里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ
──意味づけされていない養育エピソードの語りをとおして──
キーワード:里親養育 無条件の顧慮 パートナーシップの構築井上 寿美・笹倉千佳弘
1.目 的
(1)背景 1)「新しい社会的養育ビジョン」と里親委託の推進 児童相談所による児童虐待相談対応件数が年々増加の一途をたどる中で(1)、日本の社会的養 護は転換期を迎えている。2017(平成 29)年に策定された「新しい社会的養育ビジョン」で は、2011(平成 23)年の「社会的養護の課題と将来像」を見直し、2016(平成 28)年の改訂 児童福祉法にもりこまれた、家庭養育優先という理念の具現化がはかられた。これまでの社会的 養護は、乳児院や児童養護施設などで養育をおこなう施設養護が中心であったが、これからは要 保護児童を「養育者の家庭に迎え入れて養育を行う」(厚生労働省 2012 : 5)家庭養護が推進さ れることになった。 そのため「新しい社会的養育ビジョン」では、家庭養育優先の実現に向けた行程が示され、里 親委託率に関して次のような数値目標が明記された。「愛着形成に最も重要な時期である 3 歳未 満児については概ね 5 年以内に、それ以外の就学前の子どもについては概ね 7 年以内に里親委 託率 75% 以上を実現し、学童期以降は概ね 10 年以内を目途に里親委託率 50% 以上を実現すべ きである」。とりわけ「就学前の子どもは、家庭養育原則を実現するため、原則として施設への 新規措置入所を停止すべきである」(新たな社会的養育の在り方に関する検討会 2017 : 47)。 しかし社会的養護にかかわる諸団体からは、家庭養育優先という理念を否定するものではない が、実態にあわない数値目標を掲げて里親委託率の向上を拙速にめざすべきではないとする意見 が相次いで出された(2)。その一方で、家庭養育を優先し、里親委託率の向上にとりくむことに ついては国の方針と概ね一致しており(3)、今後、里親委託率は増加傾向を示すと考えられる(4)。 2)子育てが難しくなった社会における里親養育 「里親委託ガイドライン」には「里親と子どもが不調になった場合」という項目が設けら れ(5)、次のように記されている。 (31)里親と子どもの調整を十分に行ってから、里親委託し、委託後も児童相談所や里親支援機 関等が援助を行った場合においても、里親と子どもが不調になることがある。子どもが里親 と共に生活する中で、子どものそれまでの養育環境の影響や子どもの成長・発達に伴い、里 親にとって子どもの養育に対する負担が高くなり、子どもとの関係がうまくいかなくなると いった様々な状況が起こりうる。また、不適切な養育が行われることも起こりうる。(厚生 労働省 2017 : 13-14) 実際、被措置児童の虐待発生率は、施設養護よりも家庭養護の方が高い(6)。しかしこのこと は、施設職員よりも里親が虐待傾向にあると意味しているわけではない。そもそも里親であるか どうかを問わず、いま子育て中の保護者の多くは、地域とのつながりが希薄になった社会におい て、他者からの援助を得ることが難しくなり、孤立した子育てに困難感を抱いている。子育てが 難しくなった厳しい環境のもと、里親の子育てには「里親委託ガイドライン」に記されているよ うな、里親養育特有の難しさが加わるとすれば、不適切な養育が起こることも想像に難くない。 藤間は、「同じ子育てという営みをめぐって、家庭におけるそれは社会化というスローガンの もとでそこに関わるアクターを増員することが目指されているのに対し、社会的養護におけるそ れは家庭化という理念のもとでその規模を縮小することが目指されるという、相反する動きが併 存している」(藤間 2017 : 142)と指摘する。家庭養護の推進は、施設職員がチームで養育をお こなう、子育ての営みにかかわるアクターが複数であった養育形態から、里親だけが子育ての営 みにかかわる養育形態への移行と考えることもできる。 里親委託の推進それ自体は、権利主体である子どもの最善の利益の実現をめざすものである。 しかし里親に委託されるというだけで要保護児童の最善の利益が実現されるわけではない。それ は、里親家庭で育つ要保護児童が、周りの「ひと・もの・こと」とどのような関係を築くことが できるのかによって大きく左右される(7)。そのため、子育てが難しくなった社会における里親 委託の推進は、子どもの最善の利益が実現されるよう、里親養育支援をおこなう社会資源の充実 と切り離して議論されてはならない。 3)先行研究 NII学術情報ナビゲータ CiNii を用いて論文検索をおこなった。フリーワードに、里親、里 子、委託児、受託児、子ども、里親養育、関係、かかわり、関わり、かかわりあい、関わりあ い、親子関係、という用語を組みあわせて入力し、AND 検索をおこなった。検索結果から、狩 猟採集民族に関する文化人類学の研究など日本の里親養育にあたらないもの、また山村留学に関 する親子関係の研究など社会的養護の里親養育にあたらないもの、里親養育ではあるが里親家庭 の実子との関係に注目したものや、シンポジウムの報告などを除いた結果、合計 24 件の論文が 抽出された。検索した際のそれぞれの用語のくみあわせと抽出された論文数については「表 1 検索用語の組くあわせと抽出論文数」に示す。 (32)
㋐∼㋔の中で 15 件の論文が重複していたため、実際に抽出された文献は 9 件である。そのう ちの 1 件は受託児への聞き取り調査にもとづくものであった。最終的には本研究と同様に、里 親への聞き取り調査にもとづく 8 件を先行研究とし、内容検討をおこなった。 これら 8 件の研究は、里親が自分自身を解釈しながら受託児との関係を語った「自己に言及 する語り」の部分に焦点をあてて分析したものと、里親が自分自身を解釈することをいったん横 において受託児との関係を語った「自己に言及することを保留にした語り」の部分に焦点をあて て分析したものとに分かれた(8)。 前者の「自己に言及する語り」の部分に焦点をあてて分析した研究は、森(2008)、安藤 (2010)、三谷(2013)、安藤(2016)、伊藤・小池・福田・ほか(2019)の 5 件である。後者の 「自己に言及することを保留にした語り」の部分に焦点をあてて分析した研究は、森(2001)、 森本・野澤(2006)、山口(2007)の 3 件である。以下、それぞれについて見ていく(9)。 まず「自己に言及する語り」の部分に焦点をあてて分析した研究について述べる。森(2008) は、養育不調で里子を施設に戻した事例をふまえ、親子として共に生きた経験が里子のその後の 人生を支え、不調の経験が里親としてのアイデンティティの発達を促したことから、一定の期間 であっても家族として生活する意義を明らかにしている。