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在室者の調整行動を利用した 省エネ空調制御システムに関する研究

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(1)

博士論文

在室者の調整行動を利用した 省エネ空調制御システムに関する研究

2014 年(平成 26 年)度

荻野 司

(2)
(3)

在室者の調整行動を利用した省エネ空調制御システムに関する研究

i

目次

第 1 章 序論

1.1

はじめに ... 1-1

1.2

本研究の背景と目的 ... 1-2

1.2.1

京都議定書の進捗状況 ... 1-2

1.2.2

日本の政策:革新的エネルギー・環境戦略 ... 1-4

1.2.3

エネルギー使用動向 ... 1-8

1.2.4 BEMS

の導入状況 ... 1-11

1.2.5

運用による省エネの取組みと快適性... 1-12

1.2.6

本研究の目的 ... 1-14

1.3

本研究に関する既往研究 ... 1-15

1.3.1

空調設備に関する最近の動向... 1-16

1)

個別分散方式の拡大と課題 ... 1-16

2)

パーソナル空調への取り組み ... 1-16

1.3.2

省エネと快適性を両立する空調制御システムに関する既往研究 ... 1-18

1)

オフィスにおける温熱快適条件に関する研究 ... 1-18

2)

省エネと快適性の両立を目指したシステムに関する研究 ... 1-18

1.4

在室者の温熱要望に沿った空調制御の考え方 ... 1-22

1.5

本論文の構成 ... 1-24

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

2.1

はじめに ... 2-1

2.2

従来型

BEMS

の課題と

SaaS

BEMS

の特徴 ... 2-2

2.2.1

従来型

BEMS

の課題と求められる

BEMS ... 2-2

2.2.2 SaaS

BEMS

の特徴 ... 2-4

2.3 SaaS

BEMS

機能説明 ... 2-9

1)

見える化機能 ... 2-9

2)

プリセット機能(グルーピング) ... 2-9

3)

連携機能(人感センサ連携、外部会議室管理システム連携)... 2-9

4)

アラート機能(電力アラート、メール配信) ... 2-9

(4)

在室者の調整行動を利用した省エネ空調制御システムに関する研究

ii

5)

自動運転機能(タイマ、テンプレート) ... 2-10

2.4 SaaS

BEMS

適応事例 ... 2-12

2.4.1

オフィス導入事例 ... 2-12

2.4.2

既存

BEMS

との連携導入事例 ... 2-13

2.5

まとめ ... 2-14

第 3 章 SaaS 型 BEMS を利用した省エネ手法と在室者の調整行動の 検討

3.1

はじめに ... 3-1

3.2 SaaS

BEMS

を利用したアクティブ空調制御方式... 3-2

3.3

省エネテンプレートによるアクティブ空調制御結果 ... 3-4

3.3.1

実証実験方法 ... 3-4

3.3.2

会議室

A、B、C

の室内環境変動状況 ... 3-8

1)

各会議室の特徴 ... 3-8

2)

省エネテンプレートの運用結果 ... 3-14

3)

相対湿度の変動 ... 3-16

3.3.3

在室者の調整行動と温熱環境... 3-17

3.3.4

空調稼働削減結果と手動

ON

操作回数 ... 3-19

3.3.5

アクティブ空調制御方式による消費電力削減結果 ... 3-20

3.4

まとめ ... 3-22

第 4 章 夏期における在室者の調整行動を利用したアクティブ空調 制御システムに関する研究

4.1

はじめに ... 4-1

4.2

在室者の調整行動を利用したアクティブ空調制御方式 ... 4-2

4.3

会議室を対象とした夏期実証実験 ... 4-4

4.3.1

実証実験方法 ... 4-4

4.3.2

温熱環境と空調稼働モード変動結果... 4-6

1)

室内温熱環境の経時変動 ... 4-6

2)

日変動とモード変動 ... 4-8

3)

会議室による違い ... 4-10

(5)

在室者の調整行動を利用した省エネ空調制御システムに関する研究

iii

4)

温熱環境変化への追随性 ... 4-11

4.3.3

アンケート結果 ... 4-12

4.3.4

空調室内機の稼働時間削減結果 ... 4-17

4.3.5

消費電力削減結果 ... 4-18

4.4

執務室を対象とした夏期実証実験 ... 4-20

4.4.1

実証実験方法 ... 4-21

4.4.2

温熱環境と空調稼働モード変動結果... 4-26

1)

室内温熱環境の経時変動 ... 4-26

2)

間欠運転における気流性状 ... 4-27

3)

日変動とモードの切り替え ... 4-28

4)

執務室内の場所による調整行動の差異 ... 4-32

4.4.3

空調室内機の稼働時間削減結果 ... 4-34

4.4.4

消費電力削減結果 ... 4-35

4.5

まとめ ... 4-38

第 5 章 冬期における在室者の調整行動を利用したアクティブ空調 制御システムに関する研究

5.1

はじめに ... 5-1

5.2

会議室を対象とした冬期実証実験 ... 5-2

5.2.1

実証実験方法 ... 5-2

5.2.2

温熱環境と空調稼働モード変動結果... 5-4

1)

各会議室への周囲からの影響 ... 5-4

2)

室内温熱環境の経時変動 ... 5-8

3)

日変動とモード変動 ... 5-11

4)

会議室による違いと温熱環境変化への追随性 ... 5-14

5)

アクティブ空調制御方式の制御特性 ... 5-17

5.2.3

アンケート結果 ... 5-18

5.2.4

空調室内機の稼働時間削減結果 ... 5-23

5.2.5

消費電力削減結果 ... 5-24

5.3

執務室を対象とした冬期実証実験 ... 5-25

5.3.1

実証実験方法 ... 5-26

5.3.2

温熱環境と空調稼働モード変動結果... 5-29

1)

室内温熱環境の経時変動 ... 5-29

(6)

在室者の調整行動を利用した省エネ空調制御システムに関する研究

iv

2)

日変動とモードの切り替え ... 5-31

3)

執務室内の場所による調整行動の差異 ... 5-35

5.3.3

アンケート結果 ... 5-38

1)

日時別の申告結果 ... 5-38

2)

座席位置別の申告結果 ... 5-39

5.3.4

空調室内機の稼働時間削減結果 ... 5-41

5.3.5

消費電力削減結果 ... 5-42

5.4

まとめ ... 5-44

第 6 章 結論

6.1

本論文の総括 ... 6-1

6.2

今後の課題 ... 6-6

・参考文献

・研究業績

・謝辞

・資料

・論文概要(公聴会配布資料)

(7)

第 1 章 序論

第 1 章 序論

1.1

はじめに ... 1-1

1.2

本研究の背景と目的 ... 1-2

1.2.1

京都議定書の進捗状況 ... 1-2

1.2.2

日本の政策:革新的エネルギー・環境戦略 ... 1-4

1.2.3

エネルギー使用動向 ... 1-8

1.2.4 BEMS

の導入状況 ... 1-11

1.2.5

運用による省エネの取組みと快適性 ... 1-12

1.2.6

本研究の目的 ... 1-14

1.3

本研究に関する既往研究 ... 1-15

1.3.1

空調設備に関する最近の動向 ... 1-16

1)

