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資本制社会における社会問題の
経済的基本特徴
一斗本主義社会政策原理素描一
河
野
稔
は し が き 私は,既に明らかにした,階級社会一般を前提とする社会政策の抽象的・一 つ 般的理論にもとづき,本稿では,その一つの展開として抽象度を更に具体化し, 資本制社会の全時期を貫いて内在する社会政策の基本的特徴を考察する一環と して,資本主義社会政策の客体である社会問題の経済的必然性をとりあげる。 ただし,ここでは素描のかたちにとどめることとする。 1 社会問題には多数の要因が介在している。それらのうち,どの要因が決定 2) 的・支配的なものかという点について種々の学説がある。経済説,政治説,法 律説,宗教説,道徳説,文化説,生物説,軍事説等があげられるが,ここでは それらの考察を省き経済説を中心にとりあげる。 だが,経済要因は社会問題の唯一の要因ではない。社会問題は経済要因を決 定的・支配的なものとしつつも,これには多くの他の要因が密接にからみつい ている。われわれはこれを無視するわけにはいかない。かくて,諸要因と接合 のしつつ作用を貫徹する経済要因の特徴を把えることが必要である。 1) 拙著,社会政策の歴史理論研究。 2)拙著,53一 5頁。 3) 同,56頁。さて,人間は,土地,大気,水,生物等の「原・人工自然環境」ならびに人 間の歴史的形成にかかる「社会・文化環境」のなかで,これらによって生存条 件を規定されるとともに逆にこれらに積極的に作用を及ぼしつつ,同時にまた 人間相互の行動・関係を通じて,下問の生命の「創造・培養1と「燃焼・発揚」 をくりかえし再生産して生存している。 「人間生命の創造・培養」とは, 「人 間の肉体的・精神的生命諸能力を創造・培養」するところの「人間生存の根源 的営み」であり,「家庭を単位とする生活ないし暮らし場」で,経済的には様 々な「消費活動」をおこなうことである。「人間生命の燃焼・発揚」とは,「人 間の肉体的・精神的生命諸能力を燃焼・発揚」するところの「人間の生存条件 をつくる営み」であり,「事業体ないし企業経営体を単位とする仕事ないし労 働の場」で,経済的には「生産活動」をおこなうことである。人間の生存の基 本特徴は,両者の相互規定関係のなかで,人間生命の螺旋形上向志向的再生産 によって人間の生存を不断に充実・発展せしめようとすることである。 人間生命の肉体的・精神的再生産を可能ならしめる諸々の生存条件のうち最: も基底的なものは「物質的生存条件」である。人間は,この条件を充たすため, 何よりもまず生産活動を通じて,事業体ないし企業経営体を単位とする仕事・ 労働の場を形成するとともに,これをとりまく環境とりわけ「自然資源」に働 きかけ,これを人間の生活に適するように姿態変換させて消費する。こうした 物質的生存条件を充たす過程のなかで,社会経済機構の必然性として,人間生 命の上向志向的再生産に支障を与え,その反応とこれへの対応を生起せしめ る。ここに社会問題の経済的基本特徴がある。 資本制社会の社会問題をみよう。それが繰り返し恒常的且つ機構的に「経済 必然性」として生起することを明らかにするためには,「資本蓄積」の最も基 底的局面をとりあげることが必要である。資本蓄積は,何よりもまず,個々の 資本が剰余億値を生産・取得し,その一部分を消費するとともに他の部分を次 の生産に使用するため節約・投資することによって行なわれる。かくて,資本 蓄積を継続的に可能ならしめるものは,何よりも,個々の資本の剰余価値再生 産行動であり,個々の資本にかかる行動をとらしめるものは,社会的分業のも
