八坂 慎一,篠原 俊朗 (地独)神奈川県立産業技術総合研究所 パワーモジュールの信頼性設計では,有限要素法 ( )を用いた電気 熱 構造連成解析を行って動作 時の様々なストレスを検証することが重要である 。一 般にパワー半導体の実装分野でコンピュータ支援エ ンジニアリング( )において電気の解析を行う場合, 電気特性を再現するため一次もしくは二次の温度特 性を持った抵抗体を設定するが,単純な抵抗体のモ デルでは熱過渡解析で行うような半導体の温度特性 を利用したジャンクション温度の計測を,シミュレーショ ンで再現することができない。そこで抵抗体に電流密 度と温度の関数を組み込んだ導電率を設定することに よって,半導体の温度特性を簡易的に再現する モデルを提案する。本研究ではオープンソース を用いた電気 熱連成解析によって提案するモデルの 妥当性について検証を行ったので,その結果につい て報告する。 本研究では炭化ケイ素( )のショットキーバリアダ イオード( )のモデル化について検討を行った。 使用した は 社の で,このチップについては同社のホームページ から様々な資料が公開されている 。これまで我々は 回路シミュレータを用いた回路モデルによる電気 熱連 成解析について検討を行った 。提案するモデルはこ の回路モデルを 次元のモデルに応用したものである。 に今回使用したダイオードを二つの抵抗体で置 き換えた回路モデルを示す。図の抵抗 に相当する 部分が温度特性に対応しており,抵抗 が直列抵抗 成分に相当する。この回路モデルを 次元モデルに 拡張した構造の断面模式図を に示す。最上部 がアルミニウムの電極となり,その下にジャンクション部, ドリフト層, ウェハーの順になっている。ジャンクショ ン部については本来ショットキー接合部であり,厚さを 持たない構造であるが,ジュール熱を発生させるため 体積要素とする必要があり, μ の厚さを持つ構造と した。 にモデルの各構造に設定する物性値を 示す。ジャンクションの導電率 は の温度特性 に相当するため,次式のように設定する。 ・・・ ここで は電流密度の厚さ方向の成分でダイオードの 順方向を正としている。 はジャンクションの各要素の 温度 , はジャンクションの厚さ( μm)である。 と はデバイスの温度特性に相当する。このように導 電率を設定することによって,ジャンクションを流れる 電流によらずジャンクションの両側に温度 に応じた 電位差が発生する。ドリフト層の導電率 は の 直列抵抗成分に相当するため,次式のように設定する。 ・・・(2) ここで はドリフト層の各要素の温度 , はドリフト 層の厚さ( μ ), はドリフト層の面積( × 30 2020 9
= )である。 , , , は直列 抵抗成分の パラメータに相当する。 , など のパラメータについては値が不明であるため初期値と して の値を設定し,温度特性のシミュレーショ ンを行って温度特性が実測と合うように値を修正した。 , , の値についても初期値として の 値を設定し,熱過渡解析のシミュレーションを行って加 熱電流に対する温度安定後の順方向電圧( )の値 が実測と合うように修正した。 構造 熱伝導率 [W/m・K] 比熱 [J/kg・K] 密度 [kg/m3] 導電率 [S/m] Electrode 238 900 2700 3.4×107 Junction 380 714 3200 (1)式 Drift 380 714 3200 (2)式 wefer 380 714 3200 5.0×103
parameter initial modified
[V] 0.83064 0.70986 [V/K] -1.681×10-3 -1.4404×10-3 [Ω] 0.012681889 0.02008 [K-1] 5.798228×10-3 1.748×10-3 [K-2] 2.72658×10-5 2.3067×10-5 [K] 300 300 電気 熱連成解析を行うソフトウェアはオープンソー ス ソフトウェアである を用いた。 は フィンランドの国営企業( – )で開発されたソフトウェアであり,幅広い物理モデ ルに対応していること,それらの物理モデルを連成さ せた連成解析の機能が充実している。また,プログラ ムがオープンソースで提供されているため,無料で手 軽に利用できること,ユーザーがソースコードから計算 過程を検証できるなど,多くの利点がある。 