土地の測量と社会の中の基準点
―国土と歴史に対する理解を深めるために―
高見 佳樹
キーワード:測量,基準点,三角点,地図,GPS,準天頂衛星「みちびき」
1. はじめに 本研究は,兵庫教育大学構内に水準点(B.M OP 132.20)を見つけ,地図上にある基準点 は実際にどんなところにあるのかを探してみたいと考えたことを契機にはじまった。基準 点については予備知識として三角点・水準点・電子基準点という種類が存在することは知 っていた。しかし,それぞれの設置の目的や実際の用途に関する知識はなかったため興味 をもった。また大学の授業で伊能忠敬の全国測量について調べたことから,日本の測量の 体系や歴史,意義についても関心が高まった。 本研究では,測量の歴史,現在の体系を明らかにしたうえで,測量のこれからについて 考える。また実際に身近な基準点を訪れ,普段は地図記号として認識している基準点の実 態を知るとともに,地域学習など学校教育で測量や基準点を活用できる場面について考察 する。 2. 測量の歴史 測量の歴史は古く,古代エジプトの幾何学から測量の歴史がはじまったと考えられる。 また地図の歴史をみると,現存する最古の世界地図は,紀元前 700 年ごろにつくられたバ ビロニアの粘土板世界地図であり,こちらも歴史が古い。 測量の分野では,地球上での位置を緯度・経度で表すための基準となる座標系及び地球 の形状を表す楕円体を総称して測地基準系という。各国の測地基準系は測量技術の制約等 から歴史的に主に自国のみを対象として構築されたものである。しかし,現在では,世界 各国で共通に利用できることを目的に構築された世界測地系が世界中で導入されており, VLBI(Very Long Baseline Interferometry,超長基線電波干渉法)や GPS(Global Positioning System,全地球測位システム)等の高精度な宇宙測地技術により構築維持さ れている。GPS(Global Positioning System(s))とは,米国が 1993(平成 5)年に運用開始した 測位衛星システムである。もともとは軍事用として生まれた地球規模のシステムであり, 艦船や戦闘機,軍事車両,ミサイルなどのナビゲーションをおこなう目的で開発された。 1990(平成 2)年ごろから民生市場が立ち上がり,カーナビゲーションや,それに続く GPS 測位機能つき携帯電話が普及しはじめ,GPS の活用目的は軍事以外にも広がった。日本国 内では国土地理院が提供する電子基準点の観測データを既知点として利用できるため,現 場に測量用 GPS 受信機が 1 台あれば干渉測位が可能である。電子基準点は,2017(平成 29) 年 10 月現在,全国 1,240 点整備されている。 光学測量と GPS 測量の違いは,早さと利便性にある。GPS 測量は,光学測量などの現地 測量よりも短時間で地球上の位置を決定できる。また,地上測量では測点間の見通しを確 保しなければならないが,GPS 測量では天空が開けていれば,すなわち GPS 衛星を捕捉で
きれば十分である。つまり,測点間に建物や山があって,隣の測点が見えなくても測量が できる(図 1)。 受信機 基準点(x,y,z)が既知 受信機 計測点(x,y,z)が未知
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上空が開 けていれ ばOK 天候に関 係なし 図 1 GPS を用いた測量 出所:中川(2015,p.82)より筆者作成 3. 準天頂衛星システム「みちびき」 準天頂衛星システムとは,複数機の人工衛星により構成される日本を含むアジア・オセ アニア地域をカバーする地域的衛星測位システムである。GPS などの衛星測位システムは, スマートフォンやカーナビでも活用され,現代を生きる人々の生活になくてはならないも のになっている。図2のように日本のほぼ真上(準天頂)に長時間留まるよう工夫された 準天頂衛星の初号機である「みちびき」を利用することで,山間部や高層ビル街のように GPS 信号が届きにくい,見通しの悪い場所でも測位ができるようになるだけでなく,補強 信号を利用することで測位精度を数 cm まで高めることができる。2010(平成 22)年に打 ち上げられた「みちびき」を含め,2018(平成 30)年には 4 機体制でのサービスを,将来 的には 7 機体制でのサービスを目指して開発が進められている(表 1)。なお基本的に静止 衛星は赤道上で軌道を描く。日本上空に静止衛星を運用するとなると,軌道のずれを修正 する必要がある。気象衛星ひまわりの場合は,衛星内部の燃料を用いてガスジェットから 燃焼ガスを噴射することで軌道修正がされている。「みちびき」は,メインエンジンであるアポジエンジンによる噴射(AEF,Apogee Engine Firing)と,サブシステムである 12 個 のスラスター(姿勢制御装置)の噴射によって軌道修正を行う。「みちびき」が 8 の字の軌 跡を描く準天頂軌道に乗るまでは,打ち上げから約 2 週間かかる。
