• 検索結果がありません。

教師が子どもたちに教えなければならない資質・能力とは何か-21 世紀型の「教師力」と「学校力」を考える-

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "教師が子どもたちに教えなければならない資質・能力とは何か-21 世紀型の「教師力」と「学校力」を考える-"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

教師が子どもたちに教えなければならない資質・能力とは何か

-21 世紀型の「教師力」と「学校力」を考える-

A Study on Qualities and Abilities Teachers Must Teach Children

―Think about School and Teacher’s Skills of 21st Century Type-

矢野 正

Tadashi YANO

要旨(Abstract)

世界中において AI(人工知能)や ICT(情報通信技術)の技術が大きく進展し,社会変革としての Society 5.0 が 叫ばれ始め,最近の教員養成や働き方に関する動向というものも,たいへん目まぐるしい状況の変化がある。2019 (平成 31)年 3 月までに,全国一斉に教職課程の再課程認定が行われ,多くの大学の教職員が対応に追われること となった。再課程認定が行われたのは,教育職員免許法及び同施行規則が改正されたことによるが,中央教育審議会 教員養成部会等の答申や,文部科学省が平成 26~28 年度まで行った「総合的な教師力向上のための調査研究事 業」,及び平成 29 年度から継続中の「教員の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」の成果の多くが,ここに反 映されていることは見逃すとこができない。そこで,教員養成に関する最近の動向で注目すべきものとして,学校力 や教師力の問題を取り上げながら,今後の初等教育課程のあり方や教師が子どもたちに教えるべき資質及び能力につ いて,改めて論じてみたい。 特に本稿では,子どもたちに「助けて(SOS・HELP)サイン」を出してもいいんだと教えること,子どもの貧困問 題など,ただでさえ生きていくことが非常に困難な時代に,その苦しさやもがきの代弁者としての教師の役割につい て,さらに,子どもたちにしっかりと好きなことに熱中することの素晴らしさを教えるなどの観点から,子どもを中 心として,その資質・能力を論考していく。 キーワード:子どもの問題行動,教師力,学校力,資質・能力,働き方改革(変形労働時間) Ⅰ.はじめに 最近の教員養成の動向や情勢を見ていくと,様々な改革が一体的に進んでいることを実感できる。たとえば,文部 科学省の「教員の養成・採用・研修の一体的改革推進事業」に基づく委託研究として,平成 29 年度に広島大学と静岡 大学から「小学校教科のコアカリキュラム」が報告されている。さらに,平成 30 年度の委託研究では,東京学芸大学 と広島大学において「中・高教科のコアカリキュラム」の作成を行っていることがわかる。コアカリキュラムで示さ れる到達目標を達成できる 「シラバス」(当然,対応する研究業績も求められよう)と「コアカリキュラム対応チェ ック表」の提出を,きっと数年以内に求められるに違いない。したがって,今後も教員養成の動向には細心の注意を 払う必要があるものと考えられる。 さて筆者は,これまでの初等教育の担任経験及び教員養成課程の大学教員としての経験から,子どもたちに最低限 必要な資質および能力について常に考えてきた。近年特に,激しく社会の構造改革が叫ばれ,Society 5.0 の現在に

(2)

