国際私法上の性質決定の対象―法解釈の過程と国際私法―
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(2) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 ( 1 9 9 8年 9月 ). 解釈・適用という次の作業に移ることになる(国際私法上の公序はいまは無視 する)。 この例で,性質決定の対象は,太郎と花子が離婚する際のその子一郎に対す る親権の帰属・分配の問題である(当事者の氏名は重要ではないから,父母の 離婚の際の子に対する親権の帰属・分配の問題,というように一般化してもよ い)。従って,性質決定の対象は何かという問題は,父母の離婚の際の子に対す る親権の帰属・分配の問題は何か(事実か,生活関係か,法律問題か,実質規 定か,法律関係か……)という問題である。 ところで,この例では,父母の離婚の際の子に対する親権の帰属・分配の問 題に法例 2 1条が適用されるのである。従って,性質決定の対象は何かという問 題は,国際私法は何に適用されるのかという問題である。この問題が国際私法 の適用を考える際に重要な問題であることは明らかであろう。. 2 単位法律関係の本質:国際私法規定の構成要素. 次に,性質決定の対象は何かという問題は,国際私法規定の構造を考える際 に重要である。 上に見たように,法例 2 1条は,太郎と花子が離婚する際のその子一郎に対す. .......... る親権の帰属・分配の問題,というような,具体的ななにものかに適用される (この段階で,裁判官による性質決定が行なわれる)。換言すれば,法例 2 1条の 送致概念(単位法律関係)たる「親子間ノ法律関係」は父母の離婚の際の子に 対する親権の帰属・分配の問題を包摂する。ところで, Neuhausのいうとおり, 包摂するものと包摂されるものは同じ性質を持つ 2)。従って,性質決定の対象 は何かという問題と,送致概念(単位法律関係)は何を表現しているか(事実 か,生活関係か,法律問題か,実質規定か,法律関係か……)という問題は,同 じ問題であるといえよう。 さて,国際私法規定は送致概念(単位法律関係)と連結点により構成される から,単位法律関係は何を表現しているかという問題は国際私法規定の構成要 素は何かという問題であり,この問題が国際私法規定の構造を考える際に重要 な問題であることは明らかであろう。. 1 7 0.
(3) 国際私法上の性質決定の対象. 3 性質決定の対象と国際私法学. 上に述べたところから理解し得るように,性質決定の対象は何かという問題 は国際私法は何に適用されるのかという問題であり,単位法律関係は何を表現 しているかという問題は国際私法規定の構成要素は何かという問題である。従 って,性質決定の対象は何か・単位法律関係は何を表現しているかという問題 は国際私法上の基本的な問題のひとつであり,国際私法学にとって避けて通る ことのできないできない問題であると思われる。ところが,日本では性質決定 の対象については十分に検討されているわけではないと思われる(日本の学説 については後出第 2章第 3節参照)。性質決定の対象については,ときに「問題」, 「法問題」ということばが使われることはあっても,一般的には「法律関係」, 「生活関係」という用語が使われており,また,実質規定に対する性質決定をど のように位置付けるべきかについても十分に検討されているわけではないと思 われる。 本稿は,不十分ながら,従来の学説(外国の学説はドイツ語圏の学説に限定 する)を尋ね,私見を述べることを目的とする。. 第 2 研究の方法 国際私法上の性質決定と実質法の解釈適用の過程との間には密接な関係があ ることは既に認識されているところである。従って,性質決定の対象を論ずる 場合には実質法の解釈適用の過程を明らかにする必要がある。 ところで,最近の学説(特に,. ドイツ語圏の学説)は,性質決定の対象を検. 討する際に,「性質決定の過程」という標語の下に,法的判断の過程のどの局面 で性質決定が行なわれるかを考える傾向にある。この点では動態的な視点を導 入しているといえる。しかし,それらの学説が法的判断の過程として考えてい るのは,既に終了した法解釈を論理的に再構成して得られる定式,すなわち, 「裁判官が,実質法上の法律問題を,特定の法域の実質規定を基準として判断し て法律関係の内容に関する結論を得る」という定式であるに過ぎず,その点で は依然として静態的な見方にとどまっているといえよう。 法解釈の本質は具体的事実に対して実質法上の価値判断を加えて実質法規範 を作ることにある 3)から,法的判断とは,一方ではこの価値判断を行ないつつ, 他方では,結論・実質規定・法律問題の 3者の間に視線を往復させてこれらを 1 7 1.
(4) 横浜国際経済法学第 7巻第 1 号 (1998年 9月 ). 明確化する過程である。従って,「性質決定の対象は何か」という問題に対して 解答を与えるためには,法解釈の際には裁判官の心理は現実にどのように変化 するかを明らかにして,この過程において国際私法はどのように働いているか (働くべきか)を考える必要がある。本稿はこの方法により性質決定の対象を明 らかにしようとするものである。. 第 2章 従 来 の 学 説. 第 1節 法 的 判 断 を 構 成 す る 要 素 国際私法は,裁判官がどの法域の実質法を基準としで法的判断をすべきかを 定める法であるから,裁判官が実質法上の法的判断をする場合に裁判官の面前 に現われるものが,多かれ少なかれ,国際私法と関係を持っていると思われる。 従って,裁判官が実質法上の法的判断をする過程に裁判官の面前に現われるも のの中に,おそらく,国際私法上の性質決定の対象があると思われる。従来の 学説も同様であり,従来の学説が性質決定の対象として挙げるものは,どれも, 実質法上の法的判断の過程に裁判官の面前に現われるものである。そこで,こ の節では,裁判官が実質法上の法的判断をする際に裁判官の面前に現われるも のを列挙してみよう. 4 ¥. 実質法上の法的判断は具体的事実と実質規定とを突き合わせて行なわれる。す なわち,具体的事実が実質規定の法律要件に該当する場合には法律効果が発生 し(例えば,債権の発生,あるいは,債権の消滅),該当しない場合には法律効 果は発生しない(例えば,債権は発生せず,あるいは,債権は消滅しない)。裁 判官は,この法的判断の結果,権利が発生した,発生しなかった,消滅した,消 滅しなかった,という結論を得る。 この過程に現われるものは,具体的事実,実質規定,実質規定の法律要件, 実質法上の法律効果(債権の発生,債権の消滅),実質法上の法的判断の結論な いしは当事者の実質法上の関係(法律関係。 2人の間には現在債権がある,ま たは,債権がない). 5 )である。. 法的判断の過程において裁判官の面前に現われるものはこれだけにとどまら ない。まず,裁判が行なわれるためには原告が審判の対象(訴訟物,訴訟上の 1 7 2.
(5) 国際私法上の性質決定の対象. 請求)を特定することが必要であるから,審判の対象も裁判官の面前に存在す るといえる。次に,裁判官は訴訟上の請求の当否を判断するためにいくつかの 前提問題について判断することが必要である。例えば,代金請求訴訟では,買 主は行為能力を持っていたか否か,契約は錯誤にもかかわらず有効であるか否 か,といった問題である。土地所有権確認訴訟では,原告が訴外 Aから有効な 売買契約に墓づいて所有権を取得したか否か,訴外 A は訴外 Bから有効に所有 権を取得したか否か,といった問題である。従って,これらの前提問題も裁判 官の面前に存在するといえる。 以上に挙げたものは裁判官が法的判断をする際に裁判官の面前に現われるも のであり,その点で法的判断の構成要素と呼ぶことができる。しかし,上に示 した過程は,既に行なわれた法的判断を論理的に再構成したものであり,裁判 官の心理の現実の変化の過程を示すものではない。いずれにせよ,従来の学説 が性質決定の対象を検討する際の大きな手がかりになっているのば法的判断の 論理的過程である。 以下では,性質決定の対象に関する従来の学説を見てみる。ドイツ語圏の学 説と日本の学説は類似している点が多いので,以下では,まずドイツ語圏の学 説を見て(第 2節),次に日本の学説を見る(第 3節)。次に諸説がどの点で対立 しているかを簡単に見る(第 4節 ) 。. 第 2節. ドイツ語圏の学説. 第 1款 は じ め に ドイツ語圏の学説が性質決定の対象として挙げるものは,どれも,法的判断 の過程において裁判官の面前に現われる事象である。すなわち,ある学説は性 質決定の対象は法律問題であると主張し,別の学説は実質規定であると主張す る,というように。しかし,性質決定の対象について論ずる学説は大きく分け て次のふたつの種類に分けることができると思われる。 第 1は,性質決定の対象として何かひとつのものを考えようとする説である。 すなわち,それらの学説が性質決定の対象として主張するものは,事実関係, 生活関係,法律問題,実質規定というように論者により異なるにせよ,どの学 1 7 3.