個別分散方式の拡大と課題 ... 1-16

2)

パーソナル空調への取り組み... 1-16

1.3.2

省エネと快適性を両立する空調制御システムに関する既往研究 ... 1-18

1)

オフィスにおける温熱快適条件に関する研究 ... 1-18

2)

省エネと快適性の両立を目指したシステムに関する研究 ... 1-18

1.4

在室者の温熱要望に沿った空調制御の考え方 ... 1-22

1.5

本論文の構成 ... 1-24

(8)

第 1 章 序論

1-1

第1章 序論

1.1

はじめに

地球温暖化の進行とともに、温室効果ガス排出削減への取り組みが、世界規模で検討され ている1)。日本では、2011年

3

月に起きた東日本大震災によって、その夏の関東での電力 供給不足、また、安全性の再確認のためにすべての原子力発電所が停止するという事態にな り、再生可能エネルギーの拡大を国内外で強力に推進していくことや温室効果ガス排出量 の削減に引き続き国を挙げて長期的・計画的に取り組むことなどが盛り込まれた「革新的エ ネルギー・環境戦略」10)が閣議決定された。

国内のエネルギー消費種別では、1990年以降、業務部門の伸びが著しく、その需要の大 部分を照明・空調機器が占めていることから、温室効果ガス排出量の削減に向けて、さらな る省エネ機器の開発や導入支援に加えて、設備機器の効率的な運用が推進されている。特に、

安定した電力供給を維持するためには、電力消費の量的な削減だけでなく、ピーク電力を減 らし電力消費の平準化を図ることも求められているため、設備機器の監視、管理、運用を効 率的に行う

BEMS(Building Energy Management System)の導入が推進されている。

また、ライフスタイル、ワークスタイルを変えることで省エネを図る施策も進められてい る。クールビズやウームビズでは、着衣量の調節によって室温設定の緩和による省エネを図 っている。行き過ぎた室温設定の緩和は、環境衛生の悪化を招くこともあり、在室者に対し て快適性を損ねるだけでなく、業務効率の悪化が生じる可能性もあるが、在室者の業務や属 性に応じた空調制御を行えば、快適性を維持しながら省エネを図ることが可能である。

本研究は、既存設備機器を効率的に運用することで省エネ化を図り、在室者の要望に沿っ て設備機器を運用することで、快適性を損なうことのない室内環境の実現を目指している。

そこで、大規模建物に比して

BEMS

導入が進んでいない中小規模建物でも容易に導入が可 能な

BEMS

を開発し、さらに、空調の効率的な制御によって省エネを図りながら快適性を 維持可能な省エネ空調制御システムを開発した。

本章では、1.1節で本研究の背景と目的について述べ、1.2節で本研究の対象領域である 空調設備と制御に関する現状と既往研究を示す。1.3節では、本研究が提案するアクティブ 空調制御システムの考え方について述べる。1.4節に本論文の構成について示す。

(9)

第 1 章 序論

1-2 1.2

本研究の背景と目的

1.2.1

京都議定書の進捗状況

気候変動に関する国際連合枠組条約(以降、気候変動枠組条約)が

1992

5

月に国連総 会で採択1)され、1994年

3

月に発効された。その概要を図

1.1

に示す2)。その目的は、「大 気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」である。具体的な対策を進めるための会議

体として

COP(Conference Of the Parties)が開催され、1997

12

月の第三回の

COP3

おいて、図

1.2

に示す京都議定書が採択された3)。京都議定書では、1)先進国の温室効果 ガス排出量について、法的な拘束力を各国毎に設定し、2)国際的に協調して約束を達成す る仕組み(京都メカニズム)が導入された。日本の達成状況は、京都議定書基準年から

2011

年までの変化として+3.7%と4)、目標とする-6%に至っておらず、逆に増加している状況 である。国際的な公約を遵守するために、京都メカニズムクレジットを利用することで、図

1.3

に示す資料の通り約束期間の

4

カ年平均(2008年~2011年)で-9.2%を想定している のが現状で5)、一層のエネルギー使用の削減、効率的な使用が求められている。

図 1.1 気候変動枠組みの概要(出典:環境省)

(10)

第 1 章 序論

1-3

図 1.2 京都議定書の要点(出典:環境省)

図 1.3 日本の温室効果ガス排出量の算定結果(出典:環境省)

※1 森林吸収量の目標京都議定書目標達成計画に掲げる基準年総排出量比約 3.8%(4,767 万トン/年)

※2 京都メカニズムクレジット

政府取得 平成 24 年度までの京都メカニズムクレジット取得事業によるクレジットの総契約量

(9,752.8 万トン)を 5 か年で割った値 民間取得 電気事業連合会のクレジット量

(「電気事業における環境行動計画(2009 年度版~2012 年度版)」より)

(11)

第 1 章 序論

1-4

1.2.2

日本の政策:革新的エネルギー・環境戦略

エネルギー使用の合理化に関する法律(以降、省エネ法)がオイルショックを契機として

1979

年に施行させた。工場・事業所、輸送、住宅・建築物、機械工具の

4

分野を規制の対 象としており、工場・事業所については、2010年

4

月から施行された改正省エネ法で、規 制の範囲が大幅拡大をした。改正点の概要は6)、図

1.4

に示す。大きな改定点は、工場・事 業所単位から企業単位の規制になったことである。例えば、コンビニエンスストアなどのフ ランチャイズチェーンも本部が各店舗をとりまとめ、合計エネルギー使用量が原油換算値

1500kl

以上であれば、定期報告書や中長期計画書の提出をする必要がある。同様に、全

国に多数の支店、支社がある場合にも、すべてをとりまとめて企業全体の年間の合計エネル ギー使用量によって規制される。図

1.5

に示すように、従前、対象とならなかった、比較的 小さな事業場、テナントビル内の営業所、また、チェーン化された飲食店などへもエネルギ ー使用量の把握を義務づけた。2012年

3

月には改正案が閣議決定し、電力の需要の平準化 への取り組みが強化され、蓄電池やエネルギー管理システム(BEMS:Building Energy

Management System、HEMS:Home Energy Management System)

、自家発電、蓄熱式

の空調、ガス空調などを活用することで、電力需要ピーク時の系統電力の負荷を低減する取 り組みを行った場合には、その効果を勘案したエネルギー使用量の算定方法見直しができ、

効率的なエネルギー使用を促す取り組みを進めている7)

出展:経済産業省

1.4

省エネ法改正点のポイント(出典:経済産業省)

(12)

第 1 章 序論

1-5

改正前:工場・事業場単位の法体系

(工場・事業場ごとのエネルギー管理)

改正後:事業者単位(企業単位)の法体系

(事業者全体としてのエネルギー管理)

図 1.5 改正省エネ法の概要

(出典:財団法人 省エネルギーセンター)

(13)

