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医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について、放送倫理・番組向上機構(BPO)が、被告医師に関する名誉毀損の事実を否定しつつ、放送倫理基本綱領における「重大な倫理違反」の事実を肯定し、当該テレビ局に対し、本決定趣旨の放送と、爾後における報道等の正確性と公平性の確保および事前準備等の徹底を勧告した事例(放送倫理・番組向上機構(BPO)放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)「権利侵害申立に関する委員会決定第41 号「割り箸事故・医療裁判判決報道」20

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(1)医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 判例研究. 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺 族側敗訴)をめぐるテレビ報道について、放送倫理・番組向上機構 (BPO)が、被告医師に関する名誉毀損の事実を否定しつつ、放送. 倫理基本綱領における「重大な倫理違反」の事実を肯定し、当該 テレビ局に対し、本決定趣旨の放送と、爾後における報道等の正 確性と公平性の確保および事前準備等の徹底を勧告した事例 (放送倫理・番組向上機構(BPO)放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会) 「権利侵害申立 に 関 す る 委員会決定第 41 号「割 り 箸事故・医療裁判判決報道」2009 (平成 21)年 10 月 30 日 事件例集等未登載). 根本晋一 第 1 事実の概要 民間テレビ放送事業者の Y 社は、2008(平成 20)年 2 月 13 日のニュース情 報番組『みのもんたの朝ズバッ !』における「8 時またぎ」のコーナーにて、 いわゆる綿飴割り箸事故、つまり、男児(当時 4 歳 9 ヶ月)が盆踊会場にて転倒 のうえ、綿飴の心棒に使われていた割り箸を喉に刺し、Z 大学病院に救急搬送 され治療を受けて帰宅したが、翌朝容態が急変し同病院に再搬送された後死亡 し た 事件(1999(平成 11)年7月発生。以下、本件事故 と い う)(1)の、民事第一審判 決(原告遺族側敗訴)に関する放送をなした(2)。本決定において、名誉毀損およ び放送倫理基本綱領違反との関係においてとくに問題とされた、本番組司会者 87.

(2) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). と専門家ゲストとして招かれた女性ジャーナリストの発言を抜粋すると、 ①【女性ジャーナリスト】 そうですね。(筆者註…本判決によると、本症例はレアケースなので、医療水準は未だ 確立されていないということですが、それで免責するのであれば)逆にですね。この程. 度の(低次元の)医療水準でも、まあいいのかと(いうことになりますよね)。非常 に高度な(医療水準を維持している)救命救急センターのなかでも、(Z 大学病院に 限っては)まあ、この程度の(低次元の)医療水準でもいいのかということになっ. てしまうとですね、 (ほかの高度救命救急センターまで、低次元の医療水準であると、世 間に思われてしまうから)逆に、いま、 (ほかの)非常に厳しい救急医療の現場で頑. 張っているドクターたちのプライドを、傷つけるんじゃないかと。 多くのドクターたちは、(患児の初診を担当した X 医師よりも)もっと真剣に、き ちんと診断とか診察をしていると思うんですけど、どんなところ(つまり、どこ この程度(の低次元な医療水準で)で許され(て の高度救命救急センター)に行っても、 いると、世間に思われ)てしまったら、 (高度な医療水準を維持しながら)頑張ってい. るドクターたちは、(自分たちまで X 医師と同じく低次元であると思われるから)逆に ですね、なにか、ちょっと気がそがれちゃうって、気がしないでもないですね え。 」 ②【女性ジャーナリスト】 そこ(カルテの改ざん)には、(この判決では)余り触れていないですね。 」(3) ③【番組司会者】 私みたいな、ド素人が考えても、 『(喉に割り箸が)刺さっちゃったんです。怪 我してる。ああ、この角度で、そういう状態で、脳に損傷はないのかなあ。 』と、 素人でも考えますよね。(Z 大学病院の救命救急は、)なにか漫然の体制…(男性コ メンテーターの発言により、ここで遮られる). と い う も の で あった。本放送 は、ナ レーション の 入った 映像部分(以下、 88.

(3) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. VTR 部分という)が 8 分 20 秒、スタジオにて司会者と複数のコメンテーターが. 論評をなし、感想を述べた部分(以下、スタジオトーク部分という)が 6 分 50 秒の、 合計 15 分 10 秒であった。 かような発言等につき、患児の初診を担当した X 医師とその親族の 5 名が、 Y が加盟する日本民間放送連盟(民放連)と、日本放送協会(NHK)により設立 されたテレビ放送に関する苦情処理機関である BPO 放送人権委員会(正式名称 と組織・構成等については本稿第 4 ─ 3 参照)に対し、被申立人 Y による訂正放送と. 謝罪放送、文書による謝罪、被申立人 Y の HP における謝罪文の掲載、番組 中における司会者および女性ジャーナリストの口頭による謝罪を求めた事案で ある。 第 2 主要な争点 (1)名誉毀損等の成否を含む、人権侵害の有無 (2)放送倫理基本綱領における「重大な倫理違反」の有無 (3)訂正放送等の必要性の有無 第 3 委員会決定(4) 争点(1)については否定、 (2)については肯定、 (3)については否定する。 1 全体的な評価 …以上、申立人 X 医師らが提起した…個別論点(筆者註…10 箇所の表現)を検 討した限りにおいても、それぞれ大なり小なり問題点を含むものとなっている。 当委員会は、本件放送全体のトーンを見ても、治療現場における申立人 X 医 師の処置の過失の有無に関する刑事第一審判決と民事第一審判決の相反する認 定に対する関心に重点を置きすぎ、両判決の認定結果だけを対置して、遺族側 が民事判決に対して持つであろう不満を増幅させる内容になっていることに注 目せざるを得ない。 被申立人 Y は、本件放送の企画意図として、…救急医療のあり方を考え、 89.

(4) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). そこで治療にあたる医療機関に最善の注意を尽くしてもらいたいということを 訴えたかったという。しかし、その企画意図を全うするためには、対象とする 素材が医療と裁判という極めて専門性の高い分野にかかわる問題であるととも に、医療裁判の当事者双方が提出した膨大な証拠とこれに基づく裁判所の判断 の結果に関することであるだけに、放送に至る過程において、その内容を十分 に理解して適切な問題設定を行い、制作サイドのモチーフを明確にしたうえで 出演者を含めて周到な準備をすることが求められる。それが適切に行なわれな かった場合には、判決の内容について間違った印象を視聴者に与えることにな るだけではなく、その医療にかかわった関係者(医師側・患者側を含めて)に対す る社会的評価に不当な影響を与え、その名誉や信用を傷つける結果を招くこと にもなりかねない。 そこで、本件放送の内容ならびにその基となった本件事故に関する刑事・民 事の両判決の内容を検討するとき、いずれの判決も、男児の死亡について申 立人 X 医師の責任は認められないという結論であった。しかし、本件放送は、 この点は事実上二の次にして、刑事判決では申立人医師の診療上の過失を認 め、 民事判決ではその過失を認めなかったという、 「素人の目」からは「不思議」 と思われるであろう点に焦点を当てたものである。…しかし、本件放送では、 民事判決が申立人 X 医師の過失を否定したことについて、判決が示した判断 根拠を誤った形で伝えた上で、刑事第一審判決の結論によって形成されたと思 われる先入観を前提に、ことさら遺族側に寄り添うかのような否定的論評、コ メントを繰り返した。 当委員会は、本件放送の前日に言い渡された民事判決について、果たして担 当者において周到な検討が行なわれたのか、その読み方が浅薄ではなかったか、 両判決を比較するにあたって民事における過失論について正確な認識に達して いなかったのではないか、さらに放送前に専門家コメンテーターらに対して企 画意図に沿う有意義なコメントを得るに足りるだけの情報提供をするなど、十 分な準備がなされていなかったのではないかとの疑問を持つに至った。これら 90.