とでの資本相互間の競争の必然性である。個々の資本の蓄積行動は,社会的に 合成され資本蓄積過程を形成するが,その基底には個々の資本による剰余価値 再生産行動の社会的合成である剰余価値再生産過程がある。剰余価値再生産の 行動と過程のなかでは,必然的に「価値の収奪・被収奪」とこれにもとづいて ひきおこされる「使用価値充用の加害・被害」が生起して人間生存の物質的条 件に支障を与え,それは,人間生命の肉体的・精神的諸能力の上向志向的再生 産状態に支障を及ぼすとともに,これに対する尋問の本能的・意識的反応とそ 註) れへの対応をひきおこすのである。 註)食糧:農産物の使用価値的性質上保有すべき新鮮性・栄養性・安全性・味覚性が交換 価値的側面の安価性を第一義的なものとする資本の論理によって,副次的なものにな ることを明らかにしている見解が注目される(生田靖,農業問題15一 6頁)。商品 の使用価値充用にかかわる加害・被害の対立は,剰余価値再生産のもとで資本の節約 論理にもとづいて,生産過程におけるあらゆる生産手段の充用をめく吻,生産に伴 う大気・水・音・臭・振動等の環境について,商品の輸送・貯蔵をめぐり,最終消費 における飲食品・衣料品・薬品・住高等にをめぐって生起する。なお,クチンスキー は,労働者階級の絶対的貧困化を社会的・政治的・意識的なものよりも物質的・肉体 的側面でとらえている (Jtirgen Kuczynski, Die Theorie der Lage der Arbeiter, Dritte AufL, S.27−34)が,われわれは,生命の肉体的・精神的諸能力の上向志向 的再生産の皮霜とこれへの反応・対応が,剥余価値再生産による価値収奪・被収奪と 使用価値充用の加害・被害から必然的に生起する一側面に社会問題の本質的特徴をと らえる。 経済的必然性として疑えた社会問題の経済的基本特徴は,同時に人間の介在 する社会的特徴をもっている。 われわれは,まず,社会問題が社会の全体機構から,とりわけ,ここでは社 会の経済機構から必然的に生み出される問題であることを指摘する。 社会問題は,また,一方で価値収奪者・使用価値充用の加害者の意識と行動 およびその社会的合成過程をもつとともに,他方で,これに対する価値被収奪 者・使用価値充用の被害者の意識と行動およびその社会的合成過程を内在せし めている。社会問題の経済的必然性には必ずこうした人間の意識と行動と過程
が内在するとともにその対立関係がみられるのである。 「社会問題は,最も具体的には個々人の生存条件の問題であり,これを欠いた 社会問題はあり得ない。だが,社会問題は単なる個人問題にとどまるのではな く,何よりも前述の如き社会の全体機構とりわけ経済機構そのものの産物であ ることはいうまでもないが,それは,また個々人の意識・行動の集合体として のグループ,階層,階級等の社会集団の生存条件の問題である。 「個人・社会集団」の生存条件の問題は,人間の主体性をもった自由な個 人・社会集団の問題ではなく,何よりも,価値・剰余価値法則にもとつく資本 蓄積法則の作用するなかで,自由な主体性を失った「疎外された且つ疎外への の 抵抗をも含む個人・社会集団」の生存条件の聞題であるδ ここでは,価値の取得・配分と使用価値の充用をめぐって,加害者対被害 者,支配者対被支配者,搾取者対被搾取者,収奪者甲唄収奪者等の社会的対卒 関係がみられる。また,こうした経済的利害の対立をめぐる社会的対立を基礎 にして,更に政治的・法律的・文化的利害の対立とこれらをめぐる社会的対立 ら 関係も形成される。 こうした対立関係の中心は,一方の利益は即他方の損失という矛盾した敵対 的対立関係であるが,この対立は,敵対を中心としつつもその一時的妥協とし ての協調をも伴う形態をとる。 階級社会では階級問の対立が社会諸集団聞の対立のなかで基軸となること は,いうまでもないところである。階級社会の一形態である資本制社会の社会 問題のなかでは,資本家階級と労働者階級との間の対立が基軸となり,これに わ 地主階級や中間諸階層が介在して,種々の社会的対立の局面を示す。 階級の内部を構成する諸階層ないしグループの問にも経済的利害をめぐって 副次的にではあるが対立関係がある。例えば,労働者階級の内部でも,現役対 4)拙著,70−8!頁。 5)拙著,75頁。 6)拙著,74頁。 7)階級についての詳論は,拙著,81一 8頁を参照されたい。