第 1 章 序論

1-6

東京都では、温室効果ガス削減を義務化した「東京都環境確保条例(都民の健康と安全 を確保する環境に関する条例)、(以降、確保条例)」が

2000

年より施行されており、2008 年には、温室効果ガスの排出削減の義務と排出量取引制度の導入、罰則規定も設ける改正を 実施し、2010年から大規模事業所に削減義務が課せられている 8)。確保条例の特徴は、テ ナントビルへの適用範囲を具体的に示している点である。毎年度

5

月末時点において、「延

べ床面積

5000m

2以上を使用しているテナント事業者」と「延べ床面積にかかわらず、前年

6

1

日からの

1

年間の電気使用量が

600

kWh

以上の事業者」を特定のテナント事業者 に指定し、温室効果ガス排出削減対策の計画書を提出させ、すべてのテナント事業者に、オ ーナーの削減対策に協力する義務が課せられている(図

1.6)

9)。改正省エネ法では、オー ナーが自己使用していないテナントビルは、ほとんど対象とならない。一方、確保条例では、

延べ床面積が

5000m

2と比較的中規模テナントビルすべてを対象にしているため、より広く 温室効果ガス排出削減を義務付けていると言える。表

1.1

には、温室効果ガスの削減義務率 を示す。2010年から最初の

5

年間に

6%~8%の削減率を課し、 2019

年度には、17%程度 の削減率を課す。削減義務を達成できない場合には、罰則として、削減不足量×1.3倍の削 減義務が課され、削減命令に従わない場合には上限

50

万円の罰金が課せられる。確保条例 は、企業に対して社会的責任を問う条例であると言える。

一方、2011年

3

月に起こった東日本大震災後の電力供給不足、政府による大規模事業者 向け(契約電力

500kW

以上)電力使用削減令の発動、そして、安全性再確認のために原子 力発電所が全停止に至った結果、政府による従来のエネルギー政策の抜本的な見直しを余 儀なくされる事態となった。

2012

9

月に、「革新的エネルギー・環境戦略」が閣議決定さ れ 10)、1)「原発に依存しない社会の一日も早い実現」2)「グリーンエネルギー革命の実 現」3)「エネルギーの安定供給」が戦略として策定された。特に2)の中では、省エネル ギーや再生可能エネルギーの拡大を国内外で強力に推進していくこと、そして、「地球温暖 化対策」の着実な実施に直結する温室効果ガス排出量の削減には、引き続き国を挙げて長期 的・計画的に取り組むことが打ち出されている。具体的な節電目標として、

2010

年(1.1兆

kWh)比で、2030

年までに

1,100

kWh

以上の削減の実現を目指す意欲的な計画である

(表

1.2)

。その際、ピーク電力需要については、スマートメーター、HEMS/BEMS、デ マンドレスポンスなどにより大幅に抑制する指針が示され、住宅・ビルに対して、「規制の 必要性や程度、バランス等を十分に勘案しながら、2020年までに全ての新築住宅・建築物 について、段階的に省エネ基準への適合を義務化する。」、「改正省エネ法の早期成立により、

トップランナー基準等の導入を図る。」、「既存の住宅・建築物については、省エネ改修を促 進する。」という具体的な施策が示され、新築のみならず既存建築物へも省エネルギー化を 図ることが求められている。

(14)

第 1 章 序論

1-7

図 1.6 東京都環境確保条例の概要(出典:東京都環境局)

表 1.1 温室効果ガス削減義務率(出典:東京都環境局)

表 1.2 節電・省エネルギー削減行程イメージ(出典:内閣官房)

(15)

第 1 章 序論

1-8

1.2.3

エネルギー使用動向

消費エネルギーの削減や効率的なエネルギー使用の促進には、エネルギー使用動向をと らえる必要がある。図

1.7

1973

年度から

2012

年度までの部門別エネルギー使用状況を 示す11)。1990年からの動向を見ると、運用部門、家庭部門、産業部門は、ほぼ横ばいであ るのに対して、業務部門の伸びが著しいことがわかる。2012年度では、業務部門が

20%を

占めるに至っている。また、図

1.8

の電力契約規模別で電力消費量割合の資料が示すよう に、業務部門の電力量ベースの割合は、大口需要家(大口)が全体の

5%に対して、小口重

要家(小口)が

14%で、業務部門の中では、小口が 70%以上を占めている(大口とは契約

電力

500kW

以上、小口はそれ以下)。消費エネルギー削減には、業務部門の大口に対して、

前節で述べた国、都の施策をさらに進めるとともに、小口に対しての取り組みを行うことが 急務であると言える。

次に、もう一つの大きな施策である電力負荷平準化を図るには、ピーク電力を削減するこ とが必要である。図

1.9

に東京管区における夏期最大ピーク日の需要カーブ推計を示す。ピ ーク時である

14

時時点の大口・小口産業、大口・小口業務、家庭の各部門の構成を見ると、

ここでも業務用、特に小口業務の電力使用量の多いことがわかる。つまり、ピーク電力に大 きく影響している「小口業務」部門への省エネ施策は、電力使用量の削減のみならずピーク 電力削減にも効果がある。また、14時時点での機器別の需要構成(図

1.12)では、空調機

器が

48%、照明機器が 24%で需要の大部分を占めている。

従って、業務用の小口業務に区分けされるオフィス向け中小規模建物への省エネが必要 で、主たる省エネ対象機器は、照明、空調であることが分かる。

図 1.7 最終エネルギー消費と実質 GDP の推移(出典:資源エネルギー庁)

1.8倍

伸び

(1973 →2012年度)

2.8倍

0.8倍

0 100 200 300 400 500 600

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

1973 75 80 85 90 95 2000 05 10 12

(1018J)

(年度)

産業部門 家庭部門 運輸部門

(兆円、2005年価格)

65.5%

9.2%

16.4%

42.6%

20.0%

23.1%

GDPの伸び 1973-2012年度

2.4倍

業務部門

14.3%

8.9%

2.1倍

2.4倍

全体:1.3倍

(16)

第 1 章 序論

1-9

図 1.8 建物の規模と電力契約規模(出典:資源エネルギー庁)

図 1.9 夏期最大ピーク日の需要カーブ推計(東京電力管内)

(出典:資源エネルギー庁:平成 23 年 5 月)

(17)

第 1 章 序論

1-10

図 1.10 時間帯別電力需要・14 時断面の電力需要構成(東京電力管内)

(出典:資源エネルギー庁:平成 23 年 5 月)

(18)

第 1 章 序論

1-11 1.2.4 BEMS

の導入状況

設備関連の省エネとしては、

1.1.2

でも示したように高効率機器への導入、既存設備機器 の運用による省エネを目的とした

BEMS

が推進されている10)。既存設備を効率的に運用す ることで省エネを図るには、設備機器の監視、管理、運用を効率的に行う

BEMS

の導入が 効果的である。しかし、

BEMS

の導入実態をみると大規模建物向けが中心で、未だ広く普 及するには至っていない。図

1.11

に示すように、中小ビルにおける

BEMS

導入状況は、

2010

年度で全国4%

(

東京都9%

)

