資料配布: 筑波研究学園都市記者会 文部科学記者会 科学記者会
分子の自己組織化 『長さ』の制御に世界で初めて成功
- 高分子・ナノテク材料の新たな合成法開発に大きく前進 -
解禁日時:平成26年2月3日(月) 午前3時 配布日時:平成26年1月31日(金) 午後2時 独立行政法人 物質・材料研究機構 当機構は、分子が自発的に集合し新たな機能を持つ材料を作り上げる「自己組織化」をコン トロールする手法を開発。1次元の分子集合体(超分子ポリマー)の長さを自在に制御するこ とに世界で初めて成功した。 の 研究の背景 [概要] 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)先端的共通技術部門 高分子材料 ユニット(ユニット長:一ノ瀬 泉)の研究者らは、分子が自発的に組織化し、1次元の分子 集合体(超分子ポリマー1))を形成する過程において、複数の異なる自己組織化2)が交錯す る現象を発見、この現象を活用することによって、超分子ポリマーの長さを自在に制御す ることに成功した。 2.分子が自発的に組織化する現象(自己組織化)は、高い機能を有する高分子「超分子ポ リマー」を合成するためのきわめて重要なプロセスである。しかし、この過程は自発的に 進行してしまうため、意図的に制御することが難しかった。例えば、既存の高分子合成の 場合「リビング重合」3)と呼ばれる手法を使えば、合成されるポリマーの長さを精密に制御 することが可能で、産業界で広く利用されている。しかし、分子の自己組織化を利用し超 分子ポリマーを合成する際にはそのような手法は存在していなかった。 3.通常、自己組織化では分子が分散した状態から組織化した状態へ、一つの経路をたどっ て収束する。今回、新しく合成した機能性分子について、2種類の自己組織化が影響を及 ぼし合う現象を発見した。本研究は、この過程が従来の高分子合成におけるリビング重合 と同様のメカニズムで進行していることつきとめ、更に、リビング重合と同様の手段を用 いて、自己組織化で生成する超分子ポリマーの長さを自在に制御することに世界で初めて 成功した。 4.自己組織化は、材料科学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなど多岐にわたる学 際分野できわめて重要な概念であり、物質の新たな合成手法として注目が高い。自己組織 化によって得られるナノ構造体の物性・機能に関して活発な研究が行われている中、本研 究は、材料設計においてもっとも根本的な構造要素である『長さ』の制御を可能とした。 今後、自己組織化に基づく基礎・応用研究に新たな展開をもたらすと期待される。 5.本成果は、英国科学雑誌「Nature Chemistry」オンライン版で日本時間平成 26 年 2 月 3 日午前 3 時(現地時間 2 日午後 6 時)に公開される。(論文:S. Ogi, K. Sugiyasu*, S. Manna, S. Samitsu, M. Takeuchi* “Living supramolecular polymerization realized through a biomimetic approach” Nature Chemistry, DOI: 10.1038/NCHEM.1849))研究の背景 分子の自己組織化は、自然界のあらゆるところに見られる現象であり、光合成反応中心や神 経回路など、重要な機能システムの構築に欠かせない概念である。そのため、人工分子によっ て自己組織化現象を模倣し、材料科学やナノテクノロジーに応用しようとする研究が活発に行 われている。 近年、分子の自己組織化を利用して得られるポリマー(超分子ポリマー)が注目を集めてい る。超分子ポリマーは、既存の合成ポリマーと比較して、光・電子機能の設計性が高く、リサ イクル性や自己修復能に優れるため、エレクトロニクスや医療に用いられる高機能性材料とし て強く期待されている。しかしながら、超分子ポリマーの生成過程である自己組織化は「自発 的に」進行してしまうため、ポリマー化を意図的にコントロールすることが難しく、これまで 超分子ポリマーの長さ(重合度)を制御することは不可能であった。一方、既存の高分子合成 においては、「リビング重合」と呼ばれる手法によって、合成されるポリマーの長さを精密に制 御することができる。長さの揃ったポリマーの物性は均質で機能性に優れるため、リビング重 合法は産業界で広く利用されている。超分子ポリマーを既存の高分子のように幅広く利用する ために、そのリビング重合法の開発が求められていた。 成果の内容 通常の自己組織化では、分子が分散した状態から組織化した状態へ、一つの経路をたどって 収束する(図 1a)。このプロセスは言わば「分子まかせ」であり、意図的に制御することはでき なかった。今回研究者らは、新しく合成したポルフィリン分子 4)の自己組織化過程において、 2種類の自己組織化が交錯するという珍しい現象を発見した(図 1b:組織化 A と B)。 組織化 A によって、ポルフィリン分子は直径約 10 nm のナノ粒子状会合体を形成した。また、 組織化 B は、水素結合5)を介した超分子ポリマー化であり、1次元のひも状会合体を与えた。 これら2種類の自己組織化は、互いに影響を及ぼし合い交錯する。研究者らは、これらのバラ ンスを調整することによって、自己組織化過程のタイミングや速度を制御できることを見いだ した。