提案するデバイスモデルの妥当性を検証するため, を実装したサンプルを作製し熱過渡解析を 行って実測とシミュレーションの比較を行った。試作し たサンプルの構造と写真は のとおりである。ワイ ヤーボンディングは行わずリード接触構造 により電 気的な接続を行っている。熱過渡解析は熱伝導ゲル シートを介してサンプルを水冷ヒートシンクに取り付け, 水温 ℃の冷却水を流して冷却しながら測定を行っ た。熱過渡解析の測定条件は,加熱時間 秒・冷却 時間 秒とし,加熱電力を から まで 刻みで,冷却水温 ℃の条件で測定を行った。 による電気 熱連成解析については物性値とし て の値を用いて,電気の境界条件として (c)のリードの端部(アノード)に電流を設定し,カソー ドに の電位を設定した。温度境界条件としては, 電流の流れる構造部にジュール熱による発熱を熱源と して設定し,アノード面,カソード面には熱伝達率 ・ ,熱伝導ゲルシートの下面には熱伝達率 ・ ,参照温度 ( ℃)の冷却面 を設定した。リード接触構造の接触部は の表 面電極の変色部の形状のように接点の周辺部しか接 触していないものと考えられるので,モデルでは の赤色の部分に摺動部を設定し,中央部は空気 層とした。 温度特性のシミュレーションでは,電流値は m で一定とし, ℃から ℃まで ℃刻みで解析を行 い,アノード面の電位の最大値を取得し とした。得 られた とジャンクション温度( )の関係からシミュ レーションによる温度特性を算出し,この温度特性の 傾きが × , 切片が となるよ うに の と の修正値を調整した。 熱過渡解析のシミュレーションでは,加熱条件 から の実測での電流値を用いてこれを加熱電 流として設定し,加熱時間 秒・冷却時間 秒と し,冷却時には電流を とするのではなく m に設
Fig. 1 Circuit model of diode
Temperature characteristics
Series resistance
Heat source
Fig. 2 Schematic cross section of diode model electrode
junction : SiC 1 m drift SiC 10 m wafer SiC 350 m
定して,冷却時のアノード面の電位の最大値を取得し た。得られた温度プロファイルはデータの数が構造関 数を算出するためには十分ではないため,補間あるい は外挿を行って構造関数算出用のデータとした。また, 加熱時間 秒でのアノード面の電位の最大値を取 得し,この値が実測の と一致するように の , , の修正値を設定した。 この温度特性と熱過渡解析によるパラメータの修正 を繰り返し行って の修正値を決定した。修正値 による熱過渡解析のシミュレーションの結果から算出し た構造関数について実測による構造関数と比較を行 いモデルの妥当性を検証した。 構造 熱伝導率 [W/m・K] 比熱 [J/kg・K] 密度 [kg/m3] 導電率 [S/m] Gel sheet 6.5 1550 980 1.0×10-9 substrate 108 280 10010 1.89×107 Ag sinter 70 350 10500 4.3×107 lead (Al) 238 900 2700 3.4×107 Contact part 4.0 900 2700 2.0×104 Terminal(Cu) 400 380 8930 4.0×107 に試作サンプルの温度特性の実測と の 初期値および修正値を用いたシミュレーションによる 温度特性の計算結果を示す。初期値による計算結果 は実測より高い電圧を示しているのに対し,修正値を 用いた計算結果は実測とよく一致している。これは初 期値の と の値はジャンクションの電流分布が均 一であることを前提としており,実際にはデバイスの表 面電極に対する配線の構造に応じて電流密度の偏り が発生していると考えられるため,このような結果と なったと思われる。シミュレーションの結果からデバイ ス内の電流密度を見てみると, のようにリード接 触部の形状に対応していると思われる分布となってい る。 というデバイスの定格電流 に対して小 さい電流でも,リード接触部の直下とそれ以外の部分 では大きな電流密度の差となっている。 次に熱過渡解析の結果を示す。 に加熱電力 を から まで 刻みで,熱過渡解析を 行った際の加熱安定時( 秒経過時)の と順方向 電流( )について,実測とシミュレーションによる値を 示す。