おいて,教師という仕事の「不易と流行」を考えてみることは,大変有意義であると考える。そこで本稿では,子ど もに教授する教師という仕事の魅力や責務について,改めて整理してみたい。 Ⅱ.「助けてほしい」と言えるということを,子どもたちに教えたい 他者や他人に対して,ヘルプ(SOS)や助けてサイン(HELP)を出すことを,心理学的用語で「援助要求」「援助要 請」「援助希求」と呼んでいる。宇佐川研で,都立矢口特別支援学校主任教諭(臨床発達心理士であり,特別支援教育 士スーパーバイザー(S.E.N.S.- SV))の川上康則(2020)氏もその論考で述べている通り,これは,人生を左右するほ ど大切な技術(スキル)であるとされているものである。筆者は,4 月の初めに学級開きで,これらのスキルを子ども たちに教えてきた。たとえば,小学校低学年の1・2年生であれば,困ったことがあったらすぐに先生に尋ねること, トイレに行きたくなったら遠慮なく申し出ることなどである。 当然に,社会に出てもそういったスキルが求められる。たとえば,大人の社会でも,探し物がなかなか見つからな いときには,知っていそうな人に尋ねてみなければならない。また,期限に間に合わないような事態が起きれば,そ のことを報告したうえで,上司や取引先に期日の延長をお願いしたり,同僚に手伝ってもらえるかと依頼したりする ことなどがあるだろう。 このように,人に援助(助けて)を求める(サインを出す)ことは,言い換えれば「困難を乗り越えるためのスキ ル」だと言っても過言ではないだろう。もし仮に,誰も頼れないという状況があるとしたら,そこに安心感や安堵感, 達成感は生まれてこない。誰かを頼れる,頼りにできるという場面・状況は,その人個人の意欲や態度を根底で支え ているということになる。 しかしながら,もともと集団意識の強い日本の社会では,「他人に迷惑をかけない」ことが基本とされる風潮や風土 がいくつも散見されてきた。今でもその傾向は根強く存在しており,このことは子育て観や教育観にも,大きく影響 をもたらしているところが多分にある。このことが「援助を求めることは弱いこと,好ましくないことである」とい う誤解や偏見につながることも当然にあり得るのである。 また,いじめ被害に遭いやすい人や自殺リスクの高い人というのは,援助希求能力が乏しいとされている。もしか したら,「SOS や HELP を出すことで,誰かに迷惑をかけてしまうのではないか」と考えているのかもしれないのであ る。 したがって人は,何かに依存しなければ生きていくことはできないということを,周囲の信頼できる大人が小さな 子どものうちからしっかりと教えていくことが大切であると考える。誰にも頼れないと感じてしまうと,他人ではな く,「物」や「立場」に依存するようになってしまうからである。近年,社会をにぎわせている芸能人等の薬物事件も その一端ではなかろうか。アルコールやギャンブル,違法薬物やドラッグ,インターネットやゲームへの依存症には, すべて「人に依存できていない」という共通項目が認められる。また,相手に「マウントをかける(精神的に,上位 に立つこと)」ような行為で,「立場」や役回りに依存したりすることも,結局は「人に依存できない」ことの裏返し だと考えてみることができるのである。 これまでの学校生活において,子どもたちが「SOS・HELP を出せるようにすること」や「援助希求力を高めること」 は,どれほど大切にされてきているだろうか。「特別活動の指導法(初等・中等)」を担当する筆者からすると,しっ かりと次期の学習指導要領で触れておくべき事項,子どもに教えてしかるべき事項ではないかと考える。 たとえば,授業で「分かる人?」と挙手をうながす場面があるだろう。そのとき,手が挙げられない子はどんな表

(3)