であり、中小規模建物に向けた簡易

BEMS

の開発が必要 との提言もされている12)

BEMS

は、異なる用途や様々な設備機器への対応が必要なため、

システム規模が大きくなる傾向がある。そのため投資対効果を考えると、電力削減額として の省エネ効果が小さい中小規模建物での導入が進みにくい。また、民生業務用ビルの約

90

% が竣工

10

年以上なので、既存建築ビルにも容易に導入が可能な

BEMS

が必要であること が分かる。

図 1.11 中小ビルにおける BEMS の導入率

(19)

第 1 章 序論

1-12

1.2.5

運用による省エネの取組みと快適性

一方、図

1.12

は、

2011

3

月に起きた東日本大震災時に省エネで効果があった取組みに ついてのアンケート結果である。設備投資が必要な自家発電、蓄電池、LED照明の導入な ど設備機器の更新による取組みは少ないが、比較的容易に実施できる「照明・空調の運用改 善」、「照明・空調以外の機器の運用改善」の取組みが多い。照明の間引き点灯や夜間の消灯、

空調の設定温度の緩和や夜間の停止、エレベータなどの間引き運転等の設備機器の使用を 減らすことで電力削減を進めていたと考えられる。しかし、図

1.13

に示すように、運用改 善による省エネは、労働環境の悪化や顧客の苦情も発生じていたことから、今後も継続して 実施する会社は減っている。また、空調による運用改善を実施する会社は、照明に比較して 少ないという結果となっている。運用による改善が、無駄の削減を超えて、設備機器の使用 を減らすことだけの電力削減になってしまい、環境衛生の悪化と快適性を損なった省エネ になっていると考えられる。在室者の温熱環境に関する満足度が高いと主観作業能力が高 いと指摘されており 13)、効果的な省エネを進めるためには、省エネと快適性の両立が望ま れている。

図 1.12 効果があった省エネ取り組み内容

回答数:87社、製造業61%、非製造業39%

調査期間:2011年9月26日~10月11日

(出典:財団法人 省エネルギーセンターの 『東日本大震災から1年、2012年の電力事情』資料より)

41 12 60

28 43

3 40

51 36 24

0 1015

3 83

72 100

25 44 74

6 16 32 456

5 36

20 13 24

効果のあった取組み

(20)

第 1 章 序論

1-13

図 1.13 省エネ取組内容と今後

非製造業

(出典:財団法人 省エネルギーセンターの 『東日本大震災から1年、2012年の電力事情』資料より)

(21)

第 1 章 序論

1-14

1.2.6

本研究の目的

前節までに述べたように、一層のエネルギー使用の削減と効率的な使用が求められてい るが、他部門と比較して業務部門の需要は増加しており、特に、二酸化炭素排出量の大きな 割合を占める中小規模ビルでは、需要削減が急務と言える。また、大規模建物に比べて既存 設備機器を効率的に運用するための

BEMS

の導入も進んでいない。運用における省エネの 取り組みでは、運用改善によって過度な省エネによる環境衛生の悪化も指摘されており、在 室者の要望に沿った取り組みが求められている。

そこで、本研究では、

1) 中小規模ビルにも導入が容易であり、既存設備機器を効率的に監視、管理、運用が可 能な新たな

BEMS

の開発を行う。

2) さらに、在室者の要望に沿って設備機器を運用することで、省エネ化を図り快適性を 損なうことのない室内環境を実現する空調制御システムを提案し,その効果や問題 点を明らかにすることを目的とする。

1)については、以下の

3

点を

BEMS

の必要条件とする。

・中小規模建物に簡便に導入ができること

・小規模でも導入できるように、対象規模に応じたシステム規模であること ・建物内の設備変更にも容易に対応できること

そこで、BEMS 機能を対象建物外のサーバにて実現し、ビル内にあるオフィスや、一部 のエリア単位でも、設備機器の監視、管理、制御が簡便にできる

SaaS

BEMS

(Software

as a Service-type Building Energy Management System

:以降、

S-BEMS)の開発を行う。

本システムは、グループウェアや会議室管理システム等のオフィス用

IT

アプリケーショ ンとの連携を図り、様々な業務状態(コンテキスト)を収集、蓄積、分析することで、既存 システムの情報を有効活用し、設備機器に対して自律的な制御を行う仕組みの実現も目指 す。第

2

章にて、具体的に開発した

S-BMES

の特徴と機能を示す。

2)については、S-BEMS を用いて本研究の主題である、空調の無駄な運転を無くすだ けではなく、在室者の温熱環境改善要望(以降、「温熱要望」)に従った空調制御方式につい て検討する。空調制御方式の考え方については

1.4

節で述べるが、業務状態と在室者の温熱

要望を

S-BEMS

で収集、蓄積、分析し、在室者の温熱要望に沿った自律的な空調制御方式

による省エネ空調制御システムを開発する。実際の中規模建物において本システムを導入 し、省エネと快適性について効果を検証する。

なお、本研究では、運用における空調制御方式の検討であり、また、効果検証では、中小 建築建物に多く採用されているビル用マルチパッケージ型空調システム14)を対象とした。

(22)

第 1 章 序論

1-15 1.3

本研究に関する既往研究

中小ビルにおける空調機器は、最大負荷により設計されることが一般的である。そのため、

気候の変動やオフィス内在室者の温冷感などが反映されないので、竣工後の適切な空調運 用が、快適性確保の面で重要となっている。

また、従来の室内温度制御では、専ら人(管理者及び在室者)による空調運用が一般的で あるが、快適性維持と省エネの両立を図るのは難しく、外気温や日射などの影響を避けるた めに、過剰な空調運用となっていることが多い。さらに、日々の業務状態の違い、個人の温 冷感の違いから、空調の発停や温度設定にもばらつきが生じている。

このような課題を解決するために、空調設備の改良や、空調の運用において様々な検討が なされている。以下に、空調の設備に関する最近の動向と、省エネと快適性の両立を目指し た空調制御方式に関して、主にビル用マルチパッケージ型空調システムを用いた先行研究 の概要と課題を整理する。

(23)

第 1 章 序論

1-16

1.3.1

空調設備に関する最近の動向

1) 個別分散方式の拡大と課題

最近の事務所ビルにおける空調は、個別分散方式が拡がっている。個別分散型熱源方式の 採用比率は、小規模の建物ほど高く、事業所、商業建物では、延べ床面積

5,000m

2以下で約

80%を占めており、延べ床面積 50,000m

2以上の建物でも約

20%を占めている。特に、ビ

ル用マルチパッケージ型空調機の出荷台数が

1998

年~2012年までの

15

年間で

2

倍にな っており、その採用が増えている14)

一方、個別分散方式における課題も明らかになってきている。坂本ら 15)によって、広島 市に所在する事務所ビルの

1991

年度から

2004

年度までのエネルギー消費量の変動傾向と その要因について分析している。その結果では、上述した空調方式の採用動向と同じく、事 務所建物はテナント毎の事情に応じた空調運転制御が求められていることから、熱源方式、