(6) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 ( 1 9 9 8年9月 ). 説も性質決定の対象としてはひとつのものを考えようとするのである。 第 2は,性質決定の対象としてふたつのものを考えようとする説である。す なわち,まず法律問題(ないしは事実関係)を性質決定することが必要であり, 次に実質規定を性質決定すること(送致範囲の画定)が必要である,とする説 である。 ただ,個々の学説を正確に理解することは容易ではない 6)。例えば(詳しくは 以下で検討する), Neuhausは「外国法の適用の範囲. Umfangd e rAnwendung. fremdenR e c h t s」という節を設けるが, Neuhausは送致範囲の画定の必要性を 主張している,と理解すべきではないと思われる。また, K e g e lは送致範囲の画 定の必要性を主張していないと思われるが, Kegelは送致範囲の画定の必要性 を主張していると理解する論者もいる ( Schwimann,Heyn)。さらに, Schwind は自らの説を段階的性質決定 S t u f e n q u a l i f i k a t i o nと呼び, Schwindの説を段階 的性質決定と呼ぶ論者もいるが(例えば, Schwimann),Schwindの説は実質 規定を性質決定する説ではない。 ともかく,以下では,送致範囲の画定の必要性を明言していない説を先に挙 げ(第 2款ー第 6款),明言する説をその後に挙げる(第 7款)。また,どの学説 がどんな主張をしているかを正確に理解することは容易ではないので,以下で は各々の学説の説くところを日本語に訳するという方法による。. 第2款 法 律 関 係 S a v i g n y は法の空間的適用範囲の考察は法律関係を出発点としてすべきであ ると主張した。それでは, S a v i g n yのいう「法律関係 R e c h t s v e r h a l t n i s」とは 何を意味するのであろうか。法的判断の結論であろうか。 そこで,以下では,現代ローマ法体系第 8巻のはじめの部分で法律関係. R e c h t s v e r h a l t n i sということばがどのような表現で使われているかを見てみる (以下の引用文は「法律関係」ということばの S a v i g n yにおける使用例の主要な ものであり,網羅的ではない。また,訳文に付した強調は訳者による)。. 1 S a v i g n yは「はじめに. E i n l e i t u n g」と題する節(第 344節)で次のよう. にいう。 「法規範は法律関係を支配すべきである s o l l e nh e r r s c h e ni i b e rd i e 1 7 4.
(7) 国際私法上の性質決定の対象. R e c h t s v e r h i i l t n i s s e;しかし,法規範の支配範囲はいかなるものか。法規範はど. . . . .. んな法律関係 R e c h t s v e r h i i l t n i s s eを支配すべきか。」. 7 ). これに続けて S a v i g n yは,各国法の内容が異なるので各々の法の支配範囲を 定める必要がある, といい,次のようにいう。. .......... 「各々の考え得る抵触_与えられた法律関係を判断するに際して i nd e r. B e u r t h e i l u n ge i n e sg e g e b e n e nR e c h t s v e r h i i l t n i s s e s 相異なる実定法の間で発生 する抵触—を解決することは,この境界決定によってのみ可能になる。. ここで提起された問題とその解答に至るためには今や逆の道を進むこともで. ..... ............ きる。法律関係が,我々の判断の対象として,我々の前にある。 Esl i e g tu n se i n. R e c h t s v e r h i i l t n i Bv o r ,a l sG e g e n s t a n du n s r e rB e u r t h e i l u n g .我々はその法律関係 のために法規範ー一その法律関係はその法規範の支配範囲の中にあり,その法. .......... 律関係はその法規範に従って判断されるべきなのであるが nachw e l c h e re sz u. b e u r t h e i l e nist —を探し出す。」. 8 ). 実質規定の改正に関連して S a v i g n yは次のようにいう。. ............... 「さらに,我々の判断を待っている各々の法律関係 j e d e su n s e r e rB e u r t h e i l u n g. v o r l i e g e n d eR e c h t s v e r h i i l t n i Bの発生原因 E n t s t e h u n g s g r u n dは必然的に法的事 実であり,その事実は,時には近い過去にあり,時には遠い過去にあるものと 常に考えられる必要がある。しかし,法律関係の発生から現在までの間に i n. d e rZ w i s c h e n z e i t ,vond e rE n t s t e h u n gd e sR e c h t s v e r h l i l t n i s s e sb i sz u rGegenwart 実定法に変化が生じていることがあり得るから,法律関係を支配する規範 d i e. d a sR e c h t s v e r h l i l t n i Bb e h e r r s c h e n d eR e g e l を我々がどの時点から取出すべきか を決める必要がある。」. 9 ). 2. S a v i g n yは「異なる国家の相異なる領域法」. 次のようにいう。. I O ). と題する節(第 348節)で. ....................... 「我が国の裁判官が,争われている法律関係について判断すべきであるとする。. h a tz ue n t s c h e i d e ni i b e re i ns t r e i t i g e sR e c h t s v e r h a l t n i Bそして,その法律関係の 基礎にある諸事実(例えば,契約が締結されている場所,あるいは,争われて いる物が存在する場所)により,その法律関係が外国の・我々の実定法とは異 なる法と関係を持っているとする。〔……〕このような関係を持っている相異な る領域法のうちのどれを裁判官は適用すべきか。」. I I ). 1 7 5.
(8) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 ( 1 9 9 8年 9月 ). ......... ........... 「しかし,最高の権力は厳格な法により,何よりも,国の裁判官の面前に現わ れる法律関係を裁判官が,なんらかの外国法_争われている法律関係. d a s. s t r e i t i g eR e c h t s v e r h a l t n i Bはその国の国家領域と関係を持っているかもしれな. ぃ—の異なる定めを意に介せず国内法のみに従って判断すべきことを die i h n e nvorkommendenR e c h t s v e r h a l t n i s s el e d i g l i c hnachdeme i n h e i m i s c h e n R e c h t ez ue n t s c h e i d e n定めることができるであろう。」. 1 2 ). 「〔内外人を平等に扱う結果として〕法律の抵触の場合にば法律関係もまた一. 一判決がこの国でまたはあの国で言渡されるかを問わずー~向し判断を受け苓 ことを期待すべきである。 d i eR e c h t s v e r h a l t n i s s e・(… ・ ・ 〕 d i e s e l b eB e u r t h e i l u n g 1 3 ). z ue r w a r t e nhaben」. 「 2種類の抵触〔同一国家内の法の空間的抵触,複数の国家の間の法の空間的 抵触〕については今や共通の課題を次のように定めることができる。すなわち, 各々の法律関係 R e c h t s v e r h a l t n i B ごとに,その法律関係 R e c h t s v e r h a l t n i Bがそ の固有の性質により所属しまたは服従している法域を探し出すべきである。 人はこの平等扱いを,先に述べた厳格な法に対して,主権国家の間の友好的 な許容と呼ぶことができる。すなわち,外国の法律が源泉ーーこの源泉から国内 の裁判所は多くの法律関係の判断 d i eB e u r t h e i l u n gmancherR e c h t s v e r h a l t n i s s e を汲み出す必要がある_の中に入ることの許容である。」. 1 4 ). 3. 以上が,現代ローマ法体系第 8巻の最初の部分における,法律関係. R e c h t s v e r h i i l t n i sということばの使用例の主要なものである。 従来の学説は国際私法と「法律関係」の関係について次のふたつの態度をと っている。第 1に , S a v i g n yにおいては「法律関係 R e c h t s v e r h i i l t n i s」というこ とばは,実質法を基準として判断した後に発生する事象(=法律関係,結論) を指す,という理解であり. 1 5 > ,第 2に,その意味の法律関係を中心にして法の. 空間的適用範囲を考えることはできない(ないしは,性質決定の対象はその意 味の法律関係ではない)という見解 16) である。 しかし,従来の学説がとっているこのふたつの態度はどちらも検討の余地が あるように思われる。. a v i g n yが「法律関係」ということばをどんな意味で使ったのか ( 1 ) まず, S は,その語が使われた文脈から判断すべきであろう。 1 7 6.