情や思いをしているだろうか。そんなときこそ,教室全体をゆっくりと見まわしてほしい。そこで醸し出された教室 内の雰囲気を,しっかりと察してほしい。できるだけ「指名されないように」というオーラ(aura)を出しながら, その子どもは緊張感や不安感でいっぱいなことを,どれだけの教師が把握できているだろうか。このやりとりが繰り 返されると,いつの間にか授業そのものが「臆病になること」を助長し,そういった教室の悪い風土を植え付けてい くのである。防衛的なクラスを作り上げてしまうことにつながっていく。 このように,子どもたちが「困っている」と言えなくなる空間や時間というのは,極めて危険なことなのである。 助けてというサイン,SOS や HELP を出したり,援助を求めたりすることを,「屈辱」や「敗北」と感じるようになるの である。そして,その困難をなんとか乗り越えていこうという挑戦への意欲や動機付け(やる気),学習意欲(マイン ド)を打ち砕いてしまうことになりかねないのである。 その結果,問題に向き合わない,問題から遠ざかろうという気持ちを誘発する。もしかしたら,不登校というもの は,「今の学校が安全ではない」という実感をもとにした「目の前のやるべきことから距離をおく」という,防衛的な 手段(逃避行動)なのかもしれないのである。 もし,授業において挙手をうながすのであれば,困っていることや前に進めないでいることについて,尋ねてみる ようにしたいものである。きっと,その空間や学級(クラス)の雰囲気は安心感に包まれると考える。ただ,この問 いかけでも,手を挙げられる子はごくわずかである可能性がある。もし手を挙げられる子がいたら,ぜひ「勇気があ るね」と褒めてあげることが必要である。NHK 放映の「プロフェッショナル:仕事の流儀(小学校教師)」で一躍有名 になった教育実践研究家の菊池(省三)学級の「誉め言葉のシャワー」の実践には,それなりの意味があるし,カレ ンダーなどの「価値語」が広まっているのは,周知の事実であろう。 以上のように,それだけ今の学校というのは子どもが「助けて!」と言い出しにくい場所になっているような気が してならないのである。こういったことは学校の教室ももちろんであるが,実は職員室もしかりである。2019(令和 元)年に兵庫県神戸市の小学校で教員同士のいじめ事件が起こり,大きく報道がなされ,全国から反響が相次いだ。 同調査の結果,同教育委員会では他のいじめ問題も明らかになっている。懲戒免職処分も下され,社会の関心の高さ というものが改めて窺われる。何より教室や職員室が,安心・安全でなければ,子どもも教師も成長はできないので ある。これらは,やはり現代の学校教育における「教師力」と「学校力」の問題であろうと考えられる。 Ⅲ.子どもの「もがき」の代弁者としての「教師」の役割と責務について 大学時代に,「俺たち,絶対に教師になるぞ!」と言ってくれた友達がいた。「どうして?」と尋ねてみると,その 友達は「学校っていうのは,デキるやつばっかりが先生になっちゃダメなんだ。俺らみたいに,自分への歯がゆさや, 大人に対してのもどかしさで苦しい思いをしている子どもの気持ちがわかるやつが学校には必要なんだ!」と言って くれたのである。 本来子どもというのは,自分の「もがき」や「苦しみ」をうまく表現できないものだと,しみじみと感じてきた。 教師というのは,優等生ばかりでなければならないのではない。一時期,大阪府教育委員会が「熱血教師募集!!」 と謳っていたことがあったが,熱血教師ばかりでは,子どもは疲弊してしまうだろう。いろんな先生がいてもいい。 21 世紀は,多様性・ダイバーシティ(Diversity)の世の中であるのだから。 たとえば,クラスの中に,ちょっとでも気に入らないことがあると,相手を「死ね!」と罵る子どもがいるかもし

(4)

