児童福祉援助と「子ども中心アプローチ」 : 子どもの権利と要保護児童の当事者性をめぐって
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(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第 6 5巻 第 2号 J o u r n a lo fHokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n( H u m a n i t i e sandS o c i a lS c i e n c e s )Vo . l6 5,N O . 2. 平成 2 7年 2 月. 0 1 5 February,2. 児童福祉援助と「子ども中心アプローチ」 子どもの権利と要保護児童の当事者性をめぐって. 中村直樹 北海道教育大学函館校社会福祉学研究室. C h i l d C e n t e r e dS o c i a lWorkP r a c t i c e: C h i l d r e n ' sR i g h t sandP a r t i c i p a t i o n. NAKAMURAN a o k i Departmento fS o c i a lW e l f a r e,HakodateCampus,HokkaidoU n i v e r s i t yo fE d u c a t i o n. 概要 本稿は,子どもは権利行使の主体であるという視点を重視し子どもの意向や感情を尊重し, 子ども自身の意思決定の機会を保障する児童福祉援助の構築を課題とした。その課題について 要保護児童に対する援助から検討をおこない,要保護児童に対する援助における「当事者性」 や「未来志向」の考え方の重要性を示し,その考え方を援助において実現するための必要な理 論や方法として「参加 Jiエンパワーメント Jiレジリエンス Jiソリューション・フォーカスト・ アプローチ J iサインズ・オブ・セイフテイ・アプローチ」の貢献を明らかにした。そして, それらの理論や方法によって支えられる「子ども中心アプローチ」が,本稿の課題とした児童 福祉援助の構築に必要であることを論じた。. 1.はじめに. 利観から,子どもを権利行使の主体とする子ども 観へと捉え直すことが求められているのである。. 児童福祉は,子どもの権利保障を具体化する考. 子どもを権利行使の主体として位置付ける視点. え方やアイデア,そして,それらを実践する営み. は,従来からの児童福祉のあり方を根底から問う. という性格を持っている。それは, 1 9 8 9年に国連. ものになるといえる。従来からの児童福祉は,意. 総会で「児童の権利に関する条約」が採択され,. 見表明権に代表される参加に関する能動的権利よ. 1 9 9 4年に日本政府がこれを批准したことによって. り,保護を受ける権利に基づいた対応が一般的で. 一層要請されることになった。この条約の批准に. あった。こうした対応の基盤になっている考え方. よって,それまでの救済的・保護的な子どもの権. として,「国親思想(パレンス・パトリエ思想). 4 5.
(3) 中村直樹. やパターナリズム(父権主義,父権的干渉主義) 6 ),それらが「法律 思想、」が存在し(林 2013:1. に基づき保護や監督を受けることが,子どもの権 利の実質的内容であり,子どもの最善の利益に適. 2 .要保護児童の援助と「子ども中心アプロー チ 」 要保護児童に対する援助は,何らかの事情によ. 6 )。 う」という対応を生み出している(林 2013:1. り家庭での養育が,困難または受けられなくなっ. 実際,子どもの最善の利益の決定は,子どもの意. た子ども,社会関係・親子関係や対人関係などの. 向や感情とは無関係に,その決定は公的機関や専. 不調から情緒障害や非行を起こす子どもに対する. 門職によって行われてきた。もちろん,そこには. 福祉として行われる。特に,近年,児童虐待に関. 子どもに対して最善の利益を与えようとする,熱. する相談対応件数は年々増加しており,親などに. 意や意欲があることは忘れてはならないが,子ど. よる子どもへの虐待が深刻な問題になっているこ. も自身が意思決定に参加するという考えが公的機. とから,要保護児童に対する援助の議論において. 関や専門職のなかでほとんど意識されてこなかっ. も盛んに児童虐待が取り上げられている。それは,. たといわざるを得ない。いいかえれば「大人中心. 要保護児童に対する援助において児童虐待への対. アプローチ」の児童福祉だ、ったということができ. 応が喫緊の課題となって残されていることを表し. る。こうした背景の 1つには,救済的・保護的な. ている。. 子ども観の存在,すなわち,権利主体としての子 ども観という認識の不足があるといえる。. そうした課題へのこれまでの応答として,①「介 入的ケースワークの導入(早期発見,通告,強制. 今後の児童福祉は,子どもは権利行使の主体で. 立入,警察との連携等)J,②「司法関与の強化(児. あるという視点から進められる必要がある,と本. 童福祉法 2 8条の更新制度,臨検捜索における裁判. 稿では考える。いいかえれば,子どもの意向や感. 所の許可状,接近禁止における保全処分等)J,③. 情を尊重し,子ども自身の意思決定の機会を保障. 「相談体制の充実(第一義的窓口としての市町村. する児童福祉を構築していくことが求められてい. の位置付け,児童相談所設置市の法定,児童福祉. る。本稿では,こうした児童福祉の援助を「子ど. 司配置基準の改定,要保護児童対策地域協議会の. も中心アプローチ」とする 1)。そして,それがど. 設置等 ) J をみることができる。それらの成果と. のような考え方やアイデアによって機能するのか. して,発見・通告,保護・親子分離といった児童. を検討することが本稿の目的である。. 虐待の対応が整った。. なお,児童福祉の援助の領域は,保育,障害,. このように整ったのは,被虐待児を発見して保. 要保護児童等と幅広く,その各領域で「子ども中. 護するという児童虐待対応の「前半」部分までで. 心アプローチ」を検討する作業があるが,そのよ. あり,その後,発見・保護した被虐待児をどのよ. うな課題に完全に答えるのは,ここで果たしきれ. うに治療・支援するのか,どのように家族に復帰. るものではない。そこで,児童福祉の援助の領域. させるのかなどの「後半」部分に取り組んでいる. の中でも要保護児童の場合,その援助プロセスに. のが現段階である。したがって,今日の要保護児. おいて,親子分離,児童養護施設入所,里親委託. 童に対する援助は,虐待を受けた子どものトラウ. などが伴う場合があり,その子どもの最善の利益. マの治療や家族関係支援に取り組む専門家を中心. の決定は,子どもたちに大きな影響を及ぼすこと. に,アタッチメントの形成やパーソナリテイの発. になると考える。それゆえ,本稿では,要保護児. 達への関心を強め,精神医学および心理療法の影. 童に対する援助の枠内で「子ども中心アプローチ」. 響を強く受けて発展している。それは,「児童虐. に関する検討をおこなうことにする。. 待問題の心理イ七」と述べられる状況でもある(上 野 2 0 0 6 )2)。そして,その結果として,要保護児. 童に対する援助は,子どもが抱える問題,症状や. 4 6.