安藤(2010)は、里親が養育する子 どもに関して、一般的な子どもイメージとのギャップ、発達の遅れと個性の評価、将来を見すえ た不安やとまどいへの認識や対処をとおして、里親経験を意味づける過程を明らかにしている。 三谷(2013)は、里親の危機的対処過程を社会関係の影響に注目して検討し、里親は家族成員 の理解・協力によって困難性を共有し、里親仲間の類似経験や専門家の知識により困難性を相対 化して危機を乗り越えていることを明らかにしている。安藤(2016)は、満期措置委託解除を、 里親が今後の関係継続を見越した通過点ととらえていること、措置委託解除後の元里親子の関係 調整の分岐点は、里親によるサポートを糧にした里子の成長や自立の見とおしの有無や里子が里 親やその家族成員の生活に及ぼす影響の範囲によること、そして、里親家庭が元里子の頼る場所 になっていることなどに価値を見出していることを明らかにしている。伊藤・小池・福田・ほか (2019)は、実親交流のある里子を養育する里親の事例から、里親は、里子の実親との交流にか かる負担や不満を感じつつも、里子の 藤へのかかわりの工夫と、実親・里子の関係調整の支援 をおこなう循環的なプロセスを体験していることを明らかにしている。 表 1 検索用語のくみあわせと抽出論文数 検索用語のくみあわせ 論文数 ㋐ 「里親」「里子」「関係/かかわり/関わり/かかわりあい/関わりあい」 7件 ㋑ 「里親」「委託児/受託児」「関係/かかわり/関わり/かかわりあい/関わりあい」 0件 ㋒ 「里親」「子ども」「関係/かかわり/関わり/かかわりあい/関わりあい」 4件 ㋓ 「里親養育」「関係/かかわり/関わり/かかわりあい/関わりあい」 4件 ㋔ 「里親/里子」「親子関係」 9件 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (33)
次に「自己に言及することを保留にした語り」の部分に焦点をあてて分析した研究について述 べる。森(2001)は、養子縁組成立事例と養育不調事例を比較し、里親子関係形成に向けた 6 つの視点を明らかにしている。それらは、里親になる真の動機認識のためのオリエンテーション 実施と里親としての妥当性検討、里子の養育を共に担う人の確保、里子の起こしうる問題に関す るケースワーカーによる里親への十分な説明、ケースワーカーに相談しやすい関係と機会の保 障、里親家族と養育環境とのネットワーク形成の援助、里親どうしの交流促進にむけた援助、で ある。森本・野澤(2006)は、里親養育実践過程の分析をとおして、被虐待児の育ち直し・成 長に必要十分な要件として、受託の初期において里親を中心にした環境全体の、受容的で共振・ 共感的なホールディングの親密な関係性が必要であると明らかにしている。山口(2007)は、 要保護児童のアタッチメント形成には、特定の他者との緊密な関係の中で子どもが安心して暮ら し、自己という存在がまるごと受けとめられる実感が必要であるため、そのような関係を築きや すい里親委託の意義を明らかにしている。 このように里親と受託児のかかわりあいをめぐる先行研究では、養育不調(森 2001;森 2008)や子どもの問題行動(安藤 2010)、実親との交流(伊藤・小池・福田・ほか 2019)、危 機対処過程(三谷 2013)など、受託児とのかかわりが難しい場面に焦点をあてたもの、あるい はまたアタッチメント形成(山口 2007;森本・野澤 2006)や措置委託解除後(安藤 2016)な ど、特定の期間に焦点をあてたものが多い。里親養育の日々の暮らしの場面に焦点をあてたもの は管見の限りではない。 (2)目的 本研究の目的は、里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティを明らかにすることで ある。里親へのインタビューでは、里親によって明確に意味づけされることなく語られるエピソ ードがある。語りは、調査協力者と調査者との相互行為をとおして共同生成されるものであるた め、「質問−応答」という枠組みに収まらず、明確に意味づけされることなく語られるエピソー ドには、里親が自発的に調査者に伝えたいことが無意識のうちに表現されている。したがって、 そのようなエピソードにこそ、日々の暮らしに埋めこまれた、里親と受託児の「かかわりあい」 をめぐるアクチュアリティが表現されていると考えられる。 なお本研究では、アクチュアリティを、「事物的・対象的な現実、私たちが勝手につくり出し たり操作したりすることのできない既成の現実」であるリアリティに対して、「現在ただいまの 時点で途絶えることなく進行している活動中の現実、対象的な認識によっては捉えることができ ず、それに関与している人が自分自身のアクティブな行動によって対処する以外ないような現 実」(木村 2000 : 13)として理解している。またエピソードを、人と人が関わる際に、かかわっ ている当事者にしか掴めない心の動きが生じる「接面」が表現されているものとしてとらえてい る(10)。 既述のように、これまでの里親と受託児の関係にかかわる研究では、里親による「自己に言及 (34)
する語り」の部分に焦点をあてて分析したものも、「自己に言及することを保留にした語り」の 部分に焦点をあてて分析したものも、そのいずれもが、特定の場面や時期を扱ったものであっ た。このように特定の場面や時期における里親養育の実践を明らかにすることはもちろん重要で ある。しかし同時に、里親養育実践の全体像を描き出すには、里親と受託児の日々の暮らしの中 での「かかわりあい」のアクチュアリティも明らかにされる必要がある。そして「現実に向かっ てはたらきかける行為のはたらきかけそのもの」(木村 2000 : 13)であるアクチュアリティが明 らかにされることにより、「里親−受託児」関係の視点からとらえた里親養育支援に関する示唆 が得られるに違いない。
2.方 法
