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平成23年渡航研修報告

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 2 April 2012 77

フィリピンレポート

平成

23 年渡航研修報告

加賀谷知己雄1)、橋本清香1) 1) 国立病院機構仙台医療センター 臨床研修医 (2012 年 2 月 13 日 原稿受領、2 月 13 日 採用) 1 はじめに 今回我々は、東北大学医学系研究科病理病態学 講座微生物学分野押谷教室のフィリピン研究拠点 に、行かせていただきました。院長はじめ病院幹 部ならびに研修指導医の先生方のご理解のもと、 当院の臨床研修の一部として認めていただいての 渡航でした。 同教室は、当院臨床研究部ウイルスセンターと のつながりが強く、ウイルスセンター長西村先生 との連携の下、同教室がフィリピンで展開してい る感染症の疫学研究の場におじゃまして、フィリ ピンの医療事情を通して発展途上国の医療を学ぶ 旅でした。 同拠点は首都マニラにある Research Institute for Tropical Medicine(RITM)に居を構えており、 フィリピンの全土で、感染症に罹患した患者の検 体を収集したり、さらには豚の採血や河川水採取 など、多岐にわたる感染症に関する研究を行って います。

今回の訪問では、私たちはレイテ島のタクロバ ン に あ る Eastern Visayas Regianal Medical Center(EVRMC)とマニラにある San Lazaro Hospital の見学を通して、日本ではほとんどお目 にかかることのない稀な感染症(破傷風、ジフテリ ア、腸チフス、狂犬病、デング熱、マラリア、レ プトスピラ、住血吸虫)、さらには結核、麻疹の症 例を見せてもらい、またフィリピンの医療現場を 目の当たりにすることができました。また、東北 大学がフィリピンにて行っている小児肺炎に関す る研究の成果発表のフォーラムも聴講させていた だきました。(橋本 清香) 2 レイテ島のEVRMC にて 写真1 廊下にベットが置かれ、点滴を受けている患者 レイテ島のEVRMC では、日本との医療の質の 差に驚かされました。まず施設は老朽化しており、 もちろん冷暖房設備はありません。成人病棟は患 者とその家族であふれ返っており、また、患者さ んたちはマットもない硬いベットの上に寝かされ ていました。廊下にも、まるで当然のごとくベッ ドが置かれ、複数の患者が点滴をうけていました (写真 1)。また小児病棟では、一つのベッドに 2-3

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フィリピンレポート 78 人の小児が入院している状況でした(写真 2)。 写真2 1つのベットに 2-3 人の患者が入れられている 一番驚いたのは、人工呼吸器の数は大変少ない ため、挿管された患者のアンビューバックを一晩 中家族が押していなければならないことでした(写 真3)。 写真3 家族がアンビューバックを押す様子 可能な検査は限られていますが、それには、患 者の多くは治療費が払えず、また国の経済力を反 映した医療システムのレベルの低さという社会的 な問題が根底にあるようです。ただ、血算、胸部 レントゲンだけは無償だそうです。また、院内感 染対策も徹底されておらず、MRSA 患者に対する 警戒も薄い印象でした。院内感染のサーベイラン スも行われておらず、どれほどの患者が院内感染 を起こしたかは不明だとのことでした。(加賀谷知 己雄) 写真4 外来は1つの部屋に 3 つのブースがあるが、仕切 はなくプライバシーの保護はない

3 マニラのSan Lazaro Hospital にて

マニラのSan Lazaro Hospitalは、レイテ島の EVRMCに比べ医療の質は高い印象を受けました が、やはり日本の病院に比べると決して質が良い とは言えない様子でした。ここでも治療費が払え ない患者が多く、施行できる検査はほとんどあり ません。 ところで、フィリピンでは、全土でIntegrated Management of Childhood Illness(IMCI)とい う研究が行われています。これは小児の発熱、咳、 呼吸困難、下痢、脱水、意識障害などを小児の発 育状態や予防接種歴などを指標に問診と理学的所 見だけでフローチャート化し、それに沿った治療 方法を示そうとするものです。フィリピンのよう な発展途上国の医療状況に合わせた窮余の策とも いえますが、見方によっては医師の資質が大きく 問われるものです。 病棟の回診の後に、専門医から IMCI に関する レクチャーを受けたのですが、日本では採血、画 像検査を容易に行える状況のために、下手をする とおろそかにされがちな問診、身体診察が診断の 中心手段となる、そうした医療の基本ともいえる ものを再認識させられた講義でした。

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仙台医療センター医学雑誌 Vol. 2 April 2012 79 写真5 結核のレクチャー 写真6 結核病棟の様子。1つの部屋に数十人の患者が収 容されている。 写真7 狂犬病、住血吸虫症のレクチャー 以上のような医療環境の中で、フィリピンのよ うな発展途上国では、5歳以下の子供の死亡原因の 50%が肺炎、下痢症などの感染症です。日本では 致死率の低い風邪のウイルスなどの感染症で、幼 い命が失われていくのです。 東北大学‐RITM 新興・再興感染症共同研究セ ンターでは、フィリピンにおける主要な感染症の 原因病原体の解明および疫学的解析やフィリピン 国全体における持続可能な感染症コントロールプ ログラムの確立を目指し、公衆衛生学的見地から 感染症対策に寄与できうるような実践的研究を行 っています。今回私たちは、上記センターの研究 者の先生方、JICAスタッフの方々と行動をともに し、フィリピンの病院を見学させていただくこと により、フィリピンの医療状況は日本に比べ改善 の余地が多分にあること、そしてその改善を目指 し、フィリピンの医療者・研究者だけでなく、日 本の医療者・研究者も力を尽くしていることを知 ることができました。 私たちは今年研修を終え、来年から医師として 働くことになりますが、世界中に、患者を救おう と尽力している方々がいることを心に留めながら、 まずは自分のできる限りの医療を行っていきたい と思いました。 4 最後に 最後になりましたが、今回の研修の計画・遂行 までお世話してくださった西村先生、現地で大変 お世話になった東北大の先生方、現地のスタッフ の方々、そして今回研修の許可をくださった医療 センターの先生方、事務の方々に心から御礼を申 し上げたいと思います。貴重な経験をさせていた だいて、本当に有難うございました。(橋本 清香)

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