空調方式ともに中央方式から個別分散方式に対応する設備へ移行する傾向であることが示 されている。しかし、中央方式から個別分散方式への設備改修を行った建物の多くは、エネ ルギー消費量が増大する傾向が見られたことが示されており、個別空調化によってテナン ト毎に自由に空調使用が可能となったものの、空調管理がテナント側の管理になったこと によって、消し忘れなどの無駄な使用も多くなったことがその原因として指摘されている。

個別空調は、空調電力量の管理が入居者任せであり、建物全体や個々の空調機電力量の把握 が簡便に行えないシステムが多く、個別空調のメリットである個々の業務スタイルに合っ た空調運転と省エネが両立した運用手法が求められている。

2)パーソナル空調への取り組み

一方、従来の空調は室内を均一な環境にすることで、在室者の快適感を損なわないことを 目標としてきた。しかし、在室者の業務、属性、着衣量、温冷感、心理状態などが異なるこ とや、事務所内の場所による温熱環境の違い、ローパーティションによる小区画化などによ り、室内環境を均一化するのでは無く、個人の快適環境を最適にできるパーソナル空調が要 求されている。そこで、パーソナル空調と省エネを両立させるシステムとしてタスク・アン ビエント空調方式が提案されている。図

1.14

に模式図を示す。

タスク・アンビエント空調方式では、局所的な空調(タスク空調)によって、個人への熱 的快適性を維持可能なため、室内全体への空調には、省エネを目指した空調制御(アンビエ ント空調)が実施できるという利点がある。しかし、個人の業務エリアに吹き出し口を設定 するには設備費用がかかるため、投資に見合う効果が見いだせるかが課題であり、レイアウ ト追随性や既存建物への採用が難しいなど、適用には制限がある。

(24)

第 1 章 序論

1-17

図 1.14 タスク・アンビエント空調方式

(25)

第 1 章 序論

1-18

1.3.2

省エネと快適性を両立する空調制御システムに関する既往研究

1)オフィスにおける温熱快適条件に関する研究

空調における省エネ手法として、着衣量の調節による温度設定の緩和がある。大熊ら 16) によれば、夏季室温緩和設定

28℃空調における快適な温熱環境を得る条件について、室内

居住域の空気温度を

28℃とする制御では、背広とネクタイで室温 26

度以下が必要、ノーネ クタイ、半袖シャツ(軽装)の場合には、温熱感が中立になるのは室温

26~27℃、28℃で

熱的不快を感じている人は

3

割程度で、28℃空調で熱的中立を得るためには、着衣量の減 少、MRTや湿度の低く保つ工夫をし、ある程度の気流を感じる環境にする必要がある。と 指摘している。従って、クールビズ実施による省エネ手法では、ノーネクタイ、半袖シャツ

(軽装)よりも軽装化した服装が求められ、空間全体に気流を感じさせるような環境提供が 必要で、加えて、設定温度を室内全体に均一にする必要がある。しかし、一般のオフィスで は、日射、OA機器の内部発熱、在室者の人数など変動する要素が多く、均一な温熱環境を 維持するのは難しい。

また、羽田ら13)は、空調設定温度

28℃とし、クールビズを実施しているオフィスにおい

て、夏季室温緩和設定が知的生産性に与える影響について検討をしている。在室者アンケー ト結果では、7月期および8月期は出勤時、退勤時ともに温熱環境に関する不満足者率が

70%上回っていたという結果が示され、また、温熱環境に関する満足度が高いと、主観作業

能力が高く、疲労度が低いという関係が認められたとしている。さらに、主観作業能力に対 しては、空気温度よりも

SET*が、またそれ以上に温熱環境に関する在室者の満足度が大き

く影響していると指摘しており、作業効率の低下を防ぐためには、気流速度の増加や着衣の 軽装化、環境選択制の提供などにより、在室者の温熱環境に関する満足度の向上を図るべき であると指摘している。

2)省エネと快適性の両立を目指したシステムに関する研究

オフィスにおける温熱快適条件に関する既往研究から、空調における省エネを実現する には、内部・外部環境の影響によって変動する温熱環境に対し、在室者の快適性を損なうこ となくエネルギー消費量を削減できるかが重要であると言える。また、業務効率を落とさな いためにも、在室者の温熱環境に関する満足度を向上させることも必要であると言える。

空調の運用による省エネと快適性維持への取り組みは、

1)必要最低限の空調以外は停止させる運用方式(省エネを主としている)

―>快適性を維持するために未使用エリア、不在時の停止を図る

2)快適性の因子を反映した効率的な空調制御方式(快適性を主としている)

->在室者の温冷感、快適感に沿うことで、過剰な空調運転を無くす。

(26)

第 1 章 序論

1-19

に大別することができる。

一方、1)、2)の取組において、取得した情報の利用形態により、

A)固定設定方式 B)予測制御方式

C)リアルタイム制御方式 D)学習ベース型予測制御方式

4

分類に分けることもできる。以下に二つの取り組みと

4

分類について、関係する既 往研究を示す。

必要最低限の空調以外は停止させる運用方式:

未使用エリアの空調停止について:ビル用マルチパッケージ型空調システムに関して 個別分散空調方式の課題は、1.3.1で述べたように、個々の業務状況に応じて室内機を自 由に発停ができるため、在室者の要望に沿った空調運転が可能である反面、省エネの観点か らは、消し忘れによる無駄な運転が課題となっている。そのため、未使用エリアの空調停止 を自動的に実行することが重要である。しかし、個別分散空調方式の代表的なシステムであ るビル用マルチパッケージ型空調システムは、室外機の負荷率が

30%を下回ると機器効率

が極端に減少するとの報告がある 14)。また、室外機に複数台の室内機が接続されているた め、室内機が一斉に停止しないと室外機が停止せずに非効率な運転となる。一例として、室 内機運転台数と消費電力との関係についての報告17)によれば、1台の稼働で定格の

15.3%

を消費しており

4

台稼働時と同等の電力消費であった。つまり、一斉に室内機を停止する ことが省エネには大きく寄与することが分かる。一方、4台以上では、室内機の稼働台数が 増えるに従って室外機の消費電力は増えていることから、効率は落ちるものの無駄な室内 機を停止させることも必要であることが分かる。

(発停制御方式)分類 A

空調を停止することで省エネを図る取り組みとして、発停制御による間欠運転方式があ る。例えば、

10

分稼働、

5

分停止をサイクリックに運転する。既存空調設備でも適用しやす い簡便な手法で、坊垣ら(1997)18)、宋(2008)19)

,の研究によれば、省エネを図りながら室温一

定による連続運転と同等の快適性が得られる可能性を示唆している。しかし、日々の温熱環 境の変化や在室者の温熱要望を反映させた制御方式の提案には至っていない。

(スケジュール空調方式):分類 A

また、発停制御を使用者の状況に応じて自動的に行う、スケジュール空調方式による省エ ネ提案もある。

藤澤らは(2009)20)、その試みとして学校向けに、授業がない教室の無駄な空調稼働を無く すシステムが提案されている。授業の時間割に対応して空調機の発停を行う制御システム

