手紙のため だったことで怒りはおさまる。一方ベリンダは,しっこく 言い寄るべルムァが目ざわりだから,結婚してやると承諾 する。夫になったら静かになりそうだからという。ここ で,シャーパーだけがあとから入ることにして,一同シル ビアの下宿にむかう。

第二場(シルビァの下宿にて)

 シャーパーに言われた通りハートウェルがシルビァの下 宿へ来てみると彼女は居ない。下女の言うには,セッター という人と一緒に出て行ったという。やっぱり浮気な売春 女だ。結婚したというのにと言って結婚したことを悔い はじめる。みなが入って来て盛んにからかわれ,ウエイト

ウェルは怒る。そしてペインラブがシルビァの売春相手で なければよかったのだから,このトラブルの張本入はペイ ンラブだとあたり散らす。シャーパーが,ペインラブの名 親となって,サー・ジョセブ,隊長ブラッフの三人でアラ ミンタをめぐって条件条項の書類をセッターが司どって,

とり交す。サー・ジョセブも隊長ブラッフも,セッターを 売収したから,自分には,アラミンタとの結婚が成立する ものと思っている。そしてそれぞれ面をつけた女がアラ ミンタだと思っている。そこで,アラミンタとベリンダが 面をつけ,なお,面をつけたシルビァとルーシー,それ に,サー.・ジョセブと隊長ブラッフが現われる。サー・

ジョセブも隊長も自信満々。お互いに相手が,騙されてい ると思っている。さてブラッフは,これぞアラミンタと 思って,結婚に調印していた女が面をとるとルーシーであ る。サー・ジョセブは,アラミンタだと思う女以外の二人 が面をとると,アラミンタとベリンタである。サー・ジョ セブの結婚相手はシルビァであった。セッターを買収した っもりの二人は騙された。ハートウェルはこれで,女房の シルビァと別れられて大喜び。あんなひどい女(シルビ ァ)と結婚させるのは気の毒と思い,騙し続けただけで,

実はハートウェルとシルビァは,正式には結婚していな かったのだ。ハートウェルも,ひどい結婚をせずにすん で,よかったとべルムァに感謝する。

 ベルムァは最後まで,わが身を拘禁しますと誓うと,ベ リンダは囚人よ,囚人の身であることを心せよと言って手 を差出す。ベルムァも,大きな幸せを墾んでもよろしいで

しょうかとたずねると,アラミンタは,わが友の体験を少 々観察した方がいいと言って,結婚を承諾しない。ベルム ァは,あした,教会での挙式を見に行って,我々二人がは じめるのを見せたら,その気持になるだろうと言う。歌と 踊りで幕。

2.解  説

 ドルァリー・レーン王立劇場で,新進気鋭の詩人の処女 作を見ようと,いつもながらに,物見高い批評家やコー

ヒーハウスにたむろす文人たち,めかしたいなせな男たち

や,長いかつらをつけた夫人同伴の色男たちで席をうめつ

くしている。前評判もよさそうだし,この詩入の才能はど

のようなものか,自分たちの目で確かめてやろうというの

である。幕明け曲が終ると美人女優Bracegirdle 3はすっ

と進み出て,客をかきわけ,エリザベス朝日の妙なエプロ

ンの前まで進み出て,フットライトを浴びて,プmv一グ

を語りはじめた。美しい脚で,ステージの中央へ進み,平

土問のけんか好きな客たちに魔法をかけた。笑みと苦しそ

うな表情と涙とで,罵り合う者や賭博をする者,ふざけ

合う者たちを手玉にとった。恥かしがり屋の若い詩人を気

(6)

持よく歓迎して下さいと訴えているところで,セリフを忘 れたように装って,美しく気を転倒させて,ステージから 退いた。彼女の立っていたすぐ背後のカーテンが上がる

と,二人のいなせな男が通りで出会っていた。4 解説場面①

第1幕下1場1〜14

ベルムァ:お早よう,ペインラブ。早くから御精勤だ  ね。思慮分別のある恋人なら,ベッドじゃ眠らない  し,朝からベッドを離れたりもしないもめだ。

ペインラブ:お早よう,ベルムァ。本当のところ,こ  んな早い外出は珍らしいことなんだ。でも,ごらん  の通り仕事でね。 (二通の手紙を示す)仕事を放つ  たらかしにするわけにいかないからね。

ベルムア:仕事なんか高くらえだ。時間だって大事に  しないと無駄になる。仕事なんか人生の邪魔物,わ  れわれの目的をそらし,進路をゆがめ,はぐらかさ  れるぞ。

ペインラブ:遊びからかい?

