通院アクセシビリティによるバス路線網の評価
中平 恭之
The Evaluation of Bus Network Using Accessibility to the Hospital
Yasuyuki NAKAHIRA
Population in Japan is decreasing in every year and it is expected that the number of senior citizen will increase. In 2025, 6.3 million people who were born in “1st baby boomer generation” become an older senior citizens and it is expected that the demand for the medical care, the nursing care and the welfare is increase rapidly.
In these situations, the Ministry of Health, Labour and Welfare is aimed at building "Integrated community care system" urgently. "Integrated community care system" is not only about home medical care, but secure the opportunity to move for senior citizen.
Therefore, the mobility solution for the senior citizen is required, however, the car accident by senior citizen is a social problem in recent years. Relinquishing the driver’s license of senior citizen is recommended to prevent such accident. After relinquishing, the use of public transport and transport by family will be expected. In this study, we focus on bus as most familiar transport and evaluate the bus network using accessibility to the hospital.
Keyword accessibility to the hospital, senior citizen, aging society
1.はじめに
我が国の総人口は、2008 年の約 1 億 2,800 万人をピーク に年々減少傾向にあり、2053 年には約 9,900 万人まで減少 すると予測されている1)。総人口は減少傾向にあるが、高 齢者の人口は増加すると予想されており、過去に経験した ことがない超高齢化社会が到来しようとしている。そのた め、高齢者の移動機会を確保し、病気の予防や健康の増進 を促すための施策が必要となる。しかし、高齢者が一人で 自由に移動できる手段を確保することは容易ではない。特 に地方部では、都市部と比較して公共交通の不便な地域が 多く、これまでは自家用車での移動に依存してきた。しか し、近年、高齢者の自家用車による重大事故が頻発してい ることから、高齢者の運転免許の申請取り消し(いわゆる 自主返納)が推奨されている。免許返納後の支援策として、 各自治体ではバスやタクシー運賃の割引や補助制度、乗車 チケットの配布などが行われている。今後は、高齢者の移 動手段として、公共交通の重要性が増すと考えられること から、公共交通の整備やその活用について再検討しなけれ ばならない。 本研究では、医療や介護の需要の急増を背景とした高齢 者の外出行動として、通院行動に着目し、通院の難易につ いて、アクセシビリティ指標を定義し分析を行う。通院に 際して使用する公共交通機関としては、最も利用しやすく 身近なバス交通を利用した通院行動を想定する。2.対象地域の概要