(4) 児童福祉援助と「子ども中心アブローチ」. 障害に焦点が当てられ展開されることになる。 しかし,こうした考え方に基づいた援助は,社 会福祉において「治療モデル」と呼ばれ,要保護. であるかが想像されよう」というのが現状である (増沢 2012:4 1 )。 だからこそ,その 1割に含まれる子どもたちに. 児童に対する援助全体に影響を及ぼしかねない。. 対して援助していくときには「子ども中心アプ. なぜなら,治療モデルの特徴や性格には,「クラ. ローチ」が重要になってくる。それは,「過去か. イエントを病気を患う人と見なしたことから,ク. ら現在に続く,実父母から見放されたという思い. ライエントは犠牲者,責任は問われない者とされ,. は,人生における根抵の足場の喪失であり,『自. 自己責任,自立,自助などが著しく軽視J, i個人. 分の生は望まれたものではない J ~この世に必要. 的原因論に立つことから,ワーカーは治療する者,. とされていない J ~自分はだめな人間だから,こ. クライエントは治療を受ける者となり,ワーカー. んな自分に未来はない」などといった絶望へと陥. と ク ラ イ エ ン ト の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 不 足 J,. る危険」や「施設入所は,家から離れるだけでな. 「ワーカーが主導権を握り,問題解決活動へのク. く,子どもがそれまでの居場所や積みあげてきた. ライエントの参加は著しく欠如」というような考. 有形無形の財産を諦め,失う危険」をその子ども. え方が流れており(秋山 1999:5 4 ),子どもの力・. たちが持っているからである(増沢 2012:4 4 4 5 )。. 強さを尊重し,子どもによる問題や状況の意味づ. それにもかかわらず,現実に進行している援助. けといった子どもの「当事者性」が抑圧されかね. においては,「「自分たちが施設に入るとき,どん. ない,いわば「大人中心アプローチ」になってし. な理由で入る先が選ばれるのか。自分が施設を見. まう。もちろん,要保護児童に対する援助におけ. ないうちに入ることが決められており,小さい子. る「大人中心アプローチ」や治療モデルの発展は,. なら自分で判断することが難しいが,一度施設を. 被虐待児に対して有効な援助を提供しようとする. 見て,納得したい JJo この高校生の主張は,まさ. 取り組みに由るものであり,否定されるべきもの. に措置施設決定に際し子どもの意見表明の機会が. ではない。. 保障されていないことに対する不満 J (津崎 2009. しかし,本稿では,要保護児童に対する援助に. :8 5 ), i大人の判断が適切だとしても,子どもが. 「子ども中心アプローチ J,すなわち,子どもの. 納得できない措置は,子どもにとっては見捨てら. 意向や感情を尊重し,子ども自身の意思決定の機. れ,否定された思いを強めるだけ J (増沢 2009:. 会を保障する必要性や当事者性というものを求め. 1 6 3 ) や「専門職によるいかなる善意に満ちた支. る。どうしてそういうものが要保護児童に対する. 援や援助も子どもにとっては不当な介入と感じら. 援助に必要なのか,その理由について考えてみた. れることは多々あることである。子どもの感情(喪. し 、 。. 失感)は放置され,あるいは十分に対応されるこ. 元々,虐待を受けた子どもに対する対応として,. となしに,子どもの最善の利益の名のもとで,専. 児童養護施設や里親の数には制限がある。そのた. 門職による決定やその過程が正当化される J ( 林. め,虐待を受けた子どもに対する対応の 9割が在. 2 0 1 4 ) という課題をみることができる。子どもの. 1割が親子分離の伴う施設入所や里親委. 権利は,「子どもが大人に大事にされている実感. 託になる。改めて,この 1割という数字をみてみ. を持てるかどうか」であり(草間 2002:2 1 9 ),. ると,これは「社会的養護のキャパシティの限界. 要保護児童に対する援助は,その大事にされてい. によるもの」であり,以前にも増して,児童虐待. る実感を保障することに努める必要があるお。そ. が増加している現在においては,「児童相談所の. れゆえ,要保護児童に対する援助は,目の前にい. 立場からみれば,対応件数の一割の大きさしかな. る子どもたちの喪失や絶望,感情や主張を受けと. い器に対して,そこに入る子どもを選ばざるをえ. めていくことが重要になるのである。. 宅支援,. ない。そう考えれば,いかに深刻かっ重篤な状況. また,そのことの重要さは,「大切な声は「強い」. 4 7.
(5) 中村直樹. 場所から発せられるのではなく,逆に傷を負って. いうやり方である。こうした方法によって,子ど. 挫けているような,『弱い」場所から届くもので. もを権利行使の主体として位置付ける要保護児童. あり,所有を拡大していく自我から発せられる声. に対する援助,いいかえれば,子どもの意向や感. ではなし所有を削られていくプロセスのなかか. 情を尊重し,子ども自身が意思決定に参加するこ. ら届けられる」ということからも理解することが. とを保障する援助が可能となると考える。. 0 0 4:6 6 )。虐待を受けた子どもたち できる(林 2 は,その心身を脅かされた点や発達の機会や健全 な養育環境が奪われた点で,あるいは,施設入所 の場合,これまでの家族,学校,友人といった所. 3 .r 子ども中心アプローチ」の展開 ①子どもの参加と工ンパワーメント. 属(居場所)や関係を失った点で所有を削られた. 児童の権利に関する条約の批准以降,子どもに. とみることができ,要保護児童に対する援助にお. ついて 2つの見方が示された。すなわち,それは. いて,その子どもたちの「声」を受けとめる援助. 救済的・保護的な子ども観という見方と権利主体. は必要不可欠なものと考えることができる。. としての子ども観という見方である。これまでの. 一方で,子どもの「声」を受けとめることは,. 要保護児童に対する援助では,救済的・保護的な. 子どもたちの喪失や絶望を受けとめるということ. 見方に立った「大人中心」の援助が主流だが,そ. にもなる。子どもたちは,「自身の境遇ゃあり様. れは,日の前にいる子どもたちの喪失や絶望,感. を振り返り,自己評価を下げ,将来への希望を失っ. 情や主張を受けとめていく点で課題があった。救. ています」という状況にあり,その子どもたちへ. 済的・保護的な見方から権利主体や当事者性とい. の援助は,「傍らに寄り添い,『生きていていいん. う見方に立った「子ども中心」の援助が求められ. だJ 1存在する価値のある人間なんだ」というメッ. るのは,この課題のためである。それゆえ,子ど. セージを具体的な振る舞いで伝える努力を粘り強. もの意向や感情を尊重し,子ども自身が意思決定. く続けること」や「子どもの成長と未来を信じる. に参加することを保障する「子ども中心アプロー. 