ベルムア:それ以外にあるか?

 対話の調子が始つた。ロンドン人が聞き慣れない輝かし い調子であった。観衆は熱狂的にこの作品を歓迎し,劇場 を14日間満員にし続けた。この時代としては異常なロング ランであった。すでに印刷の脚本の面でも,舞台に劣らず 人気があって,この3月が終らないうちに第三版が出てい る。そして『老独身者』は,この劇場のレパrトリーの申 でも最も当り芝居にな.つた。そして,毎年何回も上演され 続けた。4J. Palmerは,この出だしの部分がデビュー宣言 になっているのは偶然ではない5としている。

解説場面①

第1幕  第1場  15−104

ペインラブ:知恵者が言うには……

ベルムァ:知ったかぶりをね。

ペインラブ:知らないことを言うっていうのか。

ベルムア:知恵なんて知ったかぶることよ。信じてる  振りをすること。どっかの哲人が言ってるだろう。

 無知なるを知るってね。だから,仕事なんて怠け者  にまかせろ。知恵なんて間抜けにまかせておけ。連  中には必要なんだ。才気喚発,ウィットこそわが才  能。遊びこそわが仕事よ。主なる時間さま,砂時計  をお振り下さいまし。低俗で卑しい連中には地を這  わせてやれ。土がけずれて6ブイートも深くなつ  て,奴らの墓穴にすればいい。仕事なんかおれの領  分じゃあない。おれなんか,もっと高い天界に活  躍し……

ペインラブ:天界の城に住んでいるんだろう。お前の  世界観の天空にあって。それが領域で,鳥のように  高いところがら餌のおとりを見せると舞おりてき  て。 (話に夢申になって手紙を飛ばす)

ベルムァ:これはこれは,女の手跡はすぐわかる。

 (手紙をつかむ)宛名には誤字があってもシセロよ  りも優雅なものだ。え一と,何だって/親愛なる不  実なペインラブ様。

ペインラブ:待て待て,そっちじゃない。

ベルムァ:誰だいこれは。シルビァ/お前,彼女に感  謝しなきゃいけない。とてもきれいで,お前には  首ったけだ。うっとりして,お前のことをしゃべつ  ていたぞ。

.ペインラブ:直れにだってそうなんだよ。

ベルムァ:ちがうそ,フランク,そりゃ誤解だ。お前.

 のことばかり思っているぞ。

ペインラブ:彼女と楽しんでいるお前の口から聞くと  は面白いな。

ベルムァ:本当にお前のことを思っているんだ。おれ  に面と向かって言ったぞ。夜の女将が覆い隠してい  た秘密事を打ち明けるときの夜明けのように,顔を  赤らめて,お前を思いつめていると告白した。その  無上の喜びを冒漬してあげたがね。

ペインラブ:きじ鳩のように,頭だけは心変わりしな  いでだね? この教訓を世の亭主たちに話してやつ  たら,既婚の女たちはお前を崇拝するぞ。

ベルムァ:きっとそうだろう。夫がいないときには女  房は夫の不在で夫の耐えがたいほどのいとおしさ  で,出来る限り夫に似た恋人を選び,夫に似ていな  いところは,空想で補うだろう。

ベィンラブ:恋人の方は単なる隠れ家にされて侮辱に  ならないか。だって彼にすがるのは夫を求めてなん  だから。

ベルムァ:その通り。欺く相手は恋人であって,夫で  はない。彼女が恋人をマネキン人形になって喜ばせ  るのは,夫への熱情の証拠だから。

ベィンラブ:そんな情熱が通用するのは邪教の国だけ  だぞ。プロテスタントの夫族からは偶像崇拝はけし  からんと言われるぞ。しかし,お前のお説教の通り,

 頭取のフォンドルワイフになってくれるなら,この  手紙は用無しになるんだがね。

ベルムァ:あの美人の女房のいる老いぼれの銀行員か

 い。

ペインラブ:そうだ。

ベルムア:え一と,ラティティアって言ったな。豪華  版のご馳走じゃないか。君は実に頼りになる友人だ

一68一

(7)

W.コングリーヴU670−1729)の喜劇  西 村  よ,フランク。

ペインラブ:今日がはじめてじゃないだろう? 君が  狩の出来るように,絶えず獲物を放しているんだ。

 我々はたしかに交代して来た。愛の気分がなくなる  と,君に受けてもらっている。しかし,よく読んで  みろ。今晩の約束だ。フォンドルワイフは町を出  て,失いかけている投機の返済のことで,ある船主  に会うんだ。読んでみろ。