42 予備軍,熟練対未熟練,常傭対臨時,男性対女性,年齢や職種や学歴別の対 立,大企業労働者対中小零細企業労働者,親企業労働者対下請企業労働者の間 に経済的利害をめぐる対立がみられる。資本家階級の内部をみても,独占資本 対等独占資本,大資本四中小資本,工業資本対商業資本対貸付資本等々の問に 経済的利害の対立がある。このような階級内部の諸階層・グループ集団の間の 副次的な経済的利害対立の状況は,具体的な階級対立に当然反映される。 階級対立は,同一階級の経済的利害にもとつく同一の意識・行動を前提とす ることを正常ないし典型とする。だが,客観的な経済的利害と主体的な意識・ 行動が照応しない変容ないし変型的階級対立もある。資本家階級に属し,資本 の客観的利害にもとつくべきものが「人格転換」して,主体的には労働者の経 済的利害にもとつく意識や行動をとるという,上から下への転換や逆に労働者 階級に属して労働の客観的利害にもとつくべきものが「人格転換」して,主体 的には資本家の経済的利害にもとつく意識や行動をとる,下から上への転換が みられる。そして,このような転換の介在した階級対立の変容ないし変型も注 目すべきことである。ハイマソは,とりわけ上から下へのキリスト教的人格転 換による階級対立の変型を,ヨーロッパ社会問題・社会運動史上最も決定的役 おう 割を演じたとして高く評価している。 階級や社会集団が集団として意識し行動するためには組織とそれを代表する 機関が不可欠のものとなる。組織は,階級や社会集団のもつ経済的利害にもと づいて主体的な集団としての意識を形成し行動せしめる。だが階級や社会集団 が存在することとその組織がつくられることとは同時的に現われるとは限らな い。組織はその集団の成員によりつくられ,組織がつくられではじめて集団と しての意識も確定し,集団としての行動もとられる。また,同一の階級や社会 集団は,常に一つの統一組織形態をもつとは限らない。階級対立関係のなかで 階級内部の経済的利害が部分的・副次的に異なり,対立を内在せしめているば あい,当然,意識や行動の差異や対立を生み出し,同一階級や社会集団に複数 8)拙著,89−91頁。
の組織形態がつくられることがある。こうした複数の組織がそれぞれに階級や 社会集団存立の部分的機能を演ずることになるが,われわれは,複数組織をか かえた階級・社会集団があるばあい,こうした集団間の対立の具体的局面を通 の じて社会問題の社会的側面をとりあげなければならない。 皿 人間は,自己の生存の維持・発展を支える条件を追求し,獲得し,拡大しよ うと行動するとき,他の人間に対して自己の意思を貫徹しようとする。このば あい他の人間もまた同様の行動をとる。自己と他の人間とのそれぞれの意思は 常に同一であるとはいえない。かくて,両者の間では意思の貫徹をめぐって衝 突が生起する。かくて,人間が自己の意思を他の人間に貫徹しようとすれば, 何らかの強制を伴い,服従を強制する性格が必然的に伴ってくる。こうした強 制行動は,人間の様々な行動のなかに,必然的に含まれる。われわれは,こ ユののような人間の強制的行動を最も一般的・原初的意味で政治と規定する。政治 は,社会集団における人と人との間の行動と関係とともに必然的に生起する。 即ち,所与の全体社会では,政治は,対内的に,個々人間に,部分社会集団問 に及び全体社会そのものの対内的な個人間・部分集団間の調整として,必然的 に生起するし,対外的にも個々人聞に,部分社会集団間に及び他の全体社会そ のものとの問に,必然的に生起する。また,諸々の生活領域での内容と目的を もつ個人,集団の主体的行動が同時に政治行動としての性格を帯びるのみなら ず,こうした行動の強制力に限界がみられるにいたれば,政治目的と政治内容 を内在せしめた,固有の,本来的な政治機関たとえぽ,国家や地方公共機関が 形成され,これをめぐる,即ち,これによる及びこれに向ける本来的政治行動 が生起する。政治上の目的と内容を本来的に具備する政治機関の政治行動は, 必要なとき必要に応じて経済,文化等を内容とすることがしぼしばみられる が,こうした政治行動が政治強制の性格をもつことはいうまでもないところで 9)拙著,94一 5頁。 10)拙著,92一 4頁。