(27)

第 1 章 序論

1-20

で、人間の判断に頼る運用から自動制御システムを用いた厳密な運用によって、消し忘れの 防止を図る。全都立高校に適応した場合の効果シミュレーションでは、年間の空調エネルギ

ーが、約

30%削減の省エネ効果が得られると試算されている。導入に際しては、授業時間

変更への対応が難しいことや、異なる温熱環境である個々の教室に最適な制御はできない という課題はあるものの、無駄な空調を停止することによる効果が大きいという知見が示 唆されている。

(パッシブセンサー利用による在室者の在不在を利用した空調運転方式)分類 B、C オフィスにおける使用状態は、使用する会社の業種、在室者の属性、職種などの違いによ り、様々であるが、一般的には、予め設定された温度によって画一的に空調運転されている。

V. L. Erickson

らは(2009) 21)、建物内の無駄な空調を削減するために、空調の不必要な部 屋を推定することで適切な空調運転を行うことを提案している。その背景は、現在の空調シ ステムの多くが、ビル内の最大人数を適切な温度で維持する条件で設計されているが、実際 には、冷房、暖房が不必要な部屋が多くあることである。そこで、在不在に関する正確な使 用パターンを予測して空調運転を行うシステムにより、大幅なエネルギー節約を目指して いる。シミュレーション結果によれば、建物内の占有状況を推定し空調システム制御に利用 することで、空調システムのエネルギー使用量の

14%が削減可能であることが示されてい

る。建物内の占有状況推定のためには、ワイヤレスカメラセンサーネットワークを構築し、

このシステムから収集した在室者の移動情報から、在室者の移動パターンをモデル化する。

このモデルから部屋内の状況を推定した情報を加味して空調制御を行う。(分類

B)

さらに、V. L. Ericksonらは(2011) 22)、ワイアレスセンサーネットワークからリアルタイ ムに在室者状態を取得し、その情報にもとづいて空調のデマンド制御を行う仕組みを提案 すると共に、

American Society of Heating, Refrigerating and Air-Conditioning (ASHRAE)

の快適性基準を満たす条件下で、年間

42%のエネルギー削減が達成可能であることを示し

ている。(分類

C)

Y. Agarwal

らは(2010) 23)、米国の建物の多くの空調システムが、固定スケジュールによ

って空調の運転が行われており、在室者情報が利用されていないことに着目した。既存建物 にでも容易に後付けが可能な、在室者の在不在情報を把握できるプレゼンスセンサープラ ットフォームを設計し、10 か所のオフィスに試験導入した。2 週間に亘ってシステムの動 作試験が行われ、在不在情報をシステムに収集、蓄積できることが確認された。シミュレー ションでは、10%~15%の電力削減が可能であることが示されている。(分類

C)

快適性の因子を反映した効率的な空調制御方式:

(内部・外部環境を利用した空調制御)分類 B,D

一方、既存の

BEMS

を利用した従来型の室温制御でなく、外気温や日射の影響を考慮し た空調制御方式も提案されている。

(28)

第 1 章 序論

1-21

例えば、熱的快適性指標である

PMV(Predicated Mean Vote)を利用した室内環境快適

制御方式である(木下:

2006)

24)。室内の環境情報から推定

PMV

を求め、目標とする

PMV

になるように空調制御を行っている。推定

PMV

は、計測した温湿度、外気温、天気予報、

建築情報から演算した放射温度、そして、気流、着衣量、活動量を設定することで算出して いる。このような試みは、特殊なセンサーを設置することなく外部環境を考慮した熱的中立 を目指した空調制御が可能であるが、PMVは、局部不快感(不均一放射、ドラフト、上下 温度分布など)は考慮されていないため、同一空間における執務室内の不均一性への対応が

難しい25),26)。(分類

B)

一方、上田らは(2010)27)、BEMS で取得されている大量なデータから空調システム全体 をモデル化し、省エネと快適性などのトレードオフのある問題を解決する多目的最適化機 能と、環境変化・運用変化に追従するための学習機能を組み込んだ空調制御のフレームワー クを提案している。外部環境状態(日射、外気温)と建物運用状態(ブラインド状態、空調 機稼働状態)を取り入れて、内外部環境変化に自律的に追従する空調制御のフレームワーク 構築を目指している。実証実験では、モデル化されたシステムより推定した

PMV

を最適化 するような空調制御手法によって、温熱快適性向上と省エネルギー性を両立できることが 示されている。(分類

D)

また、A. Aswani らは(2012) 28)、既存の空調制御では、天候の変化や在室者の状態変化

(例えば人数変動)に対して対応が難しいことに着目し、在室者の快適性を維持しながら、

空調を最適に制御することを目的として、在室者による加熱効果、日射、外気温の影響を組 み込んだ学習ベース型予測空調制御を提案している。実際の建物での実測結果では、平均で

1.5MWh/日のエネルギー削減が達成していると示されている。

(但し、全体の総使用エネル

ギーが開示されていない)(分類

D)

両手法ともに、内外部環境変化に対して、学習機能によって自律的に適応可能な空調制御 を試みているが、その追従性は、取得できる情報量や精度と学習期間に依存するとともに、

執務者、在室者の業務の違いによる着衣量、活動量の違いへの対応が課題である。

(在室者の申告による情報に基づいた空調制御方式)分類 B

村上らは(2008)28)、在室者の温熱要望申告をパーソナルコンピュータにて取り入れ、在室 者全体の特性に適応する空調制御方式を考案し、業務形態、性別など様々な特性を有する在 室者に対応する制御ロジックを検討しているが、定量的な省エネ性能の検証や総合的な制 御方式の提案には至っていない。

しかし、このような不均一環境における人の時々刻々変化する温冷感、快適感を計測し、

空調制御に用いることができれば、積極的な省エネを実施しながら、在室者の温熱要望に沿 った空調制御により、快適性の維持が可能であると考えられる。

(29)

第 1 章 序論

1-22

1.4

在室者の温熱要望に沿った空調制御の考え方

本研究では、既設設備を効率的な運用することで、無駄な空調を削減するとともに、人が 居る空間では、在室者の温熱要望に沿って空調を制御することによって、快適性を損なうこ となく省エネを図り、さらに、在室者の温熱環境に関する満足度を向上させることが可能な 新たな省エネ空調制御方式を提案する。

様々な温熱環境における在室者の温熱要望を定量的に把握する方法として、在室者の手 動による空調操作に着目した。図

1.15

に概念図を示す。室内の温熱環境は時々刻々変化し ており、在室者が期待する快適範囲に達していない場合もある。そのような状況における在 室者による空調操作は、温熱環境を適正に調整する行動として捉えることができ、その時点 での室内環境の満足・不満足の境界点と考えることができる。すなわち、人は不快にならな いように温熱環境6要素と生理・行動・心理の環境適応3要素を総合して調整行動を行うと 考えられるが、本空調制御は、この調整行動を空調制御に利用するものである。