(1)インタビュー調査 2019年 8 月、2020 年 3 月に X 県(11)の里親 3 人に 1 時間∼1 時間半程度の半構造化インタビ ューを実施した。3 人の里親には、X 県の児童相談所が主催した里親交流会や、乳児院や児童養 護施設と協力して開催されている里親サロンに参加した際に調査への協力を、あるいはこのよう な機会に知り合った里親からの紹介により調査への協力を依頼した。インタビュー当日は、調査 者 2 名が指定された場所を訪問した。インタビューは IC レコーダーに録音し、後に逐語録を作 成した。インタビューの日時、場所などについては「表 2 インタビュー調査の概要」、調査協 力者については「表 3 調査協力者の属性と受託状況」を参照されたい。なお、調査協力者の属 性や受託状況は調査時点のものである。 表 2 インタビュー調査の概要 調査協力者 調査年月日 調査場所 調査時間 備考 A(里母) 2019年 8 月 25 日 喫茶店 1時間 10 分 B(里母) 2020年 3 月 20 日 Bさん宅 1時間 15 分 里父同席 C(里母) 2020年 3 月 22 日 ホテルのラウンジ 1時間 40 分 表 3 調査協力者の属性と受託状況 調査協力者の属性 調査時の受託状況など Aさん 60代女性 養子縁組里親/養育里親 実子なし 養育里親として高校生の e さんを受託している。週末や年末年始などの一時 里親として継続して受託していた d さんは 18 歳を過ぎて措置解除となった が、引き続き d さんの帰省を快く受け入れている。また、里親登録後、児童 養護施設のボランティアで初めて出会った f さんを、小学校中学年から 3 年 間、週末や年末年始などに一時里親として継続して受託し、d さんや e さん ときょうだいのように育ててきた。中学生になった f さんは特別支援学校の寄 宿舎で生活しており、一時里親の受け入れが難しくなっている。 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (35)(2)分析に用いた資料 Aさんの語りから f さんへのかかわりに関するエピソード、B さんの語りから g さんとの適 応指導教室見学に関するエピソード、C さんの語りから j さんと k さんのかかわりに関するエ ピソードを抽出した。それぞれのエピソードが里親によって明確に意味づけされることなく語ら れたものであると言える理由については「表 4 明確に意味づけされることなく語られたと言え る理由」に示す。 表 4 明確に意味づけされることなく語られたと言える理由 エピソード 理 由 Aさ ん が 語 る f さ ん へ のかかわりに関するエピ ソード 話の大半は継続して養育してきた d さんと e さんに関することである。f さ んとのかかわりは一時里親としての 3 年間のみであるため、まとまった語り はみられない。その出会いの場面は印象深いものであるが(後述する)、イン タビューの終盤に調査者がこの場面について改めて質問した際の応答と比較す ると、最初の A さんの語りは簡素であった。しかし他児に関するエピソード の随所に f さんが登場する。このようなことから、一連の語りの中に散見され る f さんに関するエピソードは、「質問−応答」という枠組みに収まらず、明 確に意味づけされることなく語られたものであるととらえた。 Bさ ん が 語 る g さ ん と の適応指導教室見学に関 するエピソード gさんの養育において、順風満帆でなく「何かあった」出来事として g さん の不登校に関して語られた。しかし B さんにとって「何かあった」出来事と いうのは、学校から、実子でないことを不登校の原因とするような対応をされ て「悔しかった」ということであった。したがって適応指導教室見学の場面 は、悔しさを伝えるために特に必要とされるエピソードではない。このような ことから、適応指導教室見学に関するエピソードは、「質問−応答」という枠 組みに収まらず、明確に意味づけされることなく語られたものであるととらえ た。 Cさんが語る j さんと k さんのかかわりに関する エピソード たびたび「どうしてもこうやって 2 番目の子(=k さん)の話になっちゃうん です」「話が、すいません、また(k さんのことに)ずれていったでしょう」 と語られているが、その k さんと j さんのかかわりについては、調査者の質 問に対する応答がほとんどである。そこで k さんによって話がズレたという 振り返りがあり、かつ質問に対する応答ではなく、j さんと k さんのかかわり がわかるエピソードは、「質問−応答」という枠組みに収まらず、明確に意味 づけされることなく語られたものであるととらえた。 Bさん 60代女性 養子縁組里親/養育里親 実子なし 養子縁組をおこなった中学生の g さんと、養育里親として受託している小学 生の h さんの 2 人の子どもがいる。 Cさん 60代女性 養子縁組里親/養育里親 実子なし 養育里親として幼児の i さんを受託している。養育里親として受託し、成人と なり措置解除に伴って養子縁組をおこなった j さんと、同じく養育里親として 受託し、成人となり措置解除となった k さんの 2 人の子どもがいる。成人し た j さんと k さんには、それぞれの生活の場があるため、いまは j さんや k さんと同居はしていない。j さんと k さんは同時期に受託したわけではないが 実のきょうだいであり、今後は k さんとも養子縁組をする予定である。 (36)
(3)分析方法 質的記述的方法を用いてインタビュー資料の分析をおこなった。質的記述的方法は、「ある出 来事についてそうした出来事が生じている日常の言葉で包括的に要約するもの」(谷津 2014 : 61)であり、「現象の率直な記述」と「解釈が最小限となる分析」を特徴とする。具体的には、 里親によって明確に意味づけされることなく語られた受託児との「かかわりあい」のエピソード を抽出し、抽出部分のテキストを切片化してセグメントを切り出し、それぞれのテキストの意味 を解釈してコードを付し、カテゴリ化をおこなった。 (4)倫理的配慮 大阪大谷大学・教育学部・人間社会学部研究倫理委員会の承認を得て実施した。インタビュー 調査に先立ち、調査協力者に、①調査目的、②調査方法、③調査不同意の際に不利益を受けない 権利、④データの管理法、⑤調査協力者が中止・保留を申し出る権利、⑥入手したデータの公表 について依頼文書で明確にし、協力同意を得た。調査開始時に、再度、口頭で上記①∼⑥につい て説明し、「研究協力同意文書」2 通に署名を得、そのうちの 1 通は調査協力者、他の 1 通は調 査者が保管することとした。 研究結果の公表に際しては、調査協力者が特定されないように、固有名詞をランダムにアルフ ァベット表記とし、かかわりあいのアクチュアリティを理解するにあたって必要と考えられる最 小限の情報を公開するのみとした。またインタビューがどのような文脈の中で使用されるのかを 調査協力者に事前に提示し了解を得た。 なお里親へのインタビューを実施することについては、X 県の児童相談所長に研究内容につ いて説明をし、承認を得ていることを追記しておく。
3.結 果