援助者」が必要になる(増沢 2 0 0 9:1 5 9 )。それは,. チ」による援助が必要なのである。. 援助において,「過去から現在に続く喪失や絶望. 権利主体や当事者性という見方に立った要保護. に折り合いつけ,未来に向け希望を抱くことが最. 児童に対する援助は,子どもの参加が重要であり,. 大の課題」であることを意味している(増沢 2 0 1 2. それを可能とするのがエンパワーメントに基づく. :4 5 )。だからこそ,要保護児童に対する援助は,. 援助である。先述したように,要保護児童は,虐. 過去の子どもの被虐待体験およびそれに由来する. 待によってその心身を脅かされた経験や発達の機. 症状・障害等の弱さや問題点への着目だけではな. 会や健全な養育環境が奪われた経験で,あるいは,. く,子どもの力・強さ,潜在力・回復力への着目. 施設入所の場合,これまでの家族,学校,友人と. によって支えられる未来を志向した援助という考. いった所属(居場所)や関係を失った経験で,パ. え方が重要になる 4)。それゆえ,援助においては,. ワーレス(自己非難,自己否定感,無力感,自信. 子どもの力・強さを尊重し,子どもによる問題や. 喪失)の傾向にあり,自尊感情が育まれない場合. 状況の意味づけといった子どもの「当事者性」が. がある。そうした子どもの感情は,子どもの参加. 求められることになる。. に大きく影響する。それは,「コミュニティプロ. 以上のように,「子ども中心アプローチ」とい. ジェクトに関わりたいという子どもの欲求やその. うのは,現実に進行している要保護児童に対する. 能力を踏みにじる最大の要素は,自分自身に対す. 援助において,子どもの意向や感情を受けとめる. る感情」であり「自尊感情 ( s e l f e s t e e m ) が乏. ための考え方である。そして,当事者性や未来志. しい子どもは,自分の考えや感情をゆがめて伝え. 向の枠組みで援助を組み立て,機能させていくと. c o p i n gmechanism) を発達 てしまう防衛機制 (. 48.
(6) 児童福祉援助と「子ども中心アブローチ」. させる傾向があるので,こういう子どもはグルー. たる」というソーシャルワークの問題認識を「問. プに参画することがとくに難しい」と言われたり. 題はクライエント自身が語ることばや物語の中に. (Hart=2 0 0 0:3 0 ),あるいは,「子どもの参画. 立ち現れるものであり,その解決もクライエント. を可能とするには,子ども自身が権利意識をもっ. の言語によってなされる現実構成の営みに帰結す. てセルフ・アドボケイトが可能な心的状況に身を. る」という認識に大きく変化させたといえる(和. 置くことが前提」であり「権利意識とは「自分を. 気 2 0 0 5:2 1 0 )。. 大切にしたい」と思う心の有り様であるといわれ. これまでの要保護児童に対する援助は,援助者. る。換言すれば自尊心といえる」と言われたりす. と子どものコミュニケーション不足があり,援助. 0 1 3:1 6 ),子どもの参 ることが示すとおり(林 2. 者が主導権を握り,問題解決活動への子どもの参. 加は,子どもが自分自身をどう感じているのかと. 加は著しく欠如しており,子どもによる問題や状. いうことと関係している。要保護児童の場合,過. 況の意味づけといった子どもの「当事者性」が抑. 去の経験に喪失や絶望が含まれることが多く,子. 圧されてきた。いわば,それは「大人中心アプロー. どもたちの参加の保障に際しては,こうした過去. チ」であった。したがって,子どもが過去の経験. の経験や感情に関与する援助が求められる。そし. について,当事者の立場から構成されるオルタナ. て,それを可能にするのが,エンパワーメントで. ティブ・ストーリーとして語れるように援助する. ある ( K i r t o n2 0 0 9:1 2 1 1 2 2, CookerandA l l a i n. ことは,子どもをエンパワーメントするうえで臨. 2 0 1 3:7 5 7 6 )。. 床的な意義や効果があると考えられるの。それは,. エンパワーメントは,「意識化をとおして過去 の経験により内面化されたパワーレス 難,自己否定感,無力感,自信喪失. 自己非. から回復し,. 子どものパワーレスからの回復は,子どもがエン パワーされることで促されるものであり,それは, そうした援助プロセスに当事者として子どもが参. 自己効力感,自尊感情を獲得することを要求する」. 加することで達成される。そして,ライフストー. という特徴を持ち(久保2000:1 1 7 1 1 8 ),そのプ. リーワーク(li f es t o r ywork) は,そうした考え. ロセスは人と人との対話・コミュニケーションを. 方を含んだ実践である。. 通して達成される。それゆえ,子どもたちの「声」. ライフストーリーワークは,「その子どもの今. を受けとめることのない援助は,子どもたちの絶. 日までの人生をその子とともに協同して探索する. 望や喪失をそのままにするばかりか,パワーレス. もの」であり,その作業によって「子どもたちが,. に追い込むことも考えられる。. 自分の幼少期の体験や価値ある存在としての自分. また,エンパワーメントは,「クライエントと. を理解することを助け,また,前向きな自己意識. ワーカーのパートナーシップによって展開」され. の形成やこれからの感情的な発達を支える」こと. (久保 2 0 0 0:1 2 5 ), iクライエントが日々の現実. l l a i n2 0 1 3 に貢献するものである (CookerandA. を作り上げることの意味に近づくことに関心を向. :7 7 )。喪失や絶望の経験を含む過去を持つ子ど. ける J iクライエントにとってもっとも意味があ. もは,自己非難,自己否定感,無力感,自信喪失. ると感じるクライエントの物語と認識を受け容れ. など自分自身をどう感じるかということに課題が. る」など(久保 2 0 0 0:1 2 1 ),社会構成主義の影. ある。ライフストーリーワークは,そうした子ど. 響を強く受けている。社会構成主義は í~現実』. もたちが当事者として援助プロセスに参加して,. なるものが客観的に実在するのではなく,それが. 援助者との対等でバランスのとれた対話・コミュ. 今を生きる人びとの言語的な共同作業によって社. ニケーションによって,建設的な感情や自己意識. 会的に構成される」という考え方である(和気. の形成を支える方法である。. 2 0 0 5:2 1 0 )。そうした考え方は,「これまで専門. また,ライフストーリーワークでの子どもたち. 家が客観的に問題を把握し,その合理的解決にあ. と援助者との対話・コミュニケーションにおい. 49.