本方式について、前節で示した省エネと快適性を維持させる取り組みの

2

分類にもとづ いて本提案の特徴を示す。

再掲:

1)必要最低限の空調以外は停止させる運用方式(省エネを主としている)

―>快適性を維持するために未使用エリア、不在時の停止を図る

2)快適性の因子を反映した効率的な空調制御方式(快適性を主としている)

->在室者の温冷感、快適感に沿うことで、過剰な空調運転を無くす。

1)については、S-BEMS によって業務状態の詳細を把握し、より細かなスケジュール 空調方式によって省エネを図る。(詳細は

2

章で述べる。)

2)については、新たなセンサーを設置すること無く、空調機への手動による

ON/OFF

操作を検出し、在室者の温熱要望を把握することで、その情報から在室者の温熱要望に沿っ た空調制御を目指す。室内の過剰な空調運転を無くすと共に、在室者の快適性を維持した空 調制御を図る。

(30)

第 1 章 序論

1-23

図 1.15 在室者の調整行動の概念図 ゲートウェイ

空調制御装置

空調スイッチ ON/OFF 空調

在室者の温熱要望に沿った制御

サーバ

気温 湿度 気流 表面温 環境側

着衣量 代謝量 在室者側 温熱環境要素

空調状態の計測 手動ON/OFF行動の抽出

生理的 行動的 心理的 環境適応

「押す」「押さない」

操作

制御指令

温湿度 センサ

(31)

第 1 章 序論

1-24 1.5

本論文の構成

本研究は、まず、既存の中小規模建物にも容易に導入ができる

SaaS

BEMS

の開発 を行い、実際のオフィスに導入し、その効果を検証した。具体的には、使用形態や温熱環境 が異なる空間において、個々の業務スケジュールに応じた空調の制御を行い、省エネ効果を 検証した。また、在室者の調整行動についても検討を加えた。次に、在室者の調整行動を利 用したアクティブ空調制御システムを構築し、夏期、冬期の実証実験によって、その有用性 について検討を行った。

本論文は、図

1.16

に示すように序論、結論を含む6章により構成される。以下に各章に おける検討内容の概要を述べる。

第1章「序論」では、研究の背景と目的を述べ、本研究の対象領域である空調設備と制御 に関する既往研究を整理することにより、既知の有用な知見と課題を捉え、本研究の対処す る課題と目的を示した。

第2章「中小規模建物向け

BEMS

の検討と開発」では、既存の

BEMS

についての課題を 挙げ、S-BEMSの構成を示すとともに、その特徴と機能について述べた。

第3章「SaaS型

BEMS

を利用した省エネ手法と在室者の調整行動の検討」では、

S-BEMS

を利用したアクティブ空調制御方式について述べ、省エネ効果と在室者の調整行動につい て検討した。夏期の実証実験結果から、業務内容に応じてスケジュール制御を実施すること で省エネ効果が得られること。温熱環境が異なる会議室の結果からは、在室者の手動

ON

操 作を捉えることで、対象エリアの温熱環境に応じた空調制御の可能性を示した。

第4章「夏期における在室者の調整行動を利用したアクティブ空調制御システムに関す る研究」では、第3章で得られた知見をもとにアクティブ空調制御システムを提案し、夏期 複数の室内機がある執務室と温熱環境が異なる会議室にて、夏期おける実証実験を行い、そ の有効性について検討した。在室者の調整行動を利用した空調制御は、両エリアともに外気 温の変化に追随していることが確認され、個々のエリアの温熱環境に応じた空調制御が実 現できる可能性を示した。また、アンケート結果による考察も行い、在室者には、本システ ムによる空調制御が、快適ではないが不快でない温熱環境として捉えられていることを示 した。一方、制御の調整間隔が

1

日単位のため、急激な温度変化には対応できず、また、休 日への対応も必要であることが明らかとなった。執務室の結果では、場所による温熱環境の 違いに対して、各室内機を個別に制御する方が、在室者の温熱要望に沿った制御となること も分かった。

第5章「冬期における在室者の調整行動を利用したアクティブ空調制御システムに関す る研究」では、冬期において第4章と同様に実証実験と検討を行った。夏期と同様、空調制 御が、両エリアともに外気温の変化に追随していることが確認され、個々のエリアの温熱環 境に応じた空調制御が実現できる可能性を示した。一方、第4章の課題に加えて、在室者の

(32)

第 1 章 序論

1-25

手動

ON

操作と手動

OFF

操作が相互作用している点が確認され、手動

OFF

操作を反映さ せた制御の必要性が明らかになった。

第6章では、結論として、本研究により得られた知見と今後の課題について記し、本シス テムにおいて、在室者の室内機毎の空調

ON/OFF

回数を用い、室内機毎に制御すれば、在 席者の属性、温冷感、快適感、心理状態まで含めた温熱要望に沿った、パーソナル的な空調 の実現が可能であることを示した。

図 1.16 本論文の構成 第3章

SaaS型BEMSを利用した省エネ手法と在室者の調整行動の検討

*SaaS型BEMSを利用したアクティブ空調制御方式の概要

*省エネテンプレートによるアクティブ空調制御実験

*在室者の調整行動と温熱環境に関する考察

第4章

夏期における在室者の調整行動を利用したアクティブ空調制御システムに関する研究

*在室者の調整行動を利用したアクティブ空調制御方式の提案

*会議室、執務室を対象とした実証実験

*内外の温熱環境変化に対する本システムの有効性の検討 第5章

冬期における在室者の調整行動を利用したアクティブ空調制御システムに関する研究

*会議室、執務室を対象とした実証実験

*内外の温熱環境変化に対する本システムの有効性の検討 第2章

中小規模建物向けBEMSの検討と開発

*従来型BEMSの課題とSaaS型BEMSの特徴

*SaaS型BEMS機能説明と導入事例

省エネ検証と在室者の調整行動の検討 省エネ空調制御システムの提案

中小規模建物向けBEMSの開発 第1章 序論

*本研究の背景と目的

*関連する既往研究

*在室者の温熱要望に沿った空調制御の考え方

第6章 結論

*本論文の総括

*今後の課題

アクティブ空調制御システムの構築と夏期、冬期実証実験

(33)

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

2.1

はじめに ... 2-1

2.2

従来型

BEMS

の課題と

SaaS

BEMS

の特徴 ... 2-2

2.2.1

従来型

BEMS

の課題と求められる

BEMS ... 2-2

2.2.2 SaaS

BEMS

の特徴 ... 2-4

2.3 SaaS

BEMS

機能説明 ... 2-9

1)

見える化機能 ... 2-9

2)

プリセット機能(グルーピング)... 2-9

3)

連携機能(人感センサ連携、外部会議室管理システム連携) ... 2-9

4)

アラート機能(電力アラート、メール配信) ... 2-9

5)

自動運転機能(タイマ、テンプレート)... 2-10

2.4 SaaS

BEMS

適応事例 ... 2-12

2.4.1

オフィス導入事例 ... 2-12

2.4.2

既存

BEMS

との連携導入事例 ... 2-13

2.5

まとめ ... 2-14

(34)