「みちびき」の利用は,測量の分野だけに止まらない。農業や観光業など幅広い分野で の活用が見込まれており,そのための実証実験が様々な企業や団体の協力のもと行われて いる。
図2 準天頂衛星「みちびき」の軌道 出所:内閣府宇宙開発戦略推進事務局ウェブページより 表 1 準天頂衛星システムの開発・整備・運用 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025~ 平成27 平成28 平成29 平成30 平成31 平成32 平成33 平成34 平成35 平成36 平成37~ 1機体制の運用 4機体制の運用 7機体制の運用 (初号機「みちびき」の維持・ (GPSと連携した測位サービス) (持続測位) 運用) 「内閣府」 「内閣府」 「内閣府、総務省、文部科学省」 2~4号機体制の開発整備 「内閣府」 初号機「みちびき」後継機の開発整備 「内閣府」 7機体制に向けた追加3機の開発整備 「内閣府」 年度 打ち上げ ▲▲▲ 打ち上げ ▲ 打ち上げ ▲▲▲ 出所:「宇宙基本計画工程表」(2015)より筆者作成
4. 地域と基準点 本研究では,基準点の中でも特に三角点に着目して実際に小野市・加東市を現地訪問し た(図3,表2)。三角点は,それを用いた測量の特性上,見通しのよいところに設置され ている。 図3 小野市・加東市の基準点の位置 出所:「地理院地図(電子国土 Web)」をもとに筆者作成 三角点を実際に探訪してみると,三角点の周辺には様々な施設が見られた。 ・溜池(敷地四等三角)地図番号 20 ・公園(浄谷四等三角点)地図番号 24 ・工場(大部三等三角点)地図番号 5,(南山三等三角点)地図番号 8, (東条川四等三角点)地図番号 26 ・自衛隊の演習場(青野ヶ原四等三角点)地図番号 14 ・ハイキングコース(西森二等三角点)地図番号 2(写真 1,2,3) ・畑(久保木四等三角点)地図番号 23
・中学校(小野三等三角点)地図番号 6,(河合中四等三角点)地図番号 17 特に私が多いと感じた施設は工場である。三角点のある場所は見通しがよいところとい うことで,広い場所が多いため土地利用に適していると考えられる。河合中四等三角点(地 図番号 17)のように,建物の側や施設の一角にあるものも多く,地図上で確認しても見つ けることが難しいものがいくつかあった。また福田三等三角点(地図番号 12)のように, 実際に探訪しても標石が見つけられなかったものもあり,現地に行かなければわからない その場の様子がわかった。本調査を通して,三角点をはじめとする基準点は地域の生活に 溶け込んでいると感じた。 表2 小野市・加東市の基準点 地図番号 場所地名 種別等級 北緯 東経 標高(m )地図番号 場所地名 種別等級 北緯 東経 標高(m ) 1 滝野 電子基準点 34゜56'10" 134゜56'42" 64.15 19 小倉山 四等三角点 34゜49'21" 134゜55'52" 56.11 2 西森 二等三角点 34°52'50" 134゜54'30" 94.59 20 敷地 四等三角点 34゜51'53" 134゜55'57" 46.07 3 曽根 二等三角点 34°52'42" 135゜00'25" 141.75 21 焼山 四等三角点 34゜50'15" 134゜56'48" 74.6 4 大芝 三等三角点 34°51'29" 134゜54'53" 31.11 22 愛宕山 四等三角点 34゜49'02" 134゜56'55" 67.16 5 大部 三等三角点 34°52'31" 134゜56'32" 54.06 23 久保木 四等三角点 34゜53'03" 134゜57'19" 42.11 6 小野 三等三角点 34°50'48" 134゜56'24" 54.01 24 浄谷 四等三角点 34゜52'11" 134゜57'15" 69.25 7 小田 三等三角点 34゜53'43" 134゜59'31" 129.44 25 広沢南 四等三角点 34゜53'43" 134゜59'02" 113.76 8 南山 三等三角点 34゜51'19" 135゜01'27" 170.66 26 東条川 四等三角点 