(7) 中村直樹. て,「子どもの感情的な辛さや困難な問題にかか. 要である 8)。それは,ある施設長が i ( 社会的養. わる力を育むこと,子どもが自らの過去に関する. 護を必要とする)子どもたちには,荒れる権利が. 難しい質問をすること」などを保障することが援. あると思います」と述べていることからも理解で. 助者に要請される (CookerandA l l a i n2 0 1 3:. 0 1 2 )。大人同様に,子どもの行動だ きる(横堀 2. 7 7 )6 )。その意味でも,ライフストーリーワークは,. けではなく,その子どもの根抵にあるもの一悲し. エンパワーメントと子どもの声を聴くという子ど. み,喪失,絶望ーを見つめた対応が援助者には求. もの権利とが関連し合った実践であると言える。. められるのである。. ただし,要保護児童と援助者との対話・コミュ. しかしながら,こうした悲しみ,喪失,絶望に. ニケーションの際に,覚えておかなければならな. ばかり焦点をあてるのではなく,エンパワーメン. いのは,「子どもたちは脅かされた経験やトラウ. トは「病理や弱さを認めながらも,それ以上に当. マ体験を抱えているため,それらが混乱や怒りの. 事者の強さや可能性に着目し,その強化と開発に. 感情となって大人(援助者)に向けられる」とい. よって問題の解決を図ることに力点をおく」もの. うことである (CookerandA l l a i n2 0 1 3:6 8 )。. である(和気 2 0 0 5:2 1 1 )。すなわち,援助者は. それゆえ,援助者は子どもとの対話・コミュニ. 問題ではなく子どもの強さや潜在的な力に焦点を. ケーションに臨む場合,「忍耐,信頼,理解を貫. あてるのである。このような視点は,レジリエン. くこと」がその姿勢として問われるのである. スの考え方によって強化され,悲しみ,喪失,絶. (CookerandA l l a i n2 0 1 3:6 8 )。援助者として. 望に立ち向かう子どもの当事者性や可能性をエン. 苦しいかかわりが続くかもしれないが,苦しんで. パワーメントする援助は解決志向のアプローチ. いるのは子どもたちも同じであり,援助者が忍. ソリューション・フォーカスト・アプローチ,サ. 耐・信頼・理解の姿勢を一貫して示していくこと. インズ・オブ・セイフテイ・アプローチ. は,「子どもを見放すことは傷ついた子どもにさ. て一層展開されていくと考える。. によっ. らなる不信と絶望を与えること」にならないため. 0 0 9:1 5 8 )。 にも必要なのである(増沢 2. ②レジリエンスの視点と解決志向のアプローチ. また,こうした姿勢に関して,ソーシャルワー. 要保護児童は,虐待によってその心身を脅かさ. カーのボブ・ルイスの話が思い起こされる 7)。そ. れた経験や発達の機会や健全な養育環境が奪われ. れは,「ある男性が最愛の子どもを病気で亡くし,. た経験,あるいは,施設入所の場合,これまでの. 深い悲しみの渦中にあった。物静かな男性だ、った. 家族,学校,友人といった所属(居場所)や関係. が,その時ばかりは声をあげて狂ったように行動. を失った経験を持つが,こうした経験をしたすべ. したという。しかし,まわりの人たちは,そうし. ての子どもたちの発達や社会生活にネガテイブな. た行動の背景には深い悲しみや喪失があると理解. 影響が表れるわけではない(馬場・門永・ウンガ. し,誰も男性の行動を責めたりすることはなかっ. → 也 2013,門永 2013)。実際,「貧困家庭での生. た」という話である。この話を通して示された問. 活,被虐待体験,施設養護体験,あるいは未熟児. 題提起は,一般的に,私たちは大人に対してはこ. として出生することなどは,子どもの発達や精神. のような理解と対応をとるが,混乱や怒りをぶつ. 保健上のリスクとなる。しかし,これらのリスク. けてくる子どもに対しては,同様の理解と対応を. を持ちながらも,良好な発達や社会適応をする人. せず,それを問題行動と捉えてしまってはいない. がいる」のである(庄司 2 0 0 9:3 5 )。このように,. だろうか,というものであった。要保護児童と呼. 喪失や絶望,逆境的な経験にもかかわらず良好な. ばれる子どもたちの多くは,悲しみ,喪失,絶望. 発達や社会生活を送るための高い適応力を示す子. を経験しており,大人同様に,混乱や怒りを示す. どもたちを見ることができる。そして,虐待や親. こと,そして,それを認められ許されることが必. 子分離などの逆境にあっても,「なぜ幾人の子供. 50.
(8) 児童福祉援助と「子ども中心アブローチ」. たちが不利な状況 (disadvantagedcircumstan-. 『家族の複雑性を整理できていること J, 1自分が. c e s ) で申し分なくできるのか ( d owel l )J を説. 今ここにいることを受け入れていること J, 1将来. 明するために考案されたのがレジリエンス. について前向きな見通しがあること JJ の 5つが. ( r e s i l i e n c e ) という考え方である(石原・中丸. 挙げられており(門永 2 0 1 3:3 5 ),要保護児童に. 2007:5 7 )。 レジリエンスは,「リスクの存在や逆境にもか かわらず,よい社会適応をすること J (庄司 2009. 対する援助の内容に,こうした特性を含むことに よって,子どもたちのレジリエンスを促すことが 期待できると考えられる。. :3 6 ), 1困難な状況においても苦痛を感じながら. また,レジリエンスを捉える視点として,「子. も,その後の適応的な回復を導く心理的な特性」. どもの傷付きやすさ」と「子どものレジリエンス」. (葛西・藤井 2013:2 9 6 ), 1ストレスに対処する. の 2つの次元を捉える枠組みがあり(表 1),そ. 力だけでなく逆境にあっても希望を持ち前向きに. れは,「バランス・シート」と呼ばれ ( K i r t o n2 0 0 9. 考えていく力 J (CookerandA l l a i n 2013:1 1 3 ). :2 7 ),援助プロセスにおいて,傷付きやすさに. などと定義される。このように,レジリエンスの. 対してはその補償,レジリエンスに対してはその. 考え方は研究者によって様々であり,その定義は. 促進が求められ,レジリエンスの促進に関しては. 未だに一致したものはない。しかしながら,本稿. ) 表にまとめたような要因が示されている(表 2。. にとって,レジリエンスの重要な意味は,要保護. こうした 2つの次元でレジリエンスを捉える枠組. 児童に対する援助において,例えば子ども時代の 表 1 傷付きやすさとレジリエンスの発生源. 