(5) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. のことがなされていれば、当然放送内容にも反映したであろうと思われるから である。以下、判決要旨に関する摘示が正確性を欠いていることについてさら に詳しく述べる。 …本件放送では、民事判決が、当時の医療水準から見て申立人 X 医師の過 失は問えないとした実質的な根拠について、一言も触れていないというのが事 実である。…裁判所の判断中には見当たらない文章を用いたもので要約にも なっていない。…一方の当事者が主張したことを、裁判所の判決にあることと 思わせる手法で使用していること自体、単なるミスではすまされない誤りで、 すり替えといわれても仕方がないものである。…このことで本件民事判決が、 救急医療において求められている診療レベルのハードルを不当に引き下げたか のような歪んだ認識に視聴者を導きかねないものとなっている。このことが① および③の「この程度の医療水準」とか「ド素人が考えても」といったコメン テーターや司会者の発言に影響している可能性を否定できない。 …(筆者註…過失認定が肯否に分かれたことを) 「不思議」というのであれば、ふ たつの判決において、過失の有無を判断することになった事実の認定に違いは ないのか、民事裁判においてどのような証拠が調べられ、どのような評価をし たのか、とくに民事判決が言及した「臨床医学の実践における医療水準」とい う、刑事判決にはなかった判断論拠とはいかなるもので、そのような視点に 立ったことが妥当であるかなど、多角的で詳細な検討が行なわれなければなら ないはずである。ところが、 本件放送は、…(過失認定が肯否に分かれたことの) 「不 思議さ」だけを強調し、事実報道として要旨の示し方を誤ったばかりか、つい に判断の根拠を具体的に示すこともなかつた。そして、番組が目的としたとい う、救急医療現場が抱える問題点については一切触れることさえできずに、た だ「不思議さ」に首をかしげ、こんな判決では遺族がかわいそうという基調に 立って VTR 部分とスタジオトーク部分を展開したものであって、その意図と の対比において、―は企画倒れのずさんな番組作りというほかなく、同時にそ の不正確さのゆえに関係者に迷惑をかけかねないものになったと評価せざるを 91.

(6) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 得ない。 2 放送倫理上の問題 …放送倫理との関係においては、報道としての正確性、公平性の面に着目し、 つぎの通り判断する。 (正確性について)本件放送は…民事裁判判決において申立人 X 医師の過失が. 否定された理由について綿密に検討することを怠り、その結果同判決の趣旨を 正確に伝えておらず、これを前提とする論評・コメントが正確性や適切さを欠 くものになったと判断する。また、判決要旨のまとめ方、紹介の仕方に問題が あったことはすでに詳細に述べたところであり、その手法にはそれ自体放送倫 理違反が認められる。…このように、判決理由の紹介の仕方を誤るとともに、 前記①から③(筆者註…原文では 10 箇所の表現のうちの⑥から⑧)の発言が、それぞ れ正確さを欠いた論評・コメントとなった点において、放送倫理基本綱領にお ける「報道は、事実を客観的に正確…に真実を伝えるために最善の努力を傾け なければならない」との定めに違反する。 (公平性について)…対立当事者にかかわる報道、論評においては正確性を欠い. たがゆえに結果として公平性を欠くことがある。問題は主としてスタジオトー ク部分にある。判決批判は報道の自由に属し、原則的に自由である。…しかし 本件においては…判決の読み方がいかにもずさんであり、その内容が不正確と なったがためにスタジオトーク部分において公平性を欠くものになったと同時 に、VTR 部分を含めて考えると、申立人 X 医師らおよび一般視聴者に対し、 構成全体として不公平感を抱かせるものになったと判断する。したがって、本 件放送には、コメンテーターの発言、放送全体の構成において、 『放送倫理綱領』 における「報道は、事実を客観的かつ…公平に伝え、真実に迫るために最善の 努力を傾けなければならない」との定めに反する放送倫理違反があるといわざ るを得ない。. 92.

(7) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 3 名誉毀損などの法的権利侵害の有無 以上のとおり、当委員会は本件放送には放送倫理違反があると認めるもので あるが、本件放送が前記①および③を含む一連の司会者、コメンテーターの発 言によって申立人 X 医師の社会的評価に影響を与え、これを低下させたもの と認められるので、以下、この点について、同申立人の名誉の毀損…が認めら れるかについて、さらに判断する。 …一般に、 「ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損 にあっては、その行為が公共の利害に関する事実にかかわり、かつ、その目的 がもっぱら公益をはかることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提とし ている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、人 身攻撃に及ぶなど意見ないし論評の域を逸脱したものでない限り、上記行為は 違法性を欠くというべきであり、仮に上記証明がないときにも、行為者におい て上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故 意または過失は否定される」(最三小判平成 9 年 9 月 9 日)とされている(5)。この 考え方は、現時点において報道の自由と人権の関係についての調整原理であり、 当委員会もこれにしたがって検討した。 これを上記①および③のコメントについてみると、関係者の読み込み不足と 準備不足によって判決内容自体に関する報道が正確性を欠き、この事実関係に 基づく論評、コメントとしての内容は不適切なものになったと言えるが、本件 放送は、被申立人 Y が言うように判決報道を主体とし、これについての論評、 コメントを加えるものであるから、前記論評、コメント部分もたしかに申立人 X 医師の評価に関連はするものの、直接同申立人に対する人身攻撃に及ぶもの とは認められず、意見ないし論評としての域を逸脱したものとはいえない。し たがって、本件放送においては、司会者、コメンテーターらの上記発言が申立 人医師の名誉を毀損するものではなく、不適切なものになったことについての 責任は被申立人 Y による放送倫理違反に包摂されると考える。. 93.

(8) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 4 結論と措置 …当委員会は、本件放送は、申立人 X 医師の名誉を毀損したものとは認めず、 また、他の申立人らの精神的被害については…被申立人 Y の責任を認めるも のではない。しかし、本件放送の全体構成、(申立人が取り上げた)論評、コメン トならびに、そのために作成されたフリップでの判決要旨のまとめ方において、 不正確、不公平な報道であって、その内容において、 『放送倫理綱領』におけ る「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫るために最善の努 力をしなければならない」との定めに反する放送倫理違反があり、しかも、… わずか半年前に同番組が放送倫理検証委員会において「放送前における制作過 程において、十分な準備をする体制を整えるべきだ」と指摘された経緯を考慮 するとき(6)、その違反は重大であるといわざるをえない。ただし、申立人 X 医師らが求めている訂正放送、謝罪放送等については、上記①から③のコメン トの前提となる刑事裁判と民事裁判の判決要旨における過失の存否、程度に言 及した部分については、両判決の解釈にかかわる問題であり、被申立人 Y が 本件放送のなかで行なった判決の説明が不正確、不十分であるが、必ずしも明 白な誤りであったとまではいえないものであるから、いずれも必要ないと判断 する。 したがって、当委員会は被申立人 X に対し、本決定の趣旨を放送するとと もに、今後は、報道、論評において、より正確性、公平性を確保するように留 意するとともに、制作関係者における十分な事前準備と出演者らとの十分な打 ち合わせと情報の共有化を図るよう勧告する(7)。 第 4 評 釈 1 本稿の目的 本決定は、特定の事業者団体に加盟する企業の出資による、私設の裁判外紛 争解決機関(ADR=Alternative Dispute Resolution)による判断である。本評釈にお いては、かような特徴を踏まえ、本決定を起案・公表した、放送倫理・番組向 94.

