山梨肺癌研究会会誌 10巻1号 1997
山梨医科大学第2外科における
肺癌手術症例の検討(II)
山梨医科大学第2外科 奥脇英人 高橋渉 伊従敬二
片平誠一郎 鈴木章司 保坂茂
吉井新平 多田祐輔
はじめに 1983年10月開院以来、当科において、こ れまでに219例(1996年12月現在)の原発 性肺悪性腫瘍に対する手術を経験した。 これらの症例のうち、初期の90例が術後 5年を経過したので、その後の90例と合わ せた180例に対して、前期と後期に分けて 疫学的見地から比較検討するとともに、全 体の術後遠隔成績について検討した。 対象および方法1983年11月から1995年3月までに当科
で行った原発性肺悪性腫瘍手術例180例を 対象とし、1991年1月までの前期90例と、 それ以後の後期90例とに分けて疫学的見地 から比較検討した。また全症例の術後遠隔 成績についても検討した。なお病期分類は 現在の肺癌取り扱い規約(改訂第4版)の新TNM分類に則って改め、病理病期で示
した。 結 果1年齢および男女別症例数
年齢分布は前期で48−81才、平均65.9 才、後期で38・80才、平均64.8才であっ た。 男女別では前期で男性70例(78%)、女性 20例(22%)、後期で男性55例(61%)、女性 35例(39%)と女性の割合が増加した(図1)。 2.自覚症状の有無(図2) 咳鰍、喀疾、呼吸苦、胸痛など肺腫瘍に 関係すると考えられる自覚症状を有する症 例は前期54例(60%)、後期39例(43%)と減 少し、自覚症状がなく検診または他疾患精 :二 :l l二 : 前期 (n■go) 後期 (nn90) 前期 後期男女別症例数
男 女 70例(78%) i22%)20例 55例 (61%) 35例(39%) 前期:1983.11∼1991.1 後期:1991.2∼1995.3図1
自覚症状の有無
有 無 54例(60%) 36例(4096) 39例(4396) 51例(57%)図2
組織型別症例数
前期(n・=go) .Iarge. 後期(n■go)一16一
平成9年4月1日
査中の胸部異常陰影により発見された症例 は前期36例(40%)、後期51例(57%)と増加 している。 3組織型別症例数(図3) 扁平上皮癌が前期45例(50%)、後期27例 (30%)と減少し、腺癌が前期34例(38%)、後 期55例(61%)と増加している。これは男性 の扁平上皮癌が前期43例から後期25例へと 減り、その分女性の腺癌が前期14例から後 期32例と増えたことによる。 その他にはカルチノイドや肺芽腫が含ま れる。 4病期別症例数(図4) 術後病期別にみると皿A期症例が前期39 例(43%)から後期29例(32%)へと減少し、そ の分、1期症例が37例(41%)から46例(51%) へと増加している。 5.術後遠隔成績 カルチノイド、肺芽腫症例および病期が 確定できない症例を除外した全症例の病期 別の生存率をKaplan・Meier法により算出し 生存曲線として示した。各病期の5年生存 率は1期63.5%、II期25%、 IIIA期29%、 IIIB期29%であった(図5)。 同様に1期とII期をあわせたものとIII期全 体の生存率を比較した(図6)。5年生存率は それぞれ60%、29%であった。 IV期症例1例を加えた全177例の生存曲線 を示す(図7)。全体では3年生存率59%、5 年生存率46%、10年生存率30%であった。 考 察 わが国における肺癌罹患率・死亡率は近 年増加の一途をたどっている1)。術前診断 の正確化や手術手技の向上、術中術後管理 の進歩、集学的治療などにより、各施設で の手術成績は経代的に向上しているが2)、 未だに満足のいく成績が得られているとは いえない。 当科では開院以来219例(1996年12月現 在)の原発性肺悪性腫瘍に対する手術を経験 した。ここ数年は年間20数例でほぼ横ばい となっている。前期と後期に分けて比較し病期別症例数
■■1arge 匡] small [ZZI aden。. [:コsq. 前期 後期 図4 病期別生存曲線、ぷ (臼』M醐
ge SO ?0 60 50 Sti9●1 (n=:83) 40 3e 20 S㎎・H(n.12) 10 002468101214