本研究は、三重県の北西部に位置する名張市を対象とす る。名張市は、人口78,909 人(平成 30 年 11 月現在)、市 域面積129.77 ㎢、65 歳以上の前期高齢者の割合 30.9%、 75 歳以上の後期高齢者の割合 14.0%である。1970 年代以 降に大阪への通勤圏として大規模な宅地開発が行われ、人 口は飛躍的に増加したが、2000 年以降は奈良県内で大規 模宅地開発が行われたため、名張市内の土地需要は低迷し た。そのため、人口は減少傾向にあり、高齢化が進行して いる。図 1 に示すように、人口は減少傾向にあるものの、 近畿大学工業高等専門学校 総合システム工学科 都市環境コース自動車保有台数は年々増加し、1 世帯当たり 1.8 台と全国 平均の 1.06 台を大きく上回り 2)、自家用車依存の傾向が 年々増している。 図1 名張市の人口と自動車保有台数 図2 名張市の医療機関位置図 市内の公共交通網は、基幹軸として機能している近鉄大 阪線が市内を縦断し、市内に4 駅(名張駅、赤目口駅、桔 梗が丘駅、美旗駅)が存在する。また、鉄道駅や病院、大 型小売店舗などの主要施設を結節点としてバス路線網が 形成されている。バス路線網は、三重交通による民営バス が10 路線(桔梗が丘線、すずらん台線、百合が丘線、梅 が丘線、赤目線、赤目香落渓線、曽爾香落渓線、つつじが 丘線、奥津線、上野名張線)、コミュニティバスが6 路線 (ナッキー号、あららぎ号、ほっとバス錦、コモコモ号、 みどり号、はたっこ号)存在する。コミュニティバスの利 用者総数は近年増加傾向にあるものの、路線の新設や延長 による利用者の増加であり、各路線とも運営については非 常に厳しい状況が続いている。バス路線は、鉄道駅などの 主要施設を結節点として路線網が形成されているが、旧市 街地や団地から離れた地域では交通空白地域が残されて いる。バス以外にもタクシーや福祉有償運送、スーパーな どによる買い物バスなどがある。 市内の医療施設は、図2 に示すように 100 施設(一般診 療62 施設、病院 2 施設、歯科医 36 施設)存在している。 医療機関の中で在宅医療を行っている施設はわずか13 施 設しかなく、また、医師の数も少なく、総合病院では開設 できない診療科が存在する。
3.通院アクセシビリティの定義
本研究では、通院アクセシビリティ指標を、一般化交通 費用を用いて定義する。 一般化交通費用は(1)式によって算出する。一般化交通 費用は、目的地までの所要時間と待ち時間・乗り換え時間 に時間価値原単位を乗じた所要時間費用と各交通モード の固定費用および目的地までの所要費用で構成される。 各交通モード別の設定値を表1 に示す。バスの運賃につ いては、民営の路線バスが約 60 円/km 程度の運賃を設定 していることから、平均速度20km/h と想定し、20 円/分と した。自動車については、燃料費が運賃相当額に対応する と考え、平均速度40km/h で 1L 当たり 10km 走行すると想 定し、ガソリンを150 円/L として、10 円/分とした。時間 価値は、国土交通省の費用便益マニュアルで定義されてい る時間価値原単位を使用した。固定費用は自動車のみかか るものとし、その固定費用は、車種や保険費用などにより 異なるが、普通車でおおよそ年間40 万円必要であるとい われており、本稿でも年間40 万円とした。これを一日当 たりの維持費に換算(1,095 円)し、1 トリップあたりの固 定費用として用いる。𝐺𝐺
𝑖𝑖𝑖𝑖𝑘𝑘= 𝑉𝑉
𝑘𝑘(
𝑑𝑑𝑣𝑣𝑗𝑗+ 𝑡𝑡
𝑖𝑖𝑘𝑘+ 𝑤𝑤
𝑖𝑖) + 𝑐𝑐
𝑘𝑘(
1)
ここに、 𝐺𝐺𝑖𝑖𝑖𝑖𝑘𝑘:交通機関𝑘𝑘における評価対象地区𝑖𝑖から目的地𝑗𝑗までの 一般化交通費用、 𝑉𝑉𝑘𝑘:交通モード𝑘𝑘の時間価値原単位 𝑑𝑑𝑖𝑖:目的地𝑗𝑗に到着するまでに歩行する距離、 𝑣𝑣:歩行速度、 𝑡𝑡𝑖𝑖𝑘𝑘:交通モード𝑘𝑘の所要時間、 𝑤𝑤𝑖𝑖:目的地𝑗𝑗に到着するまでの乗り換え時間・待ち時間 の合計、 𝑐𝑐𝑘𝑘:交通モード𝑘𝑘の固定費用と目的地までの所要費用の 合計表 交通モード別の設定値 交通モード 自動車 バス 運賃円分 時間価値円分 固定費用円回 - 通院アクセシビリティ指標は、(2)式によって定義する。 (2)式は、各評価対象地区の一般化交通費用を地区人口 で重み付け平均した値である。これにより、交通モードご とに、受診する診療科の違いによるアクセシビリティの違 いを評価する。
𝐴𝐴𝐴𝐴
𝑖𝑖𝑖𝑖𝑘𝑘=
∑ 𝐺𝐺𝑗𝑗𝑘𝑘𝑃𝑃 𝑗𝑗 𝑁𝑁 𝑗𝑗 ∑ 𝑃𝑃𝑗𝑗 𝑁𝑁 𝑗𝑗(
2)
ここに、 :アクセシビリティ指標、 :評価対象地区、 :交通モード :一般化交通費用、 :目的地区、 :人口を有する地区総数(4 次メッシュ) :メッシュ内人口4.通院アクセシビリティの推定方法
通院アクセシビリティは、図3 に示すように、対象地域 を4 次メッシュコード(500m×500m)に区画分けして推 定する。区画分けした各メッシュ内の人口がゼロのメッシ ュについては分析対象から除外する。各メッシュ内の人口 はメッシュ中心に存在すると仮定し、各メッシュの中心か ら医療機関までの移動を推定する。 通院アクセシビリティの推定は、Esri ジャパンの ArcGIS を用いる。ArcGIS のコストマトリクス解析により、複数の 出発点から複数の目的地への経路所要時間を推定する。道 路ネットワークデータおよびネットワーク上を走行する 自動車の速度は、Esri ジャパンの GeoSuite 三重県道路網デ ータを用いる。バス停まで、およびバスを降車してから目 的地までの徒歩による限界距離を 1km と設定し、歩行速 度は4km/h とした。また、出発時刻が同じで同一の OD 間 の所要時間は最短の所要時間を用いるものとし、バスの乗 り継ぎの待ち時間については、時刻表に従うものとした。 出発時刻は各メッシュ中心を20 分間隔で出発するものと 仮定し、午前7 時から午後 6 時の間に出発した移動を分析 対象とした。なお、鉄道の利用についてもバスと同様に時 刻表による運行を考慮に入れているが、今回は鉄道による 移動は、バス利用時の移動と同等と仮定して分析に用いる。 出発地から医療機関までの所要時間の算出は、全出発時刻 の平均値を用いる。 図3 名張市の人口分布 4 次メッシュ5.通院アクセシビリティの推定結果