初期値によるシミュレーションは電流が増加する と実測より低い電圧を示しているのに対し,修正値を 用いたシミュレーションは実測とよく一致している。これ はジャンクションで電流値にかかわらず一定の電位差 を発生させているためで,実際には電流が増加すると ジャンクションの電位差は増加しているので,この増加 分をドリフト層の抵抗の増分で合わせこんでいる。加熱 電力 の実測と,修正値による熱過渡解析のシ ミュレーションによる構造関数と微分構造関数を に示す。修正値によるシミュレーションと実測はよく一 致しているが,加熱電力が大きくなると特に微分構造 関数において差が大きくなる傾向にある。これはモデ ルの物性値のうち温度依存性を考慮しているのはジャ ンクションとドリフト層の導電率だけで,その他につい ては考慮していないため,加熱電力が大きく温度が高 くなると実測との差が大きくなるものと考えられる。 に 加熱で 秒後のシミュレーションによる ジャンクションの温度分布を示す。コンター図の温度の 単 位 は な の で , ℃ に 換 算 す る と 温 度 範 囲 は ℃ ~ ℃と なる。 電気特 性から算 出 した ジャンクション温度の最大値( )は ℃なので, 熱過渡解析の際に計測している はジャンクショ ンの温度分布の中間的な値であると推測できる。
Fig. 3 Test sample
lead Al
SiCSBD see Fig.2
Ag sinter 50 m substrate 85Mo-15Cu Ni/Au plating (a) Schematic (b) Photograph gel sheet 20mm 40mm 1mm contact part 5 m (c) 3D Model 3mm×3mm anode cathode
Fig. 4 Contact part of the lead contact structure
(a) model (b) photograph
3mm
2.5mm
3m
m
抵抗体に電流密度と温度の関数を組み込んだ導電 率を設定することによって,半導体の温度特性を簡易 的に再現する モデルを用いて,オープン に よる電気 熱連成解析によって熱過渡解析の測定条件 に従ってシミュレーションを行い,得られた電圧出力の 結果から構造関数を算出した。 を実装した試 作サンプルの熱過渡解析の実測とシミュレーションに よる解析結果との比較を行ったところ,シミュレーション と実測で構造関数が一致し,提案するモデルの妥当 性が確認できた。 1) 森田滉隆, 于強: ” 電気-熱-構造連成解析を用いた車載用 パワーモジュールの評価方法の確立”, 第二十四回マイクロ エレクトロニクスシンポジウム論文集(2014),2C4-3. 2) https://www.wolfspeed.com/power/products/sic-bare-die- schottky-diodes/1200v-bare-die-silicon-carbide-schottky-diodes-gen5 (参照日:2020/7/9) 3) 八坂慎一, 篠原俊朗: ” 回路シミュレータ(LTspice)による電 気-熱連成解析用デバイスモデルの検証”, 第 34 回エレクト ロニクス実装学会春季講演大会(2020),4D2-01. 4) https://www.csc.fi/web/elmer (参照日:2020/7/9) 5) 八坂慎一, 田口勇, 篠原俊朗: ” 高温パワーサイクル試験に よる銀ナノ粒子接合材料の信頼性評価”, 第 33 回エレクトロ ニクス実装学会春季講演大会(2019),12B1-02.
Fig. 5 Comparison of temperature characteristics
Fig. 6 Current density in junction
25 20mA initial
Fig. 7 Electrical characteristics during heating in thermal transient analysis
Fig. 8 Comparison of structure function upper structure function
lower differential structure function
Fig. 9 Temperature distribution in junction 100W 100sec modified