(9) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 上機構(BPO=Broadcasting Ethics &Program Improvement Organization)のスキームと 機能、現状における、その存在意義と判断の実効性などについて説明をする。 そして、この説明を前提として、本決定の内容、つまり名誉毀損についての判 断を、従来からの判例理論との整合性の見地から検討し、続けて、放送倫理基 本綱領における重大な倫理違反の認定如何について検討する。 2 本決定の意義 従来まで、 報道と人権に関する諸問題については(8)、 名誉毀損やプライバシー 侵害の枠内において判例理論が形成され、その理論が、法務省人権擁護局や日 本弁護士連合会人権擁護委員会における、人権侵犯救済の審理において援用さ れるに過ぎなかった(9)。しかし、BPO 内の個別の委員会である、放送と人権 等権利に関する委員会(放送人権委員会)の審理は、テレビ放送という限られた メディアについてのみ可能な方途ではあるが、放送事業者団体の自主規範であ る放送倫理基本綱領を積極的に適用することにより、既存の法理では救済され 得なかった事案についても、放送倫理違反を理由とする勧告・見解・意見を付 することにより一定の救済をなし得る点において、報道被害の早期回復、ひい ては取材・報道の自由と名誉・プライバシー保護を調和する見地から、放送事 業者以外のマスメディアにも敷衍されるべきスキームである。 そして、筆者が注目した本件決定は、本件事故発生当時、ごく一部のマスコ ミ関係者、ジャーナリスト、出版業者、市民団体などにより流布された裏づけ のない情報が、裁判における事実認定や、賛否両論であった世論と乖離した “ マ スコミ常識 ” と化し、遺族側に偏した統一論調のスクラム報道が、およそ 10 年間にわたり固定されていた状況のなかで、放送事業者の出資により設立され た ADR が、悪しきピアレビュー(同僚審査)に堕することなく、被申立人テレ ビ局に対し、本決定趣旨の放送と、爾後における報道等の正確性と公平性の確 保および事前準備等の徹底を勧告した点において、先例的な価値がある。. 95.

(10) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 3 放送倫理・番組向上機構(BPO=Broadcasting Ethics & Program Improvement Organization)の概要. (1)スキーム 本機構は、放送事業(含 加盟局傘下のラジオ放送事業)の公共性と社会的影響の 重大性に鑑み、言論と表現の自由を確保しつつ、視聴者の基本的人権を擁護す るため、放送への苦情や放送倫理上の問題に対し、自主的に、独立した第三者 の立場から迅速・的確に対応し、正確な放送と放送倫理の高揚に寄与すること を目的とする団体である(BPO 規約第 3 条)(10)。 本機構は、いわゆる ADR 法、つまり、裁判外紛争解決手続の利用の促進に 関する法律(平成 16 年 12 月 1 日法律第 151 号、平成 16 年 12 月 1 日公布、平成 19 年 4 月 (11). 1 日施行). による認証を受けた機関ではないことから、狭義の ADR ではない. が、以下に説明するような機能に鑑みると、講学上広義の ADR に含まれ得る ことから、本機構の法的性格を ADR と捉えて差し支えないと考える(12)。 本機構の運営拠出金は、 日本放送協会(NHK)および日本民間放送連盟(民放連)、 ならびに民放各社が支弁する会費より支出されている。 本条所定の目的を達成するため、本機構内には、放送事業者の役職員以外の 第三者により組織されるところの三つの委員会、つまり、放送番組向上のため の審議と虚偽放送についての検証を行う「放送倫理検証委員会」 、放送による 人権侵害を救済するための「放送と人権等権利に関する委員会」(放送人権委員 、青少年が視聴する番組の向上に向けた意見交換や調査研究を行う「放送 会) と青少年に関する委員会」(青少年委員会)を設置している(同規約第 4 条)。 BPO に加盟する放送事業者が、事案に応じて審議を担当した各委員会より、 放送倫理あるいは人権などにつき配慮に欠けるなど、その不遵守等の指摘(勧 、改善策を含めた再発防止策の取組 告・見解・意見)を受けた場合(委員会決定) 状況などを、当該委員会に宛て、一定期間内に報告する義務がある。これを受 理した当該委員会は、当事者に対する通知のみならず、記者会見と BPO ポー タルサイトなどにおいて、これを報告・公表して周知させる(同規約第 4 条)。 96.

(11) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. BPO は、日本放送協会(NHK)と 日本民間放送連盟(民放連)に よ り 設置 さ れた放送事業者の自主規制団体であるが、各委員会の委員人事は、公正を期す るため、放送事業者の役職員以外の第三者により構成される評議員会に一任し ている(同規約第 19 条)。委員は、主に、法曹や学識経験者、著名なジャーナリ スト、企業のトップなどの外部者により構成される。理事会の構成についても、 定数 10 人のうち、理事長および理事 3 名を、放送事業者の役職員以外の第三 者より選任している(同規約第 9 条)。 なお、本稿において取り上げた事案においては、名誉などの人権侵害の有無 ないし程度や、放送の内容と構成についての倫理違反の有無ないし程度が問題 とされたことから、放送と人権等権利に関する委員会」(放送人権委員会)が審 理を担当した。その利用規定であるが、加盟各社の個別の放送番組により人権 侵害を受けた申立人(本人または直接の利害関係人)が、当該放送事業者に対し、 放送日から起算して 3 ヶ月以内に苦情を申し立てそれが不調に終わった場合、 当該委員会に対し、放送日から 1 年以内に、同規約所定の要式にて権利侵害救 済を申し立てる。申立費用は無償である。申立を受理すると、事務局は、申立 人と連絡を取り、必要に応じて証拠資料などの提出を促す。そして、これらを 添付した一件記録を作成し、委員会に回付する。これを受理した委員会は、審 理入りの有無を審議し、審理入りした場合は、事務局を通し、その旨を当事者 に通知する。審理委員会は月 1 回のペースで開催され、当事者を召還して事情 聴取(ヒアリング)を行なうこともある。審理の結果は、委員会決定と題し、人 権侵害、あるいは重大な放送倫理違反があるとされた事案については「勧告」 なる形式で判断が示され、(単純な)放送倫理違反または放送倫理上問題がある とされた事案、および、倫理違反または倫理上問題がないとされた事案(要望 事項がある場合を含む)については「見解」または「意見の通知」なる形式で判. 断が示され、当事者に通知するほか、既往の方法で周知させる。なお、審理費 用は無償であり、金銭賠償請求の申立は審理対象外である。. 97.