Aさんが語る f さんへのかかわりに関するエピソード、B さんが語る g さんとの適応指導教 室見学に関するエピソード、C さんが語る j さんと k さんのかかわりに関するエピソードは、 明確に意味づけされることなく語られるエピソードである。したがって、里親養育のアクチュア リティ、つまり里親と受託児とのかかわりあいという、現実に向かってはたらきかける行為のは たらきかけそのものが表現されていた。以下では、それぞれのエピソードから抽出されたコード とカテゴリにもとづき、3 人の里親養育のアクチュアリティについて述べる。「 」は里親の語 りの引用であり、「 」内に記された( )は筆者による補足である。 (1)A さんと f さんのかかわりあいのアクチュアリティ Aさんは里親登録をした時に、子どもを委託されるには「黙っていても駄目だよ。アピール しないと駄目」という先輩里親からの助言を受け、児童養護施設で月 2 回のボランティアを始 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (37)めた。当時、3 歳だった f さんとその時に出会う。ある時、f さんと一緒に遊んでいたら、「死 ね」と暴言を吐かれた。幼児がこのような暴言を吐くことを放ってはおけないと思い、f さんを 小脇に抱え「とっくみあい」をし、「もう来なくていいのか」と f さんにせまる。その後、小学 校中学年になった f さんの週末や年末年始の一時里親を 3 年間続ける。現在 f さんは、県立の 特別支援学校の中等部に進学して寄宿舎で暮らすことになったため、A さんのところに来られ なくなった。f さんと共に過ごした時間は、d さんや e さんに比べると少ないが、随所で「3 人 一緒」「いつも 3 人」と語られている。 インタビュー資料の中に散見される f さんに関する語りを抽出した結果、A さんと f さんの かかわりあいにおいて、【子どもと本気で対峙する】【子どもを気にかける】【子どもを 1 人の人 間として尊重する】【周りの人と力をあわせる】という 4 つのカテゴリが抽出された(「表 5 A さんと f さんのかかわりあい」を参照されたい)。 カテゴリ【子どもと本気で対峙する】は、〈他者を傷つける言動は許さない〉〈子どもに真剣に せまる〉というコードで構成された。幼児であった f さんが「死ね」と暴言を吐いたことに対し て、本気でとっくみあいをおこない、そのようなことを言うのであれば「もう来なくていいの か」と真剣にせまっている。インタビューの最後でこのとっくみあいの結末について改めて質問 したところ、f さんは「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝ったそうである。謝るまでは断固と して許さないという凛とした姿勢であったと推察される。 カテゴリ【子どもを気にかける】は、〈子どものおかれている状況を慮る〉〈子どもに関心を持 ち続ける〉というコードで構成された。当初、f さんが小学生になれば一時里親の受け入れが予 定されていたのであるが、それが実行されなかったことについて、施設の担当職員が「転勤にな っちゃった」から難しくなったのではないかと f さんの担当職員の交替を気にしていた。また年 に 1 回しかおこなわれない施設の交流会で「私たちのことを見ている」f さんの姿をとらえ、小 学生になってから受託できなかったことに対して「嘘をついちゃうような気がして」と申し訳な さを感じていた。 カテゴリ【子どもを 1 人の人間として尊重する】は、〈おとなだけで決めない〉〈子どもの行 動を認める〉というコードで構成された。小学校中学年になった f さんを受託する話があった時 に、これまでの経緯もあり、「本人がどう思っているのかというのがすごく気になっていたの で」、まず f さんの気もちを確認してもらった。また家に来た時に f さんが家族全員の朝食の目 玉焼きを作ってくれる姿などから、「とにかくいろいろ手伝ってくれたり優しい子」と f さんの 行動を認めていた。 カテゴリ【周りの人と力をあわせる】は、〈他の子どもに助けられる〉〈できることをみんなで する〉というコードで構成された。A さんにとって f さんは初めて受け入れた男の子であった。 男の子の受け入れ経験がないことから「怖い面もあった」が、他の施設から来ていた d さんが いてくれたことで助けられたという。また f さんの特別支援学校進学により 3 人の子どもが共 に過ごす機会がなくなったことから、児相や施設の職員などと一緒に何とか 3 人で過ごせる機 (38)
会を設けることができないか模索しており、それが実現するまでは、「3 人一緒」であることを 伝えるために、f さんに手紙を書いたり、みんなで撮った写真を送ったりしている。 4つのカテゴリをふまえると里親養育のアクチュアリティは、A さんの場合、一貫して子ども を気にかけながら、子どもを 1 人の人間として尊重するがゆえに、時には子どもと本気で対峙 するが、だからといって一人で養育のすべてを抱え込むのではなく、周りの人と力をあわせるこ とであるとわかった。 (2)B さんと g さんのかかわりあいのアクチュアリティ Bさんは、子どもの受託に関して「養子縁組できる子にしても、一時預かりにしても、どち らでもという感じで思っていた(略)、縁があればとにかく来る。それしか理由はない」と考え ていた。また「できないことは与えられないんだ」と思うぐらい、受託した子どもは g さんも hさんも「手のかからない、本当に賢い子」であると語っている。そのような中、g さんが中学 生になった時に B さんは初めて子どもの不登校を経験する。その予兆は感じていたので、とま どいながらも最初の 2 週間は静観する。しかし「これは駄目だと」感じ、知りあいに相談して 表 5 A さんと f さんのかかわりあい カテゴリ コード テキストの概要 【子どもと本気で 対峙する】 他者を傷つける言動は 許さない fの「死ね」という暴言に対してとっくみあいをする。 子どもに真剣にせまる そのようなことを言うのであれば「もう来なくていいのか」と fにせまる。 【子どもを気にか ける】 子どものおかれている 状況を慮る 施設の担当職員が転勤になったので f の一時里親受け入れの話 がなくなった。 子どもに関心を持ち続 ける 施設の交流会に行くと、f が物陰から私たちのことを見てい る。 子どもに関心を持ち続 ける 子どもに挨拶をして帰る時、f には嘘をついているような気が した。 【子 ど も を 1 人 の 人間として尊重す る】 おとなだけで決めない 施設から f の週末受け入れの話があった際、まず本人がどう思 っているのかを確認してもらった。 子どもの行動を認める f は家に来た時、朝食の手伝いもしてくれる優しい子である。 【周りの人と力を あわせる】 他の子どもに助けられ る 男の子の受け入れが初めてだったため不安もあったが、ちょう ど d が家に来ている時で、d が f の世話をしてくれたので助 けられた。 できることをみんなで する fが支援学校の寮に入ったのをきっかけに家に来れなくなって いる。そのため、なんとか来れるようにしたいといろいろな人 と一緒に考えている。 できることをみんなで する いまは f に会えないので、みんなで手紙を書いたり写真を送っ たりしている。 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (39)