虐待体験はその後の人生に大きな影響を与えると して,そのネガテイブな側面に対応する治療モデ ルの言説によって形成されてきた見方だけではな く,そのような体験を跳ね返せる力が存在すると. 傷付きやすさの発生源 子 障害 ど も 早い時期からの被虐待経験. 親. の立場とは関連が深いのである。 それでは,要保護児童は虐待や家族分離,養育. 良好な愛着関係 良好な自尊感情 良好な兄弟姉妹関係. いう見方を提供する点である。レジリエンスの考 え方は,子どもの力・強さを尊重するという本稿. レジリエンスの発生源 高い I Q. 低年齢. 家庭内暴力. ソーシャルサポート. 深刻な薬物乱用. 親の健全な子ども時代. 慢性の精神疾患. 良好な親の健康状態. 者 育 養. 教育. 仕事の役割. 者の変更等の経験があるのにもかかわらず,そう. 茨退地域. 献身的な大人の存在. した子どもたちのレジリエンスが促されるのはな. 家 庭 学校との乏しい繋がり. ぜか,ということについてみていきたい。. と 脆弱なソーシャルサポート組織 強いコミュニテイ. レジリエンスの要因として,「生物学的要因, 統制の所在と帰属理論,ソーシャルサポート」の. 境 環. 良好な学校生活体験 良好なサービス/サポート. 貧困. 孤立 出所. K i r t o n2009:28より筆者作成。. 3つ要因から説明される ( D o y l e2012:1 7 8 1 8 1 )。 表 2 レジリ工ンスの促進要因. そして,レジリエンスを促すうえで,「拡大家族 のメンバー,家族外の大人,友人,学校,信仰, ベットから得られる支援は,児童虐待に対する援 助において有効である」ことが示されている (Doyl e 2012:1 8 1 1 8 7 )。さらに,こうした支 援に加えて,児童養護施設に入所する「レジリエ J ントな入所児(良好な適応状態にある子ども ). に共通する特性として,「『心身の安全が確保され ていること J, 1周囲の支えを認識していること J,. -家族メンバー(兄弟姉妹を含む)と重要な他者 とのかかわり -良好な学校生活経験 -同じ境遇の者との交流 -興味・関心と才能の育成 .問題解決スキルの習得 -向社会的資質の促進 出所. K i r t o n2009:27より筆者作成。. 5 1.
(9) 中村直樹. みは,他にも「リスク要因」と「防御推進要因」. A さんは,この出来事をきっかけに,「八百屋. という考え方があり,リスク要因は「不全への機. のおばさんが,いつでも自分を引き取ってくれる。. 会を助長するあらゆる影響のこと J,防御推進要. 自分はすべてから捨てられたわけじゃなかった」. 因は「リスクを緩和する内的な資源と外的な資源. 6 )。それは, ということを実感する(椎名 2000:4. の両方を含むもの」とされる(馬場・門永・ウン. 先述したレジリエンスの促進要因でいう家族外の. ガ他 2 0 1 3:3 6 )。そして,リスク要因と防御推. 大人や重要な他者との出会いであり,それによっ. 進要因には 2つの特性が示されており,. て,「それからも,両親は変わらなかったけど,. 1つに,. それぞれの要因は「積み重なったり蓄積されたり することによって」個人に影響を及ぼすこと,. 2. なぜか,自分はいつでも八百屋のおばさんのとこ ろに行けると思えて,何をされてもがまんできた」. つに,「この 2つの要因が,常に互いに相互に作. というように(椎名 2000:4 6 ), A さんのレジリ. 用し合っている」ことがいわれている(馬場・門. エンスを機能させたと考えることができる。. 永・ウンガ他 2 0 1 3:3 6 )。. レジリエンスの考え方の重要な点は,子ども時. 以上から理解できるように,レジリエンスの促. 代の虐待体験はその後の人生に大きな影響を与え. 進は,「リスク要因と防御推進要因の力動的なせ. るが,その問題は子どもや家族の病理に帰属する. めぎあい」によって(馬場・門永・ウンガ. 問題という捉え方がすべてでないことを明らかに. 他. 2 0 1 3:3 7 ),人との出会いといったターニング・. したことである。それは,「「人物J 1出来事J 1環. ポイントや日々の生活のポジテイブな体験の積み. 境」に関わる条件によってレジリエンスを機能さ. 重ねによって達成されるものである。ここで,人. 0 0 6:2 3 ), せる」ことができることを示し(下西 2. との出会いがターニング・ポイントになった出来. 子どもと関係する大人すべてに帰属する問題とい. 事として次の話を紹介したい。. う捉え方を可能にしたのである。それゆえ,要保 護児童に対する援助には,レジリエンスの特性を. 話は Aさんが小学生だ、ったときのことですけ ど,両親はいつも喧嘩していて,. Aさんはひど. く殴られていたんだそうです。ある日あまりに. 理解して,子どものレジリエンスを促す援助が要 請されるのである。 なお,解決志向のアプローチ. ソリューショ. もひどいので,家を飛び出して近所の八百屋に. ン・フォーカスト・アプローチ,サインズ・オ. 逃げ込んだ。偶然入った庖だ、ったけど,八百屋. ブ・セイフティ・アプローチーについて,紙幅の. のおばさんは話をよーく聞いてくれて「来たく. 都合上,その要点をのみを記し,詳細は次回以降. なったらいつでもおいで」と言ってくれたそう. の論文にて論じたい。. です 0 ・・・(中略)・・・その後, A さんは何度と. ソリューション・フォーカスト・アプローチ. なく八百屋さんに逃げ込んだ。何度目かのある. (Solution-FocusedApproach) は,「『クライエ. 日,おばさんは A さんの話を聞くと, Aさんの. ント各人の思考の枠組みの中で作業することが最. いて彼女の家に押しかけこう言った。「あ 腕をヨ l. 重要である」という信念」の下,「クライアント. んたら,こんなかわいい子どもを産んでおいて,. と共同してクライアントの満足のいく未来のイ. よくも殴ったり,喧嘩ばかりしていられるもん. メージをつくること」と「両者の協力でクライア. だ。いいか,これ以上この子を悲しませたら,. ントの長所と力量を理解し,それを使って未来の. この子はわたしの娘にするよ!J。そして,振. イメージで作業すること」を目指すものである. り返ると,「いいかい Aちゃん,この家がイヤ. (DeJong& Berg=2008:4)。そして,この. になったら,いつでもおばさんの家の娘になり. アプローチは,解決構築と言われる面接の仕方で. なさい。いつでも夜中でも待っているから」と。. あり,その解決構築の基本的段階を示すと,「問. 6 )9) (椎名 2000:4. 5 2. 題の描写 J 1ウェルフォームド・ゴールを作るこ.