(12) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 4 名誉毀損の認定について (1)判例理論 名誉の意義については、確立された判例理論が存在し、 「名誉トハ各人カ其 ノ品性徳行名声信用等ニ付キ世人ヨリ相当ニ受クベキ声価ヲ云フモノ」とされ ている(13)。かような定義は、名誉毀損の本質を、他人の社会的評価を低下さ せる行為と捉えるものであり(刑法解釈における「外部的名誉説」と同旨)、主観的 な自己評価たる名誉感情の侵害のみでは不法行為の成立を否定する点に実益が ある。かような外部的名誉説を前提として、つぎのような解釈が導かれている。 第一に、名誉とは人に対する社会の評価を意味するので、名誉毀損の成否は、 対象者(人)の社会的地位・当該地位に位置する対象者の具体的な現状などの、 諸般の事情を考慮して決められる。ただし、被害者の地位や現状が低下してい たとしても、必ずしも名誉毀損の成立を否定することにはならないことに注意 すべきである(対象者に対して犯罪の嫌疑が掛けられている場合などが典型)(14)。また、 社会における評価の低下如何を問題とするのであるから、当該記述についての 一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、低下の有無を判断すべきであ る(15)。 第二に、名誉毀損の成立要件として、社会的評価の低下を必要とする以上は、 不特定または多数人に対する名誉毀損事実の流布を要件事実とすべきことにな る(いわゆる公然性の要件を意味する)。そして、当該事実は実際に周知する必要は なく、 その恐れがあれば足りるとされている(伝播可能性があれば足りる)。ただし、 流布・周知の程度如何は、違法性の有無・程度を決する重要な要素となるので、 損害賠償額の多寡を決する際の重要なファクターとなる(16)。 第三に、ある表現によって社会的評価を低下させられた対象者は特定してい なければならない。この点につき、原則として対象者の氏名などが具体的に摘 示されることを必要とするが、例外として、諸般の表現を併せ考慮すると、特 定人に関する記述であると合理的に推知し得る場合も、特定性を肯定すること になる(第二点で述べたように、周知の恐れがあれば足りるから)(17)。 98.

(13) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 第四に、外部的名誉説の帰結ではないが、表現の自由を尊重する憲法の趣旨 、ならびに、これを受けて、表現の自由と名誉(同法 13 条参照)の (同法第 21 条) 保護を調和する、真実性の証明による名誉毀損免責規定の趣旨(刑法 230 条ノ 2) に鑑みて、名誉毀損に起因する不法行為の成否についても、本刑法規定を準用 する。 第五として、外部的名誉説の帰結ではないが、表現行為者による真実性の証 明が奏効しなかった場合であっても、言論の自由を可及的に保障する観点から、 相当性の抗弁により、一定の要件のもとで違法性が阻却され、免責される余地 を認める。なお、この考え方は、免責要件につき、事実の摘示と論評に差異を 設けるものである(因みに、刑法解釈としては、罪刑法定主義の見地から、事実なる条文 (18). の文言に含まれ得ない論評を含まないこととの対比にも留意するべきである). 。両者の. 区別のメルクマールは、客観的に真または偽としての性格付けをして証拠によ り確定できる性質を有するものを事実とし、それ以外のものを論評とする(19)。 そして、免責の具体的要件として、事実については、真実性の証明に奏効した 場合は、表現行為の違法性を阻却するが、かりに真実性の証明に奏効しなくて も、行為者において事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故 意または過失は否定されるとする(20)。論評については、論評の前提事実が重 要な部分において真実であることの証明を必要とし、それが奏功した場合は、 当該論評が人身攻撃などにおよばなければ違法性を阻却するが、かりに真実性 の証明に奏効しなくても、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当 の理由があれば、 その故意または過失は否定されると解している(21)。本判決が、 事実の摘示と論評を区別し、真実性の証明に奏功した場合の免責要件に差異を 設けた理由であるが、当該表現が論評の場合、そこに主観的な評価が加わるこ とから、例え真実であったとしても、表現の態様如何によっては、なお対象と された人の社会的評価を低下されることもあり得るので、単に真実であったこ との証明に奏功するのみならず、当該表現が人身攻撃におよぶものでないこと を要件として加えたものである。 99.

(14) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). (2)本決定の検討 本決定は、そのなかにおいて繰り返し指摘しているように、本稿の事実の概 要において掲げた①から③の表現をとくに重くみて、名誉毀損の有無を検討し ている。その構成としては、決定文においては審らかではないが、本件におけ る名誉毀損の成立を否定する根拠として、最三小判平成 9 年 9 月 9 日を引用し ていることから、従来からの判例理論の枠組みに即した判断であると思われる。 つまり、保護法益に関する外部的名誉説に立脚し、視聴者の普通の読み方を基 準として社会的評価の低下の有無を判断していること(第一の点)、テレビ放送 による表現であることから、 不特定または多数人に対する表現であったこと(第 、X 医師の実名は摘示されなかったものの、諸般の表現を併せ考慮する 二の点) と、X 医師に関する表現であると推知されると認定していること(第三の点)、 既往のとおり、最三小判平成 9 年 9 月 9 日を引用していることから、①から③ の表現を事実の摘示ではなく、論評の摘示と認定しつつ、既往の最高裁判決の 論理に即して判断しているからである(第五の点)。 かような判断枠組みについては、確立された判例理論に立脚していることか ら、当事者の予見可能性を害することもないので妥当と考えるが、BPO 放送 人権委員会による最三小判平成 9 年 9 月 9 日の理解、とりわけ第五の点の理解 には、矛盾あるいは齟齬があるように思われるので、その点を指摘する。 まず、本決定が①から③の表現を、事実の摘示ではなくて論評と認定したこ と、および、本件放送は救急医療機関に対して最善の注意を促すために制作さ れたものなので、公共の利害に関するものといえ、公益目的から制作されたも のと認定したことは、本判決の判断枠組みと整合している。すると、つぎの判 断プロセスとして、当該論評の前提とされた事実関係につき、重要部分につい て真実であったのか否かを検討しなければならず、この点について本決定は、 ①から③の表現を「事実誤認に基づく論評」であると明確に認定している。と いうことは、被申立人 Y において、真実性の証明に失敗をしたことになるので、 そのつぎの判断プロセスとしては、そのような事実誤認をなしたことについて、 100.

(15) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 相当な理由が存したことを証明し得たのか否かに移り、これが奏功しない限り、 名誉毀損の故意または過失を認定するべきことになるはずである。この点につ いて本決定は、Y においては判決文の読み方がいかにもずさんであったと明確 に認定していることから、ずさん、すなわち過失があった、換言すると相当な 理由がなかったと認定したことになるので、Y においては名誉毀損の責任を免 れないと帰結するのが筋である。 しかしながら本決定は、本件放送が事実誤認であったと認定しながら、何故 なのか、ここから当該表現が重要部分において真実であったことの証明に奏功 した場合の判断に移行してしまい、本表現は X 医師の評価に関連すると認定 しつつも、人身攻撃におよんではいないと認定し、違法性を欠くと認定してい る。かような判断プロセスは、明らかに本判決の判断枠組みと齟齬している。 思うに、本件申立は訴訟ではないことから、名誉毀損を否定したとしても、 つぎに説明する放送倫理基本綱領における重大な倫理違反の責任を問い得、申 立人 X 医師の事実上の名誉回復を図れることから、名誉毀損という文言から 生じる強い人権侵害的インパクトが、報道に対して少なからぬ萎縮的効果をお よぼすことに鑑みると、結論としては穏当である。また、本機構が ADR であ ることに鑑みると、かりに本決定において名誉毀損を認定したとしても、損害 賠償義務が発生するわけではないので、重大な倫理違反を認定した場合と、救 済結果に実質的な差異を生じないことも、結論の妥当性を後押しする理由とな ろう。 しかし、BPO が、みずから依拠した法規範の解釈を、通説的な理解と変え てしまうことは、当事者の予見可能性を害し、不意打ちにもなりかねないとの 謗りを免れないように思えるが、如何なものであろうか。 5 放送倫理基本綱領における重大な倫理義務違反の認定について (1)本綱領の法的性格と問題点 放送倫理基本綱領とは、1996(平成 8)年に、日本放送協会(NHK)と日本民 101.