ベルムァ:(読む)え一と,なるほど。「今晩,町を  出るので,私を一人にしないようにスピンテキスト  牧師を呼びにやると申していますが,私が手をまわ  して,牧師が家に来ないようにしておきます。」

 うわあ,スピンテキストか。狂信的な片目の牧師

 か。

ペインラブ:そうだ。

ベルムァ:(読む)フンフン,なるほど。 「もしあな  た様が召使いの目をごまかすために彼の服装で変装  できますれば,あなた様のお説教は一毅と心地よき  ものとなりましよう」こりやいい。力いっぱい変  湿するとも。変装すると情事に風味を添え,これで  はまるで盗みだ。我々下卑なる者には,罪は深けれ  ば深いほど,それだけ楽しい。フランク,君のお人  よしにはおどろくな。

ペインラブ:愛も強制されるといやになるんだ。ワイ  ンと同じだ。この仕事はおれの求めているものじゃ  ない。ラティティァが集りの中で一番美しい女だっ  た。そんなところに一,二度居あわせて,彼女に御  執心になったんだ。彼女はどうもおれのことを額面  通りに受けとっているようなんだ。君でも誰れか他  の者でも居たら,それでもよかったんだよ。

ベルムァ:このおれでも,うまくいきますように。

ペインラブ:心配するな。間男の気分が女に宿れば,

 終るまで,悪魔だって静められるもんか。

 23歳のコングリーヴが,はっらっと,すがすがしく,舞 台から,芝居っ気たっぷりに気取り,機知あふれるいなせ な若者で,ういういしくデビューしたのは処女作にふさわ しい出発であった。 「仕事なんて邪魔物,遊びこそわが人 生」という放蕩者のベルムァは「鷹」となり,友人のペイ

ンラブは鷹匠である。ベルムアは鷹匠の持つご馳走を嗅 ぎつけ待ちうける。ペインラブは「つむじ曲りの欲望で ちょっと噛むが,消化しようとしない」 (IV. i.172−3)強 制される押しかけの愛を嫌うのだ。彼の捕えた獲物をベル ムァが引き受ける。ペインラブは表面的には女性を捨て るが。尊敬崇拝の対象として女性をあがめ,プラトニッ クに崇拝出来る女性の心を得ようと追い求め,追う行為に

しか興味がない。ベルムァは「遊び以外に何の意味があ る?」 「変装してやろう。そうすれば愛の行為もまた一段 と味わい深くなる」といって,ソクラテスを嘲笑するとこ ろはうわべの出来事とその本質を見極める能力が知恵だと するのがソクラテス学派であるのに対して,ベルムナはそ のような知恵は遊びに夢中のときだけだとする快楽主義者 で,発想が懐疑主義的である。「遊びこそ,わが仕事」と 考えて,ベルムァはペインラブとは対照的に,女性を恥か しめ,冒漬しながら,愛に奉仕する。心より肉体を得よう とする。ここには,本物と偽物,本質とうわべのテーマ があり,ベルムァは本質などには興味はなく,偽装が彼 の生活信条であり,偽装の変化が豊かさである。ペインラ ブはベルムァの人生観には飽き足らず,本人には何なの かわからぬまま本質めいたものを追い求める。ほどよい社 交的偽装をこらすが,しかし,その本質が認識出来ていな いため,一種頭の中で練りあげた理想を追い求め,追い 求める女の内側の劣等なるものが覗けて見えると減滅して しまう。シルビァも,ラティティァも,求める男はペイン ラブだが,代理のベルムァによって,彼女たちの心と肉体 は分断され,肉体的欲求の強い女たち故, 「肉体の喜びが 女に宿れば,終りまで悪魔だって静められない」ことにな る。J. Palmerは,この出だしを指して,これが故意でな いとしても,ベルムァとペインラブがエサリッジの最:後の 喜劇(The Man of Mode『当世風の男』)から,後継者の

:喜劇へ歩き出したかのように,すぐ話し合うことになるの は,けっして偶然ではないだろう6という。

解説場面②

第1幕第1場176−305

シャーパー:心底から,全女性を嫌っていると誓うお  方が来たぞ。 (ハートウェル登場)