自動車とバスの全医療機関までの一般化交通費用によ るアクセシビリティマップをそれぞれ図 4、図 5 に示す。 まず、自動車とバスともに郊外よりも市街地中心部付近の アクセシビリティが良いことがわかる。特に、鉄道駅(名 張駅、桔梗が丘駅)周辺でのアクセシビリティが良い。こ れは、市街地中心部に医療機関が集中していること、およ び鉄道駅を結節点としたバス路線網が形成されているこ とに起因している。一方で、市の北端部や南端部でのアク セシビリティが悪い。これらの地域では、医療機関が存在 せず、医療機関までのアクセスには遠方かつ乗り換えが必 要となり、また道路も狭隘でカーブの多い山間道路である ために医療機関までの所要時間が長くなることなどが要 因であると思われる。次に、自動車とバスのアクセシビリ ティを比較すると、自動車が圧倒的にコスト面で優れ、利 便性が高いことがわかる。しかし、一部の市中心部で、自 動車よりもバスのアクセシビリティが良い地域が存在す る。これは、バス路線の結節点として機能している鉄道駅 が位置する地域であり、バス停までの徒歩時間や待ち時間 が少なく、バスの利便性が非常に高い地域である。 図6、図 7 に自動車とバスによる総合病院へのアクセシ ビリティマップを示す。総合病院が存在する近隣の地域で のアクセシビリティが自動車よりバスの方が良い。これら図 4 全医療機関へのアクセシビリティマップ(自動車) 図6 総合病院へのアクセシビリティマップ(自動車) 図8 内科へのアクセシビリティマップ(自動車) 図5 全医療機関へのアクセシビリティマップ(バス) 図7 総合病院へのアクセシビリティマップ(バス) 図9 内科へのアクセシビリティマップ(バス)
図10 歯科へのアクセシビリティマップ(自動車) 図12 整形外科へのアクセシビリティマップ(自動車) の地域では、総合病院まで徒歩移動が可能であること、ま た総合病院を結節点とするバス路線が数多く運行されて いることからアクセシビリティが良くなる。一方、総合病 院から離れた地域では、特にバスでのアクセシビリティが 悪化する。これは、総合病院へのバス路線が整備されてい るものの、その路線の多くが鉄道駅を経由する路線である ため、迂回のための所要時間の増加、乗り換えの待ち時間 や便数の少なさが影響し、アクセシビリティが悪化する。 内科、歯科への自動車とバスによるアクセシビリティマ ップをそれぞれ図8、図 9、および図 10、図 11 に示す。内 科や歯科は、市内での機関数が多く、自らが通院を希望す る医療機関の所在地によってアクセシビリティは大きく 異なる。平均的に見てみると、市街地中心部でのアクセシ ビリティが良いことがわかる。 図11 歯科へのアクセシビリティマップ(バス) 図13 整形外科へのアクセシビリティマップ(バス) 図12、図 13 に整形外科へのアクセシビリティを示す。 市内の整形外科は市街地中心部に立地していることから、 市街地中心部でのアクセシビリティが良い。特に、環状路 線で運行されているコミュニティバス路線沿いではアク セシビリティが良い。しかし、この路線から離れた地域で は、環状路線バスへの乗り継ぎが必要となるため、アクセ シビリティが悪化する。 表 2 に各診療科の通院アクセシビリティの全体平均値 を示す。自動車のアクセシビリティがバスと比較して非常 に良く、コスト面で圧倒的に優れていることがわかる。名 張市の自動車分担率が平日約60%、休日約 80%3)と高い原 因として、自動車の交通コストが他のモードと比較して圧 倒的に安いことが考えられる。診療科別にみてみると、整 形外科のアクセシビリティが最も良い。これは、すべての
表2 通院アクセシビリティ 診療科 全機関 総合病院 内科 整形外科 歯科 自動車(円) 1540.51 1541.07 1565.60 1484.10 1551.79 バス全体平均(円) 4809.13 4497.82 5144.98 4542.31 4727.28 バス最短(円) 3243.56 3142.90 3383.58 3065.13 3223.66 施設が市街地中心部付近に立地しており、道路およびバス 路線も整備されていることが要因であると思われる。次い で総合病院のアクセシビリティが高く、総合病院について も市街地中心部から若干郊外部に離れているものの、バス の運行本数も多く、道路も整備されていることが要因であ ると思われる。