れない。また,「ムカつく」や「ウザい」など,周囲を不快な思いにさせる暴言や汚言が口癖になっている子どももい るだろう。そういったことは,生徒指導上の問題行動として認知され,教師による生活指導の対象となる。 しかしながら,通り一辺倒の「注意」や「叱責」では,彼らの行動はなかなか変わらないし,改善しないものであ る。なぜなら,彼らは自分の内面世界を整理したり,適切に言語化したりする術(すべ)を知らないからである。 知らないことやまだ身に付いていないことを,心理学的用語では「未学習」と呼ぶ。彼らの姿を見て,未学習状態 であると理解できれば,適切なふるまい方のコツを「教え,導く」という予防的な生徒指導的な発想にたどり着くこ とができるのではなかろうか。そのような視点に立つと,これまで叱って直そうとしてきたことの多くは,実は「教 え,導くべき内容」であったということに,教師の側が気づけるのである。 したがって,教師は「それは悔しかったね」や「それは,もどかしいよなぁ」,「苦しくて,気持ちも沈むよね」「死 ね!って言いたいくらい,腹が立ったんだよな」などの子どもの心に寄り添うような,傾聴的なカウンセリングマイ ンドの接し方が可能となり,こういった優しい言葉で,彼らの内面世界の代弁者でいることが,結果的に子どもへの 支援や指導へとつながっていく。このような理由で,「教育相談」や「カウンセリング」が,教職課程科目に導入され ているのである。 子どもたちの「もがき」や「苦しみ」は,特別支援教育の世界では「つまずき」と表現されることがある。前者が 「情緒面のモヤモヤ感」を主観レベルで言い表したものだとすれば,後者には,それらを科学的に分析し,こうでは ないかと仮説立てをし,指導や支援の方略・方法を考慮し,より効果的な手立てを講じるという一連のプロセスが加 わる。この過程(プロセス:process)のことを,「アセスメント(assessment)」や査定,診断,評価などと呼ぶこと もある。このアセスメントを経ると,その子どものつまずきがより詳細に語られるようになることが多い。また,ソ ーシャルワークの社会福祉では,子どもがつまずいている部分だけでなく,その子の特有の強みやストレングス (strength)の視点も見出すこともできる。これを「認知特性」と呼ぶのである。「特別支援教育」の考え方や教え方 も,新たに再課程認定の折に,教職課程科目の必修科目となったところである。柘植雅義(2020)は,日本には特別 支援学校の免許はあるが,特別支援教育の免許がないことを説き,発達障害に関する教員免許の創設の意義と可能性 について,第 28 回日本 LD 学会の学会企画シンポジウム(2019 年実施)「発達障害を中心とする教員免許状の創設の 可能性」において言及している。そういう筆者も,学校心理士資格の他に,前述の柘植氏や川上氏と同様に,日本 LD 学会認定の特別支援教育士(S.E.N.S.)の資格を保持している。 ここで,自分のつまずきについて理解することを,特別支援教育の分野では長らく「障害受容」と呼んできた。し かしながら,この言葉は,一見すると人の脆弱的(vulnerability)な部分ばかりに焦点を当てているような印象も与 えてしまうものである。そこで最近では,「特性理解」や「自己理解」という言葉を用いて,その子どものもがきや苦 しみの再整理を,支援・援助するようになってきている。 一昔前の 20 世紀の教育とは違って,発達障害のある子がいる前提で,学級つくりと授業づくりをすることが,通常 学級の標準(スタンダード)的なスタイルとなりつつある。しかしながら,学級担任にとって,多様な特徴を持つ子 どもたちを育てることは,やはり並大抵なことではない。したがって,「障害はその子の中にあるだけでなく,その子 の外にもある」という,いわゆるインクルーシブ(inclusive)な教育システムを導入し,その子どもたちの外側の「環 境」をどう構成していくかということの工夫や挑戦(チャレンジ)についての具体的な提案が,学級経営において早 急に必要になるだろう。 最初に戻るが,大学時代にこの教職という仕事を薦めてくれ,タッグを組んでくれた友達は,今のような科学的な

(5)

