氏 名 穴井 千里
主論文審査の要旨
本学位論文は、古地磁気学に新たな消磁法として還元化学消磁を提案し(第1章、第2 章)、それを適用して、陸上石灰岩層の古地磁気層序を世界で初めて確立した(第3章、
第4章)ものである。
古地磁気研究始まって以来、最大の課題は二次磁化を消磁していかに初生磁化を取り出 すかであった。現在、交流消磁、熱消磁が広く行われているが、岩石によってはうまくい かない。そこで、本論文では新たな消磁手法、還元化学消磁を考案した。化学消磁とは、
岩石の形成後に空隙等に沈積した磁性鉱物による二次的な化学残留磁化を、薬品で溶解す ることによって消磁するものであり、例えば、北米大陸の赤色砂岩層などでは有効性が報 告されている。しかし、これまでの化学消磁は塩酸などの強酸を用いるため、実験室での 取り扱いが面倒であった。また、石灰岩では、岩石自身が溶解するため、適用することが できなかった。そこで、強酸の代わりに中性の還元剤を用いることを考案した。考案され た化学消磁は、沈着した3価の鉄イオンが還元剤により2価にとなることで、水溶性にな ることを利用したものである。還元剤としてよく用いられる2種の薬品(アスコルビン酸 とヨウ化カリウム)を比較対照して、前者の方がエッチャントとして有効であることを見 出た。また、アスコルビン酸はエッチャントとして有効であるばかりでなく、下水中には 通常でも多量に含まれていることから、使用後の廃棄も簡便である。さらに毒性もなく、
塩酸のように有毒の気体も発生しないので、無磁場室のような閉鎖空間でも問題なく使え るなど、これまでの化学消磁の不便さを一気に解決するエッチャントである。申請者は適 切なエッチャントの選択・濃度・暴露時間の検討を行うばかりでなく、溶解した Fe2+を素 早く取り除くためにエッチャントを滴下するなどの独創的な発明を行い、効率的な還元化 学消磁の手法を確立した。これにより古地磁気学全体が初生磁化復元のための新たな昌治 方法を獲得したこととなり、極めて高く評価できる。
上記の還元化学消磁を、宮古島の琉球層群に適用した例を本論文では議論している。陸 上の礁性石灰岩の古地磁気は、今までは交流消磁・熱消磁では二次磁化を有効に消磁でき ず、また、上記のように強酸による化学消磁も使えない。しかし、本論文で開発した還元 化学消磁は有効に作用して、各層準の古地磁気極性を決定できることを示し、年代マーカ ーの少ない琉球石灰岩に、地磁気逆転境界という新たな年代マーカーを加えることができ た。地磁気逆転境界は、その性質上、全世界で同時であることが保証されるので、今後の 琉球石灰岩の研究、ひいては、この時代の古気候研究に大きく貢献すると期待できる。
上記の様に、本研究は地質学的な成果ばかりでなく、古地磁気学の手法を大きく進める 画期的なもので、今後、古地磁気学の様々な分野に新たな消磁方法の選択肢を与えるもの であり、本審査委員会は、申請者が博士(理学)の学位に値すると判断した。
なお研究業績については、査読付きの国内論文1編(筆頭著者)を出版しており、国際 論文1編(筆頭著者)の査読中であり、本講座における「筆頭論文2編(うち1編は国際 論文)」という学位授与基準を満たしている。
試験の結果の要旨
審査委員会における学位論文審査の結果,論文提出者は専門分野である古地磁気学、層 序学に関して、学位授与に値する十分な総合的理解力を備えていると判断した。また論文 報告会の諮問でも、審査委員の質問に明瞭かつ的確に答えており、研究発表能力も十分に 有していることを確認した。学位論文の内容には現在国際誌に投稿中のものも含まれるこ とから、「要約」のみの公表とする。また、剽窃チェックソフトにより学位論文に剽窃箇所 はないことを確認した。
試問の結果の要旨
論文提出者は本研究科博士後期課程に 2013-2017 年に在学し、必要な単位を取得してい ることから、課程博士と同等の学識を備えていると考えて問題ない。
審査委員 理学専攻地球環境科学コース 教授 渋谷 秀敏 審査委員 理学専攻地球環境科学コース 教授 松田 博貴 審査委員 理学専攻地球環境科学コース 准教授 小松 俊文 審査委員 理学専攻地球環境科学コース 准教授 望月 伸竜 審査委員 理学専攻生物科学コース 教授 副島 顕子