44 ある。いずれにせよ,政治を上述のように解すれば,資本による剰余価値の再 生産行動とその社会的合成過程にみられる価値収奪・被収奪,使用価値充用の 加害・被害という経済的利害の対立をめぐる社会的・階級的対立は,国家や地 方公共機関をめぐる局面でのみはじめて政治的性格を帯びるのではなく,もと もと一貫して政治的対立の性格をも有しているのである。 個人・社会集団問の政治強制は,何よりも,相互強制であり,それは通常「強 弱・上下関係」を形成する。相互強制のなかでヨリ強い強制力を発揮するもの が上位に,ヨリ弱い強制力を発揮するものが下位に位置する。かくて,政治関 係は,「上強・下弱関係」として労えられる。増強・下平関係は垂直上下から 水平左右に及ぶ領域内に形成される関係である。 「垂直上下関係」は完全な, 上から下への一方的強制関係であり完全独裁関係を極限とし,相互強制作用を 否定しようとする関係である。「水平左右関係」は,左右の相互強制の完全な 均衡関係であり,完全民主関係を極限とし,相互強制作用を停止しようとする 関係である。通常の政治関係は両者の中間にみられ,前老の極限に近づくほど 上から下への一方強制的独裁関係の性格を強め,後者の極限に近づくほど相互 均衡強制的民主関係の性格を強める。かくて,社会問題においては,価値を収 奪し使用価値の充用で加害の立場にあるものが上位にあり,ヨリ強い強制力を 発揮するのに対して逆の立場にあるもの,即ち価値を収奪され使用価値の充用 で被害の立場にあるものが下位にありヨリ弱い強制力を発揮するところの,政 ユ 治的相互対立関係が形成されていることを注視しなけれぽならない。 個々人の間や比較的限定された狭い範囲の小集団の間の行動とその社会的合 成過程に伴って生起する政治的行動と関係は,私的利害の追求をめぐる,価値 の収奪・被収奪,使用価値充用の加害・被害をめぐる端初的な私的政治行動と関 係である。だが,個々人の間や小社会集団間の,様々な生活領域をめぐる行動 とその社会的合成過程は,範囲と規模を拡大し,それに伴って私的政治行動と 関係の範囲と規模も当然拡大する。ある地方のすべての地域に及ぶ様々な生活 1!) 拙著,94頁。
領域をめぐる人々の問の行動と過程は,地方公共機関を形成し,それによる及 びそれに向ける行動と関係を生起せしめることになる。このような状態になる と,様々な生活領域を基盤として固有の,本来的な政治機関をめぐる行動と関 係がつくられ, 「地方的・公的政治行動と関係」がみられる。人々の様々な生 活領域の内容と目的をめぐる行動と過程は,地方的限界を越えて拡大し,全国 土的,全階二丁,全国民的,国際的に展開され,これを基盤にして国による, 国への,国と国との問の,固有の本来的な政治行動と関係が形成される。こ れは,まさしく「国をめぐる,あるいは国際的な,公的政治行動と関係」であ る。かくて,社会問題は,価値収奪・被収奪と使用価値充用上の加害・被害を めぐって,端初的に且つ最も具体的には企業経営体の如き限定された範囲と規 模で何よりもまず私的政治の性格をおびた行動と関係を形成するが,その範囲 と規模を拡大するにつれて,このような行動と関係を地方的→国家的→国際的 エ ラな公的政治行動と関係へと発展し,本来的な公的政治行動と関係を形成する。 個々の資本による剰余価値の再生産行動とその社会的合成過程における価値 の収奪・被収奪および使用価値充用の加害・被害という対立・矛盾の深化・拡 大が人間の生存の経済条件に及ぼす支障を深化・拡大せしめることによって生 命の上向志向的再生産に与える障碍が深化・拡大する症状を呈し,これによっ てひきおこされる反応と対応の症状が深化・拡大することを,社会として放置 できず何等かの対策ないし措置をとらざるを得ない状態になることを,われわ れは「社会問題が成熟する」という。 社会問題の成熟は次の諸条件をもつ。成熟の必要条件は三つの視角からとり あげることができよう。第一の視角は社会問題の経済的必然性にかかわる要因 からとりあげるものである。即ち,第一条件は,価値の収奪・被収奪および使 用価値充用上の加害・被害の深化・拡大による人間生命の上向志向的再生産へ 12) ]出≡著, 95頁Q