手法が乏しかった時代に,直感的に自分の「特性」や「特技」を見抜き,「もがき」の再整理を後押しし,さらに「役 割」や「責務」まで与えてくれたのではないだろうか。現在は,大阪府内をはじめとした公立小・中学校の現場でそ れぞれに活躍している。それを思うと,まだまだ足元にも及ばない自分がここにいる。これからの教育を担い目指す 若者や教員志望者に,今後ともぜひ伝えていきたいことである。 Ⅳ.夢中になる・好きなことがある,ということは素晴らしいこと 筆者は,教師という仕事の本質・冥利とは,「子どもたちに,人生を豊かに生きるコツを伝えること」だと考えてい る。人というのは,好きな人や好きなことに対しては自然と態度がやさしくなるものである。そうすることで,他人 に対しても大らかに接することができるようになるのである。前述の川上ら(2020)の主張とも,概ね合致するもの である。筆者の出身の大阪教育大学は,初のクラウドファンディングを実施した。2020 年 1 月 21 日から実施した「教 師の魅力向上プロジェクト~教師冥利に尽きるエッセイの公開・活用~」は,目標額の 100 万円を 2020 年 3 月現在 で,既に達成している。またそれに基づき,様々な校種による教師からのエッセイの募集が始まっている。 好きな人や好きなことに対しては,時間を忘れるほどに夢中・熱中・没入・投入できて,気がついたらあっという 間に,その「時間」が過ぎていたということもよくあることなのではなかろうか。よって,好きな人が増えることや, 好きなことがいっぱいあることは,その人の人生を悪い方向へ深刻化させない方法の一つだと言えるのである。逆に, 深刻化して行き詰まりを感じるようになると,あらゆることに対して「好き」が小さくなるのを感じるようになる。 人生を豊かにしたいと誰もが考えているのではなかろうか。 この「好き」という感情が低い人たちが群れ出すと大変なことになる。嫌いなことや苦手な人に対しての「否定し てもいい」や「攻撃してもいい」,「失礼な態度をとってもいい」といった線引き(ライン)が途端に緩くなっていく のである。こういったことから,「学級崩壊」や「授業崩壊」などの学級の荒れにつながっていく恐れがある。 したがってまずは,何より「好き」をたくさん作ることを教師は子どもたちに教えなければならないであろう。そ して,「好き」が小さくなり始めたときは,「好き」が小さい人たち同士で集まるのではなく,「好き」がたくさんある 人のそばに行くようにと,教師の側がそっと支援・援助するのである。これが,子どもたちが人生を豊かに生きるコ ツだと考えられる。教室や社会においては,「好き」っていう言葉の響きが,何より素晴らしいものなのである。 Ⅴ.おわりに 経済協力開発機構(以下,OECD)から Education 2030 が示され,子どもたちが自分の気持ちをしっかりと素直に, そして正確に表現することが大切ではないかと教育実践を積み重ねてきた。OECD の組織する DeSeCo が提言した「キ ー・コンピテンシー」や,アメリカを中心とした国際団体「ATC21s」の提唱する「21 世紀型スキル」など,新しい社 会を生き抜くための必要な能力とは何かを定義する試みが,現在行われている。これらの未来志向型コンピテンシー の内容を見てみると,①自分の生活環境や職場環境のなかに問題や課題を発見し,適切な問題解決プロセスを経たう えで,その状況を改善していくことのできる力(=問題解決能力),②自分とは異なった立場や意見をもつ人々ととも に,適切な方法を用いながら意見を調整し,より良い集団的意思決定を行い,それを実行していくことのできる力(多 様性の尊重,民主的意思決定),③知識を知っていたり,計算ができたりするだけでなく,具体的な問題状況において それらの知識やスキルを適用し,問題解決に生かすことのできる力(知識やスキルの応用的適用能力)が求められて

(6)