年 図5 Stage 1+llとStage mA+皿Bとの比較 α』1歯■Me‘●rハ100 ge 80 70 60 50 40 30 20 10 002468101214
年 図6 1ぽ 手術症例の生存曲線 0【禽pl組Me6鋤 90 80 7e 60 50 40 30 20 10 0 0 2 4 6 8 10 12 14 年 図7一17一
てみると、年齢分布では、一般に手術症例 の高齢化がいわれているが、当科の症例に おいては有意差は認められなかった。男女 別では女性の占める割合が2倍近い増加を 示している。また自覚症状のない症例が増 加していることは、検診の普及によるもの と考えられる。検診により発見された患者 においても40%に自覚症状が認められると され3)4)、受診のきっかけとして検診が大 きな役割を果たしていると考えられる。 組織型別では扁平上皮癌が減少し腺癌が 増加しているが、これはわが国の他施設で 報告されている傾向と同様であり2)5)、後 期では全体の61%を腺癌が占めている。 術後病期別にみると、IIIA期の割合が減少 し、1期の割合が増加し、全体に占める1期 の割合は51%となっている。これは前述し たように、検診での早期発見例が増加した ことに加えて、最近では、術前に系統的N2 が明らかな症例に対して手術以外の治療法 を選択することも多く、結果的にIIIA期の手 術症例が減少したものと考えられる。また 扁平上皮癌のT3症例が減少したことも原因 の一つとなっている。従って、前期では肺 門部型扁平上皮癌などの術前からIIIA期と診 断されていた症例が多く含まれており、後 期では術前に過小評価していたpN2による IIIA期症例を多く含んでいる。さらに小細胞 癌の手術適応に関して、前期ではIIIA期に対 しても手術を行っていたが、最近では原則 としてII期までを手術適応としている。 術後遠隔成績についてであるが、国立が んセンターの報告では1980年代の非小細胞 癌手術症例の5年生存率は、術後病期1期 74.1%、II期’5 O.8%、 IIIA期28.9%、 IIIB期 16.2%、IV期10.8%、全症例では43.6%であ り2)、我々の集計が小細胞癌症例を含んで いることを考慮すると、これらと比較して ほぼ同様の成績と考えられる。 また各病期とも術後5年以降の死因とし ては他疾患の割合が高いことが追跡調査に て判明している。図6に示すとおり、1期と 山梨肺癌研究会会誌 10巻1号 1997 II期をあわせたものとIII期全体の生存率に は大きな開きがありIII期症例では比較的早 期からの局所再発や遠隔転移により4年以 内に癌死するものが多く、それらを免れた ものは長期生存が得られている。このこと からも早期発見が重要であり、検診の果た す役割は大きいと考えられる。成宮らも本 会誌で検診の有効性を指摘している6)。 後期では1期症例の占める割合が増加し ていることもあり、経過は良好で、より良 い予後が期待される。 ま と め 山梨医科大学第2外科での開院時からの 手術症例180例を、前期と後期とに分けて 疫学的見地から比較検討した。また全体の 手術成績についても報告した。 文 献 1)黒石哲生、他:日本のがん死亡の将来がん・ 統計白書一罹患/死亡/予?$t−、富永祐民ほか編 集、篠原出版、東京、162・171,1993 2)成毛詔夫、近藤晴彦、他:肺癌の手術成績はど れほど向上したか?.日胸外会誌38:152−155, 1990. 3)Midthum DE,∫ett JR:Clinical presentation of lung cancer. Lung Cancer−Principles and Practice, ed by H I Pass et a1, Lippincott−Raven, Philadelfia, 421−435,1996 4)吉村明修、工藤翔二:肺癌の症状と診断の進め 方.内科78:819−823,1gg6. 5)西脇 裕、児玉哲郎:B.病理、病態3.組織型 と進展様式最新内科学大系63肺癌、呼吸器系腫 瘍、第1版、中山書店、東京、27・52,1994. 6)成宮賢行、大木善之助、他:当科における肺癌 症例の最近の動向.山梨肺癌研究会会誌9:98・ 103,1996,