不登校の子どもの居場所である適応指導教室を探し、g さんを誘って一緒に見学に行く。ところ が見学したあと、適応指導教室に通う意向を示した g さんに対して B さんは、「前々からちょ っと学校(=普通学級で学ぶこと)は大変かな」と思っていたので、そこに行くよりも特別支援 学級の方があっているのではないかと提案する。その後 g さんは、以前から通っていた学校の 中にある特別支援学級に通うようになった。なお、g さんが不登校になったのは養子縁組後のこ とであるため、厳密にいえばこの時点では受託児ではない。 インタビュー資料から g さんが不登校になった時の語りを抽出した結果、B さんと g さんの かかわりあいにおいて、【子どもの視点でとらえる】【“自分事”として受けとめる】【子どもと一 緒に悩む】という 3 つのカテゴリが抽出された(「表 6 B さんと g さんのかかわりあい」を参 照されたい)。 カテゴリ【子どもの視点でとらえる】は、〈子どもを見守る〉〈子どもに気もちを言ってもらえ てよかった〉〈子どもが無理をしなくてよかった〉とういうコードで構成された。不登校になる 前から、g さんが学校に行って普通学級で学ぶことに大変さを感じているのではないかと気づい ていたので、学校に行くことに価値をおいて不登校をとらえるのではなく、学校で大変な思いを している g さんの視点で不登校をとらえている。そのため、g さんが不登校になった時に、学 校とはかかわりのない「家のことをやらせて」しばらくは静観し、むしろ「無理して行くより は」行かないという選択ができたこと、そしてそのことを自分に「言ってもらってよかった」と 前向きに受けとめている。 カテゴリ【“自分事”として受けとめる】は、〈自分がどうすればよいか悩む〉〈自分ができる ことにとりくむ〉というコードで構成された。不登校になった g さんをどうすれば学校に行か せることができるか、という問いを立てるのではなく、g さんが不登校になったことに対して自 分に何ができるかという問を立てている。「あらまあ、どうしましょう」とみずからに問いかけ、 しばらく g さんの様子を見ていたが、「これは駄目だ」と思い始め、知人を頼って「相談に行っ て(話を)聞いたり」して積極的に動いている。 カテゴリ【子どもと一緒に悩む】は、〈子どもの意向を聞く〉〈子どもに自分の違和感を伝え る〉〈子どもに具体的な方法を提示する〉〈子どもに“逃げ道”を示す〉というコードで構成され た。自分の考えをおしつけるのではなく、一緒に見学に行き、見学先について「どう?」と g さんに尋ねている。しかし「そこがいい」という g さんに向かって「ちょっと違うような気が する」と率直に自分の違和感を伝えている。そして、違和感を伝えて終わりにするのではなく、 たとえば、「支援(学級の見学)に行ってみようよ」と代替案を示し、その際、元のクラスメイ トに会う不安を感じる g さんに、「髪を切って」誰かわからないようにしようと不安を軽減する ための具体的な方法を提示している。そして、支援学級に行くことを決めた g さんには、「嫌だ ったらすぐに帰ってきていいから」と、支援学級に行くという選択を唯一のものととらえず“逃 げ道”を示している。 3つのカテゴリをふまえると里親養育のアクチュアリティは、B さんの場合、目の前で起こっ (40)
た子どもに関する悩ましいできごとに対して、子どもを変えようとするのではなく、その悩まし いできごとを子どもの視点で前向きにとらえ、自分に何ができるのか“自分事”として受けと め、子どもと一緒に悩むことであるとわかった。 (3)C さんと j さんと k さんのかかわりあいのアクチュアリティ Cさんは「たんに子どもを育ててみたいな」「子育てする余裕があるんだから子育てしたいよ ね」という動機で里親登録をおこなった。受託していた j さんが小学校 1 年生の時に、実の弟 である 4 歳違いの k さんも受託する。k さんを受託する際に母子手帳をみると「半年ぐらいの 遅れがある」と書いてあったが、「心構えはあんまりしないで」受託した。のちに k さんは自閉 症と診断される。k さんが家に来た当初、j さんは、「k さんがしゃべると脳みそがぐちゃぐちゃ になる」「うるさい」「邪魔」と「存在が耐えられなかった」らしい。一方、k さんは j さんが大 好きで「お兄ちゃん、どうなの、こうなの、これやって」と j さんを頼ることが多かった。この ような働きかけには「普通に」応えていたが、j さんが k さんを「自分から遊んであげること は、まったくなかった」。大学生になった j さんは家を離れて 1 人暮らしをするようになる。ま 表 6 B さんと g さんのかかわりあい カテゴリ コード テキストの概要 【子どもの視点で とらえる】 子どもを見守る gが不登校になったことで悩みはしたが、g に家のことをやら せてしばらく見ている。 子どもに気もちを言っ てもらえてよかった 以前から学校が大変そうなことに気づいていたので、学校に行 かないと言ってもらえてよかったと思う。 子どもが無理をしなく てよかった 無理をして行くよりは、行かなくてよかったと思う。 【“自分事”として 受けとめる】 自分がどうすればよい か悩む gが不登校になったことで「あらまあ、どうしましょう。は て」と悩む。 自分がどうすればよい か悩む 家で何もしないので、このままでは駄目だと思い始める。 自分ができることにと りくむ 知人を通じて不登校の子どもが通える場所を探す。 【子どもと一緒に 悩む】 子どもの意向を聞く 不登校の子どもが通える場所へ g と一緒に見学に行き、g の 意向を尋ねる。 子どもに自分の違和感 を伝える 見学先に行くつもりになっている g に対して、「ちょっと違う ような気がする」と伝える。 子どもに具体的な方法 を提示する 校内にある支援学級に見学に行くことを提案する。 子どもに具体的な方法 を提示する 元のクラスメイトに会いたくないというので、髪をおかっぱに してイメージチェンジしようと提案する。 子どもに“逃げ道”を 示す すぐに帰ってきてもいいから、まず行ってみようと促す。 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (41)