46 の支障とこれへの反応・対応といった症状の深化・拡大である。第二条件は, 第一一一S3件であげた経済的要因にかかわる社会的・階級的集団問の意識・組織・ 行動をめぐる対立の深化・拡大による人間生命の上向志向的再生産への支障と これへの反応・対応症状の深化・拡大である。第三条件は,第一条件の経済的 要因とそれの伴う第二条件の社会的要因にかかわる社会的・階級的集団間の政 治的対立の深化・拡大による人間生命の上向志向的再生産への支障とこれへの 反応・対応症状の深化・拡大である。第一視角からいえば,社会問題の成熟は .E述の三つの必要条件をもっているが,これら三つの必要条件は,面出におい て成熟の程度と速度を一体的・同時的に照応せしめられるが,必ずしも常に一 体的・同時的に照応するとは限らない。経済的第一条件が成熟しても社会的第 二条件や政治的第三条件が成熟しないときもあり,経済的第一一条件と社会的第 二条件が成熟しても政治的第三条件が成熟しないこともある。これら三条件が すべて成熟することが社会問題成熟の十分条件を充たすことになる。 第二の視角は,人間の生命の生存構造からとりあげることができる。第一条 件は,労働・仕事の場における生産手段の所有,生産・経営・管理と流通をめ ぐる価値の収奪・被収奪と使用価値充用の加害・被害の対立の深化・拡大が, 人間生命の肉体的・精神的諸能力の燃焼・発揚面からする生命の上向志向的再 生産への支障とそれへの反応・対応といった症状の深化・拡大となることであ る。第二条件は,生活・暮らし場における家計の所得収入と消費支出をめぐる 価値の収奪・被収奪と使用価値充用の加害・被害の深化・拡大が人間生命の肉 体的・精神的諸能力の創造・培養面からする生命の上向志向的再生産への支障 とそれへの反応・対応といった症状の深化・拡大となることである。必要第一 条件の成熟は必要第二条件の成熟に反映し,これを制約するが,また逆の関係 も成り立つ。ここでは,必要二条件がすべて成熟することが社会問題成熟の十 分条件を充たすことになる。 第三の視角は,人間の生活領域にかかわるものである。第一条件は,経済領 域における直i接の,価値収奪・被収奪および使用価値充用上の加害・被害の深 化・拡大による人間生命の上向志向的再生産への支障とこれへの反応・対応と
いった症状の深化・拡大であり,第二条件は経済領域と結合し,これを反映す るところの政治・法律・文化の諸領域での,とりおけ,あらゆる他の領域の集 中的反映としての政治領域での対立の深化・拡大による人間生命の上向志向的 再生産への支障とこれへの反応・対応といった諸症状の深化・拡大である。こ の視角からでも,必要第一条件である経済領域での成熟は,社会問題成熟の基 盤であるが,これと結合し,これを反映する法・政・文の諸領域での,とりわ け政治領域での成熟もまた必要第二条件であり,これら二つの必要条件がとも にみたされるとき社会問題成熟の十分条件が充たされるといえよう。 いずれの視角からとりあげるにせよ,社会問題は,上述の必要条件が個別的 ないし部分的に充たされる程度では十分成熟したとはいえない。どの視角から にしても,成熟のすべての必要条件を充たすことが「成熟の十分条件」を充た すことであり,かかるとき社会問題は十分に成熟するといえよう。 社会問題は,ただ存在するのみにとどまる限り,社会問題に巻き込まれてい る当事者によって社会問題として意識されにくい。まして第三者や社会全体の 社会問題意識は通常生起しにくい。社会問題は,成熟するにつれて関係当事老 よっても,第三者や社会全体によっても,社会・経済機構の必然的産物として 意識され,政治的に措置されるべき問題としての色彩を濃くする。そして十分 に成熟した社会問題こそ社会政策の対象ないし客体となるのである。 社会問題は,いっきょに全面的・体系的に成熟するというより,むしろ,部 分的成熟をくりかえしつつ次第に全:面的・体系的成熟にむかう傾向がある。
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社会問題の本質的構造の特徴を,鼠戸:的必然性とのかかわりで,とりあげて みよう。 社会問題は,発生・原因と症状・結果の両側面を内在せしめている。症状・ 結果の側面のみが社会問題ではなく,また,発生・原因の側面のみが社会問題 13)拙著,119−34頁。48 ユの でもない。社会問題は内部に因果構造をもっているのである。 社会問題の根源的・最終的症状には,第一に人間生命の肉体的・精神的諸能 力の上向志向的再生産状態の麦障症状と第二に,これに対する価値の被収奪者 および使用価値充用の被害者の反応と更にそれに対する価値収奪者および使用 価値充用の加害者の対応症状がある。こうした第一症状と第二症状は更に因果 関係をもち,第一症状が原因で第二症状が結果である。 