34゜52'26" 134゜58'44" 127.66 9 石力谷 三等三角点 34゜50'22" 134゜59'52" 154.75 27 船木町 四等三角点 34゜52'39" 134゜59'32" 125.88 10 長尾 三等三角点 34゜51'49" 134゜58'32" 130.4 28 万勝寺 四等三角点 34゜51'58" 134゜59'56" 147.03 11 山田 三等三角点 34゜49'48" 134゜57'59" 132.55 29 小丸 四等三角点 34゜51'20" 135゜00'49" 156.48 12 福田 三等三角点 34゜53'40" 134゜58'06" 83.4 30 脇本新田 四等三角点 34゜51'15" 135゜00'13" 153.21 13 皿山 三等三角点 34゜54'25" 134゜55'27" 95.93 31 大坪 四等三角点 34゜50'16" 134゜58'56" 143.44 14 青野ヶ原 四等三角点 34゜53'40" 134゜55'04" 92.18 32 沢部 四等三角点 34゜53'39" 134゜56'53" 46.19 15 粟生 四等三角点 34゜51'57" 134゜54'22" 28.82 33 高塚山 四等三角点 34゜51'12" 134゜57'59" 124.86 16 船本 四等三角点 34゜50'40" 134゜54'31" 74.23 34 滝野南 四等三角点 34゜55'13" 134゜55'36" 90.14 17 河合中 四等三角点 34゜52'59" 134゜55'44" 35.64 35 河高 四等三角点 34゜56'03" 134゜56'21" 70.73 18 大島 四等三角点 34゜49'58" 134゜55'37" 27.06 出所:スマホアプリ「三角点マップ」を参考に筆者作成 写真1 西森二等三角点遠景 写真2 西森二等三角点 写真3 西森二等三角点近景 2018(平成 30)年 1 月 17 日(水)撮影
5. おわりに 測量の歴史は先人の測量の成果に上書きされながら歩んできた積み重ねの歴史であると 感じるとともに,それらを継承することと,時代や地形の変化に合わせて更新し続けるこ とが必要であると感じた。 現地調査をする中で私が興味深く感じたことは,普段自分が意識していなかっただけで, 身近な場所に多くの基準点があったことである。知識として知っていたことが体験を経て 本当の理解となった。たとえ同じ標高の場所に基準点を探しに行っても,斜面の急な地形 とそうでない地形ではたどり着く困難さが違ったことなどは現地調査に行かなければわか らないことであった。 今後,教師になり,授業をする中で,本研究を通して学んだ知識を活用し,本研究で得 た体験を子どもたちにも経験させたいと考えている。自分たちの住む国や地域の地理的特 徴や歴史を理解し,受け継ぎ,誇りと自信にあふれた子どもを育てたい。 引用文献 中川雅史(2015):『絵でわかる地図と測量』,講談社,181p. 山岡光治(2013):『地図はどのようにして作られるのか』,ベレ出版,246p. 参考 URL
「地理院地図(電子国土 Web)」,「三角点マップ」:ⒸGeospatial Information Authority of Japan. http://www.gsi.go.jp/,2017(平成 29)年 12月 28 日閲覧
「みちびき」の必要性:Ⓒ2018 Cabinet Office,Government Of Japan.
http://qzss.go.jp/overview/services/sv02_why.html,2018(平成 30)年 1 月 11 日閲覧 「宇宙基本工程表」(2015):Ⓒ2014 Cabinet Office,Government Of Japan.
http://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/plan2_koutei.pdf,2018(平成 30)年 1 月 11 日閲覧
Land Survey and Control Points in our Society
-For Evolution of Rational Understanding of our own Land and History-
TAKAMI Yoshiki
Key Words: land survey,control point,triangulation point,topographical map,GPS, Quasi-Zenith Satellite “Michibiki”