(9) 国際私法上の性質決定の対象. 上に引用した部分では, S avigny は「法律関係 R e c h t s v e r h a l t n i s」というこ とばを次の 4つの表現で使っている。第 1は,法規範が法律関係を支配する. R e c h t s v e r h a l t n i sh e r r s c h e n という表現であり,第 2は,法律関係が法規範に服 従するという表現であり,第 3は,(裁判官が)(争いのある)法律関係を法規範 に従って判断する ( s t r e i t i g e s )R e c h t s v e r h a l t n i sb e u r t e i l e n( e n t s c h e i d e n ) という 表現であり,第 4は,法律関係が発生する R e c h t s v e r h a l t n i se n t s t e h t という表現 である。 このうちで最も具体的な意味を持つ表現は「法律関係を法規範に従って判断 すお」という表現である。この用語法からは, S avigny においては「法律関係. R e c h t s v e r h a l t n i s」ということばは,実質法を基準として判断す広以前に存在す る事象(=法律問題)を指すものと理解することも可能であるように思われる。 ( 2 ) 次に, S avignyが法律関係 R e c h t s v e r h a l t n i s ということばを法律問題の. 意味で使ったとすれば,その用語法の背後には,法律問題と法律関係は同一の ものであり,ある角度から見ると法律問題に見え,別の角度から見ると法律関 係に見える,という考え方があるといえるであろう。 ( 3 ) 法律関係(結論)を中心として法の空間的適用範囲を考えることができ. るか,性質決定の対象は法律関係か,という問題も重要な問題である。これに ついては後に検討する(前者については後出第 3章第 3節第 2款,後者について は後出第 4章第 1節第 2款参照)。. 第 3款 事 実 性質決定の対象は事実であるとする説である。 L .v .Barと Kegelの説を以下 で見る。. 第1 L .v .Bar. L .v .Barは,法の空間的適用範囲の考察は事実を中心に据えてしなければな らない,という. 1 7 ¥. 「〔国際私法の〕研究の際には法律関係という概念から出発すべきではない。 その考え方は誤った循環になるであろう。なぜなら,特定の事実が法律関係を もたらすかを知るためには,その事実を特定の法律または法ー一これを準拠規 範として_に照らし合わせる必要があるからである。すなわち,事実を支配 1 7 7.
(10) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 (1998年9月 ). する法あるいは法律をまず知る必要があり,これを我々はさしあたりまさにま だ知らないのである。」. 1 8 ). 「従って,国際私法上の事案〔……〕が問題になる場合には,より厳密には, 問題を常に次のように立てる必要がある。 1 ) 法的な判断のために考慮される ことのセき広諸事実は何か,そして, 2 ) この諸事実の各々が発生した時点に, 物ないしは人一一その法律関係が問題になっているのであるが に存在したか〔……〕。」. はどの法域. 1 9 ). ここに引用した L .v .Barの見解は, S a v i g n yの,「法律関係」を中心に据え る考え方を批判したものとして有名である. 2 0 ). 。. 第2 K egel. Kegelは「国際私法の対象」という論文で,送致概念は何を指しているか,と いった問題を検討している. 2 1 ). 。. 1 Kegel は,まず,法規範の対象 Gegenstand とは法規範の法律要件 T a t b e s t a n dに該当する具体的なもの S a c h v e r h a l tである,と定義する。 「個々の法規範の対象は何か。例えば,窃盗罪の規定の対象は何か。私の考え では窃盗である。従って,規律されるもの,『包摂』されるべきものは:存在の 世界に発生する出来事. 法規範はこの出来事に当為の世界の効果を結び付け. る一ーである。法律要件一法律効果という思考の型で表現すれば:法律効果 (当為)ではなく,出来事(存在)ー一この出来事は法律要件の要求を満足させ る—―ーである。別のことばでいえば:事実関係. S a c h v e r h a l tである。. 従って,法律要件 T a t b e s t a n d と事実関係 S a c h v e r h a l tは,いつものように, 厳密に区別しなければならない。『法律要件』は法律の抽象的な概念である。例 えば,『違法に領得する意思で他人から他人の動産を奪う者』である。『事実関 係』は個々の現実の窃盗である。従って,窃盗罪の規定の対象はその法律要件 ではない。なぜなら,人は窃盗罪の法律要件にはいかなる法律効果も結び付け ないからである。窃盗罪の規定の対象はむしろ個々の実際に発生する窃盗であ り,従って,常に同じ法律要件に対応する事実関係である。」. 2 2 ). 「国際私法の対象 G e g e n s t a n dは,そうすると,抵触規定の法律要件に対応する 事実関係 d e rS a c h v e r h a l t ,d e rdemT a t b e s t a n dd e rK o l l i s i o n s n o r me n t s p r i c h tで 1 7 8.
(11) 国際私法上の性質決定の対象. ある。」. 2 3 ). このように, K egel は,法律要件(日本刑法 235条では「他人の財物を窃取 (する)」)に該当する具体的なもの(特定の人が特定の人のポケットから財布を 抜き取る行為)を事実関係 S a c h v e r h a l t と呼ぶのである。そして,法規範の対 象G e g e n s t a n dば法律要件 T a t b e s t a n dに該当する具体的なもの S a c h v e r h a l tであ る,と定義し,国際私法ではその具体的なもの S a c h v e r h a l tは何か,という問 題設定をしているのである。 従って,上の引用文は,国際私法の対象はその法律要件に該当する具体的な もの S a c h v e r h a l tであるというのみで,それが事実か,法律問題か,実質規定 かについては,まだ何も述べていない. 2 4 ). 。. 2 K e g e lは法律関係については次のようにいう。 「我々は最初に Raapeとともに次のように言った:国際私法は事案 F a l lと法秩 序とを結び付ける。〔……〕。 まず,事案を検討しよう。. S a v i g n y によれば〔それは〕特別の種類の事案,すなわち,法律関係である。 これに対しては,循環だとする批判が v .B ar以来繰り返して向けられている: 法律関係は特定の法規の適用を前提とするところ,どの法規を適用すべきかは 国際私法により決める必要があるという批判である。例えば,誰かが我々の前 にオランダ人の養子として現われて養父に関する法定相続権を主張した場合に は,我々は民法施行法 22条を基準として養子縁組の法律関係が存在するかを調 べる必要がある。従って,法律関係を国際私法の対象とする説は実際のところ とどめを刺されたといえるであろう。」. 2 5 ). 「求められている法律関係,成立させられるべき法律関係(婚姻,養子縁組) は抵触規定の法律要件に所属しない。なぜなら,法律関係が成立するかは招致 される実質法が決めるからである。」. 2 6 ). 3 次に, K e g e lは,国際私法の対象は法律問題であるという見解を次のよう に批判する。 「しかし,例えば,窃盗罪の規定の法律要件は,誰かが窃盗犯人であり窃盗犯 人であればどのように扱われるべきか,という法律問題であろうか。法律要件 1 7 9.