(10) 児童福祉援助と「子ども中心アブローチ」. とJ1例外探し J1面接の終わりのフィードパック」 「クライアントの進歩の評価」であるが (De. マイナス要因を抑えると同時にどんな困難な状況 にも必ず存在するプラス面を探して,可能性の広. J ong& Berg=2 0 0 8:2 8 ),解決構築は「ウェル. がりと希望のエネルギーを糧に未来の生活を作っ. フォームド・ゴールを作ること」と「例外探し」. ていく」という考え方を持っている(井上・井上. をもとに解決を作り出すことの 2つの活動にまと. 2 0 0 8 a :3 8 )。. められる。すなわち,このアプローチは,「問題. このように,ソリューション・フォーカスト・. にではなく,解決に焦点をあてる」という f 生十各を. アプローチとサインズ・オブ・セイフテイ・アプ. B e r g = 1 9 9 7:3 3 ), 1 解決を構築する もっており (. ローチは,当事者性や可能性の尊重,そして未来. 方が,問題を解明するよりはるかにやさしくて有. 志向であることなどが共通している。そして,今. 益」という考え方に基づいている (Berg=1 9 9 7. 回は要点のみの記述であり,その詳細な検討は課. :3 3 )。. 題として残されているが,両アプローチとも,要. サインズ・オブ・セイフテイ・アプローチ. 保護児童に対する援助において,子どもが当事者. ( S i g n so fS a f e t yApproach) は,「児童虐待事. として援助プロセスに加わり,その意向や感情が. 例で,子ども・家族とパートナーシップを築きな. 大切にされエンパワーされていくことに大きく貢. がら,厳密な意味で不適切な養育を改善すること. 献できると考えられる。. はどうやってできるのか?J に応えるためのつく られたアプローチであり(井上・井上 2 0 0 8 b 1 4 ),それは,「ワーカーが関わることになった具. 4 . おわりに. 体的事件及びリスクも取り上げ,具体的な事件が. 子どもは権利行使の主体であるという視点を重. もう二度と起きないことが確認できるように肯定. 視し,子どもの意向や感情を尊重し,子ども自身. 的側面を使ってリスクを低減させたり,安全とい. の意思決定の機会を保障する児童福祉援助の構築. うゴールを利用者が目指すのを支援する」という. において,本稿が論じた「子ども中心アプローチ」. 0 0 8 a :3 8 )。 考え方をもっている(井上・井上 2. の考え方は必要である。本稿が「子ども中心アプ. また,サインズ・オブ・セイフテイ・アプローチ. ローチ」の検討の場とした要保護児童に対する援. の特徴としては,「当事者の声に耳を傾ける J 1二. 助においては,要保護児童という言葉が表すよう. つの「よい関係』を重視する J 1三つのことに焦. に,子どもは保護される存在・対象として見なさ. 点を当てる J 1情報を整理し支援計画を一緒につ. れ,大人が援助の中心となる傾向にあった。もち. くっていくための 1枚の地図」があるが(井上・. ろん,そこには子どもに対して最善の利益を与え. 0 0 8 b :1 5 1 8 ),その中心は,「三つのこと 井上 2. ようとする,大人たちの熱意や意欲があることは. に焦点を当てる」という子どもや家族と援助者が. 忘れてはならないが,大人中心の援助だけが子ど. 話し合うプロセスである。「三つのことに焦点を. もの最善の利益を実現するものではない。本稿の. 当てる」とは,「三つの何」とも呼ばれるもので,. 検討を通して,子どもを中心においた援助でも子. 1 (1 ) Whata r eweworriedabout? 私たちは. どもの最善の利益の実現の可能性を示せたといえ. ( 2 ) Wha t 'sg o i n gw e l l ? イ 可 を d心配しているか?J 1 うまくいっていることはイ可?J 1 ( 3 ) Whatneeds. る 。 権利主体や当事者性という見方に立った要保護. t ohappen? 何が起きる必要がある?J の 3つの. 児童に対する援助は,子どもの「参加」が必要で. 質問に答えを出していきながら,「リスク,安全,. あり,それを可能とするのが「エンパワーメント」. 未来の安全な生活」について子どもや家族と援助. に基づく援助であった。しかしながら,要保護児. 0 0 8 a 者が考えてく方法である(井上・井上 2. 童には虐待や親子分離などの経験による悲しみ,. 3 8 )。すなわち,この方法は,「状況が持っている. 喪失,絶望といった逆境にある子どもたちが多く,. 5 3.
(11) 中村直樹. 援助はそのことが子どもの成長や人生に与えるネ. る人がいて,私はしあわせ。この言葉を聞くことが児. ガティブな影響に焦点化する傾向にあった。その. 童福祉のゴールだと d思わされる ~J (横堀 2 0 1 2 )。. ような援助も重要ではあるが,大人中心の構図を. 4) こうした視点(着目)の転換の重要性は. 1児童虐待. は間違いなくラベリング、理論に沿った思考を促す。つ. もって表現できる援助になってしまう。子どもの. まり,人間は児童虐待者というラベルを貼られること. 「レジリエンス」は,逆境にもかかわらず良好な. によって,自分が児童虐待者であると見なすようにな. 発達や社会生活を送るための高い適応力を示す力 である。こうしたレジリエンスの理解によって,. る」ということからも理解できる (Hacking= 2 0 0 6: 3 3 3 )。つまり,子どもに虐待の被害者であるというラ ベルを貼ることや診断することは. 1ラベル貼りや介入. 援助者は子どもが逆境にあってもネガテイブな影. それ自体が,被害者意識を植えつけ,トラウマを与える」. 響だけではなく,子どもの強さや潜在的な力に焦. や「自分は被害者である経験したりするのは,彼女の. 点をあてることが可能になる。そして,そうした. 人生がそうしたケースであると扱われた後になってか. 子どもの強さ・潜在力・可能性を理解し,当事者. らなのだ、」という意識や認識をつくり出す (Hacking= 2 0 0 6:3 3 3 )。それゆえ,要保護児童に対. 志向で、未来に向かった解決を構築していく援助が. する援助においては子どもの時代の被虐待体験は後. 「ソリューション・フォーカスト・アプローチ」. の人生に大きな影響を与える」という立場の援助を強. や「サインズ・オブ・セイフテイ・アプローチ」. 調するのではなく. 1 子どもの時代の体験は後の人生に. 大きな影響を与えると言われるが,そんなものに人の. によって示唆された。. 一生が規定されてしまうほど,人生の可能性は閉ざさ. なお,本稿で示したことをもって,「大人中心 アプローチ」が子どもの最善の利益を実現できな いと見なしたわけでもなければ,「子ども中心ア プローチ」のみが子どもの最善の利益を実現でき. れてはいない」という立場で(林 2 0 1 4 ),援助に臨む 必要があると考える。 