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Academic year: 2021

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健康診断と画像診断(5)

胃がん

佐久間 貞行 A) はじめに 胃がんは画像診断による集団検診が行われ、かつ極めて多くの経験と研究が 積み重ねられた疾患の一つである。その結果として年々早期癌の発見される割 合が多くなり、救命率も高くなってきている。集団検診が有効であった事例の 一つと言えよう。 老人保健法に基づく胃がん健康診査の項目は、問診及び胃部エックス線検査 で、四十歳以上の者について年一回行うものとされている。胃の内視鏡検査は 精密検査、あるいは人間ドックなどの検査としては行われているが、健康診査 の項目には含まれていない。 現在我が国において、胃がんが男女ともに消化器癌のなかでは最も罹患率が 高い。次が大腸がんである。男性ではその次に肝がん、膵がん、食道がん、胆 道がんの順であり、女性では胆道がん、肝がん、膵がん、食道がんの順である。 また死亡率と推定罹患率の比である難治度の低いもの、即ち治り易いものから 列挙すると、男女ともに大腸がん、胃がん、肝がん、食道がん、胆道がん、膵 がんの順となる。 がん検診の有効性すなわち救命率の高さは、 1)その癌の発生頻度が高く、集団検診の対象となりうる 2)病巣が小さくても診断できる症状が出やすく、早期診断の可能性が高い 3)精度が優れ、簡便で、かつ費用が安い良い検査法がある の三点に依存する(5)。胃がんはこの三項目を一応満たしている疾患といえよう。 いくら良い検査方法があって有用性が認められたとしても、利用されなけれ ば意味がない。しかし意外と低いのが健康診査の受診率である。地域検診の受 診率は十数%のところが多く、なんとか30%台にならないかと努力されてい るのが実状である。老人保健法の老人という言葉に抵抗感のある方も多いよう であるが、四十歳以上の方は是非健康診査を受診されるようお薦めしたい。

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2 B) 胃がんの疫学 我が国では想定される胃がんの総患者数は、年約24万人(平成5年患者調 査)で(3)、年間死亡者数は約4万8千人(男:約3万1千人、女:約1万7千人) と多い。依然として高い罹患率、死亡率を示している。しかし胃がんの死亡率 は、我が国を含め世界の殆どの国で低下、減少する時期に入っている。 胃がんの死亡率は、男女ともに高齢者ほど高くなる。しかしこれを出生年代 別に分けて胃がんの死亡率がどのように変ってきたかをみてみると、80歳以 上を除き、出生が現在に近い年代ほど、すなわち若い年代のひとほど胃がんで は死亡しなくなってきている。しかしながら死亡率の減少の割合は1970年 台からやや減少率が緩やかになってきている。また出生年代が1945年以降 の年齢層の死亡率が際だって低いこともあり、生活様式の変化や集団検診など が胃がんの死亡率減少に役立っていると考えられる。しかし、30歳台の女性 の胃がんはあまり減っておらず、胃がん発生要因に違いのあることが考えられ る(2)。この年代の女性は妊娠など消化器症状をともなう生理的状態も多いが、あ まり症状が長く続くようなときには受診するなど念をいれることも必要である。 C) 胃がんの集団検診 胃の集団検診は現在年間約550万人の人々が受診している。胃集検は老人 保健法に基づく市町村による地域検診と、企業などによる勤労者を対象とした 職域検診があり、その方法や検診システムはほぼ一定している。それは胃集検 車などを用いたX線造影撮影による検診レベルのスクリーニングと、診療所な どで行う内視鏡などによる診療レベルの精密検査の組み合わせで行われている。 我が国の胃がん死亡率の減少は、胃がん罹患率の減少を上回り、これは胃がん の早期発見、早期治療の成果と考えられており、その一翼を胃集検が担ってい ると考えられる。また臨床疫学的な研究(case-control study)でも,過去5年間の 胃集検受診は胃がん死亡のリスクを約60%低減する効果があるという(4)。さら に集検によって発見された胃がんは、外来診療で発見された胃がんよりも予後 が良好で、これも胃集検の効果の傍証と考えられている。早期胃癌が多くみつ かったとしても、一方でX線被曝による白血病発病などの危険があるのではな いかという心配もある。しかしこれも臨床疫学的研究で発症の危険性の証拠は 認められていない(1)。また集団検診は費用が嵩むが、早期胃癌の発見の割合が高 くなることにより諸々の医療費が減るので、費用効果比の計算結果は経済的に も効果のあることが計算されている(5)

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3 D) 胃がんの病理 胃がんの基本的分類は、粘膜面のかたちで6型に分類する。表在型(0型)、 腫瘤型(1型)、潰瘍限局型(2型)、潰瘍浸潤型(3型)、瀰漫浸潤型(4型)、 分類不能型(5型)である。早期胃がんの肉眼分類もX線像から、かたちで分 類したものである。隆起型(I型)、表面隆起型(IIa 型)、表面平坦型(IIb 型)、