(12) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 (1998年9月 ). に所属するのは問題ではなく一一誰が問い,誰が答えるのか_事実 T a t s a c h e n である。問題は裁判官が提起する:. 『法律要件は実現されているか。どんな法. 律効果が発生するか』。 Z i t e l m a n n は『事実関係』という客観的な概念の代わり に『法律問題』という主観的な(法心理学的な)概念を選ぶ。養子の例でいえ ば,民法施行法 22条の法律要件はオランダ人と養子との養子縁組契約により実 現されているのである。契約が 22条に該当するか,その契約はいかなる法に従 って判断されるか,という問題は,法律の中にあるのではなく,法律を適用す る我々に仕事をさせる〔要因である〕。」. 2 7 ). この叙述については次の点を指摘し得る。. 第 1に , K egel は国際私法規定の法律要件は事実(例えば,養子縁組締結の 事実)を指し示す,と主張するが,その理由は,「規律されるもの,『包摂』さ れるべきものは:存在の世界に発生する出来事ー―—法規範はこの出来事に当為. の世界の効果を結びつける一ーである」(上の 1の引用文)という点,すなわち, 実質規定であると国際私法規定であるとを問わず法律要件は事実を指し示す,と いう点にある。. 第2に , Kegel は,法律問題は国際私法上の法律要件ではないと主張するに 際して,国際私法上の問題(養子縁組の成立の問題に関してはどの法域の実質 法が準拠法になるかという問題)を念頭に置いているのであり,実質法上の問 題(養子縁組は有効に成立したかという問題)を念頭に置いているわけではな 2 8 ) v ヽ. 4 K e g e lは国際私法の対象は事実関係であるという。 「 R a b e l とWolffの見解,つまり,生活関係が国際私法の対象であるという 見解は,通常は生活関係が国際私法の対象であるという限りで,適切である。 しかし,我々が見たように,時にば,法律関係も国際私法の対象であり(法律 関係はこのゆえに抵触規定の前で事実たることを止める,というわけではない), すなわち,他の抵触規定が準拠事項規定を既に決定している場合である。」 「従って,抵触規定の事実関係. 2 9 ). S a c h v e r h a l tに所属し,従って,国際私法の. 対象に所属する『事案 F a l l』*とは,一般的には『生活関係 L e b e n s v e r h a l t n i s』 と呼ぶことができる。そうはいってもそれは法的なもの,特に,法律関係をも 含み得るから,『生活関係』という名称に対しては疑念が生ずる。無色に事実関 180.
(13) 国際私法上の性質決定の対象. 係 S a c h v e r h a l t というほうがよいかもしれない。しかし,この事実関係. S a c h v e r h a l tは抵触規定の事実関係・抵触法上の事実関係〔法律要件に該当する 具体的なもの,という意味の事実関係〕. 前の事実関係はせいぜい後の事実. 関係の構成要素であるに過ぎない**―から区別される必要がある。従って, 前の事実関係を,実質法上の,あるいは,より厳密には,私法上の事実関係. p r i v a t r e c h t l i c h e nS a c h v e r h a l tと呼ぶことができるであろう。 〔 . .・ ・ ・ ・ 〕 。 〔……〕。従って,国際私法の対象は私法上の事実関係であり,すなわち,私 法上の事項規定の適用に適している事実関係である。」. 3 0 ). 以上に挙げた引用文から, K e g e l は,送致概念が指すのは,主として,事実 (例えば,養子縁組締結の事実)である,と考えているといえよう。. 5 K e g e lは実質規定に関しては次のようにいう。 ( 1 ) まず,国際私法は(事実関係を対象とするだけでなく)事項規定をも対. 象とするか,という問題について K e g e lは次のようにいう。 「抵触規定は事項規定に言及している。〔……〕抵触規定は,例えば,次のよ うにいう:. 『オランダ人たる養父との養子縁組契約が存在し,オランダ法が養. 子縁組に関する事項規定を持つ場合には,この事項規定はその養子縁組契約に 適用される』。〔……〕招致される事項規定の描写はそれゆえ抵触規定の法律要 件に所属し,従って,招致される事項規定は国際私法の対象でもある。事項規 定は『包摂』される必要があり,また,(国際私法上の)抵触規定が(私法上の) 事実関係を(私法上の)事項規定と結び付けることにより,抵触規定は事実関 係を規律するだけでなく事項規定の支配範囲をも規律するのである。このこと は既に. S a v i g n yが強調したところである。」. 3 1 ). ( 2 ) 次に,国際私法の対象は事項規定だけか,という問題について. Kegel. は次のようにいう。 「しかし,ここでも再び S a v i g n y を思い出す必要がある:事項規定の支配範 囲の限界を画定することは. 事項規定が支配する事案を定めることと必然的に. 向しである。〔……〕抵触規定は種々の事項規定とその法律要件とを考慮に入れ る必要があるから,事案との関係ではその法律要件を,最終的に招致さる事項 規定〔がその法律要件を表現する〕よりもはるかに広く不鮮明に,表現する必 1 8 1.
(14) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 ( 1 9 9 8年 9月 ). 要がある。判断されるべきものは,それにもかかわらず, 2回とも同一の紛争 S t r e i t f a l lである。〔……〕私法上の事実関係のための限界は,招致される私法. 上の事項規定の法律要件のための限界と同じである。」. 3 2 ). 国際私法と実質規定の関係に関する Kegelの見解は上の通りである。この見 解の特徴は次の点であろう。 第 1に , Kegelの見解では,送致概念 VBは事実関係の総和 A を指し示すとと もに Aの判断基準になる実質規定(の法律要件)の総和 Bをも指し示すのであ り,従って,具体的な事実関係 aが送致概念 VBに該当すれば, aの判断基準に なる 1個の実質規定(の法律要件) bも同じ送致概念に該当するのである。 この見解の前提となる考え方には次のふたつがあり得る。第 1は , aとbは同 ーのものであり,その同一のものをある角度から見ると aに見え,別の角度か ら見ると bに見える,という考え方である。第 2は , aとbは別々に存在してい るが,裁判官は aに対応する実質規定 bを探し出して判断基準として使う,とい う考え方である。 Kegel の見解の根底には前者の考え方があるものと理解する のが自然なように思われる(従って, Kegel にあっては実質規定に対する性質. ......... 決定の目的はどの法域の実質法が準拠法になるかを知ることにある,と理解す べきである。後出第 4章第 3節第 3款参照) 33)。 第2に , Kegelの見解では,国際私法規定の送致概念 VBと,その国際私法規 定により基準力を与えられる実質規定の法律要件の総和とは一致するのである。 この見解は,送致概念 VBが事実の総和 A を指し示すという見解の論理的な帰 結であり,その点では Kegelの見解は一貫している。 ところで,この Kegel の見解に立てば,実質規定 bが送致概念 VBに該当す るか否か (=bに対する性質決定)は bの法律要件部分が VBに該当するか否か により決まるであろう。ところが Kegel は,実質規定を性質決定する際には, 「その事項規定の法律要件と法律効果を考慮すべきであり,その事項規定の目的, その事項規定と他の事項規定との関係をも考慮すべきである」. 3 4 ). というのであ. る。この点では Kegelの見解は一貫していないように思われる。 第 3に , Kegel は事実関係と実質規定を国際私法上の法律要件に所属させる のに対して,法律関係(結論)を国際私法上の法律要件から排除する(上の 2 の引用文)から,事実関係・実質規定・法律関係の 3者は同じものであるとい う考え方には至っていないといえよう。 1 8 2.