5)同様に下西は次のように述べている。「子どもへの虐 待は,おとなと子どもとの圧倒的な権力関係を背景に 起こる。そして,虐待行為は~しつけ」や『愛情の表. ると見なしたわけではない。この 2つのアプロー. 現~. チが,常に互いに相互に作用し合っていくことで. 許容されてきた。それゆえに,子どもはそれらの不当. 子どもの最善の利益が実現できるものと考える。. な扱いを「不当』と抗議することも,暴力を暴力とし. しかし,そのことに関する検討は本稿では果たさ. ~教育』という大義名分の下で,社会的・文化的に. て語ることも奪われてきたのである。したがって,子 どもが虐待についてのオルタナテイヴな視点を獲得し,. れていないから,今後の課題として残されたと言. 自己帰責化することなく体験を「語りうる物語」とし. わねばならない。. て語れるように援助することは,子どもをエンパワー するうえで不可欠であろう J (下西 2 0 0 6:2 7 )。. 、王. 6)その際の援助者のあり方として次のような子どもと の対話・コミュニケーションの態度・姿勢が求められ ると考える。「支援者に対しては子どもへの説明力や傾. 1)類似した考え方に,子どもに関する立法・政策等の. 聴力が求められる。説明力とは支援者のゆらぎのない. 領域において「権利基盤(型)アブローチ ( r i g h t s b a s e d J. 態度や回答を提示することではなく,むしろ支援者が. approachJJ がある。援助領域において議論する子ども. 弱さや迷いを表現しつつ,子どもとの対話に努めるこ. 中心アブローチと領域は異なるが,このアプローチは. とである。権威意識でもって子どもを諭すということ. 「子どもの権利条約等の国際文章に掲げられた権利の. ではなく,対応における支援者自身の戸惑いや苦悩を. 保障を立法・政策立案・意識啓発等の取り組みの基盤. ことばでもって提示することは,その対話が子どもの. に据えなければならない」というものであり(平野 2 0 1 3. 心に響き,その対話を肯定的に受け入れることを促す. :1 4 ),それぞれ考え方として重なり合う部分がある 0. 傾向にある。権威や強さを誇示して支援者自身が心を. 2)児童虐待の観念が社会によって構成されていく ( 制. 閉ざすのではなく,まず支援者自身が聞かれた状況に. 作され形成されていく)ことについては. 1 種類の作成. 児童虐待の場合」を参照されたい (Hacking=2 0 0 6 )。 3)同様の内容を,横堀は福田垂穂の発言を用いて次の. 身を置くことが大切で、ある J ( 林 2 0 1 3・1 7 )。. 7)ボブ・ルイスの話および問題提起は, 2014年 8月 3 日に行われた講演 ( 1 子どもの視点から見た子どもの権. ょうに述べている。「“I'm s ohappy,becausesomebody. 利 J ~第 9 回ファミリホーム全国研究大会・北海道大. c a r e sf o rme, " ~自分に関心をもって愛情を注いで、くれ. 会~)の中で彼が話したものを筆者がメモしたものであ. 54.
(12) 児童福祉援助と「子ども中心アブローチ」. 000・4 7 )。そして,この話と本文中に紹 略)~ J (椎名 2. る 。. 8) 喪失が起きると,人は喪失感を癒すために次のよう. 介した A さんの話と合わせて,次のようにまとめてい. 'Aさんも, Bさんも. Cさんも,親のところに居. なプロセスを通ることがグリーフケア(深い悲しみを. る 。. 癒すケア)においては知られている。これらは自然の. 場所がなかった。だけど八百屋のおばさん,パン屋の. 反応・誰もが体験することであり,こうした感情を抑. おばさん,ソパ屋のおじさんがこころの拠り所となり,. 圧してしまうと悲しみを癒す作業はうまくいかなくな. 000:4 7 ), その後の一生までも支えてくれた J (椎名 2. る 。. 「親に愛されなくても,誰かを信頼できた,優しくさ. 喪失によるグリーフが癒されてゆくプロセス(水津・. れたという経験があれば,生まれてきてよかったんだ. 010:2 3 ) ジョンソン 2. 000 と思え,その後を生き抜くことができる J (椎名 2. ステージ 1 ショック/否認。混乱する。喪失が大き. :4 7 )。この話は,レジリエンスの考え方と強く関連し. いと日常生活が中断する。. ているといえる。なお,レジリエンスは「生き抜く力」. ステージ 2 怒り/悲しみを怒りに変えるのは自然な. と解されることもある。. 流れである。 ステージ 3 やりとり,かけひき/不条理な喪失に対. 文. して,もしこうしていたら起こらなかったのでは?と. 献. 心の中でかけひき,やりとりをする。喪失を合理化し 干火山繭二 ( 1 9 9 9 ) ,ジ、エネラル・ソーシャルワークの実 E 支. ようとする。 ステージ 4 孤立感/抑うつ感(落ち込み)を感じる。. 概念」太田義弘・秋山繭二『ジ、エネラル・ソーシャル ワーク一社会福祉援助技術論一』光生館, 43-820. 物事に納得ができず孤立感や恐れ,混乱を感ずる。 ステージ 5 受容/喪失体験が情緒の深いレベルに達. 馬場幸子,門永朋子,マイケル・ウンガ. 2 0 1 3 ), 児 他 (. する時期。喪失を認め,人生を歩む選択をしはじめる。. 童養護施設における子どもたちの成長一リジリエンス. 自分の人生が喪失によって終わったのではないことを. 概念による事例検討. J ~ソーシャルワーク学会誌』第. 2 6号 , 2 3-480. 理解する。 ステージ 6 再創造(人生のやり直し)/自分の人生. Berg.InsooKim ( 1 9 9 4 )FAMILYBASEDSERVICES:. を再び歩もうとする。そのさいに,喪失にどんな意味. AS o l u t i o n F o c u s e dAρ r o a c h .W.W.Norton& CoInc. があったのかを受け止める。喪失を踏まえ,再び自分. (=1 9 9 7,磯貝希久子監訳「家族支援ハンドブック」. と周囲の人との関係でなにを再構築していくかを考え. 金剛出版)。. C o c k e r .C h r i s t i n eandA l l a i n .L u c i l l e( 2 0 1 3 )S o c i a lWork. る 。. 9)椎名は同様の話をもう 1つ挙げているので紹介した い。「両親に捨てられ,養護施設で過ごしていた三人姉. d i t i o n .SAGE. w i t hLookedA l t e rC h i l d r e n,SecondE DeJ o n g .Peter& Berg,InsooKim( 2 0 0 8 )I n t e r v i e w i n g. 