上述の如き根源的・最終的症状としての社会問題の原因となる側面の社会問 題を一括すれば,剰余価値の再生産行動と過程における価値の収奪・被収奪と 使用価値充用の加害・被害にかかわる社会問題である。その内部を細別すれ ば,第一に消費生活をめぐり,第二に,第一に対する原因とされる所得配分お よび破壊された環境をめぐり,第三に,第二に対する原因となる生産・流通を めぐって,第四に,第三に対する原因とされる生産・経営手段の所有および富 =価値の配分関係という,究局の,基本的な,原初的な社会問題がある。この ような経済諸過程にみられる諸々の社会問題は,相互に因果関係・発生症状関 係を内在せしめているのみならず,いずれの社会問題も前述の根源的症状社会 問題との遠近関係に位置する原因・発生社会問題なのである。 社会関係の構造的特徴から社会問題の本質構造をみれぽ,次のようになる。 生産手段の資本家的所有にもとつく剰余価値の再生産行動と過程における, 剰余価値対労働力価値の間の価値収奪・被収奪および使用価値充用の加害・被 害問題は,社会関係の側面から,とくに被収奪・被害者の側を特徴的に表幽す れば,労資両階級問の「労働(者)問題」であり, 「労働(者)社会問題」で あって,あらゆる社会問題の中核に位置づけられる。蓋し,価値配分・使用価 値充用をめぐる労資問の収奪・被収奪および加害・被害の対立は,資本制社会 諸関係における最も基本的生産関係にみられる対立だからである。そして,労 働(者)社会問題は,あらゆる社会問題のなかで最も成熟し易く,最も強く成 熟する傾向をもっている。 14) 才出著, 57−62頁。 15)拙著,!12−3頁。
産業資本の剰余価値から地主へ地代を配分する剰余価値対地代をめぐる社会 的対立は,資本家階級対地主階級の社会問題である。だが,それが人間生命の 再生産状態に及ぼす支障とこれへの反応・対応は,労働(者)問題にくらべて成 熟しにくいし,支障の程度の深化が弱いことからいって,成熟は弱い。 資本家階級内部における剰余価値の配分をめぐる「諸資本間社会問題」は, ①産業資本対貸付資本の,産業資本の剰余価値から貸付資本への利子支払をめ ぐる対立,②産業資本対商業資本の,産業資本の剰余価値の一部分の商業資本 への商業利潤の配分をめぐる対立,③産業諸部門間の④資本規模聞の対立の問 題である。これらも,人間生命の再生産状態への支障とこれへの反応・対応症 状の深化は弱く,成熟しにくい。だが,これらのうち資本規模間対立の問題は 中小零細規模資本の敗退が生命の再生産状態への支障とこれへの反応・対応症 ヨの 状に可成りの深刻さを与え,成熟傾向をもつ。 資本家階級と労働者階級の中間にある「中間層社会聞題」がある。中間層 は,生産における地位つまり生産手段に対する所有関係およびそれにもとつく 生産・経営における役割・機能の独自性ないし明確性をもつ階級とは異なり, こうした独自性ないし明確性が弱く,資本家階級への上昇と労働者階級への下 降を不断に進行せしめつつ再生産されているが,社会問題の構造からみて看過 し得ない重要な「階層」集団である。r中間層挫会問題」には,独立・自営の 単純小商品生産の経営者層をめぐる「旧中間層社会問題」と諸階級や階層に対 して自己の頭脳労働でサービスをし,彼等からの価値配分に依存して生存する ユリ 「新中間層社会問題」がある。両中間層の詳述は,ここでは省くが, 「中間層 社会問題」は,労働(者)問題とくらべると成熟度が弱い。だが,旧中間層の 大量下降のみられる資本制社会成立期や独占段階では,旧中間層社会問題は比 重を大きくし,成熱度を強める。また,新中間層が大量となり,しかも,その うちの少数者の上昇と大多数者の労働者化が顕著となる独占段階では,新中間 層社会問題の比率はきわめて大きく,成熟度も強くなる。 16) 拙著,1ユ7頁。 17) 才出著, 1ユ3−6頁。