(15) 国際私法上の性質決定の対象. 第 4款 生 活 関 係 性質決定の対象は生活関係であるとする見解がある。「生活関係」ということ ばと「事実」ということばがどのように異なるのかは明らかではないが35)' と もかく「生活関係」ということばを使っている説として W olffの説を次に挙げる。 、36). Wolffは次のようにいっ. 。. 「特定の生活関係 L e b e n s v e r h a l t n i s に法を適用することが問題になっている のである。国際私法は特定の法律関係〔……〕に適用されるべき法を決定する ものである,と考えると誤りに陥る。生活における事実 e i nT a t b e s t a n dd e s. Lebensがそもそも法律関係であるか〔……〕については法秩序が答える必要が ある。国際私法は,すべての法的な規律〔=法領域〕と同じく,生活事実. L e b e n s t a t b e s t a n d e (約束,身体傷害,特定の年齢の到達)を前提とするのであ り,法律関係を前提とするものではない。」. 3 7 ). Wolffは K e g e lと同じく,実質法も国際私法も同じものを法律要件(ないしは, 対象)としている,という考え方に立っているといえよう。. 第 5款 法 律 問 題 性質決定の対象は法律問題であるとする説は最も多いように思われる。すな わち, Z i t e l m a n n , Neuhaus, K r o p h o l l e r ,K e l l e r / S i e h r , Weberである。. 第1 Z itelmann 、38). Z i t e l m a n nは次 ,のよっにいっ ‘. 。. 「個々の適用規範は特定の種類の実質法上の問題だけのために作られている。 例えば,『夫婦財産制』はこれこれしかじかの法に従って判断される,あるいは, 『離婚については』これこれしかじかの国の法律が基準になる,というように。 従って,この法律問題ば法秩序の適用可能性の要件である。」. 3 9 ). 「個々の適用規範は特定の法が適用されるべきことを常に命ずる。何に? 定の私法上の素材に所属する問題に。我々はそれを短く法律問題と呼んだ。」. 特 4 0 ). Z i t e l m a n nは送致概念が何を指すかという問題を主として考えているものと 思われる。. 1 8 3.
(16) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 (1998年 9月 ). 第 2 Neuhaus. Neuhausば性質決定の対象は法律問題であると主張する。以下では,性質決 定の対象と送致範囲に関する Neuhausの見解を見る。. 1 まず,「性質決定の対象」と題する節(第 14節)の叙述を見る。 ( I ) Neuhausはこの節の冒頭で次のようにいう。 「〔小前提が〕包摂される大前提と,〔大前提に〕包摂される小前提は同性質で ある必要がある。」. 4 1 ). ゜. つ 、疇ヽLV. ( 2 ) 次に,性質決定の対象が生活関係であるとする見解について次のように. 「生活関係は確かに事項規定の元素であるとともに抵触規定の元素でもある。 しかし,事項規定は事実—例えば,人の出生ーーに種々の法律効果を直接に. 結び付けることができる。これに対して,抵触規定は,事実それ自体に特定の 法秩序の適用可能性を結び付けるのではなく,むしろ,少なくとも,特定の種 類の実質的な法律効果が問題になる必要がある。」. 4 2 ). このように述べて, Neuhausは,子の出生を例にとり,子の出生は権利能 カ,嫡出子・非嫡出子の地位などいくつにも性質決定をすることができる,と 、43). い っ. ( 3 ) 実質規定については次のようにいう。. 「生活関係と法律効果とを互いに結び付ける事項規定が一般的に抵触規定の 対象であり,従って,性質決定の対象である,と考えることもできない。なぜ なら,通常は. 事実関係から〔出発して〕問題を設定する際には. 特定の. 事項規定がはじめから問題になることは全くなく,どんな事項規定をその都度 持って来るべきかは,むしろ,抵触規定の適用によりはじめてわかるのである。. v i e l m e h rs o i le r s td i eAnwendungd e sK o l l i s i o n s r c h t se r g e b e n ,w e l c h eSachnorm j e w e i l sh e r a n z u z i e h e ni s tオランダ人が外国でする自筆証書遺言という有名な 事例では:禁止するオランダの規定〔……〕が妥当するか,それとも,場所の 法の〔中の〕許容する規定〔……〕か〔は抵触法の適用によりはじめてわかる〕。 主張されている請求が,〔事案と〕関係する法秩序では存在しないために規定が そもそも欠けている,ということさえときにはある。」. ( 4 ) Neuhausはさらに続けて次のようにいう。 1 8 4. 4 4 ).
(17) 国際私法上の性質決定の対象. 「通常は,事項規定の協力により解答されるべき法律問題しか存在しない(そ して法律問題はその限度で,いわば,事項規定の鏡像 S p i e g e l b i l dである)。よ り詳しくいうと,あるときには特定の事実に甚づく(例えば,子の出生に基づ く)法律効果が問われ,あるときにはこれとは逆に特定の法律効果(例えば, 有効な婚姻あるいは離婚)の事実的な要件が問われ,またしばしば全く具体的 に一一特定の事実が特定の法律効果を持つか(例えば,契約の不履行が損害賠 償責任を発生させるか)が一ー問われる。」. 4 5 ). 「法律は,一般的には,その抵触規定の法律要件のために,請求権の要件と出 来事の効力とを区別しないで,できるだけ広く広げられてしかも無色な概念を 選ぶ。ましてや,法律問題が裁判官,戸籍吏,公証人,私的な仲裁裁判官ある いば法律相談員のいずれにより提起され,解答されるかはどうでもよいことで ある。なぜなら,法律問題それ自身の発生が抵触規定の適用可能性を引き起こ すからである。なまの事実としての生活関係が直ちにそうする〔=抵触規定の 適用を必要ならしめる〕わけでもないし,事項規定の存在がそうするわけでも ないし,裁判官に訴え出ることがはじめてそうするわけでもない。重要なのは, (どの抵触規定に従って)どの法秩序の枠の中で問題が解決されるべきか,だけ である。 それゆえ,抵触規定に包摂されるものすなわぢ性質決定されるものは,基本 的には,そのときそのときの法律問題である。〔……〕。そして,類型化された 法律問題が通常の抵触規定の本質的な法律要件要素をなすのである。『もし…… であれば,そのときには……』という基本定式で表現すれば,理念的な抵触規 定は次の通りである:. 『かくかくしかじかの法律問題を解決すべき場合には,. この法秩序が基準になる。』」. 4 6 ). ( 5 ) Neuhausは,特定の事項規定が問題になる場合について次のようにいう。. 「純粋な私法の中の特定の事項規定一一例えば,自筆証書による遺言あるいは 共同遺言の禁止ーーが個別的事案で問題になる場合には,通常の抵触規定を適 用し得るためには,その事項規定がいかなる法律問題を解決するかをまず確定 し,次に,この法律問題を抵触規定に包摂する(従って,それを性質決定する) 必要がある。なぜなら,例を挙げると,次のように考えることはできないので あり:. 『イタリアの共同遺言禁止は本国法による』,つぎのように考えることし. かできないからである.・. 『共同遺言の作成が許容されているかあるいは禁止さ 1 8 5.
(18) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 ( 1 9 9 8年9月 ). れているかは本国法による。』」. 4 7 ). ( 6 ) 次に, Neuhaus は,介入規定 ( E i n g r i f f s n o r m e n ) の場合には実質規定. の性質決定が必要であるといい 48)' 最後に次のようにいう。 「従って,結論としては,性質決定の対象は何かという問題に対しては,場合 によって異なる解答を与えなければならない。すなわち,事実関係から出発し て定式化されている〔……〕通常の抵触規定を念頭に置いているか,それとも, 法律から出発する抵触規則であるか,である。前者の場合にば性質決定の対象 は(抵触規定の対象と同じく)実質的な法律問題であり,これに対して後者の 場合には実質規定である。」. 4 9 ). ( 7 ) Neuhausの見解の特色は次の点にある。. 第 1に , Neuhausは「〔小前提が〕包摂される大前提と,〔大前提に〕包摂され る小前提は同性質である必要がある」(上の(])の引用文)と述べるから,国際私 法規定の形式と性質決定の対象の間には直接の関係がある,と考えている。 第2に , Neuhausは法律問題は「事項規定の鏡像」であるという (上の ( 4 )の 引用文)。この表現は含蓄に富む表現であり,次の意味に理解することが可能で ある。まず,法律問題と実質規定は同一のものであり,ある角度から見ると法 律問題に見え,別の角度から見ると実質規定に見える,という意味である。次 に,法律問題を作るためには実質規定を見る必要がある(法律問題の形は実質 規定に適合する形に作られる),という意味である。 Neuhausが実質規定に対する性質決定をどのように考えているかも重要な問. 題である。そのためには, Neuhausの叙述をさらに見る必要がある。. 2 Neuhaus は「外国法の適用の範囲」と題する節(第 44節)で送致範囲に. 関して次のようにいう。 「外国法の適用の範囲は,事実関係から出発する問題設定の下では,まず,準. 拠法秩序のとの規範群. (welcheGruppevonNormen d e rmaBgebenden. Rechtsordnung) が抵触規定により招致されて適用されるか,により左右され. る:問題になっている事実関係をとらえるすべての規定か,それとも,提起さ れた法律問題に解答を与え,それにより間接的に抵触規定の法律要件に該当す る規定だけか,それとも,もっと狭い範囲か。〔……〕前に性質決定の対象に関 して述べたことによれば,どの規定が提起された法律問題に解答を与えるか, 1 8 6.