(16) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 間放送連盟(民放連・NAB)が自主的に制定した、加盟放送事業者を名宛人とす る、放送倫理の遵守を励行するべき旨の誓いである。本綱領は、放送の社会的 影響の大きさを自覚し、公正を保持し、品位ある表現を心がけること、自主的・ 自律的な姿勢を堅持し、取材・制作の過程を適正に保つこと、民間放送の経営 基盤を支える広告の内容にも細心の注意を払うことなどを掲げている(22)。 本綱領の性格としては、損害賠償義務などを伴う強制規範ではなく、あくま で放送事業者の倫理観や道徳心に訴える訓示規定、もしくは宣言というべきも のである。もっとも、本綱領のなかに、 「報道は、事実を客観的かつ正確、公 平に伝え、真実に迫るために最善の努力をしなければならない」という一文が あり、その「…しなければならない」という規定の仕方に鑑みて、放送人権委 員会において決定文を起案する際、これを放送事業者に課せられた倫理的義務 と位置付ける解釈が試みられており、本件決定において示された構成に示され るように、本綱領の一部は単なる宣言を超え、事実認定や最終的な判断の拠り 所とされており、放送事業者を名宛人とする自治規範として機能するに至って いる。その文言からすると、客観・正確・公平放送義務と、そのための最善努 力義務、ということになる。もっとも、BPO に改組される以前の、BRO(放 送と人権等権利に関する委員会)が発足した 1997(平成 9)年 5 月 1 日以降、本稿執. 筆時点に至るまでの凡そ 15 年間で、審理入りした事案は 40 件、勧告または見 解が示された事案は 37 件であって(2 件和解、1 件取下げ)、そのうち勧告は 9 件、 問題ありとする見解は 23 件、問題なしとする見解は 14 件、意見の通知に止ま る事案はなかった。事案が少ないゆえに、その具体的内容は未だ形成途上であ り、決定例の集積が待たれるところである。とはいえ、本綱領の一部が放送事 業者に対する倫理的義務とされ、現実に機能しており、これに違反する行為は 勧告または見解という形式で、加盟各社や視聴者に対して必ず公開され、しか も、当該問題放送に直接かかわった責任者は、ほぼ確実に引責させられること から(23)、そのサンクションとしての効果は、名誉毀損訴訟における敗訴判決 よりも大きいという見方も可能である(身内の判断なので、庇うわけにはいかない)。 102.

(17) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. すると、一刻も早く、倫理義務違反の前提としての注意義務の内容を明確にし て、放送事業者に対する予見可能性を確保し、萎縮報道を可及的に回避するた めの行為規範たる地位を確立する必要がある。 (2)最近における議論 このような状況のなかで、最近における BPO「放送人権委員会」第 180 回 委員会(2012(平成 24)年 2 月 21 日)と第 181 回委員会(同年 3 月 13 日)において、 第 1 号議題として「委員会に対する放送局からの要望─放送倫理上の判断─」 が提示され、事務局担当者より、在京・在阪の加盟放送事業者に対して実施さ れた聞き取り調査の集計・分析に基づく問題提起がなされ、これを受けた各委 員より、次のような見解が示されたことは、倫理の位置付けを明確にする点に おいて、また BPO に対する社会的信頼を高める点において、傾聴に値するこ とであった(次回委員会への継続審議事項)。この聞き取り調査は、委員会側が示 した質問事項に対する回答を、あらかじめ Yes or No を基本とするいくつかの 回答に類型化し、それについて、放送局が該当の肢に印を付けるという形式で 行なわれた。放送倫理上の判断に直接関係する質問としては、概要、 ① 放送人権委員会は、被取材者や被報道者の名誉やプライバシーなどの基 本的人権に対する侵害有無ないし程度を審理することを目的としている ところ、放送人権委員会が倫理綱領を規範化し、放送倫理違反についてま で言及することへの違和感の有無 ② 「倫理違反」と「倫理上問題あり」という形で、主文の形式が書き分け られているが、その違いが不明確 ③ 従来のとおり、人権侵害と放送倫理違反という二本立にて責任を問う構 成を採用するとしても、両責任の関係、とりわけ、その責任の軽重が不明 という諸点に集約できるものであった。 これに対する各委員による意見であるが、①について、 ・ 放送人権委員会による “ 倫理 ” 判断に違和感「あり」とする回答につき、 103.

(18) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 申立人による苦情(申立の内容)が、名誉毀損やプライバシー侵害の要件を 具備しない場合であったとしても、被申立人たる放送事業者に非難される べき事情が認められる場合には、放送人権委員会としては、申立人を救済 する見地から、これを放送倫理上の問題として構成し、被申立人の責任を 問い、これを決定において指摘してきたことに、不服を感じるのではない かと思料される、という委員長見解が示された。問題の所在を明確化する 発言であった(24)。 ・ 本綱領を規範化することの是非につき、自治規範たる本倫理綱領を事実認 定や判断の拠り所とすることは、自律規範の適用である点において、番組の 作り手である放送事業の理解を得やすいこと、反面として、申立人救済の見 地からすると、本綱領や番組基準などが放送倫理のすべてと解するのは妥当 ではなく、広く社会通念に照らしての判断もあり得ることから、判断の枠組 みとしては、本倫理綱領などに限定されることなく、フリーハンドとしてお いて広く捉えるべきである、との見解が示された。 ②について、 ・ 本綱領は、(筆者註…自治規範というよりはむしろ)放送事業者が遵守するべき 自主ルールであるところ、放送人権委員会は、公正・公平な見地から、この ルールの遵守状況をチェックする機能を有する第三者機関として位置付けら れるべきという観点から、従来までの倫理違反なる文言に代えて、ルール違 反なる文言を使うべきである。また、かりに倫理なる文言を使うとしても、 法規範と倫理観念は別異の概念であって本来区別されるべきものであるこ と、そもそも放送やジャーナリズムにおける倫理の内容は未だ明確とはいえ ないこと、本綱領は、いわば放送事業者が自発的に課した自主ルールに過ぎ ないこと、などの諸事情に鑑みて、社会一般に敷衍される規範違反に親和す る “ 違反 ” なる文言を使うべきではなく、“ 問題あり ” なる謙抑的な文言を使 えば足りる、という見解が示された。 104.