50 年齢差別にもとつく「老人層問題」や「青少年問題」や性差別にもとつく 「婦人問題」等のr階層的社会問題」がある。これらは,年齢や性のちがい等 を価値収奪や使用価値の加害的充用に利用して,生命の肉体的・精神的諸能力 の上向志向的再生産状態に支障を及ぼしこれへの反応・対応をひきおこす社会 問題である。これらの問題の多くは,労働(者)問題や中間層社会問題の内部 に含まれるが,同時に,こうした枠組をのり越えて形成される,それぞれに特 殊な階層的社会問題群であり,労働(者)問題や中間層社会問題の成熟ととも 18) に成熟する。 特定の階級や階層にのみとどまらず,広く種々の階級や階層に共通して,全 国民的・全住民的広がりをもつ社会問題もある。それは社会化の著しく進んだ 現代独占資本主義段階では,とりわけきわ立ったものとな:る。「生活環境にか かわる社会問題」や「物価騰貴にかかわる社会問題」は,単なる経済問題にと どまらず生命諸能力の上向志向的再生産状態に支障を及ぼす社会問題としての 基本特徴を強め,独占資本対全国民・全住民の価値配分と使用価値充用の対立 を,とりわけ,全国民・全住民のなかでも労働者階級や中間層の被収奪・被害 エ の比重の高い,「不特定社会問題」の特徴をもっているQ 社会問題の構造の特徴を生存構造の特徴からとりあげ,次の二つを指摘した い。 第一の社会問題は単位と連結の構造をもっている。 「単位社会問題」は,人 間生存における生命の肉体的・精神的諸能力を燃焼・発揚する「企業経営体な いし事業経営体の場」ならびに生命諸能力を創造・培養する「家庭ないし生活 の場」で,最も具体的な且つあらゆる要因を内在せしめる実体をそなえた社会 問題である。 企業経営体にかかわる単位社会問題は,①企業経営体内部に生起する労働 (者)社会問題,②企業経営体と周辺地域社会との問の社会問題を含む。企業 18) 拙著,116−7頁。 19)拙著,1!2頁。 20) 拙著,111頁。
形態をとらない家業,学校,医療機関等の個々の事業経営体にかかわる単位社 会問題は上述の企業経営体にかかわるものに類似している。 家庭・生活にかかわ・る社会問題は,何よりも,家族成員の生活・暮らしの場 をめぐる単位社会問題である。それは,家計収入と消費支出にかかわる,資本 との間の価値の収奪・被収奪と使用価値充用の加害・被害の対立問題であり, ①家事労働・衣・食・住・保健医療・教育教養・趣味娯楽・余暇等多様な生活 内容をめぐり,②親子・夫婦・男女・年齢・兄弟姉妹等の家族成員の間の,③ 家庭と周辺地域の自然的・社会的文化的環境との間の,人間生命の創造・培養 にかかわる価値配分・使用価値充用の対立問題である。とりわけ,商品経済が 普及し,社会化が進むにつれて,家族成員の共同体生活の破壊が展開されつつ あるなかで,こうした単位社会問題の比重は大きくなる。 上述の二つの単位社会問題は,一方で同一産業部門,異種産業部門,全産業 に,あるいは種々の社会活動分野に,共通の問題として連結されると同時に, 他方で特定の地域,都市,農村,全国土,国際地域にも連結され拡大されて, 共通の社会問題を形成する。われわれは,これらを一括して特徴づけ「連結社 会問題」という。社会問題は,このように「単位社会問題」と「連結社会問 題」の有機的結合という構造上の一つの特徴を内在せしめている。 第二の構造の特徴をあげよう。価値の収奪・被収奪および使用価値充用の加 害・被害は,何よりも経済領域で直接に生起するが,それはまた同時に政治・ 法律・文化の諸領域でこれらと結合し,これらを媒介として間接的にも生起す る。社会問題を経済的必然性として把えるぼあいでも,こうした政治・法律・ 文化の諸要因と結びつきこれらと接合して生起する経済的側面をも看過し得な い。われわれは,経済領域で直接生起する社会問題を「直接社会問題」として 把え,政治・法律・文化領域を媒介として生起する社会問題を「間接社会問 題」と呼ぶ。たとえば,価値配分や使用価値充用をめぐる対立は,政治領域で 選挙権・被選挙権・選挙区・選挙費用等の問題と接合し,あるいは法律領域で 2!) 拙著,111頁。22)拙著,107−11頁。
訴訟の費用や期間等の問題とも結びつき,文化領域でも教育の機会や医学・医 療や教養・娯楽等の問題とも接合している。いずれにせよ,社会問題には直接 と間接の構造上の区別と密接な有機的結合が内在しているのである。そして, 社会問題の経済的特徴が同時に政治・法律・文化の諸要因とも接合しているこ とから,社会政策の経済的必然性もまたこれら諸要因との接合視点を欠き得な いことが指摘される。 22) 才出著, 107−111頁g