いることが分かる。 さらに OECD は,2015 年から 2018 年にかけて,先述の Education 2030 と銘打ったプロジェクトを行い,知識・ス キル・人間性(Character)を一体として把握しつつ,これからの時代に求められるコンピテンシーを再定義する試み を進めている。各国は,これらの未来志向型コンピテンシーを自国の学校教育を通じて実現するために,カリキュラ ムや教育課程の構造を見直し,あるいは,学習内容や授業方法,教育方法を改善するなどの教育の大改革を推し進め ようとしている。このような中で,日本においても新学習指導要領が改訂された。中央教育審議会の教育課程部会で は,今次改訂作業の準備作業において,DeSeCo のキー・コンピテンシーの検討を行っている。しかしながら,現在の ところ未来志向型コンピテンシーと教育課程との対応関係に関する検討は,不十分であるといってよい。大きくとり 残されている今後の課題でもある。 さて,少し古い教材にはなるが,チャイルドネット大阪の「いま,どんなきもち?」教材実践ガイド(2013 年 10 月) がとても優れたものであると,筆者は評価している。その筆者自身も,大阪府私学人権の代表運営委員として携わっ たものである。これらのポスター,コミュニケーションカード,ふぃーころ,パペット,シールなどの,子どものき もちの表現をサポートする教材であり,これまでに多くの教育実践を通して先生方より,子どもたちの感性の鋭さや 豊かさが実感できると,現場から報告がなされている。特に,大阪府人権教育研究協議会発行の「いま,どんなきも ち?(ポスター)」は,A2 判で小学校の子どもたちの手の届く高さのところに,2種類のポスターを貼っておくことが できる。また,幼児教育でも活用ができ,保育室以外に,みんなが通る玄関フロアなどにも貼ってみることも可能で ある。加えて,保護者への啓発も兼ねることができよう。さらに,コミュニケーションカード(小)(中)は,「うれ しい」「はらたつ!」「さみしいな」などの,ありのままの気持ちを表現できずに,キレる・すねるという行動でしか 思いを出せない子ども向けのカードになっている。自分のいろいろな気持ちに気づき,表現することによって仲間と 知りあい,共感しあうために,こちらも大阪府人権教育研究協議会が作成した「いま,どんなきもち?(ポスター)」 をもとに,子どもたちが遊びや生活の中で使える教材として,別途作成されている。このカードは,全部で 32 種類の 気持ちが表現されており,高機能自閉症(ASD)などの特別支援教育の教材としての活用も可能である。 最後に本稿のおわりに,筆者の考える「教師に関する心得(五訓)(表 1)」について紹介したい。川上(2020)も同 じような思いや願いを持っていると聞き及んでいる。ここで,恩師である守屋國光先生(大阪教育大学名誉教授・大 阪総合保育大学名誉教授)は,折に触れて思いついた言葉をその時々に手帳に書き留め,年末になると「守屋語録」 なるノートにまとめられている。この言葉は,大学での講義の中で口にした言葉であるとされる。同じように,拙著 「生徒指導・進路指導論(ふくろう出版)」にも,矢野語録としてよくメモ書きしているものである。以下のように, 「あ・い・う・え・お」で表現しているが,教育に向かう上で今後も大切にしていきたいと考えている。

表 1 教師の心得(五訓)について

あ:焦るな(じっくりと時間をかけて物事に取り組む。周囲の目を,必要以上に気にしない) い:威張るな(常に謙虚さや実直さを忘れないようにする) う:俯くな(少しくらい失敗しても,そんなに落ち込まない) え:笑みを忘れるな(常に子どもや保護者の前では,笑顔を絶やさずにいよう) お:怠るな(常に授業準備と自己研鑚,そして何より平素の努力を怠らない)

(7)