(19) 国際私法上の性質決定の対象. が決め手になる。法律問題が一ー内国の規定または外国の規定を考慮に入れて ―ひとたび提起されて,その解答の基準になる実質法が決定された後は,こ の法秩序がどんな解答を与えるかについてその法秩序を全体として試験する必 要がある。」. 5 0 ). 実質規定の性質決定についてはいくつかの考え方があり得る。すなわち,国 際私法規定が法域を特定した場合にはその法域の実質法の中のどの実質規定を 適用すべきがは実質法の解釈の問題である,という考え方と,国際私法規定が. ......... 特定した法域の実質法の中のどの実質規定を適用すべきかを決めるために実質 規定を性質決定する必要がある,という考え方(送致範囲を画定する必要があ るとする説)である。また,実質規定に対する性質決定の結論はどの法域の実. .......... 質法を適用すべきかを左右する,という考え方もあり得る(実質規定に対する 性質決定については後出第 4章第 3節第 3款参照)。それでは, Neuhaus は実質 規定に対する性質決定をどのように考えているのであろうか。 Neuhausは第 1に「どんな事項規定をその都度持って来るべきかは,むしろ,. 抵触規定の適用によりはじめてわかるのである。オランダ人が外国でする自筆 証書遺言という有名な事例では:禁止するオランダの規定〔……〕が妥当する か,それとも,場所の法の〔中の〕許容する規定〔……〕か〔は抵触法の適用 によりはじめてわかる〕」(上の 1( 3 )の引用文)という。 この叙述は全体として,どの国際私法規定を適用すべきかはどの法域の実質 法を準拠法とすべきかを左右し,その結果,法的判断の結論を左右する,とい う程度の意味であるように思われる。従って,この叙述は実質規定に対する性 質決定を論ずるものではない,と解すべきであろう. 5 1 )。. Neuhaus は第 2に「純粋な私法の中の特定の事項規定〔……〕が個別的事案. で問題になる場合には,通常の抵触規定を適用し得るためには,その事項規定 がいかなる法律問題を解決するかをまず確定し,次に,この法律問題を抵触規 定に包摂する(従って,それを性質決定する)必要がある」(上の 1( 5 )の引用 文)という。すなわち, Neuhaus は,裁判官が特定の実質規定を適用したいと 思った場合にはその実質規定に対応する法律問題を作りこれを性質決定すべき である,というのである。 この叙述は,国際私法規定における送致概念と性質決定の対象はどちらも法 律問題である(「〔小前提が〕包摂される大前提と,〔大前提に〕包摂される小前 1 8 7.
(20) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 (1998年 9月 ). 提は同性質である必要がある。」前出 1( 1 )の引用文)という考え方と一貫して いる。しかし,重要なのは上の叙述の本質であり,それは,実質規定に対する 性質決定の目的はどの法域の実質法が準拠法になるかを知ることにある,とい う点にある。 Neuhaus は第 3 に「法律問題が—内国の規定または外国の規定を考慮に入. れて一ーひとたび提起されて,その解答の基準になる実質法が決定された後は, この法秩序がどんな解答を与えるかについてその法秩序を全体として試験する 必要がある」(上の 2の引用文)という。これは,法律問題に関して特定の法域 の実質法の中のどの実質規定が適用されるべきかはその法域の実質法の解釈問 題であり,国際私法が関与する問題ではない,という意味であろう。. 第3 K r o p h o l l e r K r o p h o l l e r の見解は. Neuhausの見解に類似している。. 1 K r o p h o l l e r は「性質決定の対象」と題する節(第 1 5節)を「 I 法律問 題」と題する項目と,「 I 事項規定」と題する項目に分ける。 ( I ) まず,「 I 法律問題」と題する項目では次のようにいう。. 「普通は,既に,単なる生活関係 L e b e n s v e r h a l t n i s以上のものがある。すなわ ち,事項規定の協力により解答されるべき法律問題である(そして法律問題は その限度で,いわば,事項規定の鏡像である)。」. 5 2 ). 「それゆえ,抵触規定に包摂されるものすなわち性質決定されるものは,碁本 的には,そのときそのときの法律問題である。〔……〕。そして,類型化された 法律問題が通常の抵触規定の本質的な法律要件要素をなすのである。『もし…… であれば,そのときには……』という基本定式で表現すれば,理念的な抵触規 定は次の通りである:. 『かくかくしかじかの法律問題を解決すべき場合には,. この法秩序が基準になる。』 ときには,法律問題は,生活関係と抵触規定とを概観してから発生すること がある。法律問題がまさに実質規定からはじめて生まれることもまれではない。 そうすると,性質決定をするためには,事実関係から抵触規定へ,そして,問 題になっている実質規定へ視線を往復させることが必要になる。」. 5 3 ). 引用部分の最後の段落の趣旨は,法律問題を作るためには,具体的事実,実 188.
(21) 国際私法上の性質決定の対象. 質規定,および,国際私法規定を見る必要がある,という点にあろう。 ( 2 ) 次に,「 I I 事項規定」と題する項目の冒頭で K r o p h o l l e rは Neuhausの. 実質規定に関する叙述(本款第 2の I( 3 )の引用文)を踏襲し,それに続けて次 のようにいう。 「性質決定過程における• これよりも後の段階では事項規定性質決定が行わ. れることもちろんである。すなわち,準拠法が発見されて,しかし,この法秩 序からどんな事項規定群が招致されるかをなお進んで明らかにする必要がある 場合である。」. 5 4 ). これに続けて. K r o p h o l l e r は次のようにいう。. 「外国の特定の事項規定ー一例えば,共同遺言の禁止ーーが個別的事案で問題 になる場合には,その規定がその外国法において持っている意味と目的を調べ るべきであり,この基礎の上に立って,その規定が国内〔抵触規定の〕送致に 含まれるかを―その送致の意味と目的を基準として—決めるべきである。」 5 5 ). この叙述は Neuhausの叙述(本款第 2の 1( 5 )の引用文)を修正したものである. (Neuhaus は,実質規定に対応する法律問題を作り,その法律問題を性質決定 すべきである,と述べた)。しかし, Neuhaus も K r o p h o l l e r も実質規定を性質 決定することができることを認める点では違いはない。. 2 K r o p h o l l e rは「機能的・目的論的性質決定. F u n k t i o n e l l eodert e l e o l o -. g i s c h eQ u a l i f i k a t i o n」と題する節(第 1 7節)の中の「招致される事項規定の範 囲の限定 E ingrenzungd e rb e r u f e n e nSachnormen」と題する項目で次のように いう。 「性質決定に関して論ずべき最後の問題は,準拠法秩序のどの規範群が抵触 規定により招致されて適用されるか,である:問題になっている事実関係をと らえるすべての規定か,それとも,提起された法律問題に解答を与え,それに より間接的に抵触規定の法律要件に該当する規定だけか,それとも,もっと狭 しヽ範囲か。 [• ・ ・ ・ ・ ・ 〕 。 その答えは,指定された法秩序の中の・我々の抵触規定の集合概念に対応する 部分 d e rdemSammelbegriffu n s e r e rK o l l i s i o n s n o r mk o n g r u e n t eA u s s c h n i t td e r. b e z e i c h n e t e nRechtsordnung が招致される,である。送致は,実質法のうちの・ 1 8 9.