妹のもとに突然実母が「子どもたちを引きとりたい』. ,3rdEdition,CengageLearning(=2008, l o rS o l u t i o n s. と言って現れたことから始まる。長女(一一歳)は,. 桐田弘江・玉真慎子・住谷裕子訳「解決のための面接. 自分は施設に残ると言ったが,次女の B さん(八歳入. 技法. 三女の Cさん(七歳)は母親と暮らすことを選び,借 家に移った。しかしは母親はほとんど家に帰って来ず, たまに家に帰ると立でなくなるまで子どもたちを殴り,. ソリューション・フォーカスト・アプローチの. 手引き」第 3版』金剛出版)。. Doyle.Celia( 2 0 1 2 ) 杯、 r kingwithAbusedChildren:. F o c u so nt h eC h i l d ,4e d i t i o n,PalgraveM a c m i l l a n .. 食料を用意することもなかった... (中略)・・・『パ. Har . tRoger(1997) Children' sP a r t i cψa t i o n :TheTheory. ン屋で万引きして,電気もガスも止められ部屋で食べ. andP r a c t i c eo l I n v o l v i n gYoungC i t i z e n si nCommun-. て,じっとうずくまっていた。あんまりひどい生活を. i t y Develo ρment and Environmental Care,. しているので,心配した近所のソパ屋のおじさんがソ. Earthscan/UNICEF (=2000,木下勇・田中治彦・南. バを届けてくれたそうなんです~. Bさんたち三人姉妹. はいまは結婚をして,子どもをもうけ幸せに暮らして いる。. B さんが『あの頃』を振り返った手紙には~知. らぬふりをしてパンを盗ませてくれたパン屋のおばさ ん,母親に見つかると「関係ない,帰れ」と怒鳴られ ながらも届けるのをやめなかったソパ屋のおじさん。 愛してくれるはずの親や,助けてくれるはずの施設の 先生から虐待を受けた私たちですが,そのやさしさだ けは忘れずにがんばっていこうと思います・・・. ( 後. 博文監修,. IPA日本支部翻訳「子どもの参画. コミュ. ニテイづくりと身近な環境ケアへの参画のための理論 と実際」. 萌文社)。. 林浩康 ( 2 0 0 4 ) ~児童養護施策の動向と自立支援・家族支 援」中央法規出版。. 林浩康 ( 2 0 1 3 ) ,子どもの最善の利益に適った児童福祉シ ステムの再構築 J ~世界の児童と母性」第 75号, 1 5 1 90. 2 0 1 4 ) ,子どもにとっての最善の利益を考えよう」 林浩康 ( (~第 9 回ファミリホーム全国研究大会・北海道大会」. r : : : r : : : : : J : : J.
(13) 中村直樹. 紘章・副田あけみ『ソーシャルワークの実践モデル」. 基調講演配付資料)。. Hacking.lan ( 1 9 9 9 ) THESOCIALCONSTRUCTION. OFWHAT?HarvardUniversityPress(=2006,出. 川島書庖, 2 0 5 2 2 60. 2 0 1 2 ) I~家庭」を求める人たちとともに暮ら 横堀昌子 (. 口康夫・久米暁『何が社会的に構成されるのか』岩波. して J (社会福祉法人杜の会児童養護施設社の郷主催講. 書庖)。. 演会『施設養護から家庭養護へ. 平野裕二 ( 2 0 1 3 ) I国連勧告に見る『子どもの最善の利益」. 子どもたちから見た. 社会的養護』配付資料)。. 1 1 40 の現状J ~世界の児童と母'性」第 75 号, 1 2 0 0 8 a ) I子どもの願いに耳を傾ける 井上薫・井上直美 ( :児童養護施設職員との共働研究 J ~ブリーフサイコセ ラピー研究~. 1 7 (1 ) , 3 7 4 70. 2 0 0 8 b ) ~子供虐待防止のための家族 井上直美・井上薫 ( 支援ガイド. サインズ・オブ・セイフテイ・アプロー. チ入門』明石書庖。. 2 0 0 7 ) Iレジリエンスについて 石原由紀子・中丸澄子 ( その概念,研究の歴史と展望. J ~広島文教女子大学紀. 要』第 4 2巻 , 5 3 8 10. 2 0 1 3 ) I児童養護施設における子どものレジリ 門永朋子 ( エンスの特牲に関する考察一高校進学をめぐる入所児 の語りから. J ~子ども家庭福祉学』第 12号,. 3 5 4 40. 2 0 1 3 ) Iレジリヱンスの形成過 葛西真記子・藤井美沙子 ( 程. 回想された両親像に注目して. J ~鳴門教育大学研. 究紀要』第 2 8巻 , 2 9 5 3 0 50. K i r t o n .Derek ( 2 0 0 9 )C h i l dS o c i a lWorkP o l i c y& Prac. t i c e,SAGE. 久保美紀 ( 2 0 0 0 ) Iエンパワーメント」加茂陽「ソーシャ. 0 7 1 3 50 ルワーク理論を学ぶ人のために」世界思想社, 1 2 0 0 2 ) I当事者から見た 1 0の自立支援J ~子ど 草間吉夫 ( もの権利と社会的子育て」信山社, 2 0 1 2 2 10. 2 0 0 9 ) ~虐待を受けた子どもの回復と育ちを支え 増沢高 ( る援助』福村出版。. 2 0 1 2 )I虐待を受けた子どもの喪失感と絶望感 J~こ 増沢高 ( ころの科学~ 1 6 2号,日本評論社, 4 1 4 50. 2 0 1 0 ) 宰都加佐,スコット・ジョンソン ( 水i しつぶされないために. ~悲しみにお. 対人援助職のグリーフケア入. 門~~大月書庖。. 庄司順一 ( 2 0 0 9 ) Iレジリエンスについて J ~人間福祉学 研究」第 2巻第 1号 , 3 5 4 70. 2 0 0 6 ) I被虐待児へのヱンパワーメント・ア 下西さや子 ( ブローチ一子どもとリジリアンスの視点からーJ ~社会 福祉学』第 4 7巻第 1号 , 1 8 3 10 椎名篤子「親はなぜわが子を叩くのか 景にあるもの. J ~こころの科学~. 子ども虐待の背. 9 4号 , 4 6 5 10. 2 0 0 9 ) ~この国の子どもたち 津崎哲雄 (. 要保護児童社会. 的養護の日本的構築一大人の既得権益と子どもの福祉 』日本加除出版。. 2 0 0 6 ) Iリスク社会における児童虐待一心理 上野加代子 ( と保険数理のハイブリット統治. J ~犯罪社会学研究』. 第3 1号 , 2 2 3 70. 2 0 0 5 ) Iヱンパワーメント・アプローチ」久保 和気純子 (. 5 6. (函館校講師).
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