ベルムア:点れ?ハートウェルか。そんなばかなこと  はないさ。おい,ジョージ。どこへ行ってくだらな  い真実とやらの講釈を述べたて,医者みたいに連中  の病やら虚弱やらの説教をしていたんだい。君は  ね,天然痘のあとに覗き込む鏡みたいで,女性に無  礼だから嫌われるんだ。どんなすばらしいご婦人  に,いや気を起させ,今朝の顔は自分の顔じゃない  なんてあてつけてさ。

ハートウェル:ぼくに色目を使ったり,しゃれ者なら

 誰れ彼かまわず気を引こうとするようなけばけばし

 い淫婦に,あくどい嘘をついたり,吐き気を催すよ

 うに媚びて,丁度,軽業師が同じ芸当を何回もくり

 返してへつらう,そういう態度を軽蔑などして来ま

 せんでしたよ。だって,それは君たちの最近の常套

 手段だからね。

(8)

ベルムァ:もう少し早く来れば,ペインラブが君を改  宗させて,その件の擁護者になったのに。

ハートウェル:彼はここに居たのか。あの恋のエプリ  ルフール,何の用もないのにいつも走りまわって冒  険を求めて,船出するけどけっして港へもどらな  い。

シャーーパー:いつも悪天候をついて出かけ,風ともみ  合うのが好きで,潮に会い,逆流をものともせずに  進むからだ。

ハートウェル:なぜ彼はアラミンタで錨をおろそない  のか。

ベルムァ:事実,彼女は彼の気持に添うているし,海  に浮ぶ旨みたいで,時には手の届くところに居るか  と思えば,姿を消して,彼に盛んに採しまわらせる  んだQ

シャーパー:あれだけ気まぐれな恋人を抑えておこう  と思わなくちゃいけないな。

ベルムァ:さあ,どうかな。彼ぐらいわがままな男は  いないよ。彼は望むだけの色恋をたしなむが,鼻に  つくような味わいのないものになると立ち去って行

 く。

シャーパー:情が薄くて分別があって,意地が悪い証  拠だよ。

ハートウェル:ペインラブは分別のある間抜けを演じ  ているんだ。

シャーパー:ベルムァ,君は謝意を表して彼の味方に  ならなきゃいかんぞ。彼が骨を折って蒔いたその実  りを,君は喜んで刈り取っているんだから。彼は苦  労して金鉱から掘り出した金貨に,君の印を押して  るようなものだ。

ベルムァ:彼はそう思ってないよ。このおれが鉱山で  骨折っているんだってさ。要するに,一つの狩を共  有しているんだ。お互いに好きな方をね。お膳立て  するのが彼の楽しみ,色事を最後まで終えるのがお  れの楽しみ。

ハートウェル:また放してやるのがぼくの楽しみ。

シャーパー:少し罵しったあとでだろう,ジョージ。

 そいつが君にはぴったりだ。

ハートウェル:お若いの,よく言った。だがそれは違  う。君ぐらいの能力はあるつもりだし,マーキュ  リーのような手足の素早さはないとしても,かなり  俊敏だ。ぼくはね,欲望を強いたりしないで,情欲  の自然の叫びを待ち,誘惑にかられてから,ふしだ  らになっても遅くないと思う。

ベルムア:遅くない?早すぎるって。このように沈着

冷静なお加らはとて棚融来そうにありません1

 ね。

ハートウェル:口やかましい見かけ倒しの若造たちに  は遅すぎるんだろう。愛を企てるけれど,愛にひた  る喜びを味わない。誘惑の追求におおわらわで,誘  われるようにしない。自分で餌づけした釣り針を呑  まないのは分別があるからではなくて,据え膳に飽  きて,美酒一杯で意欲をもり上げようとすれば微弱  な胃がむかつく。あんたたちの愛は勇気みたいなも  ので,はじめのうちは,ことあるごとに示すけれ  ど,しばらくすると無力になり,すっかり武装解除  してしまって,勢いがなくなる。度々抜いた大刀は  すっかりおとなしくなってしまう。

ベルム7:あんたは変んな主義の,年をくった姦淫者  だな。若い者にあんたの年のころと同じ位に悪くな  れって激励しているようなものだ。

ハートウェル:いや,なりたいと願うものになればい  いって言ってるんだ。淫婦買いする人にはそう.させ  たらいい。要するに,ペインラブみたいに女のロに  接吻するのが(・やになったのに,彼女のだき犬に情  熱的にキスをするなんてことはやめた方がいいって  言ってるんだ。