た k さんは特別支援学校高等部に進学し寄宿舎で暮らすようになる。k さんは精神科へ措置入 院することも経験したが、現在は退院し施設で暮らしている。 jさんと k さんの関係についての語りを抽出した結果、C さんと j さんと k さんのかかわり あいにおいて、【安心できる関係でありたい】【子どもの安心を優先する】【子どもどうしの関係 を育むことを大切にする】という 3 つのカテゴリが抽出された(「表 7 C さんと j さんと k さ んのかかわりあい」を参照されたい)。 カテゴリ【安心できる関係でありたい】は、〈法的な立場の壁にぶつかる〉〈法的な立場も大事 である〉というコードで構成された。年齢的に措置解除となっている k さんの入院に際し、C さんは k さんとの関係を書類上は「監護者」としか書けなかった。k さんと 20 年もの歳月を共 に過ごしてきたにもかかわらず、法的にはしかるべき立場にないということに忸怩たる思いを抱 く。一方、血のつながったきょうだいである j さんがすでに成人していたので、入院手続きがス ムーズに進むということも経験する。 カテゴリ【子どもの安心を優先する】は、〈子どもの気もちがわからないのは不安である〉〈子 どもにわかるように説明したい〉〈子どもが落ち着くのを待つ〉というコードで構成された。k さんの入院で法的な立場の壁を自覚させられたこともあり、C さんは k さんとの養子縁組を進 めたいと考える。しかし k さんの理解力の難しさもあり、養子縁組をおこなうことに対する k さんの意向がなかなか確認できない。強引に養子縁組を進めることはせず、「養子縁組の用紙を 見せたり」、「住民票とか」を見せるなどして視覚的に養子縁組のイメージができる工夫をおこな っている。j さんにも養子縁組について説明してくれるように頼むが、その説明があまりにも簡 単だったことに対し、「アドバイスだか、投げやりなんだか、そんな言葉しか」なかったと振り 返っているのは、丁寧に説明して欲しいという気もちの表れであろう。今後、k さんの「施設で 気もちが落ち着く」ことを確認した上で養子縁組を進めることになっている。 カテゴリ【子どもどうしの関係を育むことを大切にする】は、〈きょうだいとしての役割を担 うようになった〉〈きょうだいとしての自覚が嬉しい〉というコードで構成された。決してきょ うだいの仲が悪かったわけではないが、これまでは j さんから k さんへの積極的な働きかけが なかったこともあり、k さんのケース会議に大学生になった j さんが「行ける時は行く」と申し 出てくれたことを嬉しく受けとめている。「ちゃんと自覚があったじゃん、という感じ。自分の 弟として。そういうのは嬉しかったですね」と言葉が弾んでいる。 jさんや k さんには、C さんが懇意にしている里親のところで育てられている妹が 1 人いる。 Cさんは、「妹も育ててあげなきゃいけなかったんです。だから、会わせてあげなきゃいけない と思っている」と語っている。この言葉どおり C さんは、j さん、k さん、妹と一緒に 3 人のき ょうだいがかつて暮らしていた乳児院を訪問し、当時の担当の先生と一緒に写真を撮り、それを 自宅に飾ったりもしている。現在では、妹は「向こうの家庭を幸せにした」ととらえており、3 人を一緒に育てなかったことを後悔しているわけではない。しかしこのような C さんの言動か ら、C さんが 3 人のきょうだい関係を育むことを大切にしていることがわかる。そのため、j さ (42)
んと k さんの関係が育まれていたことを確認できた喜びは大きい。 3つのカテゴリをふまえると里親養育のアクチュアリティは、C さんの場合、立場的に安心で きる関係でありたいと願い、子どもの安心を優先しながらその手続きを進め、同時に、子どもの 安心のために、子どもどうしの関係の育みを大切にすることであるとわかった。 (4)里親と受託児のかかわりあいのアクチュアリティ Aさん、B さん、C さんの 3 人の里親の語りから、次のような里親と受託児のかかわりあい のアクチュアリティが明らかになった。 ①一貫して子どもを気にかけながら、子どもを 1 人の人間として尊重するがゆえに、時には 子どもと本気で対峙するが、だからといって 1 人で養育のすべてを抱え込むのではなく、 周りの人と力をあわせる。 ②目の前で起こった子どもに関する悩ましいできごとに対して、子どもを変えようとするので はなく、その悩ましいできごとを子どもの視点で前向きにとらえ、自分に何ができるのか “自分事”として受けとめ、子どもと一緒に悩む。 表 7 C さんと j さんと k さんのかかわりあい カテゴリ コード テキストの概要 【安心できる関係 でありたい】 法的な立場の壁にぶつ かる 20歳を過ぎた k さんが入院する際、自分たちは入院手続きの 書類に署名すらできない。 法的な立場の壁にぶつ かる kさんと 20 年も一緒に暮らしてきても措置解除後はまったく の他人ということになる。 法的な立場も大事であ る jさんが成人していたので入院手続きがスムーズに進んだ。 【子どもの安心を 優先する】 子どもの気もちがわか らないのは不安である 理解力の問題もあるが、養子縁組について本人の気もちが全然 わからない。 子どもにわかるように 説明したい 養子縁組について、j さんから k さんに説明してくれるように 頼むけれど、「何も変わらないから」というような簡単な説明 しかしてくれない。 子どもにわかるように 説明したい kさんには養子縁組の書類を見せることなどをして養子縁組に ついて説明してきた。 子どもが落ち着くのを 待つ kさんは養子縁組についてあまりイメージできていなかもしれ ないが、いまの施設で落ち着いたら養子縁組をする予定であ る。 【子どもどうしの 関係を育むことを 大切にする】 きょうだいとしての役 割を担うようになった 発達障害の影響で k さんが問題を起こし、病院や児相などで 会議が開催される際、大学生になった j さんが、会議に「行け る時は行く」とみずから言った。 きょうだいとしての自 覚が嬉しい jさんが k さんのことを自分の弟であると自覚してくれていた ことが嬉しかった。 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (43)
③立場的に安心できる関係でありたいと願い、子どもの安心を優先しながらその手続きを進 め、同時に、子どもの安心のために、子どもどうしの関係の育みを大切にする。
4.考 察