教壇に立つとき,いつもこのことを心に留めて,教育や教員養成に携わりたいと切に願っている。さて 2021(令和 3)年度より,公立学校教員への導入が可能になった「1 年単位の変形労働時間制」の問題がある。この制度は,教員 の多忙化解消につながらないどころか,さらに多忙化を進展させる可能性すら含んでいるものである。教師の働き方 改革(変形労働時間制)がスタートする今こそ,これらの五訓については,21 世紀型の未来の教師にぜひともつない でいきたいと考えていることである。また,2020 年 2 月に安倍内閣の新型コロナウィルス感染症対策のための臨時休 校は,新たな「教師力」や「学校力」の在り方に一石を投じている。子どもをはじめ,学校教育への影響も甚大なも のになっている。ここに来て,教育に真に向き合う必要性を強く感じている。 謝辞(Acknowledgments) 本研究は,JSPS 科研費 18K02373 の助成および日本特別活動学会研究推進委員会(通称:未来研)の助成を受けた ものである。終始熱心なご指導を頂いた,未来研の研究同志の皆様に感謝の意を表します。先生方とは共同で研究を 進め,多くの刺激と示唆を得ることができました。感謝の意を表します。本当にありがとうございました。 また,本論の執筆途中に本学部 1 年次必修科目の「人間教育学」の講義依頼が,科目担当の金山憲正副学長先生か ら舞い込んだ。望外の喜びである。この論考のことを,少しでも未来の教師の卵たちに伝えられたらよいのではない かと考えている。 文献(Reference) ・渡辺研(2020)「特集 がんばれ!公立校!!学校力の向上 学校が"ONE TEAM"となって進める,包括的な学校改善:北 海道の「学校力向上に関する総合実践事業」」教育ジャーナル,58(10),pp.10-21 ・赤坂真二(2020)「識者インタビュー 学級経営の優先順位を上げ校内研修を通して学級経営力を高める」総合教育 技術,74(13),pp.12-15 ・谷野敏子(2018)「現場の課題に応える教育センター(118):学校力・教師力を高める教育センターをめざして 大阪 府・堺市教育センター(下)」週刊教育資料,(1482),pp.32-33 ・谷野敏子(2018)「現場の課題に応える教育センター(117):学校力・教師力を高める教育センターをめざして 大阪 府・堺市教育センター(上)」週刊教育資料,(1480),pp.32-33 ・出口憲(2019)「教員養成に関する最近の動向及び今後の初等教育課程のあり方」教育研究実践報告誌(常葉大学教 育学部紀要),2(1),pp.1-4 ・辻誠一(2019)「教師を目指す学生に伝えたい実践力(4):「教師力」向上のための 4 つの視点!」東北福祉大学教育・ 教職センター特別支援教育研究年報,(11),pp.111-118 ・小幡肇(2019)「シンポジウム 奈良女子大学附属小学校における教師力の育成の実際:木下竹次・重松鷹泰の教育 に学んだ経験から」教育新世界,44(1),pp.25-31 ・岩永雅也(2018)「「共感力」と「対応力」: AI(人工知能)に負けない「教師力」をつける(特集 子どもの心をつか む先生)」児童心理,72(10),pp.1025-1035 ・玉置崇(2018)「何を学ぶか 新学習指導要領等について校長が学び学んだことをホームページで発信すべき(特集 学 校力・教師力を伸ばす 夏の研究会・研修会完全ガイド)」総合教育技術,73(5),pp.55-57 ・武藤幹夫・河内智美・小林清太郎(2018)「「教師力養成講座」2017 年度の概要と 9 年間の取組:実践的指導力を有

(8)