ベルムァ:犬がほのかな香りの風窓で,そこを通る方  がこっちの気持が率直に届きますからね。でも,

 ジョージ,この種のいんぎんに目くじらを立てちゃ  いけない。女なんてこんな行為に弱いんだよ。婦人  との接吻の前座なら誰だってだき犬とキスくらいす  るさ。

シャーパー:ご婦人が轟けりゃ扇子であおいであげ  るのは,寒くなれば暖める役が受けられますから

 ね。

ベルムァ:雨の日には芝居の脚本を読むのなんかどう  です。ご婦人の仲間入りのチャンスです。滑稽な場  面になると中断して,冗談が終るまで婦人は笑い続  けますけど,こんなことだって,そのあとに楽しみ  が待っていると思えば我慢しなくちゃ。

ハートウェル:要するに,君たちは女の尻に敷かれ  て,衣装,踊り,歌,ため息,哀れっぽい声,詩  作,お世辞,嘘,作り笑い,へつらい,恋の骨折を  覚悟してどんな苦痛にも耐えているって言っている  んだよ。

ベルムァ:おお,でくの棒が。恋の骨折りだとよ/

ハートウェル:そう,そんな足手まといなことをして  まで求愛するなんて,借金で質に入っている不動産  をねらうようなもの。払い終るころには,何ら利益  を生まないのは,丁度,額に汗してその土地を耕  し,肥料をたっぷり与えないと何も出来ないのと同

一70一

(9)

W.コングリーヴ(1670−1729、の喜劇 .西 村

 じだ。

ベルムァ:じゃあ,あんたの色恋はどうするんだね。

シャーパー:へっ。奴は女ぎらいよ。

ハートウェル:薬もね(一性行為もね)。でも健康の  ためには愛好するけど。

ベルムァ:じゃあジョージ。さっぱりしたがったら,

 いつでも来なよ。

シャーパー:体調を考慮に入れて,そんな理由を用意  するんだ。

ハートウェル:どういう意味だ。

シャーパー:姦淫行為が浄化なら(君の言うよう  に),結婚は下剤をかけるようなものだ(=性交渉  をすることだ)。

ベルムア:どうだジョージ。胃腸の方はすっきりした

 か。

ハートウェル:ああ,きっと北微南の方向に(おなら  が)出るだろうよ。ぼくはね,もっと大きな獲物が  得られると思っているんだ。要するに,いくつも窺  に餌をつけてあるから自分の方からかかると思って  いる。

ベルムァ・・あんたなんか,誰れもひっかけてくれるも  んか。ビリングゲート(魚市場)へ出せるように子  どもを繁殖させるかき売り女でも居なければね。あ  んたの才能では上玉にはあたらないね。

ハートウェル:ぼくの才能は真実を語る才なんだ。そ  のために,上流の人たちに好かれるなんて思ってい  ない。むしろ,町の名家の憎しみすら買っている位

 だ。

 題の老独身者とはハートウェルのことである。ベィンラ ブは恋のエプリルフール,冒険を求めてよく船出するが,

けっして港へはもどって来ない。理想の女性像をアラミン タの中に見出しアラミンタを追うが,アラミンタはペイン ラブをつなぎとめておくために,けっして捕まらないよう にして,彼に追いかけさせる。彼は言う。 「満腹がいや なんだ。男に追っかけの楽しみを与えてくれるような女は いない。狩は妨げられ,簡略化され,追いたいと思ってい るのに,こっちがその獲物につまついちゃう。猟犬の口に くわえられてうさぎを走らせるなんて不粋なことだ。こ れでは狩人に興を失わせる。追いかけて捕えたいのに,獲 物に待ち伏せされたのではつまらない」(皿.i.174−180)

と。恋の苦労をお膳立ての楽しみとしてたしなみ,後半の

.恋の収穫を恋の達成の喜びとしてベルムァに譲ってしま う。ハートウェルは世間の女性は色目を使い,伊達男には 気を引こうとする軽薄な淫婦だと非難し,世間の男たちは 嘘でくるんだ媚びへつらいのくり返しを常套手毅としてい