(22) 横浜国際経済法学第 7巻第 1 号 ( 1 9 9 8年 9月 ). 内国抵触規定の送致概念に機能的に適切な部分 j e n e n T e i ld e sm a t e r i e l l e nR e c h t s ,. d e r dem V e r w e i s u n g s b e g r i f fd e ri n l i i n d i s c h e nK o l l i s i o n s n o r mf u n k t i o n e l l a d i i q u a ti s tに限定される(運河を航行させられる送致 k a n a l i s i e r t eVerweisung)。 〔……〕従って,当該事項法に基づいて,実質規定の機能および目的を明らかに し,それを我々の抵触規定の機能および目的と比較する必要がある。両者が一 致する場合には当該法規範は適用可能である。」. 5 6 ). 「それゆえ,招致される事項規定の選出は国内抵触規定の内容から開放された 全く新しい性質決定過程ではない,と依然として考えるべきである。それ〔事項 規定の選出〕はむしろ機能的ないし目的論的性質決定の本質的部分である。」. 5 7 ). このように, K r o p h o l l e rは送致範囲の画定について論じ,自らの見解を「運 河を航行させられる送致」と呼んでいる。しかし,引用文の,「招致される事項 規定の選出は〔……〕機能的ないし目的論的性質決定の本質的部分である」と いう叙述は,実質規定に対する性質決定の目的はどの法域の実質法が準拠法に なるかを知ることにある,という趣旨に理解することも不可能ではないように 思われる。. 第4 K e l l e r / S i e h r. K e l l e r / S i e h rは,連結対象(単位法律関係)は何を指すかという問題と性質決 定の対象は何かという問題を区別する。. 1 連結対象 ( A n k n i i p f u n g s g e g e n s t a n d ) については K e l l e r / S i e h rは次のよう にいう。 「連結対象にあっては常に問題がかかわっているのであり,事実 T a t s a c h eあ るいは生活事実関係 L e b e n s s a c h v e r h a l tの法的重要性が問われる限り,法律問 題がかかわっている。従って,厳密には〔……〕常に次のように定式化する必 要があろう:人が行為能力を持つかはその本国法または住所地法に従う r i c h t e t. s i c hnachi h r e mH e i m a t -o d e rW o h n s i t z r e c h t。土地に対する物権の存否・種類 は所在地法が決める e n t s c h e i d e td a sRechtamL a g e o r t 」 。. 5 8 ). 「事実および生活事実関係と関係を持つ法律問題が種々の法秩序に対して提 起され一ーすなわち,その法秩序に送致され―法秩序は解答を与えるよう求 めらる。」 190. 5 9 ).
(23) 国際私法上の性質決定の対象. 2 性質決定の対象については K e l l e r / S i e h rは次のようにいう。 「性質決定の対象に関する論争は無意味である。性質決定においては多層の包 摂過程 e i n e nv i e l s c h i c h t i g e nS u b s u m t i o n s v o r g a n gが問題になり,この包摂過程 は事実関係 S a c h v e r h a l t とかかわるだけでなく,事実関係に立脚する権利主張 (法律問題)ともかかわり,送致規範の解釈ともかかわる。」. 6 0 ). このように, K e l l e r / S i e h rは連結対象(送致概念)は何かという問題と性質 決定の対象は何かという問題は別問題である,と考えているようである。 上の引用文に引続いて K e l l e r / S i e h rは「包摂の推論 S u b s u m t i o n s s c h l u B にお いてはいくつかの段階 m e h r e r eS c h r i t t e を区別すべきである」と述べて,第 1 に事実関係を把握すること d e rS a c h v e r h a l tz ue r f a s s e n, 第 2に〔送致〕規範の 事項的適用範囲 d e rs a c h l i c h eAnwendungsbereichd e rNormを明らかにするこ と,第 3に事実関係がどの送致規範により包摂されるかを確定することを挙げ る60a)。この 3つの作業は Raapeの挙げる 3つの作業(後出第 6款第 1の4( 2 )( i i ) 参照)に対応するものと思われる。. 3 K e l l e r / S i e h rは送致範囲に関しては「招致される私法の範囲」 Umfangd e s b e r u f e n e nP r i v a t r e c h t sという標題の下で次のようにいう。 「送致は問題関係的 p roblembezogenである。送致の範囲は,解決すべき生活 事実関係と一致すべきであり,法廷地国際私法の中の適用されるべき送致規範 を決めるために我々がなすべき性質決定と一致する必要はない。新国際私法典 もまたこの考え方に従っている。 1978年のオーストリア国際私法 3条は,招致 された外国法は『あたかも本来の妥当範囲におけるがごとく適用されるべきで ある』と明確に定めている。これは次のことを意味する。すなわち,判断され るべき事実関係は適用されるべき事項法に従って一一一招致される法秩序の裁判 官があたかも解決するがごとく一ー解決されるべきである,ということである。 〔……〕同様にスイス国際私法草案 1 3条 1項は『本法による外国法への送致は, その外国法により事実関係に適用されるべきずぺをの規定を包含する』と定め る。これは次のことを意味する。すなわち,事案の解決は招致される法秩序に 送致により委ねられ,解決のためにどの法規範が選び出される必要があるかを 招致される法秩序が決める,ということである。 これは第 2段階の性質決定 Q u a l i f i k a t i o nz w e i t e nGradesではない。〔……〕 1 9 1.
(24) 横浜国際経済法学第 7巻第 1 号 ( 1 9 9 8年9月 ). ここでは,むしろ,通常の法適用ー一純粋の国内的な事実関係を国内の事項法 に従って解決する場合にも我々はそのような法適用をするのであるが一一カ弔問 題になっているのである。」. 6 1 ). このように, K e l l e r / S i e h rは,準拠法たる実質法の中のどの実質規定が適さ れるべきかの問題は準拠法の解釈・適用の問題であり,国際私法上の問題(性 質決定の問題)ではない,と考えているといえよう。. 第 5 Weber. 1 Weberは,事実が発生し,実質規定を基準として判断が行なわれ,法律 関係の存在に至るまでの過程を述べてから,次のようにいう。 ( 1 ) 「しかし,〔法律関係の存在に至るための〕要件は,具体的な生活関係が. 具体的な法規範,すなわち,事項規定の法律要件を充足することだけではなく, まさにこの事項規定ー一即ち,一般的には,まさにこの法秩序の事項規定—. がそもそも問題の解答のために使われることができた,ということである。事 項規定への道が開かれているか閉じられているか抵触規定が決める。」. 6 2 ). ( 2 ) 「しかし,ひとつの要素を『本来の』性質決定対象として取り出そうと. するなら,それは,私見によれば,法律問題であろう。上に挙げた進行の図式 では,事実上の出来事が法的な考慮に移行する地点,すなわち,事実と法の交 差点. S c h n i t t p u n k tz w i s c h e nT a t s a c h e nundR e c h tには,法律問題〔の提起〕に. より達しているのである。法律家の立場からは,法律問題は彼のすべての仕事 の出発点である:誰かが,これは適法である,と主張して何かを要求する(あ るいは,これは適法か,と問う)。このような問題がなければ〔……〕法律家は 全く行動することはできない。関係している市民の立場から見ると,法律問題 は,争いがある場合に彼らが自ら解決する. 法を直接調べたり(民法典を参. 照する),あるいは,専門家(弁護士,裁判官)を補助者として介入させたりす ることにより一ー地点である。〔……〕もちろん,法律問題はこれを孤立させて 観察しても全く理解できない。法律問題はその内容を生活関係ー一生活関係か ら法律問題が発生する一ーにより満たす必要があり,法律問題に解答を与える べき事項規定に視線を向ける必要がある。しかし,法律問題はそれ自身のうち にこのふたつの要素を結び付け,一方が他方に関係することをこれにより可能 にする。 1 9 2.