(19) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. ・ これと反対のベクトルにある見解として、これまで、倫理に背馳すると認 定された事案について “ 違反 ” と “ 問題あり ” なる文言を使い分けてきた経 緯を回顧してみると、名誉毀損の要件を備えていないがグレーゾーンである と認定された事案につき、限りなくクロに近い事案と、限りなくシロに近い 事案があることから、その非難可能性の軽重に鑑みて、重い責任を倫理違反、 軽い責任を倫理上問題あり、と主文を書き分けることにより、事案に応じた 決定内容の類型化に向けた努力を集積してきたのである。かような努力を 軽々に無とするべきではない、という見解が示された。放送事業者の予見可 能性を担保する見地からは、まさに正鵠を得た見解である。 ③について、 ・ ①とも関連することであるが、放送内容によっては、法規違反、違法では ないが、放送のあり方としては杜撰に失する、ということもあり得る。ゆえ に、人権侵害には至らないが倫理違反、または倫理上問題ありという判断も あり得るのではないか。放送人権委員会が、司法裁判所とは異なる第三者機 関(筆者註…ADR の意か?)であることに鑑みると、かような判断を下すこと こそ、その存在意義に照らして重要というべきである、という見解が示され た。 ・ その報道はどのようにあるべきであったのか、という問題は、法規範に基 づく判断のみで解決されるべきではない。ゆえに、従来のとおり、法規範違 反と、倫理違反もしくは倫理上問題ありという二本立にて責任を構成して差 支えはないというべきである。本委員会のメンバーに、法曹や法学研究者以 外の放送倫理に詳しい有識者が選任されていることの意義は、まさにこの点 に求められるべきである、という見解が示された。 ・ (人権侵害と倫理違反の関係等につき)放送人権委員会は、倫理違反を認めた事 案について、人権侵害ではなく単なる倫理違反である、という位置付けをし てきたのではない。事案によっては、倫理違反は人権侵害よりも重大である 105.

(20) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 場合あり得ることをも含めて、倫理違反の指摘をしてきたのである。この旨 を、申立当事者に理解させるような決定文の形式を考案するべきである、と いう見解が示された。 ・ (人権侵害と倫理違反の関係等につき)一般的には、人権侵害は違法なので重く 感じられるであろう。しかし、たいした嘘をついておらず、名誉毀損として は不成立であったとしても、事実を捏造して報道した場合、申立人の立場か らすると、あってはならないことである。どちらが一番なのか、あるいは二 番なのかと順位をつけることは困難であり、簡単なことではない、という見 解が示された。 ・ (人権侵害と倫理違反の関係等につき)名誉毀損の成否においては、被害者側の 社会的評価の低下の有無のみならず、公益性や公共性の見地から、番組の意 義や目的等も勘案され、名誉毀損が否定される場合もあり得る。しかし、放 送倫理違反の有無については、様相を異にする。すなわち、誤った放送によ り心を痛める人が生じたのであれば、例え、番組に社会的に意義が認められ、 いわゆる良い番組であったとしても、その誤りは倫理的に許されることでは ない、という見解が示された。 ・ (人権侵害と倫理違反の関係等につき)各見解を集約すると、比喩として、倫理 の海があるとすれば、人権侵害は、そのなかを倫理と重なり合って動いてい る。ゆえに、まずは倫理上の問題から取り上げて、重大な倫理違反と考えら れる事実を一番上に位置付ける。つまり、倫理に背馳する場合には、背馳の 程度、つまり重さの軽重があるのだから、判断のグラデーションをどのよう に表現するべきなのか、という問題が残されている。また、人権侵害と倫理 違反は、各々別個の法規範に照らしてなされる別異の判断であるが、これら の判断は、倫理違反が人権侵害を包含することから、重なる場合もあり得る。 その場合は、同一事実について、放送倫理違反であり、同時に名誉毀損に該 当する可能性も否定できないという判断を示し、決定文のなかで、そのこと をきちんと表現すれば、両者の関係を整理できる、ということではないのか、 106.

(21) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. との委員長見解が示された。 以上のような、①②③の論点に関する議論の結果、委員会の総意として、 ・ 今後における決定のあり方については、従来からのスキームを踏襲し、人 権侵害の有無ないし程度と倫理上の問題の有無という二本立にて判断する。 ・ 法と倫理は別個の法規範であるから、同一の事実について人権侵害と倫理 違反が競合する場合には、その判断の書き分けについて、従来にも増して、 より一層神経を使う。 ・ 倫理に背馳すると判断される場合につき、その程度の表現、すなわち判断 のグラデーションについては、可及的に簡潔化する方向で検討してゆく。こ のことと関連して、 「倫理違反」と「倫理上問題あり」という主文の形式に ついての見直しの必要性の有無、かりに見直すとして、どのような形式が望 ましいのか、については、平成 24 年度の本委員会への継続審議とする。 などの機関決定がなされた。 (3)本決定の検討 本綱領における「報道は、事実を客観的かつ正確、公平に伝え、真実に迫る ために最善の努力をしなければならない」という一文から理解できるように、 これは放送事業者を名宛人とした訓示規定であり、正確性・公平性・真実性を 担保された放送を期するための周到な事前準備を期するための定めである。つ まり、放送の対象とされた人に対する名誉毀損の認定とは直接関係がなく、こ れらの要素が担保されることにより、結果として名誉毀損が減少するという間 接的な関係があるに過ぎない。この一文の本来的役割は、文字通り、このよう なものに過ぎなかった。 ところが、本決定は、表現の自由との調和の観点から、厳格な要件を満たさ ない限り、その成立が認められない名誉毀損の規定によっては救済できない本 事案について、放送事業者に対し、放送前の準備不足と、そのことによって招 来された放送倫理違反により、結果として申立人 X 医師の社会的評価を低下 107.

(22) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). させたのみならず、患者の遺族を含む関係者に迷惑を掛け、不信感を抱かせる ことになったと構成し、この一文に、事実上、名誉毀損の認定とならぶ、名誉 回復的・人権救済的機能をもたせる解釈をなした。そこで、かような解釈の妥 当性如何であるが、本綱領の起草者意思を超えるものであり、文言からやや乖 離しているが、結果の妥当性に鑑みると是認されるべきである。 このように、両者は別異の概念ではあるものの、同様の機能を果たし、重畳 的に適用され得るに至ったことから、今後の展望としては、第 4 ─ 5(2) 「最 近における議論」のところで述べたように、名誉毀損に起因する人権侵害と放 送倫理違反に起因する結果的な人権侵害という論理の相互関係を、早急に明確 化する必要がある。この点について、本決定以前の決定文においては、 「人権 侵害を招来しかねない重大な倫理違反」なる認定がなされ、あたかも後者は前 者の補充的機能を果たす、つまり落ち葉拾い的な役割を果たすに過ぎないかの ような記載がなされていたことに鑑みると(いわゆるバスケット条項的な位置付け)、 少なくとも本決定文には、そのような言い回しがなされていないことから、こ の点に関する議論は、かなりの速さで進展しているように思われる。BPO 放 送人権委員会における議論の到達点としては、倫理違背のなかに人権侵害が包 摂されることから(26)、両者は、責任の軽重がない法条競合の関係にあると解 釈することも可能、なる見解が示されるところまできている。 かような解釈が定着すれば、少なくともテレビ放送における人権侵犯事件に おいては、かりに名誉毀損が否定されたとしても、放送事業者の倫理違反が肯 定され得、しかもそれは、前者と同等の重みがあることになるので、申立人の 感情としては救済がなされたという満足感を得られることから、申立人の要望 次第では、ADR としての BPO に、訴訟を上回る救済の実効性を期待できる のではないか。 6 訂正放送等の必要性に関する認定について 名誉毀損訴訟であれば、損害賠償や原状回復措置としての謝罪広告しか求め 108.