ると非難し,気むずかしく振舞iい,女嫌いを装っている。

彼は虚飾,うわべ,嘘を嫌い素直を好む。やたらと女性に 無礼を言い,欠点を写す鏡となって嫌われる。彼の恋愛 観は人為的,作為的に愛するのでなく,自然の叫びを待

ち,誘惑するのでなく,誘惑されて行動することにこそ,

愛にひたれる喜びがあると信じている。ほどよい気取りこ そ都会のしゃれた人間像だが,彼には真似る才能がなく,

それを虚偽と決めつけて,状況に沿わない間の抜けた堅物 になって,とかく社交界のからかいの対象となる。ハート ウェルは女性を見つめて,一定の評価を下すというのでな

く,. ナ定した理想を作りあげ,その尺度を現実にあてはめ ようとする。恋を望むくせに女性ぎらいを装うのは,女性 から嫌われる原因が,性格的な欠点にあるにもかかわら ず,真実を語る才能が嫌われる原因だとし,自分に欠点が あるのでなく世間がおかしいのだと結論する。恋を作り育 てるというのでなく恋は骨折りという結論を出す。女とは 薬で健康のためとし,信用の証をお金(1江.ii.37−39)と す.る。当時の堅物の特徴を示して功利主義的であり社会的 体裁の評判を気にして, 「若いものが,おれを嘲けるだろ うな。町の笑いものになり,二日もしたら民謡の中に歌わ れて,悲しいバラードになり, 『オールドミスのなぐさ め』や『独身者の陥落』のかえ歌にされ,三日目には便所 か,靴屋の店頭のかっこうの飾りものとなって,このおれ の肖像を絞首刑にしてうっぷん晴らしに吊されるだろう な」 (皿.i.78−84)と恐れる。「愛は勇気みたい」, 「抱 き犬にキス」など,雷鳥に似合わぬ洒落は人格の表象に なっていないからピント外れであり,こっけいであり,か らかいのもととなる。女性に好かれる魅力がないのに女嫌 いだといい,代表的な間抜け(fool)となり,ここの最:後 のくだりでは,若造二人のなぶり者にされている。ハート ウェルは清純で素直な女性を理想とする。従って,上流階 級の女性との結婚を一方では望みながら,他方では女房 に夫らしく扱ってもらえそうにないし,間男されて,自分 の女房が名高い売春女になるであろうことを予想する。

「子どもが生まれても,隠れの子だかわからない。目が誰 れかに似ているだの,三元の締ったところはどこやらの候 爵に似ているだのと言われる。子どもを笑わそうとして,

あごのあたりを押したりすると泣き出して,母方の親類の 者たちの方へ走って行く。女房は世間でも評判の男たら

しで,いつも間男をする」〈1.i. 319−328)と。自分の 欠点をよく知っていて,又それ故に突っ張って,自分 以外のものを非として,非難する。上流社交界に不適応 の入物だが,社交界の人たちの虚偽気取りなどを測り,

上流階級に対して一定の批判をさせる人物にもなってい

る。

(10)

解説場面③

第3幕第2場25−143(唄のあと仮面舞踏会)

シルビア:まあすてき。一日中見ていてもあきない

 わ。

ハートウェル:お気に召しましたか,私をごらんにな  られましたか。

シルビア:もしあなたが唄って踊ることが出来るな  ら,あなたを拝見するのも好きになりそうですわ。

ハートウェル:私が唄って踊ったんですよ。声に音楽  を与え,リズムに生命を与えたんです。ごらんなさ  い,シルビァ。ここに唄と踊り,詩と音楽がありま  す。ほら,きこえるでしょう。(財布を出してちり  んちりんと鳴らして)ギニ」貨幣がなんと.美しく韻  をふむことか。自分の響きにあわせて,なんて上手  に踊ることか。そしてこれで何でも買える。さあ,

 これを差し上げよう。あなたの愛を買うため,一切  の財産も。さあ,私のものになってくれますか。

 言っておくれ,サイレン。ああ,この女に見とれて  しまう。さあ天使ちゃん,小悪魔ちゃん,聖女さ  ん,魔女ちゃん,あやふやな状態にしてぼくを苦し  めないで。

シルビァ:そんなに見つめないで。はずかししN,。顔が  あげられませんわ。

ハートウェル:ああ男よ,汝はどこに居る。何になつ  たのか。女性のおもちゃか,こんな年をして。女の  子があやす髭の生えた人形とは。もうろくして。も  うろくが上品な情熱なら,欲望は血気の盛衰のない  ところまで引いてしまって,ミルクのような愛情だ  けが飢えた水路を満たし,子どものやさしさへとわ  れを運ぶ。ただの乳呑み子に。シルビァ,ぼくを愛  してくれるかい。言っておくれ。