表面陥凹型(IIc 型)、陥凹型(III 型)、混在型に分けられる。I 型はくびれるほ ど大きく隆起したもの、II 型は凹凸はあっても比較的平坦なもの、III 型は潰瘍 状に深い陥凹があるものである。胃がんをこのような粘膜面の形態で分類する のは、診断がX線撮影でも内視鏡でも粘膜面の病変の形状によっているからで ある。 胃がんの組織分類は、組織型による分類、間質量による分類、周囲組織への 浸潤による分類などがあるが、組織型分類では分化型癌と未分化癌に大別する か、乳頭腺癌、管状腺癌の高分化型と中分化型、低分化腺癌の充実型と非充実 型、印環細胞癌、粘液癌のように細分類する。 胃がんの予後に組織型が関係 しないとはいえないが、しかしこの様な組織分類よりは胃壁への深達度やリン パ節への転移の程度の方が予後に影響する(2) E) 胃がんのX線診断 胃がんのX線診断は、検診は間接撮影で、精査は直接撮影で行われてきた。 X線間接撮影法は集団検診のために開発されたもので、はじめは蛍光板に写っ たX線透視像をレンズカメラ、後にはミラーカメラを用いて小さいフィルムに 撮ることで費用の軽減を計った。蛍光板を用いる間接撮影ではX線被曝量が多 いので、蛍光板に代わりX線量が少なくて済む蛍光増倍管の二次蛍光面をカメ ラあるいは撮像管で撮影するようになった。さらに現在では撮像管で撮った信 号をデジタル化したDR法へと移行しつつある。 X線直接撮影法も増感紙・フィルムを用いる代わりに、イメージング・プレ ートを用いてデジタル化したCR法が主流になりつつある。 X線診断画像のデジタル化がすすめば、撮像系の感度を高めることができて X線被曝量を減らすことができる。またモニタ画面による読影ができるように なるのでフィルムを用いる必要がなくなり、場所をとるX線フィルムの保管の 必要がなくなる。デジタル保管にすれば、診断に必要なとき前の検査の画像を 取り出し比較することも容易にできるようになった。 胃のX線検査を受診される方々にとって、術前の処置が必要かつ重要である。 それはX線検査にしろ内視鏡検査にしろ、診断は胃の粘膜面の状態に拠ってい

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4 るので、胃がんの検査でも粘膜面が十分に観察できるようにしなければならな い。それには胃液や食物残査などによって胃の粘膜面を見にくくしないように 検査前一定時間の絶飲食と禁煙が必要である。検査の注意書きを守っていただ くことである。 胃粘膜の状況を微細に描出するためには、胃の動きを抑制する薬剤を検査す る時間に合わせて注射する。筋が弛緩するので、瞳孔が拡大し眩しくなる。回 復するまでは自動車の運転などしないよう注意が必要である。また膀胱が弛緩 して排尿しにくくなったりする。前立腺肥大などのために尿が出にくい方々は あらかじめ注意が必要である。 胃粘膜像をすみずみまで描出するために、空気と造影剤を用いて二重造影像 を得る。そのためには適当な粘性をもった硫酸バリウムの造影剤を、適量ずつ 服用して体位を変えながらゆきわたらせる。かっては飲みにくい発泡剤、造影 剤があったが最近のものはよくなっている。適量の造影剤と空気、適切な体位 変換が検査のコツである。またCR法による画像処理も粘膜病変を見やすくし ている。 F) 胃がんの内視鏡診断 胃がんの内視鏡診断は、機器の進歩、早期胃癌症例の数多くの経験、急速発 育症例の経験などから年を追って変わってきている。当初は胃粘膜の形態的変 化が診断の根拠であったが、近年では発赤や退色、顆粒状の変化といった胃炎 類似の早期胃癌が診断の対象に入ってきた。すなわち粘膜面のわずかな異常に ついても見逃さず生検を行い、良性悪性の鑑別を試みるようになった。その結 果手術例数に占める早期胃癌の割合が増し、1960年代には20%程度であ ったものが1990年代には50%を超すようになった。これは予後にも反映 して、1960年代に40%台の5年生存率であったものが1990年代には 70%を超えている(2) 今後電子内視鏡の解像度の上昇による顆粒状病変などの形状の微細な変化、 色調の定量化による発赤、退色などの微細な変化の確実な診断ができるように なり、さらに内視鏡治療の適応の拡大が期待される。 内視鏡検査にともなう副作用は、ヘリコバクター ピロリの感染源の可能性、 穿孔など皆無とはいえないが、機器の進歩で激減している。現在は診療、スク リーニング後の精査に用いられ、健康診査では人間ドックで用いられているが、 40~50歳代の高危険群の健康診査には内視鏡検査を用いることが望ましい。

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5 G) 胃がんの超音波、CT、MRI、PET診断 胃がんの胃壁深達度診断に超音波内視鏡の応用、CT、MRIの応用など試 みられているが、胃がんの存在診断の意義は見いだされず、健康診査には用い られないと考えて良い。超音波、CT、MRI、PETいずれも腹膜浸潤やリ ンパ節転移の程度を診断するのに用いているが正診率はそれほど高くない。し かし病変の広がりや手術の適否を評価する術前の検査として行うことには有用 性が認められている。 H) おわりに 減少傾向にあるとはいえ、胃がんは日本人にとってまだまだ十分な注意と努 力を必要とする疾患である。対策はかなり明瞭である。社会的環境が整ってい たとしても、個人の自覚が乏しく参画が得られないと効果が期待できない。健 康診査の受診率をぜひとも高めたいものである。 文献

1) Fukao A,et al:Risk of Leukemia among participants of gastric mass screening survey in Japan:A popuration-based case-control study. Cancer Detection and Prevention,16,283-286,1992.

2) 杉村隆監修:図説臨床癌シリーズ No.14 胃がんー新版ー メジカルビュー、 1993.

3) 厚生省大臣官房統計情報部編:平成5年患者調査(全国編)上巻 財団法人 厚生統計協会、1995.

4) Fukao A,et al:The evaluation of screening for gastric cancer in Miyagi Prefecture,Japan:A population-based case-control study. Int J Cancer,60, 45-48,1995.

5) 西沢護:癌検診の現状と問題点、臨床科学、31,1371-1379,1995.

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