(25) 国際私法上の性質決定の対象. 法律問題の後ろにあり法律問題の基礎にして出発点たるものは,その都度の 法的な秩序任務それ自身 d i ej e w e i l i g er e c h t l i c h eOrdnungsaufgabes e l b s tであ る。法律問題は秩序任務を反映し ( s p i e g e l tじ ・ ・ … 〕 w i d e r ) , 具体的な解決を既 に目指す。法律問題は複数の可能な解答のひとつ(得たいと思われているから, などの理由で問題になっている解答)を捕まえ,それを検査にかけるのであ る 。 」. 6 3 ). ( 3 ) 「抵触規定の法律要件が充足されているか,そして,(法律効果により). 請求を肯定する事項規定への道がそれにより示されているか,を〔……〕解決 すべき際には何が性質決定されるのであろうか。事実上の出来事から事項規定 への鎖は,より狭いこの視角の下でも,その意味を維持している:過程としての 性質決定 Q u a l i f i k a t i o na l sP r o z e Bである。ここでも中心に立っているのは法律 問題である。事実上の出来事と生活関係 L e b e n s v e r h i i l t n i sだけでは何もするこ とができない。なぜなら,果てしなく多くの問題をこれらは生じさせることがで き,従って,どの方向に向かって調査したらよいのかが示されないからである。 これに対して事項規定は適していない。なぜなら,問題提起者(請求を立てる 者,原告)にとっては,法律効果だけが問題であり,おそらく非常に狭い・実 定的な法秩序の体系に根ざしている• そしてこれに対応して限定された・規範. の法律要件部分における諸要件の種類と態様は問題ではないからである。」. 6 4 ). ( 4 ) 「性質決定対象としては法律問題だけが十分に具体的であり,その結果,. これに処理を加えることができ,また,法律問題だけが十分に開かれており, その結果,実定的な事項法秩序ーー特に法廷地の_の体系による余りにも強 い刻印のゆえに外国法の具体的で事案に適した解決を拒絶する,ということは ないのである。」. 6 5 ). ( 5 ) 「性質決定の対象は,従って,事実的な出来事から事項規定に至るまで. の思考作用の鎖の全体であるか,あるいは,その鎖の支点あるいは中心点とし ての法律問題. 事実的な出来事という基礎の上に立ち特定の ( I個または数. 個の)事項規定へ注ぐ視線により作られる法律問題_であり,簡単にいえ ば:秩序任務の最終的な部分対応物たる法律問題である。」. 6 6 ). 2 Weberの見解は次のようにまとめることができるであろう。 第 1に,「法律問題は複数の可能な解答のひとつ〔……〕を捕まえ,それを検 1 9 3.
(26) 横浜国際経済法学第 7巻第 1号 ( 1 9 9 8年 9月 ). 査にかけるのである」(上の ( 2 )の最後の段落)という叙述は,法律問題とは法律 関係(法的判断の結論)の内容の如何を問うものである,という趣旨であり, 両者の本質的同一性を指摘するものであるといえよう。 第 2に , Weberは,裁判官が法律問題を作る際には実質規定へ視線を向ける ことが必要である,と考えている(上の ( 2 )と( 5 ) ) 67)。 第3に , Weberは「過程としての性質決定 Q u a l i f i k a t i o na l sP r o z e B」という. 6 8 )。. これは,性質決定という行為を,訴訟において発生する法律問題がどんな性質 を持っているかの判断 ( C h a r a c t e r i s i e r u n g ) と,その法律問題がどの送致概念 に該当するかの判断 ( K l a s s i f i z i e r u n g ) に分ける考え方である 69)。性質決定と いう行為がこのふたつの行為から構成されることは確かであり(前者は Raape のいう第 2要素であり,後者は Raapeのいう第 3要素である。後出第 6款第 1 の4( 2 )( i i )参照),その点では「過程」と呼ぶこともできるであろう。しかし, この考え方は,既に行なわれた法的判断の過程を論理的な順序に再構成して, どの局面で裁判官のどんな行為が行なわれるかを明らかにする考え方であり,裁 判官が法解釈を進展させる現実の過程をそのまま観察するものではない。 なお,実質規定に対する性質決定に関する Weberの見解はどうか。 Weber は送致範囲の画定が必要であると主張しているのだろうか。. Weberは,性質決定の対象がどの国際私法規定に該当するかの問題 70) と,国 際私法規定は準拠法秩序の中のどの実質規定を招致するか(準拠法秩序のどの 部分が国際私法により切取られるか)の問題 71) を別個に扱っているから,法律 問題を性質決定することも実質規定を性質決定することも理論的に可能である, という見解であると思われる。しかし, Weberは上述のように,性質決定の対 象ば法律問題である,と主張しているから,送致範囲の画定が必要であるとす る見解か否かは明らかではない. 7 2 ¥. 第 6款 実 質 規 定 7 3 ). 第 1 Raape. 1 Raape は,その概論書の「連結」の章の冒頭では,「抵触規定は(抽象的 に表現された)渉外事件 G r e n z f a l l をときには国内の法秩序に連結し,ときに は外国の法秩序に連結する」. 1 9 4. 7 4 ). という。.
(27) 国際私法上の性質決定の対象. 2 国際私法規定はどの範囲の実質規定に碁準力を与えるかについて Raape は次のようにいう。 「抵触規定は決して法秩序の全体に送致せず,常に,その法秩序に所属する諸 規定から成る特定のグループにのみ送致する。例えば,相続法に関する諸規定, 婚姻締結に関する諸規定あるいは物権法に関する諸規定というように。どの事 項規定が当該グループにまだ入り,どの事項規定がもはや入らないかが個別的 事案ではしばしば問題になる。例えば,死因贈与に関する諸規定はどこに所属 するか。相続財産の売却に関する諸規定はどうか。それらは相続法に関する諸 規定のグループに入るのか,それとも,債務法のグループに入るのか。」. 7 5 ). 3 Raape は,「境界画定の問題 LeproblemedeI ad e l i m i t a t i o n (Abgrenzungsproblem)」と題する節で,. ドイツ民法施行法 20条の送致概念たる「非嫡. 出母子間の法律関係」について次のようにいう。 「それは集合的な概念であり,グループを示す概念である。それは,民法典か ら借りた表現の下に,国内法の諸規定の 1グループを,〔すなわち〕本来の意味 の私法の体系におけるある制度に関する諸規定を含む。〔……〕。立法者は国内 法の個々の特定の規定ごとに抵触規定を作ることはできない。〔……〕。従って, 立法者は国内法の諸規定をいくつかのグループにまとめてこれらのグループに 対してしか抵触規定を与えない。明らかに,この種の概念の境界はしばしば流 動的である。これが,特定の複数の抵触規定の間の境界に関する見解の相違の 原因である。この境界画定問題は性質決定問題とはなんの関係もない。性質決 定問題は包摂問題である。これに対して,ここでは〔境界画定問題では〕,規定 ―この規定に下に他の規定が包摂されるべきなのであるが一ーの解釈,従っ て,大前提の解釈が問題になるに過ぎない。〔ドイツ〕民法 1 7 0 6条やそれに対 応する諸〔実質〕規定の実質的内容に関して議論する必要はない。ここではす べてが明らかである。議論されることは,どんな抵触規定がそれら〔の実質規 定〕をつかまえる ( s a i s i t ) かを知るという問題だけである。 ほとんどすべての抵触規定において,他の抵触規定との境界画定は必要であ る。ほとんどすべての抵触規定において次の問題が発生する:それにより規律 される問題の範囲の広がりはどれだけか,その適用範囲の広がりはどれだけか, その効力の領域はどれだけで,他の抵触規定の支配範囲はどこから始まるの 1 9 5.
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