シルビァ:あなたを信じるまで口はききません。まだ  あなたを信じられないのです。

ハートウェル:ああ,たまらない/ この清純さがこ  のぼくを悩まし,喜ばせる。嘘をつくのが愛の手管  だから,男はみんなそれで上手なんだ。しかし,こ  のぼくは新参者だから,謎めいた不実の手管では信  用出来まい。だから手管が友を喜ばせ,女性を得る  のだけれど,ぼくの魂にかけて,嘘はつくまい。

シルビア:それではあなたが私を愛していると言え  ば,嘘をついているわけなのね。

ハートウェル:とんでもない。清純で美しい浮気な  人。人に知れたら恥かしいけど,真実にかけて,か  け値なしの真実に誓って,あんたを愛していると明  言します。

シルビァ:でも,愛って優しいもの。不機嫌をなだ  め,怒りの顔を柔和にするって言うでしよ。険しい  気持を和らげ,気むつかしい人を温厚にするはずな  のに,あなたはまるで喧嘩腰で,あなたの情熱は愛  ではなくて怒りみたいな口調ですわ。

ハートウェル:その両方です。あなたが好きになる  と,自分に腹が立つのです。ああ,畜生。こんなに  好きになつちゃって。でも愛し続けるだけだ。もど  しのついた矢みたいに進むのはわけないが,戻りは  むつかしい。

シルビア:あなたが愛して下さっているということ  が,よくわかればよろしいのですけど。しかし,ど  うしたらわかりましようか。

ハートウエル:徴候を見て下.さい。そして女性の諸先  輩に,彼女らの間抜け連中はこんなまだら模様の服  装で区別がつかないかどうかたずねてごらんなさ  い。あなたが居ないときには,ぼくは沈んだ気持で  す。あなたが居るときはロバのように間が抜けて見  えます。寝れば,あなたを思って眠れず,目を醒し  ているときにも,あなたの夢を見,ため息多く,ほ  とんど飲まず,食は細り,孤独を好み,自分に関心  がむかい,(聞くところによると)他の人たちは大迷  惑になります。もしこれが愛でないなら,それは狂  気。許されて然るべきです。これよりもっと確実な  しるしがあります。お金を差しあげよう。

シルビァ:まあ,それは証になりません。だって,殿  方はベッドへ誘うのにどんなみだらな女の人にもお  金を渡すといいますから。まあ,まさかそんなおつ  もりでは。私は娼婦ではありませんから。

ハートウェル:それは残 念だ。(傍白)

シルビァ:もし私との結婚をお望みでしたら,私の  ベッドへ来てはいけません。そのようなかえしがつ  いていたのでは痛いですから。それでも,結婚をお  望みですか。

ハートウェル=(傍白)間抜けがそのような意地の悪

.い質問をするもの。自分を見失わないうちに冷静に  なろう。でも,もし,押せば同意がきっと得られそ  うだ。結婚ですか。いやいや,ぼくはあなたを愛し  たいんです。

シルビァ:でも,私を愛するなら結婚しなくちゃだ  め。父は母を愛したから結婚しましたのよ。

ハートウェル:昔は愛し合えば結婚しましたけど,も  う流行らなくなりましたよ。

シルビァ:そんなのだめ。私は変っていませんから。

 私はあなたを愛します。だからあなたと結婚した

 い。

一72一

(11)

W.コングリーヴ(16裕一1729)の:喜劇  西 村

ハートウェル=かえししを削り落そう。そうすれば痛  くない。ベッドへ入りましよう。

シルビア:だめです。そんなに間抜けじゃないわ。私  は冷静よ。あなた,さあ,あなたのものなんか欲し  くありません。(財布を投げ捨てる)もうあんたな  んか嫌い。もう会いません。私をみだらな女に扱お  うとなさるから。(立ち去ろうとする)

ハートウェル:旧くらえ。行くがいいや。いい厄介払  いだ。でも,とても優しくて美しい。それに正直こ

.そ宝だ。シルビテ,待ちなさい。でも結婚だなん  て。どの男も一生に一度は阿呆になる。しかし,結  婚すると一生阿呆になる。

シルビァ:何かご用で。

ハートウェルル:私のすべてを差し上げよう。わが妻  のように,あらゆる点でぼくと生活させよう。世間  にもそれを信じさせよう。そのようにあなたは考え  てよい。でも,ぼくにはそう思わせないで。