里親と受託児のかかわりあいのアクチュアリティは、【子どもと本気で対峙する】【子どもを気 にかける】【子どもを 1 人の人間として尊重する】【周りの人と力をあわせる】【子どもの視点で とらえる】【“自分事”として受けとめる】【子どもと一緒に悩む】【安心できる関係でありたい】 【子どもの安心を優先する】【子どもどうしの関係を育むことを大切にする】という 10 のカテゴ リで表された。3 人の里親と受託児のかかわりあいのアクチュアリティを表すこれらのカテゴリ 間の関連とその意味について考察する。 (1)受託児へのかかわり姿勢 1)基本的なかかわり姿勢−無条件の顧慮 【子どもを 1 人の人間として尊重する】【子どもの安心を優先する】【子どもを気にかける】 【安心できる関係でありたい】という 4 つのカテゴリは、お互いに関連しあいながら受託児への 基本的なかかわり姿勢を表している。注目したいのは、子どもを 1 人の人間として尊重し、子 どもの安心を優先して気にかけるだけにとどまらず、里親自身もまた安心できるように願ってい ることである。安心できる関係というのは、一方的に子どもに働きかける中で生じるのではな く、相互行為の中で生じるものであると言える。 したがって受託児への基本的なかかわり姿勢は、子どもに対する一方向的な気遣いである配 慮(12)ではない。それは、双方向的な「無条件にだれかの求めに応答し、だれかを護り支える営 み」(田中 2015 : 60)、すなわち無条件の顧慮であると考えられる。 2)調整的なかかわり姿勢−パートナーシップの構築 【子どもと本気で対峙する】【子どもと一緒に悩む】【子どもの視点でとらえる】【“自分事”と して受けとめる】という 4 つのカテゴリは、お互いに関連しあいながら、受託児への調整的な かかわり姿勢を表している。先行研究でとりあげられていたような非行や性化行動(13)などの問 題行動に至らないまでも、里親の意向と子どもの意向は常に一致するわけではない。里親には 日々の暮らしの中のさまざまな場面で、子どもと本気で対峙したり、一緒に悩んだりするなど、 子どもとの調整が求められる。注目したいのは、そのような場合に、起きている状況を子どもの 視点でとらえ、里親自身もまた自分に何ができるのかを模索することである。子どもと本気で対 峙することは子どもを指導することではなく、子どもと一緒に悩むことは子どもだけに行動変容 を迫るような「恩恵的(してあげる)支援」(中谷 2008 : 22)ではない。それらは相互関係の中 で生じるものであると言える。 (44)したがって受託児への調整的なかかわり姿勢は、子どもに対する一方向的な指導や恩恵的支援 ではない。それは、「互いがパートナーとして支えあう関係性=共同体性」(喜多 2010 : 39)を 築くパートナーシップの構築(14)であると考えられる。 (2)里親養育のめざす方向−育ちを支えるネットワークの形成 【周りの人と力をあわせる】【子どもどうしの関係を育むことを大切にする】という 2 つのカ テゴリは、お互いに関連しあいながら、里親養育におけるめざす方向を表している。里親養育は 里親家庭だけで担うものではなく、子どもをとりまく周りの人と力をあわせながら、子どもどう しの関係を育むことも含めて、受託児の育ちを支えるネットワークの形成であると言える。 藤間は、「家庭を『のぞましい』モデルとして措定することが問題含みである以上、今後の社 会的養護のあり方は、〈家族主義〉を超える新しい観点から構想される必要がある」(藤間 2017 : 150)と指摘し、「ケア空間一元化モデル」に対し、「ケア空間多元化モデル」を提示している。 ケア空間一元化モデルというのは、「子どものケアはただ 1 つの私的空間のなかで、特定の個人 (親)との愛情あふれる関係のもとで引き受けられるべき」であり、「頼っていい場所は 1 つだ け」(藤間 2017 : 152)という、「〈家族主義〉と「自立」をめぐる規範の共犯関係」(藤間 2017 : 153)によって下支えされているものである。それに対してケア空間多元化モデルというのは、 複数のおとなが連携して子どものケアにあたる、あるいはまた子どもがピア・グループにおける 関係を経験できるような「常態的に複数のアクターが子育てに関わっている」(藤間 2017 : 153) ものである。 日本の社会的養護は、家庭養護優先、施設養護においても家庭的養護へと舵を切る中で、要保 護児童の養育は小さな単位でおこなわれるようになった。しかし小さな単位の子育てが、小さく 閉ざされた集団によるケア空間一元化になってはならない。受託児の育ちを支えるネットワーク の形成もケア空間多元化につながるものであり、その意味において、それは今後の里親養育のめ ざす方向であると考えられる。
5.結 論
本研究の目的は、里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティを明らかにすることで あった。3 人の里親に半構造化インタビューを実施し、明確に意味づけされることなく語られる エピソードを抽出し質的記述的方法で分析をおこなった。その結果、里親と受託児のかかわりあ いのアクチュアリティが明らかになった。 ①一貫して子どもを気にかけながら、子どもを 1 人の人間として尊重するがゆえに、時には 子どもと本気で対峙するが、だからといって 1 人で養育のすべてを抱え込むのではなく、周り の人と力をあわせる。②目の前で起こった子どもに関する悩ましいできごとに対して、子どもを 変えようとするのではなく、その悩ましいできごとを子どもの視点で前向きにとらえ、自分に何 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (45)ができるのか“自分事”として受けとめ、子どもと一緒に悩む。③立場的に安心できる関係であ りたいと願い、子どもの安心を優先しながらその手続きを進め、同時に、子どもの安心のため に、子どもどうしの関係の育みを大切にする。 また、アクチュアリティを表すカテゴリ間の関連とその意味について以下の 3 点について考 察した。①受託児への基本的なかかわり姿勢は無条件の顧慮である。②受託児への調整的なかか わり姿勢はパートナーシップの構築である。③里親養育のめざす方向は受託児の育ちを支えるネ ットワークの形成である。 3人の里親とエピソードに登場した受託児との関係は現在も継続しており、この点において養 育不調に陥っているわけではないと言える。したがって、本研究によって見出された受託児への かかわり姿勢や、里親養育の方向性には、「里親−受託児」関係の視点からとらえた里親支援を めぐる示唆が得られたと考える。 ※本研究は JSPS 科研費 JP199K02174 の助成を受けておこなったものである。 ※本稿は、日本子ども虐待防止学会第 26 回学術集会いしかわ金沢大会(於:金沢歌劇座、2020 年 11 月 28日∼29 日)の口頭発表をもとに執筆したものである。 注 ⑴ 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課(2020)によれば、2018(平成 30)年度の児童相談所での虐待 相談対応件数は、2008(平成 20)年度の 42,664 件から、およそ 3.7 倍の 159,838 件となっている。 前年度から 26,060 件の増加である。