図1 自己組織化のイメージ図(a)通常の自己組織化は自発的に進行するため、その過程を制 御できない。(b)今回発見した自己組織化では、2つの自己組織化の形態が互いに影響を 及ぼし合い交錯する。これらのバランスを調整することによって自己組織化過程のタイミ ングや速度を制御することができた。図中の写真は原子間力顕微鏡像。 さらに研究者らは、このように「分子まかせ」ではない自己組織化(図1b)を利用すること によって超分子ポリマーのリビング重合に世界で初めて成功した。 概略を図2に示す。ポルフィリン分子を有機溶媒に分散させると、組織化 A によって直ちに ナノ粒子状会合体が形成され、超分子ポリマー化(組織化 B)は進行しなかった(図2a 左)。 しかしながら、このナノ粒子状会合体の溶液にごく少量の超分子ポリマーを「種」として添加 すると、ナノ粒子状会合体が消失し、種から超分子ポリマーが成長した。これは、種の添加と いうタイミングで超分子ポリマー化(組織化 B)を開始できることを意味する。研究者らは、こ の超分子ポリマー化が、高分子合成のリビング重合と同様のメカニズムで進行していることを 明らかにした。さらに、種とナノ粒子状会合体の比率を変えることによって、超分子ポリマー の長さを自在に制御することに世界で初めて成功した(図2b)。
図2 (a)図1の現象を利用することによって実現された超分子リビング重合の概念図。「種の 添加」というタイミングで超分子ポリマー化(組織化 B)を開始できる。(b)これまで不可 能だった超分子ポリマーの「長さ」の制御に成功した。図中の写真は原子間力顕微鏡像。 波及効果と今後の展開 自己組織化は、材料科学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーなどの多岐にわたる学際 分野できわめて重要な概念であり、物質の新たな合成手法として注目度が高い。自己組織化に よって合成される新材料の中でも、超分子ポリマーは、既存の合成高分子に置き換わる高機能 材料、低環境負荷材料として強く期待されている。本研究は、超分子ポリマーが合成高分子の ように精密重合できることを実証した初めての例であり、超分子ポリマーのもっとも基本的な 構造要素である「長さ」の制御を可能とした。本手法のポイントは、自己組織化の形態を2つ 以上組み合わせ、それらのバランスを調整することであり、原理的には様々な超分子ポリマー に適用できる。自己組織化に基づく基礎・応用研究に新しい展開をもたらすと期待される。
本件に関するお問い合わせ先 (研究内容に関すること) 独立行政法人 物質・材料研究機構 先端的共通技術部門 高分子材料ユニット 有機材料グループ 主任研究員 杉安 和憲(すぎやす かずのり) TEL:029-859-2110 FAX: 029-859-2101(共用) E-mail:[email protected] (報道担当) 独立行政法人 物質・材料研究機構 企画部門 広報室 〒305-0047 茨城県つくば市千現 1-2-1 TEL: 029-859-2026 FAX: 029-859-2017 用語解説 1) 超分子ポリマー 既存の合成高分子では、分子が共有結合によって鎖状に連結されている。一方、超分子ポ リマーは、水素結合 5)や配位結合などの比較的弱い相互作用で連結された高分子である。 このため、超分子ポリマーは、可逆的に重合・分解できる。これを利用して、刺激応答性 や自己修復能、リサイクル性をもったプラスチック材料の創製が可能になる。また、非共 有結合の距離や角度を精密に分子設計することによって、既存の合成高分子には見られな かった新しい光・電子機能を実現することができる。 ちなみに、比較的弱い相互作用による分子の組織化を利用して、個々の分子の物性・機能 を超えた複雑な分子システムを研究する学際的な分野は「超分子化学」と呼ばれ、先駆的 な研究を展開した Pedersen、Cram、Lehn が 1987 年にノーベル化学賞を受賞している。 2) 自己組織化 DNA の二重らせんやタンパク質の3次元構造など、分子が自発的に組織化することで特異な 構造と機能を生み出す現象。ボトムアップ的に様々な機能システムを構築できるため、ナノ テクノロジーや材料科学の分野で注目を集めている。 3) リビング重合
連鎖重合反応において、連鎖移動反応や停止反応などの副反応を伴わず、ポリマーの成長 末端が常に重合活性である反応。モノマーが完全に消費された後でも、新たにモノマーを 加えると重合がさらに進行することや、鎖の長さの揃ったポリマーが得られることなどの 利点がある。 4) ポルフィリン分子 環状構造を持つ有機色素化合物。機能性分子として天然に広く存在する。例えば、酸素運 搬を担うヘモグロビンや、光合成反応中心の光捕集系に見られる。今回用いたポルフィリ ン分子の構造を以下に示す(中央部分の環状ピロール4量体がポルフィリン骨格)。 5) 水素結合 水素原子を介した相互作用。電気陰性度の大きな原子に共有結合した水素原子と、近傍に 位置する窒素原子や酸素原子などが引力的に相互作用する。上記のポルフィリン分子の場 合、下図のように水素結合し超分子ポリマー化している (青色部分)。