 シルビァ:だめです。あなたの娼婦になるのなら,

 私は死にます。あなたを愛してますから。

ハートウェル:(傍白)がん固で反ばくしたりもしな  いから,清純な女は正直かも知れない。でもそれは  あくまで「多分」だ。そんな卑劣な条件では。じゃ  あ,お別れだ。彼女の姿が見えなくなれば,それで  冷静になれる。

シルビァ:それではさようなら。(振り向いて,泣

 く)

ハートウェル:さあ,お別れのキスをしよう。(接吻  をする)おや,自由の女神より甘いキスだ。あなた  と結婚しよう。でかしたぞ。ぼくの決意はそのキス  で溶けた。もう一度。

シルビァ:でも,いつですか。

ハートウェル:結婚するまでは落ちつかない。冷静に  ならないように考える自由を与えたくない。許しを  一直線に求めて。晩には挙式だ。もう:一一 回キスをし  て。すっかりのぼせるように。(出て行く)

シルビァ:ハッ,ハッ,ハ。あの老いぼれのきつねが

 罠にカ}カ〉つた。

 ペインラブから完全に見捨てられたシルビアは,身の安 定のため(やはり結婚することは女性にとって切実だった ようだ)下女のルーシーに勧められて,ルーシのところへ 毎日通って来るハートウェルを結婚の相手に考える。ハー トウェルは「すぐに年をとる」(皿.i.11)から,結婚しな がら,自由気ままに,今まで通りの生活が続けられるとい うわけ。ルーシーはシルビアに忠告をする。「ハートウェ ルをぐさりとしっかり釣り針にかけなさい。餌が針から取

られないように。……きのうはかなりかじりましたから,

きっと今日は誘いに乗って呑み込みますよ。」(皿.i.10−12),

「気持よく迎えなさい。清純と笑みで顔を作りなさい。偽 装を隠すように装って下さい。そうすれば彼を捕えます」

(M.i.48−50),「わざとらしいテクニックはいけません。

自然らしさを装いなさい」(皿.i.54)と。これらはパート ウェールの理想像に合わせたものだ。

 さて,ここの場面は歌と踊りの幻想的で魅惑的な場では じまる。歌の内容は若い娘と羊飼いの男の子がキスをかわ し,娘は体をせがまれ,それはこらえて下さいと優しく抵 抗するうち,男の子は感極まって果てSしまった。当てが 外れた娘は顔をしかめ,ため息をつき,すねてうめいた。

求愛は失敗に終り,彼女の美しさは報われず,かわいい娘 のことばも耳に入らず,男の子はくじけて無感覚になり,

ただ娘の腕を疲れさせた。

 ハートウェルは,シルビァと恋愛関係になりたいと願っ ているが,結婚のつもりはない。シルビァは腕によりをか けて彼に結婚を決意させようというのである。彼女の手口 はモリエールが『笑うべきプレシウス』において嘲笑した ようなプレシウス社交界の女性の手口である。男性をうち 落:す手口である。「愛してますって,愛していないこと ねiと言い,女らしさ,弱々しさ,清純さ,無邪気さを装 い,愛の信奉者となってプラトニックになり,.泣きで決め

ていく。

 ハートウェルは求愛の場で肉体的老化に気づく。お前は 男か。女のおもちゃ。髭の生えた人形。これまで島傍して 来た上品な情熱とは,欲望のかけらもないもの。清純 無邪気,優しさ,正直(innocence, ignorance, tendemess honesty).を女性に要求するのは女性の人格を無視してい

る。

 ハートウェルは「真実」でシルビアの愛を獲得したいと 考えるが,気取りは不実であり,手管は偽りだと考える。

しかし,真実にかけて誓っても状況は進展しない。誠意の 証はお金となる。これでは娼婦の扱いで女性への侮辱。

ハートウェルは清純とは裏腹な面がありはしないかという 不安があって,「天使ちゃん,小悪魔さん,聖女さん,美 しい移り気屋さん」とシルビアを疑いながらも,あって欲 しいと思うように見ること,即ち,彼女の偽の清純さを信 じたがる傾向とによって,そそのかされて行く。 「頑固で 反駁しないから,清純な女は正直だ」という公式で,自分 の思い通り願い通りになるだろうという結論を導き出す。

結婚抜きに恋愛が許されないことになると,.「結婚なんて

流行らない」と説得するが,シルビァは保守的な貞淑さを

通し,.彼女の方から身を引くことでハートウェルを引きつ

け,接吻で結婚を決意させてしまう。ハートウェルはどん

なに抗しても女性に引かれ,自己嫌悪に陥りながらも,や

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