する教師の育成のために」岡山大学教師教育開発センター紀要,(8),pp.135-147 ・高橋晃三(2018)「子どもとの信頼関係の構築を図る教師力と教育的手法について:教育哲学的な視点と教育実践及 び幼稚園教育要領を通して」別府溝部学園短期大学紀要,(40),pp.63-68 ・藤原文雄(2017)「チームとしての学校を担う教師(特集 新教育課程が求める教師力)」教育展望,63(8),pp.39-43 ・大脇康弘(2017)「スクールリーダーとしての教師(特集 新教育課程が求める教師力)」教育展望,63(8),pp.29-33 ・菊池省三(2017)「コミュニケーション能力のある教師(特集 新教育課程が求める教師力)」教育展望,63(8),pp.23- 28 ・秋田喜代美(2017)「新教育課程が求めるこれからの教師力(特集 新教育課程が求める教師力)」教育展望,63(8), pp.4-10 ・会沢信彦(2017)「アドラー心理学で生徒指導 実践編(1):アドラー心理学と教師力」月刊生徒指導,47(4),pp.52- 55 ・丹野清彦(2017)「教師としての楽しさを感じる支援プロジェクトの課題」琉球大学高度教職実践専攻(教職大学院) 紀要,(1),pp.113-123 ・木村已典(2017)「かかわる・創る:小学校経営の実践報告」日本女子大学教職教育開発センター年報,(4),pp.69- 74 ・苫野一徳(2016)「社会が求めるこれからの教師像(特集 これからの時代に求められる教師力)」教育展望,62(2), pp.34-38 ・牛渡淳(2016)「これからの時代の教師に求められる資質能力(特集 これからの時代に求められる教師力)」教育展 望,62(2),pp.4-10 ・深川八郎(2016)「教師教育の現代的課題:教師力量をどう身につけるか」大和大学研究紀要,(2),pp.231-237 ・橋爪一治・冨安慎吾・上森さくら・辻本彰・畑智子(2016)「よりよい教員養成に求められる状況把握の在り方:新 しい教師力育成支援システムの構築に向けた検討」島根大学教育臨床総合研究,(15),pp.47-61 ・ちゃいるどネット大阪 http://www.childnet.or.jp/(2020 年 3 月 8 日閲覧) ・大阪府人権教育研究協議会(2013)「いま,どんなきもち?」1・2ポスター ・守屋國光(2004)『発達教育論:自我発達と教育的支援』風間書房,p.119 ・川上康則(2020)『子どもの心の受け止め方:発達につまずきのある子どもを伸ばすヒント』光村図書出版 ・阿部利彦・赤坂真二・川上康則・松久眞実(2019)『人的環境のユニバーサルデザイン』東洋館出版社 ・川上康則(2016)『こんなときどうする? ストーリーでわかる特別支援教育の実践』学研プラス ・赤坂真二(2020)『学級経営大全(学級経営力向上シリーズ)』明治図書出版 ・赤坂真二(2019)『アドラー心理学で変わる学級経営:勇気づけのクラスづくり(学級経営サポート BOOKS)』明治図 書出版 ・赤坂真二(2018)『最高の学級づくり:パーフェクトガイド 指導力のある教師が知っていること』明治図書出版 ・明橋大二(2013)『見逃さないで! 子どもの心の SOS 思春期にがんばってる子』1 万年堂出版 ・加藤尚子(2019)『子どもの“SOS"を見逃さない! 保育者だからできること「虐待」見極め&対応サポート BOOK (ひ ろばブックス)』メイト ・深澤英雄(2018)『学習指導要領 2020:実現のための「新・教師力 20」』小学館

(9)

・齋藤孝(2019)『教師力手帳 2020 Teacher's Diary 2020』明治図書出版 ・内田良・広田照幸・髙橋哲・嶋﨑量・斉藤ひでみ(2020)『迷走する教員の働き方改革:変形労働時間制を考える(岩 波ブックレット NO.1020)』岩波書店 ・教職員の働き方改革推進プロジェクト(2018)『学校をブラックから解放する:教員の長時間労働の解消とワーク・ ライフ・バランスの実現』学事出版 ・川上康則(2014)『授業のユニバーサルデザインを目指す「安心」「刺激」でつくる学級経営マニュアル』東洋館出 版社 ・柘植雅義(2020)「発達障害に関する教員免許の創設の意義と可能性」LD 研究,29(1),pp.29-31 ・佐藤学(2009)「学力問題の構図と基礎学力の概念」東京大学学校教育高度化センター編『基礎学力を問う:21 世紀 日本の教育への展望』東京大学出版会,p.25 ・田口広治・TOSS 八代(2007)『一年間の学級経営を成功させる裏ワザ(21 世紀型学級づくり No.18)』明治図書出版

参照

関連したドキュメント

ヒュームがこのような表現をとるのは当然の ことながら、「人間は理性によって感情を支配

目標を、子どもと教師のオリエンテーションでいくつかの文節に分け」、学習課題としている。例

子どもたちは、全5回のプログラムで学習したこと を思い出しながら、 「昔の人は霧ヶ峰に何をしにきてい

脱型時期などの違いが強度発現に大きな差を及ぼすと

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

子どもたちが自由に遊ぶことのでき るエリア。UNOICHIを通して、大人 だけでなく子どもにも宇野港の魅力

人間は科学技術を発達させ、より大きな力を獲得してきました。しかし、現代の科学技術によっても、自然の世界は人間にとって未知なことが

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から