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

2-1

第2章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

はじめに

本章では、本研究で開発した

SaaS

BEMS(Software as a Service-type Building

Energy Management System:以降 S-BEMS)について、その特徴と機能について述べ、

参考として、実際の導入事例を示す。まず、

2.2

節で、従来型

BEMS

の課題を述べ、導入が 進んでいない中小規模建物に対応した

S-BEMS

の特徴と構成を述べる。

2.3

節では、S-

BEMS

の各機能について述べ、2.4節で、実際に導入されている

S-BEMS

の事例を

2

例示 す。一つ目は、BEMS が導入されていな小規模な事業所において導入された事例を、二つ 目は、BEMSが導入されている中規模ビルに

S-BEMS

が導入された事例を示す。

(35)

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

2-2

従来型

BEMS

の課題と

SaaS

BEMS

の特徴

従来型

BEMS

の課題と求められる

BEMS

大規模建物(延べ床面積約

10,000m

2以上)では、

BEMS

によって、集中的に空調の設定 温度の管理、タイマによる稼働管理が行われ、設備管理者が、季節変動への対応 (冷暖切 り替え、設定温度切り替え、空調発停時間の切り替え)や、業務状態への対応(休日稼働、

深夜稼働)などを実施している。しかし、その管理・制御範囲が、建物単位、フロア単位で あること、季節設定、月次設定であること、事前に設備管理者によって設定変更する必要が あるので、執務室、会議室、廊下などの室内環境が異なる個々の空間に対応する運用管理は 難しいことなどが課題となっている。また、設備の撤去や追加に際しては、BEMS の設定 変更では対応できず、ソフト変更が必要な場合もある。特に、最新設備の場合には、既存の

BEMS

が対応できず、入れ替えが必要な場合もあり、新設備導入コストに加えて、BEMS の整備コストも課題となっている。

一方、1.2.4で示したように中小ビルにおける

BEMS

導入状況は、

2010

年度で全国4%

(東京都9%)であり、 BEMS

が高価なことや、電力削減額としての省エネ効果が小さい中小

規模建物では、エネルギー削減費用内での償却が難しく経済的に見合わないことで導入が 進みにくい。また、民生業務用ビルの約

90%が竣工 10

年以上なので、既築ビルにも容易に 導入可能な

BEMS

が必要であるが、現状の

BEMS

は、特定の設備機器に対応した、いわゆ るクローズドなシステムが多く、様々な設備機器に対応するには、システム規模が大きくな る傾向がある。そのため、設備機器に対してベンダーフリーで、オープンネットワークに対 応した

BEMS

が求められている。参考文献

12)によれば、最新モニタリング技術の活用

(例えば、ワイヤレスセンサ機器、オープン通信プロトコルの利用等)やクラウドコンピュ ーティングの活用が提言されており、図

2.1

に示すような中小規模建物の「計量・見える化」

向けの簡易

BEMS

が示されている。

以上の現状を踏まえて、求められる

BEMS

の要求仕様を以下にまとめる。

求められる

BEMS

の要求仕様:

1)

対象範囲を面(エリア)から点(個別機器)へ

建物一棟だけでなく、一部のオフィスやエリア単位でも、設備機器の監視・管理・制 御が可能。

2)

可用性の向上(保守性、継続性)

既存設備の監視・管理・制御だけでなく、新規導入設備機器においても、容易に対応 が可能。

3)

設置、設定の簡便化

既存設備機器と容易に接続が可能で、設置に必要な工事が少なく、既存の

BAS,BEMS

(36)

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

2-3

との連携が容易。

4)

設備機器に対してベンダーフリーで、オープンネットワークに対応

5)

リアルタイム性の向上

設備機器に対して同期、非同期処理をリアルタイムで実行が可能。また、設備機器の 状況をリアルタイムで閲覧が可能。

図 2.1 簡易 BEMS の構成概要と運用イメージ

(出典:独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)

(37)

第 2 章 中小規模建物向け BEMS の検討と開発

2-4

SaaS

BEMS

の特徴

2.2.1

で示した

BEMS

要求仕様に基づき、従来の

BEMS

に比べて、空間的、時間的に

細かく監視・管理・制御が可能で、中小ビルにおいても容易に導入可能な

S-BEMS

を開発 した。本システムでは、求められる

BEMS

要求仕様に加えて、多様なコンテキスト情報

(在室者の情報や業務状態情報など)の収集機能を仕様に含めた。以下に、S-BEMSの特 徴を示す。

1)

対象範囲を面(エリア)から点(個別機器)へ

個々の設備機器を監視・管理・制御の最小単位とし、対象建物の使用状況に応じて、

ソフトウェアにより個々の設備機器をグループ化することで、監視・管理・制御の範 囲を柔軟に設定が可能。

2)

可用性の向上(保守性、継続性)、3)設置、設定の簡便化

サーバ部とゲートウェイ部に分割し、サーバ部にて主たる

BEMS

機能、データベー ス機能、設備機器の変更、追加への対応機能を受け持つことで、対象建物へ設置する ゲートウェイ部を最小化した。また、対象建物の設備機器に対応した構成にすること で、必要な機能のみで

BEMS

が構成可能。

BAS、 BEMS

が既に導入されている場合 には、既存

BAS、BEMS

と連携し、必要な機能のみ付加できる。

4)

設備機器に対してベンダーフリーで、オープンネットワークに対応

設備機器との物理的なインターフェースをゲートウェイ部で、論理的な通信プロト コル解析をサーバ部で対応することで、様々な設備機器の接続仕様に対して対応可 能。また、サーバ部とゲートウェイ部や外部システムとの送受信部を、独立したソフ トウェア構成とすることで、他システムとの連携が柔軟にできる。

5)

リアルタイム性の向上

センサ系情報、制御系情報の収集、蓄積、分析機能を独立したソフトウェア構成とし て、リアルタイム性の向上を図った。例えば、BEMS 情報をユーザ用

WEB

での閲 覧機能やセンサ情報の状態に応じて設備機器を自動制御するなどが、リアルタイム に実行が可能。

6)

多様なコンテキスト情報の収集

また、本研究では、他システムから業務状態や在室者の情報を得るために、

WEB-API

機能を用意した。他システム、特にオフィスアプリケーションとの連携機能をサーバ 部にて新たに構築が可能である。また、WEB-APIを用いて、新規アプリケーション を別サーバにて構築することも可能で、コンテキストアウェアアプリケーションの 作成が可能。

2.2

に本研究で開発した

S-BEMS

のシステム図を示す。本システムは、制御対象があ るビル内に設置されるゲートウェイ部とデータセンタに設置されたサーバ部で構成される。

図 1.4  省エネ法改正点のポイント(出典:経済産業省)
図 1.6   東京都環境確保条例の概要(出典:東京都環境局)
図 1.8  建物の規模と電力契約規模(出典:資源エネルギー庁)
図 1.10  時間帯別電力需要・14 時断面の電力需要構成(東京電力管内)
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