また養護問題発生理由のうち虐待(放任・怠惰・虐待・酷使・ 棄児・養育拒否)が占める割合は、1992(平成 4)年では 16.0% であったのに対し、2018(平成 30)年は 45.2% となっている。 ⑵ 全国児童養護問題研究会からは、2017(平成 29)年 9 月に「子どもが望む家族との距離感を保ちな がらその自立を支援するためには、養子縁組・里親か施設かの二者択一ではなく、子どもの権利を守 る社会的養護の多様な選択肢が必要」であり、「里親委託の拡充については、国際的なフォスター・ ドリフト問題、日本の里親委託解除・措置変更の多さ、被措置児童虐待発現率などの現状に立脚した 現実的な改革の実施を求めます」(全国児童養護問題研究会 2017 : 1)という意見が出された。また 2017年 10 月に開催された厚生労働省の社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会では、全国児 童養護施設協議会より、新ビジョンの方向性は理解するが、里親支援が不十分な中、目標値ありきの 議論には反対であり、施設養護と家庭養護の協働が大切であるとの意見が出された(福祉新聞 WEB 2017)。 ⑶ 全国児童養護問題研究会が出した「新しい社会的養育ビジョン」に対する意見書では、「もちろん、 里親委託率の増加をめざすことは、子どもの権利条約に基づく国連子どもの権利委員会の日本審査に おいてその最終所見で勧告されていることでもあり、日本政府として誠実かつ計画的に遂行していく 責務を有しています」と記されている(全国児童養護問題研究会 2017)。 ⑷ 里親等委託率は全国平均で、2009(平成 21)3 月末の 10.5% から、2019(平成 31)年 3 月末には 20.5% に上昇した。自治体間の格差が大きく、委託率の高いところでは 2019 年 3 月末時点で、新潟 市 55.9%、静岡市 48.5%、福岡市 47.9% となっている。 ⑸ 森(2011 : 15)において、里親委託ガイドラインの策定に関して、「この中の特記すべきことの 1 つ として里親不調について言及されたことがあげられる」と述べられている。 ⑹ 2009(平成 21)年度から 2013(平成 25)年度の 5 年間に、被措置児童等虐待の事実が確認された (46)
事例の施設等種別では、児童養護施設が 184 件(60.0%)と最も多く、里親・ファミリーホームは 43件(14.2%)である(社会保障審議会児童部会社会的養護専門委員会被措置児童等虐待事例の分析 に関するワーキンググループ 2016 : 36)。しかし 5 年間の被措置児童数の合計は、児童養護施設の方 がはるかに多いため、虐待発生率は里親・ファミリーホームの方が高い。 ⑺ 教育学者の大田堯は、子どもが育つということを「自らと異なったひと、こと、ものとの接触の中 で、異物を受け入れたり、反対に拒否したり、記憶のなかに蓄えたりすること」(大田 2013 : 309-10) をとおした新たな自分の創造であるととらえている。 ⑻ 「自己に言及することを保留にした語り」の部分に焦点をあてて分析した研究の聞き取り調査におい て、「自己に言及する語り」がなかったと理解しているわけではない。「人が自らについて語る存在で ある限り、自己言及性は人間の基本的な条件」であり、「人は、自己に言及し、自己を解釈していく なかで世界を認識していく」からである(日本大百科全書(ニッポニカ)https : //kotobank.jp/word/ %E8%87%AA%E5%B7%B1%E8%A8%80%E5%8F%8A%E6%80%A7-281061, 2020. 10. 55)。あく までも聞き取り資料を分析したそれぞれの研究者が「自己に言及する語り」の部分に焦点をあてた/ あてていないという区別である。 ⑼ 先行研究の内容を紹介する際、受託児の呼称については、それぞれの研究における用語を尊重してい る。 ⑽ 鯨岡は、人と人が関わる際に「相手の心が動いていることがまず摑みとれ、また自分の内部でもさま ざまな心が動いていることが実感される」(鯨岡 2013 : 12)というようなことが接面において生じて おり、この接面において「捉えられる目に見えない心の動きも含めて、そこで起こっていることを明 らかに」(鯨岡 2013 : 13)できるのがエピソードであると述べている。社会福祉研究においてエピソ ードに注目することについては、笹倉・井上(2018)を参照されたい。 ⑾ 2018(平成 30)年度末の里親委託率はおよそ 26 パーセントである(厚生労働省子ども家庭局家庭福 祉課 2020 : 25)。 ⑿ 田中は、ハイデガーが気遣いを配慮と顧慮に分けており、「配慮は、道具やモノ(用材としての人) に対する気遣いであり、何かを作成したり、何かに携わったり、何かを確かめたりするときの、その 何か(だれか)に対する関わり方である。(略)配慮は、しばしば、方法が目的に短絡的に結びつく 『成果追求』や、なんとしても目的を達成しようとする『目的合理』といった態度につらなるだろう」 と述べている(田中 2015 : 59)。 ⒀ 性化行動という表現には「性被害に遭った子どもは、あらゆる活動領域が過剰に性的興奮・反応に汚 染されてしまったかのような誤解、偏見を生じさせる危険性がある」(八木・岡本 2012 : 17)ため、 この言葉を使用せずに「トラウマによる性的行動」など正確に事態をとらえた表現が必要であるとい われている。 ⒁ 喜多は教師と子どもとの関係においてパートナーシップの構築について議論しており、このような実 践は、「結果的には教職員のエンパワーメントにつながっていく」(喜多 2010 : 39)と述べている。 したがって喜多に依拠すれば、里親が委託児とパートナーシップを築くことは、里親のエンパワーメ ントにつながると言える。 文献 新たな社会的養育の在り方に関する検討会(2017)「新しい社会的養育ビジョン」(https : //www.mhlw. go.jp/file/04-Houdouhappyou-11905000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Kateifukushika/0000173865. pdf, 2020. 10. 5). 安藤 藍(2010)「里親経験の意味づけ−子どもの問題行動・子育ての悩みへの対処を通じて」『家族研究 年報』35, 43-60. ────(2016)「措置委託解除後の元里親子関係−関係の再編・調整過程に着目して」『1 生活社会科学 里親と受託児の「かかわりあい」のアクチュアリティ (47)
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