(23) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 得ず、それによる紛争解決の方途しかないことは、民法の明文からも明らかで あり(同法 723 条)、併せて原告も、それを前提として提訴し、請求が認容され た場合には、これを以って満足するほかないことも自明である。このような、 画一的かつ厳格な性質を有する訴訟(強行規定)に対し、ADR は一般に、訴訟 よりも一層、私人による自主的解決に近いプロセスをとるべきであると考えら れていることから、当事者の要望に応じた柔軟なプロセスがとられ、解決策も、 できるだけ申立人の要望に沿う形で示されるべきことから、例えば、再発防止 策の策定や、責任承認を求めない共感としての謝罪など、多岐におよぶ。 このような解決方法の多様性にこそ、ADR の訴訟に対する紛争解決機能の 優越性が認められるのであり、また、ADR を訴訟の次善の策と捉えるのでは なく、これに比肩する紛争解決制度に高めるための重要な要素である。BPO 放送人権委員会に対する申立の場合、申立の書式があらかじめ定められており、 書式中に「放送局に求めること」なる欄が存在し、要望事項が例示され、併せ て「その他」という形で、損害賠償請求以外の要望であれば、最終的に認容さ れるのか否かは格別として、どのような要望であったとしても記載できるよう に配慮されている。本件申立に際し、訂正放送と謝罪放送については、あらか じめ例示されていたことから、申立人らは、それに○印を付し、併せて「その 他」の欄に、その内容を具体的に記載したものである。 本決定は、申立人 X 医師らが求めた訂正放送等の請求をすべて棄却してい るので、この結論を訴訟と対比すると、請求棄却の原告敗訴判決に相当する。 すると、本決定が重大な倫理違反を認定したことは、単なる傍論に過ぎないの で、形の上では、申立人は救済されなかったことになる。しかし、見方を変え ると、名誉毀損訴訟の場合、損害賠償請求を認容しつつ、謝罪広告の請求を棄 却することもあり得、この場合も一部認容、あるいは一部勝訴と捉えることか ら、このことと対比すると、本決定の場合も、重大な倫理違反を認めつつ(た 、訂正放送等の請求を棄却したことは、 だし、訴訟のような損害賠償という効果なし) 一部認容、あるいは一部勝訴と捉えることも可能である。 109.

(24) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). 今後の展望としては、柔軟な手続を旨とする ADR としての BPO といえど も、審理の結果についての白黒の位置付けを、ある程度明確化させる必要があ ろう。 第 5 私 見 私見としては、 (1)と(3)の判断について異議を留保し、 (2)の判断につ いては賛成する。その理由は、以下に述べるとおりである。 (1)につき、本決定が依拠した最高裁判例の適用の仕方に誤りがある点にお いて異議がある。名誉毀損を肯定するべきであった。 (2)につき、重大な倫理違反を肯定した点については賛成する。ただし、名 誉毀損と重大な倫理違反の相互関係を明確にするべきであった。 (3)につき、申立人 X 医師らの請求は、果たして一部認容されたのか、あ るいは全部棄却されたのかが不明瞭である点において異議がある。つまり、か りに訂正放送等の請求(これのみを民事訴訟における請求の趣旨と捉える)を否定す るのであれば、それは請求棄却に相当する判断と解釈し得、反対に、この請求 のみを否定し、重大な倫理違反を肯定した点において(これをも請求の趣旨と捉え 、一部認容に相当する判断とも解釈し得るからである。少なくとも申立書 る) の現状の書式からは、なにを以って請求の趣旨とするべきなのかがはっきりと しないことから、申立人において判断を誤り、申立を棄却される結果にもなり かねないので、この点を可及的速やかに是正するべきである。 【註釈・参考文献】 (1)本件は、これとほぼ同時期に発生した、横浜市立大学病院患者取違事件・都立広尾病院 消毒液誤投与事件・東京女子医大病院心臓ポンプ誤作動事件と、これら一連の事件より も少し後に起きた慈恵医大青戸病院腹腔鏡誤操作事件とともに、医療過誤の象徴とさ れ、テレビ・新聞・雑誌・インターネットなどの各メディアにより、ニュースやワイド ショーの形で、長期間にわたり、全国規模で繰り返し報道されたため、周知された事件 であった。かような社会的背景をもつ本件につき、2002(平成 14)年 8 月 2 日、東京地 検より公判請求がなされたのであるが、2006(平成 18)年 3 月 28 日、東京地裁刑事 16 110.

(25) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 部は被告人医師を無罪とする判決を下した。かような第一審判決につき、ただちに検察 官控訴がなされたが、2008(平成 20)年 11 月 20 日、東京高裁刑事 8 部は、検察官の控 訴を棄却し、被告人医師を無罪とする判決を下した。東京高検は、控訴審判決を受け、 上告を断念する意向を固め、同年 12 月 1 日、その旨を遺族側に通知したが、遺族側は 高検の意思決定を不服とし、約 2400 名分の署名を集め、これを高検に送付し、上告を 促す運動を展開した(同年 12 月 4 日付読売新聞) 。しかし、高検の意思は変わらず、同 年 12 月 4 日、上告期限の経過により、被告人医師の無罪が確定した。なお、本件につき、 2000(平成 12)年 10 月、遺族は担当医師と杏林大学病院を相手取り、民事訴訟を提起 し た が、2008(平成 20)年 2 月 12 日、東京地裁民事 28 部 は、遺族 の 請求 を 全 て 棄却 し(本評釈の事案において、被申立人 TBS が批判の対象とした判決) 、その控訴審につ いても、2009(平成 21)年 4 月 15 日、東京高裁民事 5 部が遺族の請求を全て棄却した ことにより(確定) 、本件に関する一連の訴訟は、事件発生以来 10 年の歳月を経てよう やく終結した。なお、本件事故に関する医学的検討については、冊子「日医総研シンポ ジウム 更なる医療の信頼に向けて─無罪事件から学ぶ─」 (社団法人日本医師会 2011 年 そして、 11 月)所収 長谷川 誠「杏林大学割り箸事件 耳鼻科医の立場から」同冊子 54 頁、 法律学的検討については、小林 充「杏林大学割り箸事件 弁護人の立場から」同冊子 68 頁が、最新の文献であるとともに詳細である。また、一般論としての医事紛争と裁判の 親和性については、水谷 渉(日医総研主任研究員 弁護士) 「医療刑事裁判の現状と課題」 同冊子 102 頁が、最新の文献であるとともに詳細である。 (2)本評釈との関連でとくに重要である医療報道のあり方については、 「パネルディスカッ ション 医療事故と刑事裁判」前掲註(2)冊子 114 頁における、前村 聡(日本経済新聞 社編集局社会部厚生労働省医療班担当記者 キャップ)発言が注目される。同氏によると、 概要、メディアの、医療従事者に対する人権侵害が問題とされているが、メディアが遺 族らを煽って、なにもないところから報道することはない、患者側の感情、つまり、真 相解明がなされていない、医療側の対応が不誠実であるなどの感情に共感して報道する のである、すると、患者側に報復感情を起こさせないためにも、医療側の初期対応こそ が重要ではないのか、とのことであった。 (3)本番組が批判の対象とした本件事故民事第一審判決において、申立人 X 医師がカルテを 改ざんしたという事実認定はなされていない。それに続いた民事控訴審判決と刑事控訴 審判決においても同じである。 (4)本決定の全文については、BPO の HP の URL(http://www.bpo.gr.jp/brc/giji/2011/181. html)を参照。本決定文は長文におよぶため、紙幅の関係から、抜粋による編集がなさ れていることをお断りする。 (5)民集第 51 巻第 8 号 3804 頁 111.

(26) 横浜国際経済法学第 21 巻第 1 号(2012 年 9 月). (6)2007(平成 19)年 8 月 6 日 BPO 放送倫理検証委員会決定第 1 号「TBS『み の も ん た の 朝ズバッ !』不二家関連の 2 番組に関する見解」 。本見解において同委員会は、 「…番組製 作者間、また制作関係者と出演者との間の情報共有の仕組みの不備が、断定・断罪の番 組主調を作り出した」と批判し、放送前における製作過程において十分な準備をする体 制を整えるべき旨の提言をしている。 (7)被申立人 Y は、BPO 放送人権委員会宛に送付した、2010 年 1 月 12 日付『 「放送と人権 等権利に関する委員会決定第 41 号」に対する対応と取り組み』と題する書面において、 本決定趣旨の履行状況を報告している。 (8)東京弁護士会編著「取材される側の権利」234 頁(日本評論社 1990 年) 。単位弁護士会(東 京三会)のひとつである東京弁護士会は、同会人権擁護委員会内に報道と人権部会を立 ち上げ(1986 年) 、 取材される側の権利(案)なる提言を行なっていることが注目される。 その審議過程において、報道被害の救済については、ADR としての役割を担う日弁連 人権擁護委による人権侵犯救済を、より一層迅速・適切に運用するべきとしている。 (9)法務省人権擁護局内人権実務研究会監修「人権侵犯事件例集[改訂版] 」 (財団法人 人権 擁護協力会 1998 年)所収[35]印刷物配布による名誉の侵害(175 頁) ・ [36]写真週刊 誌による私生活上の自由の侵害(180 頁) ・ [37]写真週刊誌および週刊誌における少年 被疑者の顔写真の掲載(184 頁)など。なお、部内資料としての、法務省人権擁護局編 「人権擁護委員のための人権侵犯事件調査・処理の手続」 (1996 年 3 月)は、事件の処理 手順や依拠するべき判断基準などについて詳細に記載している。 (10) 報道領域の私設 ADR としては、テレビについての BPO のほかに、新聞についての「日 本新聞労働組合(新聞労連)報道被害相談窓口(報道被害ホットライン) 」 、雑誌につい ての「日本雑誌協会雑誌人権ボックス」がある。 (11) 小島武司編著「ADR の実際と理論Ⅱ」所収 和田仁孝「自律型 ADR モデルの新たな展 開─紛争交渉論と トランスフォーマティブアプローチ─」24 頁(中央大学出版部 2005 年) 。和田教授は、本法を、ADR“ 促進 ” 法ではなくて “ 規制 ” 法であると批判している。 その理由として、本法が ADR を法的紛争解決機関であると位置付け、法律的な紛争解 決を目的としない ADR は法務大臣の認証の対象とならないとしたこと、そして、審査 において問題とされる請求権の消滅時効中断効を、認証機関にのみ付与することは、国 家が ADR の存在形式を、事実上規制していることに他ならない、と主張されている。 くわえて、かような立法例はグローバルな視点からも異例であり、事実、アメリカ合衆 国のモデル法として位置付けられている UMA(=Unified Medical Act)には、法的解 決を目的とする旨の規定は存在せず、しかも、その UMA さえも、これを成文法として 採用したのは僅か数州に止まると説明されている。別稿として、和田他著「医療コンフ リクトマネジメント メディエーションの理論と技法」10 頁(シーニュ社 2006 年) 、山 112.

(27) 医療過誤事件に関与した被告医師に対する民事事件判決(原告遺族側敗訴)をめぐるテレビ報道について・・・. 本和彦他「座談会 ADR 法施行 3 年を経て─認証制度の現状と課題」仲裁と ADR5 号 35 頁(仲裁 ADR 法学会 2010 年) 、佐藤鉄男「ADR 機関・制度の展開─ブームかムーブか、 認証制度の功罪」法律時報 1036 号 6 頁によると、認証 ADR の実数は既に 89 を超えて おり(2011 年 3 月末) 、はっきりとした増加傾向にある、個別法令によるお墨付きのあ る行政型 ADR は格別として、インフォーマルに展開してきた民間型 ADR にとっては、 認証制度は自らをフォーマルな機関に高めるエポックメーキングなものであった、と説 明している。など。 (12) 前掲佐藤 5 頁(日本評論社 2011 年)によると、ADR の積極的意義が一般化したのは、 司法制度審議会意見書( 「裁判と並ぶ魅力的な選択肢」と明記)が答申されてからであ るという(2001 年 6 月) 。それまでは、かような認識は一部の法学研究者と実務法曹が 有していたのみであり、一般的な認識としては、ADR は民事訴訟の次善の策でしかな く、これに “ 代替 ” するものではないという消極的な認識であった。別稿として、高橋 裕「ADR とトラブル・紛争」同書 11 頁、長谷部由起子「より利用しやすい民事司法制 度を求めて」ジュリスト 1414 号 101 頁(有斐閣 2011 年) 、高木佳子「弁護士会からみた ADR 法 の 状況」仲裁 と ADR5 号 25 頁(仲裁 ADR 法学会 2010 年) 、遠山信一郎「裁判 外紛争解決機関(ADR)総覧」中央 ロージャーナ ル 7 巻 3 号 79 頁(中央大学法科大学 院 2010 年) 、西川佳代「二極化する調停の技法─「裁判代替的」紛争解決方法と「もう ひとつの」紛争解決方法」立教法学 447 頁(立教大学法学部 2006 年)など (13) 嚆矢として、大判明治 39 年 2 月 19 日(民録第 12 巻 226 頁) 。もっとも、今日では、あ る事案において、名誉感情の侵害が認められるにとどまり、名誉毀損の成立が否定され た場合であったとしても、別途プライバシー権の侵害ありとして、法的救済を受けられ る場合もあり得る。 (14) 嚆矢として、大判明治 38 年 12 月 8 日(民録第 11 巻 1665 頁) (15) 嚆矢として、最判昭和 31 年 7 月 20 日(民集第 10 巻第 8 号 1059 頁) (16) 嚆矢として、大判大正5年 10 月 12 日(民録第 22 巻 1879 頁) (17) 嚆矢として、大刑判昭和 8 年 8 月 1 日(法律新聞第 3610 号 14 頁) (18) 「事実摘示」に  つ き、最一小判昭和 41 年 6 月 23 日(民集第 20 巻第 5 号 1118 頁) 、最一 小判昭和 58 年 10 月 20 日(裁判集民事第 140 号 177 頁)な ど。 「論評」に つ き、最二小 判昭和 62 年 4 月 24 日(民集第 41 巻第 3 号 490 頁) 、最一小判平成元年 12 月 21 日(民 集第 43 巻第 12 号 2252 頁)など (19) 最三小判平成 9 年 9 月 9 日民集第 51 巻第 8 号 3804 頁 (20) 註(19)に掲げた判例と同じ (21